スタンダードなRPGへの流れ
リモートNOVA『ヒノキ姐さん、ご無沙汰です』
ヒノキ「一月以上、放置されて、寂しかったぞ」
NOVA『その間に、世間では聖闘士星矢が終了し、新札で渋沢栄一の時代が到来し、キン肉マンやグレンダイザーが始動し、ゲームブック「雪の魔女の洞窟」のリプレイ記事が終了し、スパロボDDにZZガンダムが登場し、パリオリンピックが開幕したなど、いろいろと盛り上がっている状況ですな』
ヒノキ「ちょっと待て。それは世間と個人の関心、公私があれこれ入り混じっておらんか? その中で、世間一般に通じる話題は、渋沢栄一とオリンピックぐらいのものじゃろう? 星矢と、キン肉マンと、グレンダイザーと、ZZガンダムは一部の趣味界隈。『雪の魔女』に至っては、お主のブログだけの限られたネタではないか」
NOVA『つまり、公私が混ざって、区別するのが困難なほどバタバタしているってことです。で、星矢が終了し、女神アテナや聖闘士が歴史から消えてしまったラストを見せられたために、前回までの記事の流れが断ち切られた感じですね』
ヒノキ「確かにのう。星矢がTRPG(とりわけ、きくたけ作品)に与えた影響の話をしていて、次のステップにつなげようとしたら、聖闘士とか女神が消失してしまうと、どこを目指すべきか話の行く先を見失うのも納得」
NOVA『来年は聖闘士40周年で盛り上がる! と時流を予想していたら、終わった感ですからね。気持ちの切り替えをあれこれして、どう話をつなげるかですが、ここは原点に帰ろうか、と』
ヒノキ「原点とは……D&Dか?」
NOVA『さすがに戻り過ぎです。きくたけさんだったら、セブンフォートレスとナイトウィザード、アルシャードガイア、アリアンロッドという作品があって、まあ、七砦についてがメインで、これからアルシャードとかアリアンロッドの話をしようと思ってました。とりわけ、アリアンロッドは秋に新作サプリが出るそうで、まだまだ現役システムですからね』
ヒノキ「これも2004年スタートじゃから、今年が20周年になるのか。ミソロジーということは、神話じゃな」
NOVA『これまではアリアンロッドのサプリの表看板はきくたけさんの名前がトップに来てたわけですが、今回から悠羅さんの名前がトップということで、FEAR社がきくたけさん抜きでも、アリアンロッドというゲームシステムをサポートして行きますよって姿勢を表明したと考えます』
ヒノキ「悠羅さんと言えば、アリアンロッドのシステムデザイナーで、きくたけ氏のアシスタント的な立ち位置じゃったな。執筆リプレイも多数に及ぶ」
NOVA『システムデザインと言えば、「アルシャード」の遠藤卓司さんもFEARゲームでは有名ですが、FEARさんのゲームでは悠羅さんと遠藤さんが、鈴吹社長や菊池副社長を支える中核戦力の印象があります。後は、かわたなの愛称で知られる田中信二さんや、その先輩の初代「ゲーマーズフィールド」誌の編集長も務めたたのあきら氏の印象が、自分には強いですね』
ヒノキ「なるほど。今回は、きくたけ氏以外のFEARゲームについて語ろうって話じゃな」
NOVA『とりあえず、21世紀に入ってSRS(スタンダードRPGシステム)の原型を作ったのが「アルシャード」なので、TRPG者としてはアルシャードは重要だという認識なんですが、そこに至る前の過程として、「トーキョーN◎VA」と「エルジェネシス」について語っておきたいのが、今回の記事の趣旨です』
ヒノキ「なるほど。NOVAというハンドルの持ち主が、『トーキョーN◎VA』について語る、と」
NOVA『あ、念のため、そのTRPGは1993年に初登場で、俺がWhite NOVAのハンドルを草の根のネットで使い始めたのが、91年だったので俺の方が早いです』
ヒノキ「どっちが早いかなんて、どうでもいい」
NOVA『ついでに、NOVAは俺の下の名前のノブにつながってますので、半分は本名に近いというのも、重要な秘密ですな』
