レンジャー懐古とヒーロー話
リモートNOVA『さて、今回からD&D職業話の一環として、レンジャーについてあれこれ考えることにします』
ヒノキ「レンジャーと言えば、特撮ファンにとっては何よりも戦隊ヒーローじゃな」
NOVA『それがD&D上陸時には、必ずしもレンジャー=戦隊という発想はなかったんですよ』
ヒノキ「むむむっ。元祖戦隊といえば、『秘密戦隊ゴレンジャー』というのが世の常識。レンジャーと聞けば、戦隊と考えるのが一般人ではないのか?」
NOVA『いや、そういう常識が生まれたのは平成に入ってからですね。ゴレンジャー以降の昭和戦隊は、ジャッカー、バトルフィーバー、デンジマン、サンバルカン、ゴーグルファイブと来て、チーム名称の統一性のなさがシリーズ序盤の特徴です。
『83年のダイナマンになって、ようやくデンジマン以降の◯◯マン路線がしばらく続き、そこからレンジャー復活は89年のターボレンジャーなので、平成初戦隊=レンジャーということですな。その後、92年のジュウレンジャーからアメリカ進出のパワーレンジャーに至って、戦隊は◯◯レンジャーで行こう、という本格的な流れができました。そもそも、チームだし、メンバーの中に女性もいるのに、男性単数名詞の◯◯マンを使うのも、ファンの間でツッコミがありましたからね。複数ならメンだろうとか、女性は◯◯ウーマンもしくは◯◯ガール、◯◯レディと呼ぶべきでは? とか』
ヒノキ「ウイングマンをサポートするウイングガールズとか、デビルマンの女性版がデビルマンレディとか、その辺の呼称の問題はいろいろあるのう」
NOVA『ウイングマンの連載は83年から85年だから、戦隊で言うならゴーグルファイブからダイナマン、バイオマンの時期。連載開始時の作者の旬は、少し前のサンバルカンからゴーグルファイブおよび宇宙刑事の時代です。ウイングマンに登場する戦隊パロディーヒーローと言えば、ヒーローアクション部のセイギマンになるわけですが、当時の常識といえば、メンバーそれぞれが色を苗字に持つ点。赤だけでも、デンジレッド(赤城)、ゴーグルレッド(赤間)ですが、次のダイナマンは弾北斗ですし、意外と戦隊で変身前に色を付けるルールは2作だけなんですね』
ヒノキ「戦隊パロディーといえば、色名を名前に含むことじゃと思うておったが、本家はたったの2作か」
NOVA『サンバルカンは、バルイーグルが大鷲→飛羽、バルシャークが鮫島、バルパンサーが豹という苗字で、しかも下の名前が役者名と同じ安易さですからね。川崎龍介→大鷲龍介、五代高之→飛羽高之、杉欣也→鮫島欣也、小林朝夫→豹朝夫と。おかげで役者の名前が覚えやすかったですが』
ヒノキ「変身前のキャラネームは、作品によって傾向がまちまちじゃが、シャレたネーミングを解き明かすのも楽しいのう」
NOVA『今のブンブンジャーは、範道大也(はんどうたいや=ハンドル+タイヤ)ですし、タイヤ人間と呼ばれて主人公名がそのまま大也ですから、非常に安易だけど、すぐに慣れましたね。俺のお気に入りネームは、志布戸未来(シフト+ミラー)ですけど、さらに追加戦士の焔先斗(ほむらさきと)がF1のフォーミュラ+サーキットだと読み解いたときは、このセンスの良さに感動しました』
ヒノキ「ブンブンジャーの話はさておき、いつの間にか戦隊も◯◯レンジャーではなくて、◯◯ジャーという形式が王道となったのう」
NOVA『最初は2002年のハリケンジャーと、ライバルチームのゴウライジャーからですね。まあ、それが例外で、すぐにアバレンジャー、デカレンジャー、マジレンジャーとレンジャー路線に戻りましたが、その次がボウケンジャーでケンジャーが復活した後、ゲキレンジャーを経て、ゴーオンジャーという新路線、シンケンジャーという新たな伝統のケンジャー3作め、そしてゴセイジャー以降はもう歯止めが効かなくなりました』
ヒノキ「もはや、ジャーが付けば許されるということじゃが、稀に思い出したかのようにキュウレンジャー、ルパンレンジャー、パトレンジャーと来る」
