力の代償
白虎「これが噂の縄文杉か。さあ、着いたぞ、リトル」
リトル「うん、よいしょっと。だけど凄いね、シロ兄さん。こんな島の中心の山の中まで、ボクを背負って走って来るなんて」
白虎「鍛えてきたからな。忍びとして、強くなるために。そして、師匠……お前の父さんからも厳しい特訓を受け、大地母神ガイア様からも力を授かったんだ。強敵との戦いならともかく、これくらいの山を駆け登るなんて訳もない」
リトル「いや、簡単に言うけど、そのスタミナと速さは尋常じゃないって」
白虎「だけど、こんなのじゃ地上最速は名乗れない。せめて、音速の壁を越えないと」
リトル「音速って、マッハ1?」
白虎「一般的には、秒速340メートル。時速に換算すると約1225キロだとか」
リトル「屋久島の大きさが、東西28キロ、南北24キロぐらいだから、マッハで走れば上下移動とか障害物を考えても、10分ぐらいで中心まで行けるのかな。とにかく、走行速度がマッハと言うだけで、尊敬に値する速さだよ」
白虎「何で、そんな計算ができるんだよ。お前、頭良すぎだろう」
リトル「ボクの名前は、体積や容積の単位のリットルにも通じるからね。単位の計算はバッチリさ」
白虎「説明になっているとは思わないが、そういうキャラ付けを狙っているってことだな。とにかく、マッハなんて大したことはないさ。空の大怪獣の眷属であるアリナ様はマッハ1.5で飛ぶことができるし、ゲンブだって回転ジェットでマッハ3だったりする。それに比べて、オレサマは飛べもしない」
リトル「だから、抵抗の多い地上をマッハで走ることの方が難しいんですよ」
白虎「ゲッター2はマッハ3で走るし、エイトマンだって時速3000キロで走れるそうだ。それに比べたら、オレサマのスピードはまだまだだ」
リトル「そんな昔のロボやヒーローはスペックがガバガバなんだって。比較するなら、最近のヒーローにしましょうよ」
白虎「だったら、マッハと言えば、この人。追跡撲滅の仮面ライダーマッハだな」
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白虎「仮面ライダーマッハは、100メートルを2.4秒で走れるらしい。すると秒速約40メートルということになって、名前に反してマッハには到底至らない」
リトル「つまり、最近のヒーローはダメってこと?」
白虎「1号ライダーのドライブは、基本形態のタイプスピードが100メートル5.7秒で一見、マッハより遅いけど、加速時の走力は100メートル1.8秒とあるし、マッハも加速すれば3倍ぐらいは速くなるのかもしれない。しかし、それでもまだまだだ」
リトル「他に速いヒーローはいないの?」
白虎「ドライブの強化形態であるタイプフォーミュラは100メートル0.2秒、加速時0.12秒となって、つまり秒速500メートルから800メートルになって、これでマッハ2を超えた形だな」
リトル「平成最速ライダーは?」
白虎「スペックがはっきりしているのは、ファイズアクセルフォームの100メートル0.0058秒というのがあるけど、これは10秒だけ1000倍の速度ブーストという制限付きだから、1000倍じゃないノーマルのファイズだと5.8秒だ。それでも10秒限定とはいえ、マッハ50を超えているんだから驚異と言える。これに対抗するのは、カブトのクロックアップか、ロイミュードの重加速か、あるいはクロノスやタイムジャッカーの時止めか、ということになるが、ここまで来ると、スピードがどうこうという問題じゃない気がする」
リトル「とにかく、シロ兄さんが目指しているのは、そういうヒーローの超スピードってことなんだね」
白虎「……そうだな。オレサマは確かに速く、そして強くなった。だけど、何のために強くなったんだろう? ずっと仇と思っていた相手は師匠だったし、師匠はスペースG相手に自爆してしまったし、スペースGは翔花が相手することになって……オレサマの力は何のためにあるんだ?」
