RPG世代論の確認
リモートNOVA『さて、ヒノキ姐さんはRPG世代論という考えをご存知ですか?』
ヒノキ「確か90年代にTRPGの歴史を語る際に設けられた概念じゃのう。第1世代は、元祖のD&DやT&Tに見られる『ゲームとしてのシステム重視のプリミティブな作品』で、背景世界や物語にはあまりこだわっていないもの」
NOVA『とりあえず、キャラクターはゲームのコマ程度の認識で、死んだら次のキャラを作って、冒険を楽しみ続ける、と』
ヒノキ「第2世代は、トラベラーやルーンクエストを代表とする『背景世界を重視して、その世界の住人としてのキャラクターの人生を構築できる作品』と定義できるかのう」
NOVA『緻密な背景世界を設定して、そこでの生活をイメージできるようになった作品ですな。ゲームに世界観というものを持ち込んで、世界の住人としてのキャラクターを作成できるようになった』
ヒノキ「初期のD&Dは、文字どおりのダンジョン探検ゲームで、冒険の舞台であるダンジョンと冒険の準備をするためのベースタウン(買い物と休息・回復のできる城や街)があれば良くて、それがウィザードリィや『ダンジョン飯』などの傑作を生むようにもなった」
NOVA『しかし、やがて冒険できる場所が屋内ダンジョンだけでなく、平原や森林、都市、海洋、砂漠や氷雪地帯、そして空を越えた宇宙など、外の世界にどんどん広がっていき、ゲームマスターはダンジョンだけでなく、外の世界を設定して、その地図を書くことでワールドデザインまでを行うようになった』
ヒノキ「先にゲームシステムがあって、世界が後付けなのが第1世代。先に背景世界ありきで、それを表現するためのシステムが第2世代と言えようか」
NOVA『で、D&Dも後から遅れてワールドガイドを発表するようになり、その後で今度はゲームでの冒険を題材にした小説を生み出すことになった』
ヒノキ「時期的には、70年代半ば(74〜76年)が第1世代。70年代後期から80年代初頭(77〜82年)ごろが第2世代と言えようか。そして、83年辺りから、日本でもRPGという新ジャンルのゲームに注目する動きが出てくる」
NOVA『日本では上陸当初から、第1世代のD&D、第2世代のトラベラーが同時に知られていたわけですね。D&Dよりも先に邦訳されたトラベラーは、ファンタジーのD&Dに対して、元祖SFRPGの肩書を持つとともに、キャラクター作りだけでなく、サイコロを振るだけで星系データが作られ、また宇宙船の設計ルールなど外枠を緻密に作ることができるゲームだった』
ヒノキ「物語世界の歴史年表なども作られる反面、キャラクターが成長しないという意味で画期的じゃった」
NOVA『そうですね。D&Dがどんどんキャラクターをレベルアップさせて、強い敵でも倒せるようになる成長ゲームであることをゲームの大きな魅力にしていたのに対し、トラベラーはキャラクター作成時に成長させて、最初から技能をいろいろと習得して完成したキャラクターで大宇宙を冒険した。キャラを強くすることが目玉ではなく、探索する背景世界の謎を解明したり、その世界で空想的な人生を過ごしたりすることがゲームの目的だったわけです』
ヒノキ「まあ、成長はないと言っても、冒険で入手した金銭(クレジット)を使って装備品を整えたり、宇宙戦を改造強化したりはできたがの。D&DみたいなレベルアップとかHPの増加とかがなかっただけで」
NOVA『でも、日本では経験点を貯めて成長する要素こそがRPGの本義、と受け止められて来ましたね。RPG=成長ゲームと当初から受け止められていて、キャラの育成こそが魅力の一環ともなっている』
ヒノキ「さておき、ゲームとストーリーの融合が84年のドラゴンランス辺りから注目されるようになって、日本に上陸したのもその辺りからじゃのう」
NOVA『ゲームのプレイを通じて物語が生まれ、また既存の物語の設定をゲームのシステムやシナリオに落とし込むようになりました。こうして「物語を表現するシステム」が第3世代として80年代の最先端と見なされていたわけです』
ヒノキ「背景世界重視からストーリー重視の流れじゃな」
NOVA『背景世界重視だと、キャラクターは世界の一住人だから、英雄性とは程遠いんですね。たくさん冒険を重ねて、運良く生き残ったら英雄になれるというリアル志向で、ヒーローらしく華々しい活躍ができるとは限らない。死ぬこともドラマの一部と考えて、キャラは死んでも後継キャラによって物語は引き継がれる的な遊びも多々見られました』
