花粉症ガール外伝・コンパーニュ記

会話リプレイ形式の「精霊少女や仲間たちの趣味雑談ブログ」。お題はTRPGを中心に特撮・怪獣ネタ成分が濃厚。現在は、D&Dを中心に世紀末前後のTRPGの懐古話を不定期展開中。

さらなる深みのD&D盗賊話(4版中心)

3版から4版への道

 

NOVA『さて、新世紀に入ったD&Dは、従来のクラス制システムから1段階進んで、マルチクラスを前提として、技能や特技をいろいろ選択したり、組み合わせたりしながら、トレーディングカードゲームのデッキを構築するかのように、自分のキャラを構築、育成して行くゲームになりました』

ヒノキ「まあ、トレーディングカードゲームの会社が版権を勝ち得たのじゃからな。その影響が強いのは納得じゃろう」

NOVA『きちんと構築された整合性あるD20システムに、大量のデータを付け加え、自分だけのキャラを育成できる自由度の高いゲームとなったD&Dは非常に完成度が高いうえ、そのシステムの原型をネットで無償配布するという大盤振る舞いで、たちまちゲーマーの間で大ヒット。D20システムアメリカのTRPG業界を完全統一してしまったのが21世紀のゼロ年代です。どこもかしこもD20に追従する流れで、90年代に迷走して低迷したD&Dが華々しく復活したと後世の歴史家は語っています』

シロ「それも新星さまですか?」

NOVA『いや、俺じゃないよ。俺はゼロ年代はあまりTRPGの追っかけをしてなくて、3版から4版は途中で脱落し、D&Dに本格復帰したのは5版からだって人間だ。3版がどんなゲームだったか、4版がどんなゲームだったか、というのは2018年からの再勉強で、歴史として理解し直したんだ。インターネット様様だな』

ヒノキ「D20システムの無償配布は凄い決断じゃったのう。それまでシステムを売ってきたTRPGが、システムをただで配ると言うのじゃから」

NOVA『システムは、ゲームの土台となるプラットホームで、パソコンにおけるOSのような物。それに付け加えるソフトウェアやアプリなどのデータを商売の種にするという商法ですね。D20システムは誰でも使っていいけど、D&D特有の世界観を反映したデータ群は版権の対象にするってことで、硬直した末期TSRの体制から自由で開かれたオープンライセンスのWotC社の姿勢を明確に打ち出し、ネット上でのファンによる自発的宣伝活動も活性化させて、多くのゲーマーの賛同を勝ち得た、と』

シロ「3版は2000年に発売され、2002年にホビージャパンから翻訳された。だけど、翌2003年にすぐに3.5版が発売された。どう違うんです?」

NOVA『大枠は同じで、細かいデータが違っている。例えば、レンジャーのHPが3版ではD10、技能ポイントがレベルごとに4ポイントだったのが、3.5版ではHPがD8に減った分、技能ポイントが6ポイントに増え、また特殊能力が3.5版ではだいぶ増えている。ここでは、3.5版と3版を同列に扱っているが、前回の記事のデータは3.5版に基づいているな。これに3.75版の異名を持つパスファインダーを含めると、さらなる微妙なデータの差異があって、今以上にマニアしか喜ばない記事になってしまうから割愛だ』

ヒノキ「3版の完成度があまりに高く、人気があり過ぎて、4版への移行を良しとしないファンが大勢いたらしいのう」

NOVA『単純な商売上の勝ち負けで言うなら、3版が勝ち組で、4版が負け組、5版が王道復古を掲げて勝ち組になったというのが歴史的評価ですが、来年の新版はどうなることやら、とマニアが注目し、とりあえずベータ版の一部ルールをネット上で発表してはファンの反応を確かめ、修正したりを繰り返しているのが現状ですね。

『何だかポリコレの影響で、ハーフエルフやハーフオークといった異種族ハーフ種族が削られたり、ウェポンマスタリーというクラシックD&D由来のシステムが発表されたけど、結局なしになったとか、いろいろな噂は聞きますが、英語のベータ版にいろいろ意見を寄せるまでには俺もマニアックじゃないので、正式版が完成して発表されるのを待ちたいと思います。今は、未来ではなく、過去に目を向ける』

 

