花粉症ガール外伝・コンパーニュ記

会話リプレイ形式の「精霊少女や仲間たちの趣味雑談ブログ」。お題はTRPGを中心に特撮・怪獣ネタ成分が濃厚。現在は、ソード・ワールドのミストグレイヴ妄想リプレイ「魔神ハンター」を終了に向けつつ寄り道迷走気味。

続・アーティフィサーの呪文話

今回は1レベル呪文の話

 

NOVA『前回は、0レベルの初級呪文の話をしたので、今回は1レベル呪文の話をします』

ヒノキ「5版D&Dの初級呪文は、無限回使用できるという特長があるので、冒険中に気軽に使うことができる。一方、1レベル以降の呪文は回数制限があるので、ここぞというところの切り札感覚があるということじゃな」

NOVA『ただし、初級呪文と言っても、攻撃呪文なんかは術者のレベルによって与ダメージが変わって来たりします。基本となる火矢ファイアー・ボルトでも、最初はD10だったのが、レベル5になると2D10、レベル11になると3D10、レベル17になると4D10になるといった感じに強化されるわけですね』

ヒノキ「それって、下手な武器攻撃よりも、強化された初級呪文の方が強くならんか?」

NOVA『ファイターだと、レベル5で2回攻撃、レベル11で3回攻撃ができますので、武器で与えるダメージ倍率の上昇と大差ない感じですね。魔法攻撃といっても常に必中とは限りませんので、火矢なんかは命中判定が必要になっていますし、武器攻撃だと単純な攻撃回数の上昇だけでなく、いろいろとバフをかけてのダメージ上昇がしやすいですし、与えるダメージの最大値を追求すると、戦士と魔法使いのどちらが上かは断定しにくいです』

ヒノキ「クラシックD&Dでは、同レベルの戦士と魔法使いが一騎討ちすると、確率的に魔法使いの方が勝つという話じゃったがな」

NOVA『初期レベルだと、魔法使いのスリープで戦士は絶対に寝るので、魔法使い先攻だと眠らされた無防備戦士にダガーで喉笛を掻き切るという戦術で魔法使いの勝ち。一方で、戦士が先攻をとっても、AC9への命中確率が6割から7割だから、必中ではない。当てたら、HPの少ない魔法使いをほぼ確実に仕留めることができるだろうけど、確率的には魔法使いの方が勝率が高くなる計算です』

ヒノキ「魔法使いは継戦能力の低さが弱点だけど、その呪文の強力さが戦局を大いに左右する。一方で戦士の仕事は、味方の壁になりながら、地道にコンスタントに武器を振り回して相手へのダメージを蓄積させて押し切るタイプの職業じゃったからのう」

NOVA『クラシックD&Dの時代は、とにかく与ダメが伸びないのがファイターの難点でしたからね。HPはどんどん増えるので継戦能力は向上するけど、魔法使いがレベルアップにつれて強力な呪文を覚えていき、ダメージを与える火力キャラとして成長するにつれて、戦士は成長してもやってることは変わらない。まあ、それでも前衛壁役がいないと、パーティーの生存性が保証されないので、将棋の歩と同じで絶対必要、と』

ヒノキ「しかし、クラシックD&Dでもコンパニオン以降になって、戦士の攻撃力を強化するオプションが加わったり、アドバンストD&Dで戦士の攻撃回数が増えるようになったりなど、ルールのバージョンアップで戦士もいろいろ改善されるようになった、と」

NOVA『3版で特技のルールが加わって、ファイターがただの壁役じゃない、多彩な育成パターンのある奥深い職種になって、実に通好みの魅力的なクラスとなった。魔法使いが呪文選択であれこれカスタマイズできるのと同程度には、戦士もカスタマイズできるようになったのが21世紀のD&Dです』

ヒノキ「脳筋のバカでも務まる戦士像というのは、旧世紀のクラシックD&Dに起因する偏見というものじゃな」

NOVA『そういう古風な戦士像をプレイヤーが選択するなら、それでもいいのです。ただ、プレイヤーが脳筋で何も考えないというのでは、戦士はあまり務まりませんね。カスタマイズがしやすい職業なので、選択肢が非常に豊富ですから。むしろ、パラディンの方が役割が明確なので、入り口にはちょうどいいか、と』

ヒノキ「パラディンは呪文ルールが複雑ではないか?」

NOVA『呪文が使えるのは2レベルからなので、それまでにパーティー仲間の魔法使いや僧侶のプレイを見ながら、実践でルールを理解すればいい。まあ、パラディンはロールプレイの方向性も、正義を奉じる勇者キャラとして脳筋主人公でも務まりますし、みんなが割と聖戦士さまと持ち上げてくれるので、非常に初心者として優遇されやすい。存在自体、光り輝いていますから、D&D初プレイで勇者タイプのキャラに憧れるなら、パラディン一択でしょ』

 

ヒノキ「ところで、今回はアーティフィサーの呪文話の続きをするはずじゃろう? どうして、そこまでパラディンを推すんじゃ?」

NOVA『いやあ、パラディンは今のD&Dで最も役割が固定されていて、初心者がロールプレイをする上でも、ゲームルールの面でも、悩むことが少ないうえに、周りが勝手に持ち上げてくれる。一方、アーティフィサーは万能職とも言えるぐらい、できることが多い。逆に言えば、初心者がパーティー内での自分の役割をあれこれ模索しながら、何を選びとっていくのか悩み考える局面が非常に多いわけです』

ヒノキ「アーティフィサーは通好みの職業ということじゃな」

NOVA『考えてみてください。お前は、前で壁役戦士として戦ってもいいし、後方から魔法支援してもいい。回復呪文も使えて、しかも盗賊らしく鍵開けや罠外しもできる。ただし、専門家には劣るけどな。さあ、何をしたらいい? って状況を』

ヒノキ「何でもできる万能ぶりは、しかし、何をするべきか自分で選ばないといけない。それは、初心者には向かないかもしれんのう」

NOVA『初心者だったら、「君は戦士だから、前で戦ってね」とか、「ヒーラーさん、回復をお願い」とか、「魔法で支援を頼む」とか、仲間にあれこれアドバイス的に指示される役回りの方が楽なんですよ。