ヒノキ「しかし、物語を紡ぐことがゲームの目的となった以上は、主人公格のプレイヤーキャラクターがそう簡単にコロコロ死んでいては、話にならんじゃろう」
NOVA『まあ、D&Dみたいなファンタジー世界なら復活の魔法とかも設定されたり、SF世界なら記憶を引き継いだクローンなんかも設定したり、死んだ肉体を機械的に改造して復活させたり、いろいろと対策が考えられたりもしたのですが、そもそも80年代のゲームは死ぬのが当たり前で、コンピューターゲームだと死んでは再挑戦を繰り返すのが常識。あとは死んだらゲームオーバーだから、セーブしたところからやり直しなのか、死んでもお金を払って(ペナルティーを負って)生き返ることができるのか、などなどキャラの生死の扱いもゲーム性と言えたわけですな』
ヒノキ「死んでやり直すというのが、ゲームと既存の物語の差と言えるかのう」
NOVA『ゲーム感覚というのが、やり直し可能な人生とか物語の意味合いで使われたりするわけですね。それはさておき、第3世代のRPGはしばしば原作付きで、キャラクターが作品世界の登場人物らしさをいかに発揮できるかを目指した設計思想です。その嚆矢がヒーローポイントというシステムを採用した「ジェームズ・ボンド007RPG」(1983、邦訳は1985)とされています』
ヒノキ「そのゲームは、今では語る者も多くないマイナーゲームと言えようが、ヒーローポイントというシステムの発明ゆえ、RPGシステム史において外せない作品となっているのう」
NOVA『ポイントを払うことで、致命傷をなかったことにしたり、失敗を成功にできたり、ゲーム中に発生する不慮の事故を防いだり、アクション映画で見られる派手なシーンを表現する助けになったり、ヒーローポイントを稼ぐために序盤はわざと判定に失敗してピンチを自ら演出したりなどなど、ランダム性の多いゲームシステムに、プレイヤーが自主的に物語を演出できる要素を加えたわけですな』
ヒーローポイントの継承
ヒノキ「ところで本記事は、きくたけゲームの話をするはずが、ずいぶん前置きが長くないか?」
NOVA『彼のTRPG代表作は、まず「セブン=フォートレス」なんですが、そこに至る流れとして、第3世代RPGの系譜は語っておきたかったんですよ』
ヒノキ「ところで、第3世代以降の世代論はどうなっておる?」
NOVA『世紀末のTRPG冬の時代以降は、RPG業界も多極化・分散化が進んで、客観的な歴史として統一された世代論を語れる評論家もいなくなったというか、ネットで個人の見解を語っている記事はそれなりにあるのですが、90年代のRPGマガジンみたいな誰もが認める権威ある雑誌もなく(各社のゲームサポート雑誌はあるものの)、群雄割拠というか多様性というか、全体像を俯瞰した意見としてまとめにくい模様ですね』
ヒノキ「新兄さんなりの見解もあるのじゃろう?」
NOVA『FEARゲームをまとめて、第4世代として扱うのは大雑把すぎますかね。少なくとも、SNE作品がゼロ年代のRPGシステム発展史に貢献したとは言い難いので。まあ、ドイツゲームやトレーディングカードゲームや、アナログゲーム業界を広く牽引したのは間違いないですけど、TRPGのシステム面での進化に貢献したのはFEARさんの方です。その牽引手が社長の鈴吹太郎氏であり、副社長だった菊池たけし氏であり、90年代末期からゼロ年代はSNEがFEARさんの後追い、もしくは旧世紀の遺産を継続させるか、新しいシステムを発表しつつも時代を変えるメジャー化には至らなかったと考えます』
ヒノキ「辛辣な意見じゃのう」
NOVA『ゼロ年代のSNEのTRPGシステムの試行錯誤は、細かいネタがいろいろあるのですが、ソード・ワールドの継続とGURPSが2本柱で、他は……次代への種まきの時期になるのかな。結実する前段階ということで、大きな流れとしては、1993年に生まれたFEARさんが日本のTRPG業界の一つの主流として、花開いたのがゼロ年代から10年代の前半までと考えます』
ヒノキ「で、そのFEARゲームが第3世代の後の第4世代という仮説じゃな」
NOVA『第4世代は、第3世代の物語性重視のシステムをさらに発展させて、「物語の構成要素を細分化させて、それをランダムもしくは選択(ROC)によって複数要素の組み合わせで、多彩なキャラとストーリーパターンをシステマチックに組み上げることで、比較的安定した物語フォーマットを作成できるようになったシステム」と定義してみます。つまり、物語制作支援ツールとしての完成形を目指したわけですね。
