花粉症ガール外伝・コンパーニュ記

会話リプレイ形式の「精霊少女や仲間たちの趣味雑談ブログ」。お題はTRPGを中心に特撮・怪獣ネタ成分が濃厚。現在は、ソード・ワールドのミストグレイヴ妄想リプレイ「魔神ハンター」を終了に向けつつ寄り道迷走気味。

ドラゴンランス・シナリオの概要

シナリオについて、少しネタバレ記事の予定

 

NOVA『さて、現在ドラゴンランス脳な俺ですが』

ヒノキ「他のブログ記事を放ったらかしにして、ドラゴンランスにハマっておるぐらいじゃのう」

NOVA『まあ、ドラゴンランスは短期集中ネタってことで、今記事で終了のつもりです。アーティフィサー話に戻らないといけませんからね』

ヒノキ「ところで、ドラゴンランスと一口に言っても、日本では小説展開がメインで、ゲームシナリオとしての評価は一般的に為されておらんのう」

NOVA『英語版AD&Dを嗜んでいる一部のマニアックな人たちが、細々と内輪で楽しんでいただけですね。まあ、改めてネットで探すと、日本語でも俺より凄い人たちがいろいろ記事書きしていて、参考にしているのですが。俺的にお勧めは、以下の3ヶ所ですな』

 

●『ドラゴンランス 登場人物事典』

http://www.daadplus.sakura.ne.jp/dlance.html

 

●こちらのサイトの『ドラゴンランスのデータ学』

http://beoline.nobody.jp/index.html

 

●こちらのサイトの『ドラゴンランス・リプレイ』

(プレイシナリオは3.5版用に復刻したもの)

https://dragonlance.jp


NOVA『まあ、英語版の追っかけにハマると、今はWotC以外に、こういうサードパーティ製の作品までチェックしないといけないので、俺としては自分に手の届く範囲の氷山の一角を掘って、へえって浅いところで感心している程度ですが、やはり40年以上の歴史あるコンテンツだけあって奥が深すぎる』

https://www.dmsguild.com/product/416867/Dragonlance-Companion

 

ヒノキ「ドラゴンランスは84年スタートということじゃったな。D&D誕生10周年的な一大企画として展開したと聞く」

NOVA『去年がFFゲームブック40周年で盛り上がって、来年はD&D50周年で盛り上がりそうなんですが、実はドラゴンランス40周年でもあるのですね。日本で小説が初翻訳されたのは87年ですが、その前の85年末にゲームブックのAD&Dシリーズが先に紹介された』

NOVA『俺も86年からゲームブックのファンになっていましたが、このAD&DシリーズはFFシリーズに比べて、パラグラフ数が少ないのと、システム的な奥深さがないことで、本屋の立ち読みで解けてたんですね』

ヒノキ「突然ゲームブック話に展開かよ」

NOVA『で、その際の後書き解説で、この本は「アドバンストD&Dのドラゴンランス年代記に基づくもので云々」と書かれていたわけですが、当時はアドバンストD&D? ドラゴンランス? という無知さだったので、作品そのものは重要視してなかったり(D&Dの名前は知ってたけど)。

『でも程なく、86年のロードス島リプレイなどでD&Dのイメージをつかんで、87年の正月に赤箱ベーシックと青箱エキスパートを買ったりしたら、その年の春に小説「ドラゴンランス戦記」が登場。ほう、これが噂のドラゴンランスか……と読んでみると非常に面白くてハマって、自分たちのD&Dキャンペーンも「レンフィールド戦記」というタイトルで拙い小説を書いて、プレイヤーに読んでもらったりしていたら……翌年、リプレイだった「ロードス島戦記」も小説版が登場して……という高校時代。何だか相乗効果でTRPGの紡ぐ物語にハマっていった10代後半でした』

ヒノキ「新兄さんにとっては、86年から87年にかけてゲームブックからTRPGファンタジー小説に突き進んで行ったのじゃな」

NOVA『その前の中学時代に、ツクダのSFアニメを題材としたボードのシミュレーションゲームイデオンとかガンダムとかマクロスとか)にハマって、アナログゲームでサイコロ振って判定する文化に馴染んでいた影響もありますね。学校にゲームは持って行けないから、ノートにボードマップを書いて、紙でコマを作って、エンピツをサイコロ代わりに転がして休み時間にゲームしてました』

ヒノキ「おいおい。ゲームを持って行けないからって、紙とノートと鉛筆でゲームを作っていたとは……何て中学生じゃ?」

NOVA『まあ、それはさておき、ドラゴンランスに話を戻しましょう。ドラゴンランスにハマった後は、副読本としてのAD&Dゲームブックも購入しましたよ(FFシリーズと違って、ずいぶん前に処分したけど)。

『上述の「パックス砦の囚人」の他に、「ウェイレスの大魔術師」「奪われた竜の卵」の3つがドラゴンランス関連になりますね。パックス砦は小説のパラレルワールドで、オリジナルのレンジャー主人公でヴェルミナァルド(当時の訳はバーミナード)を倒すという話でしたが、後からドラゴンランス小説を読んで、「どこかで知ってるような話だな。ん? ああ、そういうことか。こっちがゲームブックの元ネタだったのかあ」と、ようやく後書きの解説内容を納得理解する』

ヒノキ「元々は、小説以前にTRPGのシナリオじゃったから、小説主人公のタニスたち以外のオリジナルキャラでもプレイできるのじゃな」

NOVA『そんなわけで、ヴェルミナァルドもAD&Dゲームブック最初のラスボスとして、火吹山のザゴール同様の復活とか懐古をしてあげても良かろうに、と思ってるヴェルミナァルド挙げのNOVAなんです。やはり、あのドラゴン卿の兜の中身が気になるじゃないですか。兜を外すと、FF4の暗黒騎士セシルが超美形のパラディン・セシルに化けたように、転生してパラダインの使徒として活躍した「真ヴェルミナァルドの物語」って需要はないですかね?』

ヒノキ「そんな新兄さんの需要に応えて、何かないかと探してみたら、こんなページを見つけたのじゃ」

NOVA『おお、兜を外したヴェルミナァルドが映ってる!? まるで世紀末覇者みたいな風貌で、正に戦士の相ですな(僧侶だけど)。世の中には、まだまだ俺の知らないドラゴンランスがいっぱい溢れているんだなあ、と感じ入った』

