前回の話を受けて(改めてトラベラーの成長ルールの確認)
NOVA「前回は魔法研鑽と称して、D&Dが後世に与えた影響について、改めて考え始めました」
ケイP『まずは、レベルアップと経験点、続いてHPだッピね』
NOVA「ここでは、ゲームマスターという役割や、能力値という要素は割愛する。ゲームマスターが冒険物語を仕切るとか、キャラクターを能力値で表現するということは、D&Dに限らず、あらゆるTRPGの共通要素だからな。それを生み出したD&Dは偉大だが、ここではむしろ、他のシステムとの比較論も考えて、それでもD&Dがスタンダードになってる理由について検証したい、と考えている」
ヒノキ「レベルアップと経験点については、80年代当時のライバル格のトラベラーやルーンクエストが採用していないという点で、TRPGというジャンルのいろいろな可能性が模索されていたということじゃな」
NOVA「トラベラーとルーンクエストは、スキルという形でキャラクターを表現した。トラベラーは成長システムがないのがRPGとしての欠点に挙げられるが、実はキャラ作成時の経歴作成で成長要素を組み込んでいるわけだな」
ヒノキ「つまり、1レベルの未熟なキャラクターからコツコツ育成していかなければいけないD&Dに対して、トラベラーは最初から成長しているベテランと、経験不足な若者を一つのチームとして扱えるようにもなっておる」
シロ「それって、プレイヤー間の不平等につながりませんか?」
NOVA「その辺のキャラ育成をどこまで行うかが、キャラ作りの魅力なんだ。若者は技能が少なくて、一方、ベテランは技能が多い分、年をとりすぎると能力値が下がる危険がある。大体、30ぐらいまで職歴を重ねた後で、職務を引退して宇宙の旅人になるのが一般的だが、ダイス運が悪いと、いきなり仕事を解雇されたりとか、職務中に殉職したり、キャラ作りの段階で事故ったりする。その上、得られる技能もランダムだから、長年勤めているのに欲しい技能が入手できず、別のキャラを作り直して目当ての技能を獲得するまでダイスを振ることになる」
ヒノキ「それが面白くもあり、冒険前にキャラの設定がある程度、見えてくる。この経歴作成システムは、現代のTRPGでもサンプルキャラに追加の経歴を付与するシステムに踏襲されておる。まあ、さすがに一度作ったキャラが成長できないのは、キャラ強化を目的とするプレイスタイルとは相容れないものがあろうが、トラベラーの成長はキャラの能力よりも、お金を稼いで装備品を整えることにある、と見なすことも可能」
シロ「ああ、強い武器を買えることが成長なんですね」
NOVA「そもそも、トラベラーはD&Dと違って、モンスターとのバトルをどんどん積み重ねるゲームじゃないからな。強いキャラを育てて、強い敵に勝てるようにして、さらなるダンジョンの深みに潜ることをD&Dの原初の楽しみとするならば(それを目指したのがウィザードリィ)、トラベラーは宇宙を旅して、冒険するのが目的。その世界観はスタートレックに近くて、かのSF作品はキャラクターの成長を描いたりはしていないだろう?」
シロ「そうですか?」
NOVA「スターウォーズは、主人公ルーク・スカイウォーカー他の成長譚として楽しむことも可能だが、スタートレックの最初の主人公ジェームズ・カークは最初から32歳のベテラン艦長(1966年〜69年のTV版)。劇場版の第1作(1979年公開)は、大佐から提督に昇進した39歳。年少の若者が冒険の最中に成長する物語ではなく、すでに経歴を重ねて成長したプロフェッショナルのチームが宇宙艦隊の深宇宙探索部隊に所属して、様々な惑星の調査活動やトラブル解決を頑張る話。大切なのは、キャラの成長ではなく、遭遇する冒険そのものの面白さだ」
ケイP『日本で言えば、ウルトラマンの科特隊にも近いッピね。ベムラーの事件を解決したから、ムラマツキャップのレベルが1上がったって話ではないッピ』
NOVA「アラシ隊員のスパイダーショットの射撃能力が上がったから、今度の怪獣には大ダメージだ、という話でもないな」
シロ「確かに、ウルトラマンが経験点を稼いで強くなった、という描写もありませんね」
NOVA「特訓で強くなったのは、『帰ってきたウルトラマン』からだな。まあ、それはともかく、ダンジョン探索とお宝探しをテーマにした初期D&Dに比べて、トラベラーは別に成長システムがなくても問題ない、と判断されたわけだ」
