久々の魔法話
NOVA「今年最初の顔見せだ」
ヒノキ「おお、新兄さん。今さらながら、あけおめことよろ」
NOVA「ことよろ。ところで、今回はケイPマーク1を連れてきた」
ケイP『ケピッ』
ヒノキ「どうして、ケイPを?」
NOVA「去年のクリスマス会の折に、言っていたじゃないですか。『どうも、3人ともジャンルに詳しいマニアばかりじゃと、何かを解説する記事にならん。素人の視点が必要じゃ』と」
ヒノキ「うむ。それでケイPが素人じゃと?」
NOVA「少なくとも、魔法に関しては素人です。一応、ソード・ワールドで魔動機術を習得したことはありますが、あれはどちらかというとテクノロジーの部類で、いわゆる魔法というイメージとは少し異なりますよね」
ヒノキ「マナを動力とする機械や道具を作ったり、扱う技術とされておるのう。広義の意味では魔法じゃが、ファンタジー世界における科学的なメカニックを再現したもので、古典的な魔法とは異なるとは言える」
NOVA「銃器やバイクを魔法と言われても、普通は科学技術の産物と考えます。ケイPも宇宙生物であり、メカ要素も込みですが、魔法生物ではない。俺や翔花と契約していてますが、アシスタントモンスターは別に使い魔というわけでもないし、魔法に関しては素人です。ケイP一族の中で魔法に親和性があるのは、元々夢の中から生まれたリバTと、俺のメモリを装備した009ぐらいで、とにかくケイP相手に、魔法の何たるかを教えてやって欲しいのですよ」
ヒノキ「それぐらい自分でやらんか」
NOVA「うちにはマーク2がいて、俺が教える機会も多いわけですが、マーク1にはまた違う環境で攻撃的な魔術を研鑽させたいんですね。俺が搦め手を得意とする術師で、ストレートな破壊の魔術は圧倒的にヒノキ姐さんの方が上だ。マーク1は本来、翔花のアシモンで、こいつを育成することは翔花を強化することにもつながる。翔花のためと思って、協力してくれませんかね?」
ヒノキ「むむっ、粉っちゃんのためとあらば、頼まれてやらんこともないのう」
シロ「アリナ様、さすがです。あと、ボクもこの機に本格的に魔術を学んで、忍びの技、忍術に応用できれば、と思います。少なくとも、父さんがかつては魔術師だったという話を聞かされたとあっては……」
ヒノキ「分かった。今年は新兄さんも、魔術の研鑽に力を入れたいと思っているようじゃし、協力するとしよう」
NOVA「では、改めて魔術の研鑽に励みますか」
D&Dの代表的魔法
NOVA「ところでヒノキ姐さん。〈これでもくらえ!〉と言われて、思い出すゲームは?」
ヒノキ「そんなものはT&Tに決まっておる」
NOVA「KATINOやMAHALITOは?」
ヒノキ「ウィザードリィ」
NOVA「ホイミやギラ」
ヒノキ「ドラクエ」
ヒノキ「ファイナルファンタジー」
NOVA「ZAP、HOT、ZED」
ヒノキ「ソーサリー……って呪文クイズはもうやめい」
NOVA「他にも、ドラグスレイブ(竜破斬)とか、べノン(爆霊地獄)とか、その魔法の名を聞けば、ゲームシステムや作品タイトルが浮かび上がるものは多いですが、D&Dの場合は、あまりそういうのがないですね」
ヒノキ「ファイヤーボールやライトニングボルトはありふれているしのう。D&Dならではの代表的呪文というと……スリープとかチャーム・パーソン、マジック・ミサイルは最初によく使うが」
NOVA「ロードスや旧ソード・ワールドだと、スリープはスリープ・クラウドになって、◯◯クラウドと来れば、いかにもフォーセリア(またはラクシア)って感じがします。他には、マジック・ミサイルに相当するエネルギー・ボルトとか、精霊魔法版のファイア・ボルトとか、◯◯ボルト系が。まあ、旧ソード・ワールドを代表する呪文といえば、スネアを連想するオールドファンも多そう」