『だけど、アーティフィサーって何でもできるから、できることが多すぎて自分でも何をしたらいいのか迷うし、仲間からも何を任せたらいいのか分かりにくい職業なんですね。少なくとも、プレイヤーの方に自分はこういう風に活躍したいってイメージが明確に見えていないと、最初から呪文選択にも悩むし、どうカスタマイズするのが最適解か見えにくい。結果的に、アーティフィサーの仕事って、仲間に足りない要素は何で、自分は何を補えばいいのかを見定める程度には、サポート感覚に満ちた人が向いています』

ヒノキ「主役にはなれないタイプか?」

NOVA『ところが、最近のファンタジー小説(主になろう系)では、そういうサポート特化型の主人公が流行っているんですね。仲間に、専門戦士や専門魔法使いや専門神官がいて、自分は彼らの能力を把握して、時には彼らの悩みを聞くカウンセラーになってあげたりしながら好感度を高め、彼らの弱点を自分の能力で補ったりなんかもして、優秀な軍師タイプの主人公としてハーレム状態で君臨していく……そんなキャラがあまりにも多い』

ヒノキ「そうなのか?」

NOVA『まあ、例外もいろいろですけど、あとは職人系の技能の持ち主が主人公をやるケースも多くて、ものづくり視点で世界を見るとか、スローライフで趣味の職工芸に勤しんでいたら、それが世界に革命をもたらす大発明につながったりして……とか非常に多いですね』

ヒノキ「つまり、時代はアーティフィサーじゃと?」

NOVA『パラディンみたいな勇者は、脇役だったり、悪役令嬢みたいなライバルとか、蹴落とされるイケメンとか、そういう属性を当てがわれがちですね。主人公とは違う世界に生きている高貴なイケメンクズが聖騎士を名乗っていて、こんなのでよく、神さまが祝福してくれてるな、とか、神さまもクズなのか、この世界……って作品が目立つ』

ヒノキ「具体的には?」

NOVA『下手に作品名を挙げると、作品ファンを敵に回すのもイヤなので、具体化はしません。あくまで、昔は持ち上げられたヒーロー属性が、今は時代遅れのステロタイプとして、揶揄の対象になったりすることも若者文化なのかな、と思ったり。時代が求めるヒーロー像も、時流を反映した変化が見られるわけで、その中で地味な職人主人公に光が当てられるのが、昨今の風潮という理解です』

ヒノキ「なるほど。つまり、役割固定のパラディンに比べて、多芸サポーターのアーティフィサーがある意味、対極的な職業と考えるんじゃな」

NOVA『対極かどうかは知りませんが、通の道だって話をしながらの前置きでした』

 

ウィザードの推奨1レベル呪文

 

NOVA『さて、アーティフィサーの使える呪文は、主にウィザードやクレリックの呪文から一部抜粋したものなので、まずはウィザードの呪文の話をしましょう』

ヒノキ「スリープじゃな」

NOVA『まあ、D&Dの1レベル魔法使いの必須呪文と言ってもいいですな。とりあえず、敵の数が多くて、戦士が処理しきれないとなれば、集団を眠らせるのが魔法使いの大切なお仕事。ロードスでも、ウィザードリィ(KATINO)でも、ゴブリンスレイヤーの鉱人道士(酒による《酩酊》=ドランクに形を変えている)も、とりあえず集団を眠らせるのが基本戦術となっている』

ヒノキ「今のソード・ワールドは違うのじゃな」

NOVA『旧版では1レベル呪文でしたが、眠った敵が簡単に起きやすくなったので、D&Dほどの一撃必殺感が薄れたんですね。敵を眠らせてから、無抵抗のままにとどめを刺していくゴブスレ流虐殺戦術がゲームとしてはつまらないという意見でも出たのでしょうか。

『今の版では、レベル2ソーサラー呪文のスリープがうたた寝程度の《ナップ》に差し替えられたり、真の《スリープ・クラウド》がレベル6深智魔法として中級レベル以上の秘術となったりして、初心者用とは言えなくなりました。だからこそ、3年前にリブートしていたロードスRPGリプレイで、魔法使いがスリープクラウドで活躍しているのを読んで、うわあ、懐かしいなあ、と思ったりも』

ヒノキ「今のD&Dでも、スリープの呪文は当然あるんじゃな」

NOVA『当然です。5版のPHBには、ウィザードの1レベル呪文として30種類が用意されていて、そこから6種類を習得呪文として選んでいくわけですが、いきなり30種類から6つを選べと言われても大変なので、6つの推奨呪文が用意されています』

 

●スリープ(眠り)

●チャーム・パーソン(魅了)

●バーニング・ハンズ(炎の手)

●フェザー・フォール(羽毛落下)

●マジック・ミサイル(魔法の矢)

●メイジ・アーマー(魔法の鎧)

 

ヒノキ「この辺は、D&Dの定番呪文なので、基本じゃな」

NOVA『クラシックD&Dでも、スリープ、チャーム、マジックミサイルが最初に覚える呪文として、リードマジック(魔法言語の読解)と並んで、推奨されていました。今のD&Dでは、リードマジックを使わなくても、呪文書に新しい呪文を書き写せるようになりましたが』

ヒノキ「今のD&Dじゃと、呪文書を使うのがウィザードで、精霊や悪魔との契約で呪文を使うのがウォーロック、自分の血統にある魔力を発動するのがソーサラーと、単純に魔法使いと言っても3種類に分かれておるのじゃな」

NOVA『その3職の違いの詳細は、長くなるので割愛します。まあ、ウォーロックについては、こちらを参照』

ヒノキ「とにかく、ウォーロックの話は置いておいて、今はウィザードとアーティフィサーの話に専念しよう」

NOVA『どちらも、知力に基づいた魔法発動を行います。レベル1ウィザードは、自分が習得した6つの中から3つか4つ(知力ボーナスによる)の呪文を選択し、準備状態にしておきます。そして準備した呪文の中から1日に合計2回使えるのですが、ウィザードの場合、「秘術回復」という特技を最初から習得していますので、1時間ほどの小休憩をはさむことで、呪文の使用回数が1日に1回分回復します。よって、実質的に1日3回まで使えることになります』

