今回は信仰系
ヒノキ「前回は、D&Dのウィザードとソーサラーを中心に話をした」
晶華「どちらも似たような魔術師で、打たれ弱くて(HPが低い)、鎧も身に付けられず、肉体的には貧弱なんだけど、呪文を使って補う職種ね。ファイアーボールや強力なダメージ呪文も扱えるという意味で、パーティーの貴重な火力となれる派手なキャラ」
翔花「だけど、ウィザードさんは攻撃以外にも情報収集とか多彩な呪文を扱える。知識系の専門家で、得意な呪文の分野による差異はあっても、総じて読書家。呪文書やその他の難解な書物も読み込みながら、パーティーの頭脳としての役割を期待される」
晶華「一方のソーサラーさんは、知識ではなく感性で魔法を扱う職種で、内から溢れる魔力で異才を発揮する。呪文を学問や知識の延長ではなくて、血筋や霊感で扱いこなす資質を持っていて、その力は時に理屈を凌駕することもある。そんな感じの理解でいい?」
ヒノキ「ふむ。ウィザードは旧来のD&D伝統の魔法使いで、ソーサラーは21世紀の新時代の感覚に満ちた魔法使いと言えようか。そこに力ある存在との契約で魔力を得たウォーロックを加えて、現在の秘術系魔法使いの理解は十分と言えよう」
翔花「ウォーロックさんは、他の2つのクラスよりもHPが高くて、軽装鎧も身につけられる分、魔法戦士の資質を持っているのね」
ヒノキ「まあ、魔法戦士という点では、ファイターのサブクラスであるエルドリッチ・ナイト(秘術騎士)の方が優秀だと思うが、ウォーロックは契約相手との関係性やダークヒーロー的な雰囲気が魅力と言えよう。オカルト好きとか、エルリック・サーガの雰囲気が好みなら、お勧めの職業じゃ。剣と魔法の両方使えて、華やかな英雄を望むなら、エルドリッチ・ナイトや聖戦士パラディンを勧める」
翔花「パラディンさんは、信仰魔法を使う勇者って感じね。D&Dの信仰魔法の専門家は、クレリックさんとドルイドさんって聞くけど、ドルイドさんは自然に根差した呪文を使って、獣に変身したりもできる異教の神官。クレリックさんは一般的な僧侶って感じね」
ヒノキ「僧侶と訳すと、日本の仏教を連想するが、ドラクエIIIの時期からファンタジーの聖職者(クレリックやプリースト)は、僧侶と訳される傾向があるのう。ドルイドもドルイド僧と呼ばれることもあるが、厳密には神官もしくは祭司という言葉の方が通りがいいのう」
翔花「やっぱり、ドラクエの影響が大きいのかしら」
ヒノキ「クラシックD&Dでは聖職者と訳されているが、AD&D2版ではクレリック(僧侶)とドルイドがプリーストのカテゴリーに統合されておる。プリーストの呪文が16個のスフィアー(領域)に分類されて、どのスフィアーの呪文を使えるかでプリーストの神格を決定づけるルールとなっている」
翔花「16もあるのかあ。覚えるのが大変ね」
ヒノキ「一応、リストアップしてみるか」
- オール(共通):どのプリーストにも使える。ブレス(祝福)、ピュリファイ(浄化)など。邪神の使徒は、それらを逆呪文として使い、カース(呪い)やピュトリファイ(腐敗)に変えたりする。
- アニマル(動物):ドルイド用。動物系呪文が充実している。他にも自然や農業に関する神が扱う。
- アストラル(異世界):クレリック用。5レベル以上の高位呪文で、次元移動を可能にする。他次元を司る神が授けてくれる。DMがそういうシナリオを用意しないといけないので、使用を制限されることも。
- チャーム(魅了):クレリック用。秘術呪文における心術系だけど、直接魅了する呪文は少なく、神の名において命令したり、恐怖を癒したり(逆呪文で恐れさせたり)、探求を強制させたり(クエスト)、敵を混乱させたりなど。愛の神、美の神、芸術神、詐欺の神が扱う。