シロ「エルフのケイン君ですね。最初のリプレイキャラの」
NOVA「あと、ソード・ワールドだと、マグネシウム・リボンというのも印象的で……」
ヒノキ「それは魔法の呪文ではなくて、Q&Aネタじゃ」
ケイP『当ブログ時空だと、花粉症バスターが定番呪文だッピ』
NOVA「あれは『くらえ、花粉症バスター』で検索すると、うちのブログが候補に上がる。花粉症バスターだけだと、アレルバスターとか花粉バスターといった商品、花粉症対策系のサイトが上位に来るので、少しヤキモキする」
ケイP『ドゴランアーマーも当ブログのオリジナル用語だッピ』
NOVA「ネットで検索すると、ドラゴンアーマーばかりが出て来て、ドゴランは表記ミスと見なされがち。他には、こういうカードが」
ケイP『おお、格好いいッピ』
NOVA「現在のソード・ワールドを代表する呪文といえば、武器にかけるエンチャント・ウェポンなど、◯◯ウェポン系が特徴かな。他にはセンス・マジックなどのセンス◯◯系も、ソード・ワールド用語って気がする。◯◯クラウド系と合わせて、3大ソード・ワールド呪文用語と認定できるかも」
ヒノキ「魔力感知をディテクト・マジックとすればD&D、センス・マジックとすればソード・ワールドじゃな」
NOVA「他には、神聖魔法のフォース、バトルソング、ゴッド・フィストがソード・ワールドっぽい」
ヒノキ「神聖魔法じゃと、セイクリッド◯◯系もソード・ワールドの呪文って感じがするのう」
NOVA「魔動機術だと、◯◯バレットが圧倒的に多い。中でも、ヒーリング・バレット(治療の弾丸)なんかは他に例を見ないユニークな呪文だと思う」
ヒノキ「魔動機術は2.0以降のラクシア世界におけるアイデアの宝庫になっておるのう」
NOVA「旧版の精霊魔法、現在の妖精魔法も、独自性が強いと思ってますが、D&Dのベントリロキズム(腹話術)を大幅アレンジしたウィンドボイス(風のささやき)なんかはイメージ的にも美しくて、ロードスのディードリットが小説で使うなどして、良い呪文だと思います」
ヒノキ「やはり、小説効果は大きい」
NOVA「さて、D&Dに話を戻すと、D&Dは元祖ゆえに、後続のゲームやファンタジー物語にしばしばネタを流用されて、メジャーどころはほとんど手垢がつきすぎて、D&Dが元ネタなのは数多くても、この呪文といえばD&Dしかないという連想を働かせるものは少ない、と」
ヒノキ「その中で、マジック・ミサイルはD&Dらしさを残しておらんか? ソード・ワールドでは、エネルギー・ボルトに改変されて、多くのTRPGでもそのまま使ってるケースは少ないと思われ」
NOVA「ところが、検索してみると、カードゲームやソシャゲで当たり前のように使われまくっています。マジック・ミサイルという単語に版権はなさそうで、この名前を聞いてD&Dしか出ないということはないと思いますね」
ヒノキ「D&Dらしさと言えば、う〜む、やはりベントリロキズムのようなマイナー系になるかのう」
NOVA「ソード・ワールドだと、ウィンドボイスの他に、古代語魔法および深智魔法のリプレイス・サウンドにもなってますね。元ネタは、『ホビットの冒険』のガンダルフがトロールを騙すのに使った名シーン由来と思いますが、派手な攻撃呪文よりも、こういうトリッキーな小技を上手く扱うのが魔法使いの醍醐味と言われた時代がありました。
「攻撃呪文だと、両手のひらから火炎を噴射するバーニング・ハンズが印象的ですね。クラシックD&Dには採用されていなくて、AD&D出典ですが、ドラゴンランスの魔法使いレイストリンが『ケア・タンガス・ミオパイア』の発声とともに、序盤の強敵ドラコニアンを撃退するシーンが格好よくて、砂をさらさら流しながら唱える静の呪文スリープと対になるアクティブなイメージで印象に残ってます」
