野生の戦士の話
リモートNOVA『前回は、D&D3版および3.5版の上級クラスの話から、フォーゴトン・レルムの話に流れて、懐かしの「バルダーズ・ゲート」の話まで思い出した後、〈時を越えた英雄〉ミンスクに触れたりもしていました』
ヒノキ「ミンスクは、フォーゴトン・レルムの東の辺境国ラシェメンの蛮人戦士じゃが、ゲーム中ではバーバリアンではなく、レンジャーという設定じゃな」
NOVA『「バルダーズ・ゲート」の1は、AD&D2版に基づくゲームで、バーバリアンは基本クラスから消されていましたから。戦士系は、ファイター、パラディン、レンジャーの3職だけだったのです』
ヒノキ「つまり、バーバリアンを表現するのにレンジャーを代用したということか」
NOVA『その後、「バルダーズ・ゲート2」になると、AD&D1版にあったバーバリアンやモンクも実装され、またローグ系のキットとしてアサシンも加わったわけですが、ミンスクはレンジャーのままですね』
ヒノキ「今のBG3は?」
NOVA『調べてみると、やはりレンジャーでした。しかも筋力よりも敏捷力の高い弓レンジャー向きの能力値になって、昔の蛮人色は薄れている感じですな。代わりに、5版レンジャーらしく、獣を召喚して前衛で戦わせて、自分は後方から弓を射つというキャラになっているような。俺の知ってるミンスクとは違う運用がされているようです』
ヒノキ「まあ、その辺の戦術は、プレイヤー次第じゃろう?」
NOVA『選んだサブクラスにもよるのでしょうが、BG3では「ビーストマスター」「ハンター」「グルーム・ストーカー(暗中の追跡者)」の3種から選べるようです。獣の相棒が使えるのがビーストマスター。一方、ハンターは個人として戦闘力を高める選択。また、グルーム・ストーカーは旧5版だとザナサー本で追加されたサブクラスで、隠密奇襲能力と忍び系の追加呪文が付いて来ますね』
ヒノキ「なるほど。同じレンジャーでもサブクラスの選択で、運用方針も変わって来るのじゃな」
NOVA『その原形は、AD&D2版のキットにあると思うのですが、キットはサプリメント用の選択ルールであるのに対し、サブクラスは基本ルールという点が違います。例えば、AD&D2版のクラスから削られたバーバリアンは、ウォリアー(戦士)系のキットとして扱われました。しかし、あまり洗練されたルールとは言えなくて、「ファイターやレンジャーがバーバリアン的なロールプレイをするためのガイドと、推奨される習得技能のリストと、ちょっとした特殊能力」が加わるぐらい。厳密なルールというよりは、フレーバー(雰囲気)を加えるための指針でしかない、と』
ヒノキ「確か、AD&D2版は、クラシックD&Dがサプリで採用した技能ルールを選択ルールとして導入したのじゃったな。同じファイターでも、技能の選択によって個性づけができる、と」
NOVA『そうです。ただ、どんな技能を習得すればいいのか、という指針程度のものだったのですが、BG2ではコンピューターゲームですから、もっと厳密なルールが必要になったので、それ用に整備された感じですね。例えばBG2のレンジャーは、基本のレンジャーの他に、動物召喚のできるビーストマスター、射撃の名手のアーチャー、追跡能力の高いストーカーという選択肢があって、BG3のサブクラスにも近い扱いですね。違うのは、キットを自由に選択できるのが主人公だけで、レンジャーのミンスクをビーストマスターにすることはできなかったという点。その点で、BG3の方が育成の自由度が高そうです』
ヒノキ「バーバリアンのキットは?」
NOVA『BG2にはありませんでした。BG3のサブクラスだと、「狂戦士バーサーカー」「獣の力を身に宿すワイルドハート(トーテム戦士)」「荒ぶる魔力」の3通りが用意されています』
ヒノキ「狂戦士や獣化はそれっぽいが、バーバリアンと言えば、おバカというイメージがある。魔法など使えるのか?」
NOVA『いいえ、自分が使うんじゃないのですね。魔法使いから転職したなら別ですが、バーバリアンの荒ぶる魔力は、本能的に魔力を感知したり、激怒したときに魔力が暴走して、ランダムな結果が生じるというもの。ワイルドマジックとも呼ばれ、自分ではコントロールできない力なんですね』
