大晦日の研鑽記事
晶華「まさか、年末に勉強しないといけないとは思わなかったわ」
翔花「勉強じゃなくて、お喋りを楽しむと思えばいいんじゃない?」
シロ「ところで、年末なのにゲームブック関連で、こういう記事が出まして、関係各所を感嘆させているとか」
晶華「これは……本来、ウルトロピカル向きのテーマよね」
ヒノキ「しかし、わらわも興味はある。少なくとも、日本のTRPG受容史において、ファイティング・ファンタジー→T&T→文庫RPGのソード・ワールドという導線は重要な位置づけになるからのう。火吹山が売れず、T&Tも売れなければ、ソード・ワールドを文庫で発売するという流れにもならなかったじゃろう」
ゲンブ「それまでは、RPGはボックスセットで発売するという常識があったでござる。TRPGは玩具か書籍かという問題提起で、ホビージャパンやツクダ、エポック社などのホビー玩具部門が箱入りセットのTRPG作品を発表する中で、社会思想社や東京創元社、それに富士見書房やKADOKAWA関連が安価なTRPG商品を文庫という形式で次々と出版していった80年代後半から90年代前半の流れは、日本のTRPG普及において大切な時代と言えよう」
ヒノキ「何しろ、D&Dさえも文庫で出た時代じゃ」

翔花「へえ。文庫RPGがいっぱいね」
ヒノキ「本当は、『混沌の渦』の代わりに『T&T』か『アドバンストFF(1版)』を映そうと思うたのじゃが、すぐに取り出せそうになかったので、取り出しやすそうな90年代文庫RPGを取り出した。この中で、一番早いのは『混沌の渦』(邦訳は88年)じゃ」
晶華「一番早い文庫RPGは87年のT&Tでいいのかしら?」
ヒノキ「いや、85年(86年かも?)に東京創元社から出た、最初の『ファイティングファンタジーRPG』じゃろう」
翔花「85年にソーサリーが4冊、次々と出て、それから最初の『ファイティングファンタジーRPG』が何年に出たかは分からない、と?」
ヒノキ「原書が84年に出たのは分かっておるが、日本語版は該当書籍が手元になくてのう。確実に分かっているのは、『王たちの冠』が出た85年の10月以降、『モンスター事典』が出た86年の10月以前だということじゃ」
NOVA「横レス失礼。俺の記憶によれば、高1(86年)の6月に試しにプレイした記憶があるから、それ以前に出ていたのは確実だ。おそらく、85年の年末から86年の3月ぐらいだと推測する」
ヒノキ「おお、新兄さん。帰ってきたのか」
NOVA「まあ、さすがに大晦日だからな。仕事はないが、大掃除なので部屋の片付けをしている。ゲームブックやTRPG関連の資料がいっぱいだ」
晶華「だったら、魔法の研鑽話もいっぱいできそうね」
NOVA「資料が多すぎて、まとめるのは大変だがな。一番便利な資料はこれだと思うが、今となっては記述内容が古すぎて、歴史資料としては興味深いが、実用的とはとても言えん」
ヒノキ「昭和63年初版発行か。1988年じゃな」
NOVA「歴史資料としては、本文もさることながら、帯とか巻末の刊行書籍のリストが興味深い」


NOVA「ゲームブックでは、AD&Dシリーズはまだメジャーな方だが、スカイフォールシリーズとか、オリジナル・ゲームブックのリストがなかなかマイナーなツボを突いてくれる。とりわけ、クロちゃんの『鷹の探索』は傑作だったという記憶があるなあ。処分済みだが。他は全部立ち読みで済ませたので買っていない。AD&Dシリーズは、『ババ・ヤーガの悪夢の王国』以外は全部買ったが、手元にはない。物語の記憶はそれなりに残っているが」
スペル・コレクションの話
わしは大魔術師のウォートじゃ。
晶華「驚いた。ウォートって、あのロードスの六英雄のウォートさん?」
NOVA「ああ、そのウォートだ。ロードス小説が最初に出たのは88年4月だが、ウォートの名前は雑誌連載のリプレイで有名になっていたので、知る人ぞ知るロードス・スピンオフということになるな。まあ、もっと凄いのは、カシュー王の剣闘士時代をネタにした続巻のアイテム・コレクションの方だが、スペル・コレクションはそこに至る前章で、当時の有名RPGの魔法をいろいろ網羅している。具体的には以下のとおりだ」
- クラシックD&DおよびAD&D