NOVA『今は、レンジャーというのがレアになりましたからね。ましてや、◯◯マンは絶滅危惧種です』
ヒノキ「最後のマンは、旧世紀のギンガマンじゃからのう。しかし、ウイングマンは妙にデンジマン推しじゃった」
NOVA『部屋の中には、坂本監督のスペーススクワッドとか、大獣神の分離守護獣とか、大鉄人ワンセブンとか、ルパンカイザーとか、年代がまちまちの玩具やポスターが貼ってあって、まあ、絵的には坂本監督のこだわりなんだろうなあ、と思ってますが、キャラのセリフはデンジマンと宇宙刑事と仮面ライダー推しで、健太の趣味の中心がどの時代のヒーローなのか、いまいち不明というツッコミが。リアルタイムで見てないはずの作品がいっぱいだろうし、値段が高騰しがちなレトロ玩具を高校生の財力でどこで買ったんだ、とか』
ヒノキ「親がヒーロー好きで、その資産を受け継いだわけでもなかろうしな。それはともかく、デンジマンは、元祖ゴーグル戦隊でセイギマンの元ネタじゃから必要じゃろう。宇宙刑事もよく分かる。仮面ライダーはまあ、主人公役者が本郷猛の息子じゃからな」
NOVA『仮面ライダーの息子が、電光ライダーキックと叫んで、公園の滑り台の上から飛び蹴りをするのは昭和ノリで受けましたね。しかし、子供の頃からの憧れ、という点で、健太の年齢から逆算すると、彼のヒーロー原体験は10年前ぐらいだろうから、2014年前後になるはずです。原作では74年前後が原体験なので、幼少時にはウルトラマンレオの人形を持ってましたが』
ヒノキ「2014年じゃと、キョウリュウジャーからトッキュウジャーの頃じゃのう」
NOVA『キョウリュウジャーも坂本監督関連だからプッシュしてもいいだろうに、健太のこだわりは2004年のデカレンジャーにあるようで。でも、あれって、現役高校生の部屋じゃなくて、見るからに特撮マニアのおっさんの部屋ですね』
ヒノキ「新兄さんの部屋ってことか?」
NOVA『俺は玩具趣味があまりないんですよ。まあ、久々にハマっていたのが2010年前で、健太に対抗して飾ってる玩具を見せると、こうなりますか』
ヒノキ「ホコリだらけじゃないか。少しは掃除せよ。大事な玩具が泣いておるぞ」
NOVA『本棚の上に飾ると、こうなりますな。少し反省した。まあ、シンケンジャーのミニプラにハマっていたわけですが、ところで、これって何の話ですかね』
ヒノキ「レンジャーの話のはずが、80年代戦隊およびウイングマンの話に思いきり大暴投しておるのう」
NOVA『いやあ、ウイングマンのドラマを見たばかりで、原作の80年代へのこだわりと、坂本監督の90年代からゼロ年代特撮のこだわりと、令和の今が入り混じって、特撮不思議時空が発生していますね』
ヒノキ「現役高校生の部屋ではなく、30代以上のおっさんの趣味部屋と化しておるわけじゃのう」
NOVA『意外と、マンガとか雑誌系がないんですね。まあ、撮影協力が東映とバンダイだから、小道具がポスターと映像ソフト、玩具になるのだろうけど。あと、ネット環境があまりなさそうな部屋ですな。やはり、80年代か。それにしても、大鉄人ワンセブンが原作にもないし、一番の謎チョイスです』
ヒノキ「やはり、坂本監督のこだわりじゃないか? 一応、レオパルドンと並んで、ダイデンジンの直系のご先祖じゃろう?」
NOVA『ダイデンジンも、ガンプラブームの始まる時期に300円の変形プラモデルを買ったなあ。何千円もする超合金を買う金がない小学生だったから、何百円で買えるプラモデルを楽しんでいたっけ』
改めてレンジャー話
NOVA『さて、俺にとってウイングマンは中学時代の思い出で、TRPGにハマったのは高校時代以降だから、少しタイミングがズレるわけですが、その時期にはレンジャーという言葉はあまり一般的でなかったことを確認しておきたかった、と』
ヒノキ「アメリカの野球界では、テキサス・レンジャーズというチームがあるそうじゃのう」