ヒノキ「ほう。つまり、本名は信彦か」
NOVA『シャドームーンではありません。まあ、当たらずと言えども近いかな、とは思いますけど、この話題はここまで。とにかく、FEARゲームの第一号は鈴吹社長の「トーキョーN◎VA」だと思いますので、今回はそこから語りたい、と』
トーキョーN◎VAとサイバーパンクRPGの話
NOVA『さて、現在のN◎VA(AXLERATION)は、2013年に出た5版なんですが、俺がN◎VAの追っかけ(ルールや関連サプリの購入)をしていたのは2版から4版までになります。つまり、今のN◎VAのことはほぼ語れないわけで』
ヒノキ「ならば、懐古話ということになるのう」
NOVA『まあ、ルールは持ってるけど、実プレイもしたことがないので、ほぼリプレイを読んだり、世界観の変化だけ追っかけてたり、ゲームプレイよりもゲームとしての商品展開を楽しんでいた形ですな。ともあれ、N◎VA版上げの歴史は以下のとおり』
- 1993:初版(ツクダホビーより、ボックス版で登場)
- 1995:2版(アスペクト、書籍版)
- 1998:3版、REVOLUTION(アスペクト、書籍版)
- 2003:4版、DETONATION(エンターブレイン、書籍版)
- 2013:5版、AXLERATION(エンターブレイン、書籍版)
ヒノキ「一言で言えば、N◎VAはどういうゲームじゃ?」
NOVA『近未来サイバーアクション系の世界観ですね。世紀末に世界規模の天変地異が発生した中で、エヴァンゲリオンなんかのイメージも持ち合わせた退廃した未来像。東京湾は干上がり、そこに新星市という人工の隔離都市が構築された。通称トーキョーN◎VAと称される、その新世界では鎖国中の日本本土における出島みたいな位置付けで、世界との窓口ともなる一方で、独特の活気と犯罪がまかり通る、国際企業の法による管理と無法な犯罪者が凌ぎを削る舞台となっていた……って感じ?』
ヒノキ「世紀末乱世のヒャッハー……とは違うんじゃな」
NOVA『そこまでは崩壊していませんよ。ただ、大都市圏は文明を維持していますが、都市の外では荒野が広がり、ミュータントや自然の脅威があふれていて、いわゆるファンタジーRPG的な魔物退治ストーリーもできるかもしれませんね。まあ、ゲームの本題はそっちではありませんけど』
ヒノキ「バイオハザードみたいな感じかのう?」
NOVA『この辺、いわゆる近未来と言っても、人によってイメージはいろいろ多様ですね。ゾンビとか、バイオテクノロジーで生まれた化け物が蔓延しているのか、それともバイクや戦闘カーを乗り回すギャングが蔓延しているのか、都市がどの程度の文明を維持しているのか、などなど。物語としても、敵対するのがモンスターなのか、それとも知性を持たないヒャッハー蛮族なのか、理性的で陰謀を企む人間、もしくは人に擬態した吸血鬼とか異種族なのかなどなど』
ヒノキ「N◎VAの場合は?」
NOVA『都市が主な舞台なので、荒野で化け物退治は基本ではありません。サイバーパンクですから、ネットはありますし、ハッカーや技術者も普通にプレイヤーキャラで作れますし、企業に所属するエージェントやマスコミ、さらに芸能人にだってなれます。実は、仮面ライダーWや風都探偵の世界観なんかが近いのかもしれません。ただし、風都以外の世界が壊滅している感じですが』
ヒノキ「すると、カブトみたいに、空から隕石が降って来たとか?」
NOVA『ビルドも参考になりますな。北都、東都、西都の3つに分かれた日本という構図ですが、N◎VAでも東京以外に、関西のオーサカM○●Nや、北海道のカムイST☆Rが初期の代表的な都市とされていましたから』
ヒノキ「街ではびこる事件や犯罪を解決するゲームじゃな」
