アニメ2期を見終えて
リモートNOVA『ヒノキ姐さん、誕生日おめでとう♪』
ヒノキ「おお、新兄さん。わざわざの連絡ありがとう。おかげさまでシロのクリスマス&バースデイ兼用ケーキも美味しくいただくことができた」
NOVA『そいつは何よりです。こっちはケーキを作る人間がいないので、市販のケーキとチキンで適当に何とかしたわけですが、まあクリスマスネタはもういいかな。それよりも、ゴブスレアニメがついに最終回を迎えたわけで、まずはそういう話をしたいと思います』
ヒノキ「アニメの3期はいつからじゃ?」
NOVA『それは気が早すぎでしょう。1期が2018年で、劇場版が2020年、そして今期が2023年ということを考えると、次の動きは2年後ぐらいかな、と思います。2025年に劇場版2作めが来たらいいかなあぐらいに考えておりますが、それより先に来年早々に、原作小説17巻の発売予定が出て欲しいですね』
ヒノキ「うむ、しばらくはゴブスレロスになりそうじゃ」
NOVA『まあ、俺はゴブスレの代わりに、これを読みましたがね』
ヒノキ「ほう。で、内容はどうじゃった?」
NOVA『アニメの感想と、まとめて話しましょう』
ウィザードリィのゴブスレへの影響
NOVA『いやあ、ウィザードリィは懐かしいなあ。今回のゴブスレアニメ2期は、ウィザードリィ抜きでは語れないぐらい、各所にネタが溢れています。最終話で「ブルーリボンが地下4階からのエレベーターの鍵になる」とか「グレーターデーモン」とか「金剛石の騎士」とか、その前のサブタイトル「王女の受難」とか、もっと前の「町外れの訓練場」とか、実にWIZネタだ』
NOVA『もう、この青肌デザインのグレーターデーモンが氷魔法を撃って来るだけで、ウィザードリィだし、87年のファミコン版ウィザードリィ以来、末弥純氏のデザインしたグレーターデーモンはWIZを象徴するモンスターの1体となっています』
ヒノキ「WIZと言えば、アニメ1期の8話のサブタイトル『囁きと祈りと詠唱』からして、そうじゃったのう」
NOVA『間違えて、ゴブスレさんが灰にならなくて良かったです』
ヒノキ「復活に失敗したら灰になるというのも、WIZネタじゃのう」
NOVA『こう言っちゃ何ですけど、アニメ2期の9話でダイカタナ・パーティーがグレーターデーモンと戦う過去シーンで、大悪魔のデザインがしっかりWIZの末弥デザインを踏襲していて良かったと思いましたもん。もしも版権とかでデザインがそのまま使えなかったら、興醒めでしたからね』
ヒノキ「ゴブスレの段階では、作者が単にWIZのパロディで書いただけじゃったからのう」
NOVA『原作8巻は2018年の秋発表でしたね。ちょうどゴブスレアニメ1期が放送されていたタイミングで、そこから翌年の「ダイカタナ」につながり、それが2022年の春に完結したと思ったら、昨年末に「公式でウィザードリィ小説を書かせてもらって新シリーズ始動」という作者にとっての快挙に発展』
ヒノキ「ところで、ウィザードリィ話に勢いづいておるが、アニメ最終話の話をせんのか?」
NOVA『まあ、最終話は原作を特に割愛することなく、暴れん坊国王のシーンまで含めて、上手くまとめてくれたと思います。特にツッコミ点とか不満点もなく、原作の要素をきちんと踏襲してくれましたよ。敢えて言うなら、最後の特殊エンディングが妙に陰鬱で、ダークファンタジーを意識しすぎた点が解釈違いかな。ここは、ゴブスレさんが牛飼娘さんのところに帰って来て「おかえり」「ただいま」な日常回帰のシーンなのに、暗い雰囲気で終わらせてしまったのが、1期のラストと比べても、やや後味が悪いと言うか、はよ続きやれ、これで終わらせるなって気分になった』
ヒノキ「ハッピーエンドのはずなのに、そう思わせないエンディング演出ということじゃな」
NOVA『ゴブスレさんは最後のシーンで、今期の回想を行うんですね。原作だと、「自分の周りのみんなが成長し、それぞれの道で変わり行く」ことを感じて、「自分だけが変わらず、ゴブリン退治を続けていくだけの現状」を噛み締めながら、「何も変わらず、自分が為すべきことを続けて、日常を守ること」を強く肯定するところで幕を閉じるわけですね。まあ、次の巻で、その変わらない日常の象徴(牛飼娘)がピンチになって、それを守る話になるんですけど』
