花粉症ガール外伝・コンパーニュ記

会話リプレイ形式の「精霊少女や仲間たちの趣味雑談ブログ」。お題はTRPGを中心に特撮・怪獣ネタ成分が濃厚。現在は、D&Dを中心に世紀末前後のTRPGの懐古話を不定期展開中。

フォーゴトン・レルムの上級クラス話(D&D3版)

今回はワールドガイドネタ

 

リモートNOVA『さて、3版と3.5版のコアルールから、話をサプリに広げようとしたものの、「戦士大全」の上級クラス36種類に恐れをなして、ちょうどいいと見つけたのが「フォーゴトン・レルム・ワールドガイド」だ』

ヒノキ「フォーゴトン・レルムは、日本では平成初期から小説とコンピューターゲームでプッシュされたものの、TRPGのサプリが邦訳されたのは世紀明けの3版が初だったのじゃな。元々はAD&Dが初版から2版に切り替わる時期(87年)に誕生した世界だと」

NOVA『世界観としては、最初のゲイリー・ガイギャックスさんの世界であるグレイホーク、小説と連動した物語性の高いドラゴンランスに次ぐ、小説とコンピューターゲームと多彩な地域ガイドで広げた第3の世界になります。それとは別に、クラシックD&Dの世界であるミスタラが日本では有名で、以降はAD&D2版の時期に多元世界構想でいろいろなワールドが展開されたんだけど、元々D&Dは「DMが自分独自の世界設定を作ること」を推奨していて、世界作りの材料となるデータをいろいろと提供していたわけですな』

ヒノキ「だからD&Dは、ぶっちゃけ何でもありの汎用ファンタジーゲームじゃった、と」

NOVA『当初は固有の世界観を持たないのが特徴だったけど、それだとルールだけで、世界観と物語を売るような商売ができないから、80年代に入る辺りから、D&D固有の世界を雑誌記事やシナリオという形で構築するようになる。で、英語版時代からのD&Dファンは、D&D=グレイホークという印象を持っている』

ヒノキ「D&Dの呪文にも、モルデンカイネンや各種魔法使いの名前が入っているものがあるが、それはグレイホークのキャラなんじゃな」

NOVA『それまでは小出しにしていたワールドガイドをまとめて、グレイホークのボックスセットにしたのが83年。そして、翌84年からドラゴンランスの展開がスタートします。あと、最初のD&Dの共同デザイナーのデイブ・アーネソン氏の世界であるブラックムーアを第2世界、もしくはグレイホーク以前の第1世界とする説もあります。要は、グレイホークもブラックムーアも、D&Dの発売(1974)以前からデザイナーたちの間で遊ばれていたので、世界そのものは商品化される前から原型があったわけですな*1

ヒノキ「まあ、一般プレイヤーにとっては、商品化された順番が重要じゃろう」

NOVA『だったら、グレイホーク→ブラックムーア→ミスタラ→ドラゴンランスフォーゴトン・レルムの順番になるのでしょうな*2。まあ、ミスタラはクラシックD&Dの世界で、その名前が付いたのも90年代ですが、旧世紀の日本にとっては、D&Dのワールドガイドとして、これしか翻訳されていなかったから、グレイホークもレルムも3版で初めてワールドガイドが出たわけです』

ヒノキ「ドラゴンランスについては、去年初めてTRPGの関連商品が邦訳されたからのう。小説の読者は、英語版ユーザーでなければ、接し得なかった世界観じゃと」

NOVA『新和のAD&D展開が上手く行ってたら、コアルールの後で、ドラゴンランスをプッシュする流れができていたのかもしれませんが、それが失敗して、結局、3版はグレイホーク、レルムの2本柱、3.5版からエベロンを展開。その後、5版はコアルールに、レルムとドラゴンランスの昔の要素を散りばめ、懐古心を煽るとともに、シナリオ展開ではグレイホークよりもレルム推しでした。でも、今度の新5版では、グレイホークを土台にして、しっかり固めるみたいですね。DMGの目次でも、キャンペーン世界の例示として、しっかり「グレイホークの紹介ページ」が設けられてありました』

ヒノキ「旧5版には、グレイホーク要素はない?」

NOVA『呪文の名前や神さまの名前は土台として載ってますが、世界観紹介の順番は「レルム、グレイホーク、ドラゴンランスエベロン」の順です。シナリオ商品としても、レルムが圧倒的で、グレイホークは奥に引っ込んでいた感ですが、新5版ではグレイホーク押しで行くことを公式に発表されております。まあ、コアルールが出そろったら、レルム関連のワールドガイドも出ると予想されますが、まだ確定ではない、と』

