花粉症ガール外伝・コンパーニュ記

会話リプレイ形式の「精霊少女や仲間たちの趣味雑談ブログ」。お題はTRPGを中心に特撮・怪獣ネタ成分が濃厚。現在は、ソード・ワールドのミストグレイヴ妄想リプレイ「魔神ハンター」を終了に向けつつ寄り道迷走気味。

D&Dの盗賊話(withゴブスレ話2ー3)

前置きゴブスレⅡ(第3話)

 

リモートNOVA『「今夜は音を立てずにゴブリンを殺す八つの方法を……」かあ。その講義は是非とも聞きたかった』

シロ「忍者なら簡単です」

NOVA『ゴブスレさんは忍者じゃないし』

ヒノキ「ニンジャスレイヤーTRPGなるものが今月末に出るそうじゃのう」

NOVA『今の俺にとって大事なのは、ニンスレじゃなくてゴブスレです』

ヒノキ「ふむ、1期のOP歌詞はそんな意味じゃったか。初めて知ったわ」

NOVA『OP2番の歌詞でD20って歌っているのに、画面に映るダイスはD6というのが、1期のマニアのツッコミどころだったらしいですが、D20は基本的にD&Dですからね。まあ、うちのブログではD6もD20も大歓迎ってところですが』

ヒノキ「第3話『町外れの訓練場』は、いわゆる日常編じゃったのう。現在のところ、2期は奇数話が仕込み回で、偶数話がアクション重視の冒険バトル回と言ったところじゃが」

NOVA『原作小説では、アニメの1話や3話に相当する箇所でも、それぞれゴブリン退治のシーンが描かれていましたね。1話ではゴブスレ一党が10ヶ所のゴブリン巣窟を討滅していましたし、3話ではゴブスレさんと妖精弓手の2人でゴブリン退治をしているシーンがありました。アニメだと、どちらも状況説明だけで済まされていましたが』

シロ「そういう日常茶飯事的な部分は割愛されて、ゴブリン退治などのアクション描写はドラマ的に重要な部分に絞ったんでしょうねえ」

NOVA『ともあれ、3話はゴブスレさんと槍使い、重戦士の只人男戦士の3人飲み会が俺好みの場面でした。この夢語りのシーンは、原作で読んでもお気に入りのシーンでしたが、先日6巻を読み直すまで忘れていましたね。少年魔術師についてはどうでもいいと思ってましたが、辺境最優のゴブスレさん、辺境最強の槍使い、辺境最高の一党頭目の重戦士の3人の関係性は6巻で一番感じ入りましたよ』

ヒノキ「で、何を貼り付けておるんじゃ?」

NOVA『とりあえず、原作6巻に基づくアニメのエピソードが次回で終わるので、次に何が来るかなあ、という候補で、「イヤーワンに基づくゴブスレ過去話」と、原作4巻の短編集から「只人男戦士3人衆の冒険」が来て欲しいという願掛けです。まあ、イヤーワンはほぼ確実に来るだろう、という予想が3話で確信できましたが』

ヒノキ「その根拠は?」

NOVA『ゴブスレさんが花柄の財布を取り出したシーンがあって、これに注目して「牛飼娘さんのプレゼント?」と予想を立てた人が何人か散見したんですよ。でも、これは「ゴブスレさんの亡きお姉さんの形見」なんですね。原作6巻では財布を取り出すシーンはあったのですが、花柄だとは記載されていません。しかし、イヤーワンで描かれるのが、お姉さんの花柄財布をゴブスレさんが拾って、そこに入っていた資金で装備を整えて、冒険を始めた場面です。つまり、花柄財布の描写は後でイヤーワンにつなげる伏線だろう、と踏んでいます』

ヒノキ「その予想が当たっていれば、わらわはお主を予言者と呼ぼう」

NOVA『いや、その称号は嬉しくないです。何しろ、俺の言葉の半分は妄言ですからね』

ヒノキ「ならば、妄言者かのう?」

NOVA『いやいや、それだと妄言しか言わないみたいじゃないですか。当てたら、ゴブスレマニアの称号でお願いします』

ヒノキ「外したら?」

NOVA『マニアに昇格できなかったゴブスレファン(黒曜等級)ってことで』

ヒノキ「まあ、イヤーワンと言っても、一冊分の内容を丸ごとやるとは思わないので、要所要所をダイジェスト的にやる感じじゃろうか」

NOVA『とりあえず、個人的に次回の4話で一番楽しみなのは、本編ではなくて、その後の次回予告のサブタイトルですな。「そして冒険へ」は6巻の最終章なので、6巻のクライマックスバトルと、後日譚までやるのは分かる。間に挟まる勇者の異世界からの帰還は多分割愛……というか、勇者が異世界に戦いに行く3巻が後回しにされた以上は、異世界からの帰還を描く必然がない。とにかく、6巻の次のエピソードがアニメではどうなるのかをドキドキワクワクしてるのが今です』