シロ「やはり、小説のイメージなんですね」
NOVA「87年当時で、ゲームの魔法をどう小説的に演出するかのモデルケースの一つがドラゴンランスだったからな。例えば、ゲームでよくある演出『◯◯の呪文を唱えた。敵にダメージを与えた』的なつまらない描写*1に対して、オリジナリティある呪文の言葉と、アクション演出、そして呪文によっては触媒アイテムをいかに使うかの具体的な描写があいまって、魔法を神秘的に見せてくれた。ドラゴンランスの世界では、魔法も神々も非常に珍しいという序盤の世界観なので、とにかく演出がいちいち神がかっている。やはり、魔法は神秘的な力として、いかに魅せるように描いてくれるかが異世界ファンタジーの面白さだと、俺は考えています」
ヒノキ「実際のゲームプレイでは、ゲームとしての効率を優先するか、ストーリー描写としての演出を重視するかの違いじゃな」
魔法使い『ファイアーボールを撃ちます。ここからここまでが範囲なので、5体を巻き込むな。ダメージは8d6を振って、全部まとめて30点。全滅したか?』
DM『いいや、2体がセーヴに成功したから、ダメージ半減して生き残った。3体は黒焦げになって、倒れたけど』
魔法使い『フッ、この業火を生き延びるとは運のいい奴。だが、その命も間もなく尽きよう。やれ、我が戦士よ』
戦士『俺はお前の部下じゃないんだから、いちいち命令するな。まあ、いい仕事をしたとは認めるけどよ。残り2体で、HP15以下なら余裕で倒せそうだな』
ヒノキ「ゲーム中では、こういう会話をしていて、小説風リプレイだとアレンジするのもありか、と」
シロ「それにしても、やはり例に挙がるのがファイアーボールですか」
ヒノキ「攻撃呪文として、分かりやすいからのう」
NOVA「それで芸がないと思えば、スティンキング・クラウド(悪臭煙幕)とか、レイ・オブ・シックネス(病毒光線)とかを扱ってもいいが、それがD&Dを代表する魔法と言われたら、ツッコミが入るだろう」
シロ「毒や病気を代表呪文のように言われてもねえ」
ケイP『スティンキング・クラウドは、クラウド系だけど、ソード・ワールドではないッピ?』
NOVA「ソード・ワールドだと似たような効果に、ポイズン・クラウドってのがあったな。ただ、スティンク(鼻をつく臭い)とか、そういうのは海外ゲームって感じがする。臭い系魔法を好き好んで使いたがる術者も少ないんじゃないかなあ。まあ、コンピューターゲームだと、スティンキング・クラウドはデバフ効果で強かった印象があったが」
ヒノキ「ソーサリーでも、鼻栓が必要なNIFという呪文があったのう」
NOVA「まあ、そういう色物系呪文は置いておいて、もっと、そのRPGの顔となりそうな華々しい魔法を探しましょう」
ヒノキ「う〜む、D&Dを象徴する、他にはあまり流用されていない、それでいて華々しい呪文か。メルフズ・アシッド・アローなんかはどうじゃ?」
NOVA「魔法使いメルフさんの酸の矢ですな。単にアシッド・アロー(酸の矢)というのも、D&D風味ですが*2、そこにメルフという個人名を付けて呪文名にするのは、確かにD&D風味ですな。パスカルの原理とか、アボガドロの法則とか、何だか魔法の呪文が科学法則のような感じで。『個人名ズ』の付いた呪文は、特別感あります」
ケイP『言ってしまえば、《ギャバン・ダイナミック》みたいなものだッピ』
NOVA「他には、プロテクションだと他のRPGでもありがちだけど、プロテクション・フロム◯◯と後ろに付けば、D&Dって感じがします。
「さらに初めて見たときに、色彩的に綺麗だなあと思った呪文が、プリズマティック・スプレー(虹色の噴射)とかプリズマティック・ウォール(虹色の壁)。これは7色の属性から成る高レベル呪文で、属性の種類は以下のとおり(5版)」
- 赤:火のダメージ
- 橙:酸のダメージ
