過去編外伝の総括
リモートNOVA『前回は、新刊の購入報告みたいな感じでしたが、あれから読了したので、感想会ですな』
ヒノキ「ふむ。ほぼ2年ぶりの新刊だったので、思うことしきりじゃのう」
NOVA『さて、ゴブスレ本編は、ゴブスレさんと弟子の女神官ちゃんのダブル主人公の趣きが強いですな』
ヒノキ「常識人であり、神に愛された天賦の才を秘め、出自にも王族との絡みで秘密を抱えてそうで、しかも成長する主人公が女神官じゃのう」
NOVA『彼女の出自については、まだ思わせぶりな伏線がいろいろと撒かれているだけで、確定情報ではないわけですが、その謎が明確化すると本編が大きく展開するのは間違いありません。現在、最新巻の16巻でも、王妹の代役を違和感なく務める女神官ちゃんの威厳ある活躍が描かれ、双子説を補強してましたし』
ヒノキ「その謎をどこまで引っ張るかはさておき、最初は未熟だったキャラが試練を経て成長するドラマは、長期シリーズとして読み応えがあるのう」
NOVA『外伝のイヤーワンや、外伝2のダイカタナといった過去編シリーズで、本編の強キャラの未熟時代や過去の歴史的事件が紡がれていくのも俺好みと言えますし、それと本編のリンク具合も味わい深いな、と思えます』
ヒノキ「で、イヤーワンは未熟な少年ゴブスレが5年をかけて、本編1巻の銀等級冒険者に成長して行くかを描いた物語じゃな」
NOVA『ええ。本編の女神官とゴブスレさんは対比的に描かれているわけですが、心が壊れた非常識人であり、天才ではなく努力と経験の積み上げであることを強調しており、出自も王族とは無縁の農家の出であり、本編では(ゴブリン退治限定だけど)ベテラン扱いされるというゴブスレさんがいかに誕生し、熟達するかの過程を丁寧に描いています。今回は、そういう観点でシリーズを振り返ってみようか、と』
1巻(2018年3月)
NOVA『時期的には、本編の7巻と同時発売です。ちょうど前巻に当たる6巻が、ゴブスレさんの過去の悲劇を振り返るような仕切り直しの話なので、それを受けての過去編がスタートしたって感じですね』
ヒノキ「アニメ2期がそのタイミングを踏まえたような内容じゃったのう」
NOVA『OPとか、前半はところどころイヤーワンやダイカタナといった外伝を踏まえた演出があって期待も大きかったのですが、後半は尺の都合もあって、強引に押し込んだ感で、個人的には物足りない印象でした。3期はいつになるかなあ』
ヒノキ「1期が2018年、2期が2023年じゃから、同じペースなら2028年まで待て」
NOVA『いや、劇場版が2020年でしたから、同じペースだと来年に劇場版の2作めが来る可能性も?』
ヒノキ「まあ、願望としておこう。で、イヤーワンの1巻めの感想は?」
NOVA『昔、書いてますね』
NOVA『たった1人で村を守るクライマックスが圧巻ですね。本編の1巻だと、「自分1人で村は守れないから、仲間の冒険者の協力を要請するシーン」がドラマの盛り上がりどころで、アニメの1期でも2巻との時系列を入れ替えてもクライマックスに持ってきたほどの爆上シーンだったわけですが、イヤーワンでは対比的に「仲間のいない命を捨てた孤軍奮闘ぶり」が鬼気迫る感じで、これはこれで痛々しくもハードボイルド的に格好いい』
ヒノキ「全体的に、イヤーワンは悲壮感を強調した作風ということか」
NOVA『TRPG的には、レベル1の白磁等級冒険者だったら、ゴブリン10匹でも死ぬわけですな。まあ、魔法使いが眠りの呪文でも使える環境なら勝ち目があるかもしれませんが』
ヒノキ「戦士1人では、まず無理じゃろう」