『ただ、ゼロ年代は貪欲に、日本のアニメやコミック、既存ゲームの要素をどんどんと取り込んで、スタンダードを構築できたにも関わらず、10年代に入ると、その完成品のフォーマットが硬直化してしまい、データは増えるけど、結局、同じようなシステムを同じようなフォーマットで量産することで、一部の熱心なファンを除けば、飽きられてしまった。完成したが故の頂点から先の展望が見えなくなった。今のFEARさんはゼロ年代のSNEと同じような状況かな、と感じますね』
ヒノキ「コツコツ続けてはいるんだけど、ブレイクには至らない、ということか」
NOVA『2014年の前は20周年イベントで盛り上がっていたけど、30周年は少なくとも出版関係でそれを祝う流れにはなく(コロナ禍明けという事情とか、人材の流出とか裏事情はあれこれ察する)、それでも旧商品の電子書籍化という形で販路獲得を試みている最中ですな。まあ、TRPG業界の牽引社というかつての栄光とは遠ざかったかな、と思っています』
ヒノキ「その、かつての栄光を振り返ろうって話じゃな」
NOVA『ところで、ヒノキ姐さんはORGという会社は知っていますか?』
ヒノキ「もちろんじゃ。新和時代のD&Dの翻訳を担当し、『ダブルムーン伝説』(1991)などの作品で一世風靡した老舗じゃ」
NOVA『93年に社長の大貫さんが急逝されなかったら、もっと業界を牽引していたろうに、と思うと残念ですが、このORGのTRPGエッセンスの一部を引き継いだのがFEARさんだと思うんですね。まあ、ORGという会社自体は今も継続していて、TRPGではなく、もっぱらトレーディングカードゲームが主体となっているようですが、俺はその辺のアンテナがあまり張ってないので、今知って感じ入っているところです』
ヒノキ「一世風靡した会社でも、時流を乗り越えるのは大変というのが、最近、ガイナックスの例で痛感したからのう。コツコツでも継続することに意義があるというか」
NOVA『ORGさんの作品にも、いろいろお世話になりましたからね。で、ORGの大貫さんの名前を出したのは、菊池たけしさんのルーツにつながる「ワープス(WARPS)」を紹介したくて』
ヒノキ「GURPS翻訳前に、日本初の汎用RPGシステムを謳った作品じゃな。ツクダから『カリオストロの城』(1987)、『逆襲のシャア』(1988)を出した後、オリジナルの『ワープス・ファンタジー』(1988)を展開した」
NOVA『あと、1989年に近未来ものの「ワープス・フューチャー」を出して、そのサプリメントとして士郎正宗さんのSFマンガ「アップルシード」も出したわけですが、このワープスが日本初のヒーローポイント採用ゲームであり、このノリを引き継いで生まれたのが「セブン=フォートレス」というわけです』
ヒノキ「確か、RPGマガジン誌上で、菊池氏がワープスを使ったリプレイを掲載していたのじゃな」
NOVA『ええ。ワープスを使った「SLGマガジンシリーズ」(1990)という連載記事を書いていて、その延長として1991年に掲載されたのが「アルセイルの氷砦」。ここから「セブン=フォートレス」というオリジナルシステムにつながるわけです』
セブン=フォートレスの時代概観
ヒノキ「『聖闘士星矢』が連載されている裏で、日本のアニメのノリを再現しようとした『ワープス』が起動し、そこから『セブン=フォートレス』に発展していく流れか」
NOVA『セブン=フォートレス(以降「七砦」と表記)が商品化されたのは、1996年。最初はホビージャパンからボックススタイルで出て、以降はFEAR社の看板商品の一つとなっていくわけですな』
- セブン=フォートレス(1996):商品化された初の作品。1版は『アルセイルの氷砦』で使われた未完成バージョン。2版はRPGマガジンの付録として発表され、それがバージョンアップした3.10版が、92年からの『フォーチューンの海砦』の使用システムとなる。そして海砦の連載が95年まで続いた後で、ようやく七砦のシステムが製品化された(3.30版という位置づけ)。
