前回は悪魔の話ができなかったので
NOVA「今回は、悪魔方面にも踏み込むつもり」
ヒノキ「なるほど。前回は何の話をしたか、まずは整理してくれ」
NOVA「ケイP、任せた」
ケイP『了解だッピ。まず、オリジナルD&DとアドバンストD&Dの神話および神さまについて記された世界設定サプリの確認をしたッピね』
NOVA「実は、1980年に出た『ディティーズ&デミゴッズ』だが、日本のゲーム界においても重要な意義があったんだ」

NOVA「で、この英語の初版なんだが、このサイトで無料閲覧できる。何だか凄いお宝ページだ」
NOVA「で、この神話資料にバビロニア神話のネタがあって、これを見よ」

NOVA「あの『ドルアーガの塔』に出てくるラスボス悪魔のドルアーガと、主人公ギルガメス(ギルガメッシュ)の元ネタだ」
NOVA「元ネタがAD&Dのサプリメントだって話は知っていたんだが、この度その原書がネットで見つかったので、喜んで紹介してみる。なお、女神イシターもあったりして」

NOVA「さらに、問題のエルリックや邪神アリオッチ、黒の魔剣ストームブリンガーのデータも閲覧可能なんだが、そちらを貼り付けるのは版権的にマズそうだと感じたので、うちのブログには貼らない。TSR社はもはや存在しないので版権を気にする必要はないと思うが、エルリック作者のムアコック氏は健在なので、過去にトラブった経緯のある代物をこの場で蒸し返す勇気は、俺にはない。
「ともあれ、大事なのは、D&Dというゲームが日本国内でTRPGファン以外に広くブレイクしたことはないけど、そのルールやサプリメントの内容およびイラストなんかが、別のゲームのアイデア源となって、間接的にD&Dのエッセンスが広く影響を与えまくっているってことだな。
「それこそ、『ダンジョン(地下牢)』という単語を、冒険者が探索する舞台の『地下迷宮や洞窟その他の屋内建造物』の意味として、当たり前に使うようになったのもD&Dの影響だ。その影響を避けるには、ラビリンスとかメイズ(迷図)とかフォートレスとか月匣など、別の用語を使うなり作るなりしないといけない。
「ただし、野外の方は、D&Dはウィルダネスという言葉を使っているが、世間で広く使われているのは、オープンフィールド、あるいはフィールドだな。フィールドBGMとかダンジョンのテーマとかでシーン音楽を表現しているわけで」
前置きは終わらず
ヒノキ「『ディティーズ&デミゴッズ』だけで、どこまで話を膨らませる気じゃ、おぬしは?」
NOVA「ある意味、インターネットのおかげだと思いますが、前置きはまだ終わってないので、ケイP、続きを頼む」
ケイP『ケピッ。D&D話の後は、日本のTRPGに流れて、「ローズtoロード」の話を少しした後、「ファンタズム・アドベンチャー」の話に流れたッピ』
NOVA「そうだ。『ファンタズム・アドベンチャー』。実は魔法研鑽と称して、『ファンタズム・アドベンチャー』の独特な魔法ルールについて語りたかったんだよ」
ケイP『だけど、そこから寄り道して、「エクスカリバー」とか「ファンタジーRPGガイドブック」にまわり込んで、マスターNOVAのTRPG購入自慢が始まったッピ』
NOVA「いや、自慢じゃなくて、愛の表明な。信仰と言ってもいい。あるいは推し。とにかく、俺の愛はテーブルトークRPGに多く捧げた。もしも、日本TRPG党というものが結成されたら、そこに清き一票を注いでもいい。だけど、日本TRPG党が初心を忘れて、日本TCG党とか日本マダミス党になってしまうと、残念な気持ちになるなあ。まだ、日本ゲームブック党ならいい」
ヒノキ「とにかく、今回はPAの話に専念するんじゃな」
NOVA「いや、だったら記事タイトルを、『ファンタズム・アドベンチャーの話』にしますよ。しかし、俺はまだ80年代のTRPG信仰観について語り足りていない」
ヒノキ「まだ、何の話が残っていると言うのじゃ?」
NOVA「ヒノキ姐さんはゲームの世界で、俺が初めて知った神さまって誰か分かりますか?」
ヒノキ「ん? 女神イシターか? それとも幻獣神バハムート? もしや破壊神シドーとでも言うのか?」
NOVA「まあ、ゴジラ様を神認定するなら、中学時代にゴジラのシミュレーションゲームもプレイしてましたので、そっちが早いとも思いますが、ゲームの初神体験はソーサリーの女神リーブラです。いや、ブレナンのピップシリーズに神さまが出ていたら別ですけど」
