ソード・ワールドのレンジャー技能
リモートNOVA『前回は、俺が初めてレンジャーを知ったTRPG、「指輪物語ロールプレイング(MERP)」の話で終わりました』
ヒノキ「その前に、AD&Dゲームブックで知ったのじゃな」
NOVA『昭和末期の高校時代にドラゴンランスや指輪物語を読んで、イメージをいろいろ広げて行ったわけですが、AD&D(2版)が邦訳されたのは1991年。その前に1版のPHBだけ英語版で購入していたりもした大学時代ですが、先に89年のソード・ワールドで初めて手軽にレンジャーをプレイできるようになりましたね』
ヒノキ「MERPは難易度の高いゲームなので、実プレイのハードルが高かったようじゃな」
NOVA『個人的には好きなゲームなんですけど、当時高校生の俺の周りには、「指輪物語」を読んで、あのシステムに興味を示すゲーマーな友人はいませんでした。大学入学後は、一度だけプレイする機会が持てたんですけどね。結局、「ウォーハンマー」の方に転がりました。あと、TORGとかウィザードリィRPGとか諸々』
ヒノキ「平成に入る頃にはTRPGブームで、次々と新しいシステムのゲームが出たからのう。新作ゲームをお試しプレイするだけでも大変じゃろう」
NOVA『そんな中で、ソード・ワールドは当時、文庫という低価格で本格的なファンタジーRPGが楽しめるということで、王者D&Dの座を奪って、国内ファンタジーRPGの覇権をとったわけですな』
ヒノキ「ソード・ワールドの魅力はいろいろ挙げられるが、リプレイから小説で人気を博したロードスと同じ世界観(フォーセリア)のアレクラスト大陸を舞台にしたこと。山本さんのリプレイで、後のライトノベルに通じる軽いノリのキャラによる面白さを伝えたこと。そして、長編小説や短編集、パソコンやスーパーファミコンといったデジタルゲームをいろいろ出して、メディアミックスでファン層をどんどん拡大して行ったことが挙げられるか」
NOVA『システムとしては、D&D的なクラスシステム(職業)と、ルーンクエスト的なスキルシステム(技能)を巧みに折衷させた、職能システムともいうべき簡便さと育成自由度を両立させたキャラ構築がいいです。スキルシステムの欠点は、当時の初心者ゲーマーの多くにとって大量のスキルリストを眺めて理解するだけでも、割とハードルが高かったですからね』
ヒノキ「今のゲーマーにとっては常識じゃがのう」
NOVA『周辺環境が整うことで、多くのゲーマーの常識が進化する前の時代だったんです。世間一般では、やはりドラクエ、そしてファイナルファンタジーがブレイクスルーとなったと思います。1988年のFF2で戦闘と魔法の熟練度を個別に上昇させるというシステムを示し、続くFF3(1990)でジョブチェンジというシステムで大量の職業を切り替える楽しさを示し、一つ飛んでFF5(1992)になって、ジョブ(職業クラス)とアビリティ(技能スキル)の数々を習得して組み合わせる楽しさをRPGファンに浸透させたのだと思います』
ヒノキ「ドラクエの功績ではないのか?」
NOVA『ドラクエは、コンピューターRPGを初心者に広めた立役者ですが、職業と技能システムでは88年の3以降の育成自由度の少ない時期がありまして。どちらかと言えば、固定の能力と成長性を持った仲間やモンスターのヴァリエーションを増やして、キャラを選ぶチームマネージメント的な面白さを追求しましたから。一人一人のキャラの育成自由度を高めるのは、95年のドラクエ6まで間が空いて、その時期になるとシステム的にFFの後追いだと言われていたわけですな』
ヒノキ「後追いでも、楽しければそれでいいと思うがのう」
NOVA『80年代から90年代はゲームシステムの発展進化が著しく、次々と新基軸を打ち出して発展をリードして行ったのがFFシリーズ。一方、ドラクエは王道の伝統重視と言われながら、ゲーム初心者の入り口として、マニアからは古臭いと批判されながらも安定した地位を占めていたと思います』
ヒノキ「デジタル方面の話はともかく、ソード・ワールドに話を戻さんか」
NOVA『ええ。ドラクエのレンジャー(6が初出)やFFの弓使いキャラの狩人(3が初出。英語表記がレンジャー)の他、ウィザードリィやウルティマのレンジャーについても語りたいところですが、後に回します。今はソード・ワールドに戻りましょう』
