今回は聖騎士編(および雑誌の話)
ヒノキ「今回はジュニア中心にパラディンの話じゃ」
ジュニア「アリナ様、ところで新星さまはぁ?」
ヒノキ「うむ。新兄さんは都合で遅れて来るそうじゃ。先にGMウォーロックの表紙が出たことを連絡して来たがのう」
ゲンブ「メインはやはりマーダーミステリーでござるなあ」
ヒノキ「マーダーミステリーはTRPGと違って、リプレイ的な読み物成分が不足しているのが問題なのじゃ。シナリオはいろいろ雑誌に載っておるが、読み物としてはリプレイ記事がいかに秀逸な発明かということが、あまり載らなくなってから分かった。マダミスは、犯人探しという推理劇がポイントであるうえ、プレイするたびに犯人が変わるようなランダム性に欠けるため、リプレイによるネタバレと相性が悪い。よって、マダミスのプレイの様子を記録した読み物記事が雑誌には載らんのが残念とも言える」
シロ「でも、マダミスをモチーフとしたアニメ作品が去年は放送されたので、今後は古い作品(ネタバレ解禁)の書籍リプレイとか小説なども登場するかもしれません」
ヒノキ「まあ、GMウォーロックがマダミス・メインの雑誌になって、TRPG好きなわらわにとっては、読みたい記事が減って行くのが辛いところじゃが、この道はかつてホビージャパンのRPGマガジンや、TRPG冬の時代などに経験したこと。ソード・ワールドが健在な限りは雑誌も追いかけたいのじゃ」
シロ「ソード・ワールドと雑誌と言えば、こういうニュースもありました」
ヒノキ「ドラゴンマガジンか。無印ソード・ワールドは88年にドラゴンマガジンと共に企画が始まったのじゃな。その後、山本弘さんのソード・ワールド・リプレイや、バトルテック、シャドウラン、そしてアリアンロッドのリプレイなど、多くの富士見ドラゴンブック系列のリプレイ掲載が行われて、TRPGのサポート雑誌および富士見ファンタジア文庫と連動してのライトノベル連載雑誌として、日本のTRPGを支えてきた一角じゃった」
ゲンブ「しかし、2008年以降は月刊誌から隔月刊誌になり衰退の一途を辿ったと聞く」
ヒノキ「と言うか、まだ継続しておったのじゃな。TRPGを切り捨てて、ラノベ専門に成り果てて以降は、あまり追っかけておらんかったわ。一応、リウイやグランクレストなども小説の連載があったようじゃが、ゲームを雑誌でサポートしたわけでもなく、ゲームとラノベのメディアミックスを雑誌がプラットホームとして宣揚する初期の理念を喪失しておったからのう」
シロ「ゲームとリプレイから小説への展開という構図が、時代の変化に応じて、RPG風ファンタジーが一般的に定着した結果、別にゲームをプッシュしなくても、ラノベはラノベだけで展開できるという企業方針、雑誌方針に切り替わって行ったのかもしれませんね」
ヒノキ「時代も変わり、作り手(編集部)も変わり、リニューアルによって雑誌の中身も変わる中で、かつての黄金期とは違うスタイルになったとは言え、ドラゴンマガジンのブランドが終わることに特別な感慨を覚える人間も多いようじゃな」
シロ「最近の表紙画像はこちらで分かりますね」
ヒノキ「今月18日発売の3月号と、3月に発売予定の5月号で長年の歴史も幕を閉じるのじゃな。『スレイヤーズ』や『風の大陸』『ドラゴンハーフ』『ルーンマスカー』などなど、いろいろと懐かしい」
改めて聖騎士の話
ジュニア「それでは前置きを終えて、パラディンの話に移りますぅ。ところで、今年はD&Dのキャラクタークラスにパラディンが追加されて50周年になるのですねぇ」
ヒノキ「うむ、確かに言われてみれば、そうじゃのう。74年にD&Dが誕生して、最初のサプリメント『グレイホーク』が出たのが75年。当初は戦士、魔法使い、僧侶の3職だけだったのが、盗賊とパラディンが追加クラスとして登場した」
