トーキョーN◎VAの後の話
リモートNOVA『ゴブリンスレイヤーの話に寄り道しましたが、改めてFEARゲームの話を続けます』
ヒノキ「おお、アリアンロッドの新作サプリが出たんじゃな」
NOVA『夏に紹介したときには、著者欄からきくたけさんの名前が消えて、久保田悠羅さん名義で宣伝されていたのですが、じっさいに発売されると、きくたけ名義が復活してますね』
ヒノキ「ふむ。つまり、きくたけ氏がまだアリアンロッドに関わり続けることを表明した形じゃな」
NOVA『前のサプリのパーフェクト・ワールド・ガイドが2020年でしたから、4年ぶりの新作サプリですね。今度のは、いわゆる神さま本ですが、数ある神々の中にかつてのプレイヤーキャラであるピアニィやベネット、フェルシアなんかが英雄神として設定されているのが面白いと思います』
ヒノキ「おお、プレイヤーキャラが昇格して神になるとは、まさにファンタジーじゃのう」
NOVA『まだ、じっくりチェックできていない新作サプリの話はさておき、現在、TRPG界隈で一番旬なのは、D&D2024のPHB(英語版)発売だと思うのですよ』
ヒノキ「お前さんはどうするのじゃ?」
NOVA『ネットで噂だけ聞きながら、日本語版発売まで待ちます。さすがに何もかも追いかけるほどの金も時間もありませんので』
ヒノキ「では、旬の話題ではなく、今回も懐古話で記事を書こうということじゃな」
NOVA『とりあえず、今回は90年代のFEAR作品について、概要をざっとまとめたいと思います。とは言え、俺は90年代のFEAR作品は、あまり追っかけてなかったのですが』
ヒノキ「まあ、新兄さんの追っかけ第一は、SNEじゃったからのう」
NOVA『FEARに注目が当たるのは、1996年に自社の専門雑誌「ゲーマーズ・フィールド」を立ち上げて、TRPG冬の時代においてサポートが中断された多くのTRPGブランドをバックアップしたことが大きいですね。SNEが富士見書房や角川系列の書籍スタイルを中心に業界トップの地位を占めていたのに対し、FEARはTRPG冬の時代に際して、関東のゲームデザイナーの中心になって、世紀末からゼロ年代のTRPG業界を支える柱になったのが大きい』
ヒノキ「SNEが、モンコレなどのTCGに軸足を移し、ゼロ年代は方向性がTRPGからアナログゲーム全般に(欧製ボードゲーム含めて)広げる姿勢を示していたのに対し、FEARさんはTRPGの灯火を愚直に守り続けて、システム面での改革にも大きく貢献しておったからのう」
NOVA『大体、FEARゲーというブランドが確立したのは、ゼロ年代前半だと思います。具体的には、アルシャードからSRS(スタンダードRPGシステム)という動きを生み出して行った辺り』
ヒノキ「FEARの最盛期は、『ナイトウィザード』がアニメ化された2007年の辺りだと思うがのう」
NOVA『歴史を7年周期で見て行くと、1993〜2000年が誕生期、2000〜2007年が発展期、2007〜2014年が絶頂期、2014〜21年が不調期(停滞しつつも業務整理中)、2021以降が新規巻き直し期になるのかなあ、と個人的に考えております』
ヒノキ「SNEはどうなるのじゃ?」
NOVA『87年スタートですから、同じ7年周期で考えるなら、87〜94年が誕生からの発展期、95〜02年がTRPGバブル崩壊期、03〜10年が再生期、10〜17年が第2次発展期、18〜24年が旧作懐古&新展開期だと思います。まあ、あくまでTRPG視点で、モンコレやボードゲーム、マーダーミステリーなどの別ジャンルでは違った見方もできるでしょうが』
ヒノキ「SNEの今は、旧作懐古と新展開の両方ということか?」
NOVA『旧作懐古は主に、ゲームブックのFFシリーズ関連ですね。あと、ソード・ワールドの版上げが大きいし、小説とともにロードスも復活させようとした。一方、新展開はパグマイアとかゴブスレとかになりますか。まあ、新展開のエネルギーは結局、マーダーミステリーに注がれているのが現状ですが、TRPGよりは謎解きストーリーゲーム全般に広げているのがここ数年の流れですね。コロナで停滞していた時期も数年ありましたが』
