80年代では非常に斬新だったシステム
NOVA「さて、前回から始めた懐かしRPG、ファンタズム・アドベンチャー(PA)の話ですが、88年に登場した国産RPG*1では最も緻密で尖ったシステムながら、プレイアビリティーは決して低くないのがポイントかと思います」
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ヒノキ「80年代においては、非常に斬新なゲームということじゃが、現在の視点で見ると、どうなのじゃ?」
NOVA「まあ、古いゲームなのは間違いないですけど、システムとしては今なお斬新で、語り甲斐のあるゲームだと思ってます。88年の時点では、非常に野心的で、このゲームよりも先鋭的な作品はなかったのでは? と思ってます。まあ、この時期は、TRPGシステムがどんどん進化していった時期で、PAの場合は進化の袋小路にはまった実験作の趣きも強かったのですが、古さを感じるのは、ゲームシステムよりも、むしろシナリオの方ですね」
ヒノキ「と言うと?」
NOVA「出版されたPAのシナリオって、典型的なダンジョン物と、秘境探検もので、ハック&スラッシュしかないんですね。90年代以降に定番となった、都市での陰謀劇とか、市井での事件解決とか、あるいは壮大な戦記ものとかは手が届かず。スキル制のゲームシステムはそれらを取り込める可能性を十分に秘めておりながら、物語を牽引する根幹ストーリーが発表されずに、独自の世界観が宙に浮いた感じがあります」
ヒノキ「サポート不足ということか?」
NOVA「25の島を探検するキャンペーンシナリオ『霧雨の島』は、海洋探検アドベンチャーとして非常に豪華な作品ですね。D&D青箱の『恐怖の島』の要素を膨らませた感じで、一つ一つの島を自由な順番で渡りながら、ミニイベントを解決して回るのは、ゲームとして面白いと思います。冒険というのが秘境探検、そこで遭遇する悪党退治を行いながら、お宝探しに邁進するスタイルとしては傑作シナリオと考えます」
ヒノキ「何が問題じゃ?」
NOVA「90年以降の日本のTRPGの定番って、『事件が発生したのを解決するストーリー』か『組織に所属するチームが上層部から与えられたミッションを果たすストーリー』が分かりやすくて、その後、『別の組織に所属しているキャラが共通の目的を持ったり、時に対立しながらも、適度な物語の落としどころを探りながら、相互の目的を果たすドラマ志向、ロールプレイ指向』の作品が増えたと思います(とりわけFEAR系)。
「ダンジョンアドベンチャーが古いと言われたのが、90年代からゼロ年代で、そこから逆にシステマチックなダンジョン構築、ストーリー性を付与したダンジョンを主題にした『セブン・フォートレスAdvanced』『ナイトウィザード』とかの原点回帰型システムなどへの模索もありつつ、バトル、探索、情報収集、事件解決といった要素をどう組み合わせるかで、多様性を目指した流れですね」
ヒノキ「旧世紀はシステム面の模索、新世紀はストーリー面の模索といったところか」
NOVA「そう単純な切り分け方だと、いろいろツッコミどころだとは思うのですが、PAはTRPGのストーリー面でのサポートが日本で解析されて行き届く以前のゲームなので、原初の探検とバトルを楽しむゲーム。そして、キャラクターの構築ヴァリエーションが非常に豊かな何でもあり系ゲームだった、と。まあ、魅力的な世界観ではあるけれど、全貌が明かされる前に展開終了したので、未完の大作感が強い作品ですね」
ヒノキ「根幹ストーリーがない分、自由度が高いゲームではあるのう」
惑星モノカンのアニス大陸

NOVA「PAの舞台は、惑星モノカンの上にあるアニス大陸と周辺の島嶼部です。この星には7つの大陸がある(最初は9つだったけど、サプリで変更された)そうで、自転周期が18時間とか、公転周期が600日(最初は450日だったけど、サプリで変更された)とか、世界全体の細かい設定はいろいろ用意されていて、設定マニアが大喜びの情報がいっぱいですね。
「アドバンストPAになると、さらに詳細な設定が明かされて、モノカンの所属する太陽系には6つの惑星があって、イファー、ボーラー、シーラグ、モノカン、ムーン、クアラリアといった名称と概要が書かれているのですが、そういう星々が舞台になるわけではないので、ゲームをプレイする上では必要ない情報ですね」
シロ「ファンタジー世界で、他の惑星の情報なんて必要ないですもんね」
NOVA「まあ、PAは宇宙人の末裔がいる世界だから、将来的には宇宙船に乗って旅立つ構想もあったのかもしれないが、結局、そういう要素は同作者が91年に出した『マルチバース』に持ち込まれたのかもしれん。ともあれ、APAには一月が30日(一週間は5日、一月が6週から成る)で、一年が20ヶ月で、その月の呼称がきちんと設定されているとか、カレンダーと各宗教の祝祭日も設定されているとか、アニス大陸の各国の月ごとの平均気温とか、凝るなら各キャラクターの誕生月まで設定できて、それに基づいてラッキーデイ(治癒や命中、ダメージ、スキルにボーナスがある)やアンラッキーデイ(逆にペナルティがある)なんかがルール化されている」
ヒノキ「そこまで凝る必要はどこにある、と言いたくなるほど、凝り性なゲームじゃな」