シロ「ソーサリーに戻るんですか」
NOVA「そりゃあ、前回まではアメリカと日本の話ばかりだったので、ゲームブック的に重要なイギリスの話もしておかないとなあ、と思って。元々、FFゲームブックは『初心者向きのD&Dの解説本』という企画から始動した作品シリーズだが、作者のジャクソンとリビングストンが、初期のオリジナルD&Dに出会って、1975年に『アメリカ産のD&Dを、イギリスに輸入販売する会社としてゲームズワークショップを立ち上げた』ところからスタートした。20代半ばの話だ」
D&Dとゲームズワークショップ
シロ「D&D誕生が1974年で、その翌年にD&Dのための会社を立ち上げたんですか。凄い先見の明と行動力ですね」
NOVA「まったくだ。最初は店舗を持たない通信販売のみの会社だったのが、1977年にロンドンで初店舗を開き、現在は世界トップのミニチュア・ボードゲーム(主力製品はウォーハンマー)の会社となっている」
シロ「ウォーハンマーはTRPGですよね」
NOVA「ウォーハンマーは83年にミニチュアのウォー・シミュレーション・ゲーム(ファンタジー・バトル)としてスタートした。その2年後の1985年にTRPG版が登場。この2つのゲームは、シミュレーションゲームの『バトルテック』とTRPGの『メックウォリアー』の関係に近い」*1
ケイP『その例えじゃ、分かる人にしか分からないッピよ』
NOVA「だったら、D&Dの元がシミュレーションゲームの『チェインメイル』と言った方がいいか。元々オリジナルD&Dの最初のルールブックには、戦闘ルールがなくて『チェインメイルのルールを使うこと』と記されていたらしい」
シロ「つまり、D&Dは独立したゲームではなくて、『チェインメイル』の追加ルールみたいなものだったんですね」
NOVA「一応、『チェインメイル』を持っていないプレイヤーのための簡易ルールはあったんだが、その簡易ルールを最初のD&Dサプリでバージョンアップして、D&Dの独自性が高まる。その後、つぎはぎでルールを構築しながら完成度を高めて行ったのを、一つにまとめたのが1977年からのアドバンストD&Dだった経緯があるんだが、その際に作者のゲイリーさんが、イギリスで熱心にD&Dを販売していたゲームズワークショップのジャクソン&リビングストンに打診するんだな。『今度、イギリスにもTSR社を作りたいんだが、ゲームズワークショップをうちと合併して、イギリスTSRとして一緒にやっていかないかね?』と。当時アラフォーのゲイリーさんから20代の若手社長の2人に強烈なラブコールを送った形になる」
ヒノキ「だけど、その申し出を断って、ゲームズワークショップが独自路線に舵を切る決断をしたことが、この本には書かれているらしいのう」
NOVA「TSRのその後の運命(創業者のガイギャックスを85年に追放し、D&Dを武器に業界トップに君臨したけど、90年代に業績悪化し、97年にWotC社に吸収される形で倒産)を知ってみると、リビングストンたちの決断がやはり先見の明に優れていたという評価になるな。ガイギャックスの会社は30年で消えたけど、リビングストンの創業した会社は50年を乗り越えたんだから」
シロ「今もリビングストンさんは、GW社に関わっている?」
NOVA「いや。1991年に1000万ポンドで会社を売ったらしい。会社経営で忙しいと、自分のやりたい創作活動ができないから、とのことで、その後もゲームブック執筆のかたわら、ボードゲームを作ったり、コンピューターゲームの仕事をしたりしながら、イギリスゲーム界の長老的な立ち位置になっているそうだ。日本ではゲームブックのFFシリーズの創始者って評価がメインだけど、ゼロ年代後半には有名アクションゲームの『トゥームレイダー』のプロジェクトも進めたことがあるらしい」
NOVA「リビングストンが関わったのは、2007年の10周年記念作『トゥームレイダー:アニバーサリー』(通算8作め)だそうだ」
NOVA「時期的には、ゲームブック『龍の目』(2005)と『ゾンビの血』(2012)*2を新刊として書く合間に、トゥームレイダーに関わっていた形になるな」
ヒノキ「というか、ゲームズワークショップの話はどうなったんじゃ?」