- コンバット(戦争):クレリック用。武器を作ったり、戦意を高めたり、高レベルの攻撃呪文(フレイム・ストライク)が分類される。死の神、戦争の神が扱う。
- クリエイション(創造):クレリック用。食料を作ったり、物体に擬似的な生命を与えて動かしたり、茨の壁を作ったりなど。6レベル呪文が充実している。創造神や、トリックスターの神など幅広い神格が扱う。
- ディビネーション(予言):クレリック用。3レベル呪文までならドルイドも扱える。秘術呪文における占術系で、探知や会話、情報収集系の呪文が充実している。知識神が扱うが、信徒に積極的に関与する神はしばしば与えることがある。
- エレメンタル(精霊):ドルイド用。3レベル呪文までならクレリックも扱える。地水火風の自然にまつわる呪文が多く、高レベルでは攻撃呪文も充実している。自然の神、精霊神、船乗りの神、鍛治師などの職人の神などが扱う。
- ガーディアン(守護者):クレリック用。防御用の呪文だけど、後述のプロテクションと違って、個人ではなく場所に結界を張ったり、封印を施したりする傾向がある。そして侵入者に対してはダメージを与えるなど攻撃的。守護、治癒、詐欺の神が扱う。
- ヒーリング(治癒):クレリックもドルイドも使用可能。いわゆる回復呪文。たいていの神が与えてくれるが、邪神は逆呪文に変えて、癒しよりも致傷効果にすることが多い。
- ネクロマティック(生命):クレリック用。復活もしくはアンデッド創造など、生死を扱う。生命の神や治癒神、死の神がそれぞれの用途に合わせて、授ける。
- プラント(植物):ドルイド用。植物系呪文が充実している。他にも自然や農業に関する神が扱う。
- プロテクション(防御):クレリック用。定番の防御呪文。治癒呪文と並んで、聖職者の存在意義だけど、ドルイドは使えない。戦争や守護の神の他、慈悲の神なども扱う。
- サモニング(召喚):クレリック用。動物召喚などはアニマルのスフィアーと共通だが、こちらは異次元の魔物を呼んだり、送り返したりもできる。なお、AD&Dでは神そのものを召喚する呪文はPHBに収録されていない。魔物を召喚するのは、戦争や死の神の領域らしい。
- サン(太陽):クレリック用。各種の光を放つ。低レベルではただの明かりだけど、高レベルだと破壊光線である。自然、農業、生命の神が扱うが、ドルイドは使えない。
- ウェザー(天候):ドルイド用。ドルイドが灯す明かり(フェアリー・ファイヤー)はこの領域に属する。ルールブックには記されていないが、嵐の神や、各神話の主神なんかが扱うのだろうな。
ヒノキ「他には、パラディンが扱えるのは、コンバット、ディビネーション、ヒーリング、プロテクションの4種。レンジャーが扱えるのは、アニマルとプラントの2種だけじゃな」
翔花「レンジャーさんといえば、薬草治癒ってイメージだけど、AD&Dのレンジャーさんは治癒能力を持たないのね」
ヒノキ「レンジャーの癒し手イメージは、『指輪物語』のアラゴルンが生み出したもので、彼のクラスはD&D的にはレンジャーとクレリックのマルチクラスではないかという説もある。ただ、ソード・ワールドでも、レンジャーと薬草治癒の能力を結びつけたので、D&Dとは異なるレンジャー像を日本でも構築したと思われ」
D&Dにおける信仰史(グレイホークの話)
ヒノキ「さて、D&Dのクレリックの元来のイメージは、西洋中世のキリスト教に基づくもので、それに対する自然崇拝の聖職者ドルイドの登場で、その2種がD&Dの信仰観の土台となる」
翔花「ドルイドは中立の性格なのね。それに対するクレリックは善良で、敵の邪悪な神官と対立する関係にある?」
ヒノキ「逆呪文の設定などで、当初は単純な善悪二元論な世界観だったのじゃろうな。しかし、そこにルーンクエストのグローランサという多神教ワールドが出現した。グローランサは、ロードスやソード・ワールドなどにも影響を与え、TRPGでは多神教ワールドが一般的になる原因ともなった」
