ゲンブ先生の最終授業
ゲンブ「そろそろ我の騎士&戦士の話も終わらせたいと思う」
晶華「終われるの? 騎士の話ばかりして、戦士の話はほとんどしていないじゃない」
ゲンブ「う、まあ、それは何とかしたいでござる。最悪でも、今回と次回には」
晶華「だけど、小見出しには最終授業ってあるよね」
ゲンブ「終わらなければ、補講を追加するでござるよ」
晶華「ところで、リナ老師、いいえ、今はゲンブ先生の生徒の一人だから、老師じゃなくて、ヒノキさんと呼ぶ方がいいわね。ヒノキさんは何をしてるの? 今日はおとなしいじゃない」
ヒノキ「うう、シンカリオンの続きが気になるのじゃ。スザク姐さんがどうなったのか、このまま石化して退場するのか。それとも、セイリュウの家族として生き延びるのか、それによって、わらわの今後の運命が決まるやも知れぬ」
ゲンブ「大丈夫でござる。エージェント・ゲンブは石化したが、我は変わらず健在でござろう。シンカリオン世界と、このアルフレイムは緩やかにリンクしているかもしれぬが、全てが同じわけではない。リンクしているなら、セイリュウがとっくにショタ化して、味方になっていなければならぬはず」
晶華「シンカリオンと言えば、やはり出水指令長よね……って、こんな話に寄り道していれば、ロードスの話ができないじゃない。本当に終わらせる気はあるの?」
ゲンブ「努力するでござる」
自由騎士と守り手など
ゲンブ「では、上級職の話だが、新版ルールの騎士は、騎士長、守り手、魔法戦士の3つになれる」
晶華「旧版でなれた自由騎士、聖騎士、竜騎士、暗黒騎士が消えたのよね。そして、守り手は旧版になかった新職業。初代主人公のパーンさんはかつて自由騎士だったんだけど、新版では守り手に転職。これはどうしてなの?」
ゲンブ「我はデザイナーではないから、その質問には答えられないでござる」
晶華「うん、分かった。じゃあ、NOVAちゃんに電話して聞いてみる。確かデザイナーさんとは顔見知りで、マジック・ザ・ギャザリングで惨敗した相手だと聞いたから。もしもし、NOVAちゃん? かくかくしかじかなんだけど……」
NOVA『おお、晶華か。何だと? デザイナーの川人さんに質問しろだと? あのな、20年以上も付き合いのない相手だぜ。こっちが覚えていても、向こうは忘れているさ、たぶん。大体、俺のブログの記事書きに本家を巻き込んで迷惑をかけるつもりはない。せいぜい昔話をするぐらいで、俺は満足なんだ。陰ながら、しっかり応援するのが俺の美学だし、一ファンとしての節度を破る気もない。だが、お前の質問に対してなら、俺の推測混じりの見解として答えてやる』
晶華「ああ、なるほど。そういうことね。分かった。じゃあ、またね」
ゲンブ「何と言っていたでござるか?」
晶華「うん、理由その1。自由騎士というのはパーン個人に与えられた名誉称号であって、レベル6になったからと言って、みんながみんな気軽に自由騎士になれるものではない、というデザインポリシーゆえ」
ゲンブ「ああ、アリナ様の楯とか、花粉症ガール2号といった個人を意味する称号でござるな。確かに、自由騎士だらけになってしまう風潮はロードスらしくないかもしれん」
晶華「理由その2。英雄戦争の段階では、自由騎士なる称号はロードスになかった。だから、時代背景の問題で、今後、邪神戦争サプリメントが作られた際に、追加職業あるいは超上級職として自由騎士が実装される可能性もあるのではないか。俺がデザイナーならそうする……というのがNOVAちゃんの意見よ」
ヒノキ「大体、自由騎士というのは、国家権力に縛られない騎士なのじゃが、パーンの場合は単に縛られないだけでなく、どの国家にも相応の影響力を持っている英雄というのが大きい。フレイム国王やヴァリス国王と付き合いが長いし、カノンのレジスタンス活動を支援してレオナー王子に貸しがあるし、ライデンの盗賊ギルドの長や、モスのハイランド国王妃とも縁ある仲。さらにマーモ公王となるスパークからも尊敬を受けていて、要するにロードス全ての国家に意見することのできるのが彼なのじゃ」
晶華「アラニアは?」
ヒノキ「パーンの影響力が一番少ない国かもしれんのう。北部の村々の自治活動の象徴だし、格式あるアラニア貴族の中にはパーンを煙たく思う者も多いじゃろう。その中で、アラニア貴族の血を引くセシルがどれだけ国家運営の発言力を持つかが鍵となろうが、公然とパーンを攻撃できる者はいないであろう。何しろ、怒らせたら風や炎の精霊王をけしかけることのできるハイエルフの魔女が従っているし、パーンを敵に回すと、他のロードス諸国との外交にも傷が付く。パーン自身は野心を見せず、ロードスの平和を見守りながら隠遁生活を続ける姿勢なので、せいぜい触らぬ神に祟りなし、を決め込むのがアラニアの方針と思われる。