ヒノキ「なるほど。1日3回も敵集団を眠らせることができるのは、昔のD&Dを知る者には感慨深いのう。実質、旧版の3レベルからスタートするようなものじゃし」

NOVA『で、アーティフィサーも同じようなことができるかと思えば、アーティフィサーの使用可能呪文の中にスリープは入っていない』

ヒノキ「何? 低レベルなら必殺と言うべきスリープが使えないじゃと? ならば、チャームやマジックミサイルは?」

NOVA『それらも無理です。と言うか、ウィザードの1レベル攻撃呪文は全く使えないわけで』

ヒノキ「ならば、攻撃魔法は初級呪文に頼るしかないのか?」

NOVA『そうなりますね。つまり、基本ルールに書いてあるウィザードの推奨呪文で、アーティフィサーが唯一使えるのは、フェザー・フォールだけとなるわけで』

 

アーティフィサーの役回り

 

ヒノキ「う〜む、レベル1ウィザードの必殺技と言うべき決め手の攻撃呪文が使えず、基本ルールの推奨呪文で使えるのが、落下制御のフェザー・フォールだけとは……以前にアーティフィサーがウィザードの上位互換と言っておったのは、嘘だったのじゃな?」

NOVA『いやあ、それを言ったときには、1レベル呪文に攻撃魔法が何一つないとは思っていませんでした。あと、初級呪文で魔法攻撃できるなら、無理に1レベル呪文を使わなくてもいい、と思っていたぐらいで』

ヒノキ「しかし、スリープは必須じゃろう?」

NOVA『古いD&Dファンは皆さん、そうおっしゃいますね。しかし、他にも役立つ呪文はありますよ。例えば、マジック・ミサイル! 昔は1レベルで使うと矢が1本。レベルが上がると、矢の本数が増えて行き……という仕様でしたが、今のD&Dでは最初から3本のマジック・ミサイルが撃てるように強化されています。つまり、マジック・ミサイルの火力という面では、今のレベル1ウィザードは旧世紀のレベル5魔法使いに相当する破壊力を持っているわけです』

ヒノキ「マジック・ミサイルが昔より強化されたというのか」

NOVA『さらに、バーニング・ハンズに注目』

ヒノキ「おお、ドラゴンランス小説で、仲間の魔法使いレイストリンが、『ケア・タンガス・ミオパイア』とか唱えて、敵を焼き滅ぼしていたことを覚えておる」

NOVA『クラシックD&Dにはない呪文だったので、アドバンストD&Dに憧れる一因でもあったなあ。でも、いざルールブックを買ってみたら、ダメージが「D3+2/術者レベル」しかなくて、意外と弱かったので興醒めしたことを覚えています。小説の描写は盛り過ぎ! と思いましたね』

ヒノキ「しょせんは1レベル呪文じゃからな」

NOVA『そう、1レベル呪文の与ダメは決して多くない。そのように古のD&D者の魂には刻み込まれていたのですが、何と! 5版のバーニング・ハンズはデフォルトで3D6のダメージを与える広範囲火炎放射呪文に進化してました』

ヒノキ「1レベル呪文が3D6ダメージを与えるじゃと?」

NOVA『ええ。しかもAD&D時代は射程が5フィート先までしか届かなくて、ほぼ単体攻撃呪文だったのが、今じゃ射程15フィートまで伸びて、しかも円錐形に広がるから、マップ戦闘ルールを使えば、前方6マスから7マスを巻き込む。マップを使わなくても、最低2体を巻き込むことがルールで明記されていますので、単体D3+αの呪文が範囲3D6の呪文に化けて、いかにも必殺技の風格が高まったわけです』

ヒノキ「まあ、ゴブリンを2匹は軽く倒せそうじゃのう」

NOVA『ゴブリン相手に使うには、もったいないでしょう。ゴブリンのHPは7ですから、もっと強い敵、HP11のホブゴブリンさえ倒せますよ。まあ、HP15のオークは難しいでしょうが』

ヒノキ「バーニング・ハンズなどのレベル1呪文が昔よりも強化されたのは分かった。しかし、アーティフィサーはそれらを使えないのじゃろう?」

NOVA『いや、将来、3レベルになってサブクラスを選べるようになると、アーティラリストやアーマラーはもっと強力な範囲攻撃技を連発できるようになりますので、それまでの我慢です。そもそも、アーティフィサーのレベル1呪文枠は、攻撃魔法のためよりも、もっと重要な呪文のために使うべきです』

ヒノキ「攻撃魔法よりも重要な呪文?」

NOVA『そりゃあ、HP回復呪文キュア・ウーンズでしょう。アーティフィサーは、レベル1から回復呪文が使える数少ないクラスの1つなのです』

ヒノキ「そう言えば、治癒役にもなれると言っておったな。つまり、アーティフィサーのレベル1呪文は、攻撃ではなく回復のために利用するということか」

NOVA『レベル1の段階で、キュア・ウーンズが使える職業はクレリックドルイド、バード、アーティフィサーの4つのみ。あと、パラディンとレンジャーはレベル2に成長すれば、キュア・ウーンズを使えるようになりますが、最初の冒険から回復役が複数いると実に心強い。クレリックが女神官だとするならば、アーティフィサーは蜥蜴僧侶に相当する役回りを担当できるでしょう』

ヒノキ「おお、彼は前衛戦士としても、回復役としても、竜牙兵の召喚者としても、咆哮によって敵を追い散らす役割も果たしておるな。そうか、アーティフィサーの役回りは蜥蜴僧侶に相当すると考えるなら、いろいろ納得できるものがある」