NOVA「まあ、APAは独立したゲームなんだけど、PAに継ぎ足す上級選択ルールの意味合いもあるので、当初のD&DベーシックルールとAD&Dみたいに一部ルールを継ぎはぎ取捨選択して使ってもいい、というものですな。あと、細かいのが、アニス大陸の国によって通貨単位が違うところとか、とにかく荒唐無稽を追求しながらも、リアリティをも細かく積み上げているなあ、と感じられます。異世界設定を創り出すとはこういうことだ、と言わんばかりに」
ヒノキ「80年代といえば、世界観の設定資料が商売になるという時代で、背景世界というものを売りにした作品が増えていたわけじゃな。おかげで、その緻密さ、奥深さを競い合うという状況に」
NOVA「ところが、です。PAの背景世界には、今の目から見て大きな欠点がありました」
シロ「何ですか?」
NOVA「地理的には細かいのに、歴史があまり描かれていないんだよ。例えば、ロードスだと30年前に魔神戦争があって、とか、旧ソード・ワールドだと神々の大きな戦いがあって、とか、歴史的事件が物語の背景として最初に語られる。しかし、PAのルールブックに描かれている歴史って、大雑把にこんな感じだ」
- 4万年前:古代種族がいて、驚くべき科学技術を持っていた。宇宙旅行のみならず、時間や次元を越えた旅をも可能にしていた。だけど、その文明は継承されることなく消え去り、痕跡が稀に遺跡の中から見つかるのみ。一応は、人間やエルフの先祖に当たるのだろう、と推測される。
- 9000年前:異星人タフィボーゼが侵略してきた。彼らは現代人に理解できない異質の科学文明を誇っていたが、モノカンの魔法に無知だったことが災いして、侵略に失敗。生き残ったタフィボーゼは、土着の生物に混じって暮らすようになり、文化的に同化していくなかで、先祖の持つ科学技術を忘れていった。
- 現在:スクアル僭主皇国で、テクノロジー革命が展開中。彼らは魔法を排除して、科学技術の発展を志し、ロケット工学を中心にロケットランチャーなどの重火器、バトルアーマー、ロケットプレーンという乗り物を開発。モノカンには、原油という資源がないので、プラスチックやガソリンが存在せず、ロケットのエネルギー源にはフレームジュエル(熱エネルギーを秘めた不思議な水晶)と揮発性の物質を混ぜた仕組みを利用している。
NOVA「主に、テクノロジー絡みで歴史背景を語るぐらいだが、それ以外の歴史的情報があまりないんだな。魔法文明がどうなってるとか、神々の歴史がどうこうとかは後にサプリメントでフォローするつもりだったのかもしれないが、掘り下げられることは全くなかったので、PAの世界設定は割と歪な印象が強い。ファンタジーでよくある魔法や神々よりも、異質な宇宙人や科学テクノロジーの話に集中していて、さらに言うなら、大陸全体の歴史的イベントや、現在のキャンペーンを展開するためのシナリオソースもほぼない。その中で掘り下げられたのが、北方のマルデイク連邦、ジェグ帝国、チャク郡の3地域だ」
ノーザンエリア

NOVA「PA最初にして唯一のワールドガイドは、3つの地域をサポートしている。アニス大陸には9つの地域があるので、ワールドガイドが3冊出たら、一通りの世界設定が揃うはずだったんだけど、APAとかマルチバースといった新システムを出す方に力を回してから、打ち切りになったんだな。どうも、TRPG関連商品としては、ルールブックの方が売れて、ワールドガイドの売れ行きが芳しくないという事情もあったのだろう、と推測する」
ヒノキ「まあ、TRPGのワールドガイドなんて、ゲームマスターをやる人間しか買わんからのう」
NOVA「よって、この3地域だけ設定が細かく語れるわけだが、PAで最も分かりやすい、典型的な中世ファンタジー王国と呼べるのが、ジェグ帝国だな。歴史的には、マルデイク連邦の方が古い(約1000年前に成立)んだが、ジェグ帝国は一神教のエネク神を国教とし、ヒューマンの国王が治め、王室評議会に所属するのが犬人のアヌビン、人馬のセントール、小人のハーフリングで、350年前に成立した若い国だ。最初はマルデイクの植民地だったのが、ジェグの国が発展するのを見届けた平和主義な商業国家マルデイクの為政者は、戦争よりも友好国として末長く交易関係を維持して利を得たいと考え、独立を認めた背景があります。その後、ジェグ王国は拡張政策を続けて、ジェグ帝国になった次第ですな」
シロ「帝国というと悪いイメージがありますが?」
NOVA「戦争で敵国の王を下し、王の中の王として拡張政策を続けているのが帝国だからなあ。ジェグ王国は、海洋貿易を旨とする都市国家からスタートしたが、内陸進出を進めながら、アヌビンやセントールといった部族社会の種族を引き込んで、平原も領域に加えたわけだ。都市を治める人間の国王が皇帝となって、平原の部族王とも盟友関係を維持しながら、帝国を結成。平原の民は、肉体的には屈強だったけど、ヒューマン中心だったジェグ王国は魔法使いを有しているとか、戦略に長けているという点で、力押しの未開民族よりも優勢だったんだな」
シロ「なるほど。ファンタジー世界の戦争においては、魔法が使えるかどうかが重要ってことですね」
NOVA「ジェグ帝国の仇敵はオーガーで、現在は〈モーグの森〉がオーガーの領域という形で封じ込めることに成功している。森からオーガーが出てきたら紛争が発生し得るが、森の中のオーガーを殲滅させることも抵抗が激しく、できていないために、両者が棲み分ける形で落ち着いているのが現状だとのこと。森の近くの開拓村を襲撃するゴブリンやオーク、ボスキャラのオーガー退治という典型的なファンタジーRPGシナリオも作りやすそうだな」
