花粉症ガール外伝・コンパーニュ記

会話リプレイ形式の「精霊少女や仲間たちの趣味雑談ブログ」。お題はTRPGを中心に特撮・怪獣ネタ成分が濃厚。現在は、ソード・ワールドのミストグレイヴ妄想リプレイ「魔神ハンター」を終了に向けつつ寄り道迷走気味。

仕切り直しのD&D盗賊話(3版中心)

新世紀のD&Dへの道

 

リモートNOVA『さて、前回は盗賊の話をしようとしたら、オリジナルD&DからAD&D2版の話になって、迷走気味でした』

ヒノキ「まあ、ロードスやT&T、ウィザードリィ、そしてソード・ワールドまで話が広がってしまったからのう」

NOVA『そもそも、俺にとってアドバンストD&Dは、ドラゴンランスのためのシステムという印象が強いんですよ。80年代の俺の夢の一つは、将来、日本語に翻訳されたドラゴンランスのゲーム書籍をじっくり読みたいってものですから』

シロ「その夢が30年以上を経て、もうすぐかなうんですね」

NOVA『本当に、この年末はFFシリーズのソーサリーとか、ドラゴンランスとか、80年代のTRPG文化が今の令和の時代に甦って、時空魔術師としてはラッキーハッピー気分で、今は週末ゴブスレアニメをワクワクしているわけで』

ヒノキ「そんな浮かれた頭じゃから、まともな研鑽もできんのじゃろう。どれ、ここはポンコツと化した新兄さんに代わり、前回、お主が書き落としたことを補足してやろう」

NOVA『俺が書き落としたこと? 書きたいことはいっぱいなので、山ほどありそうですが?』

ヒノキ「とりあえず、今回は新世紀のD&Dに展開したいという小見出しじゃが、一つ忘れていよう。これを」

 

●1991:クラシックD&D(5版)

 5つのボックスセットに分かれたルールを、一冊のハードカバー本『D&Dルールサイクロぺディア』にまとめたもの。

 それを元に、日本では1994年から新和に代わり、メディアワークスが文庫D&Dとして展開した。

 新和がクラシックD&D展開を切り捨てて、アドバンストD&D2版を立ち上げたものの、それまでのボックスセット4000円台から、ハードカバー本6800円というPHBの高騰ぶりに付いて行けなかった当時のD&Dファンが続出したものと思われる。

 

NOVA『まあ、俺がD&Dのボックスセットを買ったのは高校生の時でしたが、4000円台の赤箱と青箱はお年玉で買ったわけですし、中学時代にツクダのシミュレーションゲームを月々のお小遣い(1000円)を貯めて買った経験からしても、TRPGのボックスセットは半年に一回の大きな買い物だったんですね。高校に行くと、月々の小遣いが2000円になったりしましたが、さすがに4000円以上は一大決心をして購入する値段でした。それを買うだけで、ちょっとした冒険になるぐらいの気分で。

『平成になった年に大学に行って、そこからはアルバイトもするようになって、金銭事情も豊かになって、月に1万円ぐらいは普通に趣味代で使えるようになったから、アドバンストD&Dの追っかけもできたんですが(その前に1版のPHBを英語で購入して、プレイする当てもないままにノートにあらましを私家翻訳していたりも)、英語版と比べても日本版の2版は高かったという印象。こんなのはマニアしか買わないだろうと思いながら、本当のマニアはすでに英語版を楽しんでいるわけで、俺は中途半端なマニア志望の若者だったのでしょう。俺レベルのクラシックD&Dファンは当時結構いたと思うけど、そんなファンの多くをアドバンストに取り込めたら新和も良かったのでしょうが、そこに至る前に残念ながら展開が終わってしまったわけで』

ヒノキ「80年代末から90年代は、文庫やムック本の形式でより廉価なTRPGが普及したからのう。1000円程度で文庫TRPGが、2000円ぐらいでムックRPGが買える時代に6000円以上を払える者は少数派じゃったろう」

NOVA『ホビージャパンのボックスRPGでも、4000円代ですからね。しかも、AD&DはPHBだけじゃプレイできず、DMガイドとモンスター本の3セットが最低必要で2万円。で、そこにシナリオとかが順調に出れば……ということですが、シナリオが翻訳されず仕舞いでしたからね。日本語でのプレイ環境が整う前に終わってしまったので、システムコレクターを喜ばせるだけの作品になってしまった、と』