ヒノキ「ソード・ワールドの新作サプリはどう思う?」
NOVA『ボックスは買ってません。今、気にしてるのは、こちらになりますね』
ヒノキ「夏は蛮族キャンペーンで、秋は奈落キャンペーンが予定されておるのう」
NOVA『蛮族本は、2.0時代の進化系ですが、リプレイが1冊だと物足りないですね。やはり、2.0時代と違って、人的リソースが足りていないのだと思います。ともあれ、俺の10月の再注目は、これになりますが』
ヒノキ「おお、それが噂の追悼本か」
NOVA『懐古本ですし、ゲームブックも収録されているので、うちの記事ネタとしてはもってこいの書籍ですな。以上、前置き終了』
FEAR社のゲーム
NOVA『で、本題ですが、90年代はFEAR作品の現在まで続く主力製品が「トーキョーN◎VA」と、その関連システムしか出ていなくて、まさに黎明期って感じですな』
ヒノキ「今も続くFEARシステムは、どんな物がある?」
NOVA『ざっとまとめると、こんな感じです』
- N◎VA系(93年〜):タロットカードを活用したシステムが特徴。3つのスタイルの組み合わせや、必殺技とも言うべき神業システム、技能の組み合わせ判定、シーン制および登場判定によるシナリオ構築など、多くのFEARゲームの原型を生み出した。現在は、同じ作者の『ブレイド・オブ・アルカナ』に軸足を置いている。あと、『テラ・ザ・ガンスリンガー』(2001)もカードによる判定を重視したシステムとして、N◎VAの亜流と考えている。
- SRS系(02年〜):『アルシャード』からスタートしたスタンダードRPGシステムの系列作品。現在は『天下繚乱』『モノトーン・ミュージアム』『メタリック・ガーディアン』『マージナル・ヒーローズ』が新作サプリで現役展開中。FEAR社の作品では、最も数多く同システムが採用されている。2D6の上方判定*1という分かりやすいシステムと、マルチクラスおよびクラスのレベルアップによって得られる特技などが特徴。ソード・ワールドとの違いは、ダメージ処理にレーティング表を使わないことと、クラスを選んだら自動的に能力値が決定することと、汎用性の高さ。海外のベーシックRPGやGURPS並みの拡張性を示したと思う*2。
- ダブルクロス(01年〜):第1回ゲーム・フィールド大賞の準入選作品。能力に基づく数の10面ダイスを振って、最大の出目が目標値よりも高ければ成功するシステム。世界観的には、ウィルスによって超常能力を付与されたオーバード(超人類)たちが、日常を守るため、もしくは自分の居場所を作るために、人間性を喪失したジャームと暗闘を繰り広げるのが基本世界観。使いすぎると暴走の危険があるエフェクト(超能力)と侵蝕率のルールが特徴。これによって、事件は解決したけど、闇堕ち(ジャーム化)するという危険なドラマが描かれる。ジャーム化を防ぐためには、NPCとの絆を構築し、昇華させるというプレイが必要。汎用システムではないが、ステージという形で異なる舞台を構築し、ファンタジーゲームの世界や平安時代、第2次世界大戦期、特撮ヒーロー物や動物王国、能力者学園、宇宙SFなどなど多彩なジャンルの世界観でプレイ可能。
- カオスフレア(05年〜):第5回ゲーム・フィールド大賞の準入選作品。「オリジン」という異世界ファンタジー世界に、転移した現代人や、宇宙からの様々な侵略者が集結して、混迷状態の世界観で、悪のダスクフレアと戦う正義のカオスフレア混成チームの英雄物語をプレイするマルチジャンル・クロスオーバーRPG。海外RPGのTORGの和製後継者とも言える。トランプカードを使った判定システムという意味では、N◎VAの後継者だけど、世界観のごった煮感覚は日本最高峰のTRPGと言える。ファンタジーも、時代劇も、拳法アクションも、サイバーパンクも、ロボット物も、学園物も、ほぼ何でもできて、できないのはおそらく「異世界とまったく関わらない平和な日本もしくは世界での人知れない暗闘」ぐらいかな、と。SRSのシステムで、複数の世界観の作品をクロスオーバーさせる遊び方はできるが、それを1作品で成立させたのが本作の特徴。たぶん、ドラゴンボールみたいな世界観を再現できる(拳法使いの宇宙人がロボットやバイオ生物と、ルールをいじらずに戦える)ゲームは、これぐらいじゃないかなあ、と思う。サプリメントで、世界観やキャラデータがどんどん増えていくけど、NOVAが追いかけられたのは、2版(セカンドチャプター)の2つめ(フローライトプリズン、2010)までで、現在はサプリメントが10作以上も出ているらしい。