翔花「そこで、D&Dも多神教のルールを考えるようになったのかしら?」
ヒノキ「そもそも、D&Dはグローランサのような特定のワールドを持っていなかった。最初の世界グレイホークは、グレイホーク城とその地下のダンジョン探索から始まった、D&Dの作者ゲイリー・ガイギャックスのキャンペーン世界じゃが、ゲイリーさんはそれを商品として出版する気は元々なくて、『D&Dは各DMとプレイヤーが自分の好きなホームタウンとダンジョンを作って、探検して遊ぶゲームだから、特定の公式ワールドを持たない。ただ、自分はこういう風に遊んでいるけどね』とプレイの例を雑誌記事なんかで語っているだけだったらしい」
晶華「システムだけあって、世界はない。それが最初のD&D展開だった、と。当然、一神教か多神教かなんてどうでもいいって話ね」
ヒノキ「D&Dのクレリックも、単に回復職というだけで、宗教要素を根本に置くつもりはなかったそうじゃし、D&Dファンの要望を受けて出版した最初の世界設定書籍『ワールド・オブ・グレイホーク』(1980)にはグレイホークの神々の記述がない、とファンからのツッコミが来たそうじゃ」
翔花「そんな大切なものが、どうしてないのよ?」
ヒノキ「そりゃあ、ゲイリーさんの世界にとって、架空の神々の信仰なんて、どうでも良かったのじゃろう。適当に善の神がいて、グレイホーク市の周辺地域フラネスを守護してくれる。そこに邪悪の神の先兵である侵略国家が攻めて来そうな背景設定を示して、その状況を何とかするためにダンジョンに潜る。ダンジョン探検が主目的のゲームに、外の世界の神々の設定なんている? というのがゲイリーさんの考え」
晶華「でも、ファンは神々の設定を望んだ、と」
ヒノキ「そこでゲイリーさんは雑誌上で、グレイホークの神々の設定をテキトーに付け焼き刃的に考えた記事を書き進め、その後、1983年に『ワールド・オブ・グレイホーク』のボックスセットにて、50もの神々の名前と属性、信仰領域などを公開した」
晶華「50って、いきなり大量に生えて来たんですけど?」
ヒノキ「雑誌では19の神々を記事化していたが、ボックスセットに載せるに当たって、31種類の神が追加された。どうも、ゲイリーさんは一度やり始めると、徹底的に凝る性格らしい。なお、グレイホークの神々は3版と新5版のルールブックに載っておるが、3版では19種類に収まっておる」
翔花「やっぱり、50種類も神さまを紹介されても、どう扱っていいか分からないもんね」
ヒノキ「日本のロードスやアレクラストが、とりあえず善神5と邪神1を加えた6大神でまとめたのは、正解じゃろう」
晶華「至高神ファリス、大地母神マーファ、戦神マイリー、知識神ラーダ、商業神チャ=ザ、暗黒神ファラリス。これぐらいなら普通に覚えていられる」
ヒノキ「3版サプリの『グレイホーク ワールドガイド』には71の神々の記述が掲載されておる。なお、D&Dは人間が半神を経て、神に昇格できる世界じゃし、公式シナリオなんかでも新たな神が設定されたりして、グレイホークの神の総数は193柱もあるそうじゃ」
晶華「数が多ければいいってものじゃないけれど、長い歴史のあるゲームだから、いろいろ増えていくってことね」
ヒノキ「うむ。ゲイリーさんだけでなく、他のデザイナーがいろいろ足していくのじゃから、膨れ上がるのは必然じゃ。ガンダムのMSの数だって、仮面ライダーの数だって、どんどん増えるのじゃからのう」
翔花「だけど、そんなにたくさんの神さまを設定しても、ゲームで扱いきれないでしょう」