 

シロ「で、ボクを呼んだのは、D&Dの盗賊話をしたいということですね」

NOVA『ああ。では、前置き話はこれぐらいにして、今回はアーティフィサーにつなげるための盗賊話だ』

 

D&Dの盗賊史

 

NOVA『ところで、クラシックD&Dおよび旧世紀のアドバンストD&Dの盗賊話は、すでにウルトロピカルでアストがしているんだな』

シロ「盗賊をテーマにしながら、80年代のファンタジーRPGや映画など、いろいろ雑談的に語っているだけですね。これをマネしろ、と?」

NOVA『いや、そこまで寄り道脱線するつもりはないぞ。今回のテーマはあくまでD&Dに絞ろう。とにかく、アドバンストD&D時代のシーフ、もしくはローグはどちらかと言えば、弱い職業だったけど、3版に入ると、軽戦士として優秀に扱われるようになったというのが俺の印象だ』

シロ「何が違うんです?」

NOVA『挟撃ルールの追加だな。つまり、壁役戦士が敵の攻撃を引き付けている間に、敵を挟み撃ちするように移動する。すると、普通は命中+2程度のボーナスが付くだけなのに(D20なので+10%相当)、ローグだとさらに急所攻撃によるダメージボーナスが発生して、物理攻撃によるダメージ源として侮れない存在になるのだ』

シロ「いわゆるバックスタブ(背後からの不意打ち)ですね」

NOVA『ああ。昔からシーフ、もしくはローグと呼ばれる職種は奇襲で大ダメージを与えることで、場合によっては戦士以上の大ダメージを与える可能性があった。しかし、それはあくまで一発芸。戦士が戦っている間に、自分はハイド・イン・シャドー(影に隠れる)して、ムーブ・サイレントリー(忍び足)で敵の背後に回り、手間暇かけた末に2倍ボーナスのダメージを与える。DMによっては、隠れるのに1ターン、移動するのに1ターンで、攻撃は3ターンめという処理をした者もいた、と聞く』

シロ「移動したら、即攻撃でもいいじゃないですか?」

NOVA『そのDMは、1ターンにダイスを振れるのは1回だけ、という処理をしていたんだな(攻撃の命中とダメージは同時ターンでできるけど)。つまり、普通にできる移動+攻撃は、忍び足を使った場合は忍び足に専念するから(その判定でダイスを振るから)、攻撃は忍び足が成功した次のターンという処理。理には適っている』

シロ「でも、3ターンに一度の攻撃の結果が2倍ダメージってのじゃ、手間暇かける割に効果は微々たるものと言わざるを得ませんね」

NOVA『盗賊のバックスタブは、成功させることそのものがロマンなのであって、効率なんかは二の次なのさ。で、忍び足と攻撃は1ターンでできると裁定しても、「隠れるのに1ターン、忍び足+攻撃で1ターン」だから、2ターンに1回攻撃で2倍ダメージということで、コンスタントなダメージ源にはなりにくいのが昔のD&Dだ。ただアドバンストD&Dだと、レベルアップでダメージ係数が最大5倍まで伸びるようになって、少しは使えるようにもなったんだがな』

シロ「5倍ダメージでも、ダメージダイスの出目が1だと非常に虚しいですよね」

NOVA『出目の問題はさておき、バックスタブの問題は手間が掛かる割に、効果がたかが知れている他、1戦闘につき1回のみ、ということで、標準的にシーフの戦闘力を高める手法にはならず、しかも乱戦の最中(敵の数が多い)にうっかり使うと、敵に自分が囲まれるというリスクが大きい。すると、バックスタブの標的は絞らないといけない。さて、シーフのバックスタブの標的は誰がいいでしょうか?』

シロ「ザコに使うのはもったいないので、ボス敵狙いですか?」

NOVA『ボスでありつつ、かつ反撃があまり怖くない、となると、敵の後衛で遠隔攻撃を仕掛けてくる魔法使いが狙い目なんだな。シーフが接近戦で有利に戦える相手は魔法使いだし、攻撃を当てると魔法に必要な集中が維持できないので、シーフは前衛戦士が戦っている横をすり抜けて(回り込んで)、後衛の敵魔法使いを暗殺するような仕事を任されることが多かったと思う』