4版の概要

 

シロ「で、4版はどういうゲームだったのですか?」

NOVA『探索と冒険ゲームとして進化したRPGのD&Dを、バトルを強調したボードゲームとして再構築し、探索のためのルールを思いきって簡略化して、面白くシステマチックなMMO風味のデータゲームに変更した。ロールプレイの役割演技や物語はフレーバー程度で、とにかくバトルのシチュエーションだけを描いたシナリオ集とか、仲間との連携戦術を重視した初心者お断りっぽいゲームと化したなあ』

ヒノキ「一応、初心者対応のスターターセットも出ていたがのう」

NOVA『3版もそうですが、4版にいたっては、ボード上でキャラクターの位置どりをしっかり把握して、精密に動かさないといけないシステムになってしまったんですね。日本のストーリーやロールプレイ重視のTRPG風潮とは真逆の、戦術シミュレーション調のバトルゲーム。イギリスではウォーハンマーが覇権を握っているようですが、日本ではバトルテックとかスパロボとかのロボットバトルが中心で、メタルフィギュアを用いた対人規模の戦術シミュレーションボードゲームってあまり流行した記憶がないですね』

ヒノキ「日本のTRPGの戦術要素は、前衛と後衛の配置とか、近接戦闘に巻き込まれているかどうか(乱戦エリアの構築)とか、飛び道具の射程距離や範囲魔法の効果範囲とかをおおよそ計る程度で、テーブル上のマップを描いたメモ用紙やホワイトボードなどで、大体の位置関係を表現できればいい程度のものじゃからのう」

NOVA『俺にとっては3版のルールブックで初めて判明したんですが、1マス5フィート(1.5m)のフロアタイルでキャラクターのフィギュアを動かすのが、向こうのD&Dの標準スタイルなんですね。それまでは、ダンジョンのマップって1マス10フィート(3m)で描かれていて、1マスにキャラが横2列で並べるというイメージだったり、ウィザードリィでは前衛3人後衛3人だから、1人のキャラの占有範囲は大体1m四方かなって感覚でいました。ただ、旧版のD&D時代はフィギュアをあまり使わずにプレイしてました。何よりも、まずフィギュアを買うお金がなかったわけですし(苦笑)』

ヒノキ「しかし、3版の機会攻撃と挟撃は、キャラの位置関係を明示することを求めるじゃろう?」

NOVA『いや、挟撃は2人がかりで1体を狙えば自動発動、機会攻撃は接近戦からの離脱時にのみ発動って感じで、簡単処理してましたよ。あとはコンピューターゲームでの移動に気を使ったぐらいですか。そういうややこしい要素は、やはりコンピューターが自動処理してくれるのが楽ですね。そして、4版に基づくコンピューターゲームが出なかった理由もよく分かる』

シロ「どうしてですか?」

NOVA『機会攻撃は要するにZOCだし、挟撃は位置どりの問題だから処理しやすいと思う。4版のプレイが詳細な戦術マップなしで難しいのは、例えば、ローグの1レベル武技のポジショニング・ストライク(横滑り打撃)。攻撃した後、相手を1マス好きな方向に移動させる技だ。ローグだけでなく、ファイターなんかも敵味方の位置操作系のパワーが多く、敵も同様に位置操作系のパワーを使ってくるなら、相当にややこしい戦場になる』

シロ「位置操作ってのは、例えば殴った相手を吹き飛ばして、後退させるような攻撃ですか」

NOVA『ファイターなら、相手を盾で押し出して、その押し出した後のマスに自分が入る技タイド・オブ・アイアン(打ち寄せるくろがね)が使えるな。また、味方を敵の攻撃から2マス逃がすカヴァーリング・アタックもあるし、敵味方の移動と組み合わせた武技が非常に多いわけだ』

シロ「単にダメージを増やすだけでなく、移動を誘発する技ですか。それは面白そうですね」

NOVA『もしも、一直線上の敵にダメージを与えられる範囲攻撃魔法を使える仲間がいるなら、そいつの援護のために、射界から外れた敵をうまく射界に押し込んだり、逆に味方を動かすことで上手く射界の外に逃がしてやったり、位置どりを駆使した連携戦術が非常に面白いと思った。さらには、戦場に落とし穴があったら相手をそこに誘導して落とすとか、戦場が狭い崖の上だったら……分かるな』