リトル「シロ兄さん……。その力がなければ、ボクは助かっていなかったよ。シロ兄さんは、ボクのヒーローなんだ。もっと自信を持ってよ」
白虎「あ、ああ、そうだな。だけど、翔花はオレサマが誰か分からなかったみたいだ。オレサマは力と引き換えに、大切なものを失ったような気がする……」
父と子
花粉不思議時空にて
セイリュウ「花粉症ガール、粉杉翔花。確かに、モスラの眷属としての力を感じる」
翔花「大地と生命の力。そして空と時を翔ける力ね。確かに私は力を得て帰ってきたわ。NOVAちゃんと再会するために」
セイリュウ「NOVAちゃん? そなたの親か?」
翔花「そう。時空魔術師にして言霊魔術師。はかなき精霊として消失しそうな私に魂の一部を分け与え、物質界に繋ぎ留めてくれた契約主であり、私の愛するお父さん。私の全てはNOVAちゃんのためにあるの」
セイリュウ「それは……大いなる力を扱うには、危険な考えよな」
翔花「どうして? 子どもが親を想い、親のために力を尽くすことの何が悪いと言うの?」
セイリュウ「もちろん、子どもが親に恩義を感じ、その影響を受けるのは当然とも言えるが、それが全てではない。親が邪悪に染まったときに、それを正すのも子の使命でもあるし、何よりも子は親を乗り越え、いつかは親離れをしなければならない。ましてや、そなたのモスラの力は、一個人のためではなく、この大地に生きとし生ける者のためにあるのだからな」
翔花「NOVAちゃんみたいなことを言うのね。NOVAちゃんだって死ぬ間際に、私にそう言い残したわ」
セイリュウ「死ぬ間際だと?」
翔花「そう。こことは違う時間軸において、私は花粉ライターJUHOと名乗って戦っていたの。だけど、その戦いの中で、NOVAちゃんは私を庇って命を落とした。私はあまりに哀しくて、全ての戦いが終わった後で、時間軸を変えることにしたのよ。珠保時代とは違うNOVAちゃんが死なない世界にね。今は……何て言ったかな? 確か、令和ね。令和ではNOVAちゃんは生きている?」
セイリュウ「そんなの、わしが知るか」
翔花「生きていなければ、また時間軸を書き換えないといけないの。それが花粉ライターの特殊能力だから、私はハッピーな未来を求めて、何度だって時間を書き直す」
セイリュウ「ちょっと待て。そんなことをしてはならん」
翔花「どうしてよ。悲劇を起こさせないために、持てる力を使って、世界をより良くすることの何がいけないの?」
セイリュウ「時間軸の改変を繰り返すことによって、奴が復活するからだ」
翔花「奴って?」
セイリュウ「かつては宇宙超怪獣とも、超ドラゴン怪獣とも呼ばれ、異なる世界では護国聖獣とも千年竜王とも呼ばれていたが、本質的には滅びと災いをもたらす存在、星を喰う者とも呼称される高次元怪獣ギドラのことよ」
翔花「キングギドラ? そんなの地球怪獣の力を結集したり、流星人間ゾーンさんの力を借りたり、鎧モスラの力で簡単に倒せるわ。所詮はザコじゃない」
セイリュウ「ザコなんかじゃねえ! まあ、たまにはザコギドラもいるが、基本的にギドラはGの最大にして宿命のライバル、そして地球怪獣が必死に戦って、何とか倒すことのできた大ボス的存在よ。しかも、近年は登場するたびに能力がチート化して、倒すのが非常に面倒くさい。とにかく、ギドラが出現すると、それだけで地球最大の決戦が勃発しかねないほど厄介だからして、決して侮ってはいかん」
翔花「あ、でも、最近、また復活していたような気もする」
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ゴジラ、キングギドラ、モスラ、ラドン…4大怪獣の壮絶バトルシーン解禁 映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』最新版予告
