今現在のD&D
NOVA『さて、技能習得の多彩さが長所の3版ローグ、撃破役として与ダメの多さが魅力の4版ローグに変遷を遂げたD&D盗賊クラスだが、2014年の5版になって従来のローグに戻って来た感だ』
ヒノキ「従来のローグとは?」
NOVA『ファイターを凌駕するほどの高威力な戦闘職ではなくなって、技術職としておとなしくなった印象ですな』
シロ「それって退化したってことですよね」
NOVA『元々シーフもしくはローグと呼ばれるクラスは、戦闘の専門家ではないわけで、武器戦闘キャラとしては専門のファイターがまた輝くようになったんだな。5版ファイターは最高の攻撃回数と、得意な戦闘スタイル、さらに追加行動が得られる怒涛のアクションによって、サブクラスがなくても最高の与ダメを備えたアタッカーとなった。高い攻撃力と防御力を兼ね備えた戦闘のプロとして返り咲いたわけだ』
シロ「だったらローグの方は、どうなんですか?」
NOVA『戦闘キャラとして最も輝いていたのは、4版の時代だったな。5版になると、攻撃回数が伸びないので、急所攻撃だけで一撃必殺を期待することになる。まあ、急所攻撃の追加ダメージは健在なので、そこが魅力と言えるわけだが。以下は、版ごとの急所攻撃の性能だ』
D&D盗賊の各版ごとのバックスタブ効果
・クラシックD&D:ダメージ2倍
・アドバンストD&D:ダメージ2倍〜5倍
・3版と5版:ダメージ+1D6〜+10D6
・4版:ダメージ+2D6〜+5D6
シロ「4版が思ったよりも少ない?」
NOVA『4版は、急所攻撃以外でもダメージを上昇できる武技パワーが豊富だからな。急所攻撃と組み合わせることで、かなりの戦果を発揮できる。一方、5版は3版時代と同様の急所攻撃に戻ったが、3版と比べて、特技の習得数も減って爆発的な効果を発揮することが減ったからな。まあ、総じて5版は3版よりも地味になったと思う』
シロ「5版をディスっているんですか?」
NOVA『いや、いろいろなデータを組み合わせて、派手にプレイするのが3版や4版の醍醐味なんだが、それがRPGのバランス重視で展開したのが3版、バトル重視で偏らせたのが4版であったのに対し、5版は強キャラを作ってどうこうよりも、ストーリーを組み立てるための選択肢、多様性を広げたというか、低レベルで選べる選択肢を充実させたというか。3版の方向性に戻しつつ、初心者が入りにくいデータ至上主義を脱却して、強さよりは世界観に根差した豊かな広がりを重視したというか』
シロ「何だか抽象的で、よく分かりません」
NOVA『バトルメインだった4版に対して、5版は「探検」「社交的やりとり」「戦闘」の3本柱を標榜している。特に、既存のD&Dよりも強調したのは「社交的やりとり」だな。要するに、NPCとの交渉とか、ただの特化した冒険者ではなく社会の住人として背景情報を持ったキャラ作りだ。この世界では、このキャラはこういう立場にいるから、こういう人間とコネを持っていて、周囲からこういうことを期待されていて……というキャラ作りができるようになっている』
ヒノキ「日本のTRPGでは当たり前ではないか。少なくとも21世紀の作品では、キャラの背景情報やコネなんかを設定するライフパスが標準的に搭載されておる」
NOVA『D&Dでは、そういうロールプレイの支援システムは当たり前じゃなかったんですね。少なくとも、基本ルールの段階で、社会との関わりが設定されることは、5版まではなかった。おそらく、それは日本のTRPGが1作品で1つの背景世界を備えていたからできること。しかし、D&Dでは日本みたいに基本ルールで、特定の背景世界のNPCとのコネをどうこうって説明はなく、固有名詞といえば、せいぜい3版にグレイホークの神々の名が挙げられて、プリーストの信仰の背景を説明するぐらい。まあ、プレイヤーキャラの背景情報を詳細に設定するのは、基本ルールではなく、ワールドガイドの役割として切り離されたんでしょう。あとは、シナリオとか各DMの自由裁量の領域で、基本ルールは汎用的なファンタジー世界における個人のデータ作りに主眼が置かれたのだと考えます』
ヒノキ「日本のTRPGでは、先に背景があって、その背景におけるキャラの立ち位置が規定されておるな」
NOVA『比較的、自由度の高いソード・ワールドでも「冒険者ギルドに所属するトラブル解決業の冒険者」というのが規定されていますからね。冒険者ギルドに所属していないアウトローを導入するのに、一つのサプリメントが必要になったぐらいだ』