シロ「シナリオがないTRPGシステムなんて、アプリのないスマホタブレットみたいな物じゃないですか」

NOVA『まあ、膨大なクラシックD&Dシナリオを流用するとか、サポート雑誌に掲載されたシナリオとか、皆無というわけではなかったんだけどな。いずれにせよ、日本でTRPGを売るための経営ノウハウも十分でなかったし、D&Dブームを支えた一環であるロードスやSNE、角川のサポートを一時期TSR新和が断ち切って、孤立路線を突っ走ったことも当時の衰退の一因と言える。新和一社だけでメディアミックスを展開できず、D&Dをやるぐらいなら、ロードスやソード・ワールドの方が手軽に楽しめるって風潮が当時のファンの間では普通にあった』

ヒノキ「でも、一時期はD&Dを見限ったSNEのところに、角川系列のメディアワークスから翻訳サポートの依頼が来た、と」

NOVA『角川系列も、メインの角川、富士見書房、そして新規立ち上げのメディアワークスの3つの派閥に分かれて、本家角川がロードス、富士見がソード・ワールドメディアワークスクリスタニアを展開する流れになったり、SNEの90年代は出版界の裏事情に巻き込まれながら、社長のコネ人脈でいろいろな会社で作品展開してました。で、新和のD&D展開が終わった後は、D&Dの翻訳権を持っていたのはドラゴンランスフォーゴトン・レルムの小説展開を行っていた富士見書房角川歴彦氏。だけど、富士見はソード・ワールドを展開中なので、D&Dの出版は歴彦さんが新しく立ち上げたメディアワークスの目玉にしようってことで、新雑誌の「電撃アドベンチャーズ」の目玉の一つになったわけです』

ヒノキ「さすがに、その辺の裏事情には詳しいのう」

NOVA『まあ、見習い的な立場とは言え、当時の現場近くにいた人間ですからね。「電撃アドベンチャーズ」では雑誌記事も書いたことがありますし。まあ、俺が書いて少ししたら、雑誌が休刊してしまってシクシクですが』

ヒノキ「いわゆるTRPG冬の時代じゃったか。D&Dの本国TSR社が97年にMtGWotC社に吸収合併され、日本では多くの関連会社がTRPG業界から撤退するなり、事業縮小を余儀なくされたという」

NOVA『MtGの誕生が1993年で、俺にとっては「こいつのせいで俺のTRPGの夢が、D&Dの夢が……」なんて複雑な想いも抱えていたゲームなんですが、まあ、栄枯盛衰は世の常ですからね。で、そのD&DのTSR社を倒したWotC社が新時代のD&Dを再生、発展させて行く歴史があって、そういう話を今回は始めたかったんですが、とにかく、文庫D&Dの時代は、俺にとっては古傷が疼くわけで、無意識に書き落としたということになります』

ヒノキ「それでも、好きなものを捨てきれず、今に至っている、と」

 

D20システムの登場

 

NOVA『で、TSR時代にクラシックD&DとアドバンストD&Dにややこしい版権問題で分かれて以来、混迷を極めていたD&Dが2000年に統合されて、「アドバンストの系譜を受け継ぐD&D3版」として新出発を果たして、その後、2003年にマイナーチェンジの3.5版、2008年に大変革の4版、2014年に懐古色の強い5版と来て、来年に新版が予告されているのが今ですが、3版以降はD20システムと呼ばれたりもします』

ヒノキ「あらゆる判定を『D20+能力値ボーナスなどの修正値で、高い目を出したら成功』というものじゃな」

NOVA『ええ、クラシックD&Dとアドバンストで違いのあったイニシアチブも、『D20+敏捷ボーナス』なんかで整然と処理できます。とりあえず、20面ダイスを振って大きい目を出したら勝ち、という明確なシステムです』

シロ「でも、D&Dは以前からD20を振ってませんでしたか?」

NOVA『戦闘での命中判定とか、魔法などに抵抗するST(セービングスロー)判定ではな。だけど、盗賊の特殊技能は%判定だし、能力値判定や技能判定はD20で低い目を出したら良くて、種族の特殊能力はD6で1、2を振ったら成功なんてのもある。つまり、判定の種類によって、振るダイスが違って、出目の大小でどちらがいいかというのも変わってくる。要するに、後から追加されたルールは処理方法が統一されていないまま、20年以上を経過していたのが旧世紀D&Dだったんだ』