セイリュウ「いかん。こんなことを繰り返していては、地球はいつか滅びてしまう」
翔花「だったら、あなたも地球を守るために協力してよ。私の力で完全復活させてあげるから、みんなで力を合わせて、悪い怪獣から地球を守るの。これって、素晴らしいことだと思うのよ」
セイリュウ「……そうやって、戦ってばかりの生活に、お前は満足するのか?」
翔花「え? だって、かけがえのない幸せな日常生活を守るために戦う。これって当たり前でしょ?」
セイリュウ「そう。そして、全ての戦いが終わったとしても、誰かの些細な欲望のために、せっかくの平和もリセットされて、邪悪が甦り、ヒーローたちも新たな戦いを余儀なくされる。それが歴史の必然とはいえ、その起因となることに無頓着ではいかん。とりわけ、時間軸操作という神にも匹敵する力を得た者はの。うかつにその力を使うと、世界の歪みを発生させて、とんだしっぺ返しを受けることにもなりかねん」
翔花「とんだしっぺ返しね。よく分からない」
セイリュウ「やれやれ。大地母神のガイア様はどうして、このような見識の浅い娘にモスラの力を委ねたのか? いいか、誰かが乱した時間軸は誰かが修復しなければ、多元宇宙そのものの崩壊を招く。お前が軽々しく時空改変をしている影で、どれだけ多くの歪みが生じて、どれだけ多くの者が苦労しているか、お前は自覚しなければならん」
翔花「うう、そんなに難しいことを言われても、よく分からないよ〜(涙目)。そういう、ややこしいことの判断はNOVAちゃんに任せるから。そんなことよりも、シロちゃんよ。どうしてオレサマなんかになっちゃったの? 説明してくれる?」
セイリュウ「わしもよく知らん。わずかばかり修行をつけたところ、勝手に大きくなって、乙女から男になった。詳しくはガイアに聞け」
翔花「つまり、ガイアちゃんが悪いってことね。後で文句を言わないと。とにかく、過去を振り返って、何が起こったか状況を見極めるわ。ええと、この辺の記事を読めば分かるかしら。(記事をチェックして)うん、大体、分かった。とにかく、シロちゃんはお父さんの仇討ちのために頑張って修行していたんだけど、仇と思っていたセイリュウさんの真意を知って、気持ちを改めてプリンス・シーサーに生まれ変わった、と。そして、セイリュウさんはシロちゃんの父親代わりに修行をつけてやったって感じかな」
セイリュウ「別に、わしは父親代わりなんてしておらんぞ。あの乙女の力を借りれば、息子のリトル救出に役立つと思ったから、そうしたまでのこと。子のために親が力を尽くすのは当然と考えたでな」
翔花「うん、親子の強い絆、愛ってことだよね。だったら、私と一緒に帰って、リトルのセイ君に再会しないと」
セイリュウ「……それはできん。わしは物質世界の肉体を失った身だからの。この不思議な空間で、スペースGに囚われた魂だけは解放され、かりそめの意識を保っておるが、物質世界に顕現しようと思えば、また歪みを生じさせてしまう。わしの役目はもう果たした。あとは、白虎やリトルたちに託すことにする。地上で思い残すことは何もない」
翔花「そんな。ダメだよ。子どもにとって親は大切なんだから。せっかく生き返れるのに、帰らないなんて間違ってる。お願いだから、私と一緒に帰ってよ」
セイリュウ「お前は……モスラの力を託されはしたが、まだまだモスラの想いを理解してはおらぬようだの。いいか、翔花よ。生き物は全て限られた命を燃やしながら生きておる。たとえ生死を司る力を用いても、命の炎には限りがある。それを無視して、強引に不老不死を実現したとしても、それは世界の理を歪めることになる。亡者とも、屍鬼とも呼ばれる存在にな。わしの分身も、以前そういう妄執に囚われ、護国聖獣と戦ったりもしたが、虚しいものよ。命については、軽々しく考えるでない、精霊の娘よ。限られた命の大切さ、そして後に想いを託せることの素晴らしさ、お前はそれを学びとるといい」