シロ「その後は、第2サプリメントの『ブラックムーア』でアサシンとモンクが、第3サプリメントの『エルドリッチ・ウィザードリィ』(76年)でドルイドと、サイオニクス(超能力)のルールと、モンスター種族のデーモンが実装されたそうですね」
ゲンブ「すると、レンジャー、バーバリアン、イリュージョニスト、バードの4職はAD&Dで初実装でござるか」
ヒノキ「そう考えると、パラディンの歴史はD&Dの中でも結構早いということになるのう」
ジュニア「その後も、パラディンは常にD&Dで安定した強さの職業として、常連となっているわけですぅ」
ヒノキ「職業が簡略化されたクラシックD&Dでもコンパニオンルールにおいて、ローフルのファイターが就くことのできる上級職として採用されておる。同じ戦士の上級職のレンジャーが版によって強さが不安定になりがちだったのに対し、パラディンが弱体化を指摘されたことはあまりない」
ジュニア「ファイター同様に重装備ができて、プリースト魔法も使えますので、ファイターにできてパラディンにできないことはない、と言われて来ましたぁ」
ゲンブ「強いて言えば、悪事や卑怯な振る舞いができないというのが欠点かも知れぬ。ロールプレイ的な自由度が、パラディンの守るべき戒律によって損なわれているという意見もあるでござる」
ヒノキ「それと、AD&D2版ではファイターにも特権があって、1つは9レベルになったファイターはロード(君主)として部下の兵士が集まって来て、城砦を築くことができる。しかし、パラディンには無償で集まってくる部下はいないのじゃ。金を払って雇うことはできても、パラディン自身は孤高を保つキャラなので、ルール的には部下から慕われるということがない。信頼はされても、堅物なので近寄りがたいと思われるのであろうか」
ゲンブ「あと、選択ルールになるが、ファイターのみ専門武器(ウェポン・スペシャリゼーション)という特典があって、専門化した武器は攻撃回数と命中判定、ダメージに若干のボーナスがもらえるでござる」
ジュニア「すると、武器戦闘に絞るなら、パラディンよりもファイターの方が強いのですかぁ」
ヒノキ「そこから発展して、3版ではファイターのみボーナス特技が多く与えられ、4版では攻撃力の面でパラディンが他の戦士系クラスと比べて弱いと見なされることもある」
ジュニア「攻撃よりも防御を重んじる戦士ですからねぇ。安定した強さは持つけど、一撃必殺の大火力は持っていない、と」
ヒノキ「5版でも、武器戦闘ではファイターの方が上じゃ。というのも、ファイターは最大4回攻撃が可能じゃが、他の戦士系クラスでは2回が限度で、ファイターは戦闘のプロとして恥じない強さを持っていることになる」
ジュニア「パラディンは派手な花形職業だと思っていましたが、実際は攻撃力不足だったんですねぇ」
ヒノキ「破壊力や攻撃回数の面で、ファイターが強化されるようになったからのう。その代わり、パラディンは信仰呪文や特殊能力で武器戦闘以外の多彩な支援がこなせる。そして、従来からD&Dは高レベルになるほど、武器戦闘よりも呪文の破壊力が大きくなると言われてきた。また、パラディンの特殊能力『神聖なる一撃』は武器攻撃に信仰呪文のエネルギーを注ぎ込んで(呪文スロットを消費して)2D8の【光輝】属性追加ダメージを付与するもので、初心者が呪文のルールを面倒だと感じるなら、『神聖なる一撃』だけでもパラディンらしい仕事がこなせるというものじゃ」
ジュニア「ダメージボーナスの大きい『神聖なる一撃』のおかげで、5版のパラディンはここぞというところで必殺技級の破壊力を備えるようになったんですねぇ。防衛役という設定から、攻撃力不足を指摘されていた4版の時とは運用も異なる、と」