ヒノキ「すると、魔力が爆発して、味方にもダメージを与える危険性が?」
NOVA『ソーサラーのワイルドマジックよりはおとなしいですね。TRPG版では、ソーサラーの魔法暴走表は50種の暴走効果がランダムに発生して、自分を中心にファイヤーボールが爆発したり、1分間喋れなくなったり、呪いで肌が青くなったり、24時間の間ハゲになったり、突然羊になったり、変なことがいっぱい起こります』
ヒノキ「何じゃ、そりゃ?」
NOVA『BG3でも同じ効果なのかは分かりませんが、ソーサラーのワイルドマジック使いはいろいろとド迷惑な事故を引き起こす危険がありますね。もちろん、お得な効果もありますので、上手くハマれば有利に働くわけですが、制御できない魔法使いってのはドラマのネタとして笑えることもあって、去年の映画でもそういうキャラが味方にいて、序盤は失敗ばかりのボンクラ魔術師が力のコントロールを学んで、真の才能を発揮できるまでに成長しました』
ヒノキ「なるほどのう。プレイにランダムの刺激を与えるのか」
NOVA『それに比べると、バーバリアンのワイルドマジックはおとなしいものです。効果は8種類で、激怒した瞬間、触手が出現して敵を攻撃したり、自分が瞬間移動したり、自爆妖精が出現したり、武器に魔力が付与されたり、相手にカウンターダメージを与えるバリアを張ったり、仲間ごとAC+1のバリアに包まれたり、周囲に蔦が生い茂って相手の移動を妨げたり、胸から光線が発射されて敵にダメージと盲目効果を与えたり、なんですが、味方が損をする効果はないんですね。つまり、バーバリアンは暴走する魔力のランダム効果を選べないけど、本能的に敵味方を感じて、味方を傷つけないような指向性は与えられる、と』
ヒノキ「とにかく、今のバーバリアンは、レンジャーとは全く違うクラスじゃのう」
NOVA『共通点は、野外環境に馴染んだ軽装戦士という点ですが、技巧派なのがレンジャーで、パワー系なのがバーバリアンといったところですな。ただ、4版ではレンジャーとバーバリアンが共に撃破役という攻撃重視の役割を与えられ、防衛役を担うファイターやパラディンといった重装甲戦士とは違う位置づけとされています。AD&Dの2版と4版では近い存在とされ、3版と5版では異なるキャラ性が強調されているようですね』
AD&D2版のキット
NOVA『では、この機にAD&D2版のサブクラスとも言うべきキットについて、唯一邦訳されたサプリメント「ファイターハンドブック」から紹介してみましょう。戦士系のキットは以下の15種類です』
- アマゾン(女系部族の女戦士)
- バーバリアン(蛮人戦士)
- ビーストライダー(野獣の乗り手)
- バーサーカー(狂戦士)
- キャバリアー(騎士)
- グラジエーター(剣闘士)
- ミュルミドン(軍隊の兵士)
- ノーブルウォリアー(貴族戦士)
- ピーサントヒーロー(民間英雄、田舎の村人上がり)
- パイレーツ(海賊)
- アウトロー(陸上の無法者)
- サムライ/ローニン(東洋の刀使い、武士)
- サベージ(未開の原住民戦士)
- スワッシュバックラー(軽妙洒脱な剣士、決闘者)
- ウィルダネスウォリアー(異郷原野の戦人)
NOVA『AD&D初版だと、こういう少し変わったバージョンの戦士は、一つ一つが異なるキャラクタークラスとして設定されたようなのですが、結局は戦士の亜種でしょ? ということで、ファイタークラスやパラディン、レンジャーに付随する背景要素として、ロールプレイの手引きや推奨技能などが示されていたわけですな』
ヒノキ「サベージとバーバリアンの違いがよく分からんが」
NOVA『サベージは、バーバリアンよりも未開です。バーバリアンはお金の価値を知っていますが、サベージはそれすら知らない。例えば、ジャングルの王者ターザンみたいに獣に育てられたとか、丸っきりの野生児とか、そういう部族のメンバーだったりしますね。キングコングを神として崇めている人たちとか。そして彼らは本能的な能力で、魔法のようにアラーム(危険に対する警報)、ディテクトマジック(魔法探知)、アニマル・フレンドシップ(動物との結びつき)、ディテクトイーヴィル(邪悪探知)の効果を発動できます』