 

で、ゲームブック話に展開

 

NOVA『にわかにヴェルミナァルド推しの気持ちが何だか満たされたので、次にレイストリン主役の「ウェイレスの大魔術師」に行きます』

ヒノキ「小説とは別の時間軸の1作めに比べて、こちらは小説版のキャラ設定を使い、知られざる逸話として前日譚を描いた話じゃのう」

NOVA『小説では長らく謎だった、レイストリンの上位魔法の塔での〈大審問〉を描いた作品として、立派に副読本となっていたのですが、表紙イラストのレイストリンが赤ローブじゃないとか、今の目から見ると、細かい設定の齟齬が見られますね』

ヒノキ「まあ、表紙イラストは日本オリジナルだし、まだ小説が翻訳される前(86年夏)に出版された本じゃから、仕方なかろう」

NOVA『で、最近、改めてレイストリンの過去を描いた小説が出て、こちらが正史になったようだから、ゲームブックの内容が結局パラレルになった感じですね』

ヒノキ「マルチメディア展開あるあるじゃのう。媒体によって、似て非なるバージョン違い作品が出て、マニアの蘊蓄ネタになったり、触れた媒体の差異によってファンの議論をややこしくする」

NOVA『40年も続くと、一口にドラゴンランスと言っても、いろいろ変わって来る、と。ただ、今だにゲームブック以外の物語が出ていないと思しきなのが「奪われた竜の卵」ですね』

ヒノキ「この作品は87年秋に出版か。小説の戦記が出版された後で、『エルフの王子ギルサナスが物語の重要な秘密=邪竜が世界で暴れているのに、どうして善竜は出現しないのか? を解明する』という、正史的にも非常に重要な裏話となっておる」

NOVA『パックス砦や、ウェイレスは小説の前に出て、後から話がつながった感を覚えていたのですが、この作品は非常にドンピシャなタイミングで出てくれたと思います。小説2巻でギルサナスが登場して、ヘタレキャラとして認知された後で、彼の成長をゲームブックで描き、リアルタイムで展開中の小説のその後の展開に大きく左右するエピソードを見せてくれた、と』

ヒノキ「87年に紹介されたドラゴンランス熱が高まった段階で、その世界の重要な謎が明かされるゲームじゃからのう。リアルタイムで、ドラゴンランスに触れた者には、さぞワクワクものじゃろう」

NOVA『で、このゲームブックの事件を経た後のギルサナスが、小説で再登場した際には、ローラナの目から見ても、ずいぶん人が変わったように成熟していたわけで』

ヒノキ「恋を知ったことで、タニスを想うローラナの気持ちをようやく分かるようになったというか、異種族に対する偏見の曇りが晴れたというか」

NOVA『大河小説というものが、登場人物の試練と成長を描くとするならば、ドラゴンランス戦記の後半はローラナ視点で描かれるシーンが多く、実質的に主役になったようなものでしたが、一方でギルサナスは彼女の恋を邪魔する鬱陶しい兄貴の立ち位置で、高慢なエルフ族を体現するようなキャラでした』

ヒノキ「でも、D&Dのエルフは指輪物語のエルフと違って、軟弱キャラだった、と」

NOVA『冒険生活で鍛えられたタニスと比べて、ギルサナスって弱いんですね。まあ、生粋の戦士でなくて、魔法使いを掛け持ちしているから打たれ弱くて当然なんだけど、小説本文では彼が魔法を使うシーンがないから、ただのイキリヘタレにしか見えない』

ヒノキ「当時の流行で言うなら、ドラクエ2サマルトリアの王子みたいなものか」

NOVA『いやあ、ギルサナスって、サマルトリア王子みたいにのんびりした性格じゃないから、弱いのに何かと突っかかって、もうヘイトを集めまくりに描かれてました、小説2巻では』

ヒノキ「そんな彼が、ゲームブックの主人公に抜擢されて、世界を救う大きな秘密に触れるのじゃからのう」

NOVA『視点が変わると、キャラの印象も大きく変わるんだなあ、と勉強させてもらいましたよ。で、タニスとローラナの他に、騎士のスタームとエルフの王女アルハナの高潔な者同士の悲恋とか、異種族の間のドロドロ慕情が描かれる中で、ギルサナスが恋した野生風味なエルフ少女の正体は銀竜だったというインパクトが』

ヒノキ「男女の違いはあるが、妖精弓手と蜥蜴僧侶の関係性に通じるものがあるのう」

NOVA『エルフとドラゴンの長命カップルですか。でも、まあ、ドラゴンランスは悲恋が多いものの、結ばれた関係も多くて、ゴールドムーンとリヴァーウィンドの主従カップルを筆頭に、タニスとローラナの従兄妹カップル、そしてキャラモンとティカのカップルが記憶に残ってますね』

ヒノキ「他に、ソス卿とキティアラの暗黒カップルはどうじゃ?」

NOVA『そこは好みだったりもするのですが、様々な悪業の末に、魂を縛られて亡者化したキティアラのその後が知りたいですけどね。ある意味、ソス卿よりも恐ろしい魔の女王になってしまいそうですけど。ただまあ、セカンド・ジェネレーションとか、その後の物語って、しばしば原典の余韻を崩してしまうこともあるので、スター・ウォーズのエピソード7以降と同様に、ハマり過ぎない方がいいのかも、と思ったりも』

 

ヒノキ「ともあれ、ギルサナスとシルヴァラのゲームブック冒険譚から、善竜の参戦と、ドラゴンランスの製造の秘密が公開されて、戦いがクライマックスに向かうのが『ドラゴンランス戦記』の中盤を越えた下巻の展開じゃな」

NOVA『美しいファンタジー恋愛譚としてドラゴンランスを読むこともできますが、俺としてはゲームゲームしていて、「今週のドラゴン退治」的な冒険シナリオのドラゴンランスが好きですね。この年で読むと、過剰な(ヤンデレ交じりの)ラブ成分は胃もたれするというか、むしろ「レイストリン戦記」にあるように、「新しい魔法の呪文を覚えた〜」とか「薬草研究してる徒弟モード」なヤング・レイストリンみたいな向上心もった若者の話が読んでて楽しいです』