NOVA『だからトラップをあれこれ仕掛けたり、たった1人で群れを倒す方策をあれこれ考えるんです。ゴブスレさんがトラップ作りの達人であることは、本編の3巻で遺憾なく発揮していて納得ですが、イヤーワンではいかに稚拙で失敗だらけかを強調したストーリーで、その都度、反省して学ぶ過程が地味ながら丁寧。コツコツ積み上げて行くのがイヤーワンの醍醐味ですな。本編は派手にしようの方向性ですが、イヤーワンは地味ながらリアル、かつ不器用な少年が必死にサバイバルを頑張る姿がハラハラさせられる』
ヒノキ「しかし、死なんじゃろう?」
NOVA『瀕死にはなりますよ。ゴブスレさんの凄さは、とにかく肉体の頑強さと執念なんですよ。本編でも、死にかけ状態からの覚醒っぷり、不撓不屈さが描写されていますが、イヤーワンの1巻めは、仲間がいない分、さらに追い詰められ方が半端じゃない。で、そんなゴブスレさんの命を救ったのが、女神官ちゃんというのが良い伏線の張り方です』
ヒノキ「確か、女神官の初奇跡が、死にかけで地母神の寺院に運び込まれたゴブスレへの治癒呪文だったのじゃな」
NOVA『本人たちが、それを認識していないということですね。ゴブスレ15歳、女神官10歳の初邂逅は読者のみが知る、と』
ヒノキ「後は、ゴブスレが守った村が、勇者ちゃん(10歳)の出身地だというニアミスもあった」
NOVA『まあ、ゴブスレと勇者のニアミスは本編でもしょっちゅうですから、村をゴブリンから守るゴブスレと、世界を魔王などから守る勇者の対比は本作の面白いところです。でも、イヤーワンの勇者ちゃんはまだ覚醒前の村娘でしかないわけですが、勇者ちゃんがゴブスレさんを「村を守ってくれた英雄冒険者のお兄さん」と認識しつつ、本編3巻で会っても気付かないまま、以降は全く会う話がないのも、次に会う日はいつの日か、となる』
ヒノキ「本編3巻は、イヤーワンよりも先に書かれているからのう」
NOVA『10歳の時の記憶が、女神官も勇者も抜けているのだと思います。確かに、5年前に1回会っただけの名もない冒険者と、次に再会しても気付かない可能性は十分ある。そういう運命の出会いは、神視点の読者だから気づけるってものでしょう』
ヒノキ「あとは受付嬢や牛飼娘との関係性が5年前から本編まで、どう紡がれて行ったかも重要じゃな」
NOVA『両親や村人をゴブリンの襲撃で失って、たまたま街に遊びに行ってたから生き残った牛飼娘がショックで引きこもり状態になっていて、それがゴブスレとの再会で時計の針が動き始める展開がドラマですな。本編だと、実質的な嫁みたいな関係ですが、そこに至る前の不器用な恋愛未満なドキドキ模様がイヤーワンの魅力になりますか』
ヒノキ「恋愛なのか?」
NOVA『ゴブスレの方は、あまり意識してないですけどね。イヤーワンでは心が壊れちゃっていますから余計に。牛飼娘にとっては、彼が生きていたから自分も再出発できるという心の支えなんですけど、ゴブスレさんの方はゴブリン退治しか頭になくて、牛飼娘との関係まで気を回せる余裕がない。だから、アプローチは牛飼娘からの一方通行になりがちなんですな』
ヒノキ「牛飼娘はゴブスレ依存症で、一方のゴブスレはゴブリン退治のワーカホリックって感じじゃな」
NOVA『本編だと、人との関わりが増えた結果、日常生活の大切さにも気を回せるようになった感じですが、イヤーワンだと本当に周囲の人間が見えないで、冒険(ゴブリン退治)での学習一辺倒というか、クラブ活動に夢中で家庭生活に無頓着な高校生みたいな描かれ方かなに見えます』
ヒノキ「すると、受付嬢がクラブのマネージャーみたいなものかのう?」
NOVA『いや、部活の年若い女顧問みたいな感じですか。年齢的には2〜3歳年上で、学園ものだと大学卒業したての女教師みたいなものですから』
