花粉症ガール外伝・コンパーニュ記

会話リプレイ形式の「精霊少女や仲間たちの趣味雑談ブログ」。お題はTRPGを中心に特撮・怪獣ネタ成分が濃厚。現在は、D&Dを中心に世紀末前後のTRPGの懐古話を不定期展開中。

ロードスより先の古代魔術の話1(フォーセリア編)

ロードス魔術話の続き

 

NOVA「さて、今回はロードス職業づくしから話を切り替えて、新しいテーマで展開しようと思う。一応、この記事の続きなんだが、話題が広がるので、もはや『ロードスRPG編』じゃなくなるよなあ、ということで。むしろ、新章スタートという位置づけだ」

ヒノキ「ロードスの話は打ち切り、ということか?」

NOVA「RPGシステムとしては、いろいろ掘り下げることも可能だが、ここまで続けた職業メインの話としては、前回でほぼ語り尽くしたんだ。もしも、今後ロードスRPGについて語る際も、違うテーマで1から再スタートすることになるだろうな。それはともかく、今回からはロードスを始点にして広がる魔法世界観の俺的雑感を語っておこうと思う。対象となる世界は、フォーセリアラクシア、そしてグランクレストだ」

晶華「すると、世界ごとに全3回という予定かしら」

NOVA「もしかすると、ラクシア前編とラクシア後編に分かれるかもしれないがな。さて、ここで晶華に大事な質問だ。ロードスを含むフォーセリアの魔術体系は大きく3つに分類される。その名前を答えよ」

晶華「基本的な質問ね。ソーサラーの使う古代語魔法、プリーストの使う神聖魔法、シャーマンの使う精霊魔法の3つ。今までの職業話を聞いていれば、間違えようのない常識だわ」

ヒノキ「補足するなら、古代語魔法の技術を簡略化した共通語魔法、邪神の授ける神聖魔法である暗黒魔法、そして竜司祭の使う竜語魔法、さらにクリスタニアの神獣の加護であるタレントなども挙げられるな」

NOVA「さらにマニアックに攻めるなら、ケイオスランドに痕跡が残る混沌魔術というのもあるが、詳細がはっきり語られていないわけで、結局、プレイヤーキャラクターが一般的に使えるのは、古代語魔法(共通語魔法も含む)、神聖魔法、精霊魔法の3種が基本だ」

ヒノキ「共通語魔法については、ロードスとソード・ワールド旧版では微妙に扱いが異なることも注意じゃな」

NOVA「ああ。ソード・ワールドの共通語魔法は、オランの大賢者マナ・ライが指輪などのアイテムに簡単な古代語魔法を行使する力を封じたもので、魔法使い系の技能を持っていなくても合言葉を唱えれば誰でも使えるようにした道具だ。これで、戦士や魔法の使えない種族のグラスランナーなどが、魔法の明かりを灯したり、武器に魔力を付与することもできるようになる。

「一方で、ロードスの共通語魔法は、古代語魔法とは切り離された魔術体系で(起源は大陸の大賢者の研究によるものとされるが)、ソーサラーの他にナイトが使える簡易魔術ということになっている。道具に封じられた魔法ではなく、学習で習得する必要があり、誰でも使えるわけでないところが違う」

晶華「精霊魔法も確か、ソード・ワールドとロードスとでルールが違っていたはず。ロードスの精霊魔法はいつでもどこでも使えるけど、ソード・ワールドでは対応する精霊力が働いていない状況では使えない。例えば、屋内では風の精霊魔法が使えないとか、火のないところではファイアボルトが撃てないので、シャーマンは松明とか、水袋とか、精霊力を働かせるための道具を持ち歩くのが必須だったようね」

NOVA「さすが精霊魔法のことは、しっかり勉強しているなあ。これをシステムの違いと割り切るか、あるいはロードスの方が精霊力が強くて偏在しているのに対し、大陸では無の砂漠の影響から精霊力が弱まっているために、場所によってムラが生じやすいと解釈することもできるかも」