NOVA「おっと、話を戻そう。ゲームズワークショップの現在の主力製品は、1987年からスタートしたミニチュアゲーム『ウォーハンマー40000』だ。西暦4万年という遠い未来で、宇宙を舞台になおも混沌と戦い続けるSFバトルの世界だ。ファンタジーバトルよりも、こちらの方が独特の世界観ってことで売れているらしいが、ミニチュアゲームを主流にしたあまり、90年代以降のゲームズワークショップは、それまでのボードゲームやTRPGの継続を取りやめ、版権を別会社に売り払ったんだな。だから、『ウォーハンマーRPG』や有名ボードゲーム『タリスマン』など他社で継続しているものも見られる。リビングストンの社長時代には幅広くこなしていた事業を、ミニチュアゲーム一本に集中させているのが今のGW社だ。
「これについては、とあるゲームブック作家が『自分はTRPGの仕事がしたくて、ゲームズワークショップに入ったのに、何だか会社がそっちから手を引くとか言っていて、悩んでいる』とかいう記述が、この本にはあるらしい。SNEの安田社長がXポストで宣伝交じりにそう語っていたんだが、その作家氏には大いに首肯できた」
ヒノキ「社長が変われば、あるいは時流が変われば、企業の経営方針も変わるということか」
NOVA「元々、ゲームズワークショップはD&Dの通信販売から始まって、その後、『ストームブリンガー』3版の出版権や、『ルーンクエスト』2版の出版権(および3版のイギリス国内販売権)、『クトゥルフの呼び声』2版と3版の出版権、『トラベラー』の出版権をそれぞれ獲得するほど、イギリス国内でのTRPG流通の旗手だった」
ヒノキ「ちょっと待て。それって、思いきりTSR社にケンカを売っておらんか?」
NOVA「まあ、日本のホビージャパンみたいな企業だったのでしょうな。あと『指輪物語RPG』のイギリスでの版権も得て、そちらでもミニチュアゲームを製作して、21世紀の劇場版大ヒットを受けて大儲けしたそうです」
ヒノキ「それほどTRPGに力を注いだ企業が、今はミニチュアゲームのみの企業に成り果てたとはのう」
NOVA「それはTRPG視点で物を言っているからであって、企業が売れるものに力を注いで、売れないものは切り捨てるのは営業方針として間違っていない。売れるものが一つしかないと、人気低迷したときに困るので、いろいろと手持ちの玉を用意するのですが、玉が多くて扱いきれなくても宝の持ち腐れになる。ならば、自社の持つブランド価値あるものを熱意ある新規の造り手ないし売り手に委ねるのは当然の理ですな。ファンとしては、その新たな企業がきちんと良いものを製作して、商い続けてくれたら応援できるんですが。まあ、財力にも限度はありますので、一度にいろいろ出ても、買うものを絞らざるを得ないケースもあるとして」
ヒノキ「ウォーハンマーは好きでも、ミニチュアバトルには興味を持てない?」
NOVA「というか、これってTRPG以上にかさばって置く場所に困るし、高価な買い物になるし、さすがにその道に参入する余裕はまったくありませんよ。メタルフィギュアなんて、TRPGのコマとして便利以上の値打ちを感じませんし、でも、フィギュアに投資している人を見ると、敬意は示しますね。そういう愛もあるんだって」
ヒノキ「お主は結局、本に愛を注ぐ人間のようじゃしのう」
NOVA「ともあれ、ゲームズワークショップは、D&Dと袂を分かって、競い合うように『ウォーハンマーRPG』を生み出した。それで、日本でもFFゲームブック→T&T→ウォーハンマーという流れができたのですが、何の因果か、ウォーハンマーもD&Dも21世紀に入って、ホビージャパンが版権をとるんですね。昨日の敵は、今日の友というか」
ヒノキ「ところで、今のルーンクエストもホビージャパンが版権を持つのか?」
NOVA「いや、違います。何だか新興企業のフロッグゲームズというところですね」
NOVA「とりあえず、ネットでのPDF販売から始まって、ある程度、売れ行きが見込めると判断した時点で、物理本を刷って、ゲームショップの流通に乗せてもらう方針っぽい。現状は、通信販売のみに思えますが、ルーンクエストという大型ブランドを扱うことで、どう化けるのかな、と見届けることぐらいはしたい、と。巨人オメガさんの気持ちで」
ケイP『オメガさんは見てるだけだッピ?』