 

ゲームシナリオの話

 

NOVA『で、愛憎劇が濃密な人間ドラマとしての小説ではなくて、ゲームとしてのドラゴンランスを改めて推す身ですが、毎シナリオごとにドラゴンが登場して、次々とドラゴンを倒すD&Dの集大成キャンペーンを展開しようというのが初期企画だったみたいですね』

ヒノキ「まあ、ゲームタイトルが『地下迷宮と竜』じゃからのう。10周年記念でドラゴンにスポットを当てたいという気持ちは分かる」

NOVA『で、ドラゴンランスのシナリオタイトルは、毎作ともドラゴンと付く』

ヒノキ「小説では『廃都の黒竜』『城砦の赤竜』『氷壁の白竜』『尖塔の青竜』『聖域の銀竜』『天空の金竜』じゃったか」

NOVA『3巻には「樹海の緑竜」もあるのですけどね。あと、原書は3部作で「秋の黄昏の竜」「冬の真夜中の竜」「春の曙の竜」と季節および時間経過を表すタイトルが素敵だと思いましたが、ゲームシナリオだと最初の4本が「絶望(デスペアー)の竜」「紅炎(フレイム)の竜」「希望(ホープ)の竜」「荒廃(デソレイション)の竜」って感じで、とにかく竜縛りのタイトルが今見てもいいなあ、と』

ヒノキ「今度の新作も、『女王竜の黒き翼』で竜縛りが継続中じゃしのう」

NOVA『それで新作話に移るんですが、まず一番、気になったのは小説ストーリーとのリンクですね。当初は、小説の何十年か後の時代に新たな戦争が始まって……という話かなあ、と思い違いをしていたんですが、後で小説と同時代の別地域の話と分かって、でもカラマン市ってどこだっけ? と思ったり。どこかで聞いたことはあるような気もするけど、いろいろな知識が混ざっていたりするし……と思いながら、特にこだわって調べることもないまま商品購入しました。で、やはりアンサロン大陸の地図に感じ入るわけですね』

NOVA『これまでも小説に付属の白黒地図とかを見ていたのですが、大陸全体の大きさはあまり感じとれていなかったな、と。今回、マップ右上の『イスタルの鮮血海』の赤さと大きさに驚きましたよ。カラー地図だと本当に赤く描かれていて、しかも大陸全体で比べてみると、南西のアバナシニア地方並みに広い。ただの内海ぐらいに思っていたら、とんでもなく広い海で、この世界に起こった〈大変動〉の凄まじさを実感できたってものです』

ヒノキ「それで、カラマンは北部の中央にあるのじゃな」

NOVA『ドラゴンランスの最初の物語では、復活した邪神、暗黒の女王タキシスが率いるドラゴン軍は大陸の東半分を征服済みで(ケンダー郷など一部でレジスタンス活動をしていたりもする)、その魔の手が大陸西部に押し寄せるところから小説がスタートします。主人公たちはアバナシニア地方のソレースの街から旅立ち、ドラゴン軍の来襲を察知して、それに対処できる善神の遺産を手に入れるための探索に臨むのですが、探索行には成功するものの、故郷の街はドラゴン軍に焼かれ、捕虜にされた人々の救出とか、ドラゴン軍に対抗するために伝説のアイテムの探索とか、ドラゴン卿からの逃避行とか、協力者を得ての対決とか、様々な冒険を繰り広げるのが最初のドラゴンランス

ヒノキ「うむ、84年の段階では、そこまで壮大なファンタジー戦争物語ゲームはなかったのう」

NOVA『モデルとしては、指輪物語の指輪戦争とか、他にも様々な戦争を描いたシミュレーションゲームはあったのでしょうけど、TRPGでは俺の知るかぎりドラゴンランスが初でしょうね。それで、ドラゴンランスの規模で戦争を描くのは無理だから、島レベルで戦記ものを構築したのが日本のロードスだったわけですが、ドラゴンランス戦記が終わって、魔法でタイムスリップする過去編の「ドラゴンランス伝説」をやったら、ロードスも続編で過去編の「ロードス島伝説」をやったりして、その大筋展開において大いに参考にした、と』

ヒノキ「その後、『ロードス島伝説』の最も深い迷宮における六英雄の物語と、ウィザードリィと、ゲームブック文体を組み合わせたのがゴブスレの過去編『ダイ・カタナ』じゃな」

NOVA『オマージュ的にいろいろつながって来るわけですが、さておき、今回のドラゴンランスは大陸の南で小説の物語が展開されている一方で、北方でも知られざる英雄たちがタニスたちと同じような戦いを展開していたって内容ですね。そんな物語を展開するわけですから、主人公たちに対峙する敵ボスが誰なのかが問題になるわけです』

ヒノキ「ソス卿ではないのか?」

NOVA『そうですね。カラマン市の南西にあるダルガールド城砦とかナイトルンドとかが、ソス卿ゆかりの地として注目されますが、ソス卿はシナリオ内で倒せない敵として君臨しています。でも、それとは別に倒せる敵だけど、それなりに大物として威厳ある新キャラを用意しないといけません。それこそがドラゴン・ハイマスターの「炎の双眼カンサルディ」です。彼女が今シナリオのラスボスになります』

 

炎の双眼カンサルディ

 

ヒノキ「カンサルディ? 何者じゃ?」

NOVA『ドラゴンランス最初の大ボス・ドラゴン卿のヴェルミナァルドの弟子の女神官です』

ヒノキ「何と。ヴェルミナァルドの弟子じゃと? 弟子なんておったのか?」

NOVA『クラシックD&Dのルールだと、弟子を持てるのは9レベルですが、AD&Dだから8レベルでも弟子を持てたんでしょう。と言うか、ヴェルミナァルドが最も信頼する副官クラスの弟子、ドラゴン卿の称号は持たないけど、それに準じるドラゴン・ハイマスターという設定で、公式キャンペーンのボスに採用されたんですね。ヴェルミナァルドが兜を脱がないゴブスレさんに例えるなら、その弟子であるカンサルディは女神官ちゃんに例えられますね。邪神に仕えてますから、ピュアリファイの呪文で体内の血液を真水に変えても叱られることはないという恐ろしさ』