背景世界の違いとストーリー観

 

ヒノキ「で、レルムとグレイホークの何が違うんじゃ?」

NOVA『そうですね。細かい違いはいろいろですが、大雑把な違いを挙げると、グレイホークは魔法使いが非常に強く、それに対してレルムは4版の〈呪文荒廃〉の影響で、魔法使いの歴史的権威が弱体化した反面(5版で回復したとは言え)、2版の開始時期に神さまたちが地上世界に降臨していた背景もありますから、信仰教団の権威が割と強い感じです。つまり、グレイホークが剣と魔法の世界であるなら、レルムの方は剣と信仰の世界(魔法は復権中だけど、不安視されがち)。あとは都市とダンジョン中心のグレイホークに対して、自然派ドルイドやレンジャー、バーバリアンなどの影響力が強いのもレルムの印象かな』

ヒノキ「グレイホークはオーソドックスで、レルムは神さまが複数顕現する大事件や、呪文がまともに使えなくなる大事件があったのじゃな」

NOVA『言わば、版上げの影響を思いきり受けて大事件が起こったのがレルムで、グレイホークはガイギャックス神の伝統あふれる世界観だから、そうそう改変するわけにもいかないでしょう、と。安定のグレイホークと、混迷しがちなレルムと言ってもいいでしょうな』

ヒノキ「世界を滅ぼそうとする魔王は、グレイホークには登場しない、と?」

NOVA『いや、そんなのは和製ファンタジーのネタであって、D&Dは世界の規模が大きいから、世界を滅ぼすような事件は版上げの時ぐらいしか起こりませんよ。通常シナリオの範囲だと、せいぜい地方を滅ぼすぐらい? 

『例えば、去年の映画だと、ソード・コースト地方の都市一つが滅ぼされそうな事件を、主人公たちが頑張って解決しました。コンピューターゲームでも地方単位ですからね。バルダーズ・ゲート周辺地域とか、それぐらい。まあ、公式シナリオで大規模なのは、「世界を蝕む呪いのせいで死人が増えて、悪化すると世界が滅びるから、そうなる前に呪いの元凶を断ち切れ」とか、「世界を侵略しようとする魔の軍勢を食い止めるために、異世界の地獄に行って、魔の諸勢力のバランスを崩して地上侵攻をできなくせよ」とか、そういうレベル。さすがに、魔王が魔物の軍勢を率いて世界が大ピンチなので、国が伝説の勇者を派遣……という話はD&Dの公式では……ドラゴンランスだったら、近いかも』

ヒノキ「邪神である〈暗黒の女王〉タキシスが復活して、彼女の配下の邪悪なドラゴン軍が世界各地で侵略戦争を展開中、という世界観じゃったな」

NOVA『敵の勢力が強大すぎて、それに対抗する味方の神さまや善竜の勢力が世界から隠されているという設定で、主人公パーティーが失われた神さまや善竜の力を回復するために古代の遺跡に潜ったりする話。和製ファンタジーの世界滅亡の危機は、TRPGではドラゴンランスが起源かもしれませんな。

『まあ、その前に実際に世界が滅びたエルリックなど〈永遠の戦士〉系の話とか*3、魔王による侵略戦争を迎え撃つ各種族の英雄の反攻と探索冒険をテーマにした〈指輪物語〉といったヒロイックファンタジーおよびハイファンタジー小説が起源だと考えることもできます』

ヒノキ「さすがに、そこまで大掛かりで派手な展開ばかりも疲れるじゃろうから、もっと等身大の日常を守ろうというゲームが、今のTRPGの主流じゃろうがな」

NOVA『世界滅亡の危機は、やはり80年代から90年代の世紀末のノリで、新世紀のゲームは日常と根差した冒険とか、学園生活と根差した冒険とか、世界よりもキャラ個人にスポットが当たることが多いです。世界という規模も、個人の手の届く範囲のプライベートエリアに限られて物語展開するようになったというか。FEAR社のストーリーテンプレだと、守るべきヒロインと、倒すべき敵キャラと、情報やアイテムなどをくれる支援キャラとの関係性を構築するだけで大抵の定番物語は構築できるそうで、抽象的な世界設定よりも、具体的なキャラ設定を描く方がラノベ的とのこと』