ソード・ワールドの職能システム
NOVA『レンジャーという職業を定義すると、「野外活動の能力を持った戦士(ファイター)の上級職」というのがAD&Dなんですが、ソード・ワールドでは、この野外活動の能力だけをレンジャー技能として切り取ります。そして、ファイター技能とレンジャー技能を組み合わせることで、AD&D的なレンジャー像を再現したわけですな』
ヒノキ「つまり、メイン技能のファイターにサブ技能のレンジャーを足さずに、レンジャー技能単独だと戦えない、と」
NOVA『一応、レンジャー技能で飛び道具だけは扱えますので、魔法使いがレンジャー技能を持つことで、「魔法を使わなくても、遠隔支援できるキャラ」を作ることもできますし、アレクラストでは「レンジャー+シャーマン(精霊使い)」でドルイドを表現したりもしていました』
ヒノキ「ファイター技能だけでは、戦うことしかできないが、レンジャー技能を組み合わせることで、足跡追跡したり、隠れたり、捜索したり、天候予測したり、いろいろと幅広く冒険に対応できるようになる、と」
NOVA『今のソード・ワールドだと、ファイターに盗賊技能のスカウトの組み合わせも割と定番ですし、レンジャーよりはスカウトの方が便利な局面も多いですが、旧ソード・ワールドだと、スカウト技能がなくてシーフ技能でしたから、ファイターとの組み合わせは有効とは言えなかったわけです』
ヒノキ「シーフ技能のうち、軽戦士の能力がフェンサー技能として分化、多彩な盗賊能力をスカウト技能として切り分けることで、習得成長の経験点消費を減らして扱いやすくした、と」
NOVA『旧ソード・ワールドから2.0以降のシステムの進化についても、いろいろと語れますが、今はレンジャーに専念。ファイターが冒険者として一人前になるためには、レンジャー技能の習得が望ましいわけです』
ヒノキ「しかし、レンジャーといえば、能力をフル活用するために革鎧までしか身に着けられないと聞く。金属鎧を着たいファイターとしては、レンジャー能力の一部しか使えないことになるのでは?」
NOVA『そこで人気の鎧が、ハードレザーなんですな。おそらくハードレザーを着た戦士像がTRPGで一般的になったのも、ソード・ワールドの恩恵でしょう。D&Dだと、どうしてもプレートをガチガチに着込んだのが戦士だという類型があって、システム的に軽鎧を着た回避主体の戦士は不利なだけでしたから』
ヒノキ「今のD&Dはどうじゃ?」
NOVA『重い金属鎧だと、敏捷性ボーナスが反映されなくなったので、敏捷性の高いキャラは戦士でも非金属鎧を装備することで、金属鎧に近い防御力を確保できますね。もちろん、1点か2点の差で金属鎧の方がACが高くなる絶妙な数値調整なんですが、クラシックD&Dだと革とプレートでは4点も差がついて来るので、革鎧はシーフとドルイドの専売特許みたいになってました』
ヒノキ「しかし、リアルで考えると、街中で金属鎧を着て歩き回るのは、いかにも物々しい感じじゃのう」
NOVA『現代日本で、時代劇の撮影でもないのに鎧武者が歩いていると違和感ですし、剣道の防具を身につけたまま街を歩いているのも変だ』
ヒノキ「現代では、コスプレと見なされようか。しかし、世界観が違うファンタジー世界だと問題がないのでは?」
NOVA『完全武装の戦士が一般的なのは、戦時中の物騒な世界か(だからロードスの世界では許される)、街の近くに巨大なダンジョンがあって冒険者が一般に認められて、街の経済の中心にもなっているか(ウィザードリィなんかの世界)、魔王がいたりして、モンスターが普通に街の外の原野に出現するような世界(ドラクエなど多くのデジタル系RPG)なら、ありだというところでしょうかね。まあ、騎士とか傭兵とかが違和感なく存在している世界だったら、金属鎧の戦士も受け入れられるのでしょうな』
ヒノキ「つまり、戦時とか未開拓の辺境という背景世界でない限りは、重武装の戦士が日常にいることはない、と」
NOVA『80年代のデジタルゲームの表現力では、街中での日常ストーリーを描写することはあまりなく、ダンジョンか広野の旅という冒険生活のみに重点が置かれました。もしも日常生活と冒険生活を切り替えるような物語であれば、平時の衣服と、危険に立ち向かう際の装備品でキャラ描写やデータを分ける必要もあったのでしょうが』