ヒノキ「ともあれ、本編ではゴブスレ側の心情があまり描かれていなくて、女神官側から見たゴブスレの姿が中心。同時に、牛飼娘や受付嬢のゴブスレに対する内面描写は描かれていても、ゴブスレの内面は対ゴブリン以外が少ない。イヤーワンはゴブスレの内面描写が本編よりも多くなっておるが、本編よりも日常場面が少ないこともあって、ゴブスレのコミュ障ぶりが強調されておると言ったところか」
NOVA『ゴブスレさんのコミュニケーション能力が、パーティー仲間とのやり取りでいかに改善されて行ったか、イヤーワンを読んでいると実によく分かります』
2巻(2018年11月)
NOVA『イヤーワン2巻の発売時期は、本編8巻の一月後。ちょうどアニメ1期が放送中のタイミングですね』
ヒノキ「2巻からは、ゲストヒロインがゴブスレの指導教師役として絡み、毎回ゴブスレが何かを学びとる展開が構築されるようになった」
NOVA『2巻のゲストは、《界渡り(プレインズ・ウォーカー)の魔女》とも言われる、弧電の術師(アークメイジ)。ゴブスレさんがマジックアイテムのことに詳しいのは、彼女の教えと遺産を受け継いだから、という設定がこの巻で描かれました』
ヒノキ「ゴブスレは、戦士と野伏の野外活動がルーツで、圃人(レーア)の師匠から斥候的な技能や裏社会のコネなんかを授けられたともある。しかし、魔法関係のことには無知なはずなのに、魔法の品物に関しては異常に詳しい」
NOVA『それだけじゃなくて、呪文の裏ワザ的な活用能力が高くて、ずっとパーティーを組まないソロ活動でやって来たのに、専門でもない魔法関連の知識が異常に詳しい理由が、魔法の達人に短期間雇われて、助手みたいなことをしながら、ゴブリン退治に応用できるよう研鑽を重ねてきたことが語られます』
ヒノキ「《界渡り》とは、TCGのマジック・ザ・ギャザリングの用語じゃのう」
NOVA『この巻は、「ゴブリンスレイヤー、異世界で戦う」というクライマックス展開なんですね。ゴブリンが無限に湧く異界に通じる塔で、師匠役の魔女の提供するマジックアイテム大盤振る舞いで、3桁に及ぶゴブリン大量虐殺で相当な経験値を重ねつつ、本編の派手な活劇ぶりのルーツとなったりします』
ヒノキ「ゴブスレの師匠は奇矯人が目立つが、違う世界の魔女で呪符(カード)を使った独自性の高い術は、TRPGでも実装されておらんのう」
NOVA『あの魔女独自の術か、四方世界の外から伝えられた魔術なので、他に使える者もいないのでしょう。当の本人も異世界に旅立ち、ゴブスレさんに大量のマジックアイテムと研究資料を残しましたから』
ヒノキ「ゴブスレが学がないにも関わらず、異常に研究熱心なのも彼女の影響なのじゃな」
NOVA『イヤーワン1巻の時点では、地に足ついたゴブリン対策を練っていたゴブスレさんが、ゴブリン相手にそこまでするかという豪快さ(それだからこそ、ゴブリンよりも強力なボス敵への逆転手段となる)にシフトしたのも、常識に囚われない工夫をあれこれ考えるようになったのも、異世界の技を使う奇抜な魔女の影響が大きいのだと思います』
3巻(2022年12月)
NOVA『で、今回4巻が出るまでは、本編も含めてシリーズ最新刊だったイヤーワンの3巻です』
ヒノキ「本編の16巻は22年の7月だったからのう。ずいぶん間が空いた」
NOVA『まあ、コミック版を入れるなら、去年は本編の14巻、イヤーワンの10巻と11巻、ダイカタナ6巻、デイ・イン・ザ・ライフの1巻が出て、その続きも今年に1冊ずつ出ているのですけどね』
ヒノキ「巻数だけ聞かされても、内容が分からん。中身を説明せんか」
NOVA『コミックは追いかけてないので、公式サイトのあらすじを調べての補完です』
- 本編コミック:14巻から15巻までが原作小説の7巻(エルフの森編)を展開中。アニメが原作8巻まで消化したので、コミックの方が後追いになっている形。