シロ「そんな欠陥ルールで、よく20年以上も続けられたものですね」

NOVA『日本じゃ、5年ぐらいでルールの欠陥があれこれ取り沙汰されて、後継ゲームに駆逐されてしまったわけだがな。アメリカ人は大雑把で細かいことは気にしなくて、整合性よりも珠玉のアイデアに魅了されるのと、日本人よりもDIY精神に満ちていて、仮にルールに欠陥があるなら自分たちが使いやすいようにハウスルールをどんどん自作する方向で楽しむ人間が多いってことじゃないかな。D&Dの魅力は小さくまとまった整合性ではなくて、無限に広がるカオスな新世界だったのだろうし、アイデア源としては非常に魅力的な想像力の産物と言っていい』

ヒノキ「最初はダンジョンから始まって、冒険の舞台を都市や広野に広げ、さらに異世界などの多元宇宙への門を開き、ついには神々の座に挑戦する流れじゃからのう」

NOVA『ソード・ワールドは日本でのD&D後継者の一つですが、異世界とか神々の座に挑戦……する前でシステムが終了してしまいます。異世界から魔神が襲来することはあっても、自分から異世界に魔神狩りに行けるゲームではありませんし、神々になるルールもありません。新世界と言えば、せいぜいが海を越えた新大陸程度の世界観』

ヒノキ「フォーセリアラクシアの境界を超える話が欲しいんじゃがのう」

NOVA『海を越えて、違う大陸に行ったら別のゲームになる世界観ですからね。で、D&Dの多元宇宙観を、日本で目指したのはSNEではなく、アリアンロッドとかアルシャードとかセブン・フォートレスなどのFEAR製品ですが、神さまになると自分の世界や眷属に責任を持たないといけなくて、物語テーマ的には王侯レベルのことをやっているのと変わらないというか、意外に自由度がなくて、縛られてつまらないと思ったり』

ヒノキ「まあ、神霊には神霊の重要な責務があるのはその通りじゃがのう」

NOVA『ゲーム世界の神って、自分の目的を果たすために目をつけた冒険者に神託を授け、新たな冒険に旅立つのを天から見守っているって印象がありますね。で、天上から地上に力を行使するには、それなりの制約があって、神力行使ポイントを一定度貯めないと奇跡を起こせないとか、神々を主人公にすると、地上の冒険者をコマに使った代理戦争みたいな話になりがち、と』

ヒノキ「ギリシャ神話のイメージじゃのう。神々は確かに強いけど、神界の掟に縛られて自由に動けないとか」

NOVA『うかつに動くと、世界にとっての大惨事を招くからですね。で、そんな天上界視点のゲームをやるよりも、多くのプレイヤーにとっては等身大の人間がちょっと頑張って成長して、ハラハラドキドキの冒険を繰り広げて、人々から感謝されたいぐらいで、神として崇められたいとまでは思っていない、と』

ヒノキ「神話レベルの冒険も、とりあえずD&Dが原型を示して、それを目標に『女神転生』とか、神々すら使役する、あるいは契約する物語が生まれて、神という存在の価値も下落したのが90年代かのう?」

NOVA『神々といえども、データが設定されているなら倒せる、というD&D由来の格言がありますからね。まあ、D&Dでは時々、神が地上に肉体をもって降臨し、主人公たちをこっそり助けてくれたり、立ちはだかったりしますし、イモータルセットで目指す神(イモータル)も冒険者パトロンをしながら、位階を高める活動をしているみたいですし、要は弟子を持った師匠とか、ポケモンを育成するトレーナーとやっていることはそれほど変わりない、と』

シロ「なるほど。つまり細かいルールの粗よりも、ゲームという形でどういう物語が描けるか、というビジョンを示したのがD&Dってことですか」

NOVA『そういうのを80年代で示したあと、90年代のAD&D2版時代は、いろいろな物語世界を提示して、多元世界をどんどん広げたらウケるという方向に突き進んで、世界設定を量産したのはいいけど、明らかに作り手の自己満足にしかなってない迷走だったと後世の歴史家は語るわけで』

ヒノキ「後世の歴史家とは、お主自身のことじゃな」

NOVA『まあ、そう言ってしまうと気恥ずかしいですが、作品世界をイタズラに増やして喜ぶのは、俺みたいなマニアだけで、蘊蓄のネタにはなっても実プレイは伴わないわけですね。確かにD&Dは多元世界製作ツールみたいなところがあって、世界設定の資料は多ければ多いほど参考にできるものも多いけど、それには限度がある。で、バブリーな世界観ラッシュで混迷を極めて崩壊した90年代D&Dを、もう一度システマチックにルール面から整理整頓したのが3版以降のD20システムだというわけです』