ヒノキ「おっと、新兄さん。一つ失念しておるようじゃのう」

NOVA「何かな?」

ヒノキ「バード(吟遊詩人)の呪歌も、魔法体系の一つに入れるべきではないか?」

NOVA「おっと、いけねえ。一応、古代語魔法の亜流とされるが、混沌魔術なんてマイナーなものを挙げているのに、呪歌のことを失念するとは迂闊だった。以降も、見落としがあれば、ツッコミよろしく頼む。コメント欄でもそういう指摘があれば歓迎するぜ」

 

フォーセリアの魔法体系のつづき

 

NOVA「さて、前置きでいろいろ語ったが、俺はこういう魔法体系の話をしたり、あれこれ研鑽したりするのが大好きだ。愛読書の一つが今でもこれだったりするしな」

ヒノキ「おお、それはロードスの伝説の魔術師ウォートが遺したとされる貴重な書物ではないか」

NOVA「しかも、俺の持ってるのは初版だぜ。昭和63年1月30日発行と記されている。さすがに資料として扱われているゲームが『ドラクエ2』であり、3でないところが古さを感じさせるが、もしも今、こういう各種ゲームの呪文を網羅した大著が出版されたら、喜んで買いそうな俺がいる」

魔法事典 (Truth in fantasy事典シリーズ 3)

魔法事典 (Truth in fantasy事典シリーズ 3)

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 新紀元社
  • 発売日: 1998/06/10
  • メディア: オンデマンド (ペーパーバック)
 
魔法・魔術 Truth In Fantasy

魔法・魔術 Truth In Fantasy

 
魔術師の饗宴 (新紀元文庫)

魔術師の饗宴 (新紀元文庫)

 

NOVA「ゲームにおける呪文集もいろいろあるが、やはり圧巻なのはこれらかな」

ガープス魔法大全

ガープス魔法大全

 
ガープス・グリモア完訳版―汎用RPGルールブック

ガープス・グリモア完訳版―汎用RPGルールブック

 

ヒノキ「うおっ、この話の流れじゃと、膨大な資料をあれもこれも語り過ぎて、際限なく延々と果てしなく続くのが明らかじゃ。新兄さん、落ち着け。GURPSではなく、今はフォーセリアに戻ってくるがいい」

NOVA「お、おお、フォーセリアだな。すぐに引き返す」

ガープス・コクーン (角川スニーカー・G文庫)
 

ヒノキ「バカもん! それは、フォーセリアではなくて、似て非なるファイブリアの方じゃ。そっちの道の先には、七つの月のしろしめす世界ルナルが待っておる。今、向かうべきはそちらじゃない。帰って来〜い」

【合本版】新装版 ルナル・サーガ 全6巻 (角川スニーカー文庫)
 

 

NOVA「悪い。何だかふらふら迷い込んでしまったようだ。ええと、とにかく、ロードスとフォーセリアの魔法の話をしたいんだよ、俺は。そこで晶華に再び大事な質問だ。ロードスを含むフォーセリアの魔術体系が、日本のRPG界に与えた最大の影響は一体、何だと思う?」

晶華「ええ? そんなの分からないわよ。ええと、カーラ様?」

NOVA「う〜ん、古代の魔術師の思念が美女に憑依して……という物語パターンの一類型だとは思うが、俺の求める答えとは違う。そもそも、カーラ様は魔術体系じゃねえ」

晶華「だったら、ええとカーラ様の得意とする付与魔術(エンチャント)って答えればいいのかしら?」

NOVA「ああ、その話も後できちんとしたいが、今、求めている答えはカーラ様から離れろ。むしろディードリットに関係する」

晶華「あ、それなら簡単よ。精霊魔術ね。でも、精霊魔術なんて基本中の基本じゃない。日本のRPG界に与えた影響なんて……」

NOVA「ロードス以前は、精霊を召喚して使役する魔術は必ずしもメジャーではなかったんだ。むしろ、攻撃的な黒魔法としての魔術師魔法と、回復系の白魔法としての僧侶魔法の二体系が主流で、D&Dもそうだし、第三の魔法体系が定着するのはロードスを初めとするフォーセリア世界観の影響が大きい、と俺は考えている」