ヒノキ「なるほど。PAは異種族いっぱいで奇妙なファンタジー世界の印象があるが、舞台を絞れば、人間中心の典型的なファンタジーRPGみたいなシナリオも作れる、と」
NOVA「多様性があるというのは、王道を否定するものでもありませんからね。どうしても色物RPGの印象が強いPAですけど、ヒューマン聖騎士、セントール戦士、ハーフリングの魔法盗賊、アヌビンの野伏といった組み合わせで、王道ファンタジーを描くのもあり、だったかと思います」
ヒノキ「PAで柱となる公式リプレイがあれば、良かったのじゃろうな」
NOVA「次に、マルデイク連邦について。ここはPAのキャンペーン・シナリオ『霧雨の島』のスタート舞台でもありますし、交易の盛んな島国、アニス大陸で最も自由で民主的な国家ということで、現代日本人感覚でPAの冒険を楽しむのに最も向いていた、と言えますね。中世ヨーロッパではなくて、ルネサンスに入りかけたイタリアのイメージ。
「ここには王さまがいなくて、PAの特徴の1つである氏族協会の代表が連邦議会で話し合って政治を行う合議制スタイルを持っています。最も人口が多くて、交易氏族の代表がハーフリング。次に魔法の得意なブラウニーが多数派を占めて、ピクシー、カエル人クローカーに次いで、ヒューマンが5位(軍事氏族の代表でもあります)。普通の人間が、ハーフリングの5分の1しかいないという人口構成がPAっぽい国とも」
ヒノキ「小型種族の多い地域なんじゃな」
NOVA「マルデイクは歴史の古い方の国で、魔法使いも多く、首都には大図書館もあって、モノカンの開かれた歴史研究も盛んだと。それによれば、4万年前に今のモノカンの種族の多くを生み出した古代種族同士で〈大戦〉と呼ばれる絶滅戦争(魔法ではなく、機械技術を用いたもの)が勃発し、その結果、機械技術が禁忌になって久しいとか」
シロ「一度、核戦争か何かで滅びた人類が、遺伝子操作によって多数の種族を生み出した世界観ってことですかねえ」
NOVA「その可能性は大きいが、我々の地球の話ではない。自転や公転の周期が違うこともあるし、惑星モノカンは地球から約5000万光年離れた銀河系の彼方にある、と明記されている。何にせよ、古代種族の文明が滅びて、その後、厳しいサバイバル生活が始まった。小さな種族は孤立していると滅亡を免れないので、ハーフリング、ブラウニー、ピクシーたちが同盟を結んで、世界中を巡る500年以上もの航海の末に、安住の地であるマルデイク島を発見したそうです」
ヒノキ「だから、ハーフリングが島の代表なんじゃな」
NOVA「その3種族の中では、ハーフリングが最も体格が大きく、屈強でしたからね。この小型種族の国であるマルデイクは、その後もアニス大陸の探索を続けて、交易相手になるのがエルフたちの森林王国(セイラー王国)と虫人間の湿地帯地域(スルーム大皇国)だけだと知った。彼らとの交易で国を運営維持しているうちに、他にも新興国が少しずつ生まれてきたので、それらの国の建国と発展をマルデイクの商人たちが支援してきた、とマルデイクの歴史書には書かれてある」
シロ「それって、自分たちの功績を過剰に持ち上げている可能性がありますね」
NOVA「かもな。だけど、マルデイクが交易を通じて、アニス大陸の各国に手を広げているのは間違いないようだ。だから、PAのどの地方出身のキャラでも、冒険に興味を持つなら、自由で開放的なマルデイクに行ってみようと思う可能性は高いだろう。あるいは国の使命として、何らかのミッションを与えられて派遣される可能性もな」
シロ「世界の商業の中心地みたいなものですか。そりゃあ、冒険のスタート地点として最適ですね」
NOVA「ただし、マルデイクは華やかな商業活動で輝いているだけではない。闇の一面も持っているんだ」
シロ「と言うと?」
NOVA「マルデイクの闇その1。彼らはドワーフの鍛冶屋を雇い入れて、武具をいっぱい作らせて、武器商人としてアニス大陸の戦争に火を付けたりもするらしい」
ヒノキ「死の商人じゃな」
NOVA「自分たちは戦士じゃないので、進んで戦おうとはしないけど、金で傭兵を雇ったりもするし、魔法研究が盛んなこともあって、自衛のために侮れない戦力を備えている。次に、マルデイクの闇その2。奴隷交易も盛んだし、金稼ぎのために犯罪行為や海賊稼業に手を染める者も多い。表向きは温厚な商人に見せかけながら、陰謀劇とかスパイ活動とかが普通に行われて、都市部なら素朴なイメージとは程遠い国だ」
シロ「ハーフリングの無邪気な農夫のイメージが崩れていきます」
NOVA「まあ、TRPGのハーフリングは、指輪のホビットと違って、意外と世慣れた盗賊で、したたかさが強調される場合も多いからなあ。体は子どもで、中身は大人といっても過言ではない」
ヒノキ「だったら名探偵にもなれそうじゃな」
NOVA「ノーザンエリアで、田舎なのが北東部のチャク郡。ここは遊牧民が暮らす地域で、国というまとまりがないため、4大部族の治めるワイルドな土地柄になっています(ミノタウロス、ホークマン、アヌビン、オークの亜種サンダーマンが各部族の代表種族)。他には、セントールやネコ人フェルゼンティが多数派の種族になっていて、モンゴル的なイメージのオアシス平原や、チベット高原的な切り立った山岳などの地勢が特徴になっている、と」
ヒノキ「歴史的に特筆すべきところは?」
NOVA「部族の伝承によれば、今から2000年ほど前に2人のライバル魔法使い(ボロクとキーラー)がいて、この地を巡って、戦争をしていたそうです」
