NOVA「翔花、いるな。すぐに準備しろ」
翔花「何よ、NOVAちゃん。帰って来るなり、そんなに慌てたりして」
NOVA「今夜は、14日の土曜日。奴が来るんだ」
翔花「奴って?」
NOVA「殺人鬼だよ」
翔花「殺人鬼って、ジェイソン? 昨日、話してくれたのは覚えているわ。でも、今夜は13日の金曜日じゃないから、関係ないわよ。それとも一日遅刻して来るわけ?」
NOVA「ジェイソンの話は単なる前振りに過ぎん。本当の敵は、今夜来るはずだ」
翔花「今夜って、もしかして『14日の土曜日』って映画でもあったりするの?」
NOVA「ついでにこっちもな」
翔花「なるほど。今夜は映画を見て、楽しむ趣向なわけね」
NOVA「違う。これらの映画は、今夜の物語には何の関係もない」
翔花「関係ない……って、だったら、どうして貼り付けたりするのよ。単刀直入に説明しなさい」
NOVA「翔花、今夜はお前に戦ってもらう。戦わなければ生き残れない」
翔花「ちょっと、何よそれ。そんな急展開、聞いてないわよ」
NOVA「昨夜、説明しようとしたんだがな。今夜に回そうと言ったのは、お前だ」
翔花「私がそうしようと言ったのは、ジェイソンの話であって、ジェイソンと戦うなんて有り得ないでしょ」
NOVA「うん、それは有り得ないな。奴はアメリカから出て来れない。ニューヨークに遠征し、さらに宇宙に行った話もあるが、日本に来た話はない」
翔花「ジェイソンじゃなかったら誰と戦うというのよ。もしかして、リュウケンドー様?」
NOVA「何でやねん。リュウケンドーは殺人鬼じゃねえ」
翔花「マスクかぶって、大きな刃物を持ってたら、似たようなもんでしょ」
NOVA「そんなことを言ったら、日本のヒーローで該当するものがいっぱいあるだろうが。平成の主役ライダーって、フォームチェンジも含めれば、剣で戦わない方が珍しいぞ。というか、一人もいない」
翔花「ジェイソンでもなく、リュウケンドー様でもなくて、映画も関係ないって、じゃあ、誰が来るというのよ?」
NOVA「うむ、それはな。ケイソンだ」
翔花「はあ? 一体、誰よそれ?」
NOVA「言っておくが、検索しても意味はないからな。俺の言うケイソンは、俺の記憶の中にしか存在しない殺人鬼だ」
翔花「NOVAちゃんの記憶にしか存在しないって、そんなの有り得るの?」
NOVA「ああ。だって、奴を創造したのは他ならぬ俺であって、しかも誰にもその存在を知らせず、ゴミ箱にポイっと捨てたからな。全ては35年前の話だ」
翔花「言っていることがちっとも分からないよ、NOVAちゃん。殺人鬼を創って、ゴミ箱にポイって、あんた、一体、何をしてるのよ? いつもにも増して、言っていることがおかしいわ」
NOVA「う〜ん、もう少し詳しく説明しないと伝わらないか。奴が来るまでに間に合うかな?」
14日の土曜日と、ケイソンの知られざる話
NOVA「俺は昔からお話作りが趣味でな。小学校高学年の時は、桃太郎や金太郎のような物語の主人公がチームを組んで戦うような冒険物語を書いたりもした。まあ、小学生の作る物語なんで、陳腐で語る価値もない代物だがな」
翔花「ふむふむ、それで?」
NOVA「中学生になると、映画やアニメを見て印象的な作品は、文章化して思い出を残すようにするのが習慣だった。創作ノートなんてものは作らずに、チラシ裏などの適当な紙に書いたりして、お気に入りの作品は、机の引き出しの中に保管してあったりしたんだ。そのままストーリーどおりに書く場合もあれば、キャラ名や用語だけ変えて、オリジナルっぽさを装ってはみたが、ストーリー展開は変わらないものとか、とにかく書き散らしていたものだ。一例を挙げると、『風の谷のナウシカ』見て感動して、自分なりに感動を残そうと『風に乗る少年ミシマ』ってタイトルと主人公の名前だけ変えて設定を作ったものの、どうまとめたら良いか分からずに、キャラ名リストと物語のあらすじまでは書いて、そこで終わって、机の引き出しに入れた紙切れとかな」
翔花「それって、要するに盗作よね」