シロ「そんな戦場があるんですか?」

NOVA『DMはそういうギミックのある戦場を積極的に作るべし、とガイドされているぞ。敵味方が利用できるようにな。それと、なくても後から作ることもできる。ウィザードが地面を凍らせ、ファイターがそこに敵を押し込み、滑って転倒させて、隙の生まれた無抵抗の相手をローグが急所攻撃でとどめを刺すような連携とかが、最初のレベルから普通にできるゲームだ、D&D4版は』

ヒノキ「自分一人でコンボを決めるのではなく、仲間と連携してコンボを決めるプレイが推奨されているわけじゃな」

NOVA『そこまで一緒に連携コンボを考えてくれる、戦術マニアな仲間がいればの話ですけどね。でも、コンピューターゲームで再現するにしても、そういう位置どりがコロコロ変わるゲームって楽しいだろうか? 少なくとも、スパロボでプレイしたいとは思いません。まあ、プレイヤーが動かすユニットが4機か5機程度なら楽しめるのかもしれませんが、初めて4版のPHBを買った際に、「相手を2マス移動させる」って技を見たときは「うわ、面倒そう。D&Dも変な進化をしやがったな。俺には合わないシステムだ。プレイする機会は一生ないだろう」と思って、DMGやモンスターマニュアルは買わなかったぐらいだし』

シロ「4版をディスってるんですか!?」

NOVA『大体、4版には通常攻撃ってものがないんだよ。普通に殴るような場面でも、「1レベルの無限回パワーを使う」という形で、クラスごとの技名を宣言することになる。これが魔法使いが呪文を使うのだったら話は分かるけど、ローグやファイターが普通に殴る場合でも「デフト・ストライク(熟練の打撃)を使います」とか「シュア・ストライク(確かな打撃)で攻撃だ」と宣言しないといけない。戦闘中の行動は、呪文も武器攻撃も全てパワーという行動技にまとめられたから、やたらと専門用語が飛び交うゲームプレイなんだな。リプレイを読んだだけで、結構面白そうだけど、プレイヤー全員に熟練を要するゲームだな、と感じた。このD&Dを初心者がプレイするイメージが俺にはちっとも湧かなかったんだよな』

ヒノキ「3版から4版にかけて、D&Dはマニア化への道をたどって行ったわけか」

NOVA『そういうシステムなので、ファイターは殴っていればいい、なんて過去のD&Dの常識は一切成り立ちません。むしろ、ファイターの方がタンク役(防衛役)として、「敵の攻撃を引きつけるために、この敵をマークします」と毎ターン宣言することを求められるし、移動に気を使って、ローグに挟撃しやすい状況を提供する戦場セッティングまでがファイターの仕事とされていたり。何も考えずに目前の敵を殴っているだけのファイターじゃ、上手くタンク役の仕事を果たせないので、パーティーを守ることができません』

シロ「そんな物、『目前の敵を殴って、その敵をマークします』で済むのでは?」

NOVA『不正解だ。まず、ファイターはできるだけ多くの敵を防げるように移動しなければいけない。その上で、どの敵が動かれたら味方にとって迷惑かを考えながら、殴ってマークする相手を考えないといけない。その際、ザコから倒そうと考えるのは素人の浅はかさ』

シロ「どうして? 倒しやすい敵を倒して、相手の数を減らすのは戦術の鉄則では?」

NOVA『D&D4版では、ザコと称される敵のHPは全て1なんだ。ダメージを与えると、即死ぬ。ファイターの強力な攻撃力をザコに浪費するのはもったいない』

ヒノキ「つまり、ザコ狩りはローグの仕事か」

NOVA『それも違います。D&D4版のローグは、ファイター以上の火力を誇る撃破役です。大勢のザコを処理するのは、範囲攻撃が充実した制御役のウィザードの仕事となります。D&Dのこれまでの常識では、魔法使いは使える呪文の数が低レベルでは少ないから、呪文は節約して使うべし、でしたが、4版では変わりました。ウィザードの1レベル呪文にも無限回パワーで使えるものがあるので、ファイターが毎ラウンド殴るのと同じ感覚で、毎ラウンド、範囲攻撃呪文を撃ち続けることが可能。実のところ、初心者が4版をプレイして、一番爽快なのはウィザードだろうと思っています。スパロボでいうところのマップ兵器担当ユニットですからね』