ヒノキ「それは凄いのう。野生の勘で邪悪が分かるとは」
NOVA『「お前、邪悪な臭いがする。魔物か何かか。正体を表せ」とか言えそうですね。まるで仮面ライダーアマゾンみたいだって思いました』
ヒノキ「最初のアマゾンは、アマゾネスと女性形にした方が良さそうじゃな」
NOVA『と言うか、今のゲームだと女性専用のキャラクラスなんて作れないんじゃないですかね。彼女たちの特殊能力として、「男性社会の戦士は女戦士を見くびることが多いので、アマゾンの最初の一撃は命中+3、ダメージ+3のボーナスが得られる」というのがあって、平成初期のゲームだから許された表現かと思うんですよ』
ヒノキ「今だと、男女平等パンチというのがあるからのう。女戦士だからと言って、その手のボーナスが付くわけではあるまい」
NOVA『なお、レベル5以上の経験を積んだベテラン戦士は、彼女の立ち振る舞いから熟練の戦士であることを察するので、そういう油断はしないそうです。あと、アマゾンは男性社会ではNPCの反応にー3のペナルティーを受けるというデメリットがあって、この時代の男性は、女性に命令されたり、偉そうに振る舞われることに不快な思いをするようですね。だから、彼女は自分の実力を示して、男の戦士と対等に扱われることを求めるわけですな』
ヒノキ「今の時代じゃ、あり得んルールじゃのう」
NOVA『90年前後の女戦士の物語では、そういう話が定番だったのかもしれませんね。ターミネーター2がまだ公開される前だし、日本のセーラームーンもまだだし、格闘ゲームで春麗などの女戦士キャラが一般的になる以前? とにかく、アマゾンの部族では「ワンダーウーマン」の映画なんかを見ても分かるように、社会の中心に女戦士がいて、秩序を守るという責任を負っているんだけど、外の世界で初めて男性と恋に落ちて、異なる文化社会の楽しさと苦しみ、ギャップを描くことで相互理解のドラマとして結実するわけですね』
ヒノキ「物語世界における未開の部族の風習とか、ファンタジー物語におけるステロタイプの描かれ方を資料として、あれこれ紹介しておるわけじゃな」
NOVA『でも、そういう時代背景ゆえの差別的な表現を、現代の作品として発表すると、作り手が差別思想の持ち主みたいに批判されるのは何ですかね?』
ヒノキ「ゲームであっても、昔の資料の中に差別的表現があるのを発見すると、いろいろと考えるネタになるのう」
歴代D&Dのクラス表現の歴史
NOVA『少しこの辺で、D&Dの版ごとのクラスの変遷を見て行きましょう』
ヒノキ「正直、キットとか、上級クラス、サブクラスなど用語が入り混じって、ややこしくなって来たからのう」
①オリジナルD&D(1974)
一番最初のD&D。基本クラスは、ファイティングマン(戦士)、マジックユーザー(魔法使い)、クレリック(神官)の3種。
その後、サプリメントで、パラディンとシーフ、モンクとアサシン、ドルイドが追加された。
②アドバンストD&D1版(1977)
オリジナルD&Dの散乱した追加ルールを整理する目的で、初心者向きのD&Dベーシックルールと、そこから発展するアドバンストD&Dが製作された。
ベーシックルールはその後、独自にクラシックD&Dに発展して行くが、本国ではアドバンストD&Dが主流となって、オリジナルD&Dよりも膨大な数のサプリメントが作られて、現在のD&Dの土台を構築していく。
クラスは、戦士系のファイター、パラディン、バーバリアン、レンジャー、魔法使い系のメイジ、イリュージョニスト、神官系のクレリック、ドルイド、盗賊系のシーフ、アサシン、そして武闘家のモンクの11種類。
また、種族として、従来の人間、エルフ、ドワーフ、ホビット改めハーフリングの4つに、ハーフエルフ、ノーム、ハーフオークの3つが追加される。
そして、人間用にデュアルクラス(いわゆる転職)と、異種族用にマルチクラス(いわゆる兼職)のルールが加えられ、ファイター、シーフ、ドルイドを転職することで就ける吟遊詩人バードもPHBの補足で紹介された。
その後、サプリメントで盗賊の亜種であるシーフアクロバット(軽業士)やサムライ、ニンジャなど膨大なクラスが追加されていく。
③クラシックD&D(1981)