ヒノキ「それにD&Dの世界はグレイホークだけではない。ドラゴンランスのクリンや、フォーゴトン・レルム、エベロンの神々が旧5版のPHBの巻末にリスト化されておるし、そこにはリアル神話のケルト、ギリシャ、エジプト、北欧の神さまリストだってある。
「実のところ、ゲイリーさんたちはグレイホークの神々を設定する前は、プレイヤーが適当に自分のキャラはギリシャのゼウスを信じてるとか、北欧のオーディンの使徒とか、そんなノリでダンジョンを攻略していたそうじゃ。それこそ、神様なんて何でもいいというノリでD&Dは構築されておったのじゃが、そこに『神々が失われた世界に、神の遺産を求めて、神々の帰還に通じる物語』としてのドラゴンランスがゲイリーさん抜きに企画され、小説とシナリオの連動企画で非常に好評を得たのが84年。
「ここでゲームに基づいた小説という可能性が持ち上がって、ゲイリーさんも自分のグレイホーク小説を書き始めたはいいが、85年末にゲイリーさんは諸事情でTSR社を追放され、86年からD&Dの新たな世界フォーゴトン・レルムが構築された。日本では、ドラゴンランスとフォーゴトン・レルムの小説およびコンピューターゲームが受け入れられ、それとクラシックD&Dのミスタラの3つが80年代から90年代にサポートされたため、グレイホークは21世紀まで英語版ユーザーしかプレイしたことのない幻の世界観となっていた。
「アメリカでは、グレイホークに愛着のあるユーザーも非常に多くて、AD&D2版の誕生時期に、ゲイリーさん抜きでグレイホークを再展開しようとなった時に主戦力となったのが、カール・サージェント。またの名を、FFゲームブック作家のキース・マーティンという」
晶華「ええと、この作品の人?」

ヒノキ「うむ。キース・マーティンはゲームブック用のペンネームで、彼の本名はカール・サージェント。イギリスTSRとゲームズワークショップの両方と仕事をして、ウォーハンマーとD&Dの両方で87年から96年まで活躍した。日本では、2本のゲームシナリオしか訳されず、あまり大きく取り上げられることもなかったが、何よりも90年代前半にグレイホークを盛り立てて行った中心人物じゃ。つまり、彼はゲームブック作家としてイアン・リビングストンを精力的に補佐する一方で、D&Dではゲイリーさんの残した世界観を継承したクリエイターじゃった。
「そして、ゲイリーさんと、カール・サージェントの後を継いで、グレイホークを盛り立てる原動力となったのが、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストの社長ピーター・アドキソン。サージェントはグレイホークが邪神の帝国に攻められ、戦火に見舞われる窮地を演出して行ったけど、そこから復興し、昔のゲイリーさんの時代を想起させる冒険の世界に戻そうとする方向性を提示した」
翔花「ええと、サージェントさんがグレイホークを戦乱の渦に引き込んで、世界が闇に覆われそうになったのを、アドキソンって人が『そんなグレイホークは見たくない』と言って、平和な時代に再構築したってこと?」
ヒノキ「そうなる。D&D3版はグレイホークを中心にした設定にするため、TSRがより刺激的な戦乱の中のキャンペーンとして展開した物語を修復し、盛り立てて行ったものの、2008年に4版になった際にグレイホークは引き継がれず、公式に終了宣言が為された。しかし、2024年の新5版でグレイホークの復活宣言が出されて、今はどうなっているのか情報がよく分からん」
晶華「何だ。これだけ語って来て、肝心なことが分かってないの?」
ヒノキ「サプリメントとして、フォーゴトン・レルムとエベロンが出たのは分かった。しかし、それを知ったところで、復活したグレイホークがどうなったかは分からんじゃろう。ましてや、日本では新版のルールがいつ訳されるのか予定も未定のままでは、グレイホークが今どうなっているかなぞ、知りようがない」