ヒノキ「やっと話が戻って来たのう」

 

3版の盗賊の技能の話

 

NOVA『さて、3版において一番大きな変化を遂げた職業は、ローグと思うんですよ』

シロ「そうなんですか?」

NOVA『ローグの仕事は何かな?』

シロ「ええと、鍵開け、罠の発見や解除、偵察や隠密活動、街での情報収集とかスリとかですか?」

NOVA『そうだね。それらは3版より前は、ローグもしくはシーフだけができる、ほぼ専売特許と言えた。まあ、野外での偵察なんかはレンジャーもできるが、D&Dの基本は職業クラス制。つまり、その職業ならではの能力が設定されていて、盗賊は戦闘では弱くても鍵開けや罠解除の能力があるから、仲間に必要というわけだな。他に同じことができる職業はいないわけだし』

ヒノキ「盗賊が無理でも、魔法で鍵を開けたり、力づくで破壊するというやり方もあるわけじゃがのう」

NOVA『盗賊が鍵開け失敗→力づくで扉を破壊→音を立ててモンスターが出現→モンスターを倒して経験点が増えた→鍵開け失敗した方が良かった? という意見が出て、盗賊は鍵開けや特殊能力を成功させることでボーナス経験点がもらえる選択ルールが追加されました』

シロ「そうやって、追加ルールが増えて行くんですね」

NOVA『鍵開けに失敗する方が得、というルールは欠陥だから、その穴埋めをするために、成功した方が得するようにDMが裁定してもいい、という示唆だな。AD&DのDMガイドはそういうのが多い。キャラ作りのためのダイス振りの方法が6種類も提示されて、その長所と欠点まで解説されているルールブックを、俺は他に知らない。あくまでガイドであって、厳密なルールじゃないんだ、DMGは』

シロ「とにかく、抜け道はいろいろあるかもしれないけど、盗賊以外では鍵開けができない。でも、3版では?」

NOVA『技能スキル制が正式採用されたんだな。D&Dは長らくスキル制と相反するシステムだったんだが、クラシックD&D4版のワールドサプリで初めてD&D用のスキルシステムが導入されて、アドバンスト2版とクラシック5版では選択ルールとしてルールブックに記載されるようになった。そして、どのような技能選択を行うかで、キャラクターのヴァリエーションを広げられるようになったわけだが、盗賊の特殊能力と技能スキルは別物扱い。だから罠を作って仕掛ける技能はあっても、それで罠を外すことはできないという歪なことに。あくまで罠解除は盗賊の仕事なので、技能では代用できないという扱いだ』

シロ「盗賊じゃないけど、鍵開けの技を学んだ戦士キャラは作れない、と」

NOVA『でも、3版は盗賊能力も技能ルールに統合されて、クラス固有の特殊能力ではなくなった、と』

シロ「盗賊じゃなくても鍵が開けられるなら、盗賊の価値が減少しますね」

NOVA『ところが、盗賊には技能スキル制で最大の恩恵が与えられた』

シロ「どういうことですか?」

NOVA『全ての職業で最も多い技能ポイントが与えられるクラスが、盗賊すなわちローグだ。具体的には以下のとおり』

3版のレベル毎技能ポイント

 

・8ポイント:ローグ

・6ポイント:バード、レンジャー

・4ポイント:ドルイド、バーバリアン、モンク

・2ポイント:ウィザード、ソーサラークレリックパラディン、ファイター

NOVA『これに知力ボーナスを加えた分だけのポイントで、技能習得や向上が行える。なお、初期状態では、これを4倍したポイントで技能を購入できるので、頭の良いローグが最も技能をたくさん習得できるわけだ。3版のローグの最大の特長は、この技能習得の数の多さ、多彩さが魅力と言えるだろう』

シロ「キャラ作成時に32ポイントも技能習得に使えるわけですね。でも、8ポイントしか使えないファイターなんかに比べて、キャラ作成が面倒じゃありません?」

NOVA『そういう初心者向きに、推奨技能をまとめた開始パッケージが用意されている』

3版ローグの開始技能パッケージ

 

・忍び足(敏)4ランク

・隠れ身(敏)4ランク

・視認(判)4ランク

・聞き耳(判)4ランク

・捜索(知)4ランク

・装置無力化(知)4ランク

・解錠(敏)4ランク

・登攀(筋)4ランク

・魔法装置使用(魅)4ランク

・手先の早業(敏)4ランク

・解読(知)4ランク

・はったり(魅)4ランク

・威圧(魅)4ランク

 