- セブン=フォートレスAdvanced(1998):七砦リプレイの第3弾『リーンの闇砦』は1997年に、掲載誌をRPGマガジンからゲーマーズ・フィールド誌に移して開始。その連載中にゲームシステムも、ホビージャパンの七砦から切り替わったのが本作。少年マンガノリのストーリー再現を狙った1作めから、よりシステマチックなダンジョン探索ものに仕切り直して、ゲームとしての完成度を高めた。
- セブン=フォートレス クラシック(1999):Advancedのサプリメントという形で、無印のストーリー再現ルールを復刻。これによって元来の七砦っぽいノリでプレイできるようになる。
- セブン=フォートレスEX(2001):Advancedのさらなるサプリメント。きくたけさんと言えば、「世界の破滅(規模の派手なストーリー)」というキーワードが付いてくるわけですが、それは彼のキャンペーンが終盤で、そういう展開になるパターンがあるだけで、ゲームシステムがそういうノリを反映していたわけではなかった(あくまでシナリオを作って、リプレイを書いてるきくたけさんの個性であって、ゲームシステムの個性ではない)。しかし、このEXを導入することで、割と手軽に「世界の破滅」ストーリーを展開することが可能になった。1999年に連載開始された七砦リプレイの第4弾『フォーラの森砦』はAdvancedで始めた手堅く地味なストーリーだったのが、物語の途中でEXを導入したことで、いつもの世界滅亡の危機に展開するクライマックスを迎える構成。また、後年『ナイトウィザード』で定番になるポンコツ魔王・ザコ魔王といった存在も、EXが起源とも言える。
- セブン=フォートレスV3(2002):無印、Advancedに次ぐ3つめの根幹システム。七砦の背景世界はラース=フェリアと呼ばれるが、世界滅亡の危機が、多元世界にまでスケールアップしたのが本作である。そのきっかけは、同年に発売された現代ファンタジー物の『ナイトウィザード』とのリンクを意図し、さらにきくたけ氏が過去に『コンプRPG』などのゲーム雑誌で展開した読者参加ゲームの世界観をも融合し、後に主八界と呼ばれる壮大なマルチバース展開を始めた作品*1。2002年に連載開始された七砦リプレイの第5弾『フレイスの炎砦』は、本作と『ナイトウィザード』のコラボ企画であり、フレイスの設定(運命の巫女と彼女を守る騎士団)は多分に聖闘士星矢的でもある。続くリプレイ第6弾『ラ・アルメイアの幻砦』(2003〜2005)は、さらなる異世界、第3世界エル=ネイシアの神姫と、第5世界エルフレアの人造天使がパーティーに加わり、複雑怪奇な物語を展開した挙句、最後にプレイヤーキャラクターが負けて、ラース=フェリアが滅亡してしまいます。
- セブン=フォートレス メビウス(2008):冥魔の侵攻を阻止できずに、文明としてはほぼ滅びてしまったラース=フェリア。平和を失った闇の世界と化した異世界を、もう一度、人の手に取り戻すために戦う勇者と異世界人の物語となっている。前年に出た『ナイトウィザード』の2版と完全に同じシステム(世界観を表すデータは異なる)を構築し、他にもワールドサプリメントで主八界の全てを網羅した、最終作の名にふさわしい超豪華な作品。ゲームとしては2011年まで展開し、最終リプレイ『シェローティアの空砦』も2008〜2013年まで長期に渡って書きつづられ、過去のリプレイキャラがラース=フェリアの解放のために多数出演する。第1パーティ、第2パーティとの交代制でストーリー展開し、システムと世界観の集大成とも言うべき壮大なエンディングを飾った。その物語的遺産は『ナイトウィザード』の3版に受け継がれたが、20年以上に渡る壮大なリプレイ物語世界のクロスオーバーという魅力を失い、一つのゲームとしての原点に帰った『ナイトウィザード』の3版よりも、壮大な設定を反映できる2版に未練を残したファンは多く、時流も新規のファンを呼び込むには至らず、FEARの看板作品の祭りは終わったかのように思われる。
聖闘士星矢がセブン=フォートレスにもたらしたもの
NOVA『氷、海、闇、森、炎、幻、空の7つの砦の物語を、1991〜2013年までの足かけ22年間に渡って書き続けて完結させたリプレイ作家と言うだけで、菊池たけしさんの偉業はTRPG界において、絶賛に値するでしょう。90年代に自分も一度、お話したことがあったのですが、その際には「ロードスからクリスタニアのリプレイをずっと書き続けている水野良さんを非常に尊敬している」とおっしゃってました。だけど、その後の10年以上のリプレイ書きのお仕事で、きくたけさんの偉業は結果として、水野さんのそれを越えたわけですからね』