アドバンストD&Dのベーシックルールから分化して、別の初心者向きD&Dとして発展。
現在のD&DはAD&Dの流れを汲んで、オリジナルD&Dを0版として扱うが、アドバンストの付かないD&Dというタイトルは、オリジナルを1版、アドバンストのベーシックルールを2版として扱い、その後、81年に独立したルールの3版(エキスパートルールにつながる)に分化。日本に上陸した83年の4版(赤箱ベーシックからエキスパート、コンパニオン、マスター、イモータルにつながる)を経て、91年の5版(クラシックD&Dのルールを一冊のハードカバー本『ルールサイクロペディア』にまとめる。日本では文庫D&Dの形で分冊発売。しかし、コンパニオン以降に相当する上級ルールは出なかった)、そして94年にルールサイクロペディアを再編集したボックスセットの6版までが登場する。
基本クラスはファイター、マジックユーザー、クレリック、シーフの4種に加え、異種族のエルフ、ドワーフ、ハーフリングがクラス扱いされて、簡略化されたのが特徴。
よって、種族と職業を組み合わせてキャラを作るというD&Dオリジナルのシステムは、ウィザードリィなどのコンピューターゲームや、T&T、ソード・ワールドなどの後続ゲームが先に日本に持ち込むようになる。
その後、コンパニオンルールからファイターの転職先としてパラディン、ナイト、アベンジャーが、クレリックの転職先としてドルイドが加わり、マスタールールでは武闘家モンクをアレンジした修道士ミスティックが新職業として追加される。またワールドガイドのガゼッタシリーズで、その地域特有の追加クラスが加えられて、砂漠のドルイドのダルヴィッシュや、魔法に特化したエルフウィザードが翻訳された。
このガゼッタシリーズは、簡略化されたクラシックD&Dに技能ルールを加えて、システムにアップデートを図るなど、D&Dの可能性を広げるものと期待されたが、日本での紹介は途中で終わることに。
④アドバンストD&D2版(1989)
日本に初上陸したAD&D。
膨大なルールのAD&Dを整理する目的で製作された。日本では、クラシックD&D(4版)→アドバンストD&D(2版)の形で紹介されたので、クラシックD&DをD&D1版、もしくはオリジナルと勘違いしている人が結構いる。資料を調べずに、自分の印象だけで語っているのだろう。
ともあれ、AD&D2版は、初版のクラスからバーバリアンとモンク、アサシンを削除。また、異種族からハーフオークを削除する他、物議をかもしたデビルやデーモンという用語を別の名詞に置き換えたりして、従来の悪っぽい要素、異文化要素は基本ルールから取り除く(サプリメントでフォローはするのだけど)形をとった。
そして、既存クラスを戦士、魔法使い、神官、盗賊の基本4系統に統合して、そこからの派生形という形で展開する。
- ウォリアー系:基本職のファイターと、上級職のパラディン、レンジャーの3職。HPはD10で、各種の武器と防具を使いこなす武具戦闘のエキスパート。
- ウィザード系:基本職のメイジと、幻術師イリュージョニスト他の系統別スペシャリスト・メイジに分かれる。さらにサプリメントで、ワイルドメイジや、四大元素の扱いに長けたエレメンタリストなど特殊な魔法使いが追加される(英文サプリ『Tome of Magic』を所有しての情報)。呪文の系統が8スクールあるので、PHBだけでも8種のスペシャリストに分類されて、非常に多様なクラスに派生する。HPはD4で、非常に打たれ弱いのは従来どおり。
- プリースト系:西洋のキリスト教会モチーフのクレリックと、ケルトの自然崇拝に基づくドルイドの2職が基本。ただし、こちらは信仰呪文の系譜が16種類のスフィアーに分かれて、どの系統の呪文を使える神なのかを引用、もしくは独自に製作可能。神格設定は、各ファンタジー世界独自のものがサプリメントで用意されているが、日本語ではそこまでサポートされなかった。神格の性質によって、プリーストの性格(使える武器や防具、呪文の種類)も大きく変わるが、HPはD8で、オール(共通)スフィアーの呪文は基本的な治療や補助呪文が揃っているなど、ヒーラー(治癒役)という共通点は備えている。