- 黄:電撃のダメージ
- 緑:毒のダメージ
- 青:冷気のダメージ
- 藍:拘束→石化
- 紫:相手を盲目にして、別の次元界に転移させる
シロ「何ですか、その凶悪な効果は?」
NOVA「レベル7〜9という最高クラスの呪文だからなあ。これも版によって、微妙に色ごとの効果が違うんだが、俺が最初に知ったのはクラシックD&Dの黒箱マスタールール。その時は、もっと凶悪だったと思う」
- 赤:すべての魔法の飛び道具を遮断。触れたものに軽減不能の12ポイントのダメージ。魔法の冷気によって無効化される。
- 橙:すべての通常の飛び道具を遮断。触れたものに軽減不能の24ポイントのダメージ。魔法の電撃によって無効化される。
- 黄:すべてのブレス攻撃(竜の炎など)を遮断。触れたものに軽減不能の48ポイントのダメージ。マジックミサイルによって無効化される。
- 緑:すべてのディテクト系呪文を遮断。触れたものは毒で死ぬ(ST判定に失敗した場合)。パスウォール(壁抜け)の呪文によって無効化される。
- 青:すべての毒、ガス、視線攻撃を遮断。触れたものは石化する(ST判定に失敗した場合)。ディスインテグレイト(原子分解)の呪文によって無効化される。
- 藍:すべての物体の通行を遮断。触れたものはゲートの効果で、異次元に飛ばされる(ST判定に失敗した場合)。ディスペルマジック(魔法解除)の呪文によって無効化される。
- 紫:すべての魔法を遮断。触れたものは発狂する(ST判定に失敗した場合)。コンティニュアルライト(永遠の明かり)の呪文によって無効化される。
NOVA「元々は、不可侵の壁を作る効果(ウォール)だったんだが、3版からは攻撃呪文のスプレーと、もっと広範囲の結界(スフィア)が追加。つまり、プリズマティック・シリーズとなった。これを扱える『虹色の魔法使い』というのは、ある種の究極の魔法使いと言えるだろうな」
シロ「使えないんですか?」
NOVA「クラシックD&Dだと、21レベルが必要だな。俺はコンパニオンレベルを自認しているが、マスターレベルには達していない。まだまだ修行が必要な身だ」
ヒノキ「しかし、いろいろ寄り道兼職しておるから、経験値はそれなりに貯め込んでおるじゃろう?」
NOVA「まあ、Whiteから令和に入ってShinyになったわけだし、もう一つ元号を経由したら、Prism NOVAに昇格してもいいかもしれん。うん、プリズムNOVAを目指して頑張るとしよう」
ケイP『マスターNOVA、その名はすでに登録されているッピ』
NOVA「チッ、先を越されていたか。まあいい。令和が終わるまでは、まだ時間が掛かるだろうから、それまでは修行を重ねて、プリズマティック系魔法を使えるような自分を目指そう。称号は、その後で考えればいい。俺は名より実をとる」
ヒノキ「それで、新兄さん。D&Dを代表する呪文は、プリズマティック系で良いのか?」
NOVA「いやあ、メテオ・スウォームと並ぶ究極呪文ではあると思いますが、代表するとなると、もっと有名でなければなりません。どちらかと言えば、プリズマティック系は奥義に近いものか、と」
ヒノキ「ならば、一体、何がふさわしいか」
NOVA「ウォーロック呪文なら、確実にエルドリッチ・ブラストと言えるんですけどね。しかし、D&Dを代表する呪文となると……やはり、マジックミサイルか、ファイヤーボールとなるかな」
ヒノキ「スタンダードゆえに、みなが真似して流用するのがD&Dということで良いではないか。むしろ、後続がD&Dとどう変えて来たかを語る方が建設的だと思う」
NOVA「では、改めてD&DがいかにRPGの定番を作り上げて来たかを、再確認していきますか」
D&Dの生み出したスタンダード
①レベル制と、経験点による成長システム