ヒノキ「世界の危機は、主要人物の大事な人間関係の危機に準える方がドラマになりやすいということじゃな」

NOVA『その辺は、セカイ系→日常系に至るラノベの流行の流れと絡めることも可能ですが、D&Dはまた別の発展の流れを提示しました』

ヒノキ「何じゃ?」

NOVA『今のゲームでは当たり前のようになっていて、別にD&Dの発明とは思われないのですが、ゲームを達成したことに対する報酬がルール化されていることです。具体的には、経験点とマジックアイテムなどの宝。これによって、キャラクターは物語の中で強く成長できる。RPG文化が日本に伝わって来たばかりの80年代は、キャラが成長することがRPGの肝だと言われていたこともありますが、ロールプレイ(役割演義)よりも成長こそがゲーム性において大事というのも、D&Dが定着させたゲームの革命だと言えます』

 

経験と成長ルールに見られるゲーム性

 

ヒノキ「確かに、経験点を貯めてキャラがレベルアップすると、続きをプレイしたいという気にもなりやすいな。D&D以前にはなかったのか?」

NOVA『人生ゲームでゴールして億万長者になっても、その1プレイが終われば、稼いだお金を次のゲームに持ち越すことはできません。2プレイ目は前のキャラの息子か娘で、親の資産の1割を受け継いで、強くてニューゲームをプレイすることは公式ルールではありません。前のゲームの結果は、次のゲームに影響せずに、プレイヤーの技量を除けば、ゲームの継続でプレイヤーが得られるものは、対戦プレイヤーとの面白いプレイ体験ぐらい。もちろん、プロの将棋棋士などは勝つことが報酬につながるケースもありますが、ゲームそのものの中に報酬がシステム化されて、続きをプレイする誘因になるのはD&Dが初ではないでしょうかね』

ヒノキ「敵を戦闘で倒して、経験点とお金やアイテムを入手して、キャラが強くなるシステムか。小説の中で、冒険家の主人公が宝を見つけて、一生幸せに暮らしました……というのを読んでも、めでたしめでたしで良かったねとは思えても、読者自体が宝を得たわけじゃないからのう」

NOVA『AD&Dの2版が誕生した80年代後半は、RPG原初の楽しみ方であるハック&スラッシュ(敵を倒して宝を奪う)という単純なゲーム性が古臭いと言われ、もっと高尚なストーリー志向を目指していました。2版のPHBでも、戦闘のルールの冒頭近くに「ハック&スラッシュを越えて」という項目があって、戦闘はゲームの重要要素だけど、ただの戦闘ゲームだけだとすぐに飽きるので、もっといろいろな解決方法を模索すべきとある。でも、その割には、戦闘以外の状況解決ルールはあまり用意されていないのだけど』

ヒノキ「戦闘以外だと、話し合いとかか?」

NOVA『まあ、魔法や盗賊の潜伏能力などを駆使して、単純な力押しをやめようというぐらいの意味でしょうけど、2版の時期はルールブックにも、ハック&スラッシュの否定が主張されていたわけです。しかし、3版から4版にかけては路線変更して、バトルとお宝獲得、キャラ成長をいかに楽しくするかという方向性でルールが進化しました』

ヒノキ「ハック&スラッシュの復権か」

NOVA『そもそも、3版以降を作っているWotC社の主力製品であるTCGの「マジック:ザ・ギャザリング」が魔術師同士の対決をテーマにしていますからね。バトルを古臭いと否定していては、商売にならないわけですよ。コンボによる能力の組み合わせで楽しいバトルゲームを提供するのがゲーム性となるので、もう一度、ハック&スラッシュが楽しいD&Dを目指した節があります。バトルと成長の自由さ、組み合わせの豊富さが3版の特徴であるとともに、成長の先にある上級クラスという目標も提示した他、入手したお金の使い道も再設定しました』

ヒノキ「お金の使い道って……買い物じゃろう?」

NOVA『クラシックD&DやAD&Dって、何千とか何万ゴールドってぐらいに大量にお金が手に入る割に、それで買えるアイテムがせいぜい何百ゴールドってゲームですからね。大量のお金を何に使うかと言えば、馬車や船などの乗り物を買うか、その先は城や塔を建造して君主の道を目指すかって流れなんですが、冒険者にとってもっと重要なものを買うルールがないんです』