「なお、カシュー王はパーンがアラニア王となることを望んだらしいが、パーンはカシューを見ていて、国家に縛られて自由に動けない立場を望まなかった。さらに、パーンがアラニア王になろうとすれば、アラニアの内乱は終わらないだろうし、フレイムやカノンがパーンの加勢と称して、アラニアに侵攻する口実を与えてしまうことになり兼ねない。だからパーンは王の座を固辞し、その代わりにカシューはパーンに『ロードスの騎士』の名誉称号を与えて、ロードス全ての守護者、素朴な良心の象徴として扱うことにしたという」
ゲンブ「つまり、パーンの持つ自由騎士という立場は、単なる上級職としても重い称号でござるな。だから新版ルールでは、パーンを象徴するアニメでのセリフ『ロードスの平和は俺が守る』を採用した。騎士として国家に尽くす出世コースに乗って、軍隊を率いる特技を習得できるのが騎士長。軽装備ながら回避力を上げられ、魔法の使える魔法戦士。そして仲間をかばって戦えるのが守り手と、それぞれの戦闘スタイルに応じた上級職が用意された、と」
ヒノキ「ところで、ゲンブよ。前回、お主は魔法戦士になれば、ファイヤーボールを撃てたり、空が飛べるようになると言っておったが、それは間違いじゃ」
ゲンブ「間違いですと?」
ヒノキ「ルールブックの218ページをよく読むといい。魔法戦士は呪文ランク3までの呪文しか使えん。しかし、ファイヤーボールはランク4、フライトはランク5なのじゃ。魔法戦士に使えるのはせいぜい、ランク3のライトニングボルトと、ランク2のレビテーションで似たような効果を発動できるぐらい。やはり専門家でなければ、この程度といったところか」
ゲンブ「うおー、このようなミスをしてしまうとは、一生の不覚。やはり、我に教師役は荷が重かったでござる(土下座)」
ヒノキ「お主一人のせいじゃない。その時にミスを指摘できなかったわらわも、ルールの読み込みが甘かったということじゃ。だが、気づいた時にしっかり過ちを正すのが、これ誠意というもの。面を上げて、そなたの役割をしっかり果たすがいい。騎士の次は、戦士について語るんじゃろう」
ゲンブ「おお。では、気を取り直して」
戦士の上級職
ゲンブ「戦士は単純な職業ゆえ、語ることは多くござらん。騎士との違いは、人間以外の異種族が就ける前衛戦闘職であること。初期スキルとして、斧の扱いが得意であること。騎士が騎乗戦闘のスキル習得で優遇されているのに対し、戦士は投擲や回避防御、気絶打撃といった戦術ヴァリエーションに富んだスキル習得がしやすい。こと戦闘スタイルという点では、騎士以上の多様性が魅力だと言えよう」
晶華「小説での戦士キャラは、ギムさん、オルソンさん、シーリスさん、ギャラックさんといったところかしら」
ヒノキ「旧版ルールでは、カシュー王やナルディアもしっかり載っているぞ。カシュー王は13レベル闘士、ナルディアは7レベル剣士という扱いじゃ」
晶華「どれどれ。ギムさんは7レベル重戦士、オルソンさんは6レベル重戦士、シーリスさんは7レベル軽戦士、それにギャラックさんは7レベル闘士ね。これは原作小説の最終段階を想定したレベルだから、パーンさんの10レベルに比べて戦死したギムさんのレベルが低いのも納得だし、オルソンさんもシーリスさんに負けている。ええと、旧版ルールの上級職は、闘士、剣士、重戦士、軽戦士の4つだけ?」
ゲンブ「うむ、そうでござる。そして、新版ルールでは軽戦士だけがなくなった。剣士と統合された形でござるな」
ヒノキ「旧版の軽戦士は、素手戦闘の得意な武闘家風の能力も持っていたが、ロードスには武闘家キャラがそもそも登場しておらん。初期ルールデザイナーの高山さんがヴァリエーションを広げようとした旧版に対し、新版はロードスに憧れてSNEに入った人間の作った作品だから、やはりロードスらしいこだわりを追求したと考えられる。