NOVA「さすがに、今さらルーンクエストに手を出すのはなあ。昔のルールとどう変わったかを見届けて、面白そうなら様子見の上で買いたくもなるだろうが、これについては、アーリーアダプターになるつもりはない。歴史的に意義ある作品なのは間違いないが、今の時代に果たしてブレイクするかは懐疑的だな。『あの伝説の作品の最新版が帰ってきた!』って意味合いと、流行りのクトゥルフと同じシステムのファンタジー版で、もしかするとD&Dが公式に足踏みしている今なら、その潜在的客層を引っ張って来れる可能性があるかもしれない、と言ったところか」
ヒノキ「古いシステムを持っているから、新しく買う意味を感じない、と?」
NOVA「それもありますな。今、持ってなければ、新しいのを欲しがるかもしれませんが、割と物持ちのいい保守層なので、新しいバージョンは、それを知らない若手が買って、未来につなげてくれ、と願ってはいる。まあ、これを機に、『ルーンクエスト90s』の再評価が為されたらいいな、とは思う。あれは、イラストを除けば、初心者対応型のいい作品でした。サプリメントの『ドラゴンアトラス』が表紙絵的にもお気に入り」
ワールドガイドの話
NOVA「ところで、前の小見出し『D&Dとゲームズワークショップ』なんですけど、リビングストンさんの話や、ウォーハンマーの話につながるのは分かる。しかし、どうしてルーンクエストに飛んだんだろう?」
ヒノキ「まあ、記事題の信仰観の話をしたければ、ルーンクエストは間違っておらんと思うが」
NOVA「そもそも、ウォーハンマーはD&Dのライバルとして作られたのに、ゲームズワークショップとイギリスTSRは別に仲が悪くないんですよね。アメリカ本国では、TSRが他のゲーム会社を痛烈に蹴落とそうとしていて、業界トップがイヤな奴になっていたのですが、イギリスの方は割と仲良くゲーム業界が付き合っているというか、その辺は俺が知らないところで痛烈な足の引っ張り合いがあったのか、それにしてはカール・サージェントがD&Dでも、ウォーハンマーでもどっちも同時並行で仕事できているのが意外だったというか、別にイギリスTSRを追い出されたから、ゲームズワークショップに移ったとか、そういうこともなく上手くやっていたように見える」*3
ヒノキ「その辺の話も、『主人公はキミだ!』で読めるかもしれぬぞ。何しろ、カール・サージェントはゲームブック作家キース・マーティンとして多作じゃ。作者がどういう人物で、どういうことを考えていたかの情報も、割とジョナサン・グリーンは赤裸々に調べて書いてそうじゃからな」
NOVA「あと、俺が気にしているのが、ワールドガイドの『タイタン』成立秘話なんですよ。あれ、本国では86年出版なんですけど、それって『ドラゴンランス』や『フォーゴトン・レルム』のワールドガイドよりも1年早いんですね。つまり、D&Dがワールドガイドをどんどん出していく時代に一歩先駆けて、FFゲームブックがワールドガイドを出した流れです。日本では、翻訳が遅れたから、まるで『ワールドガイドがいっぱい出たから、その流れを追いかけるように、タイタンが出た』って感じにプッシュしていたけど、それは当時の日本の状況であって、『ソード・ワールド』のワールドガイドが1993年だから、日本では90年代にRPGのワールドガイドをいろいろ出してくる。
「D&Dのワールドガイドで日本語に初めて翻訳された『GAZ1 カラメイコス大公国』も本国では87年で、日本語訳が88年出版。 TRPGのワールドガイドに需要があると日本で判明したのは、その辺りからで、だったら『タイタン』も出版しようかって流れになったのは分かる。日本では、D&Dの後追いとして、世界設定資料を翻訳出版したんだけど、イギリスの『タイタン』出版は決して後追いではなく、むしろ一手早く動いていた。『雪の魔女の洞窟』(1984)でアランシアの各地がつながって、翌85年にソーサリーが完結する。それを受けての86年だったら、D&Dがそうしたから……という二番煎じでは決してなく、むしろTRPGも含めたFFのシリーズ展開に必要だから、86年というタイミングで出した、と。