ヒノキ「ロードスのカーラも、盗賊のウッドチャックにしてやられたのじゃしな」

NOVA『ファンタジー小説だと、盗賊キャラの奇襲攻撃が功を奏した場面が結構描かれているけど、実際のゲームでは、そこまで綺麗に決まることは稀ですな。まあ、それでもいろいろと策を練って、奇襲が成功しやすい状況をうまく構築して……とあれこれマンチキンなことを考えるのがシーフの醍醐味とも言えたのですが、逆に言えば、マンチキンにならないと、シーフは使い勝手が悪い性能だったわけです』

ヒノキ「ルール通りにやると非常に扱いにくいので、ルールの穴をついて、少しでも有利に立ち回れるようにする、と」

NOVA『その行き着く先がゴブスレさんだとも言えるし、シーフ(盗賊)やローグ(悪漢)というキャラ性も、正々堂々ルールどおりではなく、姑息に裏技を多用しまくり、という工夫を是とするわけですな。しかし、TRPGから進化した80年代後半〜90年代のコンピューターゲームだと、会話ゲームみたいなDMを言いくるめるとかルールの穴を突くようなプレイはしにくいので、シーフというキャラが「防御力は低いけど、攻撃の爆発力は高い」というゲームバランスに進化し、装甲の高い仲間が敵を抑えている間に、自分は背後に回り込んで大ダメージというアタッカー役が戦術として確立し、それをコンスタントに実践できるようになった』

ヒノキ「コンスタントに……というのが大事なんじゃな」

NOVA『はい。TRPGだと、奇襲攻撃は敵から隠れること前提なので、隠れた状態から不意打ちで身をさらした後は優位を失うという一発芸的な技でした。しかし、コンピューターゲームだと、一発芸ではつまらないので奇襲攻撃を定番の戦術として使えるように、相手の背後という位置どりの方に焦点が当たります。敵がシーフの存在に気づいているかどうかではなく、シーフが敵の背後にいるかどうかという点に重きを置いたシステムとして、ゲーム性を再構築。

『重装甲戦士が敵を挑発し、その攻撃を自分に集めるタンク役を務め、シーフはその隙に敵の背後に回り、背後から大ダメージを与える。そして、その状況は戦士が相手のヘイトを集めている限り、敵の目がシーフでなくファイターに注がれている限り、維持され続けますので、シーフは敵のヘイトが自分に向かない程度のペースを考えながら、大ダメージを与え続けることができます』

シロ「調子に乗って、前衛戦士の与えるダメージと挑発効果以上の大ダメージを与えると、敵の目が自分に向いてしまうので、防御力の低いシーフだと危険。しかし、適度なペースだと、相手の攻撃は自分には向かない、と」

NOVA『TRPGだと、モンスターがどのキャラを狙うかはダイスでランダムに決めるか、DMの恣意的な判断によるけど、そこで口相撲的に戦士が自分を攻撃するようにDMを挑発して、ロールプレイ的に悪役の目を引きつけるように振る舞うのがお約束的な作法とされていた(ルールではない駆け引き的なレベルで)。

『しかし、コンピューターゲーム、とりわけ一人一キャラを前提とするMMO(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンラインゲーム、大規模多人数同時参加型ゲーム)では、戦闘においてプレイヤー相互の連携を面白くするシステムが構築されて、重装甲戦士の仕事は攻撃ではなくて防御、物理攻撃で大ダメージ担当のシーフ、範囲攻撃や集団をかく乱する魔法使い、回復や味方支援担当の僧侶系など、TRPGで設定された役割分担と仲間の連携をより強調した戦闘システムが定番になる、と』

ヒノキ「TRPGだと、シーフの仕事は戦闘中心ではなく、ダンジョン内の鍵外しや罠解除、偵察任務であって、別に戦闘でメインに立つ必要はないとされていたのう」

NOVA『日本では80年代に、冒険のメインは戦闘ではなくて、迷宮に入って戦闘と略奪(お宝集め)は幼稚な遊び、もっと高度な物語と世界構築を目指すべし、という風潮で、戦闘ゲームとしてのRPGを否定する流れもあったわけで』