ヒノキ「それはアニメ化が楽しみじゃ」
NOVA『今期の映像ソフトが来年1〜3月に順に発売されて、次のアニメ制作発表があるとしたら、その後になるのかな、と予想します』
ヒノキ「その間のゴブスレロスは、ゲームで凌げと言うことじゃな」
NOVA『まあ、俺は別にゴブスレ以外にも追いかけているものはいっぱいあるので、ロスと言うほどでもないんですけどね。ただ、原作の新刊が今なお予定されておらず、作者が別シリーズに力を注いでいる現状がモヤモヤしているというか、こちらもゴブスレ熱をブレバスに注いでいいのか、という気持ちはありましたが、3巻を読んで、ようやく軌道に乗ったな、と思いました』
ここからブレバス感想
ヒノキ「わらわはゴブスレ8巻→ダイカタナ→ブレバスに派生したと考えるが、それでいいのか?」
NOVA『ブレバスは、ゴブスレ外伝のダイカタナと違って、四方世界の物語ではなくて、純粋にWIZの世界観でできているのですが、実のところコンピューターゲームのWIZの物語とどうつながっているのか、はっきりしなかったんですね』
ヒノキ「どうしてじゃ?」
NOVA『主人公と思しきイアルマス(samuraiの逆読み)が記憶喪失で、迷宮で死体として発見された後、教会で復活してからはソロで死体回収業を行なっているという初期設定なんですが、黒衣の魔法使いだけど実は凄腕剣士だったという秘密がまず1巻で語られます。ダイカタナの主人公も侍ならば、イアルマスも侍。一方で、イアルマスはソロで汚れ仕事を黙々とこなして、周囲からは変人扱いされている点で、ゴブスレさんとかぶる要素もあります』
ヒノキ「つまり、イアルマスは、ゴブスレとダイカタナ主人公の要素を合わせ持ったキャラということじゃな」
NOVA『最初はそういう目で見ていました。だけど、読み進めると全然違うんですね。イアルマスは酷薄で冷笑癖があって、戦士であるよりも魔法使いのクールさを体現したキャラ。クライマックスでは、自分が前衛に立って秘めたる能力を解放することもありますが、基本は後衛で仲間となる者たちを前で戦わせるソロ経験豊富な陰鬱指揮官キャラ。ゴブスレさんも、ダイカタナ侍も、自分が体を張って仲間を引っ張ることの多いキャラなのに対し、イアルマスは滅多に前に出ない』
ヒノキ「つまり、新兄さん風味じゃな」
NOVA『違います。俺は記憶喪失じゃないし、寡黙でもない喋りたがりキャラだということは、ヒノキ姐さんもご存知のはず』
ヒノキ「イアルマスは喋らないのか」
NOVA『ゴブスレさんも寡黙ですが、「そうか」「ゴブリンだな」「手はある」「よくやった」などのコミュニケーションはとれる。ダイカタナの主人公は、「君」だからカギカッコ付きのセリフは皆無だけど、地の文で考えていることやパーティーとのやり取りの趣旨は書かれてあるし、アクションもリアクションも豊かなのは読みとれる。しかし、ブレバスのパーティは基本的に言葉を使ったコミュニケーションがほぼ取れていない』
ヒノキ「女神官や妖精弓手に相当するキャラはおらんのか?」
NOVA『前衛戦士にしてメインヒロイン(と言っていいのか)のガーベイジ(残飯)は野生児で、人の言葉を介さない獣みたいな少女。コミック化によって、多少は萌え要素を付与されていますが、そのコミュニケーション描写はゴブスレにおけるゴブリン並みです』
ヒノキ「ヒロインがゴブリンじゃと?」
NOVA『要は、人語を介さず、カギカッコ付きのセリフが「Yelp!」「Whine……」といったうめき声、吠え声系統で、しかもゴブスレだったら地の文でゴブリンの内面が描写されたりもして、ああ、こいつらクズだなと分かるぐらいですが(アニメだとゴブリンの内面描写は全てカットされてるけど)、ガーベイジの立ち位置はパーティーの番犬みたいなもので、その内面描写はようやく3巻で描かれました』
ヒノキ「どんな性格じゃ?」