ヒノキ「ロードスの水野リプレイは3部作で、その後のクリスタニアは何年続いたかのう?」
NOVA『コンプティークと電撃王の連載リプレイは以下のとおりですね』
- 漂流伝説:89〜90年
- 蟻帝伝説:91〜92年
- 黄金伝説:92〜93年
- 封印伝説:93〜94年
- 暗黒伝説:94〜95年
- 傭兵伝説:95〜96年
- 秘境伝説:97〜98年
ヒノキ「ロードスとクリスタニアで合わせて10作か。期間にして、86〜98年の12年ほどになるかのう」
NOVA『それだけの記事を毎月コンスタントに記事書きして、かつロードスやソード・ワールドの小説を書いたり、アニメのチェックもしたりしていたわけだから、80年代から90年代の水野さんの創作活動は素直に敬服するばかりです。ゼロ年代以降は小説に専念しつつ、ゲームのワールドデザイナーとしても『グランクレスト』(2013)などで健在ぶりを示していましたが、20年代に入ると、ロードスの続きとかはもう書いてないのかなあ、と思いながら、昔からファンとして追いかけてきた作家さんが第一線から引退したのかな? と感じると寂しさを覚えますね』
ヒノキ「きくたけ氏は今、どうしてるのじゃ?」
NOVA『俺が知る最新作はアニメの脚本のお仕事ですね』
NOVA『まあ、きくたけさんでアニメだと、こっちの方が大きいんですけどね』
NOVA『ともあれ、SNEのリプレイ王だと、水野さんか友野さんがトップに上がると思うのですが、FEARだと文句なしに菊池さんだと考えます。七砦シリーズと、ナイトウィザードと、アリアンロッドでかなり書いてますし、FEARさんはSNEと違って、プレイヤー公開制ですから、菊池さんは他の人の書いたリプレイでもプレイヤー参加が多く、持ちキャラも膨大ですからね。
『言わば、ファンにとって作品での露出が非常に多い作家さんで、しかも自分も他のプレイヤーやGMもイジって笑いをとる芸風だから、作家というよりも演技者や芸人性を売りにしたパフォーマー気質なところがある。これで自分だけ持ち上げて他人をイジる芸風だと嫌われるのでしょうけど、自分さえもネタにして人を楽しませる芸だからイヤミがない。まあ、「フォーチューンの海砦」の連載中はその辺のさじ加減が分かってなくて、いろいろトラブったようですが、素人さんより、演技のプロの声優さんを交えた頃になると、褒めるところと弄るところを心得たようで、安心して読んでられるな、と』
ヒノキ「見ていて、一番ハラハラなのは柊蓮司役の矢野俊策氏との関係じゃが?」
NOVA『これでもか、とばかりにイジってますよね。会社の副社長と社員の関係だし、イジることでキャラ立てして、デザイナーとして売り出そうとする企業戦略だったのかもしれないし、とにかくクレバー王子であり、ダブルクロスのデザイナーであり、下がる男のプレイヤーであり、大人気でした。だから、矢野さんが2012年にFEAR社を退職して、その後、水野さんと提携して、こんな会社を立ち上げたと聞いたときはビックリでした』
ヒノキ「水野氏とは『グランクレスト』での縁か?」
NOVA『おそらくは。ただ、今も仕事仲間の関係性が続いているのかは不明ですが。あと、話を菊池さんに戻すと、セブン=フォートレスでは星矢の小宇宙(コスモ)に相当するプラーナのルールが大きいですね』
ヒノキ「数字データ的には弱いキャラは、従来のゲームでは強敵に対して勝ち目がないのが当たり前。そういう状況をどう克服して逆転するか、というのが、創作家の課題といえよう」
NOVA『能力的に負けてるから勝てない。だから、自分より弱いザコを倒して、悦に入ってる主人公なんてものは、エンタメ的にもつまらないわけです。主人公が普通だと勝てないような状況をどう構築し、それを勝てるようにするまでのドラマをどう描くかが、創作家のセンスというものですが、ゲームだと勝てる戦術の構築がプレイヤーの為すべきことですな』
ヒノキ「勝てない敵とは無理に戦わずに撤退する、というのもゲームでは賢明な手段でもあるが、そもそも負けて全滅、ゲームオーバーというのも、ゲームでは普通にあり、ということじゃな」