NOVA『もちろん、細かい違いを挙げつらって行けば、ツッコミどころはあるでしょうし、蜥蜴僧侶を真面目にD&Dで作るなら、種族はドラゴンボーンで、フィズバン本と組み合わせると、より近いイメージのキャラが作れるかもしれないけど、今記事ではアーティフィサーの役回りがゴブスレパーティーにおける蜥蜴僧侶に相当する一面がある、と捉えていただければ』

 

アーティフィサーのプリースト系呪文

 

ヒノキ「ところで、HP回復呪文の名がキュア・ウーンズと呼ばれておるが、昔はキュア・ライト・ウーンズ(1レベル)、キュア・シリアス・ウーンズ(4レベル)、キュア・クリティカル・ウーンズ(5レベル)、キュア・オール(6レベル)に分かれていなかったか?」

NOVA『ホイミベホイミベホイムベホマとか、ケアル、ケアルラ、ケアルダ、ケアルガとか、DIOS、DIAL、DIALMA、MADIみたいに、レベルアップごとに回復量が上昇する呪文進化系統ですな。4版まではそういう物もあったのですが、5版ではキュア・ウーンズを使用者の意思で高レベル使用できるようになりました』

ヒノキ「どういうことじゃ?」

 

●キュア・ウーンズ:クレリック1レベル呪文。他にドルイド、バード、パラディン、レンジャーも使え、HP回復呪文の基本となる。要接触で、回復量はD8+呪文発動能力ボーナス(クレリックドルイド、レンジャーは判断力。アーティフィサーは知力。バード、パラディンは魅力)。

 高レベル使用した場合、レベルごとに回復量がD8点上昇する。

 

NOVA『例えば、クレリックはレベル3に成長すると、1レベル呪文が4回、2レベル呪文が2回使えるようになるのですが、1レベルのキュア・ウーンズを2レベル呪文として使うことができます。その場合、回復量が2D8+判断力ボーナスになって、実質キュア・シリアス・ウーンズみたいなものになるんですね』

ヒノキ「ああ、呪文の名称は変わらず、レベルのみを臨機に上げて使える、と。しかも、回復量がより簡単に増やせるようになったのじゃな。昔は、ライト・ウーンズからシリアス・ウーンズまでが長かった」

NOVA『上位の回復呪文が登場するまでは、キャラクターをレベル8まで育成しないといけませんでしたからね。それまではライト・ウーンズ(D6+1点)でチマチマ治さないといけなかったり』

ヒノキ「実は、低レベル呪文を高レベルで使用できるというルールは、T&Tが先駆者だったのじゃな」

NOVA『その分、消費する体力(現在の版では魔力)が2倍、3倍……に増えてました。今のD&Dでは、消費する魔法スロット(各レベルの魔法使用回数を示す)のどのレベルを使用するかで、低レベル呪文が無駄になることを防いでいますね』

ヒノキ「昔は、クレリックの1レベル呪文はキュア・ライト・ウーンズのために、他の同レベル呪文を無駄使いする余裕はなかったからのう。回復呪文のあるレベルの他呪文は、使われにくいという傾向があった」

NOVA『今は、1レベルの呪文スロットを使いきっても、だったら2レベルでキュア・ウーンズを使います、という融通が利きますね。まあ、呪文スロットという用語は初めて見たとき、何だかややこしくなったな、と思いましたが』

ヒノキ「新兄さんでもそうか」

NOVA『昔よりも、頭が固くなってますからね。昔のD&Dのイメージが土台にあって、今の新ルールがどう変わったかなんて、定期的に研鑽しないと戸惑いも多い。その中でシステムの進化を味わうのがマニアックな快感なんですけど。来年の新版は最終的に、どんな形になるかが楽しみです』

ヒノキ「タイミングよく、日本も辰年になるからのう。それはともかく、キュア・ウーンズ以外のアーティフィサー1レベル呪文も見ていくとしよう」

NOVA『とりあえず、コアルールで14種類あって、ザナサーで3つ、ターシャで1つ追加されました。その中で最初は2つか3つ(知力ボーナスによる)の呪文を準備できます』

ヒノキ「習得はしなくていいのか?」

NOVA『ウィザードは30個中、呪文書に記された習得呪文を決める仕様ですが、アーティフィサーはクレリック同様、最初からレベル1の呪文を全て使えます。一度に準備できる数に制限があるだけで、例えば職人としての日常生活用の呪文リストと、ダンジョン探索用の呪文リスト、都市冒険用の呪文リストなどを自在に切り替えることも可能』

ヒノキ「習得呪文の制限が強いウィザードよりも、クレリックやアーティフィサーの方が序盤は選択肢が多く、自由度が高い、と」

NOVA『まあ、初心者はとりあえず、キュア・ウーンズを覚えておけば問題ないのですけどね。その他のプリースト系呪文は以下のとおり』

 

サンクチュアリ(聖域)

●ジャンプ(跳躍)

●ディテクト・マジック(魔力感知)

●ピュアリファイ・フード&ドリンク(食糧と水浄化)

●フェアリー・ファイアー(妖精の火)

●ロングストライダー(健脚)

 

NOVA『ジャンプとフェアリー・ファイアー、ロングストライダーは、クレリックではなくてドルイド他が使用する呪文ですが、クレリックと同じプリースト系ということで一緒に紹介します』

ヒノキ「冒険で昔から普通に便利そうなのは、ディテクト・マジックじゃな。準備しておくと重宝する」

NOVA『この呪文が使える職業は数多いですからね。術師の中で使えないのは、ウォーロックのみ。まあ、ウォーロックは妖術で「魔力を見る目」を習得すれば、回数無制限でディテクト・マジックを使い放題になるので、わざわざ呪文として覚える必要がないわけで』

ヒノキ「呪文を使うと、術者の目に魔力のオーラが輝いて見えるのじゃが、ウォーロックのみは呪文を使わなくても、普通に見えている、と」

NOVA『一応、常時見えているわけではないと思いますので、少し意識を集中するぐらいはしているのでしょう。いずれにせよ、マジックアイテムの専門家であるアーティフィサーにとっては、常に準備して当然って感じの呪文に思えますね』