NOVA『非常に誇り高いというか傲慢な、親分気質の内面でしたね。パーティー仲間を名前で認識しておらず、「黒いの」「やかましいの」「図体が大きいの」という理解で、「黒いのはまだ見込みがあるが、こいつらは弱っちいから、守ってやらないとな」ぐらいの認識。我が道を行く群れのリーダーみたいな感覚で、「独りでも生きていけるが、こいつらは弱っちいから、面倒みてやらないとな」ぐらいな気分で戦ってる』
ヒノキ「それがヒロイン?」
NOVA『感覚としては、仲間モンスターですね。でも、凶暴で好戦的で、イアルマスがうまく手綱を引かないと、暴走して手に負えない。ただ、そんなイアルマスに対しても、ご主人さまじゃなくて、少しは腕の立つ奴だから合わせてやっている感覚で、そんな彼女が古の「金剛石の騎士さまが使っていた聖剣ハースニール」をゲットして、まさかの「金剛石の騎士の再来?」と見なされるのが今回のエピソードの主題の一つです』
ヒノキ「だから、そういう表紙絵なんじゃな」
NOVA『とにかく、人の言葉を喋れない獣思考のヒロインが実は王族で、金剛石の騎士の血筋を受け継いで、暗殺者に狙われたりもしているという背景設定があるのですが、何ら意に介することなく、愛用の段平(今回、序盤で折れちゃった)や、新たに入手した聖剣で鬼だろうが悪魔だろうがバッタバッタとなぎ払うのが、碧眼赤毛の見た目だけは萌えヒロインのガーベイジです。2巻の敵キャラ暗躍シーンで王族と分かり、3巻で金剛石の騎士となったわけですな』
ヒノキ「単に聖剣をゲットしただけじゃろう? 正式に金剛石の騎士になるには、KODズ装備を全て回収しなければ」
NOVA『鎧・盾・兜・籠手を全部装備したガーベイジの姿が想像しにくいのですが、作者の構想ではそこまでイメージしているのかな』
ヒノキ「とにかく、イアルマスも、ガーベイジもコミュニケーション困難なキャラだというのは分かった。では、読者は誰視点で読めばいいのじゃ?」
実質主人公は盗賊少年
NOVA『1巻では、ソロで迷宮の死体回収業を営んでいたイアルマスが、悪の冒険者派閥に飼い殺しにされていた獣少女ガーベイジと盗賊少年ララジャを仲間に引き入れる話です。で、2巻以降は、そのララジャの成長譚として、彼の周りに一人ずつヒロインが集まってくる流れになるんですね』
ヒノキ「ララジャハーレムということか?」
NOVA『2巻でメインキャラとなった、田舎の大柄コミュ障少女魔術師ベルカナンと言い、3巻で新たに助けられて仲間になった圃人(レーア)のツンデレ隻眼司教オルレアと言い、ララジャの周りの女性関係が賑やかになって、ようやくラノベっぽい華やかさが付与されたというか、でもオルレアちゃんの描写が可哀想すぎて、素直で純朴だった圃人(レーア)の少女がボロボロで絶望モードに陥るのが3巻。それを救うべく奔走するララジャが完全に主人公坂を駆け上がる一方で、ガーベイジも英雄坂を登り、イアルマスだけが「俺は英雄でも、主人公でもなかったんだな」とがっかりする話だったりもする』
ヒノキ「イアルマスが主人公ではないと?」
NOVA『1巻では普通に主人公だったんですがね。2巻では新たな仲間ベルカナンのドラゴン退治物語に焦点が当たり、3巻ではララジャの過去の因縁解消と、ガーベイジの聖剣入手がドラマの中心だ。そして、俺的に一番感情移入しやすいキャラは、発展途上の若者ララジャになった、と』
ヒノキ「3巻までかけて、ようやくキャラシフトが固まってきたようじゃのう。老練な過去持ち侍のイアルマスと、獣戦士ガーベイジ、盗賊少年ララジャに加えて、大柄魔女のベルカナンと、小柄隻眼司教娘のオルレアが加入すると、あと1人で6人になる」
シスター・アイニッキの話
NOVA『一応、カント寺院の尼僧シスター・アイニッキ(アイネ)がゲスト的にパーティー加入して、迷宮に同行したりもするんですが、基本的な立ち位置はゴブスレの受付嬢に近いミッションの依頼役なんですな。ここぞというところでパーティーに加わるのは、仕事屋や仕事人の女元締めみたいな雰囲気もあるけど、レギュラーメンバーじゃない』
ヒノキ「強いのがイアルマス、ガーベイジ、アイニッキの3人で、ララジャ、ベルカナン、オルレアが新人トリオと言ったところか」