ヒノキ「レンジャーほど極端ではないが、細かくルールを見て行くと、パラディンも版によって相応の違いが見られるのじゃ。例えば4版のパラディンは呪文が使えず、代わりにスマイト系の必殺打撃を数多く備えるようになっておる。攻撃力不足というのは、他の撃破役に比べてのことで、二刀流で手数の多いレンジャーや、挟撃さえできれば『急所攻撃』で常にボーナスダメージが乗るローグなどに対して、一撃のみの破壊力になりがちということじゃ」
ゲンブ「つまり、攻防のバランスのとれた安定型と言ったところか。平均した攻撃力は武器使いとして標準的でござるが、一撃必殺の技自体は持っていて、弱いというと語弊がある」
ヒノキ「何にせよ、ファイターと並ぶ前線の壁として、パーティを守るのがパラディンの第一の仕事。いざという時には、癒しの力で支援にも回れるし、剣による攻撃力と回復支援魔法を使いこなすのは正に勇者と言ってもよいクラスなのじゃ」
シロ「勇者ですか。だけど、最近のリメイク版ドラクエ3では、『歴代最弱の勇者』という風評を聞きましたが」
ヒノキ「リメイク版はプレイしておらんが、新職業の魔物使いの特技が強力すぎて、極めたプレイヤーはパーティのメンバーを全員、魔物使いに転職させて無双させるそうじゃな。そこで転職できない勇者だけは、自前の特技だけしか使えずに、カスタマイズ性においては非常につまらない発展性の乏しいクラスとなった。決して勇者が弱いわけではないが、他の仲間がもっと強く転職によるカスタマイズ強化が可能ゆえ、見劣りがすると考えるマニア勢もネット上では散見される、と」
ゲンブ「勇者の弱さは昔から指摘されていたでござる。物理戦闘では戦士や武闘家ほどの破壊力を持たず、魔法戦では専門家の魔法使いや賢者に及ぶべくもない。何でもできると見えて、最強にはなれないのが勇者だと」
ヒノキ「ダイ大じゃな。しかも勇者最大の武器と言われた勇気は、ポップの心の力となって、ダイの方は『純真』じゃったか。少年らしい真っ直ぐさこそ、人々の希望をつないで鼓舞する力となる。だからこそ、勇者はどういう局面でも、最後はあいつに託せば、負けることはないという信頼を勝ち得る主人公になる。パラディンもできれば、そういう一途な高潔さでロールプレイしたいものじゃのう」
シロ「ところで、FF4のパラディン・セシルはどうでしょうか? 人前で恋人とイチャイチャして恥じないようなのは、D&D的なパラディンの戒律志向とは異なる表現だと思うのですが」
ヒノキ「あれは元々、暗黒騎士じゃったからな。やはり、欲望とは無縁ではいられなかったのじゃろう。暗黒騎士の時代は、まだ心の闇に負けまいと自制する心を持っておったが、パラディンとなって光の力を解放すると、ついでに己の恋愛感情も解放するようになった。まあ、FF4の世界は白魔道士も別に信仰や戒律に厳しい教団を組織しているわけでもなく、中世キリスト教の騎士文化に基づくD&Dの聖騎士パラディンとは異なる道徳観と言えよう」
ゲンブ「そもそも、当時のD&Dそのままじゃと、パラディンが領主や国王になることはルール的に不可能でござったからな。それだと、ロードスのファーン王すら否定してしまう。物語の世界観ごとに異なるパラディン像があって然るべきでござろう」
ヒノキ「とにかく、勇者やパラディンの理想は、世俗的な権力に執着することなく、自己の理想の世界を実現するために、新たな冒険に旅立つのが一つの類型かもしれん。さもなくば、勇者を引退するか、聖騎士の後継を育てるか、いろいろな未来設計もあるじゃろう。もちろん、神聖国家の英雄王として至高神の教団から推戴されるケースもあるじゃろう。己の私利私欲ではなく、民に乞われての指導者であるなら、無下にもできんじゃろうし」