シロ「先に、特定の世界観や社会が構築されて、その中に生きるキャラ像を構築するのが日本のTRPGで、D&Dはそうではなかった、と?」
NOVA『キャラの背景を規定するルールが、基本ルールに実装されたのは、本当に5版が初なんだな。つまり、この点ではD&Dが遅れていたというか、そういうのはDMとプレイヤーが好きに自作するものだとか、ルールで規定して自由な想像力を損なうべきではない、という向こうの常識でもあったのかな、と思う』
ヒノキ「日本人は先に社会ありきで、その中に生きる個人という文化背景であるのに対し、アメリカ人は先に個人ありきで、社会が後から付いて来るという思想かもしれんのう」
NOVA『まあ、D&Dだけを見て、アメリカ文化はこうだと決めつけるのも偏っていると思うんですけどね。これが世界観重視のトラベラーやルーンクエスト、それにクトゥルフみたいな作品だったら、社会との関わりがルール化されていますし、D&Dは昔からDMが自由にファンタジー世界を構築してもいいと謳っているから、社会的な背景に基づくルールを基本段階では実装しなかっただけ、と考えます』
ヒノキ「しかし、5版ではその方針を覆したのじゃな?」
NOVA『自由度の高い汎用ファンタジー世界冒険RPGとしての需要を、ごっそり3版後継者のパスファインダーに持って行かれましたから、それに対抗すべく5版は、旧世紀D&Dの昔からの遺産である世界設定を前面に押す戦略をとったゆえですね』
5版の特徴
NOVA『で、D&D5版の特徴としては3点。
『1つは、細かい数値計算を極力減らして、有利不利の2要素でダイスの振り方(有利なら2つのダイスの良い目を、不利なら悪い目を採用)を決める簡略化されたシステム。
『2つは、キャラ作成に背景情報を密接に反映させて、種族とクラスと背景の3本柱の選択で大枠を構成した点。
『3つは、これまでの上級クラスの概念を、低レベルで選択できるサブクラスですね。3版がマルチクラス制度で特技や技能を習得し、上級クラスを目指していく楽しさがあるのに対し(暗殺者アサシンになるには悪属性で、〈隠れ身〉〈忍び足〉8ランクと〈変装〉4ランクが必要とか、個々の前提条件がある)、5版はローグのサブクラスとして3レベルになったら、シーフ、アサシン、アーケイン・トリックスターを選べるようになる』
シロ『ローグからアサシンに転職・兼職するのではなく、アサシンの道を選んだローグということですね』
NOVA『大学の専攻で言えば、文学部の中に文学科と史学科と哲学科があるようなものだな。転職だと文学部から法学部とか理学部に移るようなもので、上級職だと文学部の学士から修士、博士課程をとるようなものか』
ヒノキ「その例えじゃ、分かる者にしか分からんじゃろう」
NOVA『だったら、ヒノキ姐さんだと、どう例えますか?』
ヒノキ「5版のサブクラスは、TRPGゲーマーがD&Dを専攻するか、ソード・ワールドを専攻するか、あるいはダブルクロスを専攻するかといった感じじゃろうか?」
NOVA『その場合、全部ルールブックを買って楽しむ層がいるので、例えとしてふさわしくありません。サブクラスはどれかを選ぶと、他を選べませんからね。まだ、運動競技者が野球部に入るか、サッカー部に入るか、テニス部に入るかを決めるようなものと言った方が分かりやすい。クラブの掛け持ちはダメという前提で』
ヒノキ「すると、マルチクラスはどうなる?」
NOVA『運動部は一つしか選べないけど、文化部なら掛け持ちOKとか。野球部員が美術部に顔を出して、練習のない時に絵を描いているようなイメージ?』
シロ「上級クラスは、高校野球からプロ野球に転向するようなものでしょうか?」
NOVA『プロになれるほどの技能ランクに達しなかったから、草野球という道もありかもしれんし、漁師のせがれという背景を持つ侍ボーイが魔球技能を会得して、巨人のために戦うアニメもあるな』
ヒノキ「一体、何の話に脱線するのじゃ? D&Dには関係ないじゃろうが」
NOVA『いや、それがこのアニメが放送された時期が1973年から74年で、今年50周年。ちょうど侍ジャイアンツの放送期間中に、D&Dが誕生したことになります。さらに余談ですが、この「侍ジャイアンツ」の原作マンガが連載されていた時期に、アシスタントを務めていたのが「リンかけ」や「聖闘士星矢」の車田正美御大で、言わば番場蛮の魔球演出がリンかけの必殺ブローやペガサス流星拳なんかのルーツになって行ったと考えることも可能』