ヒノキ「いや、D&Dの公式ルールで、ピュアリファイをそういう使い方をするのは不可能じゃろう?」

NOVA『食料を浄化する呪文ですが、もしも人間を食料と見なす魔物が使うと、血抜きとかに使えませんかね』

ヒノキ「そういうモンスターは、血の滴る肉を平気で食べそうだから、血を真水に変えるのは風味が落ちて好かん、とか言いそうじゃ」

NOVA『穢れに対する認識の差異ですかね。ともかく、邪神官ならもっとストレートに、死をもたらす呪文を平気で使って来そうですけどね』

ヒノキ「何レベル呪文まで使って来るのじゃ?」

NOVA『そうですね。師匠のヴェルミナァルドはレベル4呪文までですが、弟子のカンサルディは……特に何レベルとは書いていませんが、使える呪文の中に5レベルのフレイムストライクがあって、師匠よりも優秀っぽいです。HPも師匠が50なのに、彼女は3倍以上ありますし』

ヒノキ「そりゃあ、AD&Dと今の5版のデータをそのまま比べても仕方ないじゃろう?」

NOVA『参考までにドラコニアンを比べてみますか。最弱のバアズ種がAD&D時代はHD2(2〜16hpで期待値9)なのに対し、今のデータではHP22点になっていますので、約2.5倍ですな。システムの違いで、同種のモンスターでも今の方が頑丈ということで納得しておきましょう。それでも、レベル8の師匠よりは、脅威度11の弟子の方が強いって印象ですね』

ヒノキ「まあ、新しいシナリオのボスが、ヴェルミナァルドの弟子ということじゃな。そうすると、師匠のヴェル様と弟子のルディちゃんが仲睦まじく暗黒の女王へのお祈りをしながら、キャッキャウフフしてる同人誌なんかも作られそうじゃが」

NOVA『それにしても、これでヴェルミナァルドの謎が一つ解けましたよ』

ヒノキ「何じゃ?」

NOVA『ヴェルミナァルドって、ドラゴン卿だと威張っていますが、ろくな部下がいないんですね。相棒の竜エンバーは内心でヴェル卿を見下していますし、副官がホブゴブリンのヒューマスター・トードってんで、彼の周辺の人間関係が長らく謎だったんですよ。神官だったら、護衛の戦士とかが付いてきてもいいだろうに、ヴェル卿の孤立ぶり、いや、ぼっちぶりが彼のことを過小評価する原因だったのでは、と』

ヒノキ「しかし、実は信頼できる弟子にして、副官クラスの女性がいたということじゃな」

NOVA『後付け設定でも、これでヴェル卿が持ち上げられるわけですな。本作のシナリオでは、ヴェルさんが元々、北方の征服作戦に従事する予定だったのが、暗黒の女王から特別任務を与えられて南のアバナシニア地方に派遣されたという話です。で、ヴェルさんは北方の軍事作戦を愛弟子のカンサルディに任せて、自分は南方に分割部隊を率いて出陣した、と。本当はヴェルミナァルド率いる赤竜軍は、北の本隊と南の派遣隊の倍近い規模があった、ということです』

ヒノキ「なるほど。タニスたちが南で戦ったのは、ヴェルミナァルドの本隊ではなかった、と」

NOVA『この世界で、暗黒の女王が警戒した勢力は、北のソラムニア騎士。他には、エルフとかドワーフの引きこもった勢力や、上位魔法の塔の魔術師なんかも要警戒になるんでしょうが、孤立した連中は勢力を結集される前に各個撃破して行けばいい、という戦略ですな。

『で、ヴェルさんもソラムニア征服の前線に自分の虎の子のカンサルディを残して、本隊の司令官代理を任せる。そして、自らは簡単に攻め落とせるであろう南のアバナシニア地方に分割した手勢を率いて、征服および特別な探索任務に向かったら、タニスたち一介の冒険家風情に思いがけない逆襲をくらって倒された、というのがドラゴンランス本編のストーリーなわけです』

ヒノキ「すると、今回の新シナリオは、ヴェルミナァルドの弟子にして副官の女将軍が率いる、本来のヴェルミナァルド赤竜軍の本隊と戦う一大キャンペーンなのじゃな」

NOVA『カンサルディは、ヴェル卿ゆかりのキャラにして自身の威厳を確保するとともに、師匠の凄さを改めて補完するキャラとして設定されています。序盤に倒されるボスキャラって、どうしても過小評価されがちですが(四天王最初の1人)、ヴェルさんの本命は北のソラムニア侵攻なので、南のアバナシニア征服はついでにできる舐めプみたいなもの。ところが、善神の加護とか運命に導かれたランスの英雄の活躍で倒されたのは、敵軍の戦略としても想定外の展開だったわけですな』

ヒノキ「ヴェルミナァルドの死は、ドラゴン軍にとっては『奴隷の反乱を扇動した刺客による暗殺』という形で流布されておるのう」

NOVA『小説では、そうですね。ゲームシナリオでは、逃亡奴隷を追撃するヴェルミナァルドの逆襲が描かれて、それに対抗するための伝説の武器とか、ドワーフ英雄カーラスの子孫の山ドワーフ部族の奮起とか、イーブンスターという名のゴールドドラゴンの協力とか(赤竜エンバーは金竜との戦いに敗れるのが本来のシナリオ展開)があって、最初の4作で一つの大筋が完結しているんですよ。まあ、もしも、この4部作シナリオの評判が悪ければ、そこでドラゴンランス終了の可能性もあったわけですが、好評だったのでシリーズの続編が次々と作られるようになった』

ヒノキ「つまり、ヴェルミナァルドは最初の大ボスとして、もっと持ち上げられて然るべき、というのが、お前さんの意見じゃな」

NOVA『少なくとも、火吹山のザゴール程度には讃えられていいと思います。で、新シナリオはヴェルさん推しの原作ゲームシナリオのファンが大喜びの展開ですな。時代としては、ヴェルさん亡き後に後任となった青竜軍のキティアラが台頭して来る前の話で、時間軸としては最初のシナリオ4部作に重なります。だから、いろいろと旧作のオマージュが濃厚に思えました。あれこれ比較するのも楽しい』