NOVA『ガーベイジがロードになって、ララジャが忍者に転職すれば、上級職もバッチリなパーティーになりますな。ともあれ、ウィザードリィの標準的なパーティーはダイカタナで披露済みで、ブレバスはメンバー構成については変化球を投げて来ていると思います』
ヒノキ「同じウィザードリィ・モチーフの小説でも、構成を変えて来ているのじゃな」
NOVA『ダイカタナは、上巻で6人のパーティーメンバーが揃って、純粋に迷宮探索の冒険者の話を描いた。一方、ブレバスは6人のメンバー集結までに3巻を費やしている。ソロ→3人から始まって、2巻で1人加わり、3巻でもう1人加わって、続きはどうなるかな、と。シスター・アイニッキがレギュラーになれば完成だけど、今回の話で彼女は両腕を失うことになりましたからね』
ヒノキ「両腕消失とは、またハードな展開じゃのう。どうしてじゃ?」
NOVA『封印していた炎の魔剣ベイキングブレードの力を解放したために、腕が焼け焦げて灰化してしまったんですね。グレーターデーモンを倒すためとは言え、両腕を犠牲にしてしまった、と。ベイキングブレードは「ウィザードリィの外伝2」に登場した火属性を司る五行武器の一つですが、これを使うには人間のロードでなければいけません。彼女はエルフのプリーストなので、そもそも使いこなすことはできないのを無理やり使ったから自滅した、と考えることも可能ですが、ここで別の可能性も示唆されました』
ヒノキ「別の可能性じゃと?」
NOVA『彼女の実家は人間で、彼女が取り替え子(チェンジリング)としてエルフに生まれついた、という設定が今回、示されるんですね。つまり、見た目はエルフでも人間の血筋だから、種族面での使用条件は満たしていると考えられます(なお、この世界のエルフは四方世界などの多くのファンタジー異世界と違って、寿命が人間並みに減少しているというWIZのゲーム設定を反映)。また、イアルマスが魔法使いのように見せつつ、実は侍だったように、アイネも僧侶のように見せた君主という可能性もゼロじゃない。あるいは、今後、ベイキングブレードを使いこなすようにロードに転職するかもしれないけど、今回ようやくアイネのキャラ背景が見え始めて、実はグレーターデーモンを相手できるほど強いことが判明したわけですね。まあ、聖剣を持ったガーベイジはもっと強いけど』
ヒノキ「タイトルのブレイドの意味が、いろいろ錯綜しておるのじゃな」
NOVA『1巻では、イアルマスの杖に隠された仕込み刀がポイントその1でしたが、2巻ではベルカナンの持つ竜殺しの剣、3巻ではガーベイジの入手した聖剣ハースニールとアイネが公開したベイキングブレードの2本の剣に注目が当たりました。すると、将来はララジャにも「盗賊の短刀」があればいいし、イアルマスもムラマサを手に入れる時が来ることを期待できます』
ヒノキ「剣に注目した作品追っかけか」
NOVA『そういうのは、ゴブスレさん、無頓着ですからね」
その他のウィザードリィ要素
NOVA『正直、俺はこの3巻を読むまでは、個人的にブレバスをウィザードリィ小説として認めていなかったんですよ』
ヒノキ「それは、また、どうしてじゃ?」
NOVA『作者のウィザードリィ愛は、ダイカタナで証明されている。そして、ダイカタナの割とストレートな冒険者描写に比べて、ブレバスは「ウィザードリィ世界を舞台にしているけど、王道冒険者の話じゃない」という意味で、何を期待して読んだらいいのか、なかなか見えて来なかった。端的に言えば、ゴブスレとその外伝の方にウィザードリィっぽさを感じて、ブレバスの方は読んでも懐かしさは見えて来なかったわけです』
ヒノキ「呪文名とか、カント寺院などの町の施設や、モンスターなどはウィザードリィじゃろう? ゲームの世界観はそれで十分ではないか?」
NOVA『そりゃ、ティルトウェイトと言われたらWIZですし、それを核撃(ニュークリア・ブラスト)と言われたらWIZ風味だけど、何かが違うとなります。その意味で、ゴブスレの四方世界はWIZ世界ではないけれど、冒険者としてやっていることが迷宮探索とモンスター退治とキャラ成長なので、やっていることはWIZ世界の冒険者と同じ物語です。しかし、新たな主人公イアルマスの物語はそうではなかった』