シロ「聖闘士星矢だと、ペガサスファンタジー。すると、ファンタジーつながりでD&Dにつなげられますね」
NOVA『聖闘士星矢の連載開始は1985年12月。その同じ年にクラシックD&Dの赤箱ベーシックセットが日本で発売されたわけで、D&Dと星矢には立派な縁があるんですよ』
ヒノキ「まあ、ハーデス配下の冥闘士なんかは、D&Dのモンスターマニュアルに載ってるものもいっぱいおるからのう。つなげられんことはないか」
NOVA『さすがにビホルダーの冥闘士とか、マインドフレイヤーの冥闘士が出て来なくて良かったですが。冥闘士は108体もいて、未設定のキャラもいっぱいいそうだから、ゴブリンの冥闘士なんかがゴブスレさんにスレイされるようなネタも今だとありかもしれません』
シロ「そんなことよりも、5版の特徴はどうなったんです?」
NOVA『ん? ああ、背景の話をしようとしていたんだな。とにかく、5版の特徴はサブクラスと背景が、キャラのアイデンティティ構築に関わってくる。背景で「技能習熟」「道具習熟」が得られるんだが、コアルールには以下の背景が用意されている。
D&D5版の背景と、習熟技能および道具
●イカサマ師:〈手先の早業〉〈ペテン〉、偽造用具、変装用具
●隠者:〈医術〉〈宗教〉、薬草師道具、追加言語
●貴族または騎士:〈説得〉〈歴史〉、ゲーム道具1種類、追加言語
●ギルドの職人または商人:〈看破〉〈説得〉、追加言語、職人道具1種類または航海道具または追加言語もう1つ
●芸人または剣闘士:〈軽業〉〈芸能〉、変装用具、楽器1種または風変わりな武器
●賢者:〈魔法学〉〈歴史〉、追加言語2つ
●侍祭:〈看破〉〈宗教〉、追加言語2つ
●犯罪者または間者:〈隠密〉〈ペテン〉、ゲーム道具1種類、盗賊道具
●船乗りまたは海賊:〈運動〉〈知覚〉、航海道具、乗り物(水)
●浮浪児:〈隠密〉〈手先の早業〉、変装用具、盗賊道具
●兵士:〈威圧〉〈運動〉、ゲーム道具1種類、乗り物(陸)
●辺境育ち:〈運動〉〈生存〉、楽器1種類
●民衆英雄:〈生存〉〈動物使い〉、職人道具1種類、乗り物(陸)
NOVA『各クラスごとに推奨背景というのがあって、例えばファイターは兵士で、ローグは犯罪者なんだが、それじゃ当たり前すぎて面白くないとかなら、違う組み合わせを考えるだけで、個性づけになるな。賢者とローグで遺跡探索が専門の考古学者ができるし、隠者のファイターで山にこもって剣の道を修行している求道家をやってもいいわけだ』
ヒノキ「隠者のファイターか。〈医術〉と〈宗教〉の技能に習熟して、薬草師道具を扱う戦士だと、どんなキャラが考えられようか?」
NOVA『本来はドルイドやモンクの背景ですが、山奥の道場師範の息子とか、秘伝の◯◯流剣法の継承者という設定が思いついたんですが、オビワン・ケノービとかでしょうか。あとは、例えばローグでなくても、犯罪者や浮浪児の背景を持てば、盗賊道具に習熟できて鍵開けや罠外しができますね』
シロ「鍵開けは技能で行うものじゃないんですか?」
NOVA『5版では、従来の技能が技能習熟と道具習熟の2種に分かれていて、例えば、楽器演奏という技能はなくて、〈リュート〉習熟とか〈フルート〉習熟になっている。料理技能はないが〈調理用具〉習熟になっているな。道具が設定されているものは、習熟することで、それを使いこなすことが可能であり、その道具を持っていなければ作業そのものはできないが、例えば「〈調理用具〉に習熟している料理人だから、味見によってどんな材料が用いられているか調べようと思います」とDMに宣言することも可能だ。道具の扱いに慣れているということは、その道具の背景に関する知識とか推察能力、入手先とか雑多な情報も身につけていると拡大解釈も可能というわけだ』
ヒノキ「すると、隠者の持つ〈薬草師道具〉習熟は、薬草の採取や鑑定に使えると解釈することもできるわけか」
NOVA『5版は技能の数を4版同様にしぼった分、生活感あふれる各種道具の習熟によって、日常生活の背景を広げた形になりますね。一般技能の可能性を広げたという意味では、このサプリメントが目指しているのも、その方向性かな、とも』
シロ「バトル以外の日常生活をあれこれイメージしやすくするための情報ですね」