ヒノキ「マジックアイテムじゃな」

NOVA『そう。D&D3版の革命の一つは、お金を払ってマジックアイテムが自由に買えるということで、君主の地位を金で買うゲームではなくなったことです。君主の地位は、上級クラスとか選択ルールの背景を付与することで、物語に合わせて手に入れることになる。そして、別に君主などを目指さないフリーの冒険者であっても、冒険で役立つマジックアイテムは欲しい。それが金で買えるとなると、ハック&スラッシュも面白くなるというものです。まあ、金を払って強くなるというのは、カードに金を費やすTCGの思想にもフィットしますので、3版がゲームマニアに喜ばれた理由も、ゲームの楽しさを熟知した戦略によるものです』

ヒノキ「しかし、4版はウケなかったのじゃな」

NOVA『諸事情ありますが、D&Dの過去の資産が全く使えないシステムの互換性のなさが大きいですね。3版はD&DにTCGの要素を加えて近代化させたのに対し、4版はTCG +戦術ボードゲームにD&Dの要素を混ぜた異なるゲーム性の製品でした。ルール的には突然変異と言ってもいい。しかも、〈呪文荒廃〉の結果として、フォーゴトン・レルムの世界観も大きく変貌。伝統破壊のゲームとなって、これは俺たちの愛したD&Dじゃないという空気で、5版になったのが10年前、と。フォーゴトン・レルムの世界も、〈呪文荒廃〉の多少の名残りはあっても、おおよそは元どおりになって、しかも笑ったのがドリッズトやブルーノーといったアイスウインドのキャラたちが帰って来たこと』

ヒノキ「フォーゴトン・レルムの人気小説のキャラクターじゃな」

NOVA『元はAD&D時代からのキャラです。要は旧世紀の人たちで、長命のダークエルフであるドリッズトはともかく、ドワーフのブルーノーは3版から4版の間に死んだことになっていたんですね。しかし、旧5版のPHBでキャラ作成の例示に使われ、その後、「ソードコースト冒険者ガイド」に一度死んだけど復活した現役の英雄王だと書かれてあって、まあ、アメコミヒーローや映画で死んだスーパーマンが復活したようなリブート展開を見せたようなものですな』

ヒノキ「人気キャラは時代を越えて復活するのじゃろう」

 

近年のフォーゴトン・レルム

 

NOVA『ファンタジー世界で、エルフや時空を超える秘術を身につけた魔法使いがずっと現役というのは分かるんです。〈呪文荒廃〉の影響を逃がれるために別の世界に避難していたと言われても納得できる。しかし、ドラゴン倒して故郷のドワーフ王国を復興させて、後継者に国を任せて墓に埋葬された伝説のドワーフ王がどういう理由で復活したのか、少なくとも俺の手持ちの資料では分かりません。誰か、その辺の経緯を解説してくれていないかなあ、と検索してみたら、こんなアイスウインド関連年表を発見しました』

NOVA『これによると、ブルーノーは2011年から2012年に展開された未訳小説「ネヴァーウインター・サーガ」で、ドリッズトの冒険に付き合う過程で戦死。つまり、D&D4版の時期の小説で死んでいたのが、5版で復活を遂げたことになります。復活したことがワールドガイドに書かれているけど、その後の動向までは未チェックなので、今後もしも新5版でフォーゴトン・レルムのワールドガイドが出たら、続きが分かるかな、と』

ヒノキ「ところで、ブルーノーと言えば、お前さん、20年ほど前にこんな記事を書いていたのじゃな」

NOVA『このゲームって、デイル暦1281年って設定なんですが、アイスウインドの最初の小説はDR1351年なので、70年も過去の話なんですね。ドリッズトがまだ生まれる前で、ブルーノーがドワーフの王というのも公式ではおかしいことになる。神々が地上を歩いたのが1358年で、最初のバルダーズ・ゲートの話が1368年。3版の開始時は1371年で、〈呪文荒廃〉が1385年。5版の開始時は100年飛んで1485年という設定になっています。で、ブルーノーの死は1450年ごろみたいですが、この辺の話が資料を持っていない、と』

ヒノキ「しかし、5版では復活しておるのじゃろう?」

NOVA『俺の知ってたブルーノーはミスラル・ホールの王でしたが、その後、別のドワーフ廃都ゴーントルグリム復興の冒険に赴き、戦死したという記述と、死から甦って再建したゴーントルグリムの王になったという記述が入り混じっていて、一応、1489年時点では健在というのが公式見解。まあ、小説で死が描かれたけど、奇跡の復活を遂げたっぽいですな』