NOVA『それも可能ですが、ヤクザになって敵対集団に落とし前を付けたり、いろいろなプレイスタイルが考えられますね。その辺は、プレイヤーキャラのスタイルとシナリオ次第ですが、基本は都市で発生する事件に対して、どういうポジションで動くかはプレイヤーの自由度が高いですし、対立するキャラ(警察とヤクザ、ハッカーとネットアイドルなど)がどう意見をぶつけたり、協力関係を紡いだりしながら、お仲間どうしとは少し異なる利害一致ゆえの一時的な共闘を演出できるゲームだと思います』
ヒノキ「TRPGは元々、一つのパーティー仲間が協力して、お宝探しやモンスター退治などの共通のグループ目的を達成するゲームとして誕生したんじゃな」
NOVA『ええ。戦士や魔法使い、僧侶や盗賊といった能力の異なるメンバーが互いの役割を分担して、一つの仲間として一致協力するという新ジャンルのゲームでした。それまでのゲームが割と、プレイヤー間の対立・競争で勝敗を決する傾向があったのが、1プレイヤーが1キャラクターを使い、対立相手はゲームマスターが用意して、公平な審判役としても機能することで、プレイヤーVSプレイヤーの競争から、プレイヤーキャラのチームVSゲームマスターの操作する敵対キャラという構図に転換することで、協力ゲームという概念を定着させたのがD&Dなんですな』
ヒノキ「しかし、ゲームが進化すると、プレイヤー同士の対立関係も生じるようになる」
NOVA『これは最初、キャラクターの性格をロールプレイする際に生まれました。D&Dでは秩序ー中立ー混沌の3属性と、善良ー中立ー邪悪の3属性を掛け合わせた9属性の性格があって、例えば聖騎士は秩序にして善(法を尊び、人助けを旨とする)、一方の盗賊は秩序重視な性格は基本的にありえない*1。ヒーローとしては中立にして善、もしくは混沌にして善となります』
ヒノキ「人助けは好んでするけど、法律に基づくのではなく、個人の善意。むしろ、法律なんて邪魔と考えるアウトローヒーローの方向性じゃな」
NOVA『まあ、何が善で、何が悪かは哲学論争に発展して、ロールプレイの指針をめぐって意見を交わすのもTRPG者では流行りましたがね。例えば、降伏した悪に属する小物モンスターを殺害するのは善か悪か論争とか。そもそも、生き物の命を奪うことは罪悪であるとするなら、冒険者なんてやってられないわけで』
ヒノキ「そういうので悩みたくないなら、中立をプレイすればいいわけじゃな」
NOVA『例えば、鎌倉時代の武士ならば、人殺しという罪悪に対して、主君の命を尊ぶのが忠節という善であり、殺生という罪悪も仏に帰依することで緩和されるという考えから禅の思想が武士の道と通じ合ったりもした。つまり、殺した相手の冥福を祈ることで、自己の欲で殺したわけではないとか、いろいろと悩みを解消するために信仰理念が用いられたわけです』
ヒノキ「つまり、そういう戒律は、その世界や時代の神話哲学に由来する、と」
NOVA『だから、ある意味、どんな神さまを信仰しているかが、そのキャラのロールプレイの指針になる世界観重視なゲームが、「ルーンクエスト」なんですな。神さまが異なれば、善悪の価値観も変わって来るので、蛮族の神さまと、盗賊の神さまと、秩序の神さまが対立関係になったりするわけで、そういうゲームだと、対立関係をロールプレイしつつ、上手く利害調整して、物語の落としどころを模索するという大人なプレイが求められる、と』
ヒノキ「ただ、ダンジョンに潜って、モンスターを倒し、お宝をゲットして、キャラを成長させることを目指すゲーム性から、その物語世界でそれらしいキャラを演じて、物語を紡ぐゲームへの進化じゃな」
NOVA『で、ゲームのジャンルも、異世界ファンタジーから宇宙を舞台にしたSFや、ホラー、現代スパイ物や前世紀の秘境探検ものなど、いろいろなジャンルの物語を網羅するようになって行き、それぞれの物語における推奨モラルとかロールプレイの指針などが考察されていきます。