NOVA『で、アーティフィサーの魔法技師としての才覚も、〈盗賊道具〉〈よろず修理屋道具〉〈何か1つの職人道具〉の3つに最初から習熟しているがゆえの能力というわけだ』
ヒノキ「なるほど。アーティフィサーは盗賊の真似事ができると言っておったが、それは〈盗賊道具〉に習熟しておったからか」
NOVA『他には〈知覚〉〈手先の早業〉が技能として習得できますが、〈隠密〉や〈運動〉〈軽業〉などの体全身を動かす行動が不得意なんですね。だから手先の器用さは活かせても、完全に斥候仕事を代行はできません。〈隠密〉がしたければ犯罪者か浮浪児の背景を持つか、後から《技術習熟》の特技を習得して、技能3つを追加取得するという手がありますね』
ヒノキ「欲しい技能を得るための道はいろいろ用意されておるんじゃな」
NOVA『この辺のキャラ育成は、自分がやりたい理想像と、パーティーの仲間としての需要とかも関わって来ますからね。もしも、パーティーにローグがいなくて、それでも〈盗賊道具〉の習熟が欲しければ、誰かが犯罪者か浮浪児になるか、または《技術習熟》で身に付ければいいわけです。そして有利さを考えるなら、その誰かは最も能力値の敏捷力が高いキャラが請われるわけで、おそらくはレンジャーかモンクかバードかな、と』
ローグのサブクラス
NOVA『では、いよいよ一連の盗賊話のクライマックスだ。元々は、5版ローグのサブクラスを見て、あっさり話をまとめるはずだったのが、3版や4版の盗賊史に大きく回り道してしまったせいで、ようやく本題にたどり着いたことになる』
ヒノキ「前置きが長すぎる。今さら3版や4版など振り返る必要がどこにあったというのか」
NOVA『しかし、D&Dの版上げによる影響を一番大きく受けたクラスは、ローグだと思っていますからね、俺は。最初は最弱のザコと呼ばれた盗賊の性能強化が、D&Dの版上げの歴史と重なる以上は、ローグを語ればD&Dの進化や変化の歴史も語れるかと思うと、最も奥深いクラスだと思うんですよ』
ヒノキ「まあ、魔法使い並みの貧弱HPと、成功率の低い特殊能力と、最強火力の魔法使いほどの将来性も持たない、バックスタブの一発屋芸人と蔑まれてきたクラシックD&Dの時代と比べると、ここまで花形職業として評価が上がるとはのう」
シロ「アリナ様、酷いです(涙目)。一応、忍びとしては聞き捨てならぬ暴言に苦情を申し入れます」
ヒノキ「おっと、別にお主の悪口を言ったわけではないのじゃ。ただ、昔に比べて、今は良くなったと言ったわけで」
NOVA『つまり、当時のD&Dの紹介者が「盗賊は通の職業で、これを使いこなしてこそベテランと呼べる技術職」と擁護しなければ、誰もプレイしたがらないダメな性能で、しかも、D&D紹介リプレイでの盗賊がことごとく、三下中年のウッドチャックだったり、HP1でフォローもされなかったダース・ヴェーダーだったり、格好いい描写がほぼ皆無の酷い扱いでしたからねえ。新和のオフィシャルD&Dマガジンの知る人ぞ知るリプレイだと、盗賊マリュータはNPCで、最も主人公とは縁遠いクラスだったわけで』
シロ「そんな昭和の昔話はどうでもいいですから、今のD&Dの話をしましょうよ。せっかく、新星さまがボクに『5版ローグの性能を調べるように』と依頼してたのに、ここまで3版とか4版の話ばかり展開してきて、その果てにクラシックD&Dの昔のリプレイにまた話を戻すなんて、ボクの研鑽は一体……(涙目)」
NOVA『ああ、きちんと調べていたのか。それならそうと、もっと早く言ってくれれば良かったのに。では、ここから君の研鑽を聞かせてくれ。こっちは聞き手に回るから』
シロ「では、ようやく5版ローグの話をします。まずは、サブクラスを持たない基本能力から」
5版ローグの能力
●レベル1
・急所攻撃:妙技武器や遠隔武器を使用して有利な状況で発動。最初は1D6ダメージが加わるだけだが、レベル上昇につれてレベルの半分(端数切り上げ)だけのダイスが加算され、最大20レベルで+10D6になる。
また、有利じゃなくても、無力状態でない仲間が目標に隣接していて、攻撃時に自分が不利を受けていなければ発動するので、4版のように挟撃は必要ではない。仲間と近接戦闘している相手をいっしょに狙えばいいので、ローグは孤立せずに誰かと共闘する方がいい。
・習熟強化:盗賊道具もしくは習熟している技能のどれか2つの習熟ボーナスを2倍にする。