ヒノキ「去年の映画は何年設定じゃ?」

NOVA『正式なところは不明ですが、少なくとも1496年以降という推測が為されています。あと、最新ゲームのBG3では1492年と設定されていますな。その辺の詳細は、こちらを参照しました』

 

改めて、上級クラスの話

 

NOVA『で、ようやく本題の3版上級クラスの話です』

ヒノキ「3版の話のはずが、近年の話まで広げて、どうするかと思ったぞ」

NOVA『いやあ、フォーゴトン・レルムの手持ち資料をいろいろチェックし直しているうちに、改めて興味が広がってしまいました。本当に、去年はD&D映画で初のフォーゴトン・レルムを話題にした作品やら、BG3とかでTRPG以外のD&Dの国内盛り上がりが凄いことになっていたのですが、今年は版上げの影響で国内のD&DのTRPG展開が逆にストップしてしまい、去年の盛り上がりが個人的に宙ぶらりん状態なんですな。あれだけフォーゴトン・レルムを舞台に盛り上げておきながら、新5版はグレイホーク押しで、レルム関連商品はまだ予定が見えて来ないという。ちょっとチグハグ感さえ覚えている今です』

ヒノキ「そういうお前さんも、今さら3版の懐古話で、時流にチグハグではないか」

NOVA『いや、これは来年、コアルールが出そろった後を見据えて、時代の先取りって奴です。たぶん、コアルールが出た後にサプリでレルムの新ワールドガイドが出るんじゃないかなあ。それに向けて伏線を張っておく、と』

ヒノキ「で、3版レルムのワールドガイドには、上級クラスが13職と言っておったな」

NOVA『ええ。商品発売順だと、3版DMGが2000年で、レルムのワールドガイドが2001年。3.5版DMGが2003年ですから、アークメイジ、ハイエロファント、サーイのレッド・ウィザードは、レルム版が先に出たようですね。それ以外では、以下の10職が掲載されています』

  1. アーケイン・ディヴォティー(敬虔なる秘術使い)
  2. ギルド・シーフ(ギルド盗賊)
  3. シャドウ・アデプト(影織名人)
  4. ディヴァイン・シーカー(信仰の探索者)
  5. ディヴァイン・チャンピオン(信仰の戦士)
  6. ディヴァイン・ディサイプル(神の使徒
  7. ハーパー・スカウト(ハーパーの斥候)
  8. パープル・ドラゴン・ナイト(紫竜騎士
  9. ハスラン(ラシェメン国の魔女)
  10. ルーン・キャスター(ルーン文字の刻み手)

ヒノキ「何かやたらとディヴァイン何ちゃらが多くないか?」

NOVA『1番と4、5番は、神殿組織に所属している魔法使い、盗賊、戦士を表しています。神殿に所属しているのはクレリックだけではなくて、神々の権威の強いレルムでは、他の職業クラスの者も神に仕える道が用意されているわけです。また、6番のディヴァイン・ディサイプルは、クレリックドルイドパラディンといった信仰呪文使いがさらに信仰を深めて、神の代理人として天使(または悪魔)の声を直接テレパシー的に聞きとり、クラスを5レベルまで極めると自らが天使もしくは悪魔、神の分体のような化身に昇格ができます』

ヒノキ「信仰を極めると、神の化身になれるというのか。それはすごい」

NOVA『神霊のヒノキ姐さんがそんな発言をするとは驚きです』

ヒノキ「いや、わらわは元から精霊少女だし、土地の守護霊が人々の信仰などで昇格して神霊になったわけで、霊的素養は誕生した時からあった。しかし、ディヴァイン・ディサイプルは元々、人間もしくは亜種族であって、霊的な存在ではなかろう。それが小神ともいえる存在に昇格できるのがレルムなのか」

NOVA『そもそも、クラシックD&Dだってイモータルを究極の目標として目指すわけだし、ソード・ワールドだって人が超越者となって、小神に昇格することは世界観として許されている。もちろん、レルムでは神そのものにはなれませんが、神に最も近い使徒になることは可能だと』

ヒノキ「レルム以外のD&D世界は、人が天使や悪魔みたいになるケースは考えにくいのか?」

NOVA『ドラゴンランスでは、レイストリンが神の座に挑戦していましたが、失敗したんじゃないのかな。一方のレルムでは「シャドウデイル・サーガ」の主人公たちが最終的に新たな神さまになっていました。女魔法使いのミッドナイトが、新たに魔法の女神ミストラ(後継者の2代目)になっていたし、昔のバルダーズ・ゲートの主人公は邪神バール(べハル)の子として、スレイヤーという怪物に化身する能力を会得します。ゲーム中は殺戮の本能を抑えて、バール復活を阻止できましたが、4版の終盤のシナリオでついに殺戮の衝動に飲み込まれ、新世代の冒険者に退治されるという非業の死を遂げました』

