とある平成人の独白
ぼくのハンドルネームはWhite NOVA。
どこにでもいる一人の若者……だった男だ。
時は2009年の平成時代。日曜日の朝に、侍戦隊と、多元世界を旅する平成ライダー10作目を見てから、のんびり二度寝していたんだけど、思いがけず未来の世界に召喚されてしまったんだ。
いや、SF小説やゲームの世界なら、よくあることなんだけどね。
永遠の戦士エレコーゼとか、コルム・ジャエレン・イルゼイとか、学生の頃に読んだし。
ロード・ブリティッシュというお方に「悪の魔術師モンディンを倒せ」「魔女ミナクスを倒せ」「謎のエクソダスを解明しろ」「聖者アバタールを目指して徳を高めろ」なんていろんな難題を突きつけられても、若さを武器に、果てしない冒険を頑張ろうと思えたんだ。
だけど、さすがに30も過ぎると、夢は夢、現実は現実と割りきりながら、仕事に追われて夢を楽しむ時間もどんどん減っていく。
それでも、昔の夢を求めていた自分の青春を残したくて、趣味のホームページ作りに邁進したり、インターネットで情報集めを楽しんでいたのが、ぼくの余暇。架空世界じゃ、何度も戦い、世界を救ったりもしてきたものさ。
そんなある日、まさか10年後の未来のぼくと称する男が、寝ているぼくの心を召喚して、よく知らないテーブルトークRPGのゲームマスターをやれ、と命じてくるとは思わなかったな。
何でも、10年後のぼくは、レイ・ワノヴァと名乗って、時空魔術師なんて気取っているらしい。信じられん。
しかも、レイさんには外見年齢14歳ぐらいの可愛い娘がいて、ちょっぴり羨まし……いや、けしからん。何でも、娘さんは花粉症ガールという精霊少女で、レイさんをパパと呼んだり、魔法少女と言われて喜んだり、TRPG体験にワクワクしたり、何だか、そういう純粋な姿を見ているだけで、ぼくの知らない感情がこみ上げて来るのを感じた。
これが、いわゆる『萌え』といったものか。植物の草かんむりと、太陽と月の光を宿した、この想い。今さら、こんな気持ちに目覚めても、どうするって言うんだ? あ、これを小説に書けばいいのか。
よし、いいネタができた。
萌えはともかく。
問題はテーブルトークRPGだ。
ゲームマスターなんて、ここ何年もやってないよ。
だから、急にやれっと言われても無理。いや、不可能ってことはないと思うんだけど、昔のD&Dとかだったら何とかできなくもないよな。倉庫にシナリオも保存しているし。
だけど、3版とか、3.5版とか、最近出たという4版なんて、ルールを買って、雰囲気だけつかんでいるけど、どうにも複雑そうだ。また、時間ができれば、じっくり読みたいけど、それは今じゃない。
ソード・ワールドも昔のバージョンだったらできるけど、最近出た2.0は、まだじっくり読んでないや。リプレイ読む程度ならやってるけど、楽しそうだとは思うけど、プレイする機会はなかなか作れないなあ。
やるなら、もう一回、プレイヤーを集めないと。だけど、できれば自分がプレイヤーをやりたいよなあ。誰か誘ってくれないかなあ。
何それ? 聞いたことない。
何と、未来のRPG? それはやってみたいけど、GMやれって言われたら無理って答える。
え、だったらプレイヤーやっていい?
レイさんがGMをやってくれる?
何て素晴らしい、太っ腹な人なんだ。尊敬しますぜ、旦那。ついでに、娘さんをぼくに下さい……なんてことは、口が裂けても言えないよなあ。
ぼくは、そこまで調子に乗るようなキャラじゃない。
とにかく、夢にまで見たTRPGのプレイヤー体験で、しかもパーティーには精霊少女が2人も。
ここって天国? ぼくって死んだのか?
いや、こんなところで死ぬわけにはいかない。仮面ライダーディケイドの最終回とか見ないと、死んでも死にきれないでしょう。
だけど、一つだけ不満がある。
どうして、ぼくのボディが電王ロッドフォームなんだ?