ヒノキ「具体的には、どういうストーリーじゃ?」

NOVA『主人公ゆかりの村がドラゴン軍の襲撃で攻め滅ぼされ、主人公たちは難民を率いて、近くの城砦都市カラマンに向かいます。そこで、ドラゴン軍に対抗すべく、あれこれ情報を集めて、敵の狙いが古の秘密兵器、空中要塞の発掘機動にあることを突き止めます。空中要塞なんてものが起動したら、屈強のソラムニアでも太刀打ちできなくなるのは必定なので、それを阻止すべく行動する主人公たち……って、ストーリーは旧作シナリオでもやってるんですね。まあ、ある意味、スターウォーズのデススターみたいな戦略兵器の内部に侵入して、破壊工作を頑張ることで、不利な戦況を覆すのは定番と言えましょう』

ヒノキ「なるほど。空中要塞の威容は、旧作シナリオ4でも表紙絵となっておるな」

NOVA『シナリオ3の「ヴェルミナァルドとエンバーが、他の金属竜を追撃するイラスト」とか、小説を読んだ段階では不思議だったんですな。小説だと、こんなシーンはない(金属モチーフの善竜が登場するのはもっと後だし)のに、どういうこと? と。また、空中要塞が小説に登場するのももっと後の話(イラスト)だと思ってたら、実はシナリオ4で早くも登場していることに後から気づいた』

ヒノキ「今みたいに海外情報が簡単に入手できる時代じゃないから、謎が解けるまでに時間を要したんじゃな」

NOVA『ドラゴンランスは、イラスト集なんかも出ていたから、断片的な情報が入手できたわけです。レイストリンが赤ローブから黒ローブになることとか、青いドラゴン卿の正体がキティアラだとか、伝説の新ヒロイン・聖女クリサニアの話なんかは、小説が翻訳される前からイラスト集でネタバレ情報が分かって、そこまで小説の翻訳が追いついて来ることを、当時は期待して楽しみにしていました』

ヒノキ「で、イラスト集を見ながら、新たな謎が発生したのを、後年に英語のゲームシナリオを入手したことで、そういうことだったのか、と腑に落ちたわけじゃな」

NOVA『解決されないままの謎は、そもそも謎と気付かれずに見流されることも多いのですよ。謎を謎と気づくにも、観察力とか分析力とか情報整理能力とかが必要になる。そして、何らかの手がかりとなる情報が手に入って、初めて謎を謎だと意識することもあって、答えらしい閃きがあった瞬間に、自分がそれまで気にしていなかった謎を認識したりもする』

ヒノキ「基盤となる情報がなければ、何が謎なのかも分からない、と」

NOVA『ドラゴンランスの場合、そもそもイラストの出典が「絶望の竜より」と書かれていても、それが最初のシナリオDL1のタイトルだってことが分かっていない時点では、意味のない情報となります。ただ、小説1巻「廃都の黒竜」を読んでいたら、黒竜キサンスとタニスたちが戦っているシーンだってのは分かるわけですな。しかし、DL3とDL4の表紙イラストは、小説だけの知識では??? となるわけです』

ヒノキ「それでも、DL4の表紙イラストは、イラスト集の表紙にも採用されて印象的じゃったろう」

NOVA『ヤマト2の白色彗星をも想起させる空中要塞のイラストに感じ入って、へえ、ドラゴンランスの小説の後の方にはこんな物が出て来るのかあ、凄いなあ、なんて思ってた高校時代ですが、まさか、それがシナリオ4で既に登場するシーンだとは後から知って、驚きだったわけです』

ヒノキ「要するに、ドラゴンランスは最初にシナリオ4で完結することも計算に入れて、『善竜登場』とか『空中要塞』というインパクトあるイベントを盛り込んでおったのじゃな」

NOVA『ええ。それが好評だったので、シリーズ継続が可能になった。だったら、そういうインパクトあるイベントは、小説のクライマックスに向けて温存しようってことになって、パックス・タルカスの後のストーリーは短縮された。物語の引き伸ばしが行われたわけですな。結果的に、ラスボスだったドラゴン卿のヴェルミナァルドが前座ボスに格下げとなって、より強大なドラゴン軍総司令官のアリアカス卿が登場したわけです……が、アリアカスって、これといったイラストもないせいか、ヴェルミナァルドほどの個性が感じられなくて、要はヴェルミナァルドの上位互換以上の印象が薄いんですわ』

ヒノキ「アリアカスは凄い有能な男なんじゃが、キティアラの策謀にハマって、タニスに殺されるという最後じゃからな」

NOVA『割と、ヴェルミナァルドは武人肌で、戦場で散ったという印象が強いのに対し、アリアカスは正々堂々とした戦いでの強さって印象がなくて、指揮官であり策士ではあるけど、戦士の相じゃないって感じです。いや、アリアカスのゲームデータを持っていないから、そう思うだけかもしれませんが。どこかにアリアカスの能力値ってありませんかね?』

ヒノキ「アリアカスなんぞ、今はどうでもいい。それよりヴェルミナァルドの弟子の女神官の能力値の方が気になる」

NOVA『では、師弟を比べてみますか』

 

●ヴェルミナァルド(AD&D版)

 STR14、DEX10、CON15、INT12、WIS16、CHA18

 

●カンサルディ(D&D5版)

 筋力18、敏捷11、耐久17、知力16、判断19、魅力16

 

ヒノキ「魅力以外は、弟子の方がすべて上ではないか」

NOVA『まあ、5版はレベルアップによって能力値も上昇させられますからね。5版でのヴェルミナァルドの能力値も、どこかにないかなあ、と思いつつ、このカンサルディってキャラは、師匠のヴェルミナァルドに「暗黒の女王への信仰を示せ」とか言われて、「自分の左眼を潰して、義眼のルビーに置き換えた」って強烈な設定で、ある意味、師匠以上の狂信者になっておりますな。彼女の騎竜イグニアも脅威度10のヤング・レッド・ドラゴンですが、ヒットダイス17のエンバーの方が強そうかな。さすがにエンバーは、他の竜が力を貸してくれないと倒せないと思います。まず、AC−7なので攻撃が当たらない(今の感覚だとAC27に匹敵)』