「日本では、『タイタン』を出して、AFFを出して、まさにこれからというタイミングで、FF展開が終わってしまった。ついでに文庫RPGの後継作として期待された『ウォーハンマー』もワールドガイドを出す前に終わって、結局、80年代の作品で、ワールドガイドのサプリメントは『ソード・ワールド』と『ハイパーT&T』、そして文庫D&Dの巻末おまけとしてミスタラの『カラメイコス大公国』の概要が付与されたぐらい。一方で、他社は、ホビージャパンの『指輪物語RPG』と『ルーンクエスト』、そして一地域だけでしたが『ファンタズム・アドベンチャー』となります*4。ゲームシステムを出して、続けてワールドガイドを出して……という流れが定着するのは、80年代の末期から90年代にかけて」
シロ「ワールドガイドをそこまで推す理由は?」
NOVA「そりゃあ、システムだけで世界観のイメージがなければ、ゲームマスターがどういうシナリオを作ればいいかのイメージが構築しにくいからだな。単純にダンジョンを探索して、出てくるモンスターを退治して、お宝をゲットするだけのゲームなら、ワールドガイドなどいらん。モンスターデータとアイテムデータがあれば、それで十分プレイできる。しかし、ワールドガイドがあると、その世界にどういう文化があって、どういう敵陣営があって、社会の一般の人々は冒険者をどのように見なしていて、冒険者は何を目指して社会の中の立ち位置を築くかとか、いろいろ見えて来るんだな」
ヒノキ「街の中に、魔法の研究施設があるだけで、ああ、この国では魔法が公に受け入れられているんだな、ということが分かる」
NOVA「逆に、有名NPCに魔法狩人が存在するだけで、ああ、魔法使いってことを公にするのは危険なんだなって察することができる。もちろん、世界創造神話とか、神々の話が構築されていると、いかにもファンタジーって感じだ。これが現在オカルト物だと、世界の裏に隠された神秘の世界の実相が(少なくともGMには)分かるように記されている必要があるし、プレイヤーキャラに絡む秘密結社の概要が載っていることは、そのままストーリーアイデアにだってなる。要は、シナリオを作るためのアイデア源になるわけだし、実プレイをしなくても、創作小説のネタ出しにも十分使える」
ヒノキ「他には、既存シナリオの物語の補完にも使えるな。シナリオに登場した悪役NPCが、ワールドガイドにも登場すると、ああ、こいつはこういう背景があったのか、とか」
NOVA「それで驚いたのは、クラシックD&D公式の悪役魔術師バーグルが、悪徳領主ブラックイーグル男爵の手先で、彼に殺された女僧侶のアレーナが実は教会の大司教の姪かつ騎士団に所属する重要人物という設定が(後付けで)記されていたこと。もしも、アレーナが死んでいるという設定を採用するなら、キャラ名をアンリーに変えよ、とか記されていて。だったら、バーグルが死んでいても、バーグルの兄のボーグルとかにすればいいな、と今ごろ思いついたり」
ヒノキ「よく、プレイヤーキャラが死んで、キャラを作り直すのも手間なときに、同じデータを持った双子の弟を出すというネタがあるが、バーグルの場合、倒された魔術師が公式データよりも明らかに弱いということが問題になるな」
NOVA「だって、ルールブックの掲載ソロアドベンチャーって、ダイス目が良ければ、1レベルのファイターでもバーグルを倒せますからね。いくら魔術師が肉弾戦で弱いからって、15レベルの魔術師が1レベルファイターに殺されるはずがないし、アレーナにしてもマジックミサイル1発で死ぬようなHPじゃないでしょう。おっと、今、気づいたや。バーグルが15レベルなら、マジックミサイルが1発だけというのはあり得ない」
シロ「そんな昔のネタに対して、ツッコミ放題ですね」
NOVA「後付けで生まれたネタのうえ、どうやら整合性をあまり考慮せずに作られたようだ」
ヒノキ「いや、単に別の時間軸かもしれんぞ。プレイヤー戦士が干渉しなかった世界では、アレーナがバーグルと対決せずに、お互い死ぬことはなかったとか」
NOVA「そう言えば、今、思い出した。俺、『レンフィールド戦記』の小説を書くに当たって、バーグルの名前をそのまま使うのを避けて、バラールに改名したんだった。うん、俺の物語世界で死んだのは、バーグルじゃなくてバラール。別人だ。ビホルダーをメドーサボールにしたり、大目玉、バグベアード、イービルアイ、ビッグアイにしたら、版権に引っかからずに済むのと同じだ」
シロ「そんなに名前があるんですね、鈴木土下座衛門さんは」
ヒノキ「しかし、バーグルの名前に、登録商標などないじゃろう?」
NOVA「それにしても、バーグルってBargleってつづりだったんですね。俺、ずっと英語のburglar(泥棒)が元ネタだと思ってBurgleだと思い込んでいましたよ」