ぼくは嘘つきでも、ナンパでもないぞ。
もっと誠実で、優秀で……
プレイ開始
GM(令和NOVA)「それでは、プレイを始めよう。君たちは冒険者ギルドに集まっている」
丸子(ヒノキ)「いや、わらわはそこにいない。自分の酒場で忙しく炊事している。仕事は他のメンバーで引き受けてくれ。わらわは助っ人として、誘われたら行くってことで」
GM「いきなり、困ったちゃんプレイヤーになるなよ。仕方ないなあ、冒険者ギルドにいるのは誰?」
アカミドリ(晶華)「はあい、私はいるよ。冒険したいし」
騎士ジャン(NOVA2009)「ぼくもいる。GMを困らせるつもりはないし、自分がやられたら嫌なことは他人にしない」
丸子「では、そちらはお主たちに任せた。わらわは芋の皮をむいておる。【調理】技能の見せ場じゃな」
GM「冒険に関係ない判定はしなくてもいいんだけどな。まあ、試しにダイスを振ってみるか。【調理】の判定は、技量集中に技能レベル初歩でプラス1だったよな」
丸子「わらわの技量集中は5で、【調理】技能のプラス1して6。これに2D6を加えると(コロコロ)6が出たので合計12じゃ」
GM「12だったら、簡単な作業が成功する。芋の皮むきぐらいなら普通に成功だな」
丸子「うむ、そこの用心棒。お前も手伝えい」
蜥蜴用心棒(ゲンブ)「我も、でござるか。やむを得ん。我の技量集中は6で、【調理】技能はなし。ダイスを振ると、うりゃ、11。合計17でござる」
GM「そいつは凄い。15で普通、18でやや難しい作業に成功するので、用心棒が包丁を目にも止まらない速さでスパスパスパッと振るうと、たちまち芋の皮がきれいに剥がれるとともに、中身が適当なサイズに切り揃えられた」
蜥蜴用心棒「フッ、我が剣技をもってすれば、これぐらいの芋など何のことはない」
丸子「おお、さすがなのじゃ。では、もっと沢山の芋を渡すので、後は任せたぞ。わらわは食材を煮込む方に力を注ぐ」
GM「という酒場の日常とは別に、半森人の娘と、利発そうな若者のコンビが冒険者ギルドで噂話に耳を傾けているんだな。最近、ゴブリンの大きな群れが熟練冒険者に掃討されたらしい」
アカミドリ「へえ。それって、原作1巻の牧場防衛戦のことかな」
GM「いや、それとは違う。と言うのも、どうやら掃討された群れには残党がいたみたいなんだ。ゴブスレさんがいれば、残党なんて見逃さずに皆殺しされてたと思うので、まあ、別の群れの話としておこう。原作読んでない人も分かりやすいように」
ジャン「ゴブリンなんて、どこにでもいるからな。ところで、ぼくもダイスを振りたいんだけど、この【怪物知識】技能って普通に使えるんだよね」
GM「ああ、もちろんだ。怪物知識判定は、知力集中+呪文遣いレベル+技能ボーナス2で判定する」
ジャン「すると、6+2+2で10からスタートか。ダイス目は6で16」
GM「だったら、7レベルまでのモンスターが分かるな。ゴブリンは1レベルの雑魚モンスターで、生命力は9。その他のデータも必要なら公開するよ。他に追加情報として、ゴブリンの群れには、同じ1レベルの弓兵や、2レベルの魔法使い、3レベルのホブゴブリン、4レベルのシャーマン、5レベルのチャンピオン、6レベルのリーダー、7レベルのロードまでいるって聞いたことがある。ゴブリンチャンピオンぐらいになると生命力26なので、今の君たちが1対1で勝てる相手だとは思えない」
ジャン「1レベル冒険者の推奨敵って、どれぐらいなんだ? ソード・ワールドだったら、プラス2レベルってのが目安だろうけど」
GM「そういう質問が出るのはゲーマーの証拠だな。相手の数にもよるけど、やはりプラス2レベルがボス敵の標準だと思うよ」
ジャン「だったら、ボスはホブゴブリンってところだな」
GM「さあ、どうだろうね。ゲームのデータしか推測材料を得ていないんだから、結論を出すには早いんじゃないかな」