NOVA『テキサス・レンジャーって組織は、アメリカ初の公的州警察だそうですね。レンジャーという言葉は、アメリカ人にとっては広域地域を巡回する騎兵パトロール隊から来ているそうです。よって、レンジャーという言葉は西部劇のヒーローに糸付けされていて、ヨーロッパ出自の騎士とは違って、荒くれ者の荒野の開拓者ヒーローというイメージ。1930年代には「ローン・レンジャー」という名のフィクション・ヒーロー活劇もラジオドラマから誕生しています』
ヒノキ「どういう話じゃ?」
NOVA『50年代から60年代にかけて、映像化作品が日本にも輸入されて、初期の白黒テレビで人気ヒーローになっていたそうですが、70年代生まれの俺にはよく分かりません。割と、白黒時代のテレビ番組と、カラー化された番組の間では、再放送での断絶があるみたいですからね。70年代の番組は再放送の機会に恵まれるのに対して、60年代以前の作品は世代人じゃないと、あるいはリメイクされないと作品の存在そのものが語られないことも多い。90年代のインターネット誕生時にも、70年代の作品考察はよく見られましたが、60年代の作品は劇場映画を除くと復刻資料も少なく、60年代のTV草創期の空気を知る人って、50年代生まれだろうから、そういう人がインターネットを始めて懐古趣味的なサイトを作る時流でもなかった、と思います』
ヒノキ「それでも、10年ほど前にリメイク版映画が作られたのじゃな』
NOVA『テキサス・レンジャー部隊が無法者の一団に全滅させられたものの、ただ1人だけが原住民トントに助けられて生き残る。生き残った彼はマスクを付けてローン・レンジャーと名乗り、相棒のトントとともに西部の平和を守るために、無法者を狩るハンターとしての自警団活動を開始するという設定で、日本で放送された際は、アメリカ版の「鞍馬天狗」と宣伝されたそうです』
ヒノキ「つまり、レンジャーという言葉に、西部劇とアメリカ原住民のイメージが付いて来るのがアメリカ人、と」
NOVA『白人とインディアンのバディ物という設定も、当時のアメリカではウケたみたいですね。文化や信条の異なる男たちが、時に口論しつつも友情と信頼を結ぶようになる過程はドラマとしても感動的ですから』
ヒノキ「パワーレンジャーでも、人気キャラのトミーがインディアンの血筋を引いていて、最初は敵だったのが、主人公のジェイソンと強い絆で結ばれて、やがて第2シーズン半ばに降板したジェイソンの代わりに、チームのリーダー主人公になっていくのが当初の筋書きだったのう」
NOVA『そういうアメリカ西部劇のレンジャーイメージとは別に、イギリスの「指輪物語」では野伏とも流離人とも称される亡国の王族出自のレンジャーが、準主人公格のアラゴルンというキャラとして結実して、大人気となったわけですな』
ヒノキ「アメリカ人にとってのレンジャーは民間上がりの開拓者ヒーロー。イギリス人にとってのレンジャーは下野したものの気品あふれる王族ヒーローということか」
NOVA『ダークエルフのドリッズトも含めると、昔は名誉と栄光を備えていたけれど、失墜して孤独な身の上となり荒野で艱難辛苦の経験をしながらも、心の内の光を失わない、影あるキャラクターということになりますか』
ヒノキ「パラディンが神聖にして完全なる光を体現するのに対し、レンジャーは薄汚れた風体の中に黄金の精神を隠し持つと言ったところか」
NOVA『盗賊とはまた違った方向のダークヒーローっぽいノリですね。まあ、アラゴルンの場合は、レンジャーでありながら最終決戦でゴンドールの騎士に昇格して、王の地位を獲得しましたが、あれは特別ケースで、基本的にレンジャーは粗野な田舎者で、文明とは少し距離を置く立ち位置だと考えます』
ヒノキ「お主にとってのレンジャー初体験は?」
NOVA『ゴレンジャーを除けば、レンジャーという言葉を意識したのは、「仮面ライダースーパー1」ですね。主演の人が元自衛隊のレンジャー部隊で訓練してきた実績持ちなので、レンジャーという言葉と仮面ライダースーパー1の変身前アクションのイメージが強く結びついていました』