シロ「だけど、もしも冒険に必要な技能をチームの誰も持っていなかったら?」
NOVA「それを持ってるNPCをレフリー(トラベラーのGMの呼称)が用意するなり、コンピューターで代用したり、シナリオ限定の技能として、チームの誰かに一時習得させたり、いろいろと手はあるだろう。むしろ、成長システムが搭載されている方が、ルールに則った裁定をしないといけなくて、技能が急に生えたりするようなルールの逸脱が難しいかも」
ルーンクエストの成長ルールと、ファイナルファンタジー
ヒノキ「トラベラーの話はともかく、ルーンクエストはどうじゃ?」
NOVA「一応、スキルの習得や成長システムはありますね。習得はお金と時間を費やすことで学べますし、一度使って成功したスキルは経験チェックを入れて、後で成長する可能性があります。つまり、冒険中にスキルを使えば成長しやすいシステム。使わないスキルは、お金を払った訓練が必要で、育てたいスキルを伸ばせるようにプレイするという方針にもなりますね」
ケイP『自分が使った能力や技、術が成長するというのは、ファイナルファンタジー2やロマンシングサガなんかが採用していたッピ』
NOVA「今さら、例えのネタが古いというか。ドラクエはウィザードリィの影響が強い一方で、初期のファイファンはかなりD&DやTRPGを意識したシステム作りをしていたな。ただ、FF7辺りで、もはやTRPGは関係なくなった感じだが」
NOVA「これはD&D5版を元に、オンラインゲームのFF14風にアレンジしたゲームだが、レベルアップや経験点はないようだ」
ヒノキ「成長しない?」
NOVA「いや、レベル30、40、50、55、60の成長データが用意されていて、シナリオに合わせたデータを使って、戦闘ゲームを楽しむらしい。システムは5版アレンジだけど、プレイスタイルは戦術マップを使った4版を想起させるもの。そしてキャラ作りは、各ジョブがサンプルキャラになっていて、そこに背景データを組み合わせて、完成させる略式のもの。つまり、出来合いのデータを使って、キャラ育成に時間をかけるよりも、素早く戦闘ゲームができるように、そして多彩なジョブによるヴァリエーションを楽しむように設計されている」
ヒノキ「テーブルトークRPGというよりは、それに基づいた戦術ボードゲームといった感じじゃのう」
NOVA「昔、プレイしていたツクダのガンダムのシミュレーションゲームを思い出しました」
ヒノキ「と言うと?」
NOVA「MSの機体データと、パイロットのデータが用意されているのですが、アムロのデータは確か5パターンあるんですね。物語の進行に応じて、彼の成長を表現できるように。例えば、ガンダムの初戦闘時と、大気圏突入時と、地上でランバ・ラルと戦っているときと、ジャブロー攻略戦と、サイド6やソロモン攻略戦と、エルメスとの戦いやア・バオア・クーとで、それぞれのアムロのデータが個別に用意されています」
ヒノキ「ん? 今、挙げたのでは6つないか?」
NOVA「俺の持ってた作品(『ニュータイプ』というタイトル)は宇宙編で確か5種類でした。相方のY君が持ってたジャブローが地上戦用のルールで、そっちの記憶と混ざっていますね。とにかく、シナリオに応じて専用データを用意してくれ、一応の成長の代替とするシミュレーションゲーム的な手法で、FFのTRPGは設計されています。よって、成長ルールというものはなし。キャラの個性や成長を期待して買った人からは不満の声も出たり、劣化D&Dと批判する人もいる一方で、戦術ボードゲームとしては悪くないという意見も」
ヒノキ「それにしても高いのう」
NOVA「データがいっぱいですからね。デラックスエディションは、シナリオで使う戦術マップやキャラクター駒、データカードなど、ボードゲームとして楽しむための付属品がいっぱい。通常エディションは、そういう備品を自前で用意できるD&D経験者などや、ルールブックの一部コピーなどや手書きのキャラシートで対応できるユーザー向き、あるいは単にルールコレクターでプレイせずともルールを読んでるだけで楽しめるマニア層向きでしょうか。実プレイするなら、デラックスエディションが楽しそうだけど、とにかく高いですね。どういう客層向きなんだろう?」
ヒノキ「メインはボードゲームの方なんじゃろうな。ソード・ワールドも初心者がプレイしやすいように、ボックス仕様のスターターセットが用意されているわけじゃし」