アカミドリ「私も判定するね。【怪物知識】技能はないけど、ダイスは9が出た。知力集中は6で、精霊使い2レベルだから……」
GM「17だね。ゴブリンに関しては、ジャンと同程度の知識を持っている」
アカミドリ「私は故郷がゴブリンに滅ぼされたから、あいつら嫌い。残党がいれば、始末したいぐらいよ」
ジャン「だけど、ぼくたちは冒険者だ。復讐だけでは生きていけない。ゴブリン退治をするにしても、しっかりと仕事の依頼として引き受けないとね……と言いつつ、仕事のネタがないか調べてみよう」
GM「すると、依頼書を貼り付けた掲示板に、こういう張り紙を見つけた。『東の谷の村の村長より。村の赤ん坊が小鬼にさらわれた。助けて下さい。報酬、銀貨50枚』って感じ」
ジャン「銀貨50枚? それは一人当たりになるの?」
GM「いや。君たちはギルドで初心者の第10位、白磁等級の枠に入っていて、仕事の相場は1人当たり銀貨10枚となっている。1人で銀貨50枚の仕事を引き受けようと思えば、第6位の翠玉等級が相場ってところだね」
アカミドリ「ゴブスレさんの銀等級は?」
GM「第3位の銀等級は、1人で180枚が相場だ。まあ、あの人は初心者冒険者がパーティーを組んでやるような仕事を一人で片付けて、しかも休む暇もなく連日ゴブリン退治を5年間続けて、銀等級にのし上がった人だからな。たぶん、銀貨50枚の仕事を通常の3倍のスピードでこなして、地道に蓄えてきたんだと思う」
ジャン「塵も積もれば山となるかあ。とにかく銀貨50枚は総額ってところで、2人なら銀貨25枚の仕事だね。赤ん坊が捕まっているなら、急がないといけないだろうし」
アカミドリ「だったら、2人で急ぎましょう。騎士さんが前に立って、私が後方援護。これで何とかなるわ」
丸子「こらこら。わらわたちをスルーするでない」
アカミドリ「だって、そっちは酒場で料理中だから、ここにいないんでしょ?」
GM「一応、ネタばらししておくと、シナリオには一人当たりの報酬、銀貨12枚って書いてあるんだ。ただ、実際の依頼者って、そういう頼み方をしないと思うんだよね。だから、12×4にキリよく上乗せして50枚。GMとしてはもちろん4人推奨ってことは言っておく。冒険者ギルドの受付嬢さんも、君たち2人だけだと聞いたら、『2人だけで大丈夫ですか? もう少し待てば、他の冒険者も来るはずですし』と言ってくれる」
アカミドリ「2人でゴブリン退治をして、失敗して全滅しそうになったら、ゴブスレさんが助けに来てくれるってこと?」
GM「失敗すること前提で、物事を考えないように。主役は君たちなんだから、自分たちで何とかするように最善を尽くして欲しい」
丸子「ふむ。では、そこに『話は聞かせてもらった』と顔を出そう。もちろん、用心棒もいっしょにのう。『人手が足りないと言うのなら、わらわたちが手を貸してやっても構わんが』と言いつつ、受付嬢にできたてのホカホカ芋料理を渡す」
GM「え、これは?」
丸子「うむ。このギルドの受付嬢は、わらわの作る特製フライドポテトのファンでの。毎日、昼過ぎには注文が入るのじゃ。そして注文の品を配達に来たら、冒険のネタに出会って、手を貸すという設定が今生えた」
GM「何、その御都合主義。いや、それで話が進むなら、ありがたいけど。では、その注文のフライドポテトがうまく作れたか判定してみるか」
丸子「おお、これが正念場という奴じゃな。では、気合を込めて、(コロコロ)8じゃ。【調理】の達成値は14。まあまあと言ったところか」
GM「普通だけど、プロとしてはまだまだってところだね」
丸子「うむ、プロの料理人としての道は厳しい。【調理】判定には、冒険者の職業レベルを足せないのが残念じゃ」
GM「そりゃ、冒険者技能じゃない一般技能だからな。本職が冒険者だと、あくまでプロ未満の余技といった使い方になるよね」
丸子「とにかく、わらわは料理の腕を磨くために、ゴブリン退治に勤しむのじゃ」