 

精霊と召喚魔術の話

 

晶華「ええと、ファイナルファンタジーで召喚魔法が登場したのは?」

NOVA「3だな。1990年。ちなみに、ソード・ワールド発売は1989年だ」

晶華「だったら、精霊魔法を発明したのはロードスってこと?」

NOVA「いや、発明したわけじゃない。RPGとして起源を辿るなら、『ルーンクエスト』にもあるし、エルリック・サーガを題材にした『ストームブリンガー』だって精霊召喚が魔術の基本の一つだ。それらは1987年から88年にかけて日本でも先に登場しているので、ロードスの精霊魔術がその影響下にあるのは明らかだ。水野さん自身、未訳時代からルーンクエストのファンだったことは公言しているしな。精霊魔術、神聖魔術、そして学問としての魔法(魔道とも訳される)の三体系はルーンクエストに基づくものが、フォーセリアにアレンジされて踏襲されたわけだ」

ルーンクエスト・ナインティーズ

ルーンクエスト・ナインティーズ

 

晶華「すると、私たちはルーンクエストさんやストームブリンガーさんをもっと称賛すべきじゃないかしら」

NOVA「旧世紀のTRPGファンの間では、普通に称賛されているんだよ。ただ、それらの作品はマニアックすぎて、一般層に影響を与えるまでには至らなかった。マニアックさなら、クトゥルフも大差ないのにな。大体、召喚魔術なんてフォーセリア以前は、高位の魔法使いが扱う上級呪文って感じだぜ。例えば、ウィザードリィワードナとかが迷宮内の魔法陣から魔物を呼び出す儀式魔法の一環だったんだ。

「お手軽な精霊召喚魔法というロードスやソード・ワールドの精霊魔術が公表されて、またファイナルファンタジー3で魅力的な高位魔法として召喚魔法が設定されて、その後、OVAロードスのディードリットが風の精霊に語りかけるなどのビジュアルイメージや、ファイナルファンタジー4の幻獣使いの少女リディアのドラマチックなストーリーとも重なって、いかにもファンタジー的な神秘性を伴いながら、精霊召喚という魔法がメジャー化していく流れが90年代前半と言えよう」

「一方、ゲームではないが、ビジュアルイメージという面では、聖闘士星矢のように必殺技を発動する際、自分の星座の象徴となるペガサスやドラゴンなどの幻想生物が背景に浮かび上がる演出も大きいな。まあ、これも星矢が初出ではなく、特撮ヒーローでも電撃戦隊チェンジマンが先に幻想生物の浮かび上がる戦闘演出を見せていた」


『戦隊MAD』電撃戦隊チェンジマン オープニング改 オールスター.ver Dengeki Sentai Changeman OP

 

NOVA「印象的なシーンで登場人物の背景に象徴動物が浮かび上がる演出は、古くは『巨人の星』時代からやってはいたんだが、それが80年代になると技を発動する際の定番演出に発展し、90年代になると実際に生き物とか形ある霊体が召喚されて、主人公の代わりに技を使ってくれたりもする。これがポケモンだったり、ジョジョのスタンドだったりするんだが、召喚というファンタジックなキーワードをメジャー化させた立役者の一つがフォーセリアでもあるというのが俺の主張だ」

ヒノキ「なるほどな。精霊力というキーワード自体、ロードスやフォーセリアの特徴とも言えるわけじゃしのう」

晶華「でも、精霊召喚が技演出の一部なら、NOVAちゃんが私を召喚し、私の技で敵を倒しても、それは召喚者のNOVAちゃんの手柄になるってこと?」

NOVA「いや、別に手柄がどうこうって問題じゃないんだが、最近のバトルアニメの特徴は、主人公が直接技を発動するのではなく、契約相手に戦いを任せる間接的、代理戦闘的な描写が増えているよなあ、とは感じる。まあ、プリキュアのように、妖精の方が女の子と契約して、女の子に力を託して戦わせる、召喚魔法とは逆のケースもあるわけだが」