NOVA『その点がシビアなのが、第1世代と第2世代のTRPGだったのですが、GMの裁量やシナリオでの忖度を考えなくても、プレイヤーキャラが物語の主人公としてピンチを切り抜ける特別な手段をゲームシステム的に構築して、物語性を高めたのが第3世代。そこからのシステム進化の歴史は、会社集団やゲームデザイナーごとに多様化したのが実際のところで、あくまで第4世代候補の一つであるFEAR製のゲームは、シーン制という発明で物語のフォーマットを固める方向に発展しました』
ヒノキ「キャラクターが自由に行動できるというのがTRPGの醍醐味の一つと言われていたこともあったが、そこは気心の知れた(ノリの分かった、お約束の作法が通じる)プレイヤーと、アドリブ対応力の高いGMのチームワークがあればこそで、90年代の時点ではGMの意図を汲まぬ天邪鬼プレイヤーとか、融通の利かない独り善がりなGMとか、相性が悪いとプレイそのものが崩壊するケースも多々見られた」
NOVA『だから、良きプレイヤーシップとか、GM向きのガイドやアドバイス記事が、ゲーム雑誌の人気を集めたりもしたわけですね。でも、21世紀のゲームだと、D&Dでも、国産ゲームでもプレイングガイド的な記述がルールブックに標準的に載っているわけで』
ヒノキ「この場合のプレイングガイドは、ゲーム内の状況をどう解決するかだけでなく、困ったちゃんプレイヤーに対する傾向と対策とか、主にGM向きのセッション管理術に関するものじゃな」
NOVA『セッションを楽しく運営するコツとか、ホスト役として準備を行いつつ、グループの負担を公平に分担するための指針とか、GMの仕事のうちプレイヤーに任せられる部分の提案とか、遊びのグループ管理のノウハウがいろいろ書いてあるわけですが、それはそれとして、そのゲームが理想とする物語再現のためのフォーマットの類例なんかもあって、完全な自由度を制限する代わりに、相応のお約束ストーリーを構築するノウハウを、ゲームシステムが提供するように進化した次第です*2』
ヒノキ「その一例が、どうやって強敵を倒すかというノウハウじゃな」
NOVA『敵データに、弱いモブキャラと強いボスという明確なデータ分けを用意して、強いボスを倒すためのフォーマットも例示されている、と』
ヒノキ「例えば?」
NOVA『ボスが倒せないのは、倒すためのフラグが立っていないからですね。だから情報収集によってボスの弱点を突き詰めたり、ボスを倒すため専用のスペシャルアイテムをゲットして弱体化を図ったり、ボスの能力に対抗する手段を事前準備したり(魔法が強力なボスなら、3ラウンドだけ有効な対魔法バリアを用意するなど)、そういうのをあれこれ考えるのが物語ゲームってものでしょ?』
ヒノキ「ザコ魔王と呼ばれるのも、能力的にザコなのではなくて、弱体化手段を適切に講じられると能力をフルに発揮できなくなって、あっさり倒されたりするゲームとしての物語性ゆえで、能力そのものがザコいわけではない、と」
NOVA『まあ、コンピューターゲームだと、ボスを倒せる想定レベル以上に自キャラをレベルアップさせると、あっさり倒せることもしばしばですけどね。TRPGだと、普通はそういうわけにもいかないので(システムやシナリオにもよる)、「上手くフラグを立てれば、強敵もザコに成り下がる」というのは、ゲームブックなんかでもお馴染みです』
ヒノキ「普通では倒せない相手をどう倒すかは、バトル物語を考えるうえでのクリエイターの必須芸じゃのう。そういう工夫も考えられずに、勝てる相手にしか勝負を挑まないというのは、現実ならともかく、物語としては非常につまらん」
NOVA『敵に仲間を人質に取られているから、救出するまでは本気で戦えないとか、こちらが全力で戦えない状況を描いてハンデにするとか、逆転勝利するまでの物語の段取りは、ゲームに限らず、各創作家さんがいろいろアイデアを練っているわけです。そういうパターンを10個ぐらいは軽くポンポン出せるようでないと、創作家の資質はないと言ってもいいでしょうね』
ヒノキ「まあ、聖闘士星矢だと、小宇宙(コスモ)を燃やすとあっさり逆転勝利しおるがの」
NOVA『いや、それは小宇宙(コスモ)を燃やすという演出に至るまでのドラマをしっかり見せているから、納得性が高まるわけですよ。小宇宙(コスモ)を燃やすのは結果であって、その前の過程でいろいろアイデアを仕込んでいるわけです。いつでもどこでも簡単に小宇宙(コスモ)を燃やせるんだったら、最初からコスモやプラーナ全開で勝負すればいい』
ヒノキ「ゲームだと、それが最適解であることもしばしばじゃな」