ヒノキ「ロボット物で言うところの私服シーンと、パイロットスーツを装着しているシーンの2つのキャライラストがあるようなものじゃな」
NOVA『甲冑ヒーローで有名な「ドルアーガの塔」のギルガメスは、敵地のダンジョンだからこそ、いつでもあの黄金鎧を身に付けているわけですが、ゲーム中では我々は黄金鎧のギルしか見てませんので、何となく彼は日常生活でも鎧をまとっていると思いがちです』
ヒノキ「しかし、近年の作品でもゴブリンスレイヤーみたいなケースもあろう。いつ敵に襲撃されるか分からないと考え、寝るときでも食事のときでも装備を外すことはないのがゴブリンスレイヤーというものじゃ」
NOVA『イラストやアニメでは、どうしてもゴブスレさんの装備って金属鎧に見えるのですけど、あれは金属っぽくワックスで固めたハードレザーですからね。汚れたハードレザーなのに、頭だけが騎士っぽい金属兜で顔を見せようとしないから、あの人は周りから変なのと思われていたわけです。例えば、レザースーツを着て、バイクのヘルメットを身につけても、ファッションとしては違和感はありません*1が、レザースーツなのに剣道の面を付けていたら変なのでしょう』
ヒノキ「ウィザードリィの世界にゴブスレが現れても違和感かの?」
NOVA『兜をかぶった戦士なのに、薄汚れた革鎧というのは、チグハグですね。まあ、部分鎧が装備できるT&Tの世界なら、それもあり、と言ったところでしょうか*2。ゴブスレさんが革鎧なのは、奇襲攻撃を重視しているからだし、兜については想定される敵がゴブリンの集団なので、乱戦で頭部を攻撃されるリスクを避けるためという理由がついてくるわけですが、レンジャーもシーフも兜をかぶると聞き耳ができなくなって、敵の接近を察知できなくなるから、常識としては身に付けません』
ヒノキ「つまり、ゴブスレは聞き耳をあまり重視しておらんのじゃな」
NOVA『本編中はパーティ仲間の妖精弓手がレンジャーで、聞き耳も担当していますね。一方、ゴブスレはスカウト技能とレンジャー技能を合わせ持った前衛戦士で、なおかつアイテム使いです。一応、冒険者ギルドではファイター兼スカウトで登録されているようですが、投擲と狩人としての技も習得していて、普通にレンジャーも習得しているように描かれていますね』
ヒノキ「生まれがレンジャーで、スカウトに師事して、実はファイター技能の方が後付けという説もあるようじゃのう」
NOVA『おっと、ソード・ワールドの話のはずが、世紀をまたがってゴブスレの話に飛んでしまいましたな』
ヒノキ「まあ、ゴブスレのキャラ構築システムは、ソード・ワールドに準じた職能システムに、ロードスRPG的な技能システムを複合されたものじゃからのう。同じ文脈で語れなくもないが」
NOVA『話を戻して、ソード・ワールドにおけるレンジャーとスカウト(シーフ)の違いは、前者が屋外や自然環境限定の能力が多いのに対して、後者は場所を選ばず機能するという点で使い勝手が良いと思われました』
ヒノキ「2.0になって、スカウトには先制判定能力が与えられ、レンジャーには薬草やポーションの回復効果を高める能力が与えられたのじゃったな」
NOVA『どちらかを選べと言われたら、やはりスカウトの方が重要でしょうね。レンジャーの価値は仲間のためにMP回復の魔香草を吸わせてあげるぐらいか。まあ、それはそれでパーティーの継戦能力を高めるには重要ですし、レンジャーが自動習得できる特技はキャラクターの打たれ強さ(生存性)を高める傾向があって、ポーションをがぶ飲みして、しぶとく戦う戦士になれます』
ヒノキ「スカウト技能はパーティーにとって必須。しかし、レンジャー技能はあれば便利というぐらいで、やや地味な扱いじゃのう。実プレイでも、スカウトは単独の偵察行動で活躍したりと派手な見せ場があるのに対し*3、レンジャーだから目立って活躍……ってイメージがあまりない」
NOVA『余った経験点で上げておけば、探索で役立つかもしれない程度の扱われ方ですな、レンジャー技能って』
AD&Dのレンジャー
NOVA『ソード・ワールドのレンジャーは、地味なサブ技能って感じの扱いで、思っていたほど面白くなかったな、と当時は考えたのですが、クラシックD&Dでもサプリメントによって技能システムが取り入れられることで、ファイターでも足跡追跡やレンジャー的な特殊能力を付与できるようになって、レンジャーの意義が危ぶまれていた頃に、ようやくAD&Dが邦訳されました』