- アリアンロッド(04年〜):きくたけさんの現在の代表システム。2D6の上方判定で、文庫本で発売されたファンタジーRPGという意味では、ソード・ワールドやSRSとの差異化が問題になるが、本作の登場タイミングでは、ソード・ワールドも2.0以前の古いシステムだったし、アルシャードもまだ文庫本のガイア(06年)が出る以前であり、FEAR社初の文庫RPG*3という特長があった。システムはオーソドックスながら、メインクラス(戦士、魔法使い、僧侶、盗賊)にサポートクラスを組み合わせるマルチクラス制で、レベルアップでクラスごとのスキルを習得して行く本格的なもの。ある意味、ソード・ワールドとアルシャードの長所をしっかりと踏襲し、拡張性を広げたシステムである。この拡張性の高さこそが、旧ソード・ワールドに欠けていた部分で、さらにアリアンロッド独自のシステムが冒険者のチームを「ギルド」と称し、ギルドに経験点を注ぐことで、ギルドスキル(2版ではギルドサポート)を習得できるようにした点。個々のキャラの成長だけでなく、チームとしての成長を表現したシステムが、冒険仲間としての一体感を高める要素として、今も本作の魅力の一つと考えます。
- セブンフォートレス(96年)&ナイトウィザード(03年):きくたけさんがTRPG業界でメジャーブレイクした代表システム。ただし、セブンフォートレスの初版はホビージャパンから発売された作品で、いわゆるFEARゲームの文脈には収まらない。FEARゲームの文脈を「多くのデータを組み合わせることで、拡張性の高いスキルや特殊能力を習得していくキャラ表現や育成の豊かさ」と定義づけるなら、セブンフォートレスは残念ながら古いクラス制ゲームということになる。セブンフォートレスがFEARゲームらしい拡張性の高さを会得したのは、2002年に出た3版のV3で、続いてナイトウィザードとの互換によるマルチバース構想から、08年のメビウスおよび07年のNW2版につながる。ただし、マルチバース構想はアルシャードなどのSRSや、カオスフレアがタイミング的に早く、そちらで成功したから、セブンフォートレスも主八界という多元世界のワールドガイドを商業展開できたと言える。このゼロ年代のTRPGシステムのマルチバース化がFEAR社発展の勢いにもつながり、やがて13年から14年に終焉を迎えることになる。
NOVA『とりあえず、俺の目に映るメジャーどころは、こんな感じですね』
ヒノキ「他にもあるじゃろう」
NOVA『異能使いとか、エンゼルギアとか、ドラゴンアームズとか、ビーストバインドとか、ニルヴァーナとか、新星界スターロードとか、サイキックハーツとか……などなどですね。他に、元々はFEARゲームじゃなかったのが、版上げの際にFEAR制作になったメタルヘッドとかブルーフォレストとか、世紀末から世紀明けに他のシステムを吸収したものもあります。それだけ関東のTRPG業界の柱になっていたわけですよ、FEARさんは』
ヒノキ「全部語るのは大変じゃな」
NOVA『ええと、エンゼルギアと、ニルヴァーナ以外は全部買ってます。版上げとかサプリまでは追えてませんが、サイキックハーツだけは売ったものの、他の基本ルールは本棚に入っているので、語れないことはない』
ヒノキ「TRPGバカがここに一人、と」
NOVA『もう、実プレイしてないのに、いつかプレイできるかも、と思いながら、結局、宝の持ち腐れなのを記事ネタとして昇華したいんですけどね。とりあえず、90年代からゼロ年代はいろいろシステムを集めてたなあ、と』
ヒノキ「今は?」