ヒノキ「冒険者ではなくて、死体回収の物語じゃからか?」
NOVA『迷宮から死体として発見されて、蘇生されたけど記憶を失ったイアルマスの過去の謎を追う……というのは、物語テーマとしては面白い。しかし、迷宮探索よりも、自分探しの物語に重点が置かれると、WIZの話ではない。なお、WIZ世界の王道冒険者という意味では、ブレバスにも四方世界と同じ固有名詞の六英雄(オールスターズ)が存在していて、ダイカタナと鏡写しみたいな構造となってもいます』
ヒノキ「ダイカタナでは主人公パーティーが後に六英雄と呼ばれるようになり、それに相対するライバルパーティーが金剛石の騎士(後の国王)率いる一党であったな」
NOVA『一方で、ブレバスでは主人公パーティーに金剛石の騎士の再来が誕生した。この辺の比較対比が同じ作者の作品として面白くなりそうですが、イアルマスの物語は「死体回収という過去を掘り起こすもの」であって、若者らしい王道成長譚ではない。そこはララジャやベルカナンなどに割り当てられた。そして、2巻を読んだ限りでは、ガーベイジの物語での役割が見えて来なかった』
ヒノキ「ヒロインではなく、ペットか?」
NOVA『召喚モンスターを扱うウィザードリィ・サマナーの方向性かなあ、とも思ってたんですよ。イアルマスが実はワードナみたいな悪の大魔術師キャラで、本作がWIZ4にオマージュを捧げていて、ガーベイジがモンスター堕ちした王族で、ララジャはまあ盗賊だから悪役にも転べるだろう、とか、そんな可能性も想像しながら、一体、この物語の誰に感情移入すれば楽しく読めるだろうって思っていたのが2巻までで』
ヒノキ「今は?」
NOVA『ララジャが単独で「金の鍵」をゲットするまでの途中エピソードで、初めてウィザードリィの冒険物語を読んでいるって感覚に浸れました。
『あと、ベルカナンが1レベル魔法のハリト(火矢。初歩の単体攻撃呪文)しか使えない未熟魔法使いだったのが、定番のカティノ(集団催眠呪文)を使えるようになって、ようやく魔法使いとして一人前になれたと喜んでいるシーンとか、
『体力と気力を鍛えるために、魔法使いなのに前衛に立たされて壁役やらされている姿とか、それを命じている師匠のイアルマスが鬼コーチみたいに振る舞いながら、危険な殺人ウサギの気配に気づいて瞬殺して、「俺も仕事したぞ」「ウサギを殺しただけじゃないですか〜」(ベルカナンはウサギの怖さを知らない)というやり取りとか、
『最後のクライマックス戦闘で、ベルカナンがガーベイジの盾になるために唱えた呪文がモグレフであったりとか、ネタがマニアックすぎる』
ヒノキ「モグレフ? 何の呪文じゃ?」
NOVA『1レベル魔術師呪文で、術者のACを2下げます、つまり、自分だけに有効な防御呪文ですね。魔術師はふつう前衛で殴られる位置に立たないから、基本的には無用の長物扱いされる呪文です。1レベルでは、睡眠呪文のカティノ、マップ上の現在の位置座標を確かめる(あるいはオートマッピングを呼び出す)デュマピックなんかは結構使うのですが、単体攻撃呪文のハリトはゲームではあまり使い勝手が良くない。まあ、小説では魔法使いの初歩として結構描写を見るのですが、モグレフだけは使う局面がまずなかったな、と』
ヒノキ「ゲームシステム上は使い勝手の悪い呪文を、ベルカナンが盾役となるに際して、使用したのじゃな」
NOVA『戦士ガーベイジは、ウィザードリィのシステムでは反映しにくい(裸ニンジャを除く)回避型のファイターで、防具は付けてなさそうですからね。だけど、抜群の攻撃力と瞬発力でパーティーの斬り込み隊長的なポジションなんです。レギュラーメンバーに回復役のプリーストがいないにも関わらず。ガーベイジの存在だけでも、WIZの常識に反するキャラなんですが、実はベルカナンもそんなところがある』
ヒノキ「魔法使いなのに、何かと前衛に立たされがちなところじゃな」