- T&T
- 指輪物語RPG(MERP)
- ルーンクエスト
- ローズ・トゥ・ロード
- フォーリナー
- ソーサリー(ゲームブック)
- バルサスの要塞(ゲームブック)
- ウィザードリィ(コンピューターRPG)
- ファンタジーIとII(スタークラフト社のコンピューターRPG)
- ドラクエII(ファミコンRPG)
翔花「『フォーリナー』と、パソコンゲームの『ファンタジー』ってのが、今ではマイナーな部類ね」
NOVA「フォーリナーは本格的な国産RPGとしては、ローズtoロードに次ぐ2作めに当たるんだが、後には続かなかったなあ。ともあれ、スペコレはファンタジーRPGの呪文を、『運動』『解除・回復』『祈願・呪い』『幻覚』『催眠』『召喚』『創造・破壊』『探知・伝達』『変化・変換』の9種類に分割して、ゲームごとの扱いを詳細に解説している。基本のネーミングはD&Dに準じているが、他の作品では何に相当するかを説明していて、当時のファンタジーRPGガイドにもなっている」
晶華「ええと、『エネルギー・ボルト』の項目には、D&Dのマジックミサイル、ファンタジーのファイア・フラッシュ、ドラクエのギラ、ウィザードリィのHALITOが載っているわね」
NOVA「ドラクエのギラは、後に範囲攻撃の閃光系呪文になったが、IIの時期はまだ単体攻撃用の初歩呪文だったからな」
翔花「後で、そういうのは火弾のメラになったわね」
晶華「『ファイア・ボール(火球)』はあまりにもメジャーすぎて、どのゲームにも採用されているから、説明が最低限だけど、ソーサリーのHOTの名前が挙がっているのは、いい勉強になるわ」
NOVA「説明が面白いのは、『ライトニング・ボルト(電撃)』の方だな。ソーサリーのZAPとか、ウィザードリィのMOLITOとか、ドラクエのベギラマとかが含まれる」
翔花「これがドラクエIII以降だと、ライデインになるんだけどね」
NOVA「ドラクエの魔法体系は、IIIで完成したので、IIの分類は過渡期なんだな」
ヒノキ「いや、しかし、ドラクエの時間軸だとIIIが過去の話で、その時代は魔法の体系化がしっかり為されていたが、IやIIの時代になって、魔法学が廃れていったと考えられよう。IIIの時代は、街の酒場に魔法使いが普通にいたが、Iの時代には魔法がかなり廃れて、一部の賢者の伝承に残るのみ。IIの時代には、ムーンブルクを中心にロトの時代の魔法を復活させようという試みが為されていたが、まだ完全な魔法体系は復刻ならず、一部の呪文が歪められた形となって扱われているとか」
NOVA「つまり、IIIの時代の魔法の多く(ヒャド系とか、デイン系とか)が遺失魔法になっていたということか。まあ、リメイクIIでは、だいぶ魔法も増えたらしいが、そのぶん、魔法の使えないローレシア王子が無能扱いされているそうだ」
ヒノキ「破壊神を破壊した男が無能扱いとは、ドラクエIIの尊厳破壊ではないか」
NOVA「時代が変われば、栄枯盛衰は世の習いだとは考えますが、古い作品を発掘した際に時代を感じるのも、年越しのひとときと言えましょうか」
シロ「ところで、T&Tの有名攻撃魔法《これでもくらえ!》は、ライトニングの項目ではないのでしょうか?」
NOVA「ああ、それは見た目が電撃っぽいけど、精神波の一種なので、『マインドブラスト』の項目で紹介されている。あと、ライトニングは範囲攻撃だけど、《これでもくらえ!》は単体攻撃だから、『エネルギー・ボルト』の一種とも解釈されているな」
シロ「なるほど。そういう解釈もまた面白いですね」
NOVA「ともあれ、スペコレは62項目の呪文を記載して、ファンタジーRPGの呪文329をそれらの項目に分類している傑作呪文ガイドだ。昭和のファンタジーRPGの時代資料にもなっている。ただし、惜しむらくは、III以降のドラクエや、ファイナル・ファンタジーが出る前に書かれた本なので、それらによる魔法体系を網羅した平成版のスペルコレクションが出たらいいのにな、と思ってたが、モンコレと違って改訂版は出なかった」
晶華「それに、ソード・ワールドや90年代以降のTRPGも記載されていないので、今の時代には片手落ちよね」
NOVA「ソード・ワールドについては逆だな」
