家出娘の来訪
晶華「ふえーん、リナ老師〜。NOVAちゃんったら酷いんだよ〜(涙目)」
ヒノキ「何じゃ、アッキー。やぶからぼうに飛び込んで来て、何を言い出すやら」
晶華「だって、せっかく出たロードスの新刊を買ってくれないんだよ〜。私がこんなに読みたがっているのに〜」
ヒノキ「それは買わないのではなく、買えないのではないかの? ほれ、この記事を見てみるがいい」
晶華「うん、NOVAちゃんも2時間掛けて、地元の本屋を5軒ハシゴしたけど、全部売り切れてたんだって。来週はデンライナーに乗って、遠くの地までクエストに出かけるって言ってた」
ヒノキ「デンライナーじゃと? いつの時代まで買い物に向かうつもりなのじゃ、新兄さんは?」
晶華「大体、デンライナーが使えるんだったら、今すぐ使えばいいのに、どうして来週まで待たないといけないのよ」
ヒノキ「そりゃ、リアルな仕事が忙しい時期だからじゃろう。それにしても、ロードスが発売日即重版決定とは、嬉しい驚きじゃのう」
晶華「どうしてよ?」
ヒノキ「何せ、12年ぶりの新刊じゃからのう。出版社側も、これほど売れるとは予想していなかったに違いない。だから、それほど売れなくても損をしないように、少なめに刷ってみたら、予想外の売れ行きを示したので、こりゃ行けるということになって、版を重ねることを決めたのじゃろう。これが現在、アニメ化されている継続中の人気作品なら、ある程度の売れ行きは予想できようが、かつての人気作が令和の世でどれほど売れるかは、蓋を開けてみなければ分からなかったのではなかろうか」
ゲンブ「あるいは、わざと少なめに刷って、売り切れ店続出までニュースにして、ロードス人気を印象づけようとする出版社側の戦略かもしれないでござる」
ヒノキ「いやいや、無名の作品ならともかく、わざわざ『伝説のファンタジー小説』と銘打っている作品を、そんな姑息な売り方をして何とする? 宣伝効果はすでに十分。しかし、出版社の予想を超えた売れ行きを示した、と素直に解釈しようではないか。その方が、ファンとして幸せになれるというものじゃ」
晶華「おかげで、読みたくてもすぐに読めない私みたいなファンからしてみれば、不幸だよ(涙目)」
ヒノキ「いや、これが12年目の新作と銘打っておきながら、ちっとも売れずに続編を出してもらえない方が、よほど不幸じゃろう。少なくとも、これでロードスは今なお力を持ったコンテンツであることが証明されたわけじゃよ。まずは、そのことを祝おうではないか」
晶華「リナ老師は前向きだね」
ヒノキ「満たされないからこそ、募る想いもあるのじゃよ。そうして愛を高めていき、ようやくにして手に入れた時の喜びは至高のものとなる。欲しいものが即、手に入るという状況は一見幸せのように見えて、呆気なく消え失せてしまう泡沫(うたかた)のようなもの。真実の愛は、満たされぬ時にそのものを想い、歌を詠み、芸術に昇華させてこそ伝説へと結実する。アッキーも、この期にロードス愛を高らかに表明してはどうじゃろうか?」
晶華「私のロードス愛は、NOVAちゃん譲りなのよね。だから、ロードスが手に入らないと知った時のNOVAちゃんと、この哀しみと無念さと憤りを共有できるかと思ったら、あっさり『次の機会に買えばいいか』と気持ちを切り替えたりして、そんなに淡白なものなのかしらって残念に思えて……」
ヒノキ「いやいや。あっさり気持ちを切り替えてはいないと思うぞ。本当のところは未練たらたらで、でも手に入らないものは仕方ないと割り切って、冷静に大人らしく振る舞おうとしながら、それでも自分のロードス愛を何らかの形で表明して残したいと考えているのが、新兄さんではないかの?」
晶華「リナ老師に、どうしてそんなことが分かるのよ?」
ヒノキ「まあ、これも年の功という奴かの。長年のファンともなれば、ちょっとした悟りを得て、自分なりにコンテンツを楽しむ術を心得ているものなのじゃよ。手に入らないならないで、その穴を何で埋めるかを模索しながら、為すべきこと為そうとする。ただ愚痴って、文句を言うことだけが、愛情表現ではないと言うことじゃな」
晶華「だったら、リナ老師は私にどうしろって言うのよ?」
ヒノキ「ふむ。今は夏休み。夏休みといえば、子供は宿題をするというのが常識じゃな。お主は確か、まだ宿題を残しておったはずじゃろ?」
晶華「ふぇっ!? いきなり何?」
ヒノキ「今年の2月に、わらわたちはロードスRPGの話をしていて、ゲンブが騎士と戦士の解説をしておった」
ゲンブ「そうとも。これが最終講義であった」
ヒノキ「それから半年。そろそろアッキー担当の魔術師&精霊使い編を語る時ではないかの?」
晶華「ええ? それって、NOVAちゃんが直々に研究発表するって、5月に言っていたような気がする」
ヒノキ「しかし、新兄さんは今、忙しいのじゃろう? そもそも、これは元々、お主の宿題なのじゃ。親が子供の宿題を代わりにするというのは、教育上、いかがなものかと思うがの。放任して見捨てるのもどうかと思うが、甘やかし過ぎるのも問題。自分のけじめは自分でしっかり付けることも覚えさせないとな」
晶華「そんなこと、急に言われても、研究発表の準備なんてできていないよ〜(涙目)」
ヒノキ「そなたのロードス愛はそんなものか。マニアたるもの、いついかなる時でも自分の好きな作品について、熱く語れなければならぬ。敵はいつ攻めてくるか分からぬぞ。油断大敵じゃ」
晶華「誰と戦うのよ」
ヒノキ「ならば、講義形式ではなく、問答形式でわらわが相手じゃ。わらわの質問に、そなたは答えればいい。作麼生(そもさん)!」
晶華「え、ええと……説破(せっぱ)?」
ヒノキ「汝に問う。ロードスと、ソード・ワールド旧版と、ゴブリンスレイヤーRPGの魔法システムの違いを答えよ!」
晶華「ええ? ロードスの話だけじゃないの?」
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