『その中で、80年代に誕生した近未来SFの新ジャンルがサイバーパンク。この近未来サイバーパンクの世界観がTRPGに流入したのが80年代後半から90年代にかけてです。サイバーパンク小説の第1号と呼ばれるのは、ウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」。1984年に描かれた退廃の近未来像が、後に「攻殻機動隊」や「マトリクス」などの世界観につながって、VR(ヴァーチャル・リアリティ)のイメージの一つを構築していくことに』
ヒノキ「日本初のサイバーパンク物TRPGは、『メタルヘッド』(1990)と聞いておるが?」
NOVA『「メタルヘッド」は、都市メインのサイバーパンク以外に、荒野で機械化武装した野盗(バンデッド)を退治するシナリオや、遺跡の探索など、よりファンタジーRPGの近未来版的な雰囲気を楽しむことが可能ですね。あと、近未来でコンピューター技術が発展した世界観にファンタジーを組み合わせると「シャドウラン」(1989、初邦訳は1994)や、「真・女神転生RPG」(1993)の続編サプリメントなど、様々な作品に進化していく流れがあります』
ヒノキ「一口にサイバーパンク、もしくはサイバーアクションと言っても、いろいろな切り口があるんじゃのう」
NOVA『その中で、ポイントになるのは、プレイヤーキャラクターがチームを組んでいる理由が背景世界にあるかどうかですね。「メタルヘッド」にはファンタジーの冒険者に相当するハンター協会が設定されていますし、「シャドウラン」も日本ではランナーがチームを組むことを推奨してありました。「メガテン」も基本は悪魔退治が目的ですから、退魔組織がバックアップしてくれる形式がプレイしやすいです。
『一方で、元祖サイバーパンクRPGである「サイバーパンク2020」(現在は続編のRED)の敷居が高いのは、初邦訳の1993年時点で、各種の能力を持ったキャラがチームを組む理由をプレイヤーがイメージしにくかったとも言われています。何せ、こういう職業の連中ですから』
- ロッカーボーイ:若者を扇動するカリスマ的ミュージシャン。
- ソロ:戦闘の達人。傭兵や殺し屋など。
- ネットランナー:ネットに接続したハッカー。
- テッキー:ハイテク機械、サイバーウェアの専門家。
- メドテク:医者。治療やサイバー手術などを施せる。
- メディア:マスコミ関係者。
- コップ:重武装の警察官。
- コーポレート:大企業の役員。エリート・サラリーマン。
- フィクサー:密輸業などのブローカー。裏稼業の元締めや、犯罪者のボスなど。
- ノーマッド:荒野の無法者。
NOVA『「サイバーパンク2020」はこれらの10種のキャラクタークラスは用意しましたが、例えば、ロッカーボーイでどのような物語が作られるかはあまりサポートされなかったと思います』
ヒノキ「ロッカーボーイ……俺の歌を聞けえ、と叫んで赤い戦闘機で戦場に飛び込んで来るとか?」
NOVA『「マクロス7」ですな。1994年放送で、「サイバーパンク2020」(93年邦訳)を知っている者は、みんな熱気バサラを見て、ああ、こういう風にロールプレイすればいいんだと思ったとか』
ヒノキ「単に戦場で楽器を鳴らして歌うだけのキャラじゃないのか? ファンタジーRPGにおける吟遊詩人みたいなものじゃろう?」
NOVA『吟遊詩人は、物語のネタになる冒険譚を集めたいというモチベーションと、情報収集や呪歌などの魔法に準じた能力、味方を支援するなどの能力を備えていて、スパロボでもバサラなどの歌機体は味方の能力アップと、一部の歌に弱い敵への限定的な攻撃力を持ちます。しかし、サイバーパンクのロッカーボーイはそういう運用ができませんでした』
ヒノキ「ならば、何ができるんじゃ?」