晶華「どういうこと?」
NOVA「先にスペコレで呪文分類を行なったから、それに基づいてフォーセリアの呪文体系を構築する叩き台になったと言えよう。それに、ソーサリーの呪文については、きちんと解説されているんだから、ゲームブックの呪文の予習にはなるんじゃないか?」
晶華「だったら、時を越える究極魔法ZEDは載ってる?」
NOVA「……それはないなあ。時間操作系は、スローやヘイストぐらいで、さすがに時間そのものを飛び越える呪文はないや。クラシックD&Dでも、まだ黒箱マスタールールが翻訳される前の本なので、タイムストップは載ってないし、ましてや基本ルールにも載ってないような上位魔法は載っていないだろう。あくまでガイドなんだから、よくある一般的な呪文がメインに決まっている」
ヒノキ「時空移動系の魔術は、シナリオで扱うのも大変じゃから、気軽にポンポン扱える代物でないことは、アッキーも身を以て知っておろう」
晶華「うっ、リナ老師に未来に飛ばされたことを思い出した。確かに、他人に時空魔術をうかつに使うのは、邪悪な魔女の所業ね」
ヒノキ「わらわは邪悪な魔女じゃなくて、神霊じゃから聖女に相当するがの」
晶華「はいはい。邪悪な魔女ムーブをしていたのは、私の方よね」
NOVA「ともあれ時間移動に興味があるなら、『GURPSグリモア』なんかにも記載されているが、大量のエネルギーを消耗するので、使用エネルギーを節約するなり、代替させるなどの手段を講じなければ、呪文を使った瞬間に術者が干からびて死ぬ危険性さえある。それにエネルギー問題をクリアしても、判定を成功させるための難易度もバカ高いので、単に呪文を知っているだけでは扱いきれない。この辺の呪文は、プレイヤーキャラが使うことを想定しているのではなくて、ゲームマスターがそれを専門に研究しているNPCを登場させて、シナリオ限定で活用することを意図していると思われ。なお、この呪文についての詳細は、『GURPS タイムトラベル』という未訳サプリにあるようなので、そういうキャンペーンを計画しているGMが準備しない限りは、実プレイに活用できないんだろうな」
魔法体系の話……から寄り道しての現代ラノベ論
ヒノキ「さて、個々の呪文の詳細については、ゲームシステムや世界観によっても異なるというか、少なくともファンタジー世界では、どのような呪文があるか、あるいは、どのような信仰が描かれているかが、世界観の肝と言ってもいい」
NOVA「世界観を説明できるのは、学のある魔法使いか聖職者、あるいは、その世界を上から見ることのできる外部や上位の存在(いわゆる神視点を持つ者、もしくは神と同格の契約者、異世界転生者含む)ぐらいだな」
ヒノキ「だから、異世界転生ものが流行る理由は、作者が物語の序盤で世界設定を語るのが楽だからじゃ。読者が受け止めやすい有名ゲームのネタを、主人公が読者と同じ視点で語るのがパロディとしても扱いやすいからのう。わらわがTRPG好きの女の子と設定されておるのも、そうすればTRPGで扱われているネタを普通に認知し、語ることができるからじゃ」
NOVA「ヒノキ姐さんは、神霊だから神視点を持っていても問題ない。俺は作者だから、このブログ内では神視点を持っていても問題ないんだが、リアルのスケジュールとか事件とかに縛られる。ブログ内では神のように振る舞っていても、リアルで仕事をしなければ食っていけない(苦笑)」
晶華「作者が物語に気軽に登場する作風の是非は置いておいて、架空の異世界を舞台としたのがハイファンタジー。現代風の世界にファンタジックな存在が紛れ込むのがローファンタジーってことね」
翔花「わたしたちのブログ時空は、どっちになるのかしら?」
NOVA「俺の想定では、ローファンタジーだな。ただ、俺のメインブログの空想タイムは、俺の妄想で構築されたポケットディメンジョン(小次元)だし、コンパーニュやウルトロピカルもリアルの地理(阿蘇の麓とか屋久島とか)の裏面にある異世界ではあるが、リアル世界と類似していて、同じようなテレビ番組が放送されていて、同じようなゲームが発売されている。少なくとも、完全にリアルから切り離された異世界ではない」