- イヤーワン:10巻が原作3巻を完結させて、10巻の途中から12巻まで原作4巻を先行展開していた。原作者によると、イヤーワン4巻の原稿は、去年のアニメ放送までに編集部に渡していたそうなので、編集サイドが「4巻の原稿を元に、コミックを先に展開し、コミックが中盤を過ぎた段階で、小説を(ようやく)出版した」ことになる。作者視点では、1年以上前に書いた原稿がようやく日の目を迎えた形。まあ、その間にブレバスなどを書いていたわけだけど。
- ダイカタナ:6巻で3階、7巻で4階ということは、原作の中巻に至っている形。元ネタのウィザードリィ同様、4階の次はエレベーターでショートカットして9階と最終10階まで攻略するのが原作の下巻なので、おそらく完結は10巻そこそこになると推測できる。
- デイ・イン・ザ・ライフ:原作の短編集(12巻)をコミック化した作品で、同じく4巻をコミック化したブランニュー・デイの系譜に当たる(作画家は違うけど)。ブランニュー・デイ同様、2巻分で完結。
NOVA『ということで、メディアミックス戦略を考えるに当たり、本編の方はコミック展開が原作やアニメに比べて遅いのに対して、イヤーワンの方が本編よりもコミックの方が先行していたという(俺にとっては)意外な事実が今回、判明したわけですな』
ヒノキ「原作読者の新兄さんにとっては、原作が先にあっての後追いコミックという思い込みがあったのが、イヤーワンは番狂せ作品ということじゃな」
NOVA『一方、アニメはコミックの方を放送中に追い抜きましたからね。これも原作小説→コミック→アニメの順番だったら、アニメ2期の後半の完成度ももう少し高かったのでは? と思ったりします。後半はコミックの演出が参考にできないので、原作小説を直にダイジェスト的に落とし込んだ形になって、描写不足、説明不足な面が目立ちましたからね』
ヒノキ「脚本が、原作の地の文をスルーしてセリフだけを引き写した形じゃからのう。ゴブスレ小説は、地の文にキャラの内面心情が大量に描写されていて、コミックだとその内面描写を補完しながら進めていたものが、原作→アニメと直に引き写すと、内面心情やキャラのとった行動の意味が解説されずに、アニメだけの視聴者にとっては???という意見が多かったと聞く」
NOVA『おかげで、感想サイト(掲示板やブログコメント)では原作既読勢が嬉々として解説して、疑問符だらけのアニメ民の補完を助けていたわけで。1期はアニメらしい構成の変化もクライマックスの盛り上げに向けて非常に計算高く作られていましたが、2期はこと心情描写に関する限り、前半は良かったのに、後半がスカスカで、まあアクションだけを見るならいいのでしょうけど、削られた分が多すぎてダイジェスト感が強かったな、と』
ヒノキ「それが不満な視聴者をコミックに誘導する戦略かもしれんがのう。アニメ→コミックという導引になっていれば、メディアミックスとしても成功じゃろう」
NOVA『ともあれ、本編は原作側にまだまだストックがいっぱいあるわけですが、イヤーワンはストック切れになっている感ですね。まあ、次にアニメ化するなら、イヤーワンの1巻辺りを劇場版にすればいいんじゃないでしょうかね。ただし、ゴブスレさんの声優をどうするか。成長したゴブスレさんの渋い梅原ボイスをそのまま使うか、それとも未熟な少年ボイスで違う声優さんを起用するか』
ヒノキ「そこは声優を変えると、ファンが怒ったりもしそうなので、梅原さんに頑張って少年ゴブスレを演じてもらう方が無難じゃろう」
NOVA『まあ、現段階ではただのファンの妄想でしかないですけどね、イヤーワンのアニメ化。ただ素材としては、イヤーワンはTVよりも劇場版向きだと思うんですよね。本編以上に過酷で、残虐シーンも多いですし、深夜枠とはいえ、TVには向かないというか。そのまま映像化すると、トラウマになりかねないので、PG12指定の付いた劇場版「ゴブリンズ・クラウン」みたいな形の方が公開しやすいというか』