これについては、RPGとしての究極の発明だと考えますね。
レベル上昇によるキャラクター強化の概念と、経験点(Experience Point)という言葉は、D&D以降のRPGの大きな柱となっています。
もちろん、成長のない初期トラベラーやファイティングファンタジー、レベル制ではなくスキルの成功率上昇で成長を表現したルーンクエストなどのベーシックRPG系列など、違うRPGもあるわけですが、後の多くのアナログおよびデジタル系のRPGが、経験点とレベルアップというシステムを採用した。
D&D→ウィザードリィ→ドラクエという段階を通じて、経験値とレベルアップというゲーム用語が一般にも浸透していく流れが日本にはあったのですが、元祖RPGとしてD&Dが生み出したスタンダードは今も金字塔のようになっている、と。
②ヒットポイント(HP)という用語
キャラクターの体力、生命力をHPという数値で表し、死ぬ(戦闘不能になる)までにどれだけのダメージを許容できるか、という概念。これはD&D以前にウォーゲームで用いられたので、D&Dの発明ではない。
だけど、レベルアップによってHPが上昇して、打たれ強くなるという分かりやすさこそは、D&Dの真骨頂かと考えます。例えば、D&Dの次に来る2つめのTRPGとして歴史的に名高いT&Tは、HPではなく能力値の耐久度をそのまま減らすシステムで、これは旧ソード・ワールドでも能力値の生命力がHPの代わりだったりしました。
よって、少なくとも80年代のTRPGにおいて、D&DほどHPがレベルアップ時にぐんぐん育っていくシステムはなかったと言えます。
もっともドラクエを始めとするメジャーなコンピューターRPGは、普通にHP制を採用しますし、TRPGの本流も能力値の生命力(CON、耐久力、強靭力など異なる名称含む)とは異なるHPを採用し、2.0以降のソード・ワールドもそれに追随して、HPやMPをどんどん伸ばせるシステムに変わった。
とにかく、キャラクターや機体の耐久力をHPという呼称で表現しているゲームは、全てD&Dの影響を受けているということですな。
一方で、D&DはMP制を採用しなかった。
能力値にも、精神力に相当するものはなくて、魔法関連は各呪文レベルごとの使用回数という形で表現されていた。
これはウィザードリィや初期のファイナルファンタジー(1と3)が採用したものの、現在の主流はやはり、HP・MP並立制になりますな。
逆に言えば、魔法をMPで管理せずに、使用回数で規定していることがD&Dの魔法システムの特徴と言えるわけで、これはこれでカードゲームに通じるシステムです。「うちのデッキには、この魔法を何枚入れてある」というのは、D&Dにおける「今回の冒険では、この魔法を2回使える」といった形に記憶準備していくシステムの発展系になりますな。
D&Dのプレイ用の小道具にも、魔法カードというのがあって、呪文使いの魔法管理用に「準備した魔法をメモ用紙に記載しておいて、使用したものを消す」というスタイルから、「準備した魔法カードを手札にして、使用したものを場に出す。手札の数が使える魔法と示しやすいうえ、カードに魔法のデータが書かれているため、いちいちルールブックを確認しなくてもいい」という実プレイで便利なものが少なくともAD&D2版の頃から売っていた。クラシックD&Dの頃からあったかもしれない。
D&DのHP制は、コンピューターも含めたゲームシステムの面で覇権をとったけど、魔法の使用回数制はMP制に敗れて、マイナーシステムの部類になった。その反面、カードゲームとの相性の良さから形を変えて、今も根強く継続していると考えます。
カードと魔法の概念は、日本だと『ローズtoロード』という先達がいて、カードをめくって魔法発動というアクションは、1984年から既にあった、と。これはこれで面白いシステムなので、また別記事で詳しく触れていこうと思います。