翔花「え? セイリュウさんが消える? どうして? 私の力で生き返らせられるのに……どうして自分の子どもを見捨てられるの? 置いてかれる子どもが可哀想だよ(涙目)」
セイリュウの魂(粉杉翔花、お前は優しすぎる娘なんだな。しかし、世界には変え難い運命、受け入れざるを得ない悲劇というものがある。それを乗り越えてこそ、強くなれる試練だってあるのだよ。そこから逃げてばかりでは、自分の中の闇に飲まれてしまう。ガイアの選びし娘よ、白虎とリトルのことをよろしく頼む。せめて、これだけでも形見として持ち帰ってくれ。ではな)
翔花「ああ、行っちゃやだ(涙目)。セイリュウさん、私一人で帰れないよ。どんな顔をして、シロちゃんやセイ君に会ったらいいか。せっかく生き返らせる力を持ちながら、何もできないなんて。こんな……勾玉一つ、渡されたって……(号泣)」
巫女と皇子の再会
縄文杉の根もとにて
白虎「(ブツブツ)オレサマは忍び。心に刃を乗せて、為すべきことを為す」
リトル「シロ兄さん、大丈夫? 何だか泣いているみたいだけど?」
白虎「オレサマが泣いている? バカな。厳しい修行で心身ともに鍛えてきたんだから、弱音は吐かない。それより、スペースGと戦っている翔花を助けないと。ケイPがここにいるって言っていたけど」
リトル「あ、そこで何かが光っているような……」
白虎「ん? これはドゴランアーマーの石像? 何で石になっているんだ?」
謎の声(それは、我が遠き娘の物理的な肉体を守護する者)
白虎「その声はガイア様。ええと、遠き娘って翔花のことか?」
ガイア(そう。本質が精霊であるあの娘は、White NOVAの言霊魔術と魂の契約をもって、物理的な肉体を顕現した存在。しかし、時空を超えた修行のために思念体のみを切り離し、島に残った肉体はドゴランアーマーの中に封印したのです)
白虎「だけど、翔花とはさっき会ったぞ。スペースGと戦っている」
ガイア(それも強い霊力を宿した思念体です。そして、神のごとき力を駆使した娘は、異空間を生み出して、そこでスペースGを撃退しました。私の想定では、修行をしたとしても娘一人ではスペースGを倒すに及ばず、白虎、あなたのサポートが必要になるはずでした。しかし、娘が覚醒させた力は思いの外に強く、たった一人で事を成し遂げたのです)
白虎「つまり、オレサマは必要なかったということなのか?」
ガイア(戦いにおいては、そうですね。しかし、娘がこの物理世界に帰還するためには、あなたの想いの力が必要です)
白虎「どういうことだ?」
ガイア(時空の旅で判明したことなんですが、あの娘は、本質的に方向音痴のようです。モスラの力を得るために必要なのは、原始モスラのいる中世代に行くことだけだったのですが、なぜか関係ない未来や過去を飛び回って、色々な時間軸に少なからずの干渉をしてしまい、こちらの想定以上の経験値を稼いだようですね。今のあの娘は、自分で制御できる以上の力を宿しているものの、無軌道に、無頓着に、それを使ってしまう危険性があります。何よりも、異空間でスペースGを倒したはいいものの、導き手がいなくては、ここに帰ることもままならず、また違う時代に飛んで行ってしまう可能性が大きい。つまり、糸の切れた凧のようなもの)
白虎「ガイア様が導いたらいいじゃないか」
ガイア(私の神霊としての思念は、今この場だけでなく、多元宇宙の各世界各時代に遍く散らばっていますので、ここに来るように言っても、違う場所、違う時代のガイアの元にふらふらと飛んで行ってしまう可能性が大です。神の思念では広がり過ぎて、的が定まらない。あの子を導くのは、今、ここにいる唯一のパートナーの想いが必要なのですよ)
白虎「オレサマは……翔花のパートナーにはなれねえ。帰って来た翔花に分かってもらえなかったんだからな。オレサマ詐欺なんて言われたりして……」
ガイア(そりゃ、ボク口調で話していた子が急にワイルドになって、オレサマ口調で喋るキャラになったら、普通は誰それってなるものでしょ)