 

ヒノキ「そして、ゴブスレ的に旬なのが、ピュアリファイじゃな」

NOVA『D&D的には、食べ物や飲み水をきれいにして、毒や病原体、それに腐敗なんかを打ち消して、食の安全を図るための飲食物衛生魔法なんですけどね。生物に対してかけた場合、血を真水に変えることはできるだろうか、と昔、D&Dの魔法解釈ネタ話があって、さすがにそれは無理、というのが公式見解のはず。でも、ゴブスレ世界ではそのネタをマジでやっちゃった。冗談ネタを本気にして、ドラマ演出の材料にする形で、女神官さんがゴブスレ脳に染まっていってる様子と、地母神さまのお叱りにあって信仰の危機に陥るという展開に、そりゃあ、ゲームマスターも釘を刺すだろうと思ったり』

ヒノキ「じゃが、生物相手ではなく、魔神復活の儀式に使われる生贄の血を真水に変えて、儀式を妨害するという使い方ならOKが出たのじゃな」

NOVA『その話は、来月のアニメのネタバレです』

ヒノキ「ゴブスレ世界のピュアリファイは、不浄の怪物であるアンデッド退治にも有効、と」

NOVA『D&D的には、思いきり拡大解釈ですけどね。ピュアリファイの中に、ターン・アンデッドの効果も含まれて、ちょっとした複合呪文になっていますね』

ヒノキ「汚れた服を洗う洗濯呪文にもなっておるのう」

NOVA『その辺は、ゲームの数値データだけじゃない、魔法の拡張アイデア的な使われ方で好きですけどね。生活に根差した魔法って感じがして』

ヒノキ「クラシックD&D的に分かりやすいのは以上か」

 

NOVA『他の呪文ですが、サンクチュアリは護衛対象を敵の攻撃から外させる魔法。その対象を敵が狙った際に、判断力セーブを強要されて、失敗したら別の相手を攻撃しないといけなくなる』

ヒノキ「仲間のウィザードや瀕死の戦士を、敵の攻撃から守るのに有効、と」

NOVA『自分にかけてから乱戦の中に飛び込んで、サンダークラップとかソード・バーストで周囲の敵をなぎ払う的な使い方もできそうですね』

ヒノキ「ああ。自分にサンクチュアリをかけると、敵陣の只中に踏み込んでも、生還率が上がる、と」

NOVA『一時的に敵の侵攻を妨害する役回りが果たせます。前衛壁が不足している際に、自分も前に立って足止めぐらいはできる。そして、自分への攻撃は他の頑丈な味方戦士にそらし、彼が傷つくとキュアで癒すぐらいしてやると、プリーストらしい立ち回りができるんじゃないか、と』

ヒノキ「自分にサンクチュアリをかけると、多少ACが低くても、前衛の役をこなせる、と」

NOVA『しょせんは時間稼ぎ戦術なんですけどね。護衛対象を守るだけだと、受け身戦術なんですが、サンクチュアリをかけた自分を前衛に置いて、攻撃はせずに味方への支援だけに専念するのは有効か、と。あと、敵の足元ではなく、敵の侵攻ルート上にボンファイアーの焚き火でも置いておくと、間接的に罠を仕掛けたことになる。サンクチュアリをかけた術者を迂回するために移動した敵が、焚き火でダメージを受けるように仕向けると面白い』

 

ヒノキ「ジャンプは、跳躍距離3倍にする呪文か。空中浮遊のレビテーションを覚える前に、役立ちそうじゃのう」

NOVA『この呪文を使えるのはウィザードの他に、ソーサラードルイド、レンジャーの4職で、野外活動でちょっとしたアクションを頑張りたいときなどに有効。まあ、最初から覚えるというよりは、レベルが上がってから活劇場面を演出したいなどの余裕が出てきたときに、準備しておくぐらいでしょうか。通路の途中の亀裂を飛び越えたり、冒険中に使える場面はあるでしょうが、アーティフィサーで盗賊系みたいなアクション活劇を行いたいときに準備しておくのも一興ってぐらい』

 

ヒノキ「移動系だと、ロングストライダーもドルイドじゃったな」

NOVA『他はウィザード、バード、レンジャーですね。1時間の間、移動スピードが10フィート増えます。ドワーフやハーフリングのような小柄で足の遅い種族の移動力を補助したりすると、感謝されそうですね。10フィートという単位だと分かりにくいですが、マップ戦闘をする場合に、移動できるマス数が+2されると考えると、戦術的に重要になる局面も』

ヒノキ「精神コマンド加速みたいな感じか。あと1マスのところで、惜しくも敵を接近戦範囲に入れられない重装甲戦士を補助するとか、移動系呪文は地味ながらサポート役として使いこなせると、いかにも通って感じがするのう」

NOVA『自分じゃなくて、仲間の移動を支える使い方が美味しいですね。アーティフィサーの基本は、移動力を高めてどうこうって職業でもないのですが、他の移動力を重視するキャラを補助してやると、良き相棒感が出てロールプレイ的にも楽しめそうです』

 

ヒノキ「そして、フェアリー・ファイアーじゃが、攻撃呪文ではなかったな」

NOVA『ドルイドとバード用ですね。戦闘サポート呪文として、20フィート(4マス)四方の広範囲に入った者は、キラキラした薄明かりに照らされます。範囲内の不可視状態の効果を解除するほか、範囲内のキャラに対する攻撃は全て有利がつく。つまり、命中させやすくなるわけです』

ヒノキ「4マス四方ということは最大16マスか」

NOVA『マップ戦闘を使わない場合は、4体の敵に対して有効ですね。つまり、4体の敵に対する味方の攻撃が有利になるというのは、戦闘サポート効果としては結構大きいわけですよ』

ヒノキ「ダメージ呪文で直接効果を与えるよりも、味方に効果的なバフを与える方が得ということか」

NOVA『もちろん、回復呪文が余っているという前提ですが。少なくとも戦闘で派手に活躍するために、範囲攻撃でドカンというのもストレートでいいけど、味方全員の攻撃を当てやすくする支援効果というのは、別の意味で派手で煌びやかに思えます』