NOVA『10年代で卒業した、というか飽きた時期があって、文庫本のリプレイだけ買ってたのが、まあ、2018年のD&D5版の邦訳とソード・ワールド2.5で出戻ったというか、でも俺の心の故郷は80年代から90年代にある。ゼロ年代の作品は何だか惰性で買っていたものもあった気がする。買って、流し見だけして、細かいデータはチェックしてなかったり。あ、最近、本棚の肥やしになってた異能使い2版のリプレイ本を読みました。買って読んでたつもりが、読めてなかったんだなあ、と』
ヒノキ「いろいろツッコミたいところじゃが、まあいい。ともあれ、一般にFEARゲーと呼ばれるものはゼロ年代に出たものが多いのう。トーキョーN◎VAとセブンフォートレスを除けば、全部ゼロ年代ではないか?」
NOVA『FEARさんは、ある作品で発明したシステムを、別の作品の版上げ時に導入したりもして、会社丸ごとでシステムを進化させていくんですね。これがSNEだと、ロードス→クリスタニアとか、GURPSのいろいろなサプリはありましたが、基本的にシステムの使い回しは少ない。その数少ない例外は、「央華封神の裏成功」→「ソード・ワールド2.0以降の運命変転」とか、「モンコレRPGのシナリオサプリのランダムマップ」→「ソード・ワールド2.0のソロシナリオ」とか、ところどころ継承があるのですが、さすがに似たり寄ったりなシステムは作らない。しかし、FEARさんはSRSを基軸に、どんどんマイナーチェンジ版を出していましたな』
ヒノキ「つまり、ガワだけ変えて、類似コピーな作品を大量に出した?」
NOVA『似たようなシステムで、世界観だけ異なるという作品がゼロ年代半ばから増えてきますね。あと、2、3年で版上げという形で、次々と作品をマイナー改訂したものを商品展開したわけですが、それによって同工異曲な商品展開となり、やがて飽きられる、と』
ヒノキ「まあ、学生にとっての2、3年は長く、それぐらいの周期でバージョンアップすると、新規の客層が見込めるが、社会人になると、2、3年で前に買ったシステムが改訂されて……が続くと、追いかけるのもうんざりするな」
NOVA『で、結局、版上げ周期は10年に1度とかに落ち着くのが、現在のTRPG業界かな、と。それでも、作品数が増えると、出す作品をローテーションで回すだけで、商品展開が安定するわけで、その中で人気作品シリーズはサポートも厚く、新規作品は基本ルールと数点のサプリメントだけで展開終了という。ただ、SNEは売れない作品をあっさり見限るのに対し、FEARさんは雑誌でのフォロー期間が長く続いて、マイナー作品を切り捨てるまで少しでも命脈をつなごうとする作品愛の濃さが特長。サプリは出ないのに、雑誌での数ページのフォローだけでかろうじて生き延びている作品の多さよ。まあ、FEARさんの場合、作品寿命よりも、作者さんの都合で展開終了するケースもありますか。結局、10年単位で見て行くと、1作だけで業界人として続けて行くのは困難ですからね』
ヒノキ「その辺は、小説やコミックと同じじゃのう。雑誌連載で定期収入を得ながら、連載分をまとめた単行本で大きく稼ぐと生き残りの目が出る。新人賞とかでデビューすることができても、雑誌連載枠を確保できず、2作め以降は当たらずという状態では、いわゆる一発屋で終わってしまう」
NOVA『だから、本業は別に持ちながら、趣味で執筆しつつの兼業作家を編集部は新人に勧めるわけですね。ゲームデザインの場合は、テストプレイ要員とか、雑誌編集やコンベンションのスタッフ、システムデザインはしないけどシナリオ執筆で活躍するとか、リプレイライターの道とかでサポーター的な活躍を見せる人もいて、その辺の手伝い枠の人材を育成する風潮も、FEARさんの方がSNEより手厚いように見えます』
ヒノキ「その辺は社風にもよるのう。例えば、リプレイ作品でSNEは基本、GM以外のプレイヤーが誰かは公表しないのに対し、FEARさんはプレイヤーの個性を積極的にアピールするスタイルをとる」
NOVA『プレイヤーを役者みたいに売り出そうってスタイルですね。その流れで、人気声優さんをゲストプレイヤーさんに招いたり、原作付きゲームなら作者さんをゲストプレイヤーに招いたり、プレイヤーの個性で売り出す作品もFEARさんは定番だった、と』