ゲンブ「国家の大義と、聖騎士の理想が上手く結びつけば、そういう道もあるのでござろうな」
ヒノキ「戦乱や大災害の後は、それを解決できる強力なリーダーシップを持った秩序の担い手を人々は求めるものじゃ。さもなくば、不安を鎮めるためのスケープゴートとかな。そして、民の鬱屈した怒りが弱者に向かうか、権力を持った強者に向かうかはどちらも有り得る。また、権力者が自分たちに民の怒りが向かないよう、情報操作して怒りの矛先を弱者に向けるように分断政策を行う統治方法もある。川の氾濫を防ぐための分流を築くのは、治水手段の一つじゃからのう」
シロ「腹黒い政治工作の世界は、理想主義のパラディンとはしばしば噛み合わないようですね」
ヒノキ「統治者に必要なのは、清濁併せ呑む素養と言われておるが、濁に耽溺するとパラディンでは居られなくなるゆえ、王権と聖騎士を掛け持つのは大変厳しいということじゃな」
ゲンブ「善意を持った人間ばかりの少人数の組織なら、パラディンは優れたリーダーシップを発揮できようが、国家の運営は善意だけでは成り立たんでござるし、立場や意見の異なる人々の誰に利益を与え、誰に涙を呑んでもらうか、誰を助けて誰を見捨てるかなどの利害調整も必要となる。最大多数の最大幸福を求める一方で、切り捨てた人間の補償なんかも考える政治家は、理想主義だけでは成り立たん」
ヒノキ「ただ、それで自国民を切り捨て、他国民を優遇するような政策をしていれば、国の形を見失うことになろうし、国家運営をリアルに考えれば考えるほど、ゲームやラノベにおけるファンタジー国家は物語として単純に構築されていることは分かる」
シロ「複雑な政治状況の中で、読者やプレイヤーは主人公(あるいは自分のキャラたち)を取り巻く状況をかいつまんで理解する必要がありますからね」
ヒノキ「物語で大事なのは、誰が味方で、誰が敵か。誰が信用できて、誰が信用できないか。そして信用はできなくても、利害は一致しているから敵に回ることはないだろうと判断できるのか。最も厄介なのは、悪意はないのに立ち回り方が非常に下手なので、悪気のあるなしに関わらず、信頼が置けない愚か者であるが」
NOVA「誰の話をしているんだ?」
ヒノキ「おお、新兄さん。別に新兄さんの噂をしていたわけじゃないぞ。うむ、新兄さんは気まぐれゆえに立ち回りが上手いか下手か判断がつかんゆえ、賢いのか愚かなのか断言できるものではないわ」
NOVA「それって褒め言葉じゃないよな。信頼できないという意味では、大差ないと思うが?」
ヒノキ「今は、パラディンの話の最中でな」
NOVA「パラディンって、政治権力は割とアウト・オブ・眼中なキャラだろう? 国の大義ではなく、己の信念に基づく大義を優先するので、ある意味、究極の自己中なところがある、と思う」
ジュニア「そうなのですかぁ?」
NOVA「日和見じゃないんだよな。世界を敵に回しても、自分のハンドルは自分で握るのがパラディンじゃないのか? 己が強く輝くことで、偽りの光を打ち消すほどの強烈な自我、それこそパラディンだと考えるが」
ゲンブ「それはまた面白い解釈でござるな。パラディンと言えば、秩序にして善の権化。つまり、自己を犠牲にしても、秩序を守る滅私奉公万歳なキャラだと考えていたでござるが」
NOVA「滅私奉公で自分の理想や誓いが果たせるなら、そうするだろうけど、公が自己の理想や誓いと矛盾するなら、それでも主君への忠誠を重んじるのが普通の騎士で、聖騎士の場合は矛盾する公を切り捨てても、己の理想に突き進む。だから、パラディンは組織を頼らずに、どこまで行っても自己と神(あるいは信奉する上位者)のために尽くすんだ。世界が敵に回っても、己の信じる大義を曲げない強烈な自負。そこに矛盾はない」