ヒノキ「いずれにせよ、契約というキーワードも重要そうじゃの。やはり、これも90年代のゲームの影響が大きいのか?」

NOVA「ポケモン以前だと、メガテンの影響も大きそうですけどね。そちらは、ウィザードリィワードナの方向性からの進化で、ロードスとはまた違った流れだとは考えますが。

「ところで、これは以前から主張したかったことですが、ファンタジー系の素人ラノベを読んでいて、召喚魔法を召還魔法と書いているマヌケが結構多いことが気になるんですね。大方、辞書も調べずに深く考えないで漢字変換しているんだろうけど、呼び出す方は召喚で、元の世界に呼び戻すことが召還。つまり、召還魔法と書いてしまうと、この世界が呼び出した精霊や魔物の故郷なのかよ、とツッコミ入れたくなるわけですよ。普通は、異界出身の魔物なんかをこっちに呼ぶわけでしょうから、漢字の意味を考えればおかしいと分かるはずなのに、機械の自動変換機能に任せっきりになると、結構やりがちなミスなんでしょうね」

晶華「だけど、NOVAちゃん。もしも、召還魔法を使えるなら、失踪したお姉ちゃんを簡単に呼び戻すこともできるんじゃない?」

NOVA「ああ、その手があったか! って、俺は召喚魔法は使えても、召還魔法は使えねえよ。使えるとしても、遠くにあるアイテムを自分の手元に飛来させるぐらい。翔花はアイテムじゃないから、道具みたいに気軽に呼び出すのは無理だろう。そもそも、いつどこにいるか分からない相手なんだから、手繰り寄せるのも難しいんだって」

晶華「う〜ん、翔花召喚の呪文が使えたら便利だろうな、と思ったんだけど」

NOVA「それは、翔花と召喚を掛けた高度なギャグか?」

晶華「はい、翔花はいないと〜、今ここに」

ヒノキ「やれやれ。失踪中のコナっちゃんの名前をギャグネタにするとは、この父娘は緊張感がなさ過ぎる」

 

カーラ様の付与魔術


NOVA「さて、カーラ様の付与魔術(エンチャント)だ。これは遺失魔術と言われ、古代魔法帝国時代にはメジャーだったのに、現在は失われた魔法系統だ。まあ、一応、エンチャント・ウエポンとか簡単な名残はあるんだけど、短時間しか持たない。付与魔術は本来、永続的なマジックアイテムを作成したりできるんだけど、ロードスやアレクラスト大陸では基本的にマジックアイテムを新しく作ることは不可能(ルールで実装されていない)で、古代の遺跡から発掘するしかないんだ」

晶華「マジックアイテムを作れないってことは、簡単なスクロール(巻き物)や📜ポーション🥤も作れないの?」

NOVA「プレイヤーキャラクターが作れないだけで、神殿には製法が伝わっていたりするかもしれないし、遺跡からレシピが見つかるかもしれない。まあ、ロードスでは貴重なポーションよりも薬草術の方がメジャーになるかもしれないが、そもそも戦乱でいろいろな技術が失われている世界観だからなあ」

ヒノキ「そう言えば、アラニアの賢者の学院も、バグナードの手で滅ぼされおったな。貴重なマジックアイテムの数々もバグナードに奪われたそうで、ロードスはマジックアイテムが枯渇した世界ということかのう」

NOVA「遺跡から発掘以外の手段では、手に入りにくいのかもしれません。あるいは、ウォートとかカーラ様なら、いろいろ持ってそうですけどね。スレイン師はウォートからあれこれ受け継いだみたいですけど、それも100年後にはどうなってることやら」