シロ「え? 2人で戦争なんですか?」
NOVA「いや、戦争というからには、当然、それぞれが軍勢を集めるんだが、この地の遊牧民たちや、戦争の噂を聞きつけたアニス大陸の傭兵たちが大勢、集まって来て、雌雄を決する大戦の後で、地域の中央を走る〈黒金丘陵〉が出現、双方の魔法使いは互いの大呪文で消滅。後に残されたのは、好戦的な戦士部族たちだけど、その中で4大部族の長たちは、この魔法使いに仕えた将軍たちの末裔だと主張している」
ヒノキ「つまり、ボロク派とキーラー派の陣営に分かれて、今も対立している、と?」
NOVA「いや、戦いの理由は何でもいいのでしょうけど、とにかく日頃から内戦ばかりしている。普段はまとまりのない連中なんだけど、ここに外敵が攻めて来たことが2度ほどあって、それぞれ西のジェグ帝国(ヒューマン中心)と南のサイング連盟(ジャイアント中心)が攻めて来た際は、一致団結して外敵を追い払うために奮戦して、チャク郡に手を出すのは危険だという教訓を与えたそうです」
ヒノキ「まとめるなら、ヒューマンが治める封建騎士国家がジェグ帝国で、典型的なファンタジー王国的なプレイに向いている。西の島国マルデイク連邦は、海洋交易が盛んで、北方では一番進んだ文明と長い歴史を持っていて、平和主義の裏で陰謀をあれこれ企んでいる文明国。自由と多様性に満ちていて、PAの公式シナリオでは、この国を舞台にした作品が充実している。そして東のチャク郡は、ワイルドな遊牧民の部族社会で、争いが絶えない、と」
NOVA「この3つだと、能力修正的に、戦士向きなのがチャク郡だけど、頭が悪いし、交渉も下手。ジェグ帝国は割とバランス型で、一応、戦士寄り。マルデイクは勇敢さが弱いけど、知性と自我がそこそこ高くて、ジェグ帝国よりもさらにバランス型となってますな」
他の地域
NOVA「以上が、ワールドガイドで結構、細かく解説された地域で、その他の地域は、ルールブックにちょっとした情報が掲載されているのみ。まあ、チェックしてみますか」
●アマゴン連合
ジェグ帝国の南に位置する山岳地域。平原が少ないため、大都市は見られないが、中規模の都市国家が点在していて、長い歴史を持つ穏健な都市連合体。
ガーゴイルやホークマンといった翼を持った種族、また山育ちのドワーフやオーク、そしてマンティコアが多く暮らしている。能力的にもバランス型で、政治形態はマルデイクに類似している面も。
●ワイルドランド
アニス大陸の中央に位置する未開地域。
地図が全く空白なのは、都市や集落が皆無で、存在するのが荒れた原野と密生した森林地帯のみ、だから。
恐ろしいモンスターと、未探索の古代遺跡がいっぱいで、「この地を外から訪れることは死を意味する」とルールブックで煽ってくれるし、ワールドガイドで、どんな秘境がお出しされるのか、と大いに期待していましたが、幻と終わって残念なり。
ワールドガイドには、その地域ごとのランダム遭遇表も掲載されていて、ワイルドランドでは、どのような遭遇表が載るかなあ、と。おそらく、新規の強力モンスターや悪魔の類が掲載されていたんじゃないかなあ、とか。
で、ワイルドランドの地域特徴は、最も戦士向きに耐久力ボーナス+40という最高値と、知性ペナルティーがマイナス30という、バカマッチョな能力配分。まあ、腕力はサイング連盟の+28に負ける+16で、チャク郡並みなんだけど、とにかく戦士として体を鍛えたきゃ、ワイルドランド生まれを狙え、という格言が自分の中にはありました。
そんなワイルドランドに生まれやすい種族は、オークのサンダーマン(37%の確率)、ゴブリンのアサロン(100%)、スリッジ(40%)、熊セントールのアーソイド(100%)、鹿ミノタウロスのゴームノン(99%)の中に混じって、マッチョとは程遠いフェアリー(100%)がいるという。
ええと、フェアリーって小妖精ピクシーの一族で、種族値は腕力1、耐久力1で荒事とは無縁の華奢な種族なんだけど、ワイルドランド生まれなもので、個人値が結構、打たれ強くなるルールで、結果としてバランスが取れる。フェアリー族でタフな戦士を目指したいなら、推奨できなくはないわけですが、そんなフェアリーがワイルドランドで生存できる一番の理由は、種族能力で相手を眠らせることにあるっぽい。まあ、空飛んで逃げたり(スピードは速いしなあ)、隠れたり(体が小さいし、すばしっこいからなあ)、彼女たちの生存戦略を考えるのも一興ですが、
それはともかく、ワイルドランドで謎なのは、氏族って社会階層を表すルールがどう扱われるんだろう、とか、キングコングやモスラを祀っているような未開の部族がいるのかなあ、とか、規格外の巨大怪獣(体長20メートルだと、サイズ10)なんかがいるのかなあ、とか、いろいろなロマンを感じていました。
なお、APAのルールブックに載っている最大級のモンスターが、ティラノザウルスでサイズ10。いや、草食だと、もっと大きいディプロドクス(サイズ12)も設定されているんだけど、恐竜がいるのはワイルドランドか、大陸南部の島嶼群のみと書かれていて、
未知の土地だからこそ、想像で感じるロマンがワイルドランドにはあるなあ、と。
●サイング連盟
そして、パワフルかつ鈍重な能力修正が付く山岳地帯がサイング連盟です。ここはチャク郡の南に位置する山がちな地域で、〈神々の牙〉という山脈とか、〈トロル丘陵〉〈竜の谷〉という素敵な地名が目を惹きます。