NOVA『以上全部を習得しようと思えば、合計4×13=52ポイントが必要だが、ランクを下げることで習得できる数を増やしたり、必要のない技能を削ったりも可能だな。交渉では〈はったり〉2ランクで、〈威圧〉はなしにするという選択肢もあるし、技能なしでは判定できない技能を優先して伸ばすという手もある。

『この場合、〈解錠〉〈解読〉〈装置無力化〉〈手先の早業〉〈魔法装置使用〉の優先度が高そうだな。さらに、推奨ではなくても、〈軽業〉〈跳躍〉〈変装〉〈鑑定〉などが候補に挙げられるだろうか。とにかく、ローグは技能という点で、非常に多才なキャラクターになれるのが3版なんだな』

シロ「念のため、ファイターとバードの推奨技能も見てみたいですが」

NOVA『いいだろう。ファイターはこれだ』

3版ファイターの開始技能パッケージ

 

・登攀(筋)4ランク

・跳躍(筋)4ランク

・騎乗(敏)4ランク

・水泳(筋)4ランク

・威圧(魅)4ランク

・聞き耳(判)2ランク(クラス外)

・捜索(知)2ランク(クラス外)

・視認(判)2ランク(クラス外)

 

NOVA『この中から選べるのは8ランクだけだから、威圧とクラス外を除いて、登攀、跳躍、騎乗、水泳の4つを2ランクってところかな、俺だったら』

シロ「クラス外ってのは何ですか? ランクが低いみたいですけど」

NOVA『そのクラスの専門外技能で、技能ポイントを2点消費して1ランク上がるようになっている。ファイターも〈解錠〉で鍵開けしたり、〈装置無力化〉で罠外しができるが、クラス外技能なので、やはり専門家には及ばないわけだ』

シロ「できると言っても、得意じゃないわけですね」

NOVA『それでも、技能を持っていなければ試みることもできないからな。一応、「専門家ではないが、試してみる。あまり期待しないでくれ」と言いながら、ダイスの出目がよければ成功する可能性はあるわけだ。なお、3版はマルチクラスが一番行いやすいD&Dなので(もしかしてソード・ワールドをパクった? と言われたほどだ)、盗賊の多芸ぶりを備えた戦士は簡単に作ることができる』

シロ「欲しい技能があれば、とりあえずローグを1レベルだけ兼業するってのもありですね」

NOVA『なお、ローグに次ぐ技能持ちのバードは以下のとおりだ」

3版バードの開始技能パッケージ

 

・芸能:弦楽器(魅)4ランク

・呪文学(知)4ランク

・魔法装置使用(魅)4ランク

・情報収集(魅)4ランク

・聞き耳(判)4ランク

・解読(知)4ランク

・交渉(魅)4ランク

・知識:何か一つ(知)4ランク

・手先の早業(敏)4ランク

・変装(魅)4ランク

 

シロ「質問。技能の中には料理とかないんですか?」

NOVA『あるぞ。「職能:料理人」という技能があって、他にも一般的な職業面からも3版はキャラの個性化がしやすい。特にローグは表稼業としての職能持ちもいるだろうな』

シロ「では、さらなる質問です。3版では、忍者になれるのでしょうか?」

NOVA『忍者の話は昔、ウルトロピカルになる前のGTライフでされた記憶があるな』

NOVA『なお、ニンジャの開始技能パッケージは以下のとおりだ』

・平衡感覚(敏)4ランク

・装置無力化(知)4ランク

・隠れ身(敏)4ランク

・聞き耳(判)4ランク

・忍び足(敏)4ランク

・解錠(敏)4ランク

・捜索(知)4ランク

・視認(判)4ランク

・軽業(敏)4ランク

 

シロ「なるほど、確かに技能を見ているだけで、忍者らしさが伝わって来ますね。変装がないのが残念ですが」

NOVA『一応、クラス技能にはなっているので、普通に習得はできるな。なお、レベル毎に得られる技能ポイントは6なので、ローグほどでなくても技能の育成自由度は高いと思う』

シロ「技能がいっぱい得られるローグに比べて、ウィザードやソーサラークレリックなんかは呪文が得られるのが魅力。でも、ファイターは?」

NOVA『フィートと呼ばれる特技の習得数が最も多いな。他のクラスでは、最初に1つ、以降は3の倍数レベルで特技が得られるのに対し、ファイターはそれに加えて最初にもう1つ、あとは偶数レベルごとに1つの特技が得られる。仮に6レベルだったら、他のクラスは特技が3つなのに対し、ファイターは7つの特技を習得。10レベルだと他のクラスは4つなのに、ファイターは10個になるな』