- ローグ系:軽装の技術者で、力よりも技を重視するクラス系統。盗賊シーフと、吟遊詩人バードから成る。HPはD6でタフではないが、成長が早いという特徴がある。とりわけ、バードは1版の転職を繰り返して到達する上級職扱いから、再設定された基本クラスに生まれ変わった。以降、D&Dのバードは万能(器用貧乏)な支援役、交渉役として多様性を武器とするようになる。
NOVA『ファンタジーRPGの基本4職である戦士、魔法使い、神官、盗賊はAD&Dのベーシックルールが生み出した概念で、そこからウィザードリィの基本職に持ち込まれたのが、日本でも定着したわけですね。以降、クラシックD&DからAD&D2版でも、その4分類を強調した流れになります』
ヒノキ「日本でRPGをメジャーにしたFF(ファイナルファンタジー)では、その4職に武闘家モンク、器用貧乏な万能魔法使いの赤魔術師を合わせた6職と、その上級クラスから始まった。一方、職業システムでは後発になったドラクエ3では、勇者、戦士、僧侶、魔法使い、武闘家の5つが基本職と言われ、商人、遊び人が独自性が高く、上級職の賢者までの8職で始まった」
NOVA『その後のリメイクで盗賊が実装されたりしたけど、当初のドラクエ3には盗賊がいなかったんですね』
ヒノキ「世界観的にもD&Dに比較的忠実なのは初期FFの方で、ドラクエのモデルはウィザードリィやウルティマというコンピューターゲームからの転化系ということじゃのう」
NOVA『そもそも、上級クラスに転職という概念も、D&Dよりはウィザードリィ起源だとも言われています』
ヒノキ「D&Dのデュアルクラスは転職ではないのか?」
NOVA『基本的に、D&Dのキャラは誕生した時点で職業は固定して、レベルアップ以外での成長はなかったのです。ただ、オリジナルD&DからAD&D初版にかけて次々と新クラスが実装されるので、キャラクターを成長させる際に別のクラスに移りたくなる需要ができて、試験的に持ち込まれた選択ルールがデュアルクラスなんですな。そして、デュアルクラスを利用して誕生した新クラスが吟遊詩人バード』
ヒノキ「ファイターがレベルアップして、パラディンやレンジャーといった上級職に昇格するシステムではなかった?」
NOVA『ウィザードリィでは、能力値がレベルアップに応じて成長するシステムで、各上級クラスの能力値条件を満たしたときに上級クラスに転職できるシステムでした。しかしAD&Dでは、能力値そのものが成長するシステムではなかったので、パラディンもレンジャーも最初から能力値条件を満たしているときだけ就けるエリート職だったのですね。そして、デュアルクラスは新しいクラスの長所が17以上でなければならないという厳しい制限がありまして、通常のプレイでは非常に達成困難です』
ヒノキ「そう何度も転職を繰り返すゲームではなかった、と」
NOVA『その意味で、「転職によって上級クラスになることを目指す」というゲーム性を定着させたのはD&Dよりも、むしろウィザードリィやイギリスのウォーハンマーRPGではないか、と考えるわけですな。D&Dは転職や兼職という選択ルールを用意したけど、それをゲームの根幹に据えて発展させたのは後発のゲームということです』
ヒノキ「で、D&Dが自由に転職や兼職をできるようになったのは、3版が初だった、と」
④‘ AD&Dのキット
NOVA『そして、多彩なクラスを基本の4体系に分類した後、AD&Dは従来の上級クラスを「基本クラスに背景データやロールプレイの指針を与えるキット」という形で、整理統合するシステムに切り替わります。新しいクラスをどんどん増やすのではなく、既存のファイタークラスにそれらしい推奨技能を示すことで、サムライや騎士、バーバリアンなどの多彩な戦士クラスを再現しようという試みですね』
ヒノキ「ファイターからサムライに転職するのではなく、サムライの文化背景を持ったファイターという形で選べるようにしたのがキットということじゃな」