NOVA『特殊能力は、カリスマティック・リーダーシップ。音楽の力で群衆を魅了し、操ったりすることもできます。まあ、このゲームはD&Dみたいな職業クラス制ではなくて、クトゥルフみたいなスキル制のゲームなので、習得したスキル次第でいろいろできるのですが、それとは別に役割スタイルごとの特殊能力が設定されているわけですな。ロッカーボーイじゃなくても、歌や楽器の上手い奴はいるけど、大衆を煽動するほど魂に訴えかける熱さや気骨を備えたキャラがロッカーボーイなわけです』
ヒノキ「仲間にロッカーボーイがいれば、人心操作は思いのままということじゃな」
NOVA『逆に、暴徒と化した群衆を歌の力で鎮静化させることも可能ですね。ただし、まずは歌を聴かせられる環境を構築しないといけませんし、ロッカーボーイの弱点として集団しか操れないわけです。特定個人を歌で洗脳したりはできない。集団催眠とか群集心理を利用した能力なので、場の空気を盛り立てることはできても、個人を説得することはできない。ファンを沸かせることはできても、目の前の彼女を口説くことはできないとかそんな感じ』
ヒノキ「で、そんなロッカーボーイで、どんな物語を遊べるんじゃ?」
NOVA『そこが問題です。ロッカーボーイは、権力に対する反抗を音楽に託して訴えるアウトロー気質なんですが、90年代頭では日本のメジャーなエンタメ物語で、そういう反体制的なアウトローミュージシャンを題材にしたものだと、不良同士のケンカをテーマにした大映ドラマぐらいしか思いつかない』
ヒノキ「先にサイバーパンクの物語文化の一部が80年代後半に日本に輸入されて、パンクの文脈でロックミュージックも作品世界の象徴にはなっておったが、イギリスやアメリカのロックと反体制物語の融合が、日本ではあまり定着していなかった、と」
NOVA『ロックでメジャーなロボット番組ですとこうなる』
ヒノキ「日本にもロックバンドにスポットを当てたフィクションの流れは80年代にあったのじゃな」
NOVA『他にも、こういう作品がおしゃれなロック感覚を売りにしてましたね』
ロックの魂の話
NOVA『一口にロックと言っても、1960年代のビートルズも含めて、エレキギターを主軸とした数々のバンドがあるわけですが、俺の世代でのロックのイメージは80年代のヘヴィメタルあるいはハードロックのイメージですな』
ヒノキ「この辺じゃろう」
NOVA『やはり、世紀末の近未来といえば、この作品か、こっちになるわけですな』
ヒノキ「最初の『ターミネーター』は1984年。ちょうどサイバーパンク小説が誕生した時期に当たるか」
NOVA『もう少し、サイバー感覚を高めると、1987年のこれになりますか』
ヒノキ「日本では、これになるか」
NOVA『「サイバーコップ」が88年、東映メタルヒーロー特撮の「機動刑事ジバン」が89年で、この辺りから日本のヒーロー物も電脳サイボーグや電脳世界の要素をあれこれリアルに吸収しようと海外の影響を模索した結果、画期的なこの作品に至る』
ヒノキ「特撮グリッドマンは、93年の作品。やはり、93年が日本にとってのサイバースペースを本格的に受容した記念すべき年と言えようか」
NOVA『まあ、今の目で見れば、グリッドマンにおけるコンピューターワールドの描写は稚拙に見えますが、デジタル撮影も過渡期だし、そもそもインターネットという情報網がまだ一般的ではなかった時代に、電脳世界の異変が生活にトラブルを引き起こす世界観を描いてみせた先見性が高く評価されているわけですな』
ヒノキ「カーンデジファーの送り出す怪獣は、そのままコンピューターウィルスやバグデータみたいなものじゃからなあ」
NOVA『ともあれ、ロックからサイバーパンクにつながる流れがあるわけですが、日本のロックはあまり権力に対する反抗というカラーが薄いというか、ロックの魂って元々ラブ&ピースに通じるものだと思うんですね』
ヒノキ「また、唐突に何じゃ? 愛はともかく、ロックは既存権力に対する反抗とかカウンターカルチャーの類じゃろう? 平和とロックとはこれいかに?」