ヒノキ「日本での期待度が一番高い時期に登場できなかったのも、AD&D2版の邦訳が不遇だった理由じゃな」
NOVA『国内ローカライズで精力的にD&DプッシュしてきたSNEと、人気作のロードスをアメリカ本社のTSRが強圧的に切っちゃったことで、国内展開の受け皿が縮小してしまったことも理由の一つかな。D&Dの魅力的な要素はしっかり研究されて、後発だったソード・ワールドやロードスRPG、T&Tやウォーハンマーなど安価な書籍RPGが持って行きましたから』
ヒノキ「全部、SNE関係ではないか」
NOVA『80年代後半から90年代頭では業界トップで、TRPGの発展に尽くしましたからね。当時、D&Dを翻訳していたORGさんは、91年に「ダブルムーン伝説」というムック形式のRPGを出して、ロードスの後追いをする方向性でしたが、デザイナー兼社長の大貫さんが93年に急逝したことで、TRPGの主流から外れてしまった感があります*4』
ヒノキ「それと入れ替わるように主流になったのがFEARさんじゃな」
NOVA『当時の浮き沈みの激しい業界模様はさておき、AD&D2版のレンジャーは、パラディンと並ぶファイターの上位クラスとして扱われました。レンジャーはファイターの持つ能力を全て持っているうえ、以下の固有能力を持ってます』
- 両手に武器を持つ二刀流をペナルティーなしで行える。
- 無条件で〈追跡〉技能を習得できる。
- ムーブサイレントリー(忍び歩き)とハイドインシャドー(隠れ身)の特殊能力。
- 特定の種類の敵に対する攻撃ボーナス。
- 動物に対する親和性。
- 9レベル以降、動植物の分野に属する僧侶呪文を使用できる。
NOVA『能力の一部は鎧の制限を伴いますが、ファイターにできることは全てレンジャーにもできる。ただし、レンジャーになれるのは人間、エルフ、ハーフエルフだけで、性格も善良に限定される。あとは能力値の条件がありますね』
ヒノキ「上位クラスには付き物じゃのう」
NOVA『ファイターは筋力9以上でなれますが、レンジャーになるには、筋力13、敏捷性13、耐久力14、判断力14が必要です』
ヒノキ「4つも必要なのか」
NOVA『対となるパラディンは、筋力12、耐久力9、判断力13、魅力17で、人間のみ。秩序にして善良という、より厳しい条件が付いて来ますので、まさに天運に選ばれた職業と言えますね。なお、ファイターは経験点2000で2レベルになれますが、レンジャーやパラディンは2250点が必要。成長が12.5%分遅くなるというデメリットがあります。3版になる前のD&Dは成長速度の差で職業の格差を設けていたんですね』
ヒノキ「強い職業は、成長が遅い、と」
NOVA『成長が速いのは、シーフやバードの1250点。成長が遅いのは魔法使い(メイジ)の2500点というのは、クラシックD&Dの経験者には常識でしょう』
ヒノキ「エルフが最も大変で、4000点じゃったのう」
NOVA『あれは、魔法戦士という兼職(マルチクラス)ですからね。AD&Dでも異種族に限り、兼職は可能ですが、エルフやハーフエルフは最大3種の兼職が可能でした(ファイター/メイジ/シーフ)』
ヒノキ「成長速度が3分の1というのは厳しそうじゃのう」
NOVA『ソード・ワールドだと、兼職は当たり前のゲームシステムですからね』
ヒノキ「人間は兼職できんのか」
NOVA『できませんが、代わりにデュアルクラスという転職システムがあります。もっとも、この辺のルールは3版で一新されて、兼職や転職がソード・ワールド並みに自由度が上がったわけですが、4版や5版でまたルールが変わって、上級クラスやサブクラスの選択が必須になった形ですね』
ヒノキ「今度の2024年版は、2014年の5版に準じる形でサブクラスを選択するようじゃが、2版まではサブクラスという概念もなかった、と」
NOVA『今現在の視点でAD&Dというシステムを見ると、育成自由度の低さや制限の多さが目につくのと、成長システムのトロ臭さが気になります』
ヒノキ「21世紀に入ってからのD&Dは、古いゲームの制限を取り払って、多様性を高める方向を模索しつつ、成長時の選択を早い段階から楽しめるようにできておるからのう」