NOVA『この2版のキットという概念(基本クラスに追加データを付与して、キャラを個性化する)がより整備されたのが5版のサブクラスです。5版の誕生背景に、3版とは違う形の原点回帰を目指したという事情がありますので、AD&D2版の選択ルールであるキットを参考にしたのは間違いないでしょう。ただ、メインクラスにサブクラスを付け加えるというシステムは、2014年時点では非常にありふれていまして、D&Dの発明ということではなくなったわけですが。むしろ、2版の「いたずらにクラスを増やさずに、クラスに付与する追加要素で個性化、多様化を図る」という選択肢が90年前後では斬新ではあったと考えますね』
⑤D&D3版(2000年)
TSR社からWotC社に版権移動して、旧来のルールに大きな変革が起こったD&D。
2版のキット制を廃止して、2版から削られたバーバリアンやモンクも改めてPHBの基本クラスに復帰。さらに、これまでの魔法使いを知識主体のウィザードと、血縁に基づく才能主体のソーサラーに分化。これによって、基本クラスが2版の9種類(スペシャリスト・メイジのヴァリエーションを除く)から12種類に拡張。
また、従来よりもマルチクラスの制限を大幅に緩和し、多彩な育成選択肢を提示した。これまでのD&Dで一番、自由にキャラ構築ができるようになったシステムで、基本クラスを自由に転職し、特技や技能などの条件を満たして転職する上級クラスを大量に用意。おそらく、日本語で読めるTRPG商品で最も多くの職業クラスを実装した作品と言える。
90年代以降は、ソード・ワールドを初めとして、複数職業を組み合わせて多彩なキャラクターを表現するシステムはありふれたものとなったが、基本クラスと上級クラスを合わせて、200種類を軽く超えているであろうシステムはD&Dくらいか、と考える。
なお、手元のアリアンロッドもクラスの数は多いシステムだけど、その集大成とも言える『パーフェクト・スキルガイド』に掲載されているクラスは60種類だった。
アルシャードを代表とするSRSや、マルチバースRPGとして歴史が長いカオスフレアが全て数えると、D&Dに匹敵する数に達しているかもしれないけど、実際問題、100を超える職業データを実装されても、全てをプレイすることは不可能と言える。
ともあれ、今の国内TRPGのサプリだと、「新クラスが2つか3つ実装しました」というだけで、購入意欲を掻き立てられたりもするわけだけど、D&D3版の時代は「追加上級クラス30種類」というサプリメントも普通に出ていたんだなあ、と改めて感服している次第。
3版は凄かった、と。
⑥D&D4版(2008年)
3版は全てのD&Dファンが賛同して、アメリカTRPG界をD20システム一色に塗り替えたと言われるほどの傑作だったけど、
その3版以上の改革路線を示して、もはやD&Dじゃないとまで賛否両論を巻き起こした版。
3版を愛するファンは、そのシステムの後継者であるパスファインダーに転向して、内部分裂を起こすに至ったわけですが、4版に導入されたエッセンスは、カードゲーム的なコンボとなるパワーを打ち合う要素と、MMO的な戦術マップでの役割分担を強要するシステマチックなパーティー連携システム。
クラス制としては、最初のPHBに8種類。数だけで言うなら、3版よりも減ったことになります。
- 制御役(ウィザード):多数の敵に対して、ダメージを与えたり、動きを縛ったり、混乱状態にさせることで、味方の戦況をコントロールする役割。
- 撃破役(ウォーロック、レンジャー、ローグ):単体の敵に大ダメージを与えるボスキラー。攻撃力は高いが、防御力は低いので、敵に囲まれない位置どりを上手く取る必要がある。
- 指揮役(ウォーロード、クレリック):仲間を癒し、サポートを与える戦場の支援役。自分の代わりに仲間を動かして複数回行動させるウォーロードや、仲間を癒しつつ奮い立たせるクレリックなど、指揮役の立ち回りが、パーティーの戦場での連携を強化する。
- 防衛役(パラディン、ファイター):前衛で敵の攻撃を受け止める強固な壁にして、安定した近接戦闘能力を誇る。撃破役が一撃必殺の大火力を備えるのに対して、こちらはコンスタントに敵を攻撃しながら、敵が他の仲間を攻撃しないようヘイトをコントロールしたり、壁を突破しようと突進する相手の移動を妨害したり、戦場に踏み留まる役割。
ヒノキ「ウォーロードやウォーロックなどが、新たに基本クラスに加わったのじゃな」