ヒノキ「低レベルから魔法を連発できるとは、確かに既存のD&Dとは感覚が違うのう」

NOVA『ウィザードの仕事は、敵ザコが集まっているところに範囲魔法をぶちかまして、敵の数を速やかに減らすこと。そのために、どの敵がザコで、どの敵がどんな性能を持っているのか、知識判定で見抜くことが重要な役目となりますね。で、ウィザードがザコをまとめて処理している間に、ファイターが足止めすべき大物に狙いを定めて、味方に寄せ付けないように位置どりをしっかり整えるとともに、できればローグが挟撃しやすいようなポジションを考える。ローグはファイターとの連携で速やかに強敵に大ダメージを与えるように考えて動く。この辺の連携が上手くできるかどうかが、他の版以上に必要なのがD&D4版です』

シロ「ある意味、D&Dに新しいゲーム性を提示したのが4版なんですね」

NOVA『今さら4版を振り返るのもどうかな、と思いつつ、クラシック以降で俺が一番詳しくないD&Dだからな。後から研鑽したくなったりもしたわけさ。で、本当に今さらだが、初心者向きの4版ガイドとして面白いなあと思ったのは、これだ』

ヒノキ「2011年の記事とは今さらながら、初心者向きの赤箱スターターセットが出ていたんじゃな」

NOVA『D&D4版は少し変わった展開をしていて、2008年にコアルールブックが先に出て、ややこしいゲームだと見せつけた後で、2011年に仕切り直しで初心者用のスターターセットを出して来たんですよね。後から再編集された入門用新ルールをエッセンシャルズというのですが、俺も4版はエッセンシャルズから入門しておけば良かったと、振り返って思ったり。まあ、4版の寿命は英語版が2008年から2014年のわずか6年ですが、日本では2008年から2017年まで9年間続いて、俺がD&D追っかけを再開したのは2018年からですから、4版には追っかけられなかった未練があるわけです』

 

4版の異端ぶり

 

NOVA『バトルゲームとして特化して、これは俺たちの知ってるD&Dじゃない、と多くのファンにそっぽを向かれた4版ですが、それは例えば、HPの表記でも明らかです。アドバンストと3版では、ファイターD10、クレリックD8、ローグD6、ウィザードD4でHPを決めますが(クラシックD&Dだと、ファイターD8、クレリックD6、シーフとマジックユーザーD4で死にやすい)、4版はこうです』

D&D4版のクラス別HP

 

●ファイター、パラディン:レベル1で15+耐久力(CON)、レベル毎6点上昇

クレリック、ローグ、ウォーロード、ウォーロック、レンジャー:レベル1で12+耐久力、レベル毎5点上昇

●ウィザード:レベル1で10+耐久力、レベル毎4点上昇

ヒノキ「HPの初期値が増えておるのう」

NOVA『先ほどの4GAMER記事では、ローグのレベル1でのHPが25点となっていますが、耐久力ボーナスを含むにしてもあり得ない数字だと思いつつ、エッセンシャルズ版でHPも増えたのかもしれません。エッセンシャルズでは、ウィザードの使う呪文もPHBとは違う構成になってますし、サプリメントの「秘術の書」なんかで追加された呪文がいっぱいありますからね。幻術系や変成系の呪文はPHBには入ってませんので、PHB所収のウィザード呪文はデータ量が多い割に、あれもないこれもない、といろいろ不満を覚えていたぐらいです。魔法使いとしては、「秘術の書」ぐらいは買っておくべきだった、と後悔しましたが、まあ今さらの話ですね』

シロ「今回は今さらの話が、多いですね」

NOVA『その時は興味があまりなかったのに、後から急に興味が出てきて、だけど時代は次に進んでいる。ああ、どうして、あの時に興味を持って買わなかったんだろう、と思いつつ、買っていたら買っていたで、それだけで満足して本棚に埋まっているだけだったと思う。持ってないからこそ憧れを覚えたりする気持ちが分かるかな』