翔花「つまり、ルールブックで復活したグレイホークの世界を紹介しているだけで、その後の商品がグレイホークに触れず、別の世界のワールドガイドを出すだけだから、今はまだセッティング段階ってことね」
ヒノキ「まあ、日本のD&Dユーザーはグレイホークにあまり馴染みがなくて、レルムの方が愛着ある者も多かろう。何せ、話題になった映画がレルムじゃからのう」
翔花「それにしても、グレイホークの話ばかりで、ちっとも信仰呪文の話につながらないよね」
ヒノキ「一つ、質問に答えておこう。多神教をクレリックがルールシステムとして、どう表現するか。それは領域の設定じゃ」
神格の領域
ヒノキ「そもそも、オリジナルD&Dでは、神格なぞ設定していなかったし、クレリックは何となくキリスト教の聖職者っぽい雰囲気だけで作ってきた。それはAD&Dになっても変わらなかったのじゃが、1978年にルーンクエストが出た頃合いに、『RPGには世界観が必要。ファンタジーRPGは神々と壮大な魔法体系が魅力』という風潮が出て来た。いわゆる第2世代RPGと呼ばれるものじゃ」
晶華「その風潮に、当初はそんな物を必要と思わなかった作者のゲイリーさんも感化されて行ったのね」
ヒノキ「しかし、ゲイリーさんの時点では、多くの神格をゲームシステムに反映する方策をとらなかった。グレイホークの様々な神を83年に設定したはいいものの、それをゲームでどう扱うかはプレイヤーの自由というのがゲイリーさんのスタンス。一方、ゲイリーさんの直接関与しないもう一つの世界設定ドラゴンランスの方で、クリンの神々は小説内で描写されたり、言及されたりして、独自の存在感を増していく。そして、ドラゴンランスの世界設定サプリメント『ドラゴンランス アドベンチャーズ』(1987)で、初めて神々の呪文領域に関するルールが構築されて、それがフォーゴトン・レルムにも影響し、89年のAD&D2版にも継承されていく」
翔花「つまり、多神教の神々をD&Dで表現するルールは、ドラゴンランスが初なのね」
ヒノキ「そこには前提条件として、ルーンクエストの影響が大きいがの。あの世界では、神の授ける神聖魔術と、神の従属精霊が授ける精霊魔術、そして世界法則に基づく理論的な魔道と呼ばれる3つの術体系があって、それが日本のフォーセリアに受け継がれた」
晶華「ロードスやソード・ワールドは、D&Dの紹介リプレイとして始まったけど、小説やオリジナルシステムとして展開するうちに、D&Dよりもルーンクエストの影響を強く受けながら世界観を固めて行った、ということね」
ヒノキ「もちろん、ルーンクエストの壮大な世界設定の一部を切り取り、独自に整合性を付けて行ったのじゃが、さておき、AD&D2版のシステムは従来のクレリックとドルイドをプリーストのカテゴリーに統合。そして、彼らの扱う呪文を16のスフィアーに分類。クレリック呪文とドルイド呪文という分け方をせずに、まとめてプリースト呪文のどのスフィアーの呪文が使えるか、というシステムにした」
翔花「きちんとカテゴリー分けして、理論的なシステムにしたのね」
ヒノキ「そして、ドラゴンランスやフォーゴトン・レルムの神々が、どのスフィアーの呪文を扱えるかサプリメントで設定する一方で、AD&D2版の基本ルールでは『スフィアーを独自に設定すれば、既存の神話も、オリジナル神話も好きに構築できて、君だけのD&Dワールドを独自に作ることも可能』とした。そして90年代においては、AD&Dはマルチバース設定に基づいて、大量の世界観を粗製濫造的に売り出して、勢いづいたように見せたものの、そんなにたくさんの世界設定を示されてもユーザーが付いて来れん」