NOVA「プレイするだけなら、ルールブックとシナリオがあれば、いろいろ遊べるんですけど、スターターセットは見栄えをよくするマップとか、出来合いのキャラクターカードとマーカー、シナリオ複数が同梱されていて、それだけで遊べちゃうんですね。紙と鉛筆とサイコロと想像力があれば遊べるのがTRPGのいいところだけど、『備品が多くてビジュアル的に豪華な遊びが人を誘うとか、宣伝効果としても有効』ということで、値段は高くても初心者向きボックスセットの需要はある、と」
シロ「スターターセットで入り口を用意して、続けたいプレイヤーがより多くのデータを求めてルールブックを買う。さらにデータが欲しいユーザーはサプリメントを買うという導線ですね」
NOVA「俺みたいなデータ嗜好のマニア層は、『ルールブックのデータの一部だけを抜粋して、見た目だけ派手な体裁を整えたスターターセット』を作品としては評価しないんだけど、マニアじゃない人はどうしてもビジュアルに惹かれるものだからなあ。扱うデータは最小限にして、代わりにゲームで使うと便利な備品をいろいろ同梱して、面白そうなコンポーネントとして初心者を誘いやすくした製品は、商品として必要という考えは分かる」
ケイP『ビジュアルが鮮明だと、インスタ映えもするッピ』
NOVA「言ってしまえば、スターターセットが『カップラーメン』で、ルールブックは『袋入りの即席麺』に相当。カップラーメンはお湯を入れて3分ぐらいで食べられるけど、袋入りの麺は鍋と具材を自分で用意しないと調理できない。まあ、即席麺よりも生麺かもしれないけど」
ヒノキ「で、ルーンクエストの話のはずが、急カーブを描いて、ファイナルファンタジーを経て、派手なボックス仕様のデラックスエディションからスターターセットに話が切り替わるのは、どういう話がしたいんじゃ?」
NOVA「いやあ、元々はRPGにおける成長ルールの話をしようとして、ルーンクエストの個別スキルの成長ルールがファイファンの熟練度という成長ルールに発展して、ファイファンのTRPGの成長ルールはどうなっているのかなあ、と調べてみたら、意外と成長ルールはなくて、シナリオに応じた成長段階がレベルごとジョブごとの個別データとして用意されているという簡略化されたものになっている、と」
ヒノキ「成長に関しては自由度がないに等しい、と」
NOVA「その代わり、シナリオごとに違うジョブを選んで、いろいろ試す遊び方もできそうですね。育成の自由度はないけど、キャラ選択の自由度を多彩なジョブデータでまかなっている。これはジョブデータが増えて、さらにジョブ(D&D的にはクラス)に付随するアビリティ(D&D的にはスキルやフィート)が膨大な数になると、大多数のプレイヤーにとってはその組み合わせを吟味するだけでも負担が大きく、ハードルが上がるんですね」
ケイP『単純なクラス制と、複雑なスキル制のジレンマだッピね。クラス制のゲームは、レベルアップしても成長パターンがみな同じ。クラシックD&Dのレベル5ファイターやレベル5シーフは、HPの数字がランダムに変動することを除けば、みな同じ能力を持っていたッピ』
NOVA「ドワーフやハーフリング然りだな。違うのは、習得呪文が異なるマジックユーザーやエルフか。クレリックも呪文は全部使えるから、みな同じの枠ではないか?」
ヒノキ「一度キャラを作ってしまえば、成長パターンはクラスごとにみな同じなのが原初のRPGか。しかし、そこにスキルの概念が加わることで、育成にも多様性が出てくる、と」
NOVA「しかし、ファイファンのTRPGは、ジョブにアビリティを組み合わせたシステムでありながら、アビリティ選択の自由度をなくして、ジョブとレベルが決まれば、みな同じアビリティを持っているようにデータ提供されている。戦闘時の行動オプションは多様だけど、キャラの育成自由度は低い。つまり、次にどういうアビリティを取るかが悩む余地なく固定されている」
シロ「どちらかと言えば、転職システムがなかったFF4みたいですね。あの作品の多様性は、キャラクターが物語展開に応じてパーティーに入れ替わり立ち替わり参入離脱を繰り返すことで、ある局面では極端に物理攻撃力に欠けていたり、逆に魔法戦力に欠けていたパーティーがあったり、ストーリーに応じたパーティーの組み合わせの変動にありました」