NOVA『武器も竜殺しの剣(ドラゴンスレイヤー)ですし、魔法はまだ1レベルのものしか使えないのに、図体は大きくて耐久力だけはある。不器用なので、剣術が秀でているわけでもなく、基本的に臆病でへっぴり腰な面があるから、性格上は戦士に向かないけど、体格的には戦士になった方がいいと言われる才能不足な魔法使い……という設定』
ヒノキ「つまり、ステータス上は、生命力が高く、IQの低い魔法使いじゃな」
NOVA『どうでしょうか。イアルマスが侍であるように、彼女も実は自分が魔法使いであると思い込んでいる侍なのかもしれないな、と思ってます。この世界の人間は多分、自分のステータスを見るようなことはできないでしょうし、そうだと思い込んでいる自分と実情が異なることだってあり得る。あるいは、侍じゃなくて、アップル初期版のレンジャーという可能性も。侍もしくはレンジャーなら、レベルアップの割に呪文の覚えが遅い理由も明らかですが、はてさて』
ヒノキ「つまり、3巻に至って、本作が王道ウィザードリィではなくて、『ウィザードリィ世界観を使いながら、主人公パーティーは異端児揃い(普通のゲームではあり得ない設定や行動を行いつつも、ルール上の一定の理は備えている)で構成されている』ことに気づいたのじゃな」
NOVA『ええ、ようやくブレバスの方向性が腑に落ちました。王道冒険者の物語はダイカタナで描いたから、ブレバスは文字どおりバスタード(正統じゃない異端、まがい者、ならず者、羽目を外したもの、クズ野郎)として、通常のウィザードリィ小説の裏をかくような仕掛けを期待すればいい、ということですね』
ヒノキ「それが、魔法使いのベルカナンが盾役を任されて、モグレフという普通は使い勝手が悪くて使わないような呪文を、ここぞというところで活躍させたことじゃな」
NOVA『本書は、ミキサー刃のカシナートとか、聖剣ハースニールなどに注目が当たった感想を見かけましたが、俺的にはソピックとかモグレフといったマイナー系呪文の活用に心惹かれましたよ。先にイアルマスが術者単体の防御呪文ソピックを使わせて、「侍が単独で敵群を迎え撃つ局面なら、この呪文を使うのもありだな」と仕込みを用意して、またベルカナンが攻撃担当のガーベイジをサポートする的散らし役として前衛で鍛えられているというシーンも描いたうえで、土壇場でのモグレフ使用を決して変なことではなく、「この局面なら、こういう手もあったか。盲点だったな、凄い」と思わせてくれるストーリー構成に、ブレバス読んでて初めて感じ入った次第です』
ヒノキ「派手な呪文をドカーンと使って、いかにもこれがウィザードリィというよりも、地味な呪文が意外と活躍するシチュエーションに感じ入ったということじゃな」
NOVA『それもありますが、やはり新しい呪文の習得ってキャラクターの成長をはっきり示してくれて面白いので、達人のイアルマスよりも、1レベルから呪文をコツコツ習得していくベルカナンの方が魅力的に見えますね。だけど打たれ弱くてすぐに死んじゃうキャラだと活躍できないので、何故かHPだけは高いというご都合主義を、「そういう訓練をしているから」という描写で説得力を持たせている。アイデアを成立させるための下ごしらえを丁寧に見せているのが分かったので、ようやく自分がこの作品ならではの楽しみ方を見出せたような気がします』
ヒノキ「ちょうど、ゴブスレアニメとの相乗効果もあったのかもしれんのう。グレーターデーモンとか、金剛石の騎士とか、タイミングよくネタかぶりしておったようじゃし」
NOVA『何だかんだ言って、今回は「金剛石の騎士」の伝説に絡めて、過去のWIZの物語(リルガミンサーガとか、外伝の女王アイラスと姉ソークスの因縁とか、ダリア王女とか、ゲームに出て来る固有名詞)が作品世界の過去の伝説と化した後の時代であることが、はっきり確定して、昭和から平成の時代を刻んで令和にしっかり継承された一つのWIZ世界と断定されたことがツボでもありました。ようやく、俺を懐かしがらせるWIZの一角としてブレバスを受け入れられるようになったわけで』
ヒノキ「ならば、続きも期待じゃな」
NOVA『はい。だけど、こっちばかりじゃなくて、やはりゴブスレの続きも読みたいです』
(当記事 完)