シロ「でも、4版はプレイする機会は一生ないだろう、とまで思っていたんですよね」

NOVA『プレイはしなくても、話題に挙げて研鑽はできるんだよ。とにかく、新版のルールが出たら、前の版と比べて、「こういう部分が変わった」「こういうルールが増えた」「このデータが削られた」などチェックするのが楽しみなんだよ。で、前にできたことができなくなると残念がったりもする。4版のPHBでは、3版にあったバードやモンク、バーバリアン、ドルイドが消えて退化したと思ったな』

ヒノキ「それらはサプリメントに収録されたんじゃな」

NOVA『後からPHB2を買って、バードとバーバリアン、ドルイドはゲットしました。モンクはPHB3に収録されていましたが、さすがにそこまで追いかけるほど酔狂にはなれず』

シロ「十分酔狂だとは思いますが、ところでローグのHPがクレリックと同等になったんですね」

NOVA『ああ、それは重要だな。話を戻すと、4版はさすがにバトル重視のゲームなので、従来のD&DよりもHPが増えて、バトルを結構楽しむことができるようになってるな。HP回復のルールも回復呪文に頼らず、大休憩と小休憩によって自前の回復ダイスを振って継戦能力が従来よりも高くなった。そのHP回復ルールは、5版にも踏襲されている。戦闘中の回復は、クレリックやウォーロードなどの指揮役に頼ることになるが、戦闘後にクレリックが回復呪文で忙しいという事態はなくなった』

シロ「4版から5版に受け継がれたルールもある、と」

NOVA『魔法使いや僧侶の0レベル呪文が使い放題というのは、4版の1レベル無限回パワーから受け継がれた部分だな。0レベル呪文という概念は3版からあって、それまでは1レベル魔法使いは1レベル魔法を1回しか使えないという制約を、0レベル呪文3回と1レベル呪文1回にして、従来よりも呪文の使用回数を増やしたことも、ちょっとした革命だ。5版に入って0レベル呪文は使い放題という風に発展してからは、呪文を切らしたウィザードが役立たずという局面がなくなり、今のD&Dを遊びやすくしている』

ヒノキ「むしろ、ゴブリンスレイヤーの呪文使用回数低すぎ問題が、いかにもオールドスクールって感じじゃのう」

NOVA『もちろん、0レベル呪文なんて威力は大したことなく、切り札の呪文は残しておくわけだが、それはさておき、4版の特徴は各クラスに4つの役割が与えられたことだな』

D&D4版の役割(括弧内はPHB2の追加クラス)

 

●防衛役:ファイター、パラディン(ウォーデン)

●撃破役:ローグ、レンジャー、ウォーロック(アヴェンジャー、ソーサラー、バーバリアン)

●指揮役:クレリック、ウォーロード(シャーマン、バード)

●制御役:ウィザード(インヴォーカー、ドルイド

 

NOVA『この辺はMMOの影響が大きいが、各クラスの役割が明確に規定され、防衛役は高いHPと防御力、敵をマークして攻撃を引きつける能力を持っていて、味方を守る壁となる。撃破役は防御力が低いが、高い攻撃力で強敵を倒すダメージ源になる。指揮役は回復や支援効果で味方の戦線維持をサポートする。制御役は範囲に影響を与えるパワーで、敵集団を上手くあしらう。また、ドルイドは基本的に制御役だが、獣に変身して撃破役になったり、多少の回復支援も行えたりする』

ヒノキ「パーティ内での役割は、固定しすぎるとキャラ育成の自由度が減少するが、育成自由度の高い3版に比べて、4版は役割規定でチームの連携を強調したシステムなのじゃな」

NOVA『だから、俺つえ〜で我が道を追求したキャラ育成を楽しむ層には3版がウケて、チームで一丸となって戦術を構築するのが楽しい層には4版がウケる。特撮ヒーローで言うなら、3版が平成ライダーで、4版がスーパー戦隊に相当するか』

ヒノキ「令和はまた別じゃがのう。ドンブラザーズやキングオージャーが、チーム一丸で戦術を構築しているようにはとても見えん」

NOVA『だから、4版は令和のゲームではないわけです。時期としては、平成最後の10年ですから、戦隊では2008年のゴーオンジャーから、2017年のキューレンジャーまでの期間になるか、と』