NOVA「パーティー編成にプレイヤーの意志は関係なかったな。物理攻撃力のないパーティーは、パラディンのセシル以外は魔法使いのテラ、パロム、ポロムの時期で、そこにモンクのヤンが加わることで物理攻撃力が安定した。一方、パロム・ポロムが離脱すると、セシル、テラ、ヤンに技師のシドが加わって、魔法戦力がMPの伸びないテラだけになって、磁力の洞窟とゾットの塔が苦労させられた記憶がある」
ヒノキ「FFで、キャラ育成の自由度が飛躍的に高まったのは、ジョブチェンジにアビリティ取得が加わったFF5じゃろう。しかも、取得アビリティを別ジョブに貼り付けられるシステムのおかげで、キャラ育成の組み合わせは膨大な数になった。FF14のTRPGでは、それができるのか?」
NOVA「さあ、そこまでは分かりませんが、アビリティはジョブに固定なんじゃないか、と考えます。兼職や転職が可能で、欲しい技能を求めて、職を転々とするゲームではなさそうなので」
ヒノキ「その辺の兼職や転職ルールも、AD&Dが起源じゃな。それがウィザードリィの上級職なんかに発展する一方で、無数の職と技能を有するウォーハンマーをも生み出した」
NOVA「FF5(1992年)のシステムは、1991年に初邦訳されたウォーハンマーとの類似性を想起させました。その後、ドラクエ6(1995年)にも、転職による呪文や特技の習得システムが継承され、キャラ育成の自由度が大幅に高まる時代になるわけですが、話がずいぶんと飛びました」
ヒノキ「1970年代のゲームの話をしていたら、90年代じゃもんな。ファイファンのTRPGは、令和に入ってからじゃし」
NOVA「こう言っては何ですが、システムの進化史の観点では、ファイファンTRPGに関して見るべきものはあまりなさそうです。D&D5版をベースに、4版のような戦闘ゲームを展開し、キャラ育成の自由度はかなり制限することで、初心者を悩ませずに済む削ぎ落としを図ったゲーム。だけど、値段がバカ高いので、初心者が気軽に手を出せるとは思えない商品です。ファイファンのネームバリューでどこまで売れるかは期待ですが、俺は手を出せません。外野で観測する程度にしておきます、某巨人のオメガさんのように」
ケイP『ファイファンで、オメガだと違うものがつながるッピよ』
HPシステムの特殊性
NOVA「さて、前回の話で登場したHPシステム。元々はウォーシミュレーションゲームの用語だったのが、ACシステムとともにD&Dに採用されて、それがウィザードリィにも受け継がれて以降は、多くのコンピューターRPGで当たり前のように使用されたゲーム用語ですね。そもそも、ヒットポイントという言葉で耐久力を表すなんて、英語的におかしいでしょう」
ヒノキ「確かにヒットは攻撃を命中させることじゃから、直訳すると攻撃点、打撃点、命中点になるか」
NOVA「本来は、どれだけのヒット(有効打)に耐えられるかというポイントで、許容できるヒットの点数から来た用語らしいですが、D&D→ウィザードリィ→ドラクエで定着したという。似たような言葉で、ライフ、スタミナ、体力点、生命点、耐久度などが用いられます。TRPGのロードスだと、ライフポイントのLP表記ですね」
ケイP『D&D以外のTRPGがHPという言葉を使うようになったのは、90年代に入ってからだッピ』
NOVA「やはり、ドラクエがメジャーにしたッポイな。それまではD&DかウィザードリィRPGぐらいかな、HPという用語を使っていたのは。メジャーどころをチェックすると……」
- 1984:ローズtoロード、トラベラー
- 1985:D&D、ファイティングファンタジー、ジェームズ・ボンド007
- 1986:クトゥルフの呼び声
- 1987:T&T、指輪物語RPG、フォーリナー
- 1988:ルーンクエスト、ストームブリンガー、ファンタズムアドベンチャー、ウィザードリィRPG、WARPS、混沌の渦、ナイトメアハンター、ルール・ザ・ワールド
- 1989:ソード・ワールド、ロードス島戦記RPG(商品名はロードス島戦記コンパニオン)、ワースブレイド
NOVA「83年のスタートレックの『エンタープライズ』とか、『スペース・コブラ 最終兵器』、『グインワールド』、『スタークエスト』、それに雑誌や単行本付録の『エクスカリバー』とか『アルビオン』『ドラゴンリング』などを除けば、上記が日本の80年代の歴史に名高いメジャーTRPGと言えよう」