NOVA「ああ、世間に発表していればな。もちろん、自分はただ書きたかったから書いただけで、他人に発表するつもりは一切なかった。俺の夢空間は、机の引き出しの中だけに溜められ、やがて受験勉強の際にゴミとして惜しまれることもなく処分されたわけだ。その時には、自分の記録を残そうという気持ちも薄かったからな。その時、書いて、適度な形になったら満足。一応、記念として引き出しには放り込んだんだけど、時間が経てば捨て去っても構わない程度の内容で、自己満足できたら十分だったんだ。まだ、小説作りのノウハウもまともに考えておらず、衝動のままに書き殴っただけの、志のかけらもない愚作ばかり。人様に読ませるほどの内容でないことは、自分が一番分かっていたんだ」
翔花「一言で言えば、幼き日の黒歴史ってところかしら」
NOVA「そいつは否定しない。そして、スプラッター映画を見た恐怖と興奮に影響されて、その夜、見た夢を形にしたのが俺の『14日の土曜日』。そこに登場した殺人鬼がケイソンだったんだ」
翔花「ええと、念のため聞くけど、ケイソンのケイって、アルファベットのK? Jの次って感じ?」
NOVA「正解だ。一応、中学生なりに良いアイデアだと思って名付けたんだが、今から見ると陳腐そのものだな。内容はもっと酷いんだけど」
翔花「どうせ、殺人鬼ケイソンが人を殺しまくるんでしょ?」
NOVA「もちろんだ。ただ、その最初の犠牲者が俺自身でな」
翔花「いきなり、自分を殺してどうするのよ? 自殺願望でもあったわけ?」
NOVA「いや、夢を形にしただけだと言ったろう? 夢の主人公は俺で、いきなりケイソンに襲われて、一生懸命逃げるんだけど、結局、殺されてしまう。普通なら、それで飛び起きて、恐怖に震えて眠れなくなっちゃうのが、よくあるパターンなんだろうけど」
翔花「そのまま死んだように眠り続けた、とか?」
NOVA「それも違う。死んでも何故か意識を残していた俺は、そのままゾンビになって、ケイソンに操られるままに、周りの人に襲いかかって、次々と仲間を増やしていったんだわ」
翔花「殺人鬼映画からゾンビ映画に変わったのね。ひどいB級映画みたいな展開。で、最後はどうなったの?」
NOVA「いや、それで終わり。自分がゾンビになって人を襲い、仲間を増やすようなことを頭に思い浮かべたはいいものの、怖くなったのか、バカバカしくなったのか、書いていた紙を途中でクシャクシャ丸めて、ゴミ箱に放り込んで、その後、省みることもなく、はい、おしまいってオチ」
翔花「それが35年前ということね。だけど、昔の話じゃない。それが今夜、私が戦わなければいけない理由とどうつながるのよ? そんなカビの生えた昔の妄想に、私を巻き込まないで欲しいわよ、まったく」
NOVA「いや、翔花。お前はそのために生み出された花粉症ガールなんだ。俺の過去の妄想が生み出した悪霊と戦うために、俺のヒーロー魂と花粉症をレッツ・ラ・まぜまぜしてできた、プリキュアではないけど、俺オリジナルのバトルヒロイン、それこそが粉杉翔花の存在理由の一つなんだよ」
翔花「何ですって!?」
翔花覚醒
翔花「シクシク。こんなのってないよ。私、アシスタント娘として、ここで楽しくおしゃべりして暮らしていきたかったんだよ。それなのに、NOVAちゃんは私に、戦えって。戦わなければ生き残れないって、一体、どういうことよ? 私、まるで鋼鉄ジーグの司馬宙みたいじゃない。心の中はバラバラババンバンな状態よ」
NOVA「アシスタント娘としてのお前も、大切な存在理由なのは変わりない。だけど、人はただ一つだけの存在として生きているわけじゃない。俺は、ここではブロガーだが、また塾講師でもあるし、特撮掲示板管理人としての役割も持っていて、時と場合によって使い分けている。表稼業が花屋から鍛冶屋に転職し、裏稼業では仕事人だが、その前はスカイライダーで、現在は、2時間ものの刑事ドラマや時代劇で大活躍の村上弘明さんだっている。俺はできれば、この人に新時代必殺の元締め役をやってもらいたいと思っているんだけどな」
翔花「村上さんなんて、私に何の関係もないじゃない。突然、何を言っているのよ」