ヒノキ「本当に、今さらどうでもいい発見をしでかすのう、新兄さんは。それよりも、ワールドガイドの話をするんじゃろう」
NOVA「そうそう。いやあ、ワールドガイドって、そのRPGを深く楽しむためのネタの宝庫ってことが言いたいんですよ。このワールドガイドといっしょに、ゲームブックやリプレイ、小説を読むだけでも裏設定があれこれ分かって楽しいですし。
「海外のフォーゴトン・レルムやグレイホークのワールドガイドだと、その世界の歴史が書いてあるのですが、それって小説とかキャンペーンシナリオで公式に語られたゲームの歴史なんですね。グレイホークでは、AD&D2版の時の『グレイホーク戦争』について書いてますし、レルムだと3版のワールドガイドと、5版のソード・コースト本を照らし合わせると、4版の間に何が起こったかも分かるし、3版のワールドガイドを読んで初めて、80年代に出版された小説の意味が分かるという。時代の変化がちゃんと反映されているのって楽しい」
ヒノキ「日本では、そういう資料はないのか?」
NOVA「その辺をまめに更新していたのは、FEARさんですね。あそこはまめに版上げしながら、物語世界の時間の針を進めてましたから。一方、SNEの作品でそれをやったのは、ロードスしかないんじゃないかな。一応、ルナルやクリスタニアも試みはしたんでしょうが。
「ソード・ワールドはワールドガイドを出したら出しっぱなしなところがあって、公式リプレイや小説の内容を反映した、ワールドガイドのその後を出したりはしない。2.0の時に世界中で大騒ぎになったドラゴンレイドの事件も、2.5のワールドガイドで取り上げられたりはしてないし。過去の歴史の積み上げをワールドガイドに反映させないのが、ソード・ワールドかな、と。
「まあ、ラクシア・ゴッドブックには、歴代のシナリオに登場した神さまのデータとかも載っていて、貴重な本だけど、その後の2.5改訂版とかは出ないのかな」
旧ソード・ワールドの神話と歴史
NOVA「ファンタジー世界のワールドガイドには、創世神話とか、その世界がいかにして神々から人の社会に変わったのか、そして過去の英雄や、現在の地理などの情報がいろいろと載ってあって、文字どおり物語世界への没入感を高めてくれます。
「水野さんのソード・ワールドのワールドガイドは、山本さんの西部諸国ワールドガイドに比べて読みにくいという意見をどこかで見ましたが、何が問題かと言えば、前者は女魔術師ラヴェルナの旅日記、紀行文形式になっているんですね。だから、彼女の主観情報と物語形式になっている分、いざTRPGの設定元として活用しようとした際に、客観情報が乏しいという話になる。これは、元々、ドラゴンマガジン誌上でソード・ワールド発売前に連載された記事をまとめた物という成立背景がある。言わば、ソード・ワールドが立ち上がる前に書かれたお話ということになります(発行は93年)」
NOVA「一方、山本さんの『西部諸国ワールドガイド』は96年の発行で、アレクラスト大陸の西部諸国、通称〈テン・チルドレン〉と呼ばれる地域のガイド本で、客観的な地誌になっているので、TRPGの設定資料として普通に使える本。水野さんのガイドが、ゲームの発売前の世界の紹介編*5。それに対して、山本さんのガイドは、山本さんのリプレイ2シリーズや小説、読者参加企画のネタもまとめ上げて、言わば、山本さんのソード・ワールド集大成に当たる書籍になってます。96年ということは、山本さんがSNEを退社される98年の前で、SNE在社中の最後の大きな仕事と言ってもいいぐらい、山本ソード・ワールドの集大成的な内容ですな。電子書籍化もされていないようなので、現時点では旧世紀のソード・ワールドガイドの中で最も貴重な本かも」

NOVA「最後に98年に出たソード・ワールドの『ロードス島ワールドガイド』。これは監修が水野さんですけど、メインの執筆は清松みゆきさん。つまり、旧世紀のソード・ワールドのワールドガイドは、水野・山本・清松のSWトリオが一つずつ担当した形に。こちらの売りは、ソード・ワールドのルールでロードスを遊ぶという、両作品のファンにとって夢のコラボ本。ゲーム用の資料としても最もデータが充実した本といえます(何せ、清松さんは旧ソード・ワールドのシステムデザイナーだったから、ルール面にも非常に力が入っている)。物語面でも、ロードスの歴史上の事件が、アレクラストの暦である新王国暦とどう対応しているかの年表が非常に興味深く、小説『ロードス島戦記』『ロードス島伝説』『新ロードス島戦記1巻』まで対応。具体的には、英雄戦争、過去の魔神戦争、そして邪神戦争を経てスパークがマーモ公王に即位するまで、です。21世紀になってからの『新ロードス』の完結およびリウイの物語には対応していない」