ヒノキ「スーパー1と言えば、宇宙開発と空手じゃろう?」
NOVA『序盤の空手修行のシーンで、山の中を駆け回るとか、自然の中のアクションシーンが、前作の合成の多いハンググライダー飛翔と違って、生々しくていいなあと思いましたね。スカイライダーは後年、必殺シリーズの政になった村上弘明さんのインタビューで、当時はまだ本格的にアクションの訓練をしていなかったそうなんですよ。
『長身で端正な顔つき、ビジュアルだけで主役に採用されたのが、やはりアクションの訓練はしていなかったために素人が必死に頑張って鍛えられて強くなる過程がスカイライダー。その後、必殺では前任の秀の後継者的なキャラでいながら、秀ほどの運動能力は持ち合わせていなくて、自分の持ち味はどうかと考えていたら、「恵まれた体格なんだから、もっと力強さを強調した無骨な鍛冶屋で行けばいい」と工藤栄一監督に勧められて、筋肉を鍛えながら精悍なパワータイプへの転身を意識したとか。その後、時代劇的な所作も身につけ、90年代には演技力と貫禄も身につけた時代劇スターに成熟していく流れ、と』
ヒノキ「村上氏の必殺話はともかく、レンジャーと言えば、新兄さん的にはスーパー1と」
NOVA『というか、軍隊の中でもアクティブな秘密部隊のイメージですね。それこそ正規軍と異なる少数精鋭の隠密忍者部隊なイメージ。ゴレンジャーも秘密戦隊ですから、戦闘能力よりも隠密斥候的な体術を求められるスペシャリストなのがレンジャーだと思ってました』
NOVA『ゲームブック「パックス砦の囚人」の主人公がレンジャーだったんだけど、冒険の舞台が屋内の砦メインのために、あまりレンジャーらしい活躍をした印象がないんですね。ただ、当時の富士見文庫に挿入された小冊子(ドラゴン通信)の一つに、AD&Dの職業紹介記事が載ってあって、初めて知りました。「レンジャー=野外活動に長けた戦士」という説明で、クラシックD&Dにない上級職として憧れの存在だった』
ヒノキ「初レンジャーはAD&Dゲームブックじゃった、と」
NOVA『ただ、誤解している人は多いけど、ドラゴンランス初期の主役のハーフエルフのタニスはレンジャーではなくて、ファイターなんですよね。レンジャーなのはNPCのリヴァーウインドで、現にタニスに足跡追跡などの能力はない。でも、当時はクラシックD&Dの影響で、戦士(ファイター)は金属鎧を付けるのが当たり前だったので、革鎧のタニスがファイターとしては非常識な装備選択をしている=機敏さ重視、飛び道具が得意なレンジャーだろう、と思われてはいたんでしょうけど』
ヒノキ「重い金属鎧が冒険に際しては不利になるという認識はなかった?」
NOVA『どれだけ不利になるかのルールがクラシックD&Dにはなかったので、それらが明記してあるAD&Dのルールを知るまでは、よく分かってなかったのが実際。そもそも、クラシックD&Dには当初、技能ルールがなかったので、盗賊以外のキャラは登攀もできず、野外における特別な行動はDMがアドリブで能力値判定を行うしかなかったし、その場合でも鎧によるペナルティはどれぐらいの数字が妥当かというのも、基準がない。ルールがないから、DMによって裁定方針が異なってくるし、雑誌リプレイなどでの判定方法が一つのバイブルになり得た時代だった』
ヒノキ「D&Dのリプレイじゃとロードスとかか?」
NOVA『オフィシャルD&Dマガジンにおけるリプレイとか、AD&Dより部分的に導入した公式ハウスルールなんかが参考になりましたね。あと、ゲームブックのFFRPGも初心者には参考になりました』
ヒノキ「AFFではなく、最初のFFか? スティーブ・ジャクソンの……」
NOVA『あれは、凄く大雑把なルールで、何でもかんでも「サイコロ2個振って技術点以下を出せばいい」ということですが、いちいちゲーム中にできる一つ一つの行動にページ数を割り振ってるんですよ。登攀? 技術点以下を出せ。水泳? 技術点以下を出せ。交渉? 技術点以下を出せ。鍵開け? 技術点以下を出せ。能動的な行動は技術点以下を出せばよくて、落とし穴をとっさに回避するなどの場合だけ、運だめしという別ルールがあるけど、とにかく、ほぼ全ての判定を技術点以下で成功というもの。一応、行動ごとのペナルティーの例なんかもあるけど、あのルールブックで価値があるのは、ルールじゃなくて、遊び方の例と、シナリオのみと言っていい』