NOVA「いや、翔花、お前の名前は村上さんにもつながっているんだ。彼は花屋の政であり、お前とは花つながり。そして、スカイライダーとして大空を飛翔するんだぞ。翔花、お前も俺の魂の一部を宿しているのなら、今こそ、壁をぶち抜き、雲を払って、心の扉を開くときじゃないか? 俺はお前の勇気を信じている」
翔花「だって、ケイソンは元々、NOVAちゃんが作った殺人鬼の悪霊じゃない。NOVAちゃんが自分で始末を付けるのが当然でしょ。自分の後始末を私に押しつけるなんて、見損なったわ」
NOVA「俺じゃ、ケイソンは倒せないんだ」
翔花「どうしてよ。作れるなら倒せるはずでしょ」
NOVA「倒せない理由は三つある。一つ、奴には実体がない。現実の体を持たない霊体なんだ。三次元の住人には、奴にダメージを与えることはできない。精霊のお前でしか相手ができないんだ。スタンド(幽波紋)を倒せるのは、スタンドだけ。その理屈は分かるよな」
翔花「……他の二つの理由を言いなさいよ」
NOVA「二つ、奴の目的は、俺を昔の物語のようにゾンビに変えて、殺人鬼の下僕にすることだ。俺が奴に触れると、物語の呪縛のせいで、奴の下僕にされてしまう。俺の意志とは関わりなくな。そういうルールが描かれた以上、それは作者であっても簡単には覆せない」
翔花「そんな。NOVAちゃんがゾンビにされたら、私、どうなるの?」
NOVA「俺がゾンビにされた影響が、お前にどう出るかは分からない。可能性としては、お前もゾンビ花粉症ガールになるかもしれないし、不定形になって被害を防げるかもしれない。どっちにしろ、俺がゾンビになった時点で、このブログの継続は不可能だろうな」
翔花「そんなの嫌だよ。NOVAちゃんが戦えないなら、私が代わりに戦います」
NOVA「三つめの理由は聞かなくてもいいのか?」
翔花「NOVAちゃんが戦えない理由なんて、二つも聞けば十分よ。私の方に戦う理由が三つできたもの。NOVAちゃんを守り、このブログを守り、35年前の因縁を解消してみせる。戦うことが私の生まれた理由なら、使命なら、宿命なら、私は逃げたりはしない。必ず生き残って、NOVAちゃんとの平和な時間をまた取り戻してみせる」
NOVA「よく言った。それでこそ、お前に俺の魔力、想いの力を託すことができる。俺は今からお前に空の力、風の力、ブルーアイズの力を注ぎ、お前を新たな段階に覚醒させる。人呼んで、ブルー・スタンドフォームだ」
翔花「ブルー・スタンドフォーム。これで戦えるようになるのね。いいわ、NOVAちゃんの力、受け止めてあげる。私に注ぎ込んで」
NOVA「後は任せた、翔花」
NOVAの中から淡いブルーの輝きが放たれ、翔花の全身を包み込む。幻想的な魔力と、花粉の粒子が飛び交い、螺旋を描きながら、通常の装いをフリルのついた魔法少女の衣に次々と映し変えていく。そして数十秒後、
翔花BS「空の力を想いに変えて、灯せ平和の青信号。花粉SHOWガール、ショーカ・ブルー・スタンド、ここに降臨。スギ花粉の力で涙目浄化OKね……って、一人で決めポーズとっても虚しいだけじゃない。NOVAちゃん、フィリップみたいに倒れてるし。このまま寝かせてあげるしかないわね。それより、敵はどこから来るというの?」
その時、NOVAの部屋のゴミ箱に異変が発生した。
翔花BS「キャッ、何、この邪悪な気配。ゴミ箱から黒いオーラが湧き出てくる。時空を越えて何かが飛び出そうとしてるみたいね。これが噂に聞く特異点とか、ワームホールって奴かしら」
警戒しながら見守る中、時空ゲートと化したゴミ箱から何かが飛び出して来た。
マスクの男「ケケケケケイソーンッ!」
翔花BS「あなたが、NOVAちゃんの言っていたケイソンね。35年の封印が解けて、この時代に出現したみたいだけど、残念だったわね。2018年には私がいるの。浄化してあげるから、覚悟なさい」
ケイソン「ココココ小娘ゴトキガ、コノけいそんサマニ歯向カオウトハ、身ノ程知ラズナモノヨ。ザックリ殺シテ、我ガ下僕ニ作リ変エテヤルワ」
こうして、花粉SHOWガール、ショーカ・ブルー・スタンドの最初の戦いが始まった。果たして、彼女は殺人鬼の悪霊ケイソンに対して、どう挑み、撃退できるのか。
続きは、ニチアサ、スーパーヒーロータイムを見終えてから書く予定。(つづく)