NOVA『60年代のビートルズの時には、反ベトナム戦争の流れでヒッピー文化の象徴として若者向けのロック音楽も持ち上げられるようになっていく。それがさらに過激化していくのが、ハードロックとかヘヴィメタルの流れで、反戦から、戦争を推進する政府や既存宗教などの権力への反発、そしてアメリカ本来の自由やネイティブ的な自然志向、そして非キリスト教的なケルトや東洋宗教などとの結びつきで、欧米の伝統に対する異なる世界への模索に通じて行ったのが70年代から80年代の流れだと理解している』
ヒノキ「なるほど。その象徴がこれになるわけか」
NOVA『ロックとサブカルチャーという文脈だと、TRPGやゲームブックの世界観もロックと親和性があったという分析が後にいろいろ為されていますね。それをはっきり示したのが、「BASTARD」と解釈することも可能ですが、ロックにしては一途な愛がないというか、欧米のマニア層からは、JOJOに比べてオリジナリティに欠けるという点で、あまり高く評価されていないようです』
ヒノキ「まあ、BASTARDは80年代当時のヘヴィメタの持つ反キリスト思想が過激化した悪魔崇拝をそのままコミック化した内容で、日本のコミック界では新鮮でも、海外ではよくあるネタでしかない、と」
NOVA『この辺のロックの受容のされ方が、反戦→反権力と流れた欧米と違って、日本のロックには反権力がないという魂の欠落が指摘されたりもしていたわけですね。ただ、日本は戦争放棄・平和主義の国だから、反戦→反権力ではなく、反戦→反米か反共産主義で、自国の外交姿勢への問題点を抗議する思想にはなっても、自国の政府を批判する文脈にはならない。だから、ロックには反戦や反悪党の魂は入っても、反権力には至らない。せいぜい架空のSFで反軍隊を訴える反抗的な若者がロックの文脈で語られるわけです。ああ、あと83年のロックだと、これもあった』
NOVA『この辺は、マクロスからの伝統ですが、軍隊VS反戦志向の音楽という対比があって、軍隊のいるフィクションだと、ロックも反権力の民間人の主張や武器として描かれるわけですね。ただ、そういうSFでは味方の軍隊は、それ以上に圧倒的な武力と支配力を誇示する侵略者と戦う物語が定番です。つまり、ロックの反抗の標的が味方側の管理支配ではなく、敵の侵略者になります。よって、ロックの似合う世界観は、味方の権力が脆弱で機能せず、侵略する敵へのレジスタンス的な物語になるわけですね』
ヒノキ「ロックの受容のされ方が、軍事的に強い政府を持つ欧米と違って、日本が平和主義の国であるがために、反戦平和の考えを重視するなら、必然的に反・侵略者の宇宙人となるわけじゃな」
NOVA『あるいは、曲がりなりにも管理支配の象徴である学校に逆らう不良少年少女か、管理支配の象徴である悪い役人を仕留める殺し屋や忍者集団のテーマとして、エレキギターをじゃかじゃか鳴らすロックが似合うことになる』
ヒノキ「つまり、日本ではロックが反権力の象徴として、人々の政治意識を扇動する方向ではなく、その音楽性の似合う物語のBGMとして、受容して行ったということじゃな」
NOVA『そうです。歌詞付きの主題歌や挿入歌、そしてメロディーだけのBGMなど80年代以降はとりわけアニソンにもロックのビートが取り入れられ、それまでの児童層向きのヒーロー主題歌とは異なる音楽世界を構築して来ました。まあ、広い意味では渡辺宙明さんの音楽も、ロック調の曲と言えますからね』
ヒノキ「日本のロックは、政治運動に向かうのではなく、そのテーマが似合う物語(フィクション)を構築し、その世界観を彩るように発展したもので、決して魂のないものではないというのが新兄さんの主張ということか」