晶華「案外、スレイン先生の弟子がモスにはいるのかもしれないわね」

NOVA「それにしても心配なのは、100年後のロードスは古代遺跡そのものが探索され尽くして枯渇したという事実だな。冒険のための世界としては魅力激減だが、マジックアイテムのレア度がますます上昇したんじゃないか」

晶華「カーラの記憶を持つレイリアさんが、夫のスレイン先生とともに賢者の学院を再建して、魔法教育や研究を充実させていたらいいんだけど」

NOVA「確かに。ロードスという世界は元々初心者向きに作られた、閉じた世界だったために、80年代から90年代ならともかく、現在では制約の大きな世界と言える。まあ、新たな小説の展開で、大陸との新しい関係や100年前とは違った産業の発展とか、違う姿を見せるかもしれないがな。とりあえず、100年後のアレクラスト大陸も戦乱の影響で、ロードスに逃げ延びた者がいるということも明らかになったし、単に物語展開だけでなく、世界そのものがどう変わったのかは注目したいと思っている次第」

ヒノキ「ところで、エンチャントの技術は失われたとあるが、マナ・ライは共通語魔法(コモンルーン)の指輪を作るなど、一部は復活しているようにも思えるのう」

NOVA「アレクラスト大陸では、遺跡漁りの冒険者が職業として成り立っていますからね。遺失魔術の復刻も為されやすい環境なんでしょう。かたや古代王国の知識を持っているカーラが暗躍している世界、かたや無数の遺跡を数々の職業冒険者が漁りまくって新発見と研究が続けられている世界。それでも、マジックアイテム作成のルールは実装されなかったので、GMが別のゲームのルールや資料からコンバートしたり、アイデアを借りたりしながら、その裁量でマジックアイテムを用意するのが当時は推奨されていたわけですよ。それを助けるためのこんな本も出ていましたし」

ヒノキ「おお、これは伝説の剣闘士ルーファスとしてのカシュー王の姿が描かれている書物じゃな」

NOVA「ええ。俺の持っているのは、やはり初版で、昭和63年9月30日発行となっている。巻末に記載された資料に『ドラクエ3』や『ファイナルファンタジー(1作め)』も挙げられていて、薬草の項目にスパイスもあって、『ポルトガの王様にくろこしょうを取って来いと依頼される』とか『戦闘中に使うと敵も味方もくしゃみを連発するというネタ』とか懐かしすぎる。船の項目では、FFで川を渡るカヌーとか、飛空船(ひくうせん表記)とか、とにかく昭和末期のゲーム界の様相を伝える貴重な資料になっているわけですね」

 晶華「まさに、黎明期のRPG文化を感じさせる本ってことね」

 

NOVA「それで、この時期辺りの俺はカーラ様の付与魔術という言葉にも魅力を感じてな。古代魔法王国の魔術の一派ということは、他にも魔法の流派はいろいろあるわけだろう? いつかは古代王国の魔法流派の全貌が明らかになる未来ってのも想像して、ワクワクしていたんだよ。カストゥール王国を網羅したサプリメントがいつか出るんじゃないかな、とか」

ヒノキ「結局、出なかったがの」

NOVA「単行本化はされていないが、水野さんの書いた小説『魔法王国カストゥール 復讐の継承者』という作品がザ・スニーカー誌に掲載されていたんだな。詳細はこちらのサイト記事で書かれてある。それによると、カストゥール時代は古代語魔術が10の魔法系統に分かれていたそうだ」

ヒノキ「ほう、それは是非とも知りたいのう」

NOVA「順に並べると、基本、拡大、四大、死霊、召喚、付与、精神、幻覚、創成、統合だ。基本の上に、8種の分派があって、それらを全てまとめた統合魔術。これが水野さんのロードスやソード・ワールドの魔法観の背景にあったと思うと、ワクワクするわけだよ。どうして、こんな大事な資料が単行本化されていないんだよ。ロードス復活を機に、これも復刻しないかなあと思う次第だ。出たら俺は喜んで買う」