ヒノキ「そういうのは、コンピューターRPGの一人遊びで延々と楽しんでいればいい、という考えじゃな。せっかく、人間のゲームマスターが管理するのじゃから、もっと物語性豊かなシナリオを……というのが当時のTRPG界隈の流れじゃった、と」

NOVA『ところが、90年代に入ると、海外の主流がまたハック&スラッシュに戻って来たというか、物語性も大事だけど、バトルそのものを楽しむのもゲームの面白さってものじゃないか、という勢力も出て来て、要するにTRPGに何を求めるかという点で、プレイヤーそれぞれの違いが研究されて行った、と』

シロ「バトルを楽しみたい層と、お芝居的な役割演義を楽しみたい層と、バトル以外の冒険や探索を楽しみたい層って感じですか?」

NOVA『5版のDMガイドには、プレイヤーがゲームを楽しむ動機として大きく7つを挙げているな。「演技」「異世界体験」「しでかし」「戦闘」「最適化」「問題解決」「物語」と』

シロ「演技、異世界体験、戦闘、問題解決、物語は大体分かります。でも「しでかし」「最適化」というのは何ですか?」

NOVA『しでかしは、日本の「美しい物語を作りたい層には困ったちゃんプレイヤー」の定番だが、例えば、わざわざ危険に飛び込んで、その結果がどうなるかを試してみたくなる層だな。好奇心に駆られて、ダンジョンの全ての扉を開けてみたいとか、スリルを求めて街で意味もなくスリを行いたいとか、物語をかき回すのが好きなプレイヤー』

ヒノキ「回転寿司屋の醤油をペロペロ舐めて、動画にアップして裁判沙汰になるようなロールプレイじゃな」

NOVA『現実社会だったら迷惑になるような行動ですが、仮想現実だったら試しに◯◯してみて、結果を楽しむというのもゲームの醍醐味かもしれません』

シロ「そんな迷惑なプレイヤーは、どうしたらいいんですか?」

NOVA『裁定者であるDMは、彼らを喜んで罠にハメて教訓を与えるべし、とあるね。彼らは自分の愚かな行動で、目立って、周りにウケることを狙っているんだから、しっかり目立たせて、キャラに痛い罰を与えて、周りがウケるかどうかを見極めさせるとか、時には「同じぐらいしでかすトリックスターキャラを登場させて、それがどれだけウザくて、迷惑か」を提示して、程々にしないと、と悟らせるべし、とか』

ヒノキ「最適化、とは?」

NOVA『自分のキャラクターを育成して、理想どおりの性能に組み上げて、活躍させたいってことです』

ヒノキ「ああ、それは分かる。バトルとか実プレイをしなくても、キャラ構築だけを楽しみたい層もそれなりにいるってことじゃな」

NOVA『俺もその気がありますね。バトルに勝つかどうかよりも、この技能とこの特技を組み合わせると、こういう芸が披露できて、楽しめそうとか、マジックアイテムを入手したら、これを使うと何ができるかな? と脳内考察を楽しんだりとか』

シロ「しでかし、とは違うんですか?」

NOVA『周りに迷惑をかけるようなマネはしたくないな。あくまで、その場のウケ狙いよりも、試行錯誤しながらの最適解を見つけることとか、考察から生まれる発見とかを味わうタイプ?』

 

ヒノキ「で、ここまでの話で何か発見はあったのか?」

NOVA『いや、盗賊の話をしたいと思っていたのに、いつの間にか道に迷っている自分を発見しました(苦笑)』

シロ「寄り道脱線してるじゃないですか!?」

ヒノキ「わらわたちと読者に迷惑じゃ」

NOVA『おかしい。こんなはずでは……とりあえず、仕切り直しに小見出しを改めます』

 

D&D各版ごとのゲーム性

 

NOVA『ここまで寄り道して、今、俺のしたい話が見えてきました』

ヒノキ「盗賊の話じゃなくなってるのう」

NOVA『大丈夫。今の俺の脳内には、盗賊に至る道が見えています。この記事を理想どおりに仕上げて、読者を感じ入らせる策がある……かもしれない』

シロ「かもしれない……だけですか?」

NOVA『ここの読者が俺に何を求めてるのか、今の俺にはよく分かってませんからね。感じ入るかどうかは、読者の勝手だ。だけど、これで感じ入れると思うなら、この先を読むがいい』

ヒノキ「で、版ごとのゲーム性とは何じゃ?」

 

●1974:オリジナルD&D

    ダンジョン探索を中心にした戦闘ゲーム。モンスター退治と、お宝探し、キャラ育成を楽しむ。元々は、ボードのシミュレーションゲームから派生したシステム。

 