ヒノキ「全てが技術点判定だと、キャラの職業による違いなどが反映されんのう」
NOVA『だから、これもハウスルールなんですが、戦闘用の技術点と、盗賊用技術点と、知識・魔法用の技術点とか能力値を増やすことで、じっさいに遊べるようにした記憶があります。そういうハウスルールを、ウォーロック誌に投稿した記憶もありますが、そういうファンはたぶん俺一人じゃなくて、当時いっぱいいたでしょうね』
ヒノキ「シンプルなゲームだからこそ、ちょっとした改造もしやすかったんじゃろうな」
NOVA『とにかく、初心者用のTRPGは、シンプルなルールと、GMとプレイヤーの会話のやりとりという遊び方の概念、そして魔法やアイテムのデータと、例示シナリオだけで構成されていました。その後、ワールドガイドとか、シナリオ集とか、追加データとかが後から出たり出なかったり』
ヒノキ「出なかったりとは?」
NOVA『たとえば、最初の「ナイトメアハンター」(88年)はホラーRPGとして良いゲームなんですが、サプリメントは出なかったですね。俺はクトゥルフよりも、そっちの方がホラーは遊びやすいと思ってました。まあ、後に出た「ナイトメアハンター・ディープ」(2007)は複雑化して全く別のゲームになりましたけど』
NOVA『ナイトメアハンターは現代異能ファンタジーRPGとして、おそらく日本での始祖に当たるゲームじゃないかなあ、と思ってます。ホラーと言えば、クトゥルフが代表になってますけど、クトゥルフで吸血鬼ドラキュラものは当時できなかったと思います(後にそういう伝統的なゴシックホラーなんかもできるサプリも出たけど)』
ヒノキ「で、レンジャーの話のはずが、違う方向にそれてないか?」
NOVA『おっと。とりあえずD&Dが邦訳登場した85年と、3年が経過した88年では、RPG界の常識がどんどん刷新されましたね。たぶん、85年にRPGと言われても知る人ぞ知るって感じでしたが、ドラクエブームの影響もあって、88年にはゲームをたしなむ人間でRPGという単語を知らない者は日本にいなくなったと思われ』
ヒノキ「その3年で、一気にブレイクしたからのう」
NOVA『で、俺が初めて、きちんとしたルールでレンジャーっていいなあ、と感じたゲームが「指輪物語RPG」なんです』
指輪物語RPGのレンジャー
NOVA『さて、俺が初めて本格的にレンジャーを見たRPGは、87年に登場した指輪物語、通称MERP(ミドルアースRPG)ですが、これには6つの職業がありまして、戦士、忍び、魔術師、まじない師、野伏(レンジャー)、吟遊詩人です』
ヒノキ「まあ、指輪だからレンジャーがあって、然るべきじゃのう」
NOVA『で、この野伏が結構、万能職に近くて、戦士並みの戦闘力と、忍びにはやや劣るものの隠密探索力と、まじない師と同じ神霊界の呪文が使えます』
ヒノキ「神霊界とは、いわゆるプリースト魔法かの」
NOVA『ええ。魔術師と吟遊詩人は、いわゆる魔法使い系の精気界。まじない師と野伏が神霊界の呪文を使えます。ただし、完全に同じではなくて、精気界の共通呪文の他に、魔術師専用呪文は攻撃魔法が充実していて、吟遊詩人の専用呪文は音楽による精神操作が主流です。治癒魔法のエキスパートはまじない師で、野伏はそこまで治療に特化しているわけではありませんが、多少の治療術と野外活動をサポートする呪文ですね』
ヒノキ「つまり、指輪物語のレンジャーは、戦いも、隠密行動も、治癒呪文も使える万能職ということじゃな」
NOVA『できないのは攻撃魔法ぐらいですね。それと、戦士と比べて重武装は困難です。このゲーム、重装備のペナルティーが大きく、判定はD100で行うのですが、革鎧でマイナス20から30、鎖かたびらでマイナス50、プレートメールでマイナス80近い運動ペナルティーを受けてしまうのです』