晶華「今のソード・ワールドが似たようなことをしているわね。既存のアルフレイム大陸とは別にバブルワールドとかいって、世界の裏に隠された異世界を小出しにして来ている」
ヒノキ「わらわとしては、そんな新世界を細々増やすよりも、2.0のテラスティア大陸と2.5のアルフレイム大陸をリンクさせた物語を展開して欲しいと思うておるが、昨年はフォーセリアとラクシアのリンクしたリプレイが発売された」
ヒノキ「世界観をどんどん新規に増やすことよりも、今ある世界をつなげるクロスオーバーが望みじゃが、新規のユーザーを引き込むのに、新たな世界観をゼロから構築して、こんな世界やキャラでも遊べるって示す必要もあるのじゃろうな。まあ、ルールブックがハードカバーにまとまったこともあるし、心機一転は必要という時期じゃろうて」
晶華「ソード・ワールドは1989年の登場で、AD&D2版と同じ時期に生まれた。そして文庫RPGの強み(安価で携帯性が高い)を活かして、『日本ではD&Dを負かしたシステム』として海外にアピールしているみたいね」
ヒノキ「ああ。昨年からソード・ワールドの英語版を公式に展開しようという動きが出て来たようじゃ」
翔花「それは海外展開が楽しみな話題ね」
ヒノキ「じっさいの商品展開が始まるのは、今年だと言われておる」
晶華「確か、D&D3版のマルチクラスのシステムが、ソード・ワールドを参考にしたのでは? という話ね」
ヒノキ「うむ。それに多神教の神の表現方法も、ソード・ワールドに通じるものが見られる」
翔花「と言うと?」
ヒノキ「AD&D2版のスフィアー(領域)を組み合わせて、神格を設定するシステムは、領域ごとの格差が大きいのと、結局は面倒なシステムということもあって、3版以降はもっとシンプルに改訂された」
晶華「どういう風に?」
ヒノキ「その前に尋ねよう。ソード・ワールドのプリーストの呪文は、どのように個々の神を表現しておる?」
翔花「ええと、まず基本のプリースト呪文(神聖魔法)のリストを用意して、それに個々の神さま用の特殊神聖魔法という形で追加するようになってるわね」
ヒノキ「D&Dも3版以降はそうした。例えば、3版はクレリックとドルイドの呪文リストを別に用意して、従来の職業別呪文リストを明示した。これが何を意味するか。プレイアビリティが単純に向上した」
晶華「というと?」
ヒノキ「実プレイすると分かるが、AD&D2版のPHBは、クレリック呪文とドルイド呪文をまとめてプリースト呪文として網羅しているので、その中でドルイドが使える呪文だけ探し出すのは、結構、手間どるわけじゃ。ましてや、オリジナルの神さまの呪文など、個別に呪文リストをDM、もしくはプレイヤーが自作しなければならん」
晶華「それって、魔法使いさんも同じことをしているでしょ?」
ヒノキ「それが、ウィザードやソーサラーは『自分の呪文書に書かれた呪文、もしくは習得した呪文』だけを把握すればいいのじゃが、クレリックやドルイドは『そのレベルに達すると、該当する全ての呪文を習得した扱い』になる。例えば、1レベルのウィザードは自分の呪文書に書かれた呪文(多くて5個程度)をチェックすればいいが、プリーストは1レベルの24個の呪文から自分が使えるもの(クレリックは19種類。ドルイドは16種類)を事前に分類したうえで、そこからその日の呪文を選択する手間をかける」
晶華「ああ。ルールブックだと、クレリック呪文とドルイド呪文がごちゃ混ぜになってるから、使う人があらかじめ分けておかないといけないんだ」
ヒノキ「2版は、1版の時にバラバラに散らかっていた呪文などのデータを統括、体系化して整理することを目的とした版上げじゃったが、まとめた物を扱いやすいように切り分けることをしない編集だったので、選択できる呪文が多い信仰魔法の使い手が特に苦労することになった」