ヒノキ「これらの中で、HPを耐久力の意味で使っている作品が、D&Dとウィザードリィ以外にあるかじゃな」
NOVA「まず、トラベラーとローズは違います。これらはダメージを受けると、能力値を直接減らすシステムだったと記憶します。ジェームズ・ボンドとWARPSも違うと断言できます。これらはヒーローポイントという名物ルールが採用されていて、HPという言葉を使うと紛らわしくて仕方ない。他は、手持ちの資料ですぐに調べられるものと、倉庫の奥に入っていて調べにくいものと、そもそも所有していないものがあって、ざっとチェックはしたものの、はっきりHPを採用した作品は見当たりませんでした。
「個人的には、ルーンクエストがもしかすると……と考えていますが、これは部位別HPを採用した日本では初のRPGと記憶しています。ただ、表記がもしかすると部位別耐久度だったかもしれず。なお、現在のルーンクエスト最新版は、ヒットポイントという用語を使用しています」
NOVA「一方で、同種のシステムであるクトゥルフの方では、HP(ヒットポイント)ではなく耐久力と表記されています。ということで、ルーンクエストがHPを採用しているという時点で、ケイPの発言は間違いであることが証明されました。ただ、やはりドラクエブームが顕在化した88年以前のTRPG業界では、ヒットポイントというD&D用語を避けていたと推測することは可能。
「そもそも、当時の日本語として、ヒットというのは野球用語か、あるいはヒット商品、ヒット曲という形で、『当たる』という意味で使われることはあっても、耐久力や生命力という転用はなかったと思いますし、『攻撃がヒットした』という使われ方も、ファイナルファンタジーや格闘ゲームで多用されてメジャー化したんじゃないか、と思いますね」
MPシステムの起源
NOVA「RPGにおけるHPの起源はD&Dにあるとして、それを日本でメジャー化したのがドラクエという話。一方で、魔法を使う際に消費するMP(マジックポイントとか、メンタルパワーとか、マナポイントとかアレンジした意味はいろいろ)の起源はD&Dではない、と確実に言えますね」
ヒノキ「D&Dは回数制限であって、ポイント消費のシステムではないからのう」
NOVA「ポイント消費という要素で考えると、D&Dの翌年(75年)に『世界で初めてRPGという用語を用いたT&T』が起源だと言えます」
シロ「T&Tが世界初のRPGとはどういうことです? 世界初はD&Dでしょう?」
NOVA「これはRPG研究者の文献に基づく解釈論の話だが、D&Dはミニチュアゲームのファンタジー改訂版という形で最初に出版されたもので、当初はRPGという新ジャンルを開拓した、とは作り手のゲイリーさん自身が認識していなかった。あくまでボードのシミュレーションゲームのアレンジ版だと考えていたんだが、それを友人から教えてもらったゲームマニアのケン・St・アンドレという御仁が『D&Dは面白そうだけど、人気が出すぎて実物を入手することができない。だから友だちのところで遊んでみたルールを元に、自分なりの私製D&Dを作ってみるか』と、断片的な知識だけで作り上げた作品が『トンネルズ&トロールズ(T&T)』とのこと。そして、自分の作品の売り文句として、『あのD&Dと同じ種類のロールプレイングゲーム』という宣伝をしたんだな」
ヒノキ「つまり、世界で2番めのTRPGが、『自分たちはロールプレイングゲームだ』とD&Dを含めて新ジャンル宣言をしたということじゃな」
ケイP『ジャンルを生み出すのは2作め、ジャンルを定着させるのは3作めということだッピね』
NOVA「2番煎じを恥じることはないが、先達へのリスペクトと、ただのコピーではない新アイデアを主張することは大事、ということだな。T&Tの独自性はいろいろ挙げられるが、『HPなんて必要ないでしょう。能力値にCON(耐久度)があるんだから、それを直接減らせばいい』という大胆なアレンジと、『魔法は体力を消耗するんだから、体力点(STR)を減らす。すると、魔法使いは重い鎧を着れなくなる。ただ、体力が十分ある魔法使いは、魔法で体力を消耗しても十分な鎧を着ることは可能』とか、D&Dよりも武器や鎧の選択ヴァリエーションを非常に増やしたり、防具がダメージの点数を直接減らすようにしたり、魔法の杖が体力消費を軽減するから魔法使いは杖を使うんだとか、そのルール選択に込められた理屈づけが素晴らしくて、D&Dよりも理にかなったゲームの世界観を示している」