ヒノキ「それほどペナルティーが大きいと、身動きがとれんではないか?」
NOVA『よって、防具を使いこなす技能があるんですね。防具技能があれば、運動ペナルティを減らすことができますので、防具技能を上げやすい戦士は重武装しやすい反面、それほど防具技能を上げにくい野伏は、やはり革鎧、ハードレザーに留めておくのが無難ということになります。また呪文の扱いにも防具のペナルティーがあって、精気界は布のみOK、神霊界も革鎧が限界となります。まあ、野伏は呪文を諦めるなら、多少の重武装も補えますので、局面に応じて戦士に匹敵する装備に身を固めることも可能』
ヒノキ「D&Dみたいに、クラスで認められていない装備は絶対に身に付けられないのではなく、不利を覚悟の上で装備することは可能、と」
NOVA『クラシックD&Dでは、魔法使いと盗賊を除けば、全員重武装が可能なのに対し、こちらは逆に戦士のみが普通に重装備可能。レンジャーは防具技能にレベルアップ時の習熟ポイントを注ぎ込むか、他の技能や呪文にポイントを回すかで、プレイヤーの好みに応じた育成カスタマイズが可能、と。もちろん、転職や兼職による育成の選択肢が非常に豊かな現在のRPGほどではありませんが、87年当時のRPGシステムの中では非常に柔軟な成長システムだったと思います』
ヒノキ「レンジャーと吟遊詩人がいわゆる魔法戦士的な万能キャラということか」
NOVA『このゲームにはライバル格のパラディンがいないので*1、レンジャーが実質的に治癒魔法を使える戦士として、機能するってことですね』
ヒノキ「AD&Dでは、重装甲の僧侶戦士がパラディンで、軽装甲のドルイド戦士がレンジャーという認識でいいかの?」
NOVA『大雑把には、それが近いですね。そもそも指輪物語の世界には、信仰教団というものがあまり見られなくて、神は自然に偏在する精霊みたいな存在。その意味で、キリスト教以前の原始宗教(アニミズム)なんですな』
ヒノキ「それと指輪の世界では、魔法使いというのがごくごく限られた存在だと」
NOVA『MERPでは、プレイヤーキャラの魔法使いが多くのファンタジーRPG同様に設定されていましたが、原作では魔法使い=イスタリという下級神的な種族と、上のエルフだけが血筋として魔法を使えるけど、見習い魔法使いが師匠の下で修行しながら魔法を身に付けていく多くのファンタジーRPG的な徒弟制度ではありません。よって、今の指輪RPG(一つの指輪、ワンリング)では、魔法使いが職業として存在せず、魔法らしき力は文化圏特技、もしくはアイテムに基づくものという地味なゲームとなってますね』
ヒノキ「地味なのか?」
NOVA『元々の指輪の原作が、派手な呪文の応酬って感じの世界観じゃないですからね。でも、エルフの持つ特技はいろいろ魔法的なフレーバーが付いて来ますし*2、北方の野伏の持つ特技は……旅の途中の判定を成功しやすくする《荒野の知恵》とか、旅の間に疲労しない《野伏の持久力》とか、恐怖に抵抗しやすくする《意志の力》とか、本当に地味です』
ヒノキ「野伏は派手なキャラじゃない、と」
NOVA『渋い特技ですな。まあ、その中で派手なのを選ぶと、《隠された王家の血》というのが戦闘中に仲間を鼓舞して、高揚状態にできます』
ヒノキ「ああ。『みんながんばれ』とか『ガンガン行こうぜ』とチームを支援できるのじゃな」
NOVA『自分が派手に目立つのではなく、チームを盛り立てる役どころ。まあ、リーダーらしいと言えば、らしいけど。あと、《アルノールの後継者》というマジックアイテムを取得する特技がありますね。ロアマスター(このゲームのGM)と相談しながら、オリジナルの自分専用マジックアイテムを作成することができます。このゲームの面白さは、自分ではなく、マジックアイテムに成長点を注ぎ込んで強化することではないか、と思ってますね。