習熟ボーナスは最初で+2で、以降は5レベルで+3、9レベルで+4と、4レベルごとに上昇し、最大で+6まで増える。つまり、ローグの得意技は+4〜最大+12までボーナスが伸びるので、他のクラスよりも技能判定が成功しやすい。さすが技の専門家。
・盗賊の符牒
盗賊の暗号に関する知識。犯罪者の背景を持っていれば、最初から盗賊ギルドの構成員だが、そうでなくても、裏社会と渡りを付ける術は知っているわけである。初めて来た街でも、裏社会の臭いを嗅ぎつけ、秘めたる情報を察することができる。
●レベル2
・巧妙なアクション:1ターンに1回のボーナスアクションを得て、「隠れ身」「早足(2倍移動)」「離脱(機会攻撃されずに移動)」のどれかを行える。
●レベル5
・直感回避:1ターンに1度、攻撃を受けた際にリアクションで、ダメージを半減できる。
●レベル7
・身かわし:範囲魔法やドラゴンブレスなどにさらされた際、敏捷力ST判定に成功すれば普通はダメージ半減のところを一切ダメージを受けず、失敗しても半減ダメージで済む。
●レベル11
・確かな技術:習熟ボーナスを足せる能力値判定(技能とかST判定とか)で、出目9以下を10として扱える。
●レベル14
・非視覚的感知:物音を聞ける限り、10フィート以内の隠れているクリーチャー、不可視状態のクリーチャーの位置を認識できる。
●レベル15
・囚われぬ心:初期状態で備えていた敏捷力ST、知力STに加えて、判断力STの習熟を得る。冷静で強靭な精神力を会得。
●レベル18
・捕捉不能:無力状態でない限り、敵から有利を得られることはない。巧みな回避力で、敵から出し抜かれる可能性はほぼない。
●レベル20
・幸運児:攻撃や能力値判定のミスを成功に変えることができる。1回の小休憩を得るごとに、1回のみ使用可能。
シロ「思ったよりも、ローグは強いですね」
NOVA『ほう。どの辺が?』
シロ「お気に入りは、レベル5の直感回避です。敵の攻撃が命中してもダメージ半減って凄くありません?」
NOVA『相手が1回しか攻撃して来ないならな。敵に囲まれると、元々の防御力は高くないから危険だ。基本的には、攻撃を受けないような立ち回りをしながら、万が一で攻撃を受けても一度ならダメージを抑えられる程度と思っていた方がいい。ともあれ、隠れ身と遠隔攻撃を使いこなせば生存性能は高いと思うが、これだけだと積極的に前に出るキャラではないだろうな。遠隔武器でも急所攻撃が乗るのだから、むしろ狙撃兵として優秀なキャラに思える』
シロ「では、次にサブクラスを見て行きますか」
ローグのサブクラス1.「シーフ(盗人)」
●レベル3
・器用な指先:レベル2の「巧妙なアクション」で行える行動に、「《手先の早業》判定」「盗賊道具を用いた解錠や罠解除」「物体の操作」が追加される。
・屋根渡り:通常移動で登攀可能。また、助走付きの跳躍距離が伸びる。
●レベル9
・隠密無双:移動速度の半分以下で動くなら、〈隠密〉判定に有利を得る。
●レベル13
・魔法装置使用:ローグ用ではないマジックアイテムも全て使うことができる。
●レベル17
・神速:最初のラウンドに2回行動ができる。
シロ「シーフは、クラシックD&D以来の典型的な盗賊って感じですね。戦闘能力よりは、盗賊の技の使用に特化したというか、あまり癖がないけど地味というか、強さが実感しにくいです」
NOVA『ポイントは、器用な指先による「物体の操作」アクションだと考えるな。例えば、剣で攻撃しながら、ポーションを飲んだりできる。まあ、剣で攻撃しながら鍵開けとか、罠を探しながら瞬時に外すとか、鍵開けと罠外しを同時に行うとかができなくもないが、そういう局面はあまりないだろう?』
シロ「〈手先の早業〉って、要するにスリですよね。殴りながら、同時に敵のふところからお宝をスリ取る(CRPGのFFシリーズにおける「ぶんどる」アビリティ)は、コンピューターゲームではアイテム集めに有用ですが、TRPGではモンスターから『盗む』ことでしか入手できない特別なアイテムが設定されているゲームでない限り、普通に倒して持ち物を奪えばいいわけで、戦闘中に敵からスリとる必要性が薄いと思いますが」