●1977:アドバンストD&D(1版)と、D&Dベーシックセット(2版)

 オリジナルD&Dと、そのサプリメント(追加ルール)を統合整理して体系化。初心者用のベーシックセットと、上級者用のアドバンストに発展させる方針。

 

●1981:クラシックD&D(3版)

 D&Dベーシックセットに、アドバンストと異なるエキスパートセットを加えた改訂版。

 アドバンストが世界各地の神話や文化、時代、多元宇宙にどんどん舞台が広がっていったのに対し、ベーシックセットはあくまで中世ヨーロッパ風のファンタジー世界を土台にし、D&Dの定番を構築していく流れ。

 なお、この年にD&Dのシステムを大いに参考にしたコンピューターRPGウィザードリィ』が誕生し、3Dダンジョン物の基本となる。

 

●1983:クラシックD&D(4版)

 いわゆる赤箱から始まり、青緑黒金まで階層的に追加されていくD&Dセット。

 日本で初翻訳されたD&Dはこれであり、ファンタジーRPGの土台として、その世界観は大きな影響を与える。

 日本では、85年に赤箱ベーシックルールから始まり、86年に青箱エキスパート、87年に緑箱コンパニオン、89年に黒箱マスタールールが翻訳出版され、最後の金箱イモータルルールも新和から出版予定があったらしいが、本国のTSR社から『D&Dは91年に新しい版が出る予定だから、金箱イモータルの出版は待って、次の版(=5版ルールサイクロぺディア)に切り替えて欲しい』と指示されたらしい。

 結果、イモータルルールを出す前に、新和はアドバンストD&D(2版)の展開を始め、それまでのクラシックD&Dのサポートを打ち切り、結果としてアドバンストへの移行に失敗して順調だった翻訳展開があっさり終了することになった。

 

●1989:アドバンストD&D(2版)

 ドラゴンランスフォーゴトン・レルムと複数世界と物語を構築し、小説やコンピューターゲームとマルチメディア展開を行うようになって行ったAD&D。

 その版上げ版は、またも肥大化した追加ルール集の整理が行われて、基本ルールも、ウォリアー、ウィザード、プリースト、ローグの4種に統合しながら、

・ウォリアー:ファイター、パラディン、レンジャー

・ウィザード:汎用の通常メイジと、専門家のスペシャリスト・メイジ(幻術師イリュージョニストなど8種)

・プリースト:各種神格のクレリックドルイド

・ローグ:シーフ、バード

 という体系にまとめられた。吟遊詩人のバードが、ローグ(悪漢)として盗賊の仲間みたいに扱われるのもこの時期の影響である。

NOVA『統合整理したのはいいが、その過程でハーフオークという種族や、アサシン(暗殺者)、バーバリアン(蛮人)、モンク(武闘家)といった基本クラスを切り捨てたり、当時のライバルと言われた「ルーンクエスト」のストライクランク制に影響されたのか、武器のスピードファクターや魔法の詠唱時間など、イニシアチブ決定に関して複雑な追加ルールを用意したりして、難解なゲームと思われたのもルールとしての批判ポイントとなるな』

シロ「話が専門的すぎて、よく分からない読者もいるのでは?」

NOVA『簡単に言えば、ダガーがスピードファクター(SF)2、ロングソードがSF5、バトルアックスがSF7と設定されていて、先に攻撃できるのはどれでしょう?』

シロ「ええと、小さい方が軽くて、小回りが利いて、先攻しやすいってことですか?」

NOVA『正解。AD&Dのイニシアチブは、D10を振って低い目を出した方が先に攻撃できる。この時の修正値として、武器のSF値や魔法のキャスティングタイム(CT)値を足すんだが、威力の高い武器や魔法ほど後攻めになるんだな』

ヒノキ「そこは納得しやすいのう」

NOVA『理屈ではな。ただ、それまでのクラシックD&Dでは、D6で高い目を出した方が先攻だったので、振るダイスも変わるし、出目が高い方がいいのか低い方がいいのか、でこんがらがる。クラシックD&DとアドバンストD&Dは、同じD&Dなのに別々の進化をして、それぞれが後からルールをつぎはぎして、細かいことがいろいろ異なるゲームになっていたんだな』