『いずれにせよ、野伏は自分よりも仲間をサポートするとか、旅の案内人とか、隠れたリーダーシップを求められるとか、いろいろ渋いです。ちょっと、他のゲーム(主にD&D)とは、ゲームの構造とか、キャラクターの属性とか異なる感じなので、改めて研究の必要を感じていますが、それは今じゃない、と』
ヒノキ「昔の指輪RPGと、今の指輪RPGは全然違うゲームじゃ、と」
NOVA『昔は、レンジャーって万能職じゃん。凄いなあって少年心的にワクワクしてました。でも今のルールでは、うわっ、レンジャーって思ったよりも地味。ちっとも格好良くない……って(もう少しじっくり吟味しながら、検討を重ねて)うん? へえ、結構渋めの特技を持っているんだな。パーティーの中では、縁の下の力持ち的な役どころか。主役というよりはサポーターで、後は作成するマジックアイテム次第だな。逆に言えば、マジックアイテム作成ルールを上手く活用できる熟練プレイヤーなら堪能できそう。噛めば噛むほど味が出る系の職業かあ、という認識です』
ヒノキ「それにしても、ここまでレンジャーという職の話を聞いて思うことがある」
NOVA『何ですか?』
ヒノキ「何でもできる万能職にして、渋いイメージのあるダークヒーローじみた路線。初心者向きのクラスではなさそうじゃのう」
NOVA『ウィザードリィのサムライが、元々はレンジャーだったというトピックもあって、最強の破壊力を持った攻撃達者というイメージもありますが(武器の二刀流という爆発力を標準に備えているのもレンジャーの特徴)、とにかく作品によって、レンジャーの能力はまちまちな感じがしますね。強かったり、弱かったり、D&Dでも版上げごとに調整がされていて、今回はレンジャーが強くなったとか、前はレンジャーが使いにくくてとか、パラディンに比べて評価が安定しないな、と』
レンジャーの派生職・ハンター
NOVA『さて、レンジャーは荒野のヒーローとか、指輪のアラゴルンといった強い英雄のイメージが付きまとう反面(戦隊ヒーローのイメージはさておき)、ゲームバランスの問題で器用貧乏な傾向も多く見られます』
ヒノキ「いろいろ便利に使えるけど、専門家には到底及ばないということか」
NOVA『戦士の武器戦闘と、盗賊の隠密探索と、術師の能力を合わせ持つということは、多芸なんだけど、どの能力を育成するかで方針に困る。必然的に、パーティーの他のキャラの成長を見ながら、足りないところを補う便利屋の役回りですな。割と似たような役回りで、吟遊詩人がいるわけですが、吟遊詩人にはあまり戦闘能力が求められない。後ろから支援してくれればいいよ、それより交渉とか情報収集を任せた、と言ってもらえる』
ヒノキ「まあ、吟遊詩人に戦え、とはあまり言われんな」
NOVA『一方で、レンジャーは予備のファイターであることを求められるけど、防御力が低いので、立ち回りに苦労する。前衛で戦えるキャラが自分以外に2人いれば、後方支援役ができるけど、前衛1人なら、前に出ることを求められて、すると防具が薄いから、苦労させられる』
ヒノキ「相棒の前衛戦士に、仲間をかばう能力が付いていれば、多少はマシか」
NOVA『その場合は、攻撃力を求められるわけですが、レンジャーって爆発的な攻撃力は期待できないので、だったらバーバリアンとか、野外の斥候能力を鍛えた盗賊キャラ(奇襲で大ダメージを与えることができる)にポジションを奪われて、派手な活躍はできそうにない』
ヒノキ「いろいろと中途半端なんじゃな」
NOVA『だから、AD&D2版以降のレンジャーは紆余曲折を経て、魅力を確保しようと必死なんですよ。理想の英雄は明確にいるのに、彼らの能力はヒーロー志向で明確に盛られているわけで、実際のゲームの中でのレンジャーは多芸ぶりが災いして、育成方針を見誤ると、仲間のお荷物になりかねない。つまり、レンジャーのプレイヤーにとって重要なのは、仲間にとって必要な能力は何かを見極める観察力だと思いますな』