NOVA『1ラウンドに2回スリができるという恩恵もなくはないが、やはり「物体の操作」で手持ちのアイテムを追加で1回使えると考えると、いろいろ活用できるんだ。相手に油を投げつけて、即、火をつけるということもできるし、装填に1アクション必要なクロスボウを即座に装填して毎ラウンド撃つこともできる。もちろん、特技で《クロスボウの達人》をとって連射することも可能なんだが、手はいくらでもある。他にはポーションを同時に2本仲間に飲ませる係とかにもなれるな』
シロ「ああ、シーフって優秀なアイテム使いになれるんですか」
NOVA『そういうこと。だから、事前にアイテムをいろいろと準備しておくことで、能力をフルに発揮できるわけだ。追加攻撃回数は伸びないが、アイテム使用回数を含めると、レベル3から普通に2回行動できるわけで。さらに、5版ではヒーリング・ポーション(2D4+2点のHP回復)が金貨50枚で買えるから(薬草師道具に習熟していれば、材料費として半額の25GPと10日間で自作も可能。DMが許可すれば、冒険の合間に金だけ払って薬を作っていたことにしてもいい)、ゴブスレさんみたいに回復用のポーションをたっぷり用意して使いこなすことも、そこそこ冒険を重ねれば可能だろう』
シロ「なるほど。レベル13になってからの魔法装置使用ばかりに目が行ってましたが、それ以前からローグが自分で使用できるマジックアイテムは、普通に2つを同時に起動できるのがシーフだと」
NOVA『5版のマジックアイテムは、DMGに収録されているので、プレイヤー専門のシーフがPHBだけを読んでも、その秘めたる可能性に気付きにくいんだよな。ただ、使用に1アクションが必要なアイテムを攻撃しながら即座に使える、あるいは複数同時に使えるのがシーフの利点なので、冒険中に入手したマジックアイテムは他のクラス専用でない限りは、シーフに持たせておくと有効利用できる可能性がある。少なくとも、シーフは自分がアイテム使用の専門家であることを自覚しておくべきだな』
シロ「それこそ、ゴブスレさん並みのプレイができそうですね。で、魔法装置使用の能力を会得すれば、自分が使えない呪文の巻き物や魔法の杖なんかも使いこなすことができるようになる、と」
NOVA『一部のマジックアイテムは、職業クラスや種族、レベルなどの使用条件があって、せっかくの便利アイテムもパーティーに使えるキャラがいないなら売り払うしかないんだが、13レベルのシーフがいるのなら、どんなアイテムでも使えるようになるわけだ』
シロ「アイテム使いとしてのプロがシーフだと」
NOVA『まあ、本来、自分が使えないはずのマジックアイテムを、裏技的にごまかしながら使っているって設定なんだがな。きちんと解析して作ったり、使ったりできるアーティフィサーとはやり方が違う感じだ。例えるなら、壊れたTVをアーティフィサーは分解して修理できるけど、シーフは適当に叩いていたら、うまく回路がつながって使えるようになったってところか』
ヒノキ「いつの時代のTVじゃ」
ローグのサブクラス2.「アサシン(暗殺者)」
●レベル3
・習熟追加:「調毒道具」と「変装用具」の習熟を得る。
・暗殺術:戦闘開始時に、未行動の相手への攻撃に有利を得る。また、そうして不意打ちされた相手に対する攻撃は常にクリティカル・ヒットになる(武器のダメージダイスが2倍振れる)
●レベル9
・偽りの素性:金貨25枚と7日間の準備をすることで、完璧な変装能力を発揮して、架空の別人のように振る舞い、信じ込ませることができる。演技に明確な矛盾点や疑われる理由が指摘されるまでは。
●レベル13
・なりすまし:3時間以上の観察を経た後で、特定人物を装い、相手の知人にも本物であるかのように信じ込ませることができる。注意深い相手が疑い出した時も、正体の露見を防ぐための〈ペテン〉判定に有利を得る。
●レベル17
・暗殺奥義:暗殺術で不意を打たれた相手に、耐久力ST判定を行わせて、失敗すればダメージがさらに倍になる。
シロ「5版のアサシンは、毒と、暗殺による大ダメージと、標的を騙して奇襲するための変装能力が特徴ですね」
NOVA『変装のプロというのが、社交的やりとりを重視する5版ならではのポイントだな。少なくとも、3版の上級職であったアサシンとは異なる解釈だ』
シロ「また、3版ですか? そっちのアサシンはどんな性能です?」
NOVA『毒と、暗殺による大ダメージは同じだが、3版アサシンは3ラウンドの準備時間を経て、相手をじっくり観察することで、頑健STに失敗した相手をダメージとは関係なく、即死または麻痺させられる』
シロ「何それ怖い……」