NOVA『そして、反戦や愛、自由への希求というロック元来のテーマは、そういう物語の世界がしばしば語っている。少なくとも、日本の数多いロボットアニメで、主人公が徹底的な暴力主義者であり、戦争賛美論者であり、それを番組が宣揚している作品は少なめですね。そして、グレートマジンガーの剣鉄也は珍しく戦士として育てられた主人公ですが、育ての親の死で戦争の虚しさを学びますし、番組当初は熱血漢の戦士であったとしても、戦いの中で平和の大切さや愛を学ぶのが、日本のロボアニメの基本。そして、愛や平和を学べない好戦的な敵を倒すことで平和を取り戻して幕、というのが、ロボット物の筋書きです』
ヒノキ「とは言え、過激な歌詞の作品もあるがのう」
NOVA『70年代はそんな感じですな。しかし、それが成熟するとこうなるんです』
NOVA『70年代の前半は、恐ろしい侵略者と、それを迎え撃つスーパーロボットという勧善懲悪の構図だったのが、70年代の中盤頃から敵サイドの悲劇の背景が描かれるようになり、番組半ばからどうすれば悲惨な戦争が終結するのか、和解の道はないのか、という反戦ドラマへの模索が行われるようになります。
『そして、味方側の好戦的な軍人とか、敵側の平和主義者という錯綜した物語が展開され、最終的には戦いの元凶は誰なのかをはっきりさせて、ラスボスを倒すことで和解が為されることもあれば、決定的な破局が訪れて、双方の共倒れエンドという最悪の事態まで描かれたりするのがSFロボット物のジャンルですな。
『とりわけ、80年代になると、敵に敗れた後の世界とか、崩壊後の世界からの復興劇とか、単に世界が滅びて終わりのこともあれば、世界は滅びたけど主人公と少数の人間は生きていて、崩壊後の未来の模索という意欲的な試行錯誤も行なってみたり』
ヒノキ「ある意味、80年代は世界崩壊後の荒野をさすらう世紀末ヒャッハー系の物語が流行したからのう」
NOVA『破滅志向の物語ということもあれば、宇宙開発が進んで第二の地球を目指す惑星探索&開拓の冒険物語が一つのSFジャンルとして広がったということもあります。SFといっても、定番の侵略者から日本や世界を守るという物語から、崩壊後の世界の復興サバイバルや、新世界を目指す探索の旅という形式が映像フィクションの主流になったり、架空世界の軍記物という大人向きアニメが模索されたり、80年代のSFアニメはファン層の成長とともに、大きな発展を遂げることになります。いわゆるアニメオタクと呼ばれる存在が可視化されるのも、昭和末期のこの時代の話ですな』
ヒノキ「ふむ、つまり日本のロック音楽は、映像サブカルチャーの魂という形でガラパゴス的発展を遂げたんじゃな」
NOVA『もちろん、それが全てとは申しませんが、80年代にアニメやドラマの主題歌としてタイアップ的に流行したロック音楽が結構あったことは否めません』
ヒノキ「杏里はロック歌手なのか?」
NOVA『80年代当時の分類としてはニューミュージック、その後、平成に入ってJPOPと分類されるようになってますね。ロックは、主に3人から5人のバンドグループありきだと定義されているケースもあって、杏里の場合は曲調が海外風味で、洋曲の影響を大きく受けたアーティストですが、厳密な意味ではロック歌手ではありません。しかし、「キャッツアイ」は編曲が大谷和夫さんで、彼はロックバンドSHŌGUNのメンバーなので、曲調がロックなのは間違いないわけです』
ヒノキ「なるほど。演奏形式ではなく、曲のアレンジャーがロックな人ということか。奥が深いのう」
NOVA『で、「キャッツアイ」の後番組のこちらは確実にロックに分類されているようです』
NOVA『この80年代は、アニメ=子供が見るものという70年代までの大人の偏見が覆り、ファンの成熟によってアニメというジャンルの多様化、そして大人のスタイリッシュな都会風アニメや、ニューミュージック、後のJPOPとも呼ばれる音楽業界とのコラボもあって、アニメもロックバンドもオシャレで垢抜けた若者文化として急成長する時期でした。ロックという音楽本来の持つ過激な反骨精神も、日本のリアルでなく、アニメやドラマの物語世界なら違和感なく溶け込めるわけですね』