白虎「って、あんたがそれを言うか!? オレサマがこうなったのは、ガイア様、全てはあんたのせいじゃないか!」
ガイア(やだね、この子は。人のせいにしちゃって)
白虎「あんたは、人じゃない。この地を守護する神霊だろうが!」
ガイア(やだね、この子は。神のせいにしちゃって)
白虎「ううっ、ああ言えばこう言う!」
ガイア(とにかく、野獣の皇子(プリンス・ビースト)の白虎よ。オレサマ詐欺だろうと、何だろうと、お前が花の巫女のパートナーであることには変わりありません。もっと自信を持って、パートナーとしての務めを果たしなさい)
白虎「パートナーとしての務めって何だよ?」
ガイア(眠れる花の巫女に口付けをするのです)
白虎「はっ? く、く、く、口付けだと?」
ガイア(そうです。言い換えれば、口吸い、接吻、キス、ベーゼといったところでしょうか。古来、眠れる森の美女の目を覚まさせるものは、王子の口付けと決まっています。さあ、やるのです)
白虎「やるのです……って言われてもなあ(赤面)」
リトル「シロ兄さん、さっきからブツブツ何を言っているのですか?」
白虎「ヘッ? ガイア様の声、お前には聞こえないのか?」
リトル「えっ? もしかして、ガイア様ってこの地の守護神のガイア様? 父さんが話していたけど。やっぱり凄いや、シロ兄さん。神の声が聞こえるのは、選ばれた者だけだって父さんが言っていたもん。父さんには聞こえたらしいけど、ボクには聞こえない。ガイア様と交信できるだけで、シロ兄さんは神子の資格があるんだよ。ボクもシロ兄さんみたいに一生懸命、修行したらそうなれるかな」
白虎「あ、ああ、お前ならきっとそうなれるさ。何しろ、師匠の血を受け継いでいるんだからな」
リトル「いや、血は受け継いでいないよ。父さんは、本当の父さんじゃなくて、育ての親になるんだ」
白虎「えっ、どういうことだ?」
リトル「ボクたち、Gの一族は卵で生まれるんだ。だから、本当の親かどうかは分からない。だけど、この島で生まれたボクを、外の世界から来た父さんは本当の子のように育ててくれた。誰が何と言っても、ボクがセイリュウの子であることは変わりない。血よりも、一族の心でつながっているんだからね」
白虎「そうか。本当の親じゃなくても、心でつながっていればいい。オレサマと、アリナ様やゲンブの関係みたいなものか」
リトル「アリナ様って、確かスザクとも言われていたんだよね。別れることになったが、父さんの盟友であり、阿蘇を治める神霊の一族でもあるって。一度、お会いしたいなあ」
白虎「あ、ああ。師匠セイリュウの忘れ形見だったら、アリナ様だって会いたがるはず。オレサマが、アリナ様のいるコンパーニュまでお前を連れて行ってやるよ」
リトル「本当? 嬉しいな。ボク、今まで島から出たことがないんだ。ガイア様の守護結界で守られていたから」
ガイア(結界を解くには、モスラの力が必要です。すなわち、翔花が目覚めねばなりません。さあ、早く目覚めの儀式を!)
白虎「しょ、翔花にキスしろってのかよ!? オレサマが?」
リトル「え、何の話?」
白虎「あ〜、何て説明したらいいのかな。この石像の中の娘、花の巫女の翔花を目覚めさせるのは、オレサマが、く、く、く、口付けをしないといけない、とガイア様がさっきからおっしゃられていて……」
リトル「ええと、それって人工呼吸か何かの話?」
白虎「ま、まあ、それに近いかな。そうか、人工呼吸と思えばいいのか。そうだな、時空の旅で遭難して溺れかかっている要救護者を助けると思えば、いかがわしいことは何もない。そう、パートナーとか恋心とかは関係ない。あくまで、これは人命救助の萌える、いや燃えるレスキュー魂の一環だ。花粉症ガールは人じゃないけど」
リトル「シロ兄さん、さっきから顔が赤いよ。大丈夫?」
白虎「あ、ああ、大丈夫だ。オレサマは忍び。いつだって平常心」