ヒノキ「妄想はそれぐらいにして、イヤーワン3巻に話を戻さんか?」
NOVA『イヤーワン2巻が、ゴブスレさんの奇矯さ、研究マニアっぷりに磨きが掛かる話だとしたら、3巻は彼の振り切れちゃった回路をもう一度、常識に戻して、地に足を付けさせようって話です。冒険者ギルドの査察官がゲストヒロインで、ゴブスレさんに「持続可能な冒険者生活」を伝授する展開ですね』
ヒノキ「持続可能とは?」
NOVA『2巻までのゴブスレさんは、とにかく自暴自棄なんですね。後先考えないというか、ゴブリンが殺せるなら自分の命がどうなっても構わないというか。まあ、2巻で外の世界の謎に対する好奇心が出てきた形ですが、3巻では独り善がりで身勝手で周りが見えていない志向を、査察官のお姉さんがどう矯正するかがテーマです』
ヒノキ「本編では、女神官や妖精弓手、受付嬢、牛飼娘たちがそれぞれの立場で矯正している感じじゃが?」
NOVA『イヤーワンでは、基本的に受付嬢と牛飼娘しかいなくて、どちらもまだ未熟で、ゴブスレさんとの距離感を探っている段階ですね。だから、ゴブスレさんに対して、ああしろこうしろって意見することがまだできないわけですよ。そこで、受付嬢の先輩である査察官のお姉さんが「ゴブスレさんを冒険者の卵として見極め、必要な社交や冒険のあり方をアドバイスしたり、説教指導する」という形で、改めて四方世界の冒険者というものも基本から描いてみせた作品です。総じて地味な物語ですけど、それでもクライマックスはたった2人で、ゴブリンロードの群れと戦う流れです』
ヒノキ「たった2人で敵群と戦うというのが、ゴブスレと女神官の師弟バディ物として始まった本編をなぞらえている感じゃのう。ゴブスレは本編以前はずっとソロ活動の冒険生活じゃったが、イヤーワンではゲストヒロインとのバディ物として(1巻を除く)展開しておる」
NOVA『さすがに、たった1人のキャラでドラマを描くのは創作としても困難ですからね。連れがいることで会話のやり取りもでき、ドラマもきちんと成立する。1人劇で面白い物語を創るのは、非常に困難ですし見栄えもしません』
ヒノキ「本編のゴブスレは、女神官にとって冒険の師匠であると共に、コミュニケーション能力や仲間への気配り面では女神官の方がゴブスレの師匠になっておる」
NOVA『イヤーワンを通じて描かれるのは、ゴブスレの初代師匠が亡き姉なので、お姉さん代わりに面倒をあれこれ見てくれる女性キャラには、ゴブスレさんは非常に素直な弟分として愚直に学ぶんですね。そして、イヤーワンにおけるゴブスレさんのドラマ構成は現在の「仮面ライダーガヴ」と全く同じです』
ヒノキ「ガヴとゴブスレが同じじゃと? どういうことじゃ?」
NOVA『作劇フォーマットがこんな流れです』
- 未成熟な主人公が、ゲストと出会う。
- ゲストが主人公の奇矯ぶりにツッコミ入れつつ、そのピュアな真っ直ぐさに心打たれたりもしながらの交流ドラマ。その間に主人公は、ゲストから大切なことを学ぶ。
- ゲストと共に迎えるクライマックスバトル。主人公はゲストから学んだ知恵を駆使したり、持ち前の機転を活用したりして、危機を乗り越える。
- ゲストとの別れ。主人公はゲストとの思い出や学びに感じ入りながら、自分の日常、もしくは一人旅に戻る。
NOVA『要は、「出会い」→「交流と学び」→「学びを活用しながら危機を乗り越える」→「別れ」という4段構成ですな。違うのは、現状のガヴが定住生活を営んでいないロードムービー形式なのに対し、ゴブスレはゲストヒロインの方がラストで旅立つ点。ゴブスレは基本的に帰る拠点を持っている話ですから』