シロ「D&Dは理にかなっていないのですか?」
NOVA「元は『チェインメイル』というシミュレーションゲームの改造版だから、ゲームのためのシステムが先立ち、そこにファンタジー世界の理由づけが最初からしっかり構築されていたわけじゃない。例えば、魔法使いが鎧を着けられない理由を、鎧が魔法に必要な身振りを邪魔するから、とは言うけど、その割に魔法戦士というクラスを採用するという矛盾は気にしない。後にAD&Dで動作要素の必要な呪文を設定したり、後付けルールでどんどん拡張した後、理屈も後付けで作者およびファンが構築することになって……と歪な建て増し建造物を5年に1度ぐらいのペースで大改修していったのが初期D&Dの歴史。
「一方のT&Tは、ケンさんがD&Dの私製改訂版を、徹底的に理屈立てて作った作品で、しかも、『そんなにたくさんの種類のサイコロを使う必要はない。その代わり、6面サイコロをいっぱい使う』とダイナミックなシステム改変をして、さらに『セーヴィングロールという汎用能力値判定ルール』を構築して、元のD&D以上の汎用性の高さを生み出した。一見、D&Dの二番煎じのように見えつつも(日本語版が出るまでは、本国の一般的な評価もD&Dの亜流に過ぎないというものだったらしい)、80年代から90年代に再評価の機会を得る。翻訳者の清松みゆきさんによれば、本国で顧みられる機会の少なかった作品が日本のファンのおかげで日の目を見ることができて、ケンも大変、感謝していたとのことらしい」
ヒノキ「ある程度は、リップサービスの面もあろうが、日本ではゲームブックブームを受け継いだ文庫RPGブームを引き起こして、『ウォーロック』誌の柱として盛り立てていった作品じゃからのう。T&Tの成功なくんば、ソード・ワールドに至る道も違っていたやもしれん」
NOVA「T&Tの先進性は、清松さんが熱く語っていて、T&Tのサポート記事を書くことで、氏のゲームデザイナーのセンスも磨かれていって、それが『ソード・ワールド』や『央華封神』につながったりする一方で、日本オリジナルの上級版『ハイパーT&T』のサポートから経験値を積み重ねていった北沢慶さんが『ソード・ワールド2.0』以降の中核になったりする。そればかりでなく、FT書房という別の創作者集団にもつながって、雑誌も『ウォーロック・マガジン』として復活するなど、T&TのSNE、ひいては日本TRPG文化への恩恵は非常に大きい、と」
ヒノキ「旧ウォーロック時代は、FFゲームブック→T&Tという流れじゃったが、この10年ばかりは、先にT&Tのリバイバルがあって、そこからAFF2版およびFFコレクションに戻った感じじゃのう」
NOVA「肝心のT&Tは、版権を持っていたフライングバッファロー社の社長リック・ルーミスさんが2019年に亡くなった影響で、版権が他社に移って、作者のケンさんが扱えなくなったんだな。代わりにT&Tヴァリエーションの『モンスター! モンスター!』を展開して、FT書房さんが翻訳作品を刊行中。ただ、最近、作者のケンさんが入院して手術が必要だとのことで、ご快癒を祈る次第」
ヒノキ「話を戻して、ポイント消費型の魔法システムの起源はT&Tということじゃな」
NOVA「そこから体力消費型の魔法システムであるソーサリーに受け継がれた面もあるのですが、ただMPという用語の起源となると、また難しく、やはり『ローズtoロード』かな、と思うわけですが、クトゥルフもマジックポイントを消費するようになってるし、MPという用語はともかく、精神力消費の魔法使用システムはHPよりもTRPGでよく使われているようです」
最後に魔法使いと神官
NOVA「前置きが長くて、ようやく魔法使いと神官の話ですが、もう一度、この2つの職業を整理してみますね」
★D&Dの魔法使いの特徴
- HP:非常に低い。最弱。
- 防具:紙装甲。鎧も盾も装備できないため、前衛に立つと身を守る手段に乏しい。
- 武器:使える武器は、主に両手用の杖か、手投げ武器としても使える短剣ぐらい。使用できる呪文が少ない魔法使いは、戦闘中に手持ち無沙汰になるのを避けるために、短剣の投擲を(なかなか当たらないことを承知で)行うこともしばしば。近年のD&D魔法使いは、初級呪文が無消費で行えるようになったおかげで、手持ち無沙汰になることはなくなった。