リトル「もしかして、シロ兄さんって翔花さんのことが好きなの?」
白虎「だあっ、子どもがそんなことに気を回すんじゃない! 少し、あっちへ行ってろ!」
リトル「ええっ? 何が起こるか、セイリュウの子として見届けたい」
白虎「師匠は関係ないだろう。こ、これは、オレサマと翔花の間の問題だ。とにかく、5分ほど、森の中を散歩してろ。その間に、こっちは儀式を済ませる」
リトル「ちぇっ、分かったよ。じゃあ、頑張ってね。上手くやるのを願っているから」
白虎「余計な気の回し方をせんでいい!」
白虎「リトルは行ったみたいだな」
ガイア(さあ、いよいよですね。ワクワク)
白虎「ワクワクすんな! あくまでこれは目覚めの儀式なんだからな。下心は一切なくて、人口呼吸みたいなもの」
ガイア(それでは困ります。言ったじゃないですか。パートナーの想いの力が必要だって。次元の壁を越えて、あの子の思念体、魂をこちらに引き寄せるには、何よりも帰って来て欲しい、どこにも行かせない、お前のことが好きだ、お前が欲しいって愛の叫びが必要なんです。すなわち、キング・オブ・ハートの想いが)
白虎「……本当にそれって必要なのか?」
ガイア(もちろんです。今、あの子の心は迷っています。本当に自分がここに戻ってもいいのか。助けられる命を助けられなくて、どうしようか。もう一度、時間をさかのぼって、やり直せないか、とか。だけど、これ以上、あの子が時間軸を乱すと、令和そのものが改変されてしまいかねない。すなわち、今この時代は危機にさらされているのです。全ては、白虎、あなたと翔花の絆の強さに掛かっています)
白虎「……ああ、何だかよく分からないけど、この石化した状態を打ち破り、翔花を呼び戻すには天も驚くラブラブパワーが必要ってことだな。オレサマも迷ってはいられない。鏡のように澄んだ水の想い、明鏡止水の心で、儀式を敢行してみるぜ。行くぞ、流派・南郷流スザク拳と、東のセイリュウ雷光術と、西のビャッコ忍術の名にかけて、オレサマの想いが真っ赤に燃える。幸せつかめと轟き叫ぶ。ぶぁくねつ、ゴッドフィンガー、石破ラ〜ブラブ天驚キッス!」
CHU!
小さな閃光とともに覚醒す。
翔花「え、私? (目をパチクリ)こ、これって、(口付けされていることに気付いて)キャーーーーーーッ、くらえ、愛と怒りと哀しみの、花粉症バスター!」
白虎「ぶほっ! (衝撃で弾き飛ばされる)クシュン、クシュン、ハックション(くしゃみと鼻水と涙目に見舞われて、戦闘不能状態)」
翔花「一体、何が起こったのよ!? セイリュウさんと別れて、どうしようかと思っていたら、急に不思議時空から物質世界に引き寄せられて、気づけばオレサマ詐欺の顔が間近にあって、私のファーストキッスが奪われているなんて。せっかくNOVAちゃんのために取っておいたのに〜。誰か説明してよ」
ガイア(お帰りなさい、我が遠き娘よ)
翔花「その声は、ヒヒヒお祖母さまのガイアちゃん。スペースGを倒したはいいけど、セイリュウさんを復活させられなくて、傷心モードの私に追い討ちをかけるなんて、どういうつもり? 事と次第によっては、いくらヒヒヒお祖母さまと言っても、ただじゃ置かないんだから。どうして、私のファーストキッスがオレサマ詐欺に奪われないといけないのよ」
ガイア(その者は、オレサマだけど詐欺ではなくて、お前のパートナーのシロなのですよ)
翔花「違うわ。私のパートナーはNOVAちゃんなんだから。他の男なんて、パートナーとして認めない」
ガイア(男ではダメなのですか)
翔花「だって、ストーカーされて気持ち悪かったもん。私が花粉ライターJUHOを名乗って戦っていたときに、やたらと『翔花ちゃーん、見〜つけた。愛しているよ〜』と叫んで、戦いを邪魔したり、ごく稀に役に立つこともあったけど、基本は出落ち系だったストーカーAなんて男に絡まれたりしたんだから。NOVAちゃんも死んじゃうし、珠保時代は私にとって黒歴史。このオレサマ詐欺も、ストーカーAみたいな感じで、正直キモい。私の可愛い小さなシロちゃんを返して」