NOVA『パラディンもそうですが、せっかく呪文が使える戦士という特徴があるのに、それができるのが9レベルになってから、というのは遅すぎます』
ヒノキ「5版のレンジャーは、何レベルで呪文が使えると言うのじゃ?」
NOVA『2レベルです』
ヒノキ「なるほど。今はスピーディーじゃの」
NOVA『3版の時点で、4レベルだったから、時代とともに呪文使用のハードルが下がっている流れですね』
ヒノキ「とは言え、戦闘以外に何もできないファイターに比べると、呪文以外の特殊能力をいろいろ持っている時点で、面白い職業じゃと思うがのう」
NOVA『個人的な実感としては、クラシックD&Dが初邦訳された85年から87年ぐらいまでの時期は、AD&Dへの憧れも強いものがあったのですね。だけど、それから4年が経った91年では、D&Dというシステムが何だか古いというか、制限が多すぎて、自由度が足りないという印象が濃厚に。あれだけワクワクしたレンジャーも、いざ蓋を開けてみると、意外と地味だったというか。まあ、派手なパラディンと比べちゃうと、どうしても見劣りするのも事実ですが』
ヒノキ「元々、野山や森に潜伏する職業であるから、派手すぎないのがレンジャーというものではないか?」
NOVA『2版のレンジャーにとって不遇なのは、クラシックD&Dから逆輸入されたと思しき技能ルールによって、普通のファイターもレンジャー並みにできることが増えたわけですね。「ファイターにできないことができる野外活動の専門家」というレンジャーの強みが、「ファイターだって、技能の習得によって野外活動の能力をあれこれ使えるようになりました」って個性付けされることで、相対的に減少した感じがあります』
ヒノキ「技能システムの導入によって、『ファイター+α』のα部分が強みとは言えなくなったわけじゃな」
NOVA『そこで、レンジャーの新たな強みを模索していくのが3版以降の流れですが、いずれにせよ、ファイターにできることはレンジャーにもできるために損はしていないにも関わらず、技能では代替できない神の奇跡的な特殊能力をいろいろ与えられるパラディンに比べて、レンジャー凄いとはあまり思わなくなったな、というのが当時の感想ですな』
ヒノキ「憧れだったレンジャーが、こんな物か、と幻滅したわけか」
デジタルゲームのレンジャー
NOVA『では、先ほど前倒し的に話題に挙げていたデジタルゲームに話を展開しましょう』
ヒノキ「レンジャーの歴史では、そっちも重要じゃのう」
NOVA『まずは、コンピューターRPGの始祖とも言うべきウィザードリィ(1981年)ですが、パラディンがほぼ同等の特徴を持ったロードに、レンジャーはだいぶ異なる変化を遂げたサムライになったことが挙げられます』
ヒノキ「サムライはレンジャーの進化系じゃと?」
NOVA『防御重視のパラディンと、攻撃重視のレンジャーと解釈されたようですな、当初は。まあ、D&Dレンジャーの特徴である二刀流がそう受け止められたのかもしれません。ただ、レンジャーよりもサムライのネームバリューの方が高く、80年代アメリカ人の東洋文化カブレで、暗殺者(アサシン)→ニンジャと同様に、レンジャー→サムライとなったことで、日本でもサムライの武器ムラマサがシンボルアイテムになるほどのカリスマ職となった模様』
ヒノキ「まあ、レンジャーでは強い武器がイメージできんものなあ」
NOVA『いや、アラゴルンの折れたる剣ナルシルを鍛え直した〈西の焔アンデュリル〉は名刀でしょう』
ヒノキ「その名が80年代当時の日本人の心に響いたとは思えん。ロード・オブ・ザ・リングが世間一般に浸透したのは、21世紀に入ってからじゃ」
NOVA『そんなわけで、サムライと化して一度は表舞台から姿を消したレンジャーがウィザードリィで再び登場したのは、第1作の発売から10年ほどを経た6(1990年)のことです。錬金術師や吟遊詩人、モンクなどの新職業とともにレンジャーも実装されたわけですが、「弓の達人」という特徴を除けば、錬金術と盗賊技能(罠外しとか)を習得できる戦士という万能職に見えて、実は錬金術も盗賊技能も先輩職のニンジャの方が得意という事実』
ヒノキ「弓を除けば、ニンジャの下位クラスがレンジャーか」