翔花「秘術魔法の魔術師さんは、元々、呪文リストを独自に作って準備することがロールプレイにもなっているけど、プリーストさんはそういう職業じゃなかったはずなのに、魔術師さん並みの準備を求められるようになった、と」
ヒノキ「結局、3版以降は職業ごとの個別呪文リストを用意するようになり、該当ページをコピーするだけで、自分のキャラにできることを把握しやすくなった。これが4版になると、全てのパワー(特技や呪文をまとめた呼称)の解説が、カードみたいなレイアウトに統合されて、コピーして切り取るだけでカードゲームみたいに技や術を発動するプレイスタイルにもなったが、5版ではそういう杓子定規な(D&Dらしくない)見せ方は廃止された」
晶華「ルール話をしていて、ルールブックのデータ・レイアウトのことが話題に出るとはね」
ヒノキ「こればかりは、ルールブックの現物を知らないと実感が湧かない話じゃからのう。ともあれ、ゲームをプレイする際に扱いやすいルールブックは何版か、という話をしていて、初版や2版がそうだという人間は少数派じゃと思う」
翔花「話を戻して、今のD&Dのクレリックさんは、基本のクレリック呪文に、自分が信仰する神さまごとの特殊呪文を追加する形で、個性化しているのね。ソード・ワールドみたいに」
ヒノキ「結局のところ、基本的な治癒呪文や防護呪文などは、あらゆるクレリックが持っていて欲しいからのう。うちの神さまはガチの戦闘狂、攻撃は最大の防御なりという教義なので、回復呪文など甘えだと言って習得させてくれません、という神格設定はネタとして面白いが、ゲームだとクレリックに相応しくないキャラ付けだと思うぞ。個性づけの前に、己が役割をしっかり果たせよ、と」
5版のクレリックのサブクラス
ヒノキ「そんなわけで、基本クラスにサブクラスを選択付与して、キャラのヴァリエーションを増やすシステムの5版は、クレリックの多神教設定もサブクラスの形でフォローすることにした。そして、サブクラスの名前は特定の神格の固有名詞ではなくて、領域で表すようになった」
翔花「具体的には?」
ヒノキ「旧5版は、『欺き』『嵐』『戦』『自然』『生命』『知識』『光』の7種に、DM用の『死』を加えて8種が基本。しかし、新5版になって、基本は『生命』『光』『欺き』『戦』の4つだけになった」
翔花「嵐の神さまと、自然の神さまと、知識の神さまが基本ルールからリストラされたのね」
ヒノキ「知識神の方は、フォーゴトン・レルムのサプリで追加されたと聞く。まあ、足りない分は、旧5版のルールやサプリで補え、ということじゃろう。ともあれ、ザナサー本には『鍛治』『墓場』の領域が、ターシャ本には『規律』『黄昏』『平和』の領域が追加されておるが、一つの神さまが複数の領域を司っていることもあり、サブクラスの選択にも多少の融通を効かせてくれよう」
晶華「じゃあ、女神リーブラはどんな領域?」
ヒノキ「タイタンの神は、D&Dではなく、AFFで調べよ」
晶華「そんなことを言っても、D&Dの神さまの名前なんて、よく知らないし。ええと、大地母神マーファは『自然』になるのかな?」
ヒノキ「自然神の使徒は、一部のドルイド呪文も習得できるそうじゃな。まあ、そんな感じで、自分の知ってる神の名をD&Dに当てはめて考えられるように、5版ではなっておる。ギリシャ神話のアテナは『戦』と『知識』の好きな方を選ぶことができるし、後から領域が追加されるケースもある。ドラゴンランスの善側の主神パラダインは『戦』を司るが、ターシャ本で『平和』という領域が加えられて、神格の幅が広がった」
翔花「『戦』と『平和』って真逆じゃない?」