ヒノキ「すると、クラシックD&Dに慣れたプレイヤーほど、アドバンストに戸惑う、と」

NOVA『アドバンスト2版が日本で翻訳されたのは1991年で、その頃にはソード・ワールドロードス島戦記RPGなんかが出ていて、85年とはTRPGのプレイ環境が大きく変わっていた。クラシックD&Dが翻訳出版されたばかりの80年代半ばの日本は、ゲームブックブームとコンピューターRPGブームが一度に訪れ、「D&DもドラクエやFFの原点とも言える初心者向きファンタジーRPGという触れ込みで浸透して行った。しかし、その後、5年ほどの間に、日本のTRPG文化は一気に花開き、D&Dよりも洗練されたシステム、D&Dよりも分かりやすいシステム、D&Dよりも職業や種族の選択肢が広いシステム、D&Dよりも日本人の嗜好(アニメや特撮ヒーローなど派手な展開を楽しめる)を反映したシステムなど次々と登場して行ったんだな』

シロ「それって、D&Dが洗練されていなくて、分かりにくくて、職業や種族の選択肢が狭くて、日本人の嗜好に合っていないってことですよね」

NOVA『洗練と言えば、88年に出た「ウィザードリィRPG」や、その発展系である「真ウィザードリィRPG」(91年)が似たようなシステムでありながら、よほど洗練されていたと思うな』

ヒノキ「ウィザードリィは元々、D&Dをコンピューターで再現することを目指したもので、種族や職業構成、戦闘システムなどはD&Dそのままじゃのう」

NOVA『厳密には、種族のノームや、上級職なんかはアドバンストD&Dの方なのですが、日本ではアドバンストD&Dの紹介が遅れたもので(TRPGよりも先にドラゴンランスなどの小説やコンピューターゲームの方が紹介)、結果的にクラシックD&Dよりもウィザードリィ、および、それをTRPG化した作品の方が、幅広い選択肢を有するゲームになっていたわけです』

シロ「みんながみんな、D&Dを土台にしながら、越えるべき目標にして、しかも5年足らずであっさり越えてしまったんですね」

NOVA『D&D自体は74年にダンジョン探索とモンスター退治をメインに生まれたゲームで、文化的な最大の功績はダンジョン=地下迷宮という言葉を定着させたことかも、と思う。他にも、HPとか6種類の能力値によるキャラ表記、経験点やレベルという概念、魔術師魔法や僧侶の奇跡といった呪文体系、そこに戦士や盗賊を含めた4種の職業、エルフやドワーフやハーフリングなどの異種族観、ゲームマスターとプレイヤーという役割など、TRPG全ての土台だが、後からルールをつぎはぎして、しかも判定方法に統一性がないという欠点は旧世紀の間、ずっと続いた。つまり、D&Dは初期の模倣作であるT&T(75年)の時点で、判定方法の洗練度において負けていたんだ』

シロ「T&Tは87年に翻訳されたゲームですね」

NOVA『ゲームブックのFFシリーズから文庫RPGという形で、当時4000円以上したTRPGボックスを1000円以内で売るという薄利多売形式で大成功を収め、その延長線上に90年代のスタンダードRPGとなったソード・ワールドが来るんだが、結果的にD&Dが、より後発の洗練された分かりやすい、さらに手軽で入手しやすいシステムにとって代わられた形になる』

 

ヒノキ「ところで、D&Dをつぎはぎだらけで洗練されていない、分かりにくいシステムと言っておるが、今のお主の説明も同じことになってないか? 盗賊の話をするはずが、何だかD&Dの歴史を辿って、無駄に話を広げてカオスに飛び込んでいるような気がするんじゃが?」

NOVA『うおっ、つまり俺の文章そのものが不整合な迷宮そのものになっている、と?』

シロ「もしかして、新星さまの寄り道脱線迷走暴走癖も、長年のダンジョン研究の影響では? 頭の中が不整合なダンジョン脳になっているとか?」

NOVA『正に迷える怒涛の子羊になった気分だぜ。ええと、「盗賊に至る道」は確かに見えているんだが、それが真っ直ぐ辿り着けるとは限らない、深淵なるカオス街道だったとは……』

ヒノキ「で、どうするのじゃ?」

NOVA『読者を感じ入らせる策……は諦めました。こうなったら、俺の心の赴くままにゴールを目指したいと思います』

ヒノキ「その前に休め。少しは落ち着いて深呼吸でもしながら、考えることじゃ。お主が一体、何をしたいのかをな」

シロ「では、ダンジョンの途中で、小休憩としましょう」

(当記事 完? まあ、完結した気にはなってないので、続きはすぐに)