ヒノキ「ロードスは角川で、ソード・ワールドは富士見書房。2つの会社に分かれた物語が夢のコラボということじゃが、今はまとめてKADOKAWAじゃから、ちっとも夢ではないのう」
NOVA「まあ、ロードスのゲームは2019年に出たこっちが最新になりますのですが、これも作者が亡くなったことで、サポートが完全に中断したかなあ、と。一応、ソード・ワールドで川人君がやっていた役割は、サポート役の杉浦君が担当する形になったようだけど」
まとめと今後の展望
NOVA「ともあれ、今回の研鑽は一度ここで止めておきます。D&Dからソード・ワールドにつながって、きれいにまとまった、と自分では満足しておりますし」
ヒノキ「今も、ソード・ワールドが日本一の発売数を誇るのかのう?」
NOVA「イエローサブマリンの12月トップは、ソード・ワールドの新サプリでしたが、1月トップは何とルーンクエストでした。思ったより、健闘してるみたいですね、ルーンクエストは。一時期は日本で一番流行していると言われていたクトゥルフですが、最近は5位以下が定位置のようです。ただ、サプリの数も合わせて考えると、30位以内にクトゥルフは6本入っていて、占有率20%。一方のソード・ワールドは8本で最高。他に複数が30位以内に入っているのは、ダブルクロスが4本、ローグライクハーフが2本、インセインが2本となってます。瞬間最大風速がルーンクエストで、新作もその他サプリもルールブックもコンスタントに売れているのがソード・ワールドとクトゥルフといったところ。なお、AFFとD&Dは1本ずつ。ところで、インセインというのがよく知らないので確認してみました」
NOVA「サイコロフィクションのシステムで、クトゥルフを含む現代ホラーを遊ぶシステムのブラッシュアップ版ですね。サイコロフィクションは、新書スタイルの安価な値段でリプレイ付き新作を出して、サプリメントも数冊続けて、ある程度、売れると分かったら、大判サイズの改訂版を出すという形で、シノビガミ以降の定着路線になっているか。こっちが最初のインセインで2013年発売……の改訂版のリプレイ。去年の年末に出て、今、売れているのはこっちか。クトゥルフより手軽に、現代ホラーを楽しめるとなれば、売れてる理由も納得」
NOVA「俺が関心なかったのは、サイコロフィクションを昔、いろいろ揃えて、食傷気味になっていたから」
NOVA「ここまで付いて来て、次に出たのがインセインか。ホラーというテーマも、ハンターズ・ムーンとブラッド・クルセイドで、もう十分かと思ったから、このシリーズはもうマンネリかなと12年前に見切りを付けたんだったな。まあ、改めてサイコロフィクションに興味を持ったら、サイトはこちら」
ヒノキ「って、急にサイコロフィクションの紹介を始めて、ちっともまとめになっておらんぞ」
NOVA「おお、ついうっかり。ええと、今回の一連の研鑽で今後の課題にしたかったことを、まとめようと思ったのです。以下のラインナップから」
- ローズtoロードの細かいルールの話
- ファンタズム・アドベンチャーの魔法を始めとするルールの確認話
- 指輪RPGとロールマスターの話
- 真・女神転生TRPGの話
- その他90年代のTRPGの思い出四方山話
- 蔵に眠っているTRPGの自分的気まぐれ総括感想
NOVA「何せネタが多いですから、話しているうちに気まぐれに話題がポンポン飛び出す始末。何にせよ、掘り出しネタが出て来ることも期待しつつ、いろいろ気の向くままに語っていたら、こちらも楽しめるってことで」
(当記事 完)