ヒノキ「とにかく、新シナリオの最後は、強力なドラゴン・ハイマスターの邪神官と、騎竜のレッドドラゴンを相手どるわけじゃな」

NOVA『彼女の計画を邪魔した主人公たちに怒りを向けつつも、その大胆不敵な力量を称えて、降伏勧告して来ますね。降伏の条件として、「仲間の一人を犠牲に捧げて、竜の炎に焼き滅ぼされるなら、その誠意を認めて、他の連中は助けてやろう。配下に取り立ててやってもいい」とか、なかなか素敵なことをおっしゃいますね』

ヒノキ「そりゃあ、まともなゲーマーなら受け入れられんじゃろうて」

NOVA『全員まとめて配下につく……という選択肢なら、時と場合によって、ありという卓もあるかもしれませんが、パーティーの仲間を生贄に捧げるのはゲーマー同士のリアルな人間関係にも悪影響を及ぼす、というものです。なお、カンサルディ姐さんは、師匠に敬愛の念を示していて、「わたしを倒しても主君のドラゴン卿ヴェルミナァルドが、さらなる大軍勢を率いてやって来るだろう。お前たちに勝ち目はないのだ、諦めろ」と宣告するほどですね。まさか、ヴェルさんが南の遠征先で敗北しているとも思わずに』

ヒノキ「そうか。ドラゴンランスでは、師匠を内心で嘲って下剋上を目論む弟子が結構多いと思っておったが、カンサルディは師匠に忠実なのじゃな」

NOVA『やはり、ヴェルさんのカリスマ18は伊達じゃないんですね。それに、この師弟コンビは性格もローフルイーヴィルで、邪悪ながら規範意識はしっかり持ってるんですよ。階級差を覆して好き勝手する性格ではないわけで。だからカンサルディ姐さん、悪役ながらヴェル師匠への忠誠心高すぎで、小説だとこれ以上にないヤンデレ街道を突っ走るんじゃないかなあ、と思ったり、もしも師匠が南で討ち死にしたと知ったら、タニスたちを憎悪剥き出しで追っかけること間違いなし、と思えて来ます』

ヒノキ「しかし、師匠が南で討ち死にし、愛弟子も北で討ち死にすることになっておるのじゃな」

NOVA『まあ、惜しいキャラを亡くした、と思っておきます。まだ、実プレイはしていないし、する予定もなく、シナリオの終盤を覗き見した程度ですが。それでも、そのうちカンサルディ萌えを公言するD&Dファンとか、ヴェルさんとのカップリング2次創作とかも作られるんじゃないかなあ。いろいろとマニアックな性癖だと思いますが』

ヒノキ「そんなに気に入ったのか、カンサルディを?」

NOVA『いや、カンサルディ個人には萌えを感じないのですが、師匠のヴェルミナァルドとの関係性においてですね、このカップリングは貴重でしょう、と。例えば、ヴェルミナァルドとキティアラには、あまり直接の接点を感じないのですけど、カンサルディの後任としてソラムニア征服の先鋒に立つのがキティアラの予定ですから、当然、前任者のカンサルディとの間にライバル関係が成立する可能性もあるわけですよ。ラストで、主人公たちがカンサルディを倒して、カラマン市を(一時的に)守りきった直後に、キティアラからおめでとうの手紙が来るというのも、想像力を掻き立ててくれます』

ヒノキ「ヴェルミナァルドと、副官のカンサルディが共に散ったことで、赤竜軍が瓦解し、キティアラの青竜軍が台頭することになるのじゃからな。うまく話がつながっておる」

 

新旧のシナリオの違い

 

NOVA『で、物語的には、今回のシナリオと、小説で描かれた正史、もしくは旧シナリオへのオマージュを想起する構成が、なかなかにいい感じで、これぞドラゴンランスと称賛したくなります』

ヒノキ「それは何よりじゃのう」

NOVA『ただ、やはり昔のシナリオと構造がずいぶん違うなあ、とも思いました。旧シナリオって、何だかんだ言ってダンジョン探索がメインなんですね。いかにも初期のD&Dらしくて』

ヒノキ「広野の旅もあるじゃろう?」

NOVA『ヘックス(6角形のマス目)で構成された地図の上を自由に歩き回れますね。で、ワンダリングモンスターとのランダムエンカウントとか、ある地点に足を踏み入れると、ドラコニアンの軍隊が道を塞いでいて、バトルになって切り抜けるのが大変だって話になって、安全な道筋を探す流れになります。無理やり強行突破すると、ゲームオーバーになったりするバッドエンド街道も』

ヒノキ「自由に歩けるけど、だんだん誘導されて行く、と」

NOVA『で、旅の中で情報を得るうちに、廃都ザク・ツァロスに至るわけですが、そこから長いダンジョン探索行になって、まあ、いかにもD&Dらしいゲームになるわけですが、たぶんゲームを楽しんだ後では、小説がダイジェストに思えるでしょう』

ヒノキ「小説がゲームシナリオのダイジェストで、アニメが小説のダイジェストで、どんどん中身がすかすかになるわけじゃな」

NOVA『ストーリーをメインに考えるなら、道中のザコ戦なんかに時間を費やすのはコスパやタイパが悪いわけですね。でも、D&Dがまだハック&スラッシュ(敵を倒して、お宝入手をひたすら楽しむ)をメインにしていた時期だから、ドラゴンランスが濃密な背景世界とストーリーを打ち出したと言っても、ゲームの中身まで進化したわけじゃない。メインはダンジョン探索で、その合間やダンジョン攻略後のクライマックスに、ちらほらイベントドラマが挟まるぐらいの作風が、旧作シナリオです。よって、シナリオの中身は野外マップとダンジョンマップとイベント解説のくり返し。でも、今のシナリオ構成は違うなあ、と』