晶華「ねえねえ、NOVAちゃん。名前だけ知っても、イメージが湧かないよ。特に、拡大魔術と創成魔術って、どんなのかな?」

NOVA「それには、AD&Dや現D&Dのウィザードの分派が役に立つんじゃないかな」

 

D&Dのウィザード魔法分派

 

NOVA「さて、ここからは先祖返りして、D&Dの話をするぞ。クラシックD&D時代は、魔術師魔法と僧侶魔法の二派に、僧侶の分派であるドルイド魔法が加わったりしたんだが、そこからAD&Dに移る。AD&Dのルールでは、総合職的な普通のウィザードの他に、どれかの魔法系統に特化したスペシャリスト・メイジという亜流クラスを選択できる。その系統が8種類あって、フォーセリアの古代魔術の元ネタであろうと推察できるわけだ」

ヒノキ「なるほどな。基本と統合を除けば、カストゥールの魔術体系も8種類。数は揃っておるのう」

NOVA「職業名を挙げてみると、アブジュラー、コンジャラー、ディビナー、エンチャンター、イリュージョニスト、インヴォーカー、ネクロマンサー、トランスミューターの8種だ」

晶華「ええと、カタカナばかりでよく分からないよう(涙目)」

NOVA「分かるものもあるだろう?」

晶華「エンチャンターはカーラ様? イリュージョニストは幻影系統で、ネクロマンサーは死霊系統よね。他はパス」

NOVA「では、現在の第5版に基づいた日本語を紹介しよう。まず、最初のアブジュラーは、プロテクションとかディスペル系の魔法を得意として、防御術士と呼ばれている」

ヒノキ「いきなり、地味じゃな」

NOVA「だが悪霊を封印したり、探知魔法を防いだり、平和な日常生活を守る壁になるのは大切だぞ」

ゲンブ「確かにその通り」

晶華「あっ、ゲンさんが喋った」

ゲンブ「うむ。魔法の話は門外漢ゆえ、我の出る幕ではないと思っておったが、防御となると話は別。そう、誰かを守るために自らの身を盾にすることの大切さを、魔術の世界でも理解していたのでござるな」

NOVA「いや、さすがに自らの身を盾にするのとは違うが、結界を張ったり、封印を施したり、相手の攻撃魔法を反射したり、まずは相手の攻撃を凌いでから反撃に移る戦術はそれなりに有効だろうぜ。魔術師は対呪文防御に専念して、攻撃は前衛戦士に任せるという戦術も騎士や剣の時代ならありだろうし」

ヒノキ「それで、防御術はカストゥール十系統のうちのどれに対応しているのじゃ?」

NOVA「直接対応しているわけではなさそうだな。次にコンジャラーだが、これは分かりやすく召喚術士だ。また、自身を転移させることもできて、移送魔術も得意としている」

晶華「つまり、NOVAちゃんの得意魔法の一つね」

NOVA「俺の時空魔術は、D&Dの魔法区分とぴったり重なるわけでもないがな。3つめのディビナーは占術士と訳され、情報収集系、感知系のエキスパート。これは、カストゥールでは知覚の拡大系と精神系に配分されているようだ」

晶華「ああ。拡大系の呪文って、能力の拡張に関係しているのか。筋力を増強したり、敏捷性を高めたり、そういった系統なのね」

NOVA「正解。4つめのエンチャンタだが、これはカーラ様の付与魔術ではない」

晶華「何ですって? 紛らわしいのよ。D&D許すまじ」

NOVA「いやいや、本来、エンチャントは心を惑わせるという意味で、魅了などを使う心術士の系統なんだ。カストゥールの区分になぞらえるなら、精神系統ということになる。これを魔力付与の意味で解釈したのは、水野さんということになる。紛らわしいと怒るなら、後から意味を改変した水野さんに怒らないといけない」