ここは鉱産資源が豊富らしく、ドワーフが最も多く生息していて、彼らから鉱石や宝石を盗むブラックエルフとの闘争が日常茶飯事とか、ジャイアントがよく見られるとか、ブラウニーの亜種ロックジャンパーとか、そういう種族が目立つ感じ。
要は、岩がゴロゴロ転がってそうな山岳地域ですな。アニス大陸の中央部は、そういう田舎の地域ばかりで、まだアマゴン連合が都市国家として文明地域に属していると言えるかな。
でも、ワイルドランドを除けば、割と地味な地域に思えます。
文明的に面白そうなのは、南の3国(サザンエリア)になりますか。
●スクアル僭主皇国
陰謀や動乱の絶えない砂漠の国。
魔法使い狩りという政策をとり、国家事業としてテクノロジーを推進しているという過激な国でもあります。
これもワールドガイドでサポートされなかったのが残念な国。もしも、サポートされていれば、ファンタジー世界では珍奇なテクノロジーのデータが充実していたかもしれないのに。
この国に多いのは、タフィボーゼ。それと乾燥に強いリザードマンの他、ラビットマンやカンガルーマン、それに意外とゴブリンなんかも、そこそこ多い。とりあえず、謎に満ちたタフィボーゼの生態や文化なんかが、この地域のワールドガイドで解明されたかもしれない、と思うと、改めてサポートして欲しかったなあ、と感じます。
●セイラー王国
エルフがいっぱいの伝統的な魔法王国です。エルフ以外に多いのは、トレント、ピクシーなど。とりあえず、エルフの住む森林王国というイメージは、多くのファンタジーRPGで採用されている設定なので、想像しやすいです。いろいろ流用もできると思いますので、この地域についてはワールドガイドがなくても補いやすいかな、と。
ただ、ワールドガイドのついでに、魔法に関する追加ルールが加わっていたら、と思うと、幻で終わったことが残念にも思えてくる。
いや、今さらなんですがね。
●スルーム大皇国
分かりやすいセイラー王国に比べて、謎が多いのはこちらです。
知性最高で、その反面、最も腕力や耐久力のペナルティーが大きい、戦士になるのが困難な国。
ここを統治するのは、虫人間スラスと、トードマン。ただし、トードマンはAPAではリストラされた亜種なのに、APAのワールドガイドには消されずに残っているという点も不思議です。
ともあれ、この南部の3王国は、割と閉鎖的な引きこもり国家なので、その文化文明も謎に満ちている、とルールブックに記載されていて、その謎を解き明かすのがマルデイクの交易精神という風に、ワールドガイドは読み取れます。
一応、サプリメント『ノーザンエリア』はまずマルデイクから始まり、マルデイクが支援することで、元マルデイクの奴隷だったヒューマンが難破して行き着いて、オーガーとの対決で国を勝ち取って成立したのがジェグ帝国。その後、ジェグ帝国がさらなる領土の拡張のために攻め入ったのだけど、激しい抵抗にあって断念したチャク郡という形で、紹介が続いておりました。
もしもワールドガイド2弾が出ていれば、ワイルドランドが目玉の『ミドルエリア』になったか、それともワイルドランドは先の楽しみに残しておいて、高度な文明(科学、魔法、異形昆虫)を売りにした『サザンエリア』か、いずれにせよ喜んで購入していたと思いますね。
氏族の話
NOVA「さて、世界観については、多彩な種族がいるんだけど、その出身国の設定がきちんと掘り下げられる前に展開が終了したうえ、この世界でどういう物語を展開することが想定されていたのか、なかなか読みとりにくいルールだったので、結果的に変わった種族がいっぱいで、そのカオスぶりを楽しめ、というネタゲームになった。まじめにストーリーを展開するタイプの作品ではない、ということですが、当時は『冒険を楽しめ』で十分だったと思いますね」
ヒノキ「そもそも、88年ということは、ロードスの小説も出たばかりで、ソード・ワールドは出ておらん。TRPGの冒険で、テーマ性のある感動的な物語を作り出すなど、まだ一般的ではない時代だったじゃろう」
NOVA「そうですな。PAの場合は、多様な種族の冒険者がとにかく集まって、それぞれの特技を組み合わせて、冒険の目的を果たして、経験点をもらって成長する。それで十分な時代でした。背景世界から読みとれる物語イメージなんて、当時の自分には分からなかったし」
ヒノキ「おい」
NOVA「サイコロ振って、いろいろなキャラ作りができるのが楽しいって感じでしたし、ランダムで出身地が決まって、そこから能力値が修正されて、想定どおりのキャラができるのも楽しかったし、魔法使いを目指していたのに、何故か知性の下がる国に生まれて、想定外の能力になったキャラを見るのも楽しかった。このゲームは、こんなキャラが作れるんだあってヴァリエーションがあるだけで楽しかったんです。後に、整合性を重視するようになって、デタラメのカオスを嫌うようになって、その頃に買った『マルチバース』はあまり受け付けなくて、その時期は『スペオペヒーローズ』を至高のSFRPGと思ってました」
ヒノキ「違うゲームに寄り道しかかっておるぞ」
NOVA「それでですね。当時はまだRPGのシステムも次々と新しいものが出て、ゲーム雑誌でもシステム解析話とか、その手の評論がいろいろ出るんですよ。今のTRPG雑誌で、上方ロールと下方ロールのイメージの違いとか、ダイスRPGとカードRPGの判定方法の違いにまつわる話とか、あまり取り上げられないですよね。そして、PAはキャラの成長方法がまた斬新でした」
シロ「キャラの成長って、基本は経験値を貯めてレベルアップですよね」