シロ「技能(スキル)と特技(フィート)の2方面の成長ですか。特技にはどんな物があるのですか?」

 

3版の特技の話

 

NOVA『例えば、《隠密》という特技がある。〈隠れ身〉や〈忍び足〉といった技能の使用に+2ボーナスを与えてくれる。つまり、《隠密》1つで4ランク分の技能上昇と同じ効果だ。このように、特技は技能を性能アップさせるものの他、ファイター専用の戦闘特技や、ウィザード専用の魔法使用特技があって、それらがソード・ワールド2.0以降の戦闘特技という形で取り入れられている』

ヒノキ「D&Dのファイターは、武器や防具が全て使えて、HPが高い以外の特殊能力は何も持たないとされて来たが、3版以降は特技(フィート)という恩恵が与えられて、自由度が大いに増したんじゃったな」

NOVA『そこのところを知らない、世紀末までのD&Dファンだと、ファイターという職種に偏見を持っているんだな。戦闘以外に何もできない初心者向きクラスで、熟練プレイヤーには向かないって』

ヒノキ「じゃが、クラシックD&Dでもコンパニオン以降はファイターも戦闘オプションが増えたし、マスタールールのウェポンマスタリーとか、AD&D2版の武器技能の採用で、より個性的な戦闘スタイルを追求できるようになったと聞く」

NOVA『ただ、やはり判定方法が一元化されていないおかげで、手間ですよね。それに高レベルファイター(最低でも9レベル以上)とか、技能レベルをそれなりに上げないと効果を発揮しないものもあって、即効で個性化に役立つものでもなかった。だから、低レベルから習得できる特技がファイターにとっては恩恵が多いわけです』

シロ「盗賊からファイターに話が移った気がしますが、《隠密》のように盗賊にも恩恵がある特技もそれなりにあるんですね」

NOVA『これも開始時の推奨特技があって、ローグは《イニシアチブ強化》だ。イニシアチブ判定に+4できる。一方で、ニンジャだと手裏剣を投げる際に命中やダメージに+1ボーナスが付く《近距離射撃》と、味方と接近戦中の相手に遠距離攻撃をすると通常は付くマイナス4のペナルティを無効化する《精密射撃》の2つだ。とにかく、乱戦中に手裏剣をどんどん投げるキャラを想定しているみたいだな』

シロ「ええと、ニンジャは初期状態から2つも特技がもらえる?」

NOVA『いや、このボーナス特技は、人間の種族ボーナスを反映しているな。あと、ファイターだと、種族がドワーフなら《武器熟練:ドワーフの戦斧》(命中+1)、《強打》(命中ペナルティを自ら受けて、その分をダメージボーナスに加える。両手武器ならダメージボーナスを2倍にできる)が推奨されている』

シロ「命中率を犠牲にして、ダメージを増やす特技ですか。例えば、両手武器なら命中マイナス2で、ダメージ+4にすることも可能だと」

NOVA『ペナルティの量は最大で基本攻撃ボーナスまでということだが、ファイターは自分のレベルがそのまま基本攻撃ボーナスになるから、要は自分のレベル分までの命中率を下げて、その分のダメージを増やせる特技ってことだ。両手武器の恩恵が大きい特技なので、それだけで破壊力の大きな武器を力任せに叩きつけて一撃粉砕を狙う戦闘スタイルってことが分かるな、《強打》を習得したファイターは』

シロ「さすがはドワーフってところですね」

NOVA『人間ファイターでも《強打》が推奨されているけどな。さらにボーナス特技として、《無視界戦闘》が与えられている』

シロ「何ですか、それは?」

NOVA『目が見えていない状態で戦う際のペナルティを軽減したり、無効化できる』

シロ「敵が透明化したり、目つぶしをくらった場合の対応策ですか?」

NOVA『それもあるが、ダンジョンの中の暗闇で、明かりが十分確保されていない場合でも有効だ。人間は暗視を持たないからな』

シロ「なるほど。そういう状況を想定して、特技を習得するわけか」

NOVA『逆に、用意されたキャラの習得特技や技能を見て、その作成方針を想像するのも、ゲーマーとしてのスキルアップにつながるな。データ解析の手腕だ。これは、例えばトレーディングカードゲームで、相手の組んだデッキを見ただけで、どういう戦術やコンボを狙っているのか読み取れる熟練ゲーマーの手法に通じるものがある』