- 魔法以外の特技:能力の長所として、知識に恵まれている。技能が採用されて以降は、知識関連のことはいろいろ蘊蓄を語れる賢者として、平時のロールプレイが楽しめる。また、モンスターに関する知識にも詳しいので、軍師として戦術アドバイスをすることも可能に。
- 補足:知識が得意なウィザードの他に、近年、魅力を長所とする術師クラスが増えた。雄弁な賢者として交渉の前面に立ってもいいし、うさん臭い陰キャなペテン師として相手を欺くとか、言葉で言いくるめる演技を頑張ってもいい。老賢者のイメージの強かった魔法使いのイメージが、利発な若者やキュートな魔法少女のイメージに切り替わったことも反映されていると思われ。
NOVA「そもそも、D&D以前の魔法使いに、肉体的に貧弱というイメージはなかったと思う。もちろん、屈強の戦士並みにタフということはないにしても、魔法使いは打たれ弱いという常識を決定的なものにしたのはD&Dではないか」
ヒノキ「まあ、魔法使いのモデルケースとして挙げられるガンダルフは、普通に剣で戦ったりもするし、あのバルログと一騎討ちするほどじゃからのう」
NOVA「もちろん、高レベルの魔法使いは、パーティーのメイン火力として大活躍するわけですし、移動呪文やマッピング用の呪文などダンジョン攻略にも便利に活用できる」
シロ「それはウィザードリィですね」
NOVA「ドラクエだって、ルーラは魔法使い用だろう。まあ、探索系は盗賊の特技に採用されたりもするが。その一方で、D&Dの神官イメージはこうだ」
★D&Dの神官(クレリック)の特徴
- HP:平均並み
- 防具:戦士並みの重装甲で、十分に盾役が務まる。前衛を回復する必要から、パーティーの中間ポジションで、いつでも回復が必要な仲間のところに寄れる位置どりが望ましい。
- 武器:防御力に比べると、使用武器の制限で乏しくなる。剣よりもダメージの低い槌矛やハンマー、それに杖が有用武器。ただし、信じる神が戦神であれば、戦士並みの重装備で戦場に飛び込むことが求められる。
- 呪文以外の特技:知恵(判断力)に秀でて、応急手当てや動物の世話などが得意だったりもする。また、判断力は知覚関連にも影響して、危険にいち早く気づいたり、噂話を小耳にはさんだり、察する能力にも長けている。調査活動向きの技能を持った盗賊がいない場合、事件の手がかりを発見するのが神官で、その謎を推理して解くのが魔法使いという形の能力分担である。その意味で、判断力の能力値の価値が近年は大いに高まっていて、判断力の低いキャラは鈍感なロールプレイを求められたりも。
NOVA「元来、クレリックは鎧の制限がないおかげで、前に立っても遜色ないキャラとしてD&Dでは扱われてきた。ただし、成長するにつれて、HPの差が目立つようになり、戦闘システムとしても高レベルになるほど敵のヒット確率が上昇して、防具の効果が落ちてくる。タフで手強い敵ほど命中率も高いというD&Dの仕様のせいで、クレリックの前衛での安定度が下がってくるわけだ」
ヒノキ「防具が硬いから敵の攻撃はめったにヒットしないというのが序盤で、ある程度強くなると、防具の硬さに関係なく普通は当たる。最後はHP量が物を言うという傾向になるんじゃな」
NOVA「敵の命中率の向上に、ACが追いついて来ないシステムなんですね。だから、レベルが上がると、増大したHPの削り合いということになる。なお、回復呪文の回復量もなかなか追いついて来ませんね。これはウィザードリィでも同じですが、昔のD&Dでは呪文の残り回数がなくなると、ダンジョンを出てホームタウンで休息して、ダンジョンを出たり入ったりすることが推奨されるのですが、どうも日本ではそういう遊びよりも、ストーリー重視のスタイルが定着したというか」
ヒノキ「新兄さんはどうしてたんじゃ?」
NOVA「ヒーリングポーションと、ヒーリングスタッフ(癒しの杖)を与えていましたね。あと、うちのプレイヤーは誰も魔法使いをプレイしたがらなかったので、魔法使いはNPCとして自分が演じてました。最初のプレイは、戦士とエルフとシーフだったと思います」
ヒノキ「クレリックはおらんのか!?」
NOVA「いたんだけど、レギュラーじゃなかったので、キャラだけ作って、プレイヤーが不在がちの回復マシンになってましたね。まあ、ドラゴンランスの最初の公式シナリオでも、青水晶の杖を持ったゴールドムーンはNPCだったので、戦士4人と魔法使いと盗賊というバランスに欠けた構成でした」