ヒノキ「絵面を想像すると、妖精の火灯りが敵を包み込んで、敵陣が眩惑されているうちに、味方が集中攻撃を浴びせている感じじゃからのう。いかにもアニメ映えしそうな光景じゃ」

NOVA『自分は眩惑効果を維持しないといけないので、攻撃に参加できないのがもどかしい人もいるかもしれませんが、「今です。皆さん、やっちゃって下さい」と指揮官みたいなセリフを言える呪文なのもあって、そういうロールプレイが好みなら、なかなか美味しい呪文と考えます』

 

改めてアーティフィサーのウィザード呪文

 

NOVA『そして、フェザー・フォール、ジャンプ、ディテクト・マジック、ロングストライダー以外で、アーティフィサーが使えるレベル1ウィザード呪文は以下の6つですね』

 

●アイデンティファイ(識別)

●アラーム(警報)

●エクスペディシャス・リトリート(迅速退却)

●グリース(脂)

●ディスガイズ・セルフ(変装)

●フォールス・ライフ(偽りの生命)

 

ヒノキ「アイデンティファイは、マジックアイテムの識別呪文じゃな」

NOVA『使えるのは、ウィザードとバード、それにアーティフィサーが加わりますな。まあ、アーティフィサーの本分に関わるものですが、冒険の中で使うものではなくて、冒険の合間の日常生活で使う用途のもの。まあ、アーティフィサーは普段は職人や魔法店の商売人として働いているという背景を付けるなら、アルバイトとして鑑定屋をやってもいいかもしれませんが』

ヒノキ「剣の乙女が、少女時代にビショップとして鑑定業を営んでいたのう」

NOVA『ゴブリンへのトラウマで冒険に出るのが怖くなって、それでも侍の「君」に仲間として勧誘される前の話ですね』

ヒノキ「司教(ビショップ)のお仕事が鑑定業というのは、いかにもウィザードリィって感じじゃのう」

NOVA『D&Dでマジックアイテムの鑑定ができるのは、ウィザードか、バードか、アーティフィサーだと。まあ、技能で〈魔法学〉を習得すれば、呪文以外での鑑定もできますし、それができるのはウォーロックソーサラードルイド、後は賢者の背景を選ぶという手もありますな』

ヒノキ「クレリックは鑑定できんのか」

NOVA『彼らは〈宗教〉を習得しますので、宗教関連の秘宝なんかは鑑定できるかもしれませんね』

ヒノキ「それぞれの専門分野があるんじゃな」

 

NOVA『次にアラームですが、ウィザードとレンジャーが使えます。要は警報のトラップを仕掛ける呪文ですね。誰かが宝箱を開けたり、指定空間に侵入したりすると、警告音が鳴ったり、こっそり術者に情報が伝達されるという』

ヒノキ「警告罠を仕掛ける呪文か。前もって侵入者の存在が分かるというのは、ある意味、恐ろしいのう」

NOVA『よって、魔法使いの塔にこっそり侵入するというのは、いかにも至難の技なんですな。もちろん、そういう監視の目をすり抜ける魔法とか、警報そのものを解除する技とかも存在するわけで、そういう丁々発止のスニークミッションもシナリオネタになりますが』

ヒノキ「魔法使いの塔の入り口には、警報の罠が仕掛けられているから、それに引っ掛からないように侵入しなければいけないとか、そういう話じゃの」

NOVA『あらかじめ罠があると分かっていれば、対処しようもあるわけで。まあ、どう対処するかをプレイヤーに委ねるといいかも』

ヒノキ「正面から堂々と客人として立ち入り、交渉であれこれ状況を動かすという手法もあるのう。その場合は、警報があっても気にすることはない」

NOVA『アーティフィサーの場合は、職人とか商売人ということであれば、大事な道具箱とか宝箱に警報を仕掛けているという日常生活もありでしょう』

 

ヒノキ「それで、エクスペ何ちゃらという呪文は一体、何じゃ? 呪文名が長いと、パッと効果が分かりづらい」

NOVA『それに、こういう長い呪文名は読みにくいので、略称を考えたくなりますね。Xリトリートとか?』

ヒノキ「エクリト?」

NOVA『水星の魔女のエリクトっぽいですね。まあ、このXリトは、ボーナスアクションとして早足移動が最大10分間行えます』

ヒノキ「早足移動?」

NOVA『要するに、全力疾走で走って通常の倍速で動ける』

ヒノキ「倍速だと、ロングストライダーより速いのう」

NOVA『ただし、走っている間は呪文の維持に集中しないといけないので、走る以外の行動はとりにくいですし、自分にしか掛けられない呪文です。ロングストライダーの方が仲間にもかけられて応用力が高い。Xリトは、とにかく全力で逃げるための呪文と定義されます』

ヒノキ「普通に走って逃げればいいのでは?」

NOVA『この呪文の恩恵は、早足できるボーナスアクションが追加されることにあって、加えて通常アクションでも早足をすれば、1ラウンドに合わせて4倍の速さで移動できるわけです』

ヒノキ「すると、競走に活用すると良さそうじゃな。この呪文をウマ娘辺りが習得すると、レースが大いに盛り上がりそうじゃ」

NOVA『魔法で加速するのは、反則でしょう? まあ、4倍速移動できる呪文と考えると、凄いかも。ただ、魔法使いが高速移動するよりも、アーケイン・トリックスターみたいなウィザード魔法が使える軽戦士が使う方が、使い勝手が良さそうだ』

ヒノキ「移動するだけで、敵に衝撃波で大ダメージを与えるような呪文か特殊能力があれば、コンボ技が炸裂するかもしれんのう」

 