シロ「ゴレンジャー的には、アカレンジャーが指揮役で、アオとミドが撃破役、キが防衛役で、モモが範囲攻撃で爆弾を投げる制御役ってところでしょうか」

NOVA『それで見事にハマるな。アカがチームリーダーのウォーロード、アオが弓使いのレンジャー、キが大自然の怒りを宿したウォーデン(怒ればデッカい噴火山たい)で、ミドがローグ、モモがウィザードで、実にバランスのとれたパーティー構成だ』

ヒノキ「役割固定で、自分の仕事をしっかり果たすことでチームに貢献するゲームというのは、教育効果が高くもあるのう」

NOVA『しかし、アメリカ人にはウケなかったというのが、国民性を表しているとも言える。アメリカ人ゲーマーの多くは、自由度の高い3版を歓迎し、4版への移行を拒否したわけだから。まあ、4版のそういう要素は、日本のFEAR社が同じ2008年のセブンフォートレス(メビウス)や、前年のナイトウィザード2版などで、「攻撃担当のアタッカー」「防御担当のディフェンダー」「魔法戦闘の得意なキャスター」「回復支援のヒーラー」という基本スタイルに、個性化のための職業クラスを組み合わせる形で実装していて、当時の日本のTRPGプレイヤーには割と旬で常識的なシステムだったんですがね。

『この辺の和洋のシステムの同時代性のリンクなんかを比較文化論で語るのも、個人的には面白いと思ってます。ゼロ年代のFEAR製のTRPGシステムの発展史はD&Dの展開と比べても面白いテーマでしょうが、10年代に入るとシステムが完成したからか、マンネリ化してしまって同工異曲と化したのが残念かな。で、10年代の一つの流行はオールドスクールの復古と、もう一つの流行がナラティブ重視と言えましょうか』

シロ「ナラティブ重視って?」

NOVA『参考になるのは、この記事だろうか』

NOVA『俺的な定義では、理系的なデータ重視で戦術云々をあれこれ考えるシステマチックなゲームに対して、文系的なワード設定を重視した曖昧なシステム(そういうのはコンピューターゲーム化しにくい)に基づき、最低限のダイスロールなどの判定と、自由度の高いGMとプレイヤーのストーリーのやり取り、会話のキャッチボールで生成されるゲーム体験といったところか。数字のやり取りではなくて、言葉のやり取りを重視したゲームと考えている』

ヒノキ「要は、ややこしいルールや膨大なデータよりも、その場のノリや口相撲でプレイが円滑に進むなら、それで刺激的な冒険を楽しむことも可能ということじゃな」

NOVA『俺みたいなシステム研究者には、あまり魅力を感じないんですけど、「一つの指輪RPG」がちょっとしたナラティブ感覚を覚えて、数値でガチガチになって勝ち負けや戦術を云々するシミュレーション的なゲームよりも、役割演技や世界観を味わうことを重視した物語生成ツール的な、もしくはプレイヤーたちの想像力を刺激するような材料をパッケージングしたゲームですな』

シロ「4版とは真逆の方向性ですね」

NOVA『3版ともな。だから、D&D5版は、オールドスクール、つまりクラシックやアドバンストD&Dの80年代〜90年代の懐古物語めいた背景世界を扱い、俺みたいな層の懐古郷愁を呼び込むとともに、システムは従来のシステマチックな部分を大きく削って、ナラティブ的な部分を高めたとも分析できる。細かい数字を扱うのではなくて、有利と普通と不利という3つの要素だけで判定できるのは、数字の苦手な文系層にも、あるいは小学生でもプレイしやすい。たぶん、データの少ないクラシックの次にプレイしやすいD&Dシステムが5版だと思うが、4版のマニアックなゲームの印象が根強く残っていて、一般層への普及が大きく妨げられていた感じがする』

シロ「結局、4版への悪口じゃないですか?」

NOVA『3版も4版も、俺にとってシステム研究をするには面白い素材なんだよ。だけど、初心者ウケするには、ハードルが高いなあ、と。でも、5版は大きくハードルが下がって、初心者が映画を見て、D&Dって面白そうとか感じたときに、じゃあ試しにプレイしてみようとなりやすいシステムだと思うんだな。まあ、もうすぐ新版が出ることが発表されていて、年末ドラゴンランスが5版最後の輝きになるかもしれないが、次の版が20年代TRPG業界にどういう影響を与える旗頭になるのか、それとも4版みたいな意欲作だけど、マニアにしかウケずに5版との分断を招くのか果たして? って頃合いだ』