NOVA「D&Dが始めた手法だな。T&Tはそれを踏襲しつつ、レベルアップすると能力値アップするのが斬新だった。それと、クトゥルフやルーンクエストなどのベーシック系は、レベルアップではなくて、使って成功したスキルや訓練したスキルを伸ばせるチャンスがあるルール。一方、PAの当時はユニークな点が、キャラの育成方法だ。経験点(厳密には経験度と表記)をもらって、それを消費することでスキルを購入するシステムだが、後にソード・ワールドも経験点を消費して、職業技能のレベルを習得購入するシステムを発表。今だと、経験点を消費して強くなる手法は当たり前だが、俺が知る限り、それを日本で最初に示したのがPAだったんだ」
ヒノキ「日本では翻訳が後になったが、GURPSのCP消費システムが86年で早いと思われ。未訳の海外RPGじゃと、スーパーヒーロー物のChampionsが1981年で、ポイントによる能力成長の元祖だそうじゃ」
NOVA「なるほどね。そのゲームのタイトルは知っていたけど、システムの中身は知っていなかったな。ともあれ、PAでは経験点を消費することで、スキルや能力値、魔法の能力や信仰度、呪文の習得や性能アップなど、様々な成長が行えるので、どの能力を成長させるかが非常に楽しいゲームだと思う」
シロ「買い物感覚で成長を楽しめるわけですね」
NOVA「一方で、PAにはもう一つ大事な成長があって、氏族の地位をお金を出して高めることなんだ」
シロ「氏族の地位ってのも成長要素ですか」
NOVA「PAのキャラクターは、軍事、宗教、犯罪、交易、政治、神秘のどれかの氏族に所属しているんだが、最初はレベル1からスタートして、金貨2枚払うとレベル2になる」
シロ「ずいぶん簡単ですね」
NOVA「金貨1枚の価値がどれくらいかは、ゲームによって変わる。PAの場合は、銅貨や銀貨が経済の基準で、金貨1枚が銀貨25枚、銀貨1枚が銅貨100枚に相当する。金貨2枚だと、銀貨50枚、銅貨換算だと5000枚になるわけで、1日当たりの宿賃+3食分が銅貨10枚から20枚ぐらいだから、金貨2枚あれば半年ぐらいは生活していける計算になる」
ヒノキ「初期の所持金はいくらになる?」
NOVA「知性やキャラの出身階層(下級、中級、上級、名門)によって修正値が加わり、結構な格差がありますが、最低が0で、最高が18700銅貨。おおよその期待値は2500銅貨になると思われ。つまり、よほどの金持ちだったら、初期の所持金で氏族レベルを上昇できるけど、普通は無理。だから、生活費を稼ぐためと、氏族レベルを上げて成り上がるために冒険に出る動機となりますね」
ヒノキ「なるほど。冒険に出て、一攫千金のお宝がゲットできれば、出世できる。実に清々しい目的じゃのう。今どきのストーリー重視なシステムとは違う」
NOVA「経験度を稼いで能力を高め、お金を稼いで氏族内の地位を上げたり、装備を整えるという成長ですね。さらに個人的な冒険の目的として、以下の10の中から2つを選んで、獲得経験度にボーナスを得ることも可能」
- スリルシーカー:新たな危険な状況に遭ってドキドキハラハラしたい。
- 探検家:自分の知らない未開の土地を見聞したい。
- 戦闘:意味のある戦いをしたい。
- 魔法の使用:習得した呪文や、魔法の物品を活用したい。
- 窃盗:盗賊系のスキル(〈すり〉〈解錠〉〈わなの発見・解除〉〈隠伏〉)を駆使して、お宝を入手したい。
- 魔法の所有:価値ある魔法の物品を入手して、手元に所有したい。
- 富の所有:高価な衣服や装飾品などを入手して、派手な外見で優雅な自分を演出したい。
- パーティー:一日を解放的に、享楽的に(飲む賭つ買うなどで)盛り上がって過ごしたい。
- 平和主義:戦闘を回避あるいは仲裁し、心からの友人を作って、みんな仲良くしたい。
- 名誉:人々の心に残るような英雄的な行動をしたい。
NOVA「所属組織(氏族)のために働くというのがPAの基本スタイルだと思うのですが、個人的な動機を優先しても構わないし、こういうキャラ立てをしっかりできるゲームというのも88年当時はまだ新鮮でしたね。ロールプレイの指針にもなりますし」
ヒノキ「PAはスキル制のシステムで、職業クラスは用意されていない。しかし、氏族を選ぶことで、擬似的に職業を表現しているとも言えるのう」
NOVA「ええ。戦士になりたいなら、軍事の氏族を選べば、氏族のレベルアップによって武器の使用にボーナスを得たり、自分の壊れた鎧を自分で修繕したりすることができるようになります。他には、氏族のレベルを上げることで、使える装備品が増えたり、支払う税金が安くなったりなどの恩恵が得られますね。このゲーム、累進課税の逆で、出世すればするほど、税金が安くなるので、働いて働いて働くことのモチベーションを高めてくれます」
ヒノキ「明確に格差社会の助長システムと言えるが、成り上がることへの動機づけが明確じゃのう」
NOVA「低レベルでは制約が大きくて、自由がないのが、少しずつ解放されるというのは、いいですな。宗教関連はまた別ですけど」
シロ「宗教は確か、位階が上がるほど、戒律が増えたり、払うお布施の額が増えたりするんですね」
NOVA「その分の恩恵とのバランスが取れているか、と言われれば、たぶん戒律の方が厳しいと感じるな。まあ、宗教の氏族を選べば、信仰度は勝手に成長するので(最大+3)、わざわざ経験点を払って信仰度を高める必要はないから、信仰キャラを作りたいなら、順番としてはまず氏族レベルを高めてから(聖水や聖印を自分で作ったり、身の周りの世話をしてくれてボディガードになってくれる徒弟を得たりできる)、究極は氏族レベル10の聖人だな。その宗教団体では、信徒みんなに尊崇される」