アカミドリ「どうして料理と、ゴブリン退治が関係するのよ」
丸子「知らんのか。料理が不味くなるのは、ゴブリンの仕業ってことを。つまり、世界からゴブリンがいなくなれば、その分、料理の神さまの覚えがめでたくなり、料理の腕も上達するって寸法よ」
ジャン「え? GM、このゲームって、そういう世界観なんですか?」
GM「いや、それはヒノキ姐さんが勝手に言っているだけで」
丸子「丸子はそう信じておるのじゃ。機械が故障するのはグレムリンのせい、鉱石が錆びるのはコボルドのせいという迷信と同様、飯が不味くなるのはゴブリンのせいだっての。だから、美味しい料理を作るために、ゴブリンを退治(スレイ)する。それがわらわのゴブリンスレイヤー魂なのじゃ」
アカミドリ「つまり、ライダーBLACKさんが何でもかんでもゴルゴムのせいにするみたいに、丸子さんはゴブリンこそ諸悪の根源って考えてるのね。まあ、私も賛成かな。悪いことはみんなゴブリンのせい」
ジャン「それでいいの、GM?」
GM「料理の出来不出来はともかく、悪事の影には大抵ゴブリンがいるので、ゴブリンスレイヤーさんが退治するのが原作の物語だからな。とりあえず、ゴブリンが悪いって言っておけば、原作の世界観は成立する」
ジャン「いいゴブリンはいないんですか?」
ゴブリンスレイヤー『探せばいるかもしれんが。本当にいいゴブリンがいるとすれば、それは人前に出て来ない奴だけだ。現れたゴブリンは皆殺しだ。慈悲はない』
依頼を受けて
GM「それでは、ギルドで仕事を引き受けた君たちは、東谷の村行きの馬車に乗っている」
丸子「いきなりか? 随分と急がせおるの」
GM「時間がないからね。赤ちゃんがさらわれているんだから。詳しい事情は、馬車の中で頼み人の村長さんが話してくれる」
ジャン「村長自ら出て来てるの? ずいぶんフットワークが軽いんだな」
村長(GM)『善は急げ、ですからね。今朝早く、畑仕事に出ていたら、村外れの若夫婦のところから悲鳴が聞こえましてな。みんなで駆けつけたところ、ゴブリン連中が赤ん坊のおくるみを持って出て行くところでした。そのまま逃げられてしまい、引き返すと、旦那の方は既に息を引き取って、奥さんの方も腹を刺されて重体って始末』
ジャン「なるほど。晴らせぬ恨みを晴らして下せえって奴だな」
村長(GM)『いや、奥さんはまだ生きていますし、恨みがどうこうよりも、村の近くにゴブリンが住み着いたってのが厄介でして。これ以上、被害を広げないことが最優先。次に、連中にさらわれた赤ん坊を取り戻していただければ幸いですが、果たして間に合うかどうかは何とも』
用心棒「さらわれたのは今朝がたでござるな。村まではどれくらい掛かるのか」
GM「村長の話では、馬車で1時間ほどってところだね。なお、丸子の酒場の食材の芋も、この村の産物ということだ。今、決めた設定だけど」
丸子「そうであったか。つまり、この村がゴブリンに荒らされれば、安心して芋料理も作れなくなる、と。おのれ、ゴブリン。フライドポテトの平和のためにも、何としても成敗せねば」
GM「とにかく、少しでも早く、と馬車を急がせているので、揺れが激しい。途中、馬車酔いにならないようにするために、体力持久で目標値10の判定をして下さい」
アカミドリ「体力持久? 2しかない私をイジメるわけ? (コロコロ)8出た。吐き気には耐えたわ」
ジャン「ぼくは6あるから、まず大丈夫だな。(コロコロ)セーフ」
用心棒「我も6だから、問題ない」
丸子「わらわは4じゃが、(コロコロ)ギャー、出目が5。これもゴブリンが悪いのじゃ。吐き気を必死にこらえつつ、涙目でゴブリンへの憎しみを掻き立てておくぞ。芋の恨み、晴らさずにおくものか」
GM「失敗した丸子は、1点の消耗を受ける。消耗が6点たまると、判定にペナルティーを受けるからね」
丸子「いや、わらわは【忍耐】技能があるから、7点までは大丈夫。これしきの揺れで、わらわのポテト愛は負けん」