ヒノキ「ローファンタジーだと、ファンタジックな存在が出現している際に、住人がどういう反応を示すかで、リアリティの差異が出てくる。例えば、未来の世界のネコ型ロボットやオバケが居候しているのに、家族や街の人たちが普通に日常生活を送っている藤子ワールドは、リアリティレベルが低い。
「一方、ファンタジックな存在の出現を何とか隠そうとして人々の記憶を消したり、被害を修復して何事もなかったかのように振る舞うプリキュア世界や、逆に隠しきれなくて怪獣災害なんかがニュースになって、一般市民の生活に影響を与えてそうな近年のウルトラなんかは、リアリティレベルが高いと言える」
晶華「私たちの世界のリアリティレベルは……」
NOVA「高いぞ。というか、花粉症ガールが市民の中に混じって、日常生活を送っているわけじゃないから、プリキュアの妖精と似たような扱いだろう。うちのブログの読者だって、まさか花粉症ガールが本当にNOVAの娘で、リアルにいる存在だとは思っていまい」
翔花「NOVAちゃんはどう思っているの?」
NOVA「俺の脳内には確実にいるし、見えている。だけど、自分に見えているものが、他の誰かにも見えるだろうとは考えていない。昔から、俺は他人に見えていないものが見えることが多かったからな。逆に、他人に見えているものが俺に見えてなかったりして、うっかりを指摘されることもしばしばなので、空想癖をこじらせて現実が見えていないことが多いのがNOVAと認識しているようにはしている」
ヒノキ「それで、日常生活を送るときには苦労しないのか?」
NOVA「見えていない現実のレベルにもよるが、空想3割、現実7割なら問題ないのではないだろうか? さすがに、これが逆なら大問題だろうが、空想と現実の境界線がそもそも意識されないのが、リアリティレベルが低い作品で、すなわちギャグ時空ってそんな感じだろう。酒を飲んで酩酊しているとかもそう。
「一方で、空想と現実、怪異と日常の境界線が意識されていて、怪異とともに行動している人間がその正体を隠そうという判断ができるのが、リアリティレベルの高い作品。まあ、そもそも怪異とか空想的存在の発生する余地のないリアリティレベルの高すぎる作品は、俺の興味の範囲外だから、考慮しないとして」
ヒノキ「TRPGでも、あまりそういうのはないからのう」
NOVA「アイドル活動をテーマにしたTRPGとか、警察の事件捜査をテーマにしたTRPGとか、ないことはないんだが、怪獣も、ロボも、悪の組織も、オカルトも、ミュータントも、魔法も、神さまも登場しないリアルずくめの世界って、つまらないだろう。わざわざゲームで遊ぶ必要を感じない」
晶華「人によっては、アイドルの芸能活動をファンタジーと感じる人もいるだろうし、リアル警察の事件解決や、熱血教師の生徒指導や、異性とのラブラブ恋愛劇をファンタジーとして堪能したい人だっているんじゃない?」
NOVA「作品ジャンルがツボにハマるかどうかは人の好みだからな。それはさておき、魔法の話をしたいのに、世界観にまで話が広がりすぎたから軌道修正だ。魔法少女がアイドルになる話ならOKだし、魔法を使う犯罪者を追う警察もありだし、熱血魔法教師なら歓迎。魔法少女が魅了のラブラブポーションを作って、ドタバタラブコメディになる話なら、軽い気持ちで見ることはあるかもしれないが、とにかく不思議な力や怪異が働かないフィクションは、俺の想定から外す」
ヒノキ「そもそもローファンタジーを語るのだから、不思議な力が日常にどう関わるかの話じゃろう?」
NOVA「いや、俺の語りたいのは、異世界を舞台にしたハイファンタジーの方です。そして、異世界だから当然、魔法だってあるし、神さまだっている。いや、魔法の力はないけど、科学が発達した未来SFの世界だって考えられるけど、ここで主人公がどういう立ち位置かで世界の描写が変わってきます」
ヒノキ「世界の住人として日常に溶け込んでいるか、それとも世界の異物として一般の住人とは違う視点を持っているか、の違いかのう?」