ヒノキ「自分が派手に目立ちたいと考えるプレイヤーには、レンジャーは不向きじゃし、独り善がりで周りが見えていないのもレンジャー向きじゃない」
NOVA『寡黙で、地味な役割をコツコツ渋く務めてながら、ここぞというところの見せ場をしっかり見逃さない、通なプレイセンスを求められます。もちろん、作品によって多彩な能力の違いはありますが、総じて器用貧乏なのがレンジャー、と』
ヒノキ「しかし、レンジャーは英雄志向なのに対し、似たような能力でアウトドアの達人がハンターじゃ、と」
NOVA『ハンターは、レンジャーに比べて、狩りの専門家というイメージが強く、一芸特化って感じですな。とりあえず、弓矢を撃っていれば仕事をしている気分になれる』
ヒノキ「いや、『モンスターハンター』以降は、接近戦スタイルのハンターも多くなっているじゃろう」
NOVA『まあ、どの武器をメインウエポンにするかはキャラ次第ですが、レンジャーほどの万能性は求められていないうえ、レンジャーという単語が内包する正義やヒーロー性から解放されているので、一般人的な狩人も、特定の獣や怪物に特化した専門家もできる。ソード・ワールドでは、冒険者ではない一般技能ですけど』
ヒノキ「レンジャーの実装されていないゲームでは、ハンターが似たような能力の職業として実装されていることが多いのう」
NOVA『あるいは、ナイトメアハンター(悪夢狩人)みたいに作品タイトルになっていることも多いです。この場合は、プレイヤーキャラ全員が◯◯ハンターを名乗り、ハンターギルドに所属していたりもしますが、伝統的なファンタジーRPGだと、田舎の村の猟師とかで都会人とは異なる立ち位置ですね』
ヒノキ「親が猟師だから、罠の仕掛け方や獣の習性などに詳しいというキャラもファンタジーRPGあるあるじゃのう」
NOVA『レンジャーは荒野をさすらう人たちなので、定住しているイメージはあまりないですし、森林遊撃隊みたいな軍や法的機関に所属していなければ、無法者と見なされることもありますが、一方のハンターは村に定住して、集落の一員として重宝されている感じもあります』
ヒノキ「まあ、狩りと採集は、農耕や牧畜以前から人々の営みじゃったからのう。都市の郊外の農村では、狩猟民は少数派じゃろうが、森や山の近くでは獣対策のためにも狩人は必須の役割とされよう」
NOVA『レンジャーとハンターの違いは、前者が英雄的かつ村落の一員ではなくて他所者扱い。ハンターは一般人的で、すなわち村の若者だったり、熟練の老狩人だったりして、役割を持った職人と見なされてもいる……ってところですな』
ヒノキ「で、ここまでレンジャーの話を続けて来たが、肝心のD&Dには届いておらんのう」
NOVA『いや、ですから、俺はAD&Dゲームブックで初めてファンタジーRPGにおけるレンジャーという単語を知ったわけですが(1986年)、実際に日本語でAD&Dが出たのが1991年ですからね。その間の5年で、先にMERPの野伏や、ストームブリンガーおよびルーンクエストの狩人を知って、それから89年のソード・ワールドでレンジャー技能を見た後に、ようやくAD&Dのレンジャーを知った経緯があります。それだけ、D&Dのレンジャーへの道のりは遠かったというわけですよ』
ヒノキ「パラディンやドルイドは、先にクラシックD&Dのコンパニオンルールで知ったものの、レンジャーはクラシックD&Dにはなかったからのう」
NOVA『パラディンも、ドルイドも、AD&Dのルールの方ができることが多くて、クラシックD&Dがいかに物足りないルールだったか、後から感じましたからね』
ヒノキ「しかし、TRPGへの入り口としては申し分ないルールじゃったろう」
NOVA『だから、当時はクラシックD&Dを楽しみつつ、アドバンストD&Dへの期待も募っていたんですけどね。ともあれ、レンジャーもバードも、先にMERPで知って、ソード・ワールドを経て、ようやくAD&Dです。次回は、ソード・ワールドとAD&Dのレンジャー話から、新世紀のD&D3版の話を展開していくつもり』
(当記事 完)