GM「そうやって乗り物酔いに耐えていると、やがて馬車の速度が緩やかになっていくのを感じる」
丸子「ほっと息をつくのじゃ」
ジャン「そろそろ村に着くのかな」
GM「村長が言うには、ここから先は崖沿いの小道みたいだね。さすがに速度を上げるのは危険なところだ。そして、この小道を抜けた先に、芋の産地の村があるそうだ。芋やその他の食材を荷馬車に積んで、定期的に街まで運ぶのが彼の仕事の一つらしい」
用心棒「村長自ら、そのような雑用をしているのでござるか」
村長(GM)『いや、村長と言っても、最近なったばかりでして。前の村長の親父は長老として村の中の取り仕切りをしていて、対外交渉や村の防備などの外向けの仕事が私の担当。親父がどっしり構えて、緊急を要する仕事はフットワークの軽い私が率先して動く手筈になっているわけですよ』
ジャン「へえ。そんなことがシナリオに書いてるんだ」
GM「書いてないよ。そこはアレンジした。少しぐらいはオリジナル要素も入れたいからね。この村は保守的な前村長時代から、改革派の若村長に切り替わる世代交代のタイミングで、今回のゴブリン事件に見舞われた。君たちが事件を解決すれば、若村長の人望は高まるし、君たちが失敗すれば村の将来は暗いものになる。つまり、村の命運は君たちに掛かっているわけだ」
用心棒「それは責任重大でござるな」
アカミドリ「それはそうと、村の名前は何て言うのかしら」
GM「ええと、ゴブスレの世界では、固有名詞は別に決めなくてもいいんだ。まあ、その辺の処理はGMに一任されている。一応、シナリオで固有名詞が必要なら、ということで提示はあるんだけど。そうだな。ここでは芋が特産のジャガ村、いや、ジャガリ村にしようか」
丸子「つまりジャガリ芋ということじゃな」
アカミドリ「ジャガリパークだったりすると、フレンズがいっぱいいそうね」
ジャン「フレンズ?」
GM「2009年の人間は知らなくてもいいネタだし、今回の話には全く関係ないのでスルーを推奨する。で、君たちを乗せた荷馬車は崖沿いの道をゆっくり進む」
アカミドリ「あれ? 私たちが乗ってるのって荷馬車だったの?」
GM「ああ、こういうのだよ。普段は売り物の食材を運ぶのに使っている奴だから」
丸子「そりゃ、乗り心地最悪じゃ」
アカミドリ「私はてっきり、こういうのだと思っていたよ」
GM「そんな豪勢な馬車が、辺境の村にあるわけないだろうが」
ジャン「ぼくは、こういうのを想像していたな」
用心棒「一口に馬車と言っても、色々あるのでござるな」
GM「そうだね。こっちの説明が足りなかった。なお、御者も若村長が自分でやっていたわけで」
丸子「つまり、全力で馬を走らせながら、さっきの状況説明をしておったのか。なかなかタフな男じゃのう」
村長(GM)『へへ、こう見えても、10年前は戦場で伝令任務をこなしてもいたもんでして』
アカミドリ「そんなこと、シナリオに書いてるの?」
GM「書いてない。今、アドリブで生まれた設定だ」
丸子「どんどん、ジャガリ村の若村長のキャラが濃くなっていくのじゃ。実は、高位の冒険者レベル持ちだったりとか……」
GM「さすがにそれはない。戦場で足に矢を受けて、日常生活は何とか送れるけど、激しい運動や長時間の歩行は無理。馬車を操ることはできるので、兵役引退後に今の仕事を積極的にこなしている。辺境の村人はそれだけ逞しいんだ」
ジャン「西部の開拓者のノリだね」
GM「でも、シナリオ上は重要人物じゃない、ただの依頼人でしかないので、名前は決めないでおく。そんな若村長さんが、『皆さん、左側を見てください』と御者席から指し示す」
丸子「何じゃ?」
GM「崖下に森が広がっていて、そこに見えるものが分かるかどうかは、観察判定だ。知力集中に、斥候か野伏レベルを足して判定。持っていれば、【観察】技能を使うこともできる」
丸子「ここはわらわに任せてもらおう。知力集中は4しかないが、斥候3レベルに、【観察】技能もあってプラス1。8にダイス目5で13で何か分かるかの?」