ヒノキ「レルムでは、人と神の距離が近いんじゃな」

NOVA『人が神になったり、神殺しになったりする物語世界だから、神の化身の天使になれるルールがあっても許されるんじゃないかなあ』

ヒノキ「ともかく、フォーゴトン・レルムが信仰色の強い世界であることは、上級クラスの一覧を見るだけで分かった気がする」

NOVA『オーソドックスな伝統世界がグレイホークで、竜神信仰がメインなのがドラゴンランス。そしてレルムは、多彩な神々のバトルロイヤルめいた戦いが地上で行われて、さらに4版では「神の使徒」を名乗る者たちが世界中に出現して混乱を招く一方で、古代帝国ネザリルの空中都市が別次元から帰還し、デイル地方が戦乱状態になり、いろいろと荒れ放題な歴史だったらしいですが、リアル世界で5、6年経ったころに混乱状態にリセットが掛けられて、物語世界で100年が経過したんですな』

ヒノキ「4版のレルムは、冒険物語を盛り上げるために、次から次へと大事件を起こした、と」

NOVA『ドラゴンランスは世界規模の戦争を描いた物語ですが、レルムはそこまでの規模の戦争ではなくて、信仰教団の陰謀劇を中心に、各地方の小規模な地域紛争レベルで話を構築してきたわけです。この世界を遊んでいる多くのプレイヤーは、冒険をしたいのであって、侵略戦争に対して悪の帝国とやり合う過酷な物語を遊びたいわけではなかった。とにかく、ルールも世界観も派手な世界改変を企てたら既存のレルムをプレイしている人たちには受け入れられなくて、100年後という時間経過で昔のレルムを復興させたのが5版だった、と』

ヒノキ「しかし、今年のソード・ワールドが奈落の〈魔域帝国〉の侵略が始まって、D&D4版のネザリルみたいな感じになっておらんか?」

NOVA『初心者向きなのが、大陸西部のブルライト地方で、そちらは従来の冒険者活動を続けられますね。今のところ、〈魔域帝国〉の侵略は東部のウルシラ地方だけに収まっていますし、人族と蛮族が共闘して奈落の侵攻に立ち向かう物語を目指すなら、そちらでプレイすればいいのだと思うし、地域ごとに冒険スタイルを変えれるようにはなっているようです。まあ、大陸中を巻き込んだ10年前のドラゴンレイドよりは、おとなしめの展開だとは思いますが、今後どうなって行くかは未知数。それよりもD&Dの方です』

ヒノキ「旧5版の最後は、レルムの範囲を飛び越えて、多元世界への冒険ができるプレーンスケープを展開し始めていたようじゃが?」

NOVA『この辺の設定も、新5版が公式にどう扱うかを気にしつつ、レルム以外の世界観を広げるのかと思いきや、グレイホークに戻った感なので、版上げ後に仕切り直しで伝統重視に戻るのか、旧5版が到達した多元宇宙構想を続けるのかを気にしている次第』

ヒノキ「フォーゴトン・レルムをマルチメディアで展開し、TRPGはしばらくグレイホークで土台を固め、多元宇宙はベテランが好きに使うための材料だけ提供して、後は放置と見た」

NOVA『こちらとしては、ドラゴンランスのその後の展開だけでも続けてもらえれば、嬉しいんですけどね。ともあれ、上級クラス話をするつもりが、世界設定の話に広がりがちなので、一度、記事を仕切り直すことにします』

ヒノキ「お前さんも、話の土台を固めるところから考えた方が良さそうじゃのう」

(当記事 完)

*1:1972年にシミュレーションゲームの「チェインメール」でプレイされたのが起源。

*2:このうち、ブラックムーアはミスタラの歴史に統合されることになる。また、ミスタラはAD&D2版の公式設定世界の一つになったが、3版以降は公式設定では扱われなくなった。

*3:主人公が異種族の姫と恋に落ちて、自分を異世界に召喚した人類を裏切って滅ぼしてしまうエレコーゼとかは壮大な逆転劇で、悪堕ち勇者譚の始祖的傑作とも言える。