ヒノキ「技能と特技の組み合わせで、多彩なキャラを作ることができる。確かに、D&D3版にはMtGなどのトレーディングカードゲームの手法が反映されておるのう」

NOVA『これまでの版に比べて、そして以降の4版、5版と比べても、3版のキャラ作成および育成の自由度は非常に高いシステムです。それだけに、今だに3版の信奉者が多くて、4版へのシステム変更を嫌って、パスファインダーに流れた気持ちもよく分かる。3版は、整合性と育成自由度が見事にマッチした最高のD&Dシステムです。ただし、初心者向きとは思いませんが』

シロ「D&D3版を、より初心者向きにシンプルにしたのが今のソード・ワールドだと思いますね」

 

盗賊の推奨特技

 

NOVA『ところで、今のソード・ワールドのキャラ育成を考えるに当たって、どのような戦闘特技を習得して行くかは非常に重要なんだが、サプリメントには各職業ごとの推奨特技なんかも説明されていて、そういう組み合わせの妙なんかを感じられる記事は大好物だ。データも大事だが、そのデータを実際にどう扱っているか、このデータと新たなデータを組み合わせると、こういうことができるなんて話は、ゲーマーとしていい勉強になると思う。もちろん、D&Dも然り、というか、そっちの方がデータがどっさりで目移りし過ぎて大変だ』

ヒノキ「だからこそ、研鑽のし甲斐があるのじゃな」

NOVA『で、5版を見ていて、俺が思ったことは「妙技武器」が標準化されていて、前衛盗賊をプレイしやすくしている点です』

シロ「妙技武器?」

NOVA『筋力ではなく、敏捷性で扱うことのできる軽量武器だな。基本的にD&Dは筋力重視のゲームで、武器戦闘のダメージを上げるためには筋力がどうしても必要になる。素早いけど非力なキャラは、どう頑張っても近接戦闘の花形にはなれない。その理由は、接近戦武器の命中やダメージは筋力ボーナスが乗るからで、一方、敏捷性ボーナスは飛び道具の命中には乗っても、ダメージには乗らない。つまり、敏捷性をどれだけ高めても、AC(アーマークラス)は良くなっても、攻撃力は上がらないという時代が結構、長かった』

ヒノキ「マッチョ信仰のアメリカ産ゆえのことじゃからのう」

NOVA『盗賊は敏捷性重視のクラスなので、接近戦のために筋力を上げよう、という発想にはなりにくい。仮になったとしても、戦士ほどは筋力を伸ばす意味が少ない。何せ、筋力を伸ばして重い武器や防具を身につける必要がないから。技能でも、筋力に基づくものは〈水泳〉〈跳躍〉〈登攀〉ぐらいで、要はアスリート向きなものですな』

シロ「力仕事的な技能はないのですか?」

NOVA『怪力とか、剛腕といった技能はないな。まあ、それらは普通に筋力判定で行えばいいということだろうが、とにかく、盗賊が筋力を上げる意味は少なくて、でも筋力を上げないと接近戦能力が上がらないというジレンマがあった。しかし、「一部の武器は、命中やダメージボーナスに筋力ではなくて、敏捷性を使ってもいいよ」ってことになった。これで、軽武器を持った盗賊が力でなく機敏な動きと技を駆使して、前衛で立ち回る意味ができたんだ。今までは、前に出るよりも飛び道具を使う方が命中率も高いし、安全だし、で前に出るのをはばかるプレイが当然だったが、軽戦士としての盗賊に実用的な意味が出てくるようになったわけだ。なお、5版の妙技武器は以下のとおりだ』

 

●妙技武器:ダガー、ダーツ、ウィップ、シミター、ショートソード、レイピア

 

NOVA『ショートソードよりもロングソードの方が当然ダメージは大きいので、これまでは盗賊がショートソードを使う必要性はあまりなくて(サイズの小さなハーフリングなんかは別)、ロングソードを使う盗賊がD&Dでは普通だったが、妙技武器のルールのおかげで、ショートソードの方が敏捷性で命中とダメージを増やせて有効という話になった。ダメージダイスがD6かD8かという差は、敏捷性ボーナスがダメージに乗るかどうかに比べれば大したことないと言えよう』