NOVA『次のグリースは、10フィート四方の床に油をまくような感じで、滑って転倒させやすくします。ちょっとした移動妨害用の呪文ですね』

ヒノキ「転倒すると、どうなるのじゃ?」

NOVA『伏せ状態といって、自分の攻撃が不利になり、近接攻撃をする相手側が有利になります。単純問題として、接近戦中に転倒したら、どうしようもなく隙だらけになるってことですね。前衛戦士が待ち構えている場所の前の空間にグリースをかけると、その前に飛び込んできた敵は敏捷セーブに失敗すると転倒。起き上がる前にボコればいい』

ヒノキ「敵を転ばせる攻撃サポート呪文ということか」

NOVA『効果としては、フェアリー・ファイヤーと似た感じですが、こちらは効果範囲が狭く、有利になるのは接近戦攻撃のみという点で劣ります。フェアリー・ファイヤーは遠距離攻撃や命中判定が必要な呪文攻撃でも有利がつきますからね。

『一方、グリースは相手の攻撃を阻害するのと、術者が集中しなくても効果が維持されるのが大きい。つまり、呪文の効果で転んだ相手を、次から自分でも殴れるわけです。戦士と肩を並べて戦うような前衛アーティフィサーを目指すなら、グリースの方が有効。とりわけ10フィート幅の通路の途中や出口に陣取って、押し寄せてくる敵を迎え撃つような局面だと、通路にグリースを仕掛ければ、敵がことごとく転倒する可能性があって、ハメ状態が発生します』

ヒノキ「絵面的には、泥臭くて地味な戦闘シーンじゃが、相手を転倒させてハメ倒すというテクニカルなプレイを好む者には、ウケるかものう」

 

NOVA『次のディスガイズ・セルフは幻影による変装呪文ですが、ウィザード、ソーサラー、バード用です。どうも、アーティフィサーが変装している光景があまりイメージできないのですが』

ヒノキ「吟遊詩人とか、お忍びで行動したい魔法使いなら、芝居がかった演技なんかもするかもしれんが、職人イメージの強い魔法技士が変装か。まあ、強いて言うなら、アーマラーが街中で重装鎧を身に付けていると一目について仕方ないような場面で、社交の都合で見た目を取り繕うような局面があるかもしれん」

NOVA『変装って行為そのものが、高度なロールプレイ技術を必要としそうで、使いこなすと通って感じがしますが、今のところアーティフィサーと変装というイメージがつながらないなあ、というのが本音です』

 

ヒノキ「最後のフォールス・ライフは、死霊術なんじゃな」

NOVA『D4+4の一時的HPを得る呪文ですね。悪霊パワーでタフになるって感じですが、こういう呪文を使うぐらいなら、普通に回復呪文を使えばいいのでは? と思うわけで。元々は、HPの少ない魔法使いが自分のHPを補強して、生存率を高めるためのものなので、ウィザードよりはタフなアーティフィサーがこの呪文のお世話になることは少ないかな、と』

 

ヒノキ「そんなわけで、ここまで見てきた中で、新兄さん的なお勧め呪文は何じゃ?」

NOVA『3つ準備できるなら、一つはキュア・ウーンズ。もう一つはディテクト・マジックが確定ですな。残り1つを選ぶとなると……前衛志望ならグリース、後衛志望だったらフェアリー・ファイアーが戦闘中の切り札になるかも。でも、戦闘以外に呪文を使いたいなら、ゴブスレIIの8話で派手な脱出劇で使われるであろうフェザー・フォールをお勧めしたいな、と』

 

おまけの追加呪文

 

●アブソーブ・エレメンツ(元素吸収)

●カタパルト(物体射出)

●スネア(罠設置)

●ターシャズ・コースティック・ブリュー(ターシャの腐食液)

 

NOVA『最後にアーティフィサー用追加呪文です。元素吸収は、リアクションで使える防御呪文ですね』

ヒノキ「敵が元素攻撃をしてきたときに、とっさに防御するのじゃな」

NOVA『具体的には[酸][電撃][火][雷鳴][冷気]の5種に有効ですね。それらのダメージを半減した後、その吸収したエネルギーで次の近接攻撃のダメージを+D6だけ高める。ウィザードやソーサラーも使えますが、接近戦が不得手な彼らよりもアーティフィサーの方が有効活用できるでしょう』

 

ヒノキ「カタパルトは攻撃呪文か?」

NOVA『ええ。レベル1のアーティフィサーには攻撃呪文が足りん、というファンのために、強力なものが追加されましたよ。ええと、重量1〜5ポンドの物体(最大2.5kgぐらい)を90フィート(27m、18マス)ぐらい動かして、敵の頭上から落下させます。相手が敏捷セーブでの回避に失敗したら、3D8の殴打ダメージを与えることに。ただし、その物体も同じダメージを受けて壊れてしまいますが』

ヒノキ「ええと、重い石を持ち上げて、相手の頭上から叩き落とす呪文ということか?」

NOVA『弾丸代わりに使える物がそこにあること前提ですけどね。アーティフィサーなら、仕事道具として重いハンマーぐらい持ち歩いているでしょうから、それを投げつけてもいいでしょう』

ヒノキ「仕事道具じゃぞ。大事に扱わんか!」

NOVA『俺なら、TRPGのハードカバー・ルールブック……を敵に投げつけるのはもったいないか。ええと、(部屋を見回して)椅子とかテーブルとか、家具の類かな』

ヒノキ「しかし、家具を壊してしまわんか?」

NOVA『そんな時のための修理呪文がメンディングでしょう』

ヒノキ「しかし、2.5kgの物体が頭にゴチンと当たると確かに痛いとは言え、3D8ダメージはちと大きすぎやしないか?」

NOVA『期待値13〜14、最大値24ダメージは、まさにレベル1では必殺技クラスですな。単体ダメージとしては、レベル1最強クラスの魔法です。おそらく、魔法による運動エネルギーも加わって、それだけの破壊力を示していると思われ』

ヒノキ「最強破壊力を目指すアーティフィサーの推奨呪文と言ったところか」

NOVA『問題は2点。1つは単体攻撃用なので、ザコがいっぱいという戦局を覆す技にはならない点。もう一つは、敏捷セーブで避けられるとダメージが全く入らない。多くのダメージ魔法は抵抗されるとダメージ半減ですが、このカタパルトは当たるか外れるか、一か八かのギャンブルめいた技と言える』