NOVA『まあ、ST判定の難易度が「10+アサシンレベル+知力ボーナス」だし、アサシンの最大レベルが10だから、難易度は11〜25の範囲に収まるな。間をとって18としよう。ええと、3版のモンスターマニュアルを見ると……ビホルダーの分解光線に耐える難易度が頑健ST18だから、3版アサシンの暗殺能力はビホルダーに匹敵する即死効果ってことだ。まあ、ビホルダーは毎ラウンド、分解光線その他を撃ってくる可能性があるから、3ラウンドの準備期間が必要なアサシンはまだ優しい方だろうなあ』
シロ「いや、ビホルダーなんて比べる相手がおかしくありませんか? 脅威度は一体、いくつです?」
NOVA『ええと、13とあるな。つまり、13レベルキャラが4人、健常な状態で戦って、中程度の難易度となる計算か。ビホルダーのHPは期待値60なので、13レベルのローグが急所攻撃を上手く乗せれば、+7D6で期待値25点。武器のダメージを足して30点ダメージは与えられるか。あとはファイターで、どれぐらいダメージを叩き出せるかだが、魔法使いの呪文がビホルダーには効果なしなのが厳しいな。奇襲によって、相手が動く前に倒したいところだが』
ヒノキ「って、どうしてビホルダーを倒す算段になっておるのじゃ? 倒すべきはビホルダーじゃなくて、アサシンじゃろうが」
シロ「いや、アサシンを倒す話でもなかったはず」
NOVA『とにかく、3版のアサシンは悪の性格専用なので、あまりプレイヤーが使うことを想定していないと思います。じっさいの冒険でも、3ラウンド何もせずに、じっくり相手を観察しないといけない致死攻撃は、使いにくくて仕方ない。ついでに、3版アサシンはわずかながら魔術師呪文が使えますね。呪文で変装とか記憶操作とかもできるから、特殊能力にする必要もなかったのかな』
シロ「5版に話を戻します。暗殺術の武器ダメージが2倍ってのは強いですが、これってローグの急所攻撃の分も2倍になるんですかね?」
NOVA『なるみたいだ。あと、暗殺奥義が上手く決まると、急所攻撃の分だけでも20D6×2で期待値70点になるから、合計100ダメージぐらいになりそうだな。これならビホルダーでも一人で軽く瞬殺できそうだ』
ヒノキ「ビホルダーのことはもういいから」
NOVA『そして、暗殺者といえば毒ですね。5版では「基本的な毒」が普通に市販されていて、金貨100枚で買うことができます。武器に塗って1分間(6ラウンド)ダメージにD4を足せますが、思ったよりも地味だ。これなら金貨25枚で買える酸の方が2D6点のダメージを与えて効率的に思える』
シロ「酸は1回ダメージを与えて、期待値7点、最大ダメージ12点。毒は6ラウンド有効で、全部命中すれば期待値15点、最大ダメージが24点加算されます。もちろん、通常の武器攻撃のダメージも乗りますし、そもそも酸で急所攻撃のボーナスは乗らないでしょう」
NOVA『なるほど。ローグの場合は、いかに急所攻撃でダメージを増やすかがポイントだから、酸だと長所をつぶしていることになるのか。この場は毒に軍配が上がる、と』
ヒノキ「ところで、基本的な毒以外にも使える毒はないかのう?」
NOVA『まあ、DMGにはいろいろと載っているんですけどね。割とよくある蛇の毒が、金貨200枚で3D6ダメージ。効果は1回分ですので、6ラウンド有効とは書いていないし、たぶん1度ダメージを与えると、ゲームバランス的に効果終了と考える方がいいでしょう。他にも強力な毒はいっぱいありますが、個人的にプレイヤーキャラが毒を自由に使える状況は望ましくありませんね。プレイが殺伐とし過ぎます』
ヒノキ「しかし、毒の使えぬアサシンは味気ないと思うがのう」
NOVA『だから、ゲームバランスを崩さないギリギリのところで「基本的な毒」なんでしょう。しかし、アサシンがダメージを上げる方法は他にもあります』
シロ「何ですか?」
NOVA『特技《二刀の使い手》を習得して、武器を二刀流にすることだ。暗殺術は、武器のダメージダイスを2倍にする効果だから、武器の数が増える方が効果が大きくなるわけだよ。