シロ「妙技武器の設定は5版からですか?」

NOVA『3版には《武器の妙技》という特技があって、その特技を習得した場合だけ、軽武器などで攻撃する際に敏捷ボーナスを使える。それが特技とは関係なく、標準的になったのが5版だな』

ヒノキ「その間の4版では?」

NOVA『妙技ルールはありませんが、4版ではローグの戦闘判定で用いる武技パワーの基準値は敏捷がほとんどですよ。筋力を上げる意味は、〈運動〉技能を使いやすくするためと、頑健セーブのための防御値を上げるため、必要筋力のある特技を習得するためぐらいですか。一部の武技のダメージに筋力ボーナスを加算するものがあるだけで(他に魅力ボーナスを加えるものも)、基本は敏捷が高ければ、前線でも遜色なく戦えるのが4版ローグです』

ヒノキ「3版と4版では全然違うのじゃな」

NOVA『4版は、D&Dの歴史の中では、一番の異端ルールですからね。平成ライダーにおける響鬼やアマゾンズに相当するぐらいの代物です。ルール的には4版から5版に受け継がれた要素も結構あるので、全く切り捨てるわけにはいきませんが、同じD&Dでもよくここまで変えられたな、と思うばかり』

シロ「4版の話はさておき、3版の盗賊の推奨特技は《武器の妙技》なんですね」

NOVA『前で戦いたいならな。他には、戦闘を重視するなら《回避》《強行突破》で機会攻撃を恐れずに動き回ることができる。《疾走》で移動力を通常の5倍に高めることも可能。さらに《一撃離脱》で移動し、攻撃して、すかさず移動で敵の攻撃範囲から逃れることが可能。リスクなしで乱戦に飛び込み、急所攻撃で大ダメージを与えて、そのまま、もう一度、前衛戦士の後ろに隠れるというコンボアクションがお気に入り。

『ここまでするのに特技が5つ必要だから、ローグのみで作るなら12レベルにならないといけないが。人間なら9レベルで可能だし、途中でファイターをマルチすれば、もっと早い段階で構築できるだろうが、とにかく戦場を風のように駆け回り、気がつけば敵の1体が大ダメージを受けていて、「いつの間に?」とうめいて絶命させるシーン演出ができて、格好いいな、と。たぶん、3版以外のD&Dではできないコンボだと思うが、もしかすると可能かもしれない。5版の特技の組み合わせはまだ未研鑽だから』

シロ「たった1体に大ダメージを与えるためだけに、そういうコンボですか? 複数相手に立ち回ることはできないのですか?」

NOVA『モデルは、仕事人のかんざしの秀だからな。対複数だと影の軍団になるんだろうが、ええと《大旋風》という技が《一撃離脱》の先にあるな。ええと、先に《攻防一体》の特技を習得して、命中ボーナスを減らした分、AC(アーマークラス)を高めて、自分の間合いにいる全ての敵に1回ずつ攻撃をできるわけだが、軽武器の間合いは短いからな(普通は5フィート)。有効利用しようと思えば、間合いが15フィートのウィップ(鞭)を使うなり、もっと高威力だが間合いが10フィートのスパイクト・チェーンを使うんだろうが、それらは特殊武器だからな。《特殊武器習熟》の特技を習得しないといけないので、結局、《大旋風》を有効利用するには特技が8つ必要ということになる。道は遠いな』

シロ「なるほど。《大旋風》に到達するには、前提となる特技がいっぱいあるので、習得特技数の多いファイターをマルチクラスして、ローグファイターの道を模索するんですね」

NOVA『ところが、ファイターだったら、最初に《強打》を習得してから、次に《薙ぎ払い》を習得して、《薙ぎ払い強化》まで習得すれば、バッタバッタと周りの敵をなぎ倒すプレイが可能だ。ローグで対複数を考えるなら、むしろ魔法でも習得する方が実用的だと思うが、まあ、《大旋風》を目指すのは、ちょっとした育成ロマンだよな。このように特技一覧を見ながら、自分のキャラの育成方針を考える楽しみが、21世紀のデータゲームにはあって、そういう語りができる人間をゲーマーと呼ぶのだと思う』

ヒノキ「しかし、それが度を越すとマンチキンとも呼ばれるようになる、と」

 

NOVA『まあ、もちろん、盗賊は元々バトルがメインのクラスじゃないので、特技枠は技能を強化する方に当てるのが王道だと思うのですが、4版ではローグをバトル重視の軽戦士として扱いましたからね。次回は、その辺を見て行くとしましょう』

(当記事 完)