ヒノキ「そう言えば、ロードスのリプレイ2部もクレリックはNPCだったのう」
NOVA「何となく、ロードス第1部やウィザードリィの影響で、D&Dの推奨人数はプレイヤー6人という印象を持っていた時期がありましたが、NPCを入れると3人でもできるし、熱心な盗賊プレイヤーとソロでやっていた回もありましたね」
シロ「どういう展開ですか?」
NOVA「冒険の途中で、単独偵察をしたいと彼が言いまして、『死んでも知らんぞ』とDMの俺は言いながら、応じた次第です。まあ、大盤振る舞いで〈エルフのブーツ〉*1を登場させたら、調子に乗ったんじゃないかなあ」
ケイP『もはや、魔法使いや神官の話じゃなくなっているッピね』
思い出の初キャンペーン
NOVA「俺の最初のD&Dミニキャンペーン(ダンジョンシナリオ3つ分を高1の3学期、1月から2月ぐらいの時期に、学校の放課後を使ってプレイしてた)は、レギュラーが戦士、エルフ、シーフで、たまにゲストでドワーフとか、ハーフリングとか参加してた*2。ストーリーは一応あったんだけど、誰もあまり気にせずにダンジョン探索のハック&スラッシュを楽しんでました。DMの自分は、ロードスのようなドラマチックなストーリーになるように目指してたんだけど、まったくノウハウがなかったもんで。
「なお、クラシックD&Dのルールブック所収の公式シナリオで、悪い魔法使いバーグルの潜むダンジョン(ミスタメア城)を探索するのが第1話。バーグルが邪神アルスを復活させる儀式を企てているって話で、その地下神殿に乗り込むのが第2話。その2話めでNPCになっていた味方のクレリックが殺されてしまったので(苦笑)、敵討ちのためにバーグルの潜む魔城(3層構造の巨大ダンジョン)に突入するのが第3話だったと思うんだけど、死んだクレリックが途中で、ダンジョンの途中にあった(突然生えてきた^^;)復活の泉で蘇ってきて、最終決戦に参加。何だか行き当たりばったりのままに終わった気がする」
ヒノキ「それで邪悪な魔法使いバーグルは倒されたんじゃな」
NOVA「ええ。レベル3から4ぐらいのパーティーにね。後に公式設定で、バーグルがレベル15だと判明して、マジかよ、と思いましたが。うちのプレイでは、せいぜいレベル5か6で、まともに戦うとファイアーボールを撃ってくるから、クレリックの魔法サイレンスで相手の魔法を封じなければいけない。そのために死んだ仲間のクレリックを復活させて……という展開だったような記憶が……」
シロ「クレリックがサイレンスの魔法を使えるのは何レベルからです?」
NOVA「レベル4からだよ」
シロ「死んだときのレベルは?」
NOVA「2」
シロ「何で、死から甦ったらレベルが上がっているんです?」
NOVA「ただのご都合主義だが、その時のプレイでは誰もツッコミを入れなかったな。きっと、死んでる間に神さまのところで修行していたんだろう。何せキャラの名前が『孫くん』だったからな」
ケイP『ドラゴンボールかよッピ』
NOVA「戦士がラピュタで、エルフがナウシカマスクで、盗賊だけがまともでシャークだった。後で高2になってから、だいぶ美化して小説*3を書いた際に、戦士ラフス、エルフがナースで、僧侶がソニアンに改名したんだが、DMの俺も、プレイヤーのクラスメイトたちもファンタジーゲームの作法がよく分からないままに、テキトーにサイコロを振ってダンジョン探索をしながら、ラストでボスとのイベントを経て、ゲームバランスもよく分かっていない戦闘で、魔法の封じられた魔法使いをなぶり殺しにする最終回でした。これが俺のクラシックD&D初キャンペーンの記憶」
ヒノキ「クラシックD&Dを買ったのはいつじゃ?」
NOVA「87年1月で、そこから2ヶ月の間に3つのシナリオをプレイしたことになりますな。邪神アルスがどこから来た名前かは知らないけど、レンフィールドの北の方に邪神アルスを崇めるアルセニア帝国というのがあって、うちのバーグルはそこから派遣された破壊の使者という裏設定があったんだけど、考えてみれば、バーグルさん、部下もなしに一人で邪神を復活させようとして、プレイヤーキャラに妨害されたり、今、思い返すと自分でもツッコミ放題の設定がいとをかしかったり」
ヒノキ「まあ、この記事並みにグダグダな物語だったということじゃな」
(仕切り直しのために 当記事 完)