NOVA『最大の火力やリソースを初手に注ぎ込んで、1ターンキルを目指すプレイスタイルもありますね。それが通用するのだと、ゲームとしてはあまりにもつまらないから、敵味方の駆け引きを楽しめるためのシステムをあれこれデザイナーは考えるわけですが』
ヒノキ「単純なのが、ボスキャラのHPを高く設定して、最大火力でダメージを与えても3〜5ターンは掛かる程度にすることじゃな」
NOVA『あるいは、周囲のザコ敵にボスをかばわせて、ザコを一掃してからでないと、ボスにダメージが通らないようにするとか、特定条件を満たさないと、ボスの無敵状態が解除されないとか、いろいろな手はありますね』
ヒノキ「プレイヤー側の制限だと、ラウンドを重ねて、必殺技ゲージを貯めないと大技が撃てないという格闘ゲームからの方法論や、カウンター技というカードゲームからの方法論や、様々なゲームの仕組みをTRPGも取り込む流れがあった」
NOVA『戦闘システムについても、作品ごとの進化が見られるわけですが、そこに戦闘時における物語支援システムもあるわけですよ。プラーナによる一時的な戦闘能力の向上は代表例ですが、他にも最初のセブン=フォートレスおよびクラシックにはバーニングシステムというルールが実装されていた』
ヒノキ「それは、いかにも燃えそうなシステムじゃ」
NOVA『そこで、書庫からこういうものを引っ張ってくるわけですが』
ヒノキ「今だに持っておるのかい!?」
NOVA『処分したと言ってないから、当然、持ってますよ。それじゃないと、ここまで延々と話を続けられませんって。ともあれ、このバーニングシステムを語るだけで、セブン=フォートレスが聖闘士星矢から多くを引き継いだことが証明できるわけですよ』
バーニングシステムの話
NOVA『では、バーニングシステムの話をして、本記事は終わりにしましょう。まず、全てのキャラは作成時にD6+2点、レベルアップ時に2D6点のバーニングポイントをもらえますが、それ以外にGMが認める「燃える行動」を取ると、ポイントがもらえます。その基準は以下のとおり』
- 命に関わる自己犠牲的行動:2D6点
- 下手をすると命に関わる、少なくとも重傷になる行動:1D6点
- 命には関わらないけど、感動的な行動:1点
- 俺にかまわず先に行け:1点
- 俺ごと奴をつらぬけ:重傷を負ったら1D6点、HP0になったら2D6点
- 仲間をかばう:重傷を負ったら1D6点、HP0になったら2D6点
ヒノキ「なるほど。ドラゴン紫龍はそうやってバーニング・ポイントを稼いでいたのじゃな」
NOVA『そして、39種類のバーニングアクションをポイント消費で発動させることができるわけですね。決めゼリフといっしょに、発動条件と効果がありますので、いかにも星矢っぽいものを紹介してみます』
★燃えろ我がプラーナよ! 限界まで高まれ!(消費5)
戦闘中にプラーナを解放値を無視して、維持値まで一気に解放する。
ヒノキ「プラーナのルールが分からんと、意味不明な説明じゃ」
NOVA『セブン=フォートレスは基本的に2D+能力値で判定するシステムだけど、プラーナを消費することで出目にボーナスを加えることができます。初期状態の期待値でプラーナは内包値7、解放値2、維持値4になるわけですが、解放値が1ラウンドで使えるポイント。ラウンドを費やせば4ポイントまでプラーナをキープできて、このキャラの場合、解放値2+維持値4の合計6ポイントまで判定ボーナスを高めることができるわけですな』
ヒノキ「すると、敵に攻撃を命中するのに出目10が必要な場合でも、プラーナを解放すれば+2ボーナスで出目8で済む。もしも、プラーナを2ラウンド貯めれば、+4ボーナスで出目6で済む。最大のボーナス+6を得ようと思えば、3ラウンド貯めないといけないところを、バーニングアクションで初手から全力全開で戦える、と」
NOVA『ただし、内包値が7しかないので、一気に6点消費すると残り1点。あと、プラーナはHPやMPの回復にも使えますし、休憩や睡眠でプラーナを回復することもできますが、戦闘中には回復できません。ですが……』
★俺の力を使ってくれ!(消費6)
他のキャラクターに自分の残ったプラーナを渡すことができる。
ヒノキ「なるほど。ボスと戦う主人公に、仲間が小宇宙(コスモ)を託す、と。ラスボス戦でよくある話じゃ」
NOVA『ただし、自分の内包値の限界を越えたプラーナはもらえません』
★俺の最後の力をお前に託すぞ!(消費12)