*1:TRPGの前に、ボードのシミュレーションゲームが発売されるケースは欧米でしばしば見られる。『トラベラー』はその前日譚の歴史を背景にした宇宙戦争ものの『インペリウム』(1977)を発端とするし、『ルーンクエスト』の起源は、やはりボードゲームの『ホワイトベア&レッドムーン』(1975。後に『ドラゴンパス』と改題)である。前者は、地球人類が宇宙に進出して、第一帝国を築く戦いを描いた戦争ゲームで、『トラベラー』の歴史に含まれている。トラベラーの時代には帝国が拡張し、もはや地球中心ではない第三帝国の時代になっており、それ以降も『トラベラー』のボードゲーム・サプリメントとして『メイデイ』『第五次辺境戦争』『アザンティ・ハイ・ライトニング』などが発売された。一方、ルーンクエストの方は、オーランスを信奉するサーター王国と赤の女神を信奉するルナー帝国の戦争を描いたもので、RPGとしてはサーター王国が滅ぼされた後の帝国に対する反抗活動が頻繁だった時代背景にある。王国が滅びたとはいえ、元々、部族社会であったオーランス人は独立独歩の精神が強く、帝国の監視を上手くかわして、自分たちの自由と文化を維持するための探索行を積極的に行うのが基本スタイル。ある意味、同時代のスターウォーズの影響もあると思う。まあ、TRPGのドラゴンランスも、クライマックスの竜槍戦争を描いたシナリオは、ボードシミュレーションゲームの形式で発売されたし、TRPGとウォーゲームの関係は結構、根強いものがある。ガンダムなどのRPGも半分はシミュレーションゲームとの融合だったしね。
*2:それぞれ、FF60巻と65巻。いずれも未訳。
*3:これは結局のところ、企業の経営者がゲーマーなのかどうかが大きいのだと思う。1985年以降のTSR本社は、ゲーマー社長のゲイリー・ガイギャックスを追い出したあと、ゲームのことを知らない出版業の人物が采配を握り、ファンタジー物語の素材としてD&Dを売ったが、他社のゲームに対しての関心は薄く、D&Dブランドの維持と発展しか念頭になかったと見られる。一方、日本やイギリスでは、業界トップの社長が各々ゲーマーであると共に、ゲーム会社同士の懇親会にも積極的に参加する方針を継続していたので、関連業界の横のつながりが濃密だったのだろう。例えば、日本だと90年代から10年代前半まで関西のグループSNEと関東のFEAR社がライバル二頭みたいに言われていたが、社長同士の仲は険悪ではなく、互いに敬意を以て接していたわけだし、そこにホビージャパンや角川系列の大手企業と協力して、業界を盛り上げるためのイベントや協力を推し進めるための同志感覚が強く、イギリスTSRとGW社もそういう関係だったから、カール・サージェントも掛け持ちできたのだと考える。むしろ、D&DのTSRがゲーマー感覚から遊離した経営者で、D&Dブランドだけしか維持しようとしなかった点が特殊なケースかと考えますな。WotC社はD&Dブランドを自社独占することをやめて、ゲーマー全ての財産として(ゲームシステムは)解放する道を選んだのが大きく、TSRがそういう経営方針であったならば、D&Dロードスの路線は続いて、ソード・ワールドが生まれることもなかったろうから、結果的にTSRのD&D独占体質、業界での孤立化が企業の寿命を早めて、業界人の流動性がイベントその他の連携や、21世紀に活発となるコラボ企画を推し進める原動力となっている、と結論づけます。
*4:『フォーリナー』も、都市ガイドのサプリと、別世界のサプリメント『魔法王国シムルグント』を出して期待はされたんだけど、続かなかったなあ。
*5:後年、システムが完成する前に読者の興味を引きつなぐための場つなぎ的な記事だった、と水野さん本人が明かしていたわけですが。ゲームでどう使うかはあまり考えておらず、ゲーム世界への関心を惹くための前日譚記事をまとめたものが、最初のワールドガイド。以降のガイドは、それを叩き台にして地域色を高める方向性で展開していくことに。もちろん、ワールドデザイナーとしてのノウハウの蓄積とか、後年になる方が磨かれていくとか、使える参考資料が多くて完成度が上がるというのもある。なお、自分はラヴェルナさんの視点の紀行文が好きなので、読み物として面白く読ませてもらったけど、ゲームの資料としては『ロードス島コンパニオン』とかの方が使いやすかったと思いますね。ラヴェルナさんも、リウイ以外の小説でももっと出てくれば良かったんでしょうけど、水野さんはロードスやクリスタニアで忙しかったから、ソード・ワールドのリプレイはほとんど書いてないんですね。スイフリーのプレイヤーとしては大変有名だけど。

