ヒノキ「なるほど。大切なのは、主人公の学びじゃな」
NOVA『ええ、これは作者が物語をしっかり構築しているかのポイントですが、「主人公が他のキャラとの交流を通じて、何かを学び、その学びを活かして危機を乗り越える」という1話の縦糸があれば、ドラマは成立します。逆に、交流は描いても、そこで得た経験や感じたこと、考えたことが、後のクライマックスに活かされていなければ、シーン構成の行き当たりばったり感が目立ちますね。
『ギャグコメディなら、瞬間瞬間の面白さの積み重ねでもいいですけど、読後の満足感を与えるには、「交流に際してのキーワードもしくはテーマが、事件解決の重要な伏線になっており、かつ、それ以外の主人公らしい機転を組み合わせることでの、学び+コピーとは異なる活用力の披露」があってこそ、だと思います』
ヒノキ「単に、学んだことをその通り繰り返しているだけでも、つまらないということじゃな」
NOVA『物語には意外性も必要ですからね。つまり、学んだことを活かしつつ、それをさらに膨らませるに至って、主人公すごい、と思えるわけです。逆に、ボスの倒し方がそれまでの物語と一切関係なく、とっさに編み出した新必殺技とか思いつきの産物ではダメですね。行き当たりばったりが過ぎると、子ども騙しでしかありませんので、目の肥えたファンには物足りないか、と』
ヒノキ「で、作劇論はともかく、イヤーワン3巻のゲストである査察官のキャラはどう思う?」
NOVA『彼女は、個人的にイヤーワンで一番つまらないキャラだと思ってます。ゴブスレさんの奇矯さを矯正する役割のキャラなので、生真面目な委員長タイプで、隙がなさ過ぎる。こういうタイプで人気を出そうと思えば、表は完璧超人でも裏では思わぬ弱点があって、真面目さが崩れる葛藤シーンが欲しいわけですが、イヤーワンは本編ほどギャグ方面に振り切れていないうえに、キャラの交流による関係性の積み上げや深化に至らないのが構造上の欠点かと』
ヒノキ「それでも、お主は推しているんじゃろう?」
NOVA『ゴブスレ小説は、メインストーリーとは別に「間章」という形の変化球エピソードが挟まって来ますからね。本編がつまらない回であったとしても、「間章」がツボを突くこともあるので、そのワンシーンでも楽しかったら、読んだ甲斐があると思えるわけですし、単独の巻ではつまらなくても、後々に重要な伏線が撒かれていると分かれば、読み直して改めて感じ入ることもあるわけで』
ヒノキ「イヤーワン3巻は、そういう話ということか?」
NOVA『さあ。とりあえず、この話は査察官がかつての《死の迷宮》体験者であるという設定と、ゴブスレだけでなく受付嬢にとっての一時的師匠に当たる先輩枠なのと、いろいろとチートな能力が付いて来てはいるのですが、結果的にゴブスレの主人公性を引き立てるキャラにはならなかった感ですな。主人公の魅力を盛り立てる役柄ではなく、主人公に常識の枠を伝えるための役割で、作品世界では重要なんだけど、物語としては跳ねなかったという印象です』
ヒノキ「本編の方に査察官が再登場すれば、見る目も変わるかもしれんのう」
NOVA『そうですね。とにかく、査察官がやった仕事は以下のとおりです』
- 寝る間も惜しんでゴブリン退治に励むゴブスレに、体調管理も冒険者にとって大事だと教え込む。
- 新人のゴブリン退治の仕事を根こそぎ奪いとるゴブスレの悪癖に釘を刺す。ギルドの一員として、周りのことをもっと考えろ。以降、ゴブスレは過剰なゴブリン退治への貪欲さを控えて、「他の冒険者の受注した後から、余ったゴブリン退治の仕事を残飯処理的に引き受けるスタイル」に切り替える。それでもゴブリン退治の仕事は大量に(安い料金で)持ち込まれるから、受付嬢には重宝されているのが本編だけど。