晶華「だったら、水野さんに怒りをぶつけてもいい?」

NOVA「ファンである俺を敵に回したいならな」

晶華「だったらD&Dに怒りをぶつける」

NOVA「俺がD&Dのファンでもあることを忘れるなよ」

晶華「じゃあ、私は何に怒りをぶつけたらいいのよ!」

NOVA「いちいち、つまらないことに憤っていないと、それぐらい素直に受容しろよ。自分の中で、きちんと区分けして整理すればいいだけの話だろうが。そうやって、自分の中の世界を広げて、心豊かに育っていくことを父は望んでいるんだ」

晶華「理不尽に対して、怒ってはいけないわけ?」

NOVA「ただの解釈違いやアレンジを、理不尽と混同するなよ。ああ、そういう考え方もあるのか、なるほどな、覚えておこう。これで済む話だ。本当に怒るべきは、自己の尊厳を傷つけられた時と、自分の大切なものを傷つけられた時だけでいい。D&Dや水野さんがお前やお前の大切なものを傷つけたのかよ?」

晶華「うっ。そんなことはない。とにかく、エンチャンターのカーラ様はD&D世界では違う系統に属するのね」

NOVA「物品に魔力を付与するのは、D&Dでは変成術士の領域だな。最後のトランスミューターがこれに当たる。まあ、物品だけでなく、自らの肉体を変成させたりもするので、拡大魔術の要素も混ざっているが」

ヒノキ「つまり、ここまでの結論。フォーセリアの古代語魔術分類は、D&Dの分類そのままではなく、多少の影響を受けたにせよ、オリジナルの再分類を試みたのは明らかである」

NOVA「そう言うことになるな。イリュージョニストネクロマンサーはそのまま幻覚と死霊魔術に対応するが。最後に残ったインヴォーカーは力術士と訳され、四大精霊を初めとするエネルギーを扱い、攻撃呪文の充実した系統。これはフォーセリアの四大(しだい)魔術に相当するんだろうな」

ヒノキ「つまり、D&Dでは防御、召喚、占術、心術、幻影、力術、死霊、変成の8種。フォーセリアでは、基本と統合を除けば、拡大、四大、死霊、召喚、付与、精神、幻覚、創成の8種。結局、創成だけが分からないまま、ということじゃ」

NOVA「ゴーレムを作ったり、次元門を作ったりするのが創成魔術ということになるが、D&Dの魔法分類はもっと手軽な呪文の系統という意味で、マジックアイテムを作成するのは、その系統分類とは異なる儀式などを要する形になる」

ヒノキ「D&Dの魔法分類は呪文の系統分けに過ぎず、フォーセリアの方はもっと広い世界観に関わってくる分類か」

晶華「分かったような、分からないような……」

NOVA「例えば、マジックアイテムを作るのには二つの方法があって、一つは既存の品物(剣とか指輪とかサークレットとか)に魔力を封じて強化する、付与魔術の領域だ。もう一つは全く新しい存在や器物を創り出すのが創成魔術の領域。そちらはホムンクルスなどの魔法生物を作ったり、要するにフォーセリアの世界観で『魔法の産物とされる不思議なもの』を網羅するための背景設定だったんだ。ある意味、プレイヤーキャラにはタッチできない禁断の領域、GMだけが物語の材料として自由に設定できる要素に背景的理由付けを与えるための設定と言える」

晶華「あ、そうか。カストゥールの魔法系統の設定って、元々プレイヤーキャラが触れるものじゃないってことね。D&Dの方は、プレイヤーキャラが触れるレベルのものだけど」

NOVA「ついでに言えば、3版の時はプレイヤーキャラが割と自由にマジックアイテムを作成したりできるルールで、現在の5版はもっと日常品の道具を使った技に重点が置かれるようになっていて、従来の技能の他に道具習熟という要素がキャラの背景に関連づけられている。この辺は、パグマイアでは省略された部分だな」

晶華「どういうこと?」

NOVA「例えば、芸人の持っている道具習熟は『変装用具』と『楽器1種』となっているんだが、これで何ができるかは分かるかな」

晶華「もちろん、変装と楽器演奏よね」

NOVA「それだけじゃない。変装用具に習熟していると、自分が変装するだけでなく、他人の変装に気づいたり、ファッションセンスに優れていたり、化粧用品の見定めができたりなどなど、変装と名のつく、あるいは関連する事項にプレイヤーが積極的に活用できるわけだ」