ヒノキ「おかげで、ゲームシステムはよくあるSRSなのが、関わるプレイヤーの魅力で順調に商品展開するケースもあったり、ゲーム内で声優プッシュが頻繁だったり、TRPG好きな芸能関係者を推す形で業界でWinWinの広がりを見せる時期がゼロ年代後半辺りから定着しおった」
NOVA『TRPGをたしなむのが、一部のマニアックな陰キャラゲーマーだけでなく、ストーリー遊戯として特撮やアニメとの役者関連で広がりを見せたのが、YouTubeなどで可視化されたのが10年代かな*4と認識しておりますが、俺みたいなオールドファンは「リプレイ=書籍や文章」という思い込みだったのに対し、動画配信でゲームのリプレイを公開し、人気を得たクトゥルフという革命があって、ビックリなわけですよ』
ヒノキ「動画映えするためのストーリー作りの素材としてのTRPG……というのが、この10年少しの動きじゃのう」
NOVA『その辺のフットワークは、やはりFEARさんの方が軽いと思いますね。例えば、ここで触れた「トーキョーN◎VA」の歴史についても、本家がこういう動画を用意していたり』
90年代に戻して
NOVA『で、本家のN◎VA紹介動画はさておき、俺のこの記事の目的は、N◎VA→アルシャードの流れにつなげることなんです』
ヒノキ「そう言いつつ、ちっともつながらないで一夏が過ぎたわけじゃがのう」
NOVA『とりあえず、FEAR社の根幹がN◎VA→SRSという路線があって、そこにきくたけ路線がまた別の筋から合流する過程があったわけですが、アルシャードを語るうえでは、井上純弌という別のデザイナーを語らねばなりません』
ヒノキ「今は『中国嫁日記』の作者じゃのう」
NOVA『井上さんは1996年のオリエンタルRPG「天羅万象」でTRPGデザイナーとして本格的にデビュー。本職としてはイラストレイターにして漫画家なんですが、当時はビジュアル関係からデビューするTRPGデザイナーは非常に珍しく、自分の作品のビジュアルイメージを商品化した画集のようなルールブックも新鮮でした』
ヒノキ「この天羅のルールデザイン・スタッフであった遠藤卓司さんや、天羅初版に途中まで制作協力していた久保田悠羅さんが、その後すぐにFEAR社に参入して、主戦力になっていく過程があるわけじゃな」
NOVA『ええ。天羅スタッフがすぐにFEAR社に合流して、トーキョーN◎VAの3版以降のルールブック執筆やサポートに多大な貢献をしながら、現在に至ることを考えると、天羅万象というゲームとFEAR社草創期の関係は非常に重要となります』
ヒノキ「天羅の2版『天羅万象・零』(1999)から、同じ惑星の別大陸を舞台にした西部劇モチーフの『テラ:ザ・ガンスリンガー』(2001)に至り、その次に『アルシャード』(2002)じゃったのう」
NOVA『この辺の次から次へと新システムが登場するダイナミズムがいいですね。TRPG冬の時代に、TRPGの火を絶やさないという勢いがあって、セブンフォートレスとともにFEAR社を盛り上げていく流れがありました』
ヒノキ「セブンフォートレスは、初版がホビージャパンから96年で、Advancedが98年、V3が2002年じゃったか」
NOVA『この時期の展開の早さの理由は、ホビージャパンの雑誌「RPGマガジン」が99年にトレーディング・カードゲーム主体の「ゲームぎゃざ」に切り替わるタイミングで、それまでサポートしてきた和製RPG展開を終了させるに当たって*5、それらのブランドをFEAR社が引き受ける形になったからでしょうね。FEAR社は元々、怪兵隊というグループもしくはフリーの立場でゲーム記事を書いていた関東在住クリエイターさんたちが集まって合同する形で創設。そこから、世紀末前後に急成長して、西のSNEと東のFEARという風に定着したのが21世紀になります』
ヒノキ「で、FEAR最初の完全自社タイトルとして始動したのが、2001年の『ダブルクロス』と、02年の『アルシャード』および『ナイトウィザード』になるかのう」