「ゲームの方向性としては、クラシックD&DとアドバンストD&Dの間を目指しながら、よりプレイしやすくしたのがコンパニオン版(80年代)。クリスタニアRPGやソード・ワールドRPGとの違いを上級職や多彩なスキルという形で緻密に表現した文庫旧版(90年代)。そして、コンパニオン版よりも一気に複雑化した文庫版の中間ぐらいの難易度を目指して、うまくシェイプアップさせる方向で、懐かしのロードス復活にファンの想いを昇華させたのが2018年の新版と言えようか。その分、文庫版を知るマニア層には、完全じゃないと受けが悪いところもあるが、ゲームというものはただ複雑化すれば良い、というわけでもないのは、21世紀のゲーム界の常識じゃからな」
ゲンブ「なお、文庫版ロードスが出たときの批判が、『シンプル・イズ・ベストが売りだったロードスを、複雑化させすぎて初心者が入りにくくなった』という形なので、いつの時代も昔と比べてどうこうネガティブに論じる者はいるものよ」
晶華「うん。だからNOVAちゃんが言うには、昔のものと比べる際には、時代背景も考慮に入れないとダメだって。90年代半ばぐらいは、同じ角川でもハイパーT&TやGURPSなんかが出ていて、サポート雑誌のコンプRPGでしっかりフォローされていた。どちらかと言えば、角川は老舗なので重厚なシステムを目指していて、初心者への受け皿はメディアワークスのクリスタニアやクラシックD&D、央華封神なんかが担っていた。そしてソード・ワールドをサポートする富士見書房が、よりマニアックなシャドウランやバトルテックを擁していたんだけど、どうしてシャドウランと同じFASA社のファンタジーRPG、アースドーンが富士見じゃなくてメディアワークスなのか、NOVAちゃんは当時から不思議に感じていたんだって」
ヒノキ「SNEだけでも、9本もRPGをサポートしていたのが、90年代半ばじゃったのか。他に社会思想社のアドバンストFFやウォーハンマーを抱えていた時期もあったし、ログアウト誌でゴーストハンターRPGやウィザードリィRPGなんかも展開しておったな」
ゲンブ「ホビージャパンからは、『メガトラベラー』や時代劇RPGの『大活劇』なんかもあったでござる」
晶華「それだけいっぱいサポートしていたのが、90年代終わりにTSR社倒産の余波で一気にバブルが弾けて、RPG冬の時代になったのね。サポート雑誌がのきなみ廃刊して、ソード・ワールドだけはかろうじて継続しながらも、時代はマジック・ザ・ギャザリングを初めとするトレーディング・カードゲームが主流となって、NOVAちゃんはしばらくTCG嫌いを発症したそうよ」
ゲンブ「……っと、いかんいかん。完全にロードスとは別世界の話に転がったでござる。こういう話は、次元ドルイド殿の領分でござろうに。ともかく、新版ルールの戦士上級職は、闘士(チャンピオン)、重戦士(ヘビー・ウォリアー)、剣士(ソーズマン)の三種」
晶華「剣士が回避主体の軽装戦士だというのは分かる。でも、闘士と重戦士の違いがよく分からないんだけど」
ゲンブ「重戦士が正統派で、鎧や楯に身を固めて、防御主体でありながら、ここぞというところで一撃必殺を狙うタフな戦士でござる。一方で、闘士は武器落としやなぎ払いなどの技巧を重ねながら戦う。バランスよく技を駆使する闘士、タフさの重戦士、機敏さの剣士といったところか」
晶華「どういう戦場でも、安定して戦えそうなのが闘士って感じね。重戦士は海上みたいに鎧が着られない状態では持ち味が発揮できないし、剣士は複数相手の戦場だと打たれ弱さが問題になる」
ヒノキ「さすがはカシュー王。いつでもどこでも強いってことじゃな。剣匠(ソードマスター)や砂漠の傭兵王の名は伊達じゃない」
晶華「何よ。ロードス最強はカーラ様で間違いないんだから。もしも、カシュー王がカーラ様を愛刀ソリッドスラッシュで斬ったら、サークレットに怨念を託してカシューの肉体を奪ってやるし」
ヒノキ「すると、最強の剣技と最強の魔術を合わせ持つ究極魔法剣士カシューラの誕生じゃな」
晶華「究極魔法剣士カシューラ! いい響きね」
ヒノキ「おお、アッキーがもっと強くなって、わらわと融合合体ファイナルフュージョンしたら、そういうキャラになるのも夢じゃないぞ」
晶華「分かったわ、リナ老師。これより私は、究極魔法剣士カシューラ様を目指して頑張るから。名前はそうねえ、スーパー花粉症ガールWのアキリーナ?」
ゲンブ「やれやれ。いろいろ寄り道して、最後は妄想オチで、我の騎士&戦士話は終了するでござる。次は……」
晶華「魔法の話ね。任せて。NOVAちゃんからいっぱいネタを仕込んで来るんだから」
ヒノキ「よけいな寄り道懐古ネタはいいから、ロードスに専念した方がいいと思うがの」
(当記事完)