晶華「すると、楽器に習熟しているということは、楽器を弾くだけでなく、楽器の修繕をしたり、音の調整をしたり、他人の演奏を寸評したり、その楽器に合わせた曲を作成したり、高所で楽器を奏でて戦闘員に『どこだどこだ』と探させたり、楽器の音響反射によって周囲の地形を精査したりすることができるわけね」

NOVA「どこまで拡大解釈するのやら。まあ、GMが許せば、そういう使い方もありだろう」

晶華「ギターのパンチで敵を打ち倒すことも?」

NOVA「楽器を愛する者が、そんな使い方をするなよ。まあ、ともかくマジックアイテムとは異なる日常道具で、自分のトレードマークとなるアイテムを演出できるルールとも言えるな。そいつはさておき、マジックアイテムの話なんかは、GTライフでのD&D話でも語り残したテーマなんだが、今回はこれぐらいにしておこう。とりあえず、フォーセリアの創成魔術はGMの専権事項ということで、ゲームのルールでは扱われなかった遺失魔法という結論で置いておく」

晶華「D&Dでも、3版から4版、5版に移る形で、相当な数の遺失魔法があるみたいね」

NOVA「そういうものをあれこれ発掘するのも、俺は楽しんでいるんだがな。ともかく、フォーセリアのルール化されなかった古代魔法王国関連のルールを、北沢慶さんたちがラクシア世界で構築してみたのが次の『エイジ・オブ・グリモワール』だ」

ソード・ワールド2.0サプリメント エイジ・オブ・グリモワール

ソード・ワールド2.0サプリメント エイジ・オブ・グリモワール

 

NOVA「一方で、過去に滅びたカストゥール魔法文明の要素を、再構成して現役魔法文明の世界観として水野さん自身が設定したのがグランクレストということにもなる」

ヒノキ「なるほど。つまり、ロードス→古代カストゥール王国と遡って、その要素を継承発展させた作品の話をすることで、古代魔術についてのイメージを深める記事を意図していたのじゃな」

NOVA「そうです。まあ、魔術体系について語ることは、そのファンタジー世界を深く知ることに通じると考えますし。ロードスはどちらかと言えば、精霊の要素が強く印象づいたファンタジー世界と考えます。一方で、ラクシアは魔導機文明が特徴。また、グランクレストは異世界からの投影体や多彩な混沌が特徴なんでしょうが、それに秩序をもたらそうとする君主と、君主を支えるように見せかけて、影で混沌の維持を目論んで世界のバランスを保とうとした魔法師勢力の物語だったわけで」

晶華「ああ。その辺の暗躍している魔法師パンドラの遺志こそが、姿を変えたカーラ様の後継みたいなものと、NOVAちゃんは主張していたわけね」

NOVA「物語の役割としては、主役の君主テオがパーンの性格を持ったベルドの立ち位置で、ヒロインの魔女シルーカがカーラの策士ぶりとディードリット的なヒロイン要素を兼ね備えたキャラと思っていた。ところが、アニメではディードリットの声優である冬馬由美さんが物語のカーラ的な立ち位置であるパンドラの声を務めたと後から知って、俺の感じていたカーラ要素とディードリット要素が逆の形でつながっていたんだなあ、と思ったりも」

晶華「とにかく、NOVAちゃんの中では、グランクレストが裏ロードスという位置づけだったわけね」

NOVA「というか、『魔法王国カストゥール』の小説を発展継承した作品がグランクレストだろうと考えている。だから、この記事の構成は、俺にとっては必然になるんだよ」

 

ヒノキ「ならば、次はラクシアの魔法体系について、じっくり考察してもらうとするかの」

NOVA「まあ、じっくりではなく、あくまで大雑把な概論ぐらいの予定ですがね」

 (当記事 完)