NOVA『善のパーティでニンジャが入れられない場合に、レンジャー行ってみる? って感じなんですが、だったら盗賊が短刀で転職してニンジャになった方がいいのでは? と日本オリジナルの外伝シナリオをプレイしながら思ったわけです。やはり、派手なサムライやニンジャに比べて、レンジャーは中途半端で地味な職業の汚名を返上できなかったな、と』
ヒノキ「ウィザードリィよりも、同時期のライバルRPGと呼ばれたウルティマの方がレンジャーの扱いはよいのでは?」
NOVA『ウルティマでレンジャーが初めて登場したのは、83年のウルティマ3からで、戦士、魔法使い、僧侶、盗賊の技能を全て使える万能職だったんですな』
ヒノキ「その分、器用貧乏なんじゃろう?」
NOVA『というか、育成まで時間が掛かる感じですな。俺は使ったことがないから、よく知らんけど。続く4では、崇高な心を持ったのがレンジャーということで、名誉の徳を重視するパラディンよりもレンジャーの方が気高い感じに見えます。主人公がレンジャーを選ばないなら、ウルティマ1の王の1人シャミノが仲間のレンジャーとして加入。飛び道具が強いタクティカルマップでの戦闘システムでは、接近戦キャラよりも使い勝手がいいので、レンジャーが活躍する局面も多いという印象があります』
ヒノキ「やはり、ダンジョンメインのウィザードリィよりも、野外の探索行の多いウルティマの方がレンジャーは活躍できるということか」
NOVA『そんなわけで、作り手のレンジャー愛はウルティマの方に軍配が上がったということですな』
ヒノキ「次はドラクエかのう?」
NOVA『レンジャー実装は、95年のドラクエ6からで遅いのですが、盗賊、魔物使い、商人をマスターすると転職できる上級職ですな。7ではリストラされた後、9で復活して、オンラインの10でも登場。で、初登場の6では、すでにスーパー戦隊が◯◯レンジャーの時代になっているので、称号もシロレンジャー、キレンジャー、アカレンジャー、アオレンジャー、クロレンジャー、パワーレンジャー、メガレンジャー、キングレンジャーの順で昇格していきます』
NOVA『レンジャーのカラーリングは緑が似つかわしいと思うのですが、さておき。驚くべきはメガレンジャーです。スーパー戦隊の「電磁戦隊メガレンジャー」の放送開始は97年からなので、本家よりもドラクエが先にその名を登場させたわけですな。
『また、最後のキングレンジャーは95年の「超力戦隊オーレンジャー」の追加戦士ですが、登場は9月なので、12月発売のドラクエ6が影響を受けたかどうかは開発時期的にかなりギリギリだと思います。まあ、キングレンジャーは最近また旬になっているようなので、関連動画も挙げてみましょう』
ヒノキ「で、ドラクエのレンジャーは強いのか?」
NOVA『上級職にしては弱くて地味というのが一般的な評価ですね。能力値も低いし、有用な特技も覚えないので、レンジャー凄いという感想にはなりにくい』
ヒノキ「う〜む、ドラクエはレンジャーに優しくないゲームか」
NOVA『一方、ファイナルファンタジーでは、90年に初登場したジョブの狩人が、英語表記レンジャーで、有能な弓使いですな。とりわけ、FF5で覚えるアビリティ「みだれうち」が4回攻撃(1回のダメージは半減するので、実質的にダメージ2倍)で実用的かつ派手で爽快なバトルグラフィックだし、回復や補助効果をランダムで発動できる「どうぶつ」がユニークかつ思いの外に実用的で非ボス戦の道中でお世話になったなあ、と思います』
ヒノキ「FFのレンジャー(狩人)には、動物使いの能力がある、と」
NOVA『ドラクエ6のレンジャーの下位職が魔物使いだったりしますが、レンジャー自体はその特殊能力を受け継いでいないのが残念でした。もしもレンジャー自身、倒した敵モンスターを仲間にする能力を持っていたら、もっと人気職になっていたのかもしれません』
ヒノキ「その時期だと、モンスターを召喚するサモナーや操る職業が人気になっておったからのう。FFでは3から、ドラクエでは5からじゃったか」
NOVA『レンジャーもそれを踏まえて、アニマルフレンドシップの呪文で動物の相棒を仲間にすることを推奨され、やがて〈動物の相棒〉という特殊能力が正式に採用されたり、ビーストマスター(獣使い)というサブクラスを選択可能になったり、レンジャーの個性付けがペットの動物との連携で語られるようにもなるわけですな。その辺の3版以降の展開は次回の話にしましょう』
(当記事 完)