白虎「うう、翔花。オレサマじゃ、お前のパートナーにはなれないのか?(涙目)」
翔花「あなたがシロちゃんの成長した姿だってのは、セイリュウさんから聞いて分かっている」
白虎「師匠に会ったのか?」
翔花「ええ、スペースGを倒して、魂を復活させたんだけど、少しお話しして、それから消え去った。自分にはもう思い残すことはない、弟子の白虎と、息子のリトルに後は託したと言ってね。シロちゃんがオレサマ詐欺になったんじゃ、私のパートナーはボク口調が可愛いセイ君に交代してもらいたいわ。オレサマはお断り、生理的に受け付けないのよ」
白虎「ガーン。オレサマは成長の方向性を間違えていたと言うのか? 一体どうしたらいいって言うんだ!」
ガイア(元のボクっ娘に戻ったらいいと思うのですが)
白虎「えっ、戻れるのか?」
ガイア(この記事の終わりに、私は言いました。「心配しなくても、男性化するのは戦闘シーンだけですから。普段は幼い少女が、戦う際に急成長して男装の麗人に身をやつすってのは萌え要素」だって。どうして、いつまでもオレサマキャラでいるのか、私には不思議でしたが、もしかして元に戻れるって気付いていませんでしたか?)
翔花「え、シロちゃん、元に戻れるの? だったら、戻ってよ。絶対その方がいいんだから」
白虎「急に戻れって言われても、どうすればいいのか」
ガイア(翔花よ。白虎に口付けするのです)
翔花「ええっ? 今度は私の方からするの?」
ガイア(イヤそうですね)
翔花「だから言ったじゃない。私が唇を許す男性はNOVAちゃんだけだって」
ガイア(……このファザコン娘は何とかしないといけませんね。父親のWhite NOVAがどんな教育を施したのやら)
翔花「NOVAちゃんは潔癖よ。私が勝手に想っているだけなんだから。NOVAちゃんの方から、娘に手を出した事実は一切ないの。それはともかく、シロちゃんを元のボクっ娘に戻すためなら、仕方ない。シロちゃんが女の子だったら、私のファーストキッスもノーカンになるわけだし。シロちゃん、いいわね、行くわよ」
白虎「うわ、ちょっと待て。オレサマの心の準備が……」
CHU!
小さな閃光とともに縮小す。
シロ「おい、翔花。突然、キスするなんて、ひどいじゃないか」
翔花「わ〜い、オレサマじゃない、可愛いメス猫モードのシロちゃんだ❤️」
シロ「ちょ、翔花。しがみつくな。小さくなったんだから、支えられない」
翔花「あれ、でも、そんなに小さくないよ。私と同じくらい」
シロ「本当だ。前は6歳ぐらいの幼女だったけど、今は中学2年ぐらいになっている」
ガイア(ふたりはパートナーなんだから、同い年ぐらいの見た目の方がよいでしょう。シロが白虎としての力を完全解放したい時は、翔花がまた口付けすればいい)
シロ「つまり、野獣の皇子(ビースト・プリンス)の力は、翔花が自由に封印したり解放したりできるってことだな」
ガイア(自力で封印解除するには、相応の修行が必要になりますから。戦闘モードになるためにパートナーの存在が欠かせないというのも、二人の絆を高めるには重要な設定ですよ)
翔花「今の状態は、白猫の王子(プリンス・キャット)ってところね。これなら、パートナーって認められる」
シロ「そ、そうか。ボクも翔花が改めてパートナーと認めてくれて嬉しいよ」
翔花「あ、でもキスすると、オレサマになるんだったら、当分キスはできないね」
シロ「ガーン。い、いや、キスなんて、そう気軽に何度もするものじゃないし、ボ、ボクは今のままでいいよ」
翔花「そうだね。私もボクっ娘のシロちゃんがだ〜い好き。ずっと今のままでいて欲しいな❤️」
ガイア(やれやれ。遠き娘が百合好きになるとは、これも令和の時代なのかも知れませんね)
(当記事 完。「新・屋久島編その8(完結編)新たな守護者」につづく)