ヒノキ「聖人なのに、信仰度が最低の4しかないと?」
NOVA「金で信仰団体の長の地位を勝ち取ったことになる。戒律もあまり守っていないで、俗世での立ち回りだけは有能な生臭神官となるか。それはそれでリアルなのかもしれないが、ロールプレイ的に違和感を覚えるなら、その辺はバランスよく育成するべきだろうな」
シロ「犯罪の氏族は分かりやすいですね。要するに、盗賊ギルドでしょ?」
NOVA「氏族レベルを上げた恩恵は、毒を識別したり、皮鎧を修繕できたり、ブラックマーケットを発見して、盗品を売りさばいたりできるようになる。一方、交易の氏族は物品の鑑定能力がいろいろ付いてくるが、闇市で売りさばくことはできないので、その辺は真っ当に交渉系のスキルを高めて、まかなうことになるんだな」
ヒノキ「自分にできないことは、知り合いの盗賊ギルドのメンバーに頼んで、手数料を払ったりしながら、代わりに売りさばいてもらうとよかろう」
NOVA「悪徳商人を目指す場合は、そういう方向でしょうな。まあ、普通は交易の氏族って、犯罪には関わらないようにするのが正統派なんでしょうけど、軍事、犯罪、交易、政治は氏族レベルを高めると、他の氏族の領域まで踏み込んで、そちらのレベルを上げることも可能なので、クラス制システムにおける兼職みたいなことも可能、と」
シロ「宗教→軍事は無理でも、軍事→宗教はOKということですか」
NOVA「思うに、宗教をメイン氏族とする神官の家系や、神秘をメイン氏族とする魔法使いの家系は、どうしても世間知らずになる傾向があるんだな。だから、自分の氏族以外の世界が目に入りにくい。一方で、他の4つの氏族は、世間知が高まりやすい。世間知の面では、政治の氏族が最も広くて、成長すれば最大4つの氏族のレベルを上げられる」
ヒノキ「政治家は顔の広さが長所ということか」
NOVA「政治の氏族は、レベルが上がると組織の長や貴族、王族と謁見して、要望を述べたり情報を得たりすることが可能になります。さらに自分の所属する地域では、多少の違法行為を目こぼししてもらったり、税を払う必要がなくなったり、社会的にいろいろやりたい放題って感じですね、自分の所属する文明社会では」
シロ「それはすごい」
NOVA「ただし、荒野を旅してるとか、外国に行くと、その限りではないですけどね。国どうしが友好国であれば、賓客として迎えてもらえる可能性も大きいですが、さすがにその国の法を侵すような大使は願い下げだと考えますな」
ヒノキ「政治の氏族は最も顔が広く、他の氏族のレベルを3種類まで伸ばすこともできる。つまり、政治家が軍事氏族や宗教団体、交易商会のメンバーになることも可能、と」
NOVA「あるいは、犯罪や神秘など、どの団体に顔が利くかってことですな。次に顔が広いのは交易氏族で、他の氏族のレベルを2種類まで上げられる。犯罪氏族は他を1種類だけですが、レベル5まで深く浸透することが可能(他の氏族はレベル3までしか追加の恩恵を得られない)。軍事氏族は他の1氏族をレベル3までですので、この中にあっては最も顔が狭いことになりますが、それでも軍事氏族の長レベルともなれば、他の団体との交流は必須になる、と」
シロ「最後に神秘の氏族恩恵は?」
NOVA「ルーン文字や、その他の魔法文字が見ただけで分かる。解読のためには、別にスキルを上げないと読めないんだけど、月の文字は満月の下でないと読めないし、水の文字は清水に浸さないと読めない。火の文字は金属や鉱物に記すもので、火で熱しないと読めない。つまり、それらの文字は条件を満たさないと気づくことすらないんだけど、神秘の氏族のレベルを上げると、秘文字が刻まれていることに気付けるわけだな」
ヒノキ「『ホビット』や『指輪物語』で、エルロンドやガンダルフがそういうシーンを披露しておったな。つまり、普通だと手に入らない情報が、魔法使いには分かる、と」
NOVA「他にも、マジックアイテムのオーラが見えたり、〈調合〉〈言語(会話)〉〈読み書き〉のスキルにボーナスが得られます」
シロ「氏族の恩恵は、いろいろ個性的で面白そうですね」
氏族と税金、制約の話
NOVA「さて、氏族はPAの特徴とも言えるが、要するに職業を社会的な身分という視点で表現したシステムだな。ワールドガイドには、この氏族の地域別リストがいろいろ掲載されていて、マルデイク連邦では、特にそれが充実している(92種類の団体名と簡単な役割が表記)。
「ジェグ帝国では15種類しか掲載されていないが、それは各都市の代表となる氏族だけで、首都のキャスーンでは政治と犯罪が力を持ち、他には軍人が力を持つ都市、魔法使いが仕切っている都市、交易が目立つ都市、犯罪が盛んな盗賊都市なんかが見受けられる」
ヒノキ「宗教都市なんかはないのか?」
NOVA「ジェグ帝国は、エネク神教を国教にしているけど、あまり宗教団体に権力を与えることはしていないようで、目立った氏族がなさそうだ。面白いのは、盗賊都市として名高いフィリエンの町で、〈九つの爪先〉という帝国最大の犯罪氏族が幅を利かせているのに対し、それに対抗するように〈白き翼〉という宗教氏族が下層民を守る団体として掲載されている点。一方で、別の町では〈黒き蛇〉という怪しげな新興宗教氏族が立ち上がって、ちょっとした事件のネタ(シナリオソース)にもなっているようだ」