ヒノキ「『平和』の神は、戦いよりも話し合いで解決しようとするし、その領域呪文も癒し系が見られたりもするが、平和を乱す悪に対しては屈せずに立ち向かい、速やかに平和を勝ち得ることも推奨する。外交努力で解決しようとするならば、好戦的な国に対して臆さず道理を突きつけて、平和のために戦うという自己矛盾に対しても確固たる信念を持ち続けることが重要。ドラゴンランスのパラダインは善竜の化身であり、暗黒竜タキシス(死を司る)に対して、騎士団を支援して果敢に立ち向かわせた。本人はボケ老人に扮して、冒険者一行をこっそり支援したりしながらな」
翔花「ええと、フィズバンさんってのが神さまなの?」
ヒノキ「うむ。わらわが神霊なのと同じように、フィズバンもあの世界の神じゃ。ドラゴンランスの神パラダインであり、バハムートという別名も持つ」
晶華「バハムートって、ずいぶんと有名な名前が出て来たわね」
ヒノキ「その起源は、イスラムの伝承にある巨大魚で、1975年のD&D初サプリメントに竜の一種として登場し、善なる白金竜(プラチナドラゴン)の神として知られている。創り手はゲイリーさんと盟友のロブ・クーンツ。グレイホーク世界の神竜がバハムートで、その後、日本のゲームにも竜の王として採用されて、知名度を高めることとなった」
翔花「バハムートさんのドラゴンとしての元ネタもD&Dだった。もはや、起源が魚だなんて思われないわね」
ヒノキ「D&Dの強力な神の一柱として多元宇宙を越える存在として扱われ、ドラゴンランスのパラダインもバハムートの別の相だと、フィズバン本で語られておる。一方のタキシスは、悪のクロマティックドラゴン、ティアマットの別の相じゃ」
ヒノキ「バハムートが善竜の王で、ティアマットが邪竜の女王というのがD&D設定。それがドラゴンランスにも名前を変えて、世界観の根底に採用された。九層地獄バートルというのが、D&D世界における秩序にして悪の存在であるデヴィルの故郷じゃが、ティアマットの支配する領域もバートルの一層めにある。日本語で読める地獄めぐりの物語はこれじゃな」
翔花「小説風リプレイもあるのね」
ヒノキ「動画リプレイもあるが、さすがに長すぎるので、貼りつける気にはなれん。レベル1〜レベル13までの長期キャンペーンになるが、テーマ的にも奥の深い冒険譚になるのは保証しよう」
晶華「信仰魔法の研鑽をしていたはずが、地獄参りの冒険譚にまで話が飛躍するとは思わなかったわ」
ヒノキ「そりゃあ、神の話をしていたら、悪魔の話もしなければ、片手落ちというものじゃからのう」
翔花「正月早々、地獄の話とは縁起でもないので、今回の研鑽回はこれで終わります。もう、お腹いっぱいだし」
晶華「一つ勉強になったのは、D&DとFFゲームブックが、思っていたよりも深いつながりがあったということね。キース・マーティンさんの昔の活動とか聞けて、面白かったわ。私たちが倒さないといけないマンパンの大魔王も、正体は地獄の魔神だって話も聞くし、今年は覚悟を決めて立ち向かうとするわ」
ヒノキ「おう。D&D話が、ソーサリーの冒険にどこまで役立つかは知れんが、達者でのう。面白い冒険譚を期待しておる」
翔花「ヒノキちゃんは、どうするの?」
ヒノキ「そうじゃなあ。正月休みを返上で、研鑽を頑張ったから、少し休憩して、新たな研鑽ネタでも頑張ろうとするかな。それと、ポン菓子はお土産に持って帰るといい」
翔花「うん。じゃあ、またね」
晶華「NOVAちゃんは迎えに来ないけど、私たちだけでも帰れるから問題ない」
ジュニア「リウも連れて行ってくださいぃ」
シロ「じゃあ、翔花、またな。誕生日には、ケーキを持って遊びに行くから」
翔花「うん、シロちゃん。いつもありがとう」
ゲンブ「ではな、粉杉どの、アッキーどの。カーカバードでの健闘を祈るでござる」
翔花「ありがとう、ゲンブさん」
晶華「それじゃあね」
(当記事 完。Wショーカの話の続きはこちら)