- ゴブスレが悪意をもって独り善がりなやり方を貫いているのではなく、単に社交性が未熟で冒険者としてのマナーを知らないだけ、そして教えたらしっかり受け止めて学ぶことと、表には出さない善意の持ち主であることを知る。それによって冒険者ギルドでの昇格を認め、ゴブスレの社会的立ち位置を冷静かつ客観的に保証し、冒険者としての振る舞い方をしっかり教示する。
- 本編で、受付嬢や牛飼娘が行っているゴブスレへの躾を、初めて総合的に執り行う保護者キャラとなった。おそらく、最初に感情抜きにゴブスレの本質を分析し、認めるに至った人物。ただし、本編の読者にとっては、ゴブスレのキャラ性は周知の通りなので、何を今さらって感じが強い。今さら冒険者としての振る舞い方を説教されても、物語の面白さにはあまり貢献しない。
- 逆に、イヤーワンは未熟時代のゴブスレの物語なので、冒険者として未熟なゴブスレのキャラを再確認するための人物と言える。ともあれ、ゴブリン退治だけで銀等級の冒険者に上り詰めたゴブスレの奇矯なキャラ設定を、世界観の方でしっかり下支えする役割のキャラ。彼女がいなければ、ゴブスレは常識を知らないまま、のたれ死んでいたろう、と思われる。
ヒノキ「つまり、社会人としての生き方を教えてくれた冒険者マナー講師みたいなものじゃな」
NOVA『ある意味、ゴブスレさんが女神官ちゃんの師匠役として、寡黙ながらあれこれ世話を焼いたり、説教できたりするのも、3巻の査察官の教示を受けたからこそ、と言えます。冒険者ギルドでのマナー(仕事の受注の仕方や、他の冒険者への気遣い、依頼人との交渉の仕方などなど)は査察官が実地研修して見せたからこそ、ゴブスレさんも持続可能な冒険者としてやって行けたのだと思うし』
ヒノキ「それにしても、寝る間も惜しんでゴブリン退治をしたがるゴブスレに、ちゃんと寝ろ、というところから教え込むなど大変じゃな」
NOVA『牛飼娘やその伯父の牧場主が本編では普通に言ってることなんですけどね。イヤーワンではまだそこまでの関係性が構築できていないという』
4巻(2024年9月)
NOVA『で、いよいよ最新刊なんですが、今回のゲストヒロインは青髪のエルフの女剣士で、ゴブスレさんに剣術の基礎を教えてくれます』
ヒノキ「これまで基礎を知らずに戦っていたのかよ!?」
NOVA『がむしゃらに体力任せで、傷つきながら夢中で武器を振り回す我流剣術だったようですね。エルフ剣士が教えてくれたのは、相手の攻撃の軌道を見切ることと、受け流すためには攻撃線を自分の外側にそらすだけでいいこと、左手の盾の活用や、足運びの大切さなどなどです』
ヒノキ「つまり、それまでは受けや回避がろくにできなかったのが、できるようになった、と」
NOVA『イヤーワンでは防御を考えていなかったようですね。まあ、ゴブリン相手だったら、やられる前にやれ、で十分対処できていたのでしょうが、人間以上の大きな体を持つ相手に対して、ろくな回避もできなければ勝てないな、と』
ヒノキ「で、今回はゴブスレが初めて関わったエルフじゃな」
NOVA『ええ。プロローグでは、妖精弓手も顔見せ登場しています。故郷の森を出て来たばかりで、今回のエルフ剣士と一時の同行者になっていたシーンですね。エルフ剣士は故郷の森を蟲遣いの異端魔術師に滅ぼされて、その敵討ちのために旅しているという設定で、そんな彼女が旅先でゴブスレに興味を持って……という出だしです』
ヒノキ「興味を持つって、またどうしてじゃ」
NOVA『彼女の鋭いエルフの勘によれば、「ゴブスレはカオスを引き寄せる性質がありそうで、彼に関われば、仇にたどり着けるかも」ということみたいですね。実際に、ゴブリンを追って行った先に、ゴブリンの黒幕的に異端魔術師がいたわけで、それでクライマックスに至る流れです』