シロ「ああ。その国にある組織名を挙げるだけで、都市冒険のネタになるわけですね」
NOVA「チャク郡は、部族が氏族の役割を果たしているな。問題は、ワールドガイドが出なかった他の地域だが、とりわけワイルドランドには、普通に考えて政治や交易の氏族なんて存在しないだろうとか、魔法使い嫌いのスクアル僭主皇国に神秘の氏族なんてあり得るのかね、とか湧き出る疑問だな」
ヒノキ「公式設定が公表されていない以上は、ユーザーが勝手に設定すればいいじゃろうて」
NOVA「いや、今さらですよ。こういうのは、プレイヤーがワイルドランド生まれのキャラを作ってしまった際に、GMと相談しながら自分の氏族をアイデア出しするといいのだろうし、『オレ、ワイルドランドから来た。氏族? そんな物は知らん。だが、このチャク郡で、オレを拾ってくれた部族のために戦う』とかで、ワイルドランド生まれだけど、チャク郡や他の地域の氏族のメンバーになる選択肢だってあるわけだ」
シロ「ワイルドランド出身のキャラクターは、他の地域の氏族に参入しろってことですか?」
NOVA「これは、ルールブックの記述からの推測だけど、氏族システムとワイルドランドって非常に相性が悪いんだよね。ワイルドランドには、いっそのこと氏族が存在しないとする方が納得できる」
- 氏族とは、文明そのものである。アニス大陸の全人口の40%に当たる人々が氏族に所属している。氏族に所属していない者は奴隷と見なされる(以上は、APA38ページの記述より)。プレイヤーキャラは全員、氏族に所属しているが、この世界には氏族に所属していない者(多くは奴隷、非自由民、あるいは未成年や辺境の民など)が6割近くいるということになる、と。
- 氏族に入るには、一定量の税金を納める必要がある。ワイルドランドには、貨幣経済が存在しない(PAの98〜99ページ、APAの190〜191ページより)。「経済」の章には、各国の通貨が載っている。現在の通貨の基準(交換レート)はジェグ帝国のそれを基準にしたものになっているが、遊牧民社会のチャク郡は独自の通貨を鋳造しておらず、他の国の通貨を使用している。また、サイング連盟は鉱石や宝石が通貨代わりとなっていて、貨幣への信用は薄くなっている。そして、ワイルドランドに至っては、通貨に関する記述すら載っていないのだ!
- したがって、ワイルドランドは文明社会から縁のない野生の地であり、貨幣経済が存在しない以上、氏族も存在しないと考えるのが無難である。それならば、ワイルドランド出身のキャラクターは、どういう背景を持つのか? おそらくは、未開地から出てきた野人、あるいは労働資源として連れて来られた奴隷扱いであると察せられる。しかし、プレイヤーキャラクターは運良く、優しい主人に出会い、その優秀性を認められて、自由特権を与えられた結果、その地の氏族の一員として受け入れられるようになったのだ。肉体的にタフな彼らは、軍事の氏族で才能を発揮する可能性が高いが、他に犯罪組織の用心棒とか、フェアリーなら魔法使いの助手として神秘の氏族に所属する可能性だってある。要は、ワイルドランド出身の元奴隷は保護者役の主人の所属する氏族に所属するわけだ。そして、主人の依頼で冒険に参加したり、主人の身内のボディガードとして、付き添い人の立場とか、そういう設定なら辻褄が合いそうな気がする。
ヒノキ「要するに、ワイルドランドは貨幣経済を用いるような文明社会が存在しない=ルール上、収入の4割の税金を納めるシステムである氏族という仕組みには馴染まない。結果として、ワイルドランドに氏族は存在しないが、ワイルドランド出身のキャラクターは氏族に入っている。すなわち、非文明社会出身の彼らが、文明に馴染んで氏族社会に受け入れられるまでの過程が、冒険を始める前にあったはず、と言うことじゃな」
NOVA「あるいは、未開と思われているワイルドランドにも、キングコングを崇めているドクロ島の原住民や、モスラを祭っているインファント島の未開人のような土俗文化はあるとか考えてもいいけど、どうも現在の西洋ファンタジー界隈では、未開人というものをフィクションで昔ながらに扱うことも差別につながるのでは? と忌避する風潮があるようです*2」
シロ「そう考えると、ワイルドランドの扱いは難しくなりそうですね」
NOVA「さて、氏族レベルは金貨2枚で1から2に上がると言った。これがレベル2から3だと倍の金貨4枚、レベル4までだと金貨8枚……と倍額で増えていく。これがPAで、APAだとまた違う計算式になるわけだが、氏族レベルが上昇すると使える装備品が増えたりする他、雇える従者や使用人の数が増えたり、持てる不動産の質や量が増えたり、ルールが複雑化しているな。ただの冒険者から、社会組織の構成員として出世できる仕組みが結構細かい」
ヒノキ「PAだと、氏族レベルを上げると恩恵しかなかったが、APAになると社会に対する責任とかしがらみが大きくなるとか、そんな感じかのう?」
NOVA「ギルドの長とか、そんな感じになりますからね。信仰度と同じで、こちらも程々のレベルで留めておかないと、自由な冒険者ではいられなくなってしまいそうだ」
ヒノキ「PAのシステムだとシンプルなルールだったものが、APAになると、よりリアルに複雑化したということじゃな」
NOVA「では、今回はこれにて。次回は、PAの時になかったキャラクターの年齢と経歴技能システム、そして種族の感覚器官(視覚、嗅覚、聴覚)の話をしようかな、と」
(当記事 完)