NOVA『ウォーロードというクラスは、他にない4版特有の立ち位置ですね。あと、3版と違って、4版からは小休憩、大休憩というルールが加わって、魔法や特殊能力の使用回数、HPの回復が、既存のD&Dよりも容易になりました。これまでのD&Dだと、HP回復はポーションか回復呪文が絶対に必要だったのですが、4版および5版では戦闘後に休憩をとることでHPを自力で回復することも可能になったのです。もちろん、戦闘中に回復するのは、ウォーロードやクレリックの特殊なパワーが必要になるのですが』
ヒノキ「バトルゲームとして特化したD&Dだと話に聞く。そんなに違うゲームなのか?」
NOVA『パワーの中には、ダメージを与えた相手を一マス動かす特殊効果とか、マップ戦闘が必須のシステムだったりしますね。3版や5版は個人の戦闘能力を重視しますが、4版はチームの連携を重視し、「仲間が移動させた敵を、そこに待ち構えていた戦士が、今だ!と、とどめを刺すような連携アクション」が取れるシステムになっています。何よりも、戦士やローグのような非魔法使いが呪文と同列に扱える武技パワーを行使するゲームになっていて、独自の戦術ゲームと言えるわけですが、TRPGよりは原点のシミュレーションゲームに先祖返りしたという意見も』
ヒノキ「クラスのヴァリエーションが減ったというのが、減点ポイントと言えようか」
NOVA『基本のPHBが3冊もあるんですね。2冊めのPHB2には、8種のクラスが加わり、3版にあったソーサラー、ドルイド、バード、バーバリアンはこちらに採用。モンクだけはPHB3に他の5職の超能力系クラスなんかと一緒に加わって、総計すると、22種の基本クラスになるわけですが、3版に比べると一つ一つの職業データ(習得パワー)が大量にあって、コスパが悪いというか、他のD&Dのルールブックとは違う編集となっていて、ルールの概要をつかむのに手間どったな、と思います』
- アヴェンジャー:神の敵に大ダメージを与える信仰系撃破役。2次的に制御役の仕事もこなせる。
- インヴォーカー:神の敵をまとめて焼き滅ぼす信仰系制御役。2次的に撃破役か指揮役の仕事もこなせる。
- ウォーデン:原始(自然)の力で戦う防衛役。バーバリアン以上のタフさを誇る大地の守護者で、2次的に撃破役か制御役の仕事もこなせる。
- シャーマン:原始の精霊の力を使う指揮役。2次的に防衛役か撃破役の仕事もこなせる。
- ソーサラー:秘術を駆使して、敵を打ち払う撃破役。ウォーロックと比べて、複数相手の呪文も多いので、制御役もこなせる。
- ドルイド:原始の力を駆使する制御役。獣に変身して前衛に立つことで、撃破役にもなれるし、わずかながら癒しの力で指揮役の仕事もこなせる。
- バード:秘術の力を使う指揮役。制御役もこなせる。
- バーバリアン:原始の力で戦う撃破役。タフなので前衛に立って防衛役もこなせるし、自力回復のパワーも豊富。
NOVA『PHB3は持ってないので、6つのクラスの名称だけ書くと、アーデント、サイオン、バトルマインド、モンク、ルーンプリースト、シーカーとなります。アーデントは指揮役をこなす超能力戦士、サイオンは制御役をこなす魔法使い的な超能力者、バトルマインドは防衛役をこなせる超能力戦士、モンクは武道を超能力と見なした撃破役ですね』
ヒノキ「魔法ではない超能力かあ。ファンタジーRPGよりも、SFみたいなイメージじゃのう」
NOVA『D&D世界には、マインドフレア(イリシッド)と呼ばれる超能力使いの頭脳喰らいな異種族がいまして、彼らと対峙するのに有用な超能力の専門家がサプリメントで用意されているんです。3.5版でも「サイオニクス・ハンドブック」というサプリを所有してまして、そこにも4つの基本クラスと9つの上級クラスがあって、ネタにもできるのですが、そちらに突入すると寄り道が過ぎますな。一応、5版でもファイターとローグのサブクラスでターシャ本に採用されて、新5版ではコアルールにも普通に収録されていますので、サイオニクスが選択ルールではない形で完全解禁された模様です』
ヒノキ「それでは、そのうち超能力クラスの話もしていくんじゃな」