自分が重傷を負っている際に、HP、MP、プラーナを好きなだけ相手に渡すことができる。
それでHPが0になる場合は、渡した量が倍になる。
ヒノキ「なるほど。主役1人に想いを託して奇跡を起こす展開か。コミックやアニメでは定番じゃが、ゲームでは1人に託すよりも、仲間が連携して攻撃回数を増やす方が有利なのが多いので、そうするメリットがシステムで保証されないと、使いにくい選択肢じゃ」
NOVA『で、せっかく託された力を受け取る方にも限界があるので、それを突破する手段が用意されているわけですな』
★ああ、みんなの力が俺の体に入ってくる!(消費13)
一時的に、プラーナの内包値と維持値、HPとMPの上限をなくし、仲間から受けとったポイントを無限に蓄えられるようになる。
NOVA『他に、プラーナ関係だと、こういうアクションもありまして』
★俺はまだここで倒れるわけにはいかないんだ!(消費14)
自分が重傷を負っている際に、プラーナの内包値がフル回復、維持値も満たんになる。
ヒノキ「プラーナが聖闘士っぽいのは分かったが、それ以外には、どんなことができる?」
NOVA『これなどどうでしょう?』
★その技は見切った。もう通用しないぞ(消費8)
一度くらった特定の魔法や剣技を、永久に無効化できる。
ヒノキ「それは凄い。聖闘士には同じ技が2度と通用しないということじゃな」
NOVA『で、こういう返し方もあるんです』
★新必殺技を見せてやる!(消費3)
戦闘中に、瞬時に新たな魔法や剣技などの技を修得できる。必要な修得ポイントは消費しなければならない。
こうして修得した技や魔法は、最初の1回のみ、相手の防御力や抗魔力を0にしてダメージを与えることができる。
ヒノキ「まあ、新技の初お目見えは強いからのう」
NOVA『なお、一輝兄さん専用っぽいアクションがこれです』
★地獄の底から蘇ってきたぜ(消費25)
死んだはずのキャラが問答無用で復活する。
ただし、どうやって復活したか、GMや周りのプレイヤーが納得できるだけの説明を、詭弁でもいいから語る必要がある。
「どうやら閻魔さまに嫌われているらしい」とか、「不死鳥の名のとおり、舞い戻って来た」とか「医士だから、あらゆる治療術は心得ている。たとえ、我が身であってもな」とか、ハッタリレベルでも理由づけを考えて、こいつはどうやっても死なないキャラ、と受け手に認識させたら勝ちでしょう。
細かい理屈よりも、そういう演出力や描写力で凄い、と思わせられるかが重要。
NOVA『大体、80年代から90年代の初めのコミックやアニメのノリを投入したのが、初期のセブン=フォートレスと言えます。V3以降はもう少し緻密なシステムに進化して、荒削りな派手さや荒唐無稽さがやや控えめになりましたが、違う意味での派手さや広がりが主流になったからですな。ともあれ、この車田マンガも含む熱血少年バトルマンガのノリは、セブン=フォートレスに大きな影響を与えたってことで』
ヒノキ「次は何の話に展開するつもりじゃ?」
NOVA『きくたけゲームについては、まだまだ聖闘士星矢と絡めて、いろいろネタがあるので、次はV3以降をもう少し掘り下げてみようか、と』
(当記事 完)
*1:なお、TRPGにおける多元世界ものは、GURPS、AD&Dのスペルジャマー、TORGなど、海外では90年代から盛んになっており、国産RPGでも東洋風ファンタジーの『ブルーフォレスト』とスチームパンクの『ギアアンティーク』が一つの世界の別地域といったように、異なる世界観を同じシステムで表現するのが流行していたが、きくたけさんの主八界のような多数の異世界サプリメントを展開したケースは、本邦ではこれを嚆矢とする。GURPSもTORGもあくまで海外の作品であり、さらにSNEはGURPSでルナルと妖魔夜行などの複数世界を混ぜ合わせるような遊びは推奨しなかった。こういう多元世界クロスオーバー的な遊びは、その後、アルシャードやカオスフレア、ダブルクロスに受け継がれて、FEARさんの特徴にもなった
*2:そもそも、コンベンションなどで初対面のGMやプレイヤーたちで気心云々に頼らないと成功しにくいゲーム作品だと、商品として失格である。説明書どおりにプレイすれば、普通に事故ることなく一定段階の楽しさが味わえ、平均以上の満足が得られるシステムを理想とするなら、自由度にこだわり過ぎて成功失敗の振れ幅の大きい実験的なシステムは売りにしにくいと言える。