ヒノキ「新シナリオはダンジョンメインではないのか?」

NOVA『昔は広大なダンジョンでしたが(廃都ザク・ツァロスとか部屋が50を優に越えるほどだし、パックス・タルカスも40近い。トルバルディン王国なんて100部屋近くあるぐらい広大)、そんな時代と比べると、今のダンジョンマップは部屋数が10個程度のミニダンジョンで、小さなダンジョンがいろいろあって、ストーリーがさくさく進むようにできている。大事なのは、ダンジョンをじっくり探索することではなくて、どんなイベントを消化するかに重点を置いた作りですね』

ヒノキ「昔はダンジョン探索が主で、今はそれが従になっておる、ということか」

NOVA『昔はダンジョン探索の合間にミニストーリーが挟まり、今はストーリー進行の合間にミニダンジョンが挟まるシナリオ構造ですね。その分、NPCとの交流や裏切りなどがあって、ストーリーを盛り上げてくれたりも』

ヒノキ「裏切りもあるのか」

NOVA『昔のドラゴンランスでもありましたな。ドラゴン軍のスパイとして、エーベンというキャラがいて、しきりにギルサナスが怪しいと煽っていました』

ヒノキ「おお、そう言えば、エーベンは裏切り者じゃった。先に小説でネタバレされていると、シナリオで扱いにくくなったじゃろう」

NOVA『で、新シナリオでも裏切り者候補のキャラがいるのですが、彼が裏切るか、それとも裏切らないかは、DMが好きに決めて構わないとされているんですね。裏切った場合の行動と、裏切らない場合の行動が分岐してあって、それによってストーリーも若干変化する。裏切った場合は、重要NPCが暗殺されて、さらに被害が増えるのを防ぐミステリーシナリオに展開するし、裏切らない場合は重要NPCが敵に捕まったのを共に奪還するようなエピソードに展開して、DMが望むストーリー展開を選べるようになっているわけです』

ヒノキ「ストーリー分岐を、プレイヤーが選ぶのではなく、DMが選ぶのが面白いのう」

NOVA『昔は、裏切り者とされたNPCに救いはなかったと思いますが、今はそもそも味方内に裏切り者がいてギスギスするようなストーリーを展開したくないDMだっているのではないか、って気遣いですかね。裏切りシナリオをやりたいDMと、やりたくないDMとで、どちらでも問題なく大筋が進行するストーリー性の自由度を高めている感じですね』

ヒノキ「対立する複数勢力のどちらに味方するかをプレイヤー側が自由に選べて、それぞれでストーリー分岐するシナリオは見たことがあるが、裏切り者がいるかいないかをDMが選べるシナリオは初耳じゃ」

NOVA『大筋としては、いかにドラゴン軍の陰謀を突き止めて、それを妨害してカラマン市を救うかなんですが、そこに至る道筋やダンジョン攻略順などを割と自由に選べて、ストーリーの分岐多様性を高めているのが今風だなあ、と再確認しました。そして、カラマン市でも、ドラゴン軍に対してどう対処するかで、いくつかの派閥があったりして、ダンジョン外のドラマに重点を置いた(より小説的な)ゲームシナリオだな、と』

ヒノキ「他に特徴は?」

NOVA『昔は、ダンジョン内でモンスターを倒したり、宝をゲットすることで経験点になっていたじゃないですか。でも、今回のシナリオでは、そういう経験点システムを廃止していますね』

ヒノキ「経験点を廃止じゃと? それでもRPGか!」

NOVA『その代わり、ストーリーのある段階まで進むと、自動的にレベルアップするような構造です。5版の連続シナリオでは、「このシナリオをプレイするには、レベル4に成長していることが望ましいので、もしも成長が遅れているなら、DMは適当なミニシナリオを用意するなり、経験点を追加で与えてレベルを上げてやるといいだろう」なんてレベル調整の勧めが記載されていることもあったんですが、もう、そういう手間も省略して、「このイベントを達成すれば、レベル3から4に上がる」なんて、完全にストーリー主導でレベルアップするようになっている次第』

ヒノキ「経験点稼ぎのための寄り道を考えなくて良くなっているのは、システムではなく、シナリオ運営上の進化と言えような」

NOVA『俺も長年、TRPGファンをやって来て、システムの進化を考える機会は多かったですが、シナリオの進化を掘り下げて考えることはして来なかったんですね。ただ、今回、ドラゴンランスの新旧シナリオを比較する機会を得て、AD&D時代のダンジョン重視シナリオと、5版のNPCとの社交的やりとりを重視したシナリオの違いを実感している最中です。それと、これで最後になりますが、重要な一点を』

ヒノキ「何じゃ?」

NOVA『ドラゴンランスの信仰観って奴です』

 

ドラゴンランスの信仰観

 

NOVA『ファンタジーTRPGにおけるクレリックとかプリーストって職種は、回復呪文の使い手という記号表記みたいなもので、初期にはキャラクターの信仰観というものが取り沙汰されることはなかったと思われます』

ヒノキ「まあ、神とか悪魔や、善良とか邪悪という性格分類はあったにせよ、ゲームの物語世界において宗教を掘り下げることは、作り手の本意ではなかろうな。ただ、ファンタジー世界を考える上で、便利なアイデアソースとしての神話観はあったにせよ」

NOVA『言わば、ギリシャ神話など多神教の神々を考えるにせよ、扱いとしてはミノタウロスとかケンタウロス、ドライアドなど古今東西のモンスターとさほど変わらない扱いだったわけでしょうが、ファンタジー世界に独自の神話観を持ち込んで後世に多大な影響を与えたのは、D&Dよりも先にルーンクエストグローランサだったと考えます』

ヒノキ「まあ、ルーンクエストとトラベラーが、世界観重視のTRPG(いわゆる第2世代)を提唱し、第1世代のD&Dが後から追随して世界観を固めるようになったというのも、一つの定説となっておるのう」

NOVA『そこで、世界観重視、物語重視のドラゴンランスがスタートする流れにもなるのですが、やはり「神々の信仰が失われて、僧侶系の呪文が起動せず、改めて信仰を回復するまでの序盤」というのが、ドラゴンランス世界の特徴だと思ったんですね』