NOVA『いつになるかは分かりませんけどね。先にソーサラーなんかを優先するとは思います。で、ルーンプリーストはルーン魔法を使う信仰系指揮役で、シーカーは原始系の魔法を使う制御役ですが、ドルイドとどう違うのか説明はできませんね。せめて、ホビージャパンが4版のクラス解説ページを残していれば、調べやすかったのに』
ヒノキ「とにかく、4版もまた3版と同様に、大量のクラスが後から後から追加されたということじゃな」
NOVA『まあ、そうですな。そして、4版ではレベル11になると選択できる「伝説の道」という上級クラス、およびレベル21になると選択できる「神話の運命」という最上級クラスがあって、英雄キャラ→伝説キャラ→神話キャラに昇格できる仕様。この「伝説の道」「神話の運命」が追加クラスとして増えていったわけですな』
ヒノキ「ええと、それでいくつあるんじゃ?」
NOVA『「伝説の道」はPHBの各クラスで4つずつあるので32種類。「神話の運命」はPHBで4種類のみ。で、PHB2では「伝説の道」が32種類追加と思ったら、種族用の「伝説の道」が12種類追加で、俺の手持ちルールだけでも76種類ですな。「神話の運命」は6種類追加で合計10種類。つまり、4版は基本クラスと「伝説の道」「神話の運命」を合計して、俺の手持ちルールだけで100種類を越えました。4版なんて、ほとんどサプリを買ってないのに、これだよ。もしかして、3版よりも多いのでは?」
ヒノキ「わらわはTRPG好きの女の子じゃが、さすがにそれだけの物量を把握するのは、気が遠くなりそうじゃ。新兄さんはよくもそれだけのデータを追っかけてられるのう」
NOVA『いや、資料を持ってるだけで、把握なんてしてませんよ。今、初めて数を計算して途方に暮れています。これだけあれば、ネタが尽きることはないような気もする』
ヒノキ「とりあえず、レンジャーとバーバリアンの『伝説の道』だけでもチェックして、今回は終わりにせんか?」
NOVA『そうしましょう。レンジャーの「伝説の道」は以下の通りです』
- ストームウォーデン(嵐なす守護者):二刀流を駆使して、刃を嵐のように振り回して連続攻撃を浴びせる技を使う。
- パスファインダー(道を拓く者):移動と長旅のプロ。敵に攻撃することで、失った自分のリソース(回復力やアクションポイントなど)を回復できる。
- バトルフィールド・アーチャー(戦場の射手):射撃攻撃のプロ。弓を連射したり、転倒させたり様々な技を習得する。
- ビースト・ストーカー(獣狩人):狩りの達人。レンジャーの特殊能力《狩人の獲物》の追加ダメージを高めたり、適切な射撃ポイントにフリーアクションで移動したりできる。
NOVA『次はバーバリアンの「伝説の道」です』
- フィアーブリンガー・セイン(恐怖の王者):激怒中の攻撃で相手に恐怖を抱かせ、同時に味方の士気を高めて、戦いを有利に運ぶ指揮官となる。
- フレンジード・バーサーカー(狂乱の戦士):激怒中の攻撃で相手に追加ダメージを与えたり、乱戦で周囲の敵全てに爆発するようなダメージを与えたり、HP0でも気絶せずに戦い続けたりする。
- ベア・ウォリアー(熊戦士):熊の姿をとり、熊の力で戦うことができる(HP回復や、防御力向上、ダメージ向上、一時的HPの獲得など)
- ワイルドランナー(野生の走り手):機動性を重視し、戦場を駆け抜けることができる移動能力と相手の移動妨害、回避能力を得る。
ヒノキ「なるほど。4版のキャラクターは上級クラスになっても、見事に戦闘能力に特化した成長を行うんじゃな」
NOVA『まあ、他のD&Dが冒険を楽しむゲームであるのに対し、4版は戦闘を楽しむゲームなので、戦闘に特化したパワー習得が肝だったりします。一応、戦闘以外の局面で使える技能も習得するのですが、3版に比べて技能の種別は大幅に簡略化されていて、旅先のイベントや情報収集などは単純な技能チャレンジで略式に処理されるようなシステムになってますね』
ヒノキ「では、今回はここまで。次回は?」
NOVA『実は今回、3版のバーバリアンについては、ほぼ何も語っていないんですね。だから、3版と5版のレンジャーとバーバリアンについて、掘り下げてみるってことで』
(当記事 完)