シロ「なるほど。世間に迎合するのではなく、己の正義が第一なんですね」
NOVA「たぶん、70年代から80年代においてはパラディンの正義って分かりやすかったと思うんだ。ファンタジーRPGをプレイする層も、宣揚するクリエイター陣も若く、勧善懲悪を素直に楽しめる昭和人間だから。でも、平成に入って、何が正義で何が悪かリアルでもフィクションの中でも混迷状態が定番となり、声高に正義を訴えることがギャグか痛いと言われる時代に入って、いわゆる不良の中の正義漢や、悪ぶった人情家が王道ヒーローにとって変わった時代では、パラディンの正義イメージも多様化せざるを得ない」
ジュニア「多様化する正義ですかぁ」
NOVA「幕末を考えてみると、尊皇攘夷の志士が正義か否かは議論のネタになるぞ。日本の敵である侵略者の外国人を切り捨て、古来伝統の天皇家を守る護国思想は一面で正義だが、そういう過激派よりも文明開化を目指す者を正義と見なすことも可能。そもそも、江戸幕府は開国派で、尊皇攘夷も討幕派というわけではないが、攘夷が現実的に不可能だと悟ると、『天皇を中心に外国に負けない国づくり』という路線の切り替えての討幕と明治維新だ。この中で、正義を語るのが非常に難しいことは分かるよな」
ヒノキ「幕末とパラディンは関係ないじゃろう?」
NOVA「国家神道を旨とする宮家に忠実な武士は、ジャパニーズ・パラディンと名乗れませんかね。D&Dで『幕末聖武士伝』というキャンペーンも考えられなくはないですよ」
ゲンブ「聖騎士ならぬ聖武士でござるか」
NOVA「斬新かな、と思ったら、こんなコミックがあったり」
NOVA「聖騎士が吸血鬼化して、騎士ではなく武士を名乗るって、それは本当に武士なのか? とツッコミ入れたくなるタイトルですが、パラディンの上級職でディバイン・サムライという日本刀使いの聖戦士ぐらいはD&Dでも探せばありそうだと思うんですよ。別に、全てのパラディンがヨーロッパの中世騎士道を文化背景に持つ必要がない、というのが5版ですから」
ヒノキ「混迷化する世界に合わせて、パラディンというキャラクラスも多様性を身に付けねばならないということじゃな。では、ジュニア、改めてサブクラスの研鑽を発表せよ」
ジュニア「ええ。新星さまも来ましたしね」
王道コアルールのパラディン
ジュニア「では、まず基本から行きますぅ。典型的なパラディンは『献身の誓い』と言って、正義と徳と秩序を尊ぶキャラですねぇ」
①献身の誓い
PHBに収録された最も正統派パラディンのサブクラス。
白騎士や聖戦士という称号にふさわしく、神に近いエンジェルを理想とする。
防御呪文や浄化呪文を授かり、武器聖別や不浄者退散といった特殊能力も得られる。
誓いの内容は、正直、勇気、同情、名誉、義務。
ジュニア「とりあえず、パラディンと言えばこれ、という古式ゆかしいサブクラスですぅ」
NOVA「その意味では、ステロタイプ過ぎて、つまらんということだな。初心者向きパラディンというか」
ジュニア「だから、ここから多様性を示しますよぅ」
②古き者の誓い
PHBに収録された自然崇拝型のサブクラス。
人間の騎士道ではなく、エルフやドルイドの文化に応じたパラディンで、妖精騎士(フェイ・ナイト)や緑の騎士といった呼称も持つ。
動物や自然関連の呪文が追加され、敵を自然の力で呪縛したり、アンデッドは退散させられないが、悪の妖精や異界の魔物を退散させる特殊能力を得る。
誓いの内容は、光を重んじ、慈悲や親切、美と愛と生命、明るい希望と喜びを尊ぶ。
NOVA「21世紀型の、いわゆるエコ・パラディンという奴だな。従来のパラディンが、人間の中世的価値観に基づいていたのに対し、大自然の勇者的な別文化由来のヒーローだ」