③魔術師と神官の職種の違い
攻撃呪文を扱う魔法使いと、防御・回復呪文を扱う聖職者。このファンタジーRPG概念を定着させたのもD&Dですな。
少なくとも、D&D以前のファンタジー小説で、そういう常識はなかったと考えます。例えば、指輪物語。魔法使いガンダルフは登場しますが、いわゆる神官が登場しない。癒し手として名高いのは、半エルフのエルロンドやガラドリエル、そして野伏のアラゴルンであり、その癒しの技術は三つの指輪や、薬草アセラスの効用。
自然に親和性のあるエルフや、古来の王族ゆかりの技術ゆえの奇跡的な癒しの技であって、後の『シルマリルの物語』で描かれたような神の力を乞うような描かれ方ではない。だから、指輪の世界に登場する癒し手の職業は、自然に根差したドルイド的なアニミスト(まじない師)となっていました。まあ、アニミストとレンジャーが神霊界の呪文リストを共有し、魔法使いと吟遊詩人の精気界と対になっていたシステム。
ともあれ、TRPGシステムとして、精気界(魔法使い系の秘術魔法)と、神霊系(僧侶系の信仰魔法)という区分はされていましたが、原作小説ではそういう区別もなく、ガンダルフが役回りとして王に戴冠する聖職者の代わりを務めたり、そもそも、昔話としての神話伝承は断片的に描かれていても、現在において神への信仰が描写されているわけではないのが指輪世界。まあ、ホビット視点だと、一部のエルフが神々しい高貴な一族ですし、指輪の信仰は歌と自然の中に神性を感じるような描かれ方。一方、自然破壊こそが暗黒の所業という今のエコロジスト的な価値観を半世紀以上も前から描いておりますな。
D&Dに強い影響を与えた、それ以前のファンタジー小説で神々を描いた作品としてメジャーなのは『エルリック・サーガ』。この世界で主人公のエルリックは、混沌に所属する邪神アリオッチに仕えます。
そう、エルリックは出自が邪神の下僕なんですな。彼のルーツであるメルニボネ王族ですが、いわゆる高貴なエルフ系になぞらえられる一族で、かつては世界を支配していた帝国の主です。しかし、蛮族である人間が台頭した新世界において、メルニボネは頽廃と享楽に耽る黄昏の国家で、エルリックの時代には世界の中心の島国〈竜の島〉しか勢力圏を持たないまでに凋落していた。
この辺は、ソード・ワールドの古代魔法文明に相当するのがメルニボネで、しかも、魔法=混沌の産物というのが作者ムアコックの世界観。一方、法と混沌の対立軸概念こそがD&D(あるいはルーンクエスト)に与えたムアコックの影響の最たるものですが、法が勝てば科学技術が支配して、混沌が勝てば魔法の世界になるという。
エルリックは出自を混沌に委ねながらも、故郷を捨てた冒険を続けるうちに混沌から法に鞍替えするようになり*3、最後は混沌の神と法の神の世界の命運を賭けた戦いで、世界はほぼ壊滅し、生き残ったエルリックも愛剣ストームブリンガーに命と魂を奪われる末路まで描かれるバッドエンド、と。
原作マンガ版のデビルマンと、エルリック・サーガを重ねて読むことも可能ですな。
さておき、法と混沌、善と悪の対立軸がファンタジーRPGの王道概念ですが、そこにキリスト教価値観を付与すると、D&Dの聖職者クレリックになります。クレリックの信仰呪文の元ネタに、聖書に基づくものが多いからなんですが、これは別に作者がゲームに信仰を持ち込もうとしたわけではなくて、アメリカ社会で聖書というものが一般教養として常識になっているからに過ぎません。
我々日本人が、素朴な価値観として「嘘をついたら針千本を飲まされるとか、閻魔さまに舌を抜かれるとか」をしつけの一環として学んできた(昭和時代の話。令和の今では若い子に伝わらんかも)ように、聖書でよくあるネタをゲームの呪文の一部に採用した。