ヒノキ「日本でも、ただの回復呪文の使い手という程度の意味合いしかなかった神官というキャラ像(せいぜい善悪中立という戒律、物語上の立ち位置を示す)で、宗教面を深く掘り下げることもなかった80年代のフィクション界において(せいぜい予言とかオカルトとかのネタになる程度で、教義云々は二の次)、ドラゴンランスというファンタジー小説は『真の神々の信仰と、詐欺まがいの偽りの教団とか、癒しの奇跡を目の当たりにした人々の驚きぶりとか』日本人には新鮮なファンタジー物語の信仰観を見せつけた」

NOVA『それ以前から、ウィザードリィなんかで教会が毒や麻痺を治療してくれたり、復活してくれたり、回復施設としての信仰は示していたんですが、登場人物が真面目に信仰に悩んで葛藤するエンタメ物語ってのは、稀だったと思います。それをドラゴンランスが描いていて、オカルトとはまた違った架空のゲーム世界における信仰観というものを示してくれたな、と』

ヒノキ「同時期に、ゲームブックのソーサリーで女神リーブラの加護が提示され、80年代のゲームファンはリーブラ信者か、ミシャカルとかパラダインとかを敬うようになっていたのでは?」

NOVA『いや、俺は当時から書物の神ギレアンを奉ってましたが(笑)。それはともかく、ドラゴンランスの後から、ロードスも大地母神マーファ、至高神ファリス、戦神マイリーなどなどフォーセリアの神々を提示し、日本のファンタジー界隈はそちらが定番になって行ったわけですが、とにかくRPG小説における神々の存在を日本に根付かせるきっかけもドラゴンランスだと思うわけですよ。フォーゴトン・レルムも「地上に堕とされた神々」というネタで、また独特の世界観を見せてくれましたが、ドラゴンランスほど真面目な信仰物語としては受け止められていなかったと思います』

ヒノキ「あちらは、人と神の境界線が怪しくなって、神を殺した人の英雄が神の座に昇格するなどしておったがのう」

NOVA『3版のときに、フォーゴトン・レルムのワールドガイドが翻訳されたのを読んで、小説の主人公や裏切った敵キャラなんかが、神の座に厳然と位置づけられているのを知って、少々面くらったのを覚えています。ああ、シャドウデイル・サーガってそういう話だったんだって、読んでから10年ぐらい経過して、ようやく理解できたというか』

ヒノキ「英語版のAD&D環境と、日本での紹介のタイムラグがそれぐらいあったのじゃな」

NOVA『で、フォーゴトン・レルムは置いておいて、クリンに話を戻しますと、今回のシナリオがタニスたちの物語と同時期だと知って、疑問に思ったのは、「神々とクレリックの信仰の扱いはどうなるんだ?」ってこと。ドラゴンランスの物語では、ミシャカルの天啓を受けたゴールドムーンが起点となって、善神への信仰が次第に広まっていく流れだったんですが、タニスたちと関係ない地域では、その信仰回復のドラマはどうなるんだろうって』

ヒノキ「結局、どうだったのじゃ?」

NOVA『最初のシナリオ「戦争への序曲」のうちのイベント「破られた沈黙」において、信仰呪文の使い手(クレリックドルイドパラディンなど)が神々からのメッセージを夢の中で幻視し、自身の神の力ある聖印を確保することになります』

ヒノキ「神さまの夢を見たら、呪文が使えるようになりましたってか? ずいぶんとお手軽じゃのう?」

NOVA『きっと同じタイミングで、南方のゴールドムーンがミシャカルの円盤をゲットして、神々の帰還を後押ししたのでしょう。とにかく、そのイベントが起こる前は、信仰系の能力が一切使えないので、肩書きだけの僧侶とか、自称パラディンとか、薬草での治療はできるけど魔術じゃなくて技術のレベルなドルイドとか、そんな連中だったんでしょう。それが朝起きたら、突然、信仰パワーが発動して感涙にむせび泣くとか、そんなロールプレイを推奨ですな。まあ、女神転生TRPGの覚醒イベントとか、自分なりにイメージできるものはいろいろありますが』

ヒノキ「朝起きたら、いきなり神秘的な護符を手に入れていて、え? 神さまが私を選んだ? もしかして、私は選ばれし者? ってリアル・オカルト体験なロールプレイが盛り上がりそうじゃのう」

NOVA『他のファンタジー世界と比べて、ドラゴンランスのクリンって世界は、神々が傲慢になった人を見捨てて天罰を与えたという世界なわけで、信仰呪文の奇跡の価値が他の世界よりも稀少なんですな。教会とか神殿みたいな施設は、詐欺師が建てたものか、遺跡やら古の文化遺産やらでしかなくて、組織だった信仰団体も存在しない。もう、プレイヤーキャラのクレリックは、最初から世界に神々の帰還を伝え知らしめる伝道師の役割を帯びるわけですよ』

ヒノキ「治癒呪文を使うと、それだけで人々が驚き、畏れ敬うという世界観じゃな」

NOVA『そういう人々の反応が、シナリオにも書いてあって、さすがはドラゴンランスっぽいと思ったり。一方で、魔法使い系のキャラは、上位魔法の塔からの召喚を夢で見ます』

ヒノキ「夢のお告げが便利に多用されすぎじゃな」

NOVA『まあ、そういう神秘演出も、ドラゴンランスの小説ではよく見られました。頭を怪我した騎士スタームが、森の神秘的な生き物に導かれてみたり、とにかく他のD&Dシナリオよりも、プレイヤーキャラの選ばれた英雄指数が高いシナリオだなあ、と感じました。で、選ばれた冒険者がドラコニアンという謎生物に遭遇したのを、何とか切り抜けて世界に何が起こっているんだ? と疑問を抱いて、第1話終了ってオープニングですね』

ヒノキ「有象無象の冒険者ではなく、神に選ばれた英雄予備軍が戦乱の世で避難民を守る指導者的なポジションに昇り、ドラゴン軍の襲撃に立ち向かうストーリーじゃな」

 

NOVA『というストーリーシナリオをワクワク読みふけりながら、過去と現在をつなげて見せた記事でした。そのうち、誰かがリプレイ動画とか、リプレイ記事を挙げることを期待しています』

ヒノキ「他人任せかよ」

NOVA『自分としては、ここまでの記事だけで満足して、お腹いっぱいですから。ドラゴンランス記事は、これにて終わり』

(当記事 完)