『二刀流はシーフでもダメージを増やせるけど、アイテム使いが本領のシーフはアイテムを使うために片手を空けておく方が能力を発揮しやすい。一方で、アサシンはシーフほどのアイテム使いの才能を持ってないので、初手で暗殺術を使って敵陣に切り込んで標的に大ダメージを与え、その後はすかさずボーナスアクションで、隠れ身なり、離脱するなりして、敵の攻撃にさらされないようにする。暗殺術は、初手の不意打ちでしか使えないから、以降は壁役戦士と連携して急所攻撃を狙っていく。とにかく、最初に先手をとるのが能力使用で大事なので、イニシアチブを+5できる特技《警戒》を取るのもいいだろう』
シロ「あとは変装術をどう活かしましょう?」
NOVA『本来なら、標的に警戒されずに近づいて仕留めるための手段なんだろうけど、冒険者としてはそうそう頻発するシチュエーションじゃないだろうから、どちらかと言えば、情報収集のための潜入工作とか、ダンジョンよりもシティアドベンチャー向きの能力なんだろうなあ。手先の技術よりも、話術を活かした演技派の密偵や間者をプレイしたい場合は有益な能力だし、怪盗だけでなく探偵めいたキャラも作れる』
シロ「暗殺者なのに?」
NOVA『殺しのプロだからこそ、殺しの調査でも有能なのさ。調毒道具の習熟についても、自分で毒を使うのではなく、毒物や薬物に関する知識として流用できる。必殺仕事人だって、殺しはクライマックスの場面だけで、それまでは悪人の陰謀をあれこれ調査することが多いわけで』
ヒノキ「殺し屋として育てられた少女が、殺しの世界からは足を洗ったものの、その経験が彼女の周りのきな臭い事件の謎を解明するのに役立つって物語か。それなら主人公も務まりそうじゃのう」
NOVA『では、今回はコアルールブックの3つのサブクラスで終わっておきましょう。サプリメントの追加サブクラスは、また次回ってことで』
シロ「それなら当記事最後の3つめ、魔法盗賊のアーケイン・トリックスターです」
ローグのサブクラス3.「アーケイン・トリックスター(秘術使いのいたずら者)」
●レベル3
・呪文発動:ウィザードと同じ秘術呪文を最大4レベル呪文まで習得可能(初級呪文はメイジ・ハンド固定で、あと2つ)
・欺きのメイジ・ハンド:初級呪文メイジ・ハンドを不可視にして使用できる。メイジ・ハンドによる遠隔物体操作で、盗賊道具を使った解錠や罠外しも可能。また、レベル2の「巧妙なアクション」で、この魔法の手の操作ができる。
●レベル9
・奇襲魔法:隠密状態で相手に呪文を使ったら、相手は呪文に対する全てのST判定で不利を受ける。
●レベル13
・多彩ないたずら:メイジ・ハンドによるボーナスアクションで相手の気をそらせる。その相手に対する攻撃では有利を得ることができる。
●レベル17
・呪文泥棒:呪文を受けた際に、リアクションで呪文を使った相手にST判定を行わせる。相手が失敗すると、その呪文は無効化され、1レベル以上でアーケイン・トリックスターが発動可能なレベル以内(3レベル呪文か、レベル19以上なら4レベル呪文まで)なら、一時的に習得して自分で発動可能になる。呪文の種類はウィザードに限らず、他の職種の呪文でもいい。大休憩をとるまで、一度だけ使える。
シロ「魔法の使える盗賊として、ファイター・サブクラスのエルドリッチ・ナイトに相当するサブクラスですね。エルドリッチ・ナイトが魔法と武器攻撃を組み合わせた戦術を覚えるのに対し、こちらはメイジ・ハンドを利用した遠隔操作やかく乱が特徴で、ただの魔術師とも違った裏技的なアクションができて面白そうです」
NOVA『ただ魔術師呪文を使うだけでなく、戦士なら戦士、盗賊なら盗賊としての特殊な使い方があって、このサブクラスならではの持ち芸という感じがいいな。魔法の使える盗賊というテーマだと、例えば「犯罪者の背景を持つ魔術師」を作れば、それっぽいキャラにもなれるが、アーケイン・トリックスターはより狡猾なローグの特性を示していると思う』
ヒノキ「とりわけ、相手の使ってきた呪文を吸収して撃ち返す呪文泥棒は、上手くハマれば痛快じゃろう」
NOVA『無効化だけなら、高レベル呪文でも可能なのが強いですね。まあ、レベル17まで育成するのが大変ですが、いずれにせよ魔法を使える盗賊ってだけで、普通に個性化できるわけです。魔法の便利なのは範囲攻撃ができる点で、大勢のザコを範囲攻撃呪文で仕留め、残った強敵に対しては急所攻撃で大ダメージを狙っていく戦術がメインになりますか。ともあれ、D&Dは呪文のヴァリエーションが豊富なので、それだけでも持ち芸が豊富と言えるわけで』
シロ「メイジ・ハンドで遠くから鍵をスリ盗ったりもできるので、いかにも怪盗って感じのアクションが楽しそうです」
(当記事 完)