ヒノキ「命中率はどれほどか?」

NOVA『とりあえず、1レベルのセーブ難易度は12か13。これに仮想敵としてゴブリンのかしら(HP21)を想定すると、敏捷ボーナスが+2なので、20面の出目が10か11で避けられる。思いきり半々の確率ですな。同じ狙うなら、もっと動きの鈍い相手を狙うべきでしょう?』

ヒノキ「具体的には?」

NOVA『少々、お待ち下さい。(モンスター・マニュアル検索中)おお、これならちょうどタイムリーなボスキャラ発見!』

ヒノキ「何じゃ?」

NOVA『クマですよ、クマ。ブラック・ベア(HP19)、もしくはもっと格上のヒグマ、すなわちブラウン・ベア(HP34)なら、カタパルトの的としても、ちょうど良さそうだ。彼らは敏捷ボーナスが0なので、命中率が60〜65%でそこそこ当たる。クマがボスキャラのシナリオをプレイしましょう!』

ヒノキ「さすがにレベル1パーティーでクマ退治はキツくないか? 噛みつき1回、爪1回で、両方当たれば20点近いダメージを与えてくるヒグマだと、戦士が瞬殺される可能性も結構あるぞ。おそらく、初心者パーティーにクマをぶつけるDMは、プレイヤーと動物愛護団体から人でなし呼ばわりされて、ブログが炎上の危機にさらされかねん。バカなことはやめるんじゃ」

 

NOVA『それでは、クマを捕獲するための罠設置呪文スネアを使いましょう』

ヒノキ「クマを転ばせるのか?」

NOVA『スネアで相手を転倒させるのは、ソード・ワールドですよ。D&D5版に追加されたスネアは、ロープを触媒に、小型〜大型サイズのクリーチャーを魔法の力で3フィート上の空中に宙吊り拘束する仕掛けを設置します。これなら、敏捷セーブに成功するまで、クマは宙吊り状態のまま無力化されます』

ヒノキ『敏捷セーブの成功率は35〜40%じゃろう。すぐに脱出できたりしないかの?』

NOVA『大丈夫。拘束状態だと、敏捷セーブに不利を受けますから、成功率が10〜15%ほどに下がりますよ。だったら、脱出するまでの間に、カタパルトで狙い撃ちすればクマぐらい恐るるに足りず』

ヒノキ「いや、罠で捕まえた後に、さらにカタパルトで狙い撃ちとは、動物愛護団体を敵に回すつもりか?」

NOVA『そもそも、役所を炎上させているのは、動物愛護団体なんですかね? おおかた、クマと戦ったことのない愚かな一般人に過ぎんのでは? そういう人間は、一度D&DでHP4の一般人キャラを作って、クマの前に対峙させたらいいと思いますよ。クマがいかに恐ろしいモンスターか、実感できると思います』

ヒノキ「まあ、爪、爪、噛みつきの3回攻撃をくらって、さらに爪2回が命中すると強烈なベアーハッグで2D8ポイントの追加ダメージを与えてくるクラシックD&D時代のクマの恐ろしさは、伝説となっておるからのう」

NOVA『今、世間に必要なのは、恐ろしいクマと戦った流れ星銀のような物語だと思いますね』

 

ヒノキ「まあ、リアルだろうと、フィクションだろうと、クマに襲われたことも、直接対峙したことも、戦ったこともない浅はかな人間には、クマの恐ろしさを想像することは無理なのかもしれんのう」

NOVA『命がけで危難に対峙している当事者に、赤の他人がしたり顔で口を挟んで、どうこう言っている時点で何様のつもりだろうと思うばかりですが、そろそろ話をまとめます』

ヒノキ「最後の呪文、ターシャ印の腐食液じゃな」

NOVA『カタパルトよりも、こちらの方が使い勝手が良さそうですね。内容は直線30フィート(9m、6マス分)に噴出する酸で、敏捷セーブに失敗すると2D4ダメージを与えます』

ヒノキ「直線だと、最低でも2体は巻き込めそうじゃのう」

NOVA『マップ戦闘でなければ、1体にしか当たらないんですけどね。まあ、プレイヤーがごねれば、2体ぐらいは巻き込めるはず、と主張できるでしょう。抽象戦闘で処理するにしても、「うまく敵2体が入るように動きます」と主張して、それが不可能だと言い張れるDMはいないと思う。さすがに3体以上が巻き込めるかは微妙だけど』

ヒノキ「単体攻撃であることが明確なカタパルトに比べて、一応は範囲攻撃呪文じゃから、最低でも2体を巻き込むように撃つことは可能。それで?」

NOVA『威力は若干弱いんですけど、命中した酸は継続ダメージを出すんですね。つまり、毎ターン2D4のダメージをくらい続ける。それを避けるためには、1回のアクションを費やして酸を拭きとらないといけない。ここで目標が酸を拭きとる知恵を持つ相手かどうかが問われる。4つ足の獣だったら、水に飛び込むとかしない限り、酸を拭きとることは困難でしょうし、最低でも拭きとることで攻撃が1回休みになる。継続ダメージを与え続けるも良し、敵の攻撃を1回休みにしても良し、なかなかテクニカルな戦術呪文だと思いますよ』

ヒノキ「一か八かの破壊力に賭けるカタパルトか、それとも複数狙いで継続ダメージか攻撃中断を狙える腐食液か。アーティフィサーの1レベル呪文で、攻撃を求める向きにはお勧めということじゃな」

 

NOVA『あとは、キャラクターレベルが2になると、4種類の魔具化式と、2つの魔具化アイテムの作成でできることが増えて、レベル3になると、いよいよサブクラスを選ぶことで、できることがさらに増える。アーティフィサーの本領発揮は、3レベルのサブクラス選択からだと考えますので、次回はそのサブクラスの話に入ります。ふう、呪文話は面白いけど、数が多くて疲れたというのが本音』

ヒノキ「おつかれなのじゃ」

(当記事 完)