アカミドリ「私は16だよ」
用心棒「15でござる」
丸子「って、野伏のアカミドリはともかく、用心棒にも負けたのか」
用心棒「本日はダイス運が良好のようだ。10が出た」
丸子「トホホ。技能があっても、ダイス目が悪くては、宝の持ち腐れじゃ」
ジャン「まあまあ。ぼくは12ですし、たぶん乗り物酔いの影響でしょう」
GM「何にせよ、目標値は9だから全員成功している。森の一角に長径30m、短径20mほどの楕円形の丘が木々の間に見えるね。若村長曰く、『あそこの丘には、昔、一人の圃人(レーア)が穴掘って住んでたんですが、5年前に亡くなりましてね。どうやら、その住居跡をゴブリンどもが占拠しているようです。勇気ある村人が探り当ててくれました』とのことだ」
丸子「なるほど。そこまで分かっているなら、話が早い。ここからひとっ飛び行って、洞窟に入って、ゴブリンを退治して、赤ん坊救出。めでたしめでたしなのじゃ」
ジャン「え? 崖下ですよね? ひとっ飛びって?」
丸子「大丈夫。わらわは空の大怪獣ラドンの眷属じゃ。これぐらいの崖など、たやすく飛び越えられる」
用心棒「我もガメラの眷属ゆえ、飛べないことはない」
アカミドリ「あ、だったら、私もバットクイーンに覚醒すれば飛べるかも」
ジャン「みんな、空が飛べるってか? ぼ、ぼくもデンライナーを呼ぶか、ウィングフォームになれば飛べる……かな?」
GM「無理だ。俺はデンライナーの玩具は持っていないし、お前がボディに使っているフィギュアは、ソード、ロッド、アックス、ガンの4形態に変形できるけど、後から出てきたウィングやライナー、クライマックスや超クライマックスフォームに変形できない仕様だ」
GM「大体、プレイヤーに飛行能力があっても(普通はないと思うが)、ゲームのキャラに飛行能力があるとは限らんだろう……というか、俺の知る限り、今のデータじゃ飛行魔法も習得していないので誰も飛べないはず。将来、新種族として鳥人キャラが作れるようになれば別だが」
丸子「だったら、ラビットタンクを召喚するのじゃ」
ジャン「ラビットタンク? そんな物がゴブリンスレイヤーの世界にはあるのか?」
GM「ねえよ。少なくとも今のところは、原作小説にも登場していない。頼むから2009年の平成NOVAを困惑させないでくれないか、ヒノキ姐さん」
丸子「む。だったら、荷馬車が変形して飛行モードになったりは?」
GM「ドラクエ6の馬車なら、馬に羽が生えたペガサスになって飛んだりもするけどな。とにかく、この崖を飛んで降りることはシナリオで想定されていないし、俺は認めない(もっとも、登攀判定とかロープを使って降りることは想定されているんだけどな)」
丸子「チッ。飛んで降りられないなら、どうやって、そこまで行けと言うのか」
アカミドリ「いや、普通に村まで行って、そこから歩けばいいんじゃないかな? ゴブリンだって飛んで逃げたわけじゃないだろうし」
ジャン「それに、冷静に考えるなら、村に行って、もう少し情報収集してもいいと思う」
丸子「じゃが、悠長なことをしていては、赤子がゴブリンの食材にされかねん。そんな悲劇は避けたいわけで」
ジャン「……そう言えば、どうしてゴブリンは赤ん坊を誘拐したんだ? 別に身代金を要求してくるわけでもなし」
用心棒「ひとまず村に行って、関係者から話を聞くのが優先でござろう。考えるのはそれからだ」
……ということで、ゴブリンによる赤子誘拐事件に挑むことになった初心者冒険者たち。
果たして、ジャガリ村の平和は無事に守られるであろうか?
なお、ここまでで全19ページあるシナリオの5ページほどが消化された段階。このペースなら、あと3回で終わるペースだけど、戦闘になれば時間も掛かりそうだなあ。
果たして、夏場で忙しくなる前に、この記事が終われるのかなあ、と気にしてみたり。
(当記事 完)