ヒノキ「つまり、既存のメインカルチャーに対するサブカルチャーを表現する音楽性こそロック。日本では、それが映像文化を彩るものとして受容された。そこに権威権力に対する自由な反骨精神は存在しない。なぜなら、日本社会には欧米に対するほど暴力で人を縛る(軍に象徴される)国家体制が存在せず、反抗すべき権威権力がないゆえじゃな」
NOVA『明確な敵がいないのに、反抗しようがありませんからね。そこで、無理に敵を設定するなら居丈高な旧世代の親とか学校教師でしょうが、学生が自立した大人になればぶつからなくなるし、もしもロックやサブカルチャーを政府に対抗する左翼が自分たちの味方として取り込めば、反権力と成り得たのかもしれませんが、左翼の多くのインテリ層はアニメファンをオタクとして迫害する方向に回って、自分たちこそが古い権威権力だと証明しましたからね』
ヒノキ「日本の当時のアニメ界の重鎮であった富野氏や宮崎氏(今もファンへの影響力は大きい)は左翼寄りの発言も多かったにも関わらず、旧世代感覚の政治家の方がそういうサブカルチャージャンルへの偏見を改めなかったからのう」
NOVA『80年代に急成長したアニメおよびゲーム業界は、90年代に大きな試練に立たされる流れですが、インターネットの発展という時流に乗りながら、21世紀にはメインカルチャーの重要コンテンツになるわけです。で、ロックもまたそれがメインカルチャーの一翼を担うようになるわけですが』
ヒノキ「『けいおん』(原作コミックは2007、アニメは2009より)は、女子高生バンドを中心とした日常系作品になるが、音楽ジャンルとしてはロックではないじゃろう?」
NOVA『確かに、これをロックと称すると、グループで楽器を演奏したら全部ロックなのか! とツッコミが来るレベルですな。まあ、同じ21世紀の少女音楽アニメでも、こっちはまだロックしてると思いますが↓』
ヒノキ「ところで、これはTRPG話のはずなのに、どうしてロックの話を延々としておるのじゃ?」
NOVA『いやあ、サイバーパンクにロックは欠かせないという印象はあったので、そこを掘り下げたら結構な深みにハマったな、と。しかし、俺にとってロッカーボーイの印象は、やはり「マクロス7」の熱気バサラの印象が強くて、それ以前だとキカイダーとズバットと、必殺の三味線屋勇次に遡るわけで』
ヒノキ「仮面ライダー響鬼の音撃は21世紀に入ってからじゃしのう」
NOVA『で、バサラを見てから思い出すわけですよ。我々は日本で最もロックな生き方をしている小学生を知っていることに』
ヒノキ「だらだら延々と話した最後のオチが、ジャイアンの歌とは何て罰ゲームじゃ(涙目)」
NOVA『ロックでしょ?』
ヒノキ「むしろ、デスメタルじゃ。そもそも、ちっともアルシャードに至っておらんじゃろうが」
NOVA『というか、「トーキョーN◎VA」について語るはずが、サイバーパンクからロッカーボーイやガールに夢中になって、まさか自分がロック音楽というテーマでここまで語れるとは思っていませんでした』
ヒノキ「まあ、ロックがヒーロー物やロボット物、その他のアニメにもしっかり浸透していたってことじゃな」
NOVA『次回は、ロック以外の90年代サイバーパンクをもう少し掘り下げて、「トーキョーN◎VA」に至る道を語りたいと思います。意外とアルシャードに至る道は遠かったということで』
(当記事 完)
*1:自分が所属している犯罪組織の法を重んじるという意味で、秩序にして中立、機械のように命令に忠実というキャラは設定できるかも。ロールプレイとしては、それなりに高度な感じはしますが。







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