そしてオリジナルD&Dでは、神よりもむしろ倒すべき敵キャラとしてのデビルやデーモンの設定をいっぱい創作したら、何だか悪魔崇拝のゲームと勘違いされて、バッシングを受けた。こういうのは今も時々ありますな。「差別はいけないよ、というメッセージのために、作中で差別をリアルに描いて、それを断罪する物語を描いているのに、そこまで読みとらずに、差別を描いているという理由だけで一部に悪書指定されてネガティブ評価される」というケースが。
まあ、D&Dが魔法も神も、英雄神話も悪魔も、いろいろなネタを無軌道にぶっ込んだものだから、その中で一番インパクトのある悪魔要素が叩かれた。
だから、ビギナー向きのベーシックルールから派生したクラシックD&Dでは、デビルやデーモンの設定は削除されて、背景世界のミスタラも悪との対決よりは、辺境の開拓と荒野の探検、自身の王国建設という中世の立身出世物語を意図するようになっていたのが80年代前半の大筋。
一方、正義と悪の対決、善神と邪神の対立ドラマは、ドラゴンランスという世界観でフォローして、悪魔崇拝と勘違いされやすい要素は抜きにした。
そしてゲームの象徴であるドラゴンも、当初の邪悪な尖兵から(キリスト教価値観ではそう)、世界に秘められた善竜の存在にシフトして、最後は善竜VS悪竜の対決に至るパラダイムシフトを見せた。
それを象徴するかのように、クラシックD&Dの表紙イラストも、悪竜との対決からマスタールールに至って、正義の竜と共に戦う勇者の絵に変わる。


緑箱のコンパニオンルールは本国では84年発売で、黒箱マスタールールは85年発売。その間に、悪竜と対決する戦士の表紙が、善竜とともに空を駆ける戦士に切り替わった。その背景に何があったかと言えば、ドラゴンランスシリーズの出版である。
84年から85年にかけて出版されたドラゴンランス戦記(邦訳は87年〜88年)は、邦訳6巻のサブタイトルが『廃都の黒竜』『城砦の赤竜』『氷壁の白竜』『尖塔の青竜』『聖域の銀竜』『天空の金竜』*4と切り替わっていき、最初の4巻までは色名の悪竜にスポットが当たり、5巻と6巻で金属名の善竜が表舞台に登場して、戦況の逆転に至る構成である。
この84年から85年にかけて、D&D界隈では、邪悪なドラゴンとの戦いから、盟友たる善竜との共闘に、物語のメインストリームがシフトしていったことが分かる。
西洋社会において、ドラゴンは悪の象徴と見なされ、東洋の竜神伝説との対比で文化論まで語られるほどだったが、神竜の物語が一気にメジャーとなったのが、この時期である。
日本では、そこから少し遅れて、86年に倒すべきラスボスだった竜王が、87年に和解し、88年のマザードラゴンの生み出した卵の逸話を経て、90年に竜の神さまが登場する一方で、メジャーRPGに成長していくファイナルファンタジーも、87年に早くも竜王バハムートを登場させ、88年に竜騎士リチャードという仲間キャラを登場させ、90年に召喚獣という形でバハムートと共闘する展開に。メジャーなファンタジー作品で、悪竜が善竜にシフトしていく展開を、踏襲していくわけですな。
ヒノキ「なあ、新兄さん。魔術師と神官の話を書くつもりが、ドラゴンの話に大幅脱線しておらんか?」
NOVA「しかし、ドラゴンランスのパラダインは神であり、魔術師フィズバンであり、根底において話がつながっていると言えなくもない」
ヒノキ「それにしても、もはや『D&Dを代表する呪文』の話は、どこかに飛んで行ったのう」
NOVA「まあ、D&Dが日本のRPGに与えた影響は大きい、という結論でまとめてもいいでしょう。竜が神さまになるって話は、日本人にとっては割と普通に受け入れやすいことだし、84年ではもう一つ大きなトピックがありまして」