ジュニア「従来のパラディンが、頭の固い規律重視の信仰観だったのに対し、もっと自然の声、精霊の声を神聖なものと考える文化圏ですねぇ」
NOVA「かつては原始的な信仰として、欧米の文明史観からは劣っていると見なされた価値観が新たな脚光を浴びた時代の変化に合わせて、採用されたサブクラスだな。従来はレンジャーやドルイド的な領域に、パラディンとして踏み込んだとも言える」
ジュニア「頭ガチガチなパラディン像を、もっと人情重視の自然主義な庶民派ヒーローに切り替えた存在ですぅ」
NOVA「90年代以降のヒーローやヒロインも、自然の声を聞いて、優しさを重んじる傾向が増えたからなあ」
ジュニア「でも、同時に苛烈さを重視するサブクラスも収録されているんですねぇ」
③復讐の誓い
PHBに収録された正義執行、悪即斬の攻撃型サブクラス。
自らの純粋さを守ることよりも、悪を討つことを重視し、復讐者(アベンジャー)や闇の騎士と呼ばれることもあるが、暗黒面に堕ちたわけではない。
敵の動きを封じたり、獲物を狩るハンター的な呪文が追加され、祈りによって敵に恐怖を与えたり、滅殺を誓うことで対象への攻撃に有利を得る特殊能力を持つ。
誓いの内容は、討滅、因果応報、悪事に報いを。
NOVA「従来なら敵キャラっぽいキャラ付けだったんだけど、優しさよりも強さや激しさを旨とするダークヒーロー風パラディンなんだな。復讐者(アベンジャー)なんて、クラシックD&Dだと悪(カオティック)属性のパラディンだったんだが、5版ではDMGに闇堕ちパラディンを表現する『誓い破りし者』というNPCクラスが用意されていて、それと比べるなら『復讐の誓い』は十分にヒーローしていて、ヴィランでは決してないことが分かる」
※誓い破りし者
5版DMGに収録された悪のNPC専用パラディン・サブクラス。
己の聖なる誓いを破って、暗い野心の虜になったり、強大な悪の存在に仕える道を選んだアンチ・パラディン。
人を傷つけたり支配するのに特化した暗黒魔法を与えられ、アンデッドを退散ではなく、支配することも可能となる。
憎悪や恐怖を振りまき、戒律には縛られず、己の暗き欲望を満たすために力を求めるに至る。元のパラディンのときに抱いていた誓いは、しばしば反転することも。献身者が正義否定の快楽主義や残虐性を示したり、古き者が光を忌み嫌うようになったり、復讐者が復讐の対象に心酔するようになったり、などなど。
強い正義ほど、闇堕ちすると強大な悪になるという物語を体現化した存在。
なお、ここから正義に返り咲くルールもあったりして、なかなか奥が深い。
ジュニア「正義の多様化がテーマの中で、復讐する正義と、正義を捨てた悪の違いが、これで明示されたわけですかぁ」
NOVA「復讐者は、復讐という一点においてブレないんだよな。一方、誓い破りし者は元パラディンが転向した存在だから、生まれついての悪とは異なる。そこには嫌でも、悪堕ちした背景があり、価値観の逆転がある。つまり、ドラマ性が濃いわけだ。
「そして、ハリウッドの悪堕ちキャラでは、スターウォーズのダース・ヴェーダーという絶大な知名度を誇る類型がある。つまり、主人公の父親や身内が悪堕ちという要素で、主人公のドラマにも大きく貢献する手法だ。赤の他人の悪堕ちより、身近な人間で昔は良い人だったのに、父さんどうして? というドラマは、少年少女のヒーロー物語において、絶大なハラハラドキドキを与えてくれる」
ヒノキ「たまに、時間移動もので未来から来た息子や娘が悪堕ちというケースも考えられるがのう」