ヒノキ「まあ、ある意味、故郷を滅ぼされて仇討ちを志す者としての連帯感もあったのかもしれんのう」
NOVA『で、今回の話では最後がビターエンドなんですよ』
ヒノキ「事件は解決したけど、犠牲が出たってことじゃな」
NOVA『ネタバレすると、ゴブスレさんがゴブリンや手下モンスターと戦っている間に、エルフ剣士が魔術師と戦って、相討ちで終わる流れです』
ヒノキ「ゲストヒロインが死ぬのかよ」
NOVA『姉以外では初めて目の前で死ぬわけですね。そして介錯を求められる形で、ゴブスレさんが初めて人をその手に掛ける形になります』
ヒノキ「エルフは人なのか」
NOVA『森人と表記されますから、小鬼ゴブリンと違って人ですね。本編では、ゴブリンの毒で死にかけた女魔術師の苦しみを止めるために、女神官の目の前でトドメを刺していますが、自らの恩人剣士に頼まれてトドメを刺すという場面で、本編へのリンクがまた一つ、と』
ヒノキ「初めての人殺しか」
NOVA『その後、彼女の遺体を小船に乗せて、西の海へ流れ着くよう取り計らうなど死者への尊厳を描いていますね。神官じゃないから、こういう儀式のやり方は正確には知らないけど、何かの物語で聞いた話を参考に、ということで、「ロード・オブ・ザ・リング」のボロミアの死を連想させるシーンとなっています』
ヒノキ「ゲストヒロインとの別れはあっても、死別は初めてじゃのう」
NOVA『もう2度とエルフと同行することもないだろう、とゴブスレさんはその場では思いつつ、まあ、本編の妖精弓手との関わりに至るわけですし、途中で「エルフの清浄な霊気はゴブリンと相容れないものだから、エルフが一緒だと、ゴブリンの反応が素早く激しくなる」ということをゴブスレさんが初めて認識するのも、本編描写と組み合わせると面白いです。しっかり匂い消しをした方がいいかもな、とか』
ヒノキ「イヤーワンは本編のルーツじゃから、そういうネタが一つの醍醐味か」
NOVA『あとは、魔神王復活の伏線みたいな描かれ方があったり、疲れきったゴブスレさんが牧場に帰還した際、牛飼娘が地母神さまの説法を聞きに行った話をしてくれて、それがゴブスレさん自身の癒しにもなるって話で幕を閉じる』
ヒノキ「女神官は直接登場しておらんが、地母神の教えというキーワードで、間接的につながって来る手法か」
NOVA『それまで、ゴブスレさんは信仰というものをあまり意識していなかったんだけど、エルフ剣士の死に際して、初めて弔いの意味を考えるようになる。そこに救いがあるかはともかく、牛飼娘の話に感じ入ったものがあるのを描写して、2人の関係性にも一歩通じた形で読後感は悪くない』
ヒノキ「その辺はなかなか難しいのう。ゴブスレと牛飼娘の関係性を、本編以上に進展させるわけにもいかず、どうしてもよそよそしくなるというか」
NOVA『それでも、イヤーワン3巻が総じて過去の話(ダイカタナ)とのリンクで構築されていたのに対し、4巻は未来(本編)とのリンクが目立つ感じです。あと、さりげなく牧場主さんの過去設定が明かされて、5年前の魔神王との戦争では兵士として出征した経験も持っているそうで、実は軍隊経験ありだった、と』
ヒノキ「ほう。では、戦ったら意外と強い可能性もあるのじゃな」
NOVA『さらに、近ごろまたモンスターの出現率が上がっているとの背景情報も出ていて、魔神王復活という危機に向けての物語が加速するような流れですね』
ヒノキ「ならば、ゴブスレも経験を積んで強くならねばのう」
NOVA『次は、イヤーワンのコミック13巻(おそらく秋から冬発売)をチェックすれば、小説5巻の先行話が入っているかな、と期待しつつ。まあ、本編の17巻が先に来てくれることを期待します』
(当記事 完)