ヒノキ「何じゃ?」
NOVA「ゴジラ復活ですよ。ゴジラは破壊の化身でありながら、平成に入って、ただの怪獣から神とも崇められる立ち位置に昇格する。何せ、Godzillaですからね。普通に考えて、竜=悪魔のイメージが強いアメリカ社会で、怪獣王=神と考える価値観は成立しにくいわけですよ。しかし、84年から85年にかけて、D&Dが神たる竜を文化の表面に引き上げた。ゲームはサブカルチャーですが、それがメジャー化すると、それを味わって育った世代が新たな文化の担い手になっていく。つまり、竜神伝承という東洋哲学が、東西折衷の新世紀文化として花開いているのが令和の今、と言えるでしょう」
ヒノキ「おお、ゴジラ=神というルーツもD&Dにあった?」
NOVA「ルーツは第1作から大戸島伝説であったのですが、ただの迷信であったり、日本人でも神の名を持つ怪獣という設定だけは知っていても、ゴジラ信仰なんて苦笑ネタ以外の何ものでもない、と思われていました。しかし、平成に入って、ゴジラはただの怪獣ではない、という描かれ方が公式になって、とうとうゴジラをモスラと同じように地球を守る守護神として描くようになる。一方で、ガメラも守護者という伝説が平成に入って描かれて、ガメラが神ならゴジラも神だろうという受け止め方が特撮ファンやマニアの間で定着する。
「21世紀に入ると、ゴジラを神と見なしても、誰も違和感を持たなくなったんですね。80年代の時点では、そんなアホなと俺は思ってましたが、今では普通にゴジラ様と言ったりもしますから」
ヒノキ「ラドン様とは?」
NOVA「残念ながら、劇中で誰もラドンを神として崇めていないじゃないですか。モスラやシーサー、コングやバラダギと違って、ラドンは神認定されていないのが実情。ヒノキ姐さんはラドンの眷属であって、神霊かもしれませんが、ラドンを神認定するような作品が作られたら、世間でメジャーになるんじゃないでしょうか。まだ、今はバラゴンの方が護国聖獣として神に近い立ち位置にいます」
ヒノキ「うむ、こればかりは世間がどう考えるかじゃからのう」
NOVA「個人的には、ラドンはバラダギ様のBGMを奪うことで、その神性をも伝授したと考えていますが、そのラドンのテーマモチーフもメジャーな曲とは言えませんからねえ」
ケイP『ラドンだけでなく、ドゴラも神認定してもらえるように精進して、魔法研鑽に励むッピよ』
NOVA「いや、ドラゴンは神認定されても、ドゴラが神認定されるハードルは非常に高いと思うんだが、ファンが求める人気怪獣に入るところからスタートだな」
(当記事 完)
*1:リプレイならそれでもいいし、ゲーム的な効率優先も大事だけど、小説でそういう魔法描写しかできない作家だと、もっと演出描写を学べよ、と言いたくなる。
*2:ダメージ属性に酸があるファンタジーゲームも割と珍しい方だと思う。錬金術とかSFとのハイブリッドならあり得そう。D&Dならブラックドラゴンとか一部のスライム系が酸ダメージを扱う。
*3:混沌に仕える悪の魔術師や神官と戦う展開が多く、また法の守護者の一人である〈暁の女王マイシェラ〉との縁もあって、結果的にエルリックの行動が法寄りに傾いていく。
*4:なお、D&Dの敵竜は5色あって、緑竜がタイトルから省かれているが、3巻の中にきちんと『樹海の緑竜』の書は収録されていた。白竜の話で、冒険者一行がタニスとレイストリン組、ローラナとスターム組に2分割し、タニス組が緑竜のエピソードに、ローラナ組が青竜のエピソードに流れる形。そして騎士スタームの戦死を描いた4巻は、感動の名作で泣いたファンも多数。お嬢さまヒロインのローラナがスタームの遺志を汲んで、主人公の将軍に覚醒する成長も含めて、傑作と言える。84年といえば、ターミネーターのリンダ・ハミルトンと同時期の物語。