NOVA『まあ、それ以前はツクダホビーやホビージャパンから初版が出ていたゲームの引き継ぎでしたからね。この辺の世紀末業界再編の動きがいろいろあったわけですが、もう一つ、1996年の「エルジェネシス」のことも忘れてはいけません。FEAR社が雑誌「ゲーマーズ・フィールド」を開始した際に、最初に立ち上げた作品で、久保田悠羅さんの実質的なデビュー作と言ってもいい(その前にマギウスのサプリでデビューしていたけど)』
ヒノキ「エルジェネシスか。持っておるのか?」
NOVA『いいえ。当時は、とある理由で買いませんでした』
ヒノキ「とある理由?」
NOVA『このゲーム、90年代の和製ライトファンタジーのノリを再現しようという趣旨のゲームだったんですが、方向性は80年代のWARPSやルール・ザ・ワールドに近いものがある。もっと、ストレートに原作ものとなると当時は富士見のマギウスになるわけですが、エルジェネシスはあくまでパロディですね』
ヒノキ「うむ、ゲームの趣旨は分かったが、買わなかった理由が分からん。別にライトファンタジーが気に入らなかった訳でもあるまい」
NOVA『いや、まあ、当時はハードな作風が好みで、ライト寄りなのはあまり……というスタンスでしたけどね。それでも、このゲームのパロディ感覚は、後のアルシャードやセブンフォートレス、カオスフレアが受け継いでいくことになるわけで、歴史を振り返るには重要かな、と。実質的に「天羅とエルジェネシスの遺伝子が結びついたのがアルシャード」という感覚でいます』
ヒノキ「96年ということは、お前さんがSNEで見習い期間をやってた時期でもあるのう。ライバル会社の作品は買わないと決めていたとか?」
NOVA『いや、当時はFEAR社に対して、ライバルという認識は持ってませんでしたよ。ただ、エルジェネシスは売り方が気に入らなかった』
ヒノキ「売り方?」
NOVA『エルジェネシスの特徴は、ランダムテンプレートです。ボックス入りのゲームなんですが、イラスト付きの作成済みキャラクターシートが、定番のコモンシート以外にレアキャラのシートがランダムに封入されている。一箱買っただけではデータが完全に揃わないという』
ヒノキ「まるでTCGじゃな」
NOVA『箱入りゲームボックスをTCGみたいにいっぱい買わせようという、商売っ気の多い売り方だなあ、と。これがもし、全データ揃えるにはボックスが3つ必要という仕様で確実に入手可能なら、俺は買っていたかもしれない。しかし、キャラシートがランダムの場合、ルールは共通だし、ダブってしまうと損した感が付きまとう。何というか、このガシャみたいな感覚で、箱入りゲームを売りつけようという射幸心を煽るような商売スタイルが当時の俺には合わなかった。まあ、後から「ランダムテンプレート完全データ集」みたいなのが書籍で出版されていたら、買っていたかも』
ヒノキ「要するに、TCGみたいなランダム入手が肌に合わなかった、と」
NOVA『しかし、ランダムでなければ、このキャラテンプレートを目玉にする売り方は、現在のTRPG視点からは大切ですし、当時の俺が気に入らなかったという理由だけで、切り捨てるわけにも行きますまい』
ヒノキ「しかし、エルジェネシスは持っていないのじゃろう?」
NOVA『代わりに、これをネタに使います』
ヒノキ「タイトルに『新星界』とあるのう。確かに、新兄さんらしいチョイスというか。しかし、何故その作品を?」
NOVA『理由は2つ。まず、このゲームの初版というべき「スペオペヒーローズ」(92年)は俺が学生時代にプレイ経験のある大好きなゲームだったこと。まあ、スターロードの方はただのコレクションですが、これも98年に発売されたゲームとして、アルシャード以前のFEAR社を語るには向いている点。もう1点は、エルジェネシスと同様、ランダムテンプレートの入ってる数少ないゲームの1つという点です。このランダムテンプレート、結局はエルジェネシスとスターロードでしか採用されなかった実験的手法だったわけですね』
ヒノキ「なるほどのう。では、次回の記事は、スターロードというシステムを題材に、ランダムテンプレートについて語ろう、という話じゃな」
(当記事 完)