 

ヒノキ「結論として、時代が軽くて自由度の高いナラティブを求めている頃に、D&D4版は逆の方に舵を切って失敗したから、ナラティブを取り込んだ5版が成功したってことか?」

NOVA『いや、ナラティブが先か、D&D5版が先かは、俺にもはっきり分かってないのですが、ナラティブっぽいゲームは、たとえば「ルーンクエスト」の世界を違うシステムで表現した「ヒーローウォーズ」とか、「Aの魔法陣」とか、「熱血専用」とか、「ファイヤード!」とか、決してメジャー受けして、後世に語られやすい作品ではないけど、意欲的な実験作として時代に埋没した作品群。しかし、TRPGにおけるナラティブの文脈では、システム論として発掘してもいいんじゃないかなあ、とか思ったり』

シロ「って、もはやD&Dでも、盗賊でもないようですが?」

NOVA『結論としては、D&Dが4版で緻密なバトルゲームとしての要素を高めたら、時代はナラティブを志向するように移って行った。日本では、それ以前からナラティブ的な、データよりもキーワードと語りを重視したTRPGは存在したが、時流に合わずに淘汰されていた。しかし、D&D5版になって、データ重視ではないナラティブ的な物が少しずつ浸透していった。ナラティブ的な概念は、それまで言葉になっていなかったせいで、単に異色な作品、意欲的な失敗作というレッテルで片付けられていたのが、改めてナラティブという用語で解析すると、きちんと萌芽が息づいていたってところですかね。するとTRPGにおけるナラティブ要素の歴史」という切り口で語れるようにもなる、と』

シロ「それはいいとして、盗賊にはつながらないでしょう?」

 

4版盗賊の技能とかHPとか

 

NOVA『実は、D&D4版でローグに「急所攻撃を駆使する撃破役」という属性が与えられたことで、従来の探索活動や隠密のプロフェッショナルという要素が簡略化されたんだな。3版では50種近く用意されて、そのランクを上げることが必要だった技能が、4版では17種にまとめられて、技能ランクを上げる必要もなくなった。技能については、習得済みであれば+5のボーナスが得られ、さらに能力値ボーナスと、レベルの半分を加えることができる。つまり、レベルアップによって、自動的にランクが上がるから、習得しているか否かだけが問題になり、後から技能ポイントを消費して、どの技能ランクをどれだけ上げるかを考えなくてもよくなった』

シロ「すると、技能がいっぱい習得できるというローグの長所がなくなりますね」

NOVA『で、ローグが自動的にもらえる技能は〈盗賊〉と〈隠密〉の2つだけ。あとは4つの技能をローグのクラス技能8種の中から自由に選べる。俺なら〈運動〉〈軽業〉〈知覚〉〈事情通〉を選ぶと従来のローグっぽいキャラになるな、と思う。他には〈威圧〉〈看破〉〈地下探検〉〈はったり〉が選べるが、初期段階で合計6つも技能がもらえるのはローグの強みだな。他は4つで、ファイターが3つ、レンジャーが5つとなっている』

シロ「〈盗賊〉という技能があるんですね。ソード・ワールドのスカウト技能みたいなものですか」

シロ『それ1つで、解錠、すり、手先の早業、罠解除の4つができるな。罠の発見や聞き耳は〈知覚〉で、忍び足や隠れ身は〈隠密〉で行える。複数技能が一つにまとめられたことで、戦闘以外で覚えることが減った。この技能ルールのシンプル化は5版にも受け継がれた。つまり、4版は戦闘ルールを細かくした分、技能ルールは簡略化した。そして、5版は戦闘ルールも簡略化し、技能ルールも簡略化したままなので、従来のD&Dよりも相当に軽いシステムになったわけだ。このシステムの簡略化は、5版の特長と言えるわけだよ。実際、今のソード・ワールドよりも5版D&Dの方が簡単というのが俺の実感だからな』