NOVA「経験者としては、そっちの方がキツいかもしれませんね。過去の世代が悪堕ちなら、その世代の過ちを正して、その無念を継承して未来を良くする終わり方もできますが、未来の世代が闇に染まると、親としてはしっかり躾けないとって気持ちと、子どもへの同情が先立って、なかなか本気で戦えない。しかも、子どもを切り捨てるなんてことをしたら、ヒーローの面目丸つぶれですし」
ジュニア「とにかく、悪の精神寄生体に乗っ取られたり、洗脳されたりしたケースもありますがぁ、己の体験で正義を見限って、信念を持って悪に邁進する身内というのは、ドラマも鬱な方向に盛り上がるですぅ」
NOVA「悪堕ち話は大好物だが、次に行こう。新5版では、もう一つPHBのサブクラスが増えたんだな」
④栄光の誓い
ターシャ本から新5版のPHBに昇格したサブクラス。
自らを「英雄伝説に謳われるヒーローになる運命にある」という強い信念を持ち、理想の英雄たらんと振る舞う英雄オタクなパラディン。
ヒロイズム(勇壮という名の自己強化呪文)などヒーローっぽい呪文が追加され、身体強化系の特殊能力や、「神聖なる一撃」が仲間を鼓舞する効果を持つなど、自他ともに英雄伝説を体現しようとする。
誓いの内容は、言葉よりも行動、苦難を恐れずに仲間を鼓舞、体と魂を鍛え上げろ。
NOVA「今のタイミングだと、正にウイングマンと言おうか。ヒーローになりたいと英雄伝説に憧れて、強い信念でいろいろ実践していたら、本当にヒーローになったという奴。最終段階の特徴が『生ける伝説』といって、自分のこれまでの冒険を振り返って、英雄らしく奮起するというもの。もう、勇者である自分に絶対の自信を持つ熱血漢ということだな」
ジュニア「他のパラディンが、神とか、大地とか、死者の霊魂の恨みを晴らすといった信念を誓いの原動力にするのに対し、物語の英雄への憧れを原動力にするわけですからねぇ。ちょっとビックリですぅ」
NOVA「でも、俺にはよく分かる。ヒーローに憧れて、ヒーローに恥じない自分を目指すというのは、一種の信仰だからな。リアルでも英雄神という伝承がある以上は、神話伝承と英雄物語はどちらもバイブルたり得るわけだし、そんなパラディンがいてもいい。しかし、サプリメントの色物クラスでなく、ルールブックのコアクラスに抜擢されるとは凄いな。英雄に憧れて英雄になるキャラを公式が基本の王道だと認めたようなものだ」
ヒノキ「リアルでも、仮面ライダー大好き少年が成長して仮面ライダーになったり、フィクションへの憧れが現実を動かす事例が増えたからのう。ならば、D&Dの英雄に憧れた後の世代のキャラクターが新たな英雄になるという物語連鎖も生じるのであろう」
NOVA「そういうのが、標準的なパラディンとなり得ると公式が判断したのでしょうね」
その他のサプリの風変わりなパラディン
ジュニア「では、サプリメントの追加サブクラスを見ていきますぅ」
⑤救済の誓い
ザナサー本に収録されたサブクラス。
相手を戦いで傷つけることを潔しとせず、極力、話し合いで、殺すことなく平和を実現しようとする理想主義者のパラディン。
聖域守護のサンクチュアリなどの防護呪文や、眠り、金縛りなど傷つけずに無力化する呪文を習得し、〈説得〉判定+5や暴力を諌めるダメージ反射系の能力を備える。
誓いの内容は、平和、無垢、忍耐、分別。
悪魔や亡者など最初から話し合いの余地のない邪悪な存在を除けば、この世で生きとし生ける者をできるだけ改心させようとする究極の平和主義者。
NOVA「一言で言えば、ウルトラマンコスモスのルナモードだ」
ジュニア「暴れる怪獣を鎮静化させる光線を多用するウルトラマンですねぇ」
NOVA「ただ、コスモスの場合、おとなしくならない相手に対しては、ブチ切れて怒りのコロナモードで逆襲したりもするからな。まずはルナモードで様子を見て、ピンチになったらコロナという作劇パターンも見られた」
(未完)