 

ヒノキ「ところで、新兄さんや。先ほどローグの1レベルのHPが25とはあり得ないと言っておったが、クラスの基本HP12に能力値の耐久力13を加えると、普通に25になるのではないか?」

NOVA『え? HPに加えるのは耐久力そのままではなく、耐久力ボーナスの+1だったはず……って、何と! 4版では他の版と違って、耐久力そのものを加えるのか? ずっと勘違いしていたや。いや、4版でキャラを作ったことはないし、リプレイで示された数字を検算することもなかったから、当記事で初めてHPについて話題にしたわけだけど』

シロ「キャラ作りもせずに、システムについて考察していたんですか?」

NOVA『いや、D&Dだし、ルールブックもリプレイも読んで、ある程度のルールは把握していると思い込んでいたんだよ。ただ、HPの決め方がこれまでの耐久力ボーナスではなく、元値そのものを加える方式になっていたとは、そこまでシステムが変えられていたのか……と今さらながらビックリしている(汗)』

ヒノキ「今までの常識があるがゆえに、常識を覆す改変が行われた際に、これまでの慣習どおりに考えてしまうようじゃな」

NOVA『もしかして、5版のHPも思い違いをしていたのか? (慌ててルールブックを読み返す)良かった、こっちはローグのHPがD8+耐久力ボーナスだ。耐久力そのものを足すような異常なことをしているのは、4版だけだ』

シロ「それでも、3版のD6に加えると増えてるんですね」

NOVA『ここで、耐久力13(ボーナス+1)のシーフもしくはローグの1レベル時のHPを比較してみよう』

D&D各版ごとの1レベル盗賊のHP比較

 

・クラシックD&D:5

・AD&Dおよび3版:7

・4版:25

・5版:9

NOVA『当初は、魔法使いと同じぐらい貧弱HPのD4からスタートした盗賊だが、AD&Dでは戦士D8→D10、僧侶D6→D8と同様に上方修正され、魔法使いよりはマシと言えるようになり、少しずつ前衛に出ても戦えるように改善された結果、とうとう僧侶と同じD8になったのが5版。しかし、4版のHPだけは、これが同じD&Dか、と思うぐらい増えているわけで。耐久力ボーナスを足して13でも強いなあ、と思っていたら、耐久力そのものを加える仕様だったとは本当に全然違う異端ゲームだったんだな、と今さらながら痛感します』

ヒノキ「まあ、バトルメインのゲームである以上は、HPが1ケタだと、すぐに死んで楽しめんからのう」

NOVA『いやあ、俺のD&Dイメージは、打たれ弱い魔法使いが流れ矢1発であっさり死ぬ、もしくは戦闘不能になるシステムです。一応、3版以降はHP0=即死亡ではなく、HPがマイナス10になって死亡するようになりましたから、多少は死ににくくなったんですが。それでも今も昔も、D&Dでの低レベル魔法使いは1発の矢が命取りというのが割と常識。しかし、4版だけは初期状態の魔法使いでもHP20ぐらいが普通で(HP量だけなら他の版の5レベル以上に相当)、矢弾の3発ぐらいは軽く耐えられる。グレートソードの直撃でも、一度ぐらいは耐えられるほどタフな仕様ですな』

シロ「それでも5版になって、また死にやすい魔法使いに戻ったわけですか」

NOVA『だから、手慣れた魔法使いプレイヤーはこう宣言するんだ。「仲間の陰に立って、遮蔽にします」って。これでACに+2ボーナスだ。さらに、初級呪文(無限回使用できる0レベル)のブレード・ウォードを習得して通常武器のダメージを半減したり、やられる前にやれの精神で攻撃呪文をぶっ放したり、死なないための手法をいろいろ考えるのが低レベルのD&Dって奴で、今でもその精神は変わりない。4版だけが例外だと』

シロ「4版がいかにD&Dのそれまでの常識を覆し、これじゃないと旧来のマニアの離脱を招いたシステムか分かりましたよ。で、王道復古の5版に至って、それが初心者を新たに呼び込んでいるのが今ということですね」

 

NOVA『では、今さらながらの4版話はこれで終わって、次回は5版の盗賊に移るとしよう』

(当記事 完)