NOVA「ええ。前者だと、主人公にとっては常識だけど、読者にとってはエキゾチックな世界をいかに魅力的に描写するかが問われます。『よくある西洋中世風の建物だ』という表現がNGとなります。その西洋中世風を作者が必要なら、しっかり描写しないといけませんし、主人公の立ち位置(都市の貴族か、商人か、田舎の農夫か、狩人かなどの職業背景)によっても見たいもの、気になるものが変わってくるはず。まあ、主人公視点か、あるいは客観視点かによっても見え方や描写すべきものが変わって来ますし、客観視点で背景をざっと描いてからシーンの主要人物視点にクローズアップするように切り替えるという技もありますが、視点切り替えは一方通行で固めて、客観→主観→客観とコロコロ変えるのは下手。また、人物同士の視点をシーンを変えずに切り替えるのはNGですね」
晶華「って、創作講座が始まってる!?」
NOVA「おっと。この視点切り替えの鉄則は、ラノベじゃない一般小説のテクニックです。一般小説の場合、主人公は読者と立場の異なる独特の個性ある人物としてキャラ立てしたいので、そこに感情移入させるためには一人称スタイルでブレない視点で臨場感や内面描写を濃くする秘訣があるのですが、ラノベの場合、主人公はテンプレで、個性ある周辺人物との絡み、事件やシチュエーションのトンデモさで面白おかしく読ませるのが目的。そこにリアクションして、ボケたりツッコミ入れたり、ノリが良ければ勝ちのジャンルです」
翔花「ボケとツッコミは、ラノベをコミカルに描く秘訣よね」
NOVA「まあ、いわゆるなろう系の定義にもなるだろうけど、なろう系の異世界って、『ゲームでよくある類型的な世界』で、作者も斬新な世界観を構築しようって気はあまりないと思うんだよね。むしろ、誰もがよく知ってる、馴染みあるファンタジーのお約束世界を主人公視点に合わせて、小出しにしている。最初から完璧な世界を作ろうともしていない」
ヒノキ「確かに、80年代から90年代は斬新な世界の構築に力を注いだ、世界観重視の作品も多かったが、今は違うと?」
NOVA「お約束の世界観。では、作者は何をもって作品の個性としているかと言えば、主人公が持っている特殊能力(チート技能の活用)です。お約束の世界で、非常識な能力(しかも他者からは軽く見られる凡庸な技能ながら、それを極めるなり、盲点的な活用方法でブレイクスルーを図る)を使う主人公が、一世風靡して見せるのが、ここ10年の主流。まあ、これはTCGにおけるコンボみたいなもので、単独では扱いにくいカードが、特定シチュエーションや他の能力との組み合わせでシナジーを発揮する、と」
ヒノキ「俺つえーではないのか?」
NOVA「そういう作品もあるかもしれませんが、なろう系はどちらかと言うと、主人公単独では弱かったり、バカにされたりするのが普通なんです。ただ、自分の能力の非常識な活用方法を思いつく知恵があるか、あるいは性格が愚直でひたすら地道に自分の能力を鍛えるかで、弱いのにここぞと言うところで逆転する力を発揮する。まあ、たまに本当は強いのに、諸事情で力を封印している『弱者を装った強者』設定もありますが、そういうのは普通に90年代以前からありました。町人に扮した水戸黄門や必殺シリーズもそうでしょう?」
ヒノキ「確かにのう」
NOVA「なろう系の土台にあるのは、『弱者として切り捨てられた人間の復讐、もしくは成り上がり』なんです。そのために必要なのは、その世界の住人には考えにくい『革新的なアイデアの出し方、柔軟性、世界そのものを客観視できる視点』です。言わば、作者のアイデアを実行に移せる現代人感覚。知恵で力の差をはね返すという主人公性という意味では、昔の一休さんや少年海賊ビッケにも通じますが、そのための戦闘要員として、多種多様な美少女キャラを順次、仲間に入れていくのが商業的にも必要」
シロ「女の子が戦闘要員なんですか? 男が戦ってもいいのでは?」
NOVA「男性主人公が、知恵も示して、武力にも長けていて、しかもハーレム……という作品だと、例えば、ソード・ワールドの魔法戦士リウイが挙げられる。そこまで完璧なヒーローって、今の時代にはリアリティもないし、若者の感情移入対象にもならないんだな。それこそ、俺つえーだ」
ゲンブ「ゴブリンスレイヤーもそうではござらんか?」
NOVA「ゴブスレさんは、ゴブリン特化で無双するというチートなキャラだけど、戦士としての能力では最強クラスではなくて、秘密道具や戦術が常識離れして、ツッコミ役の妖精弓手になじられるほどの無茶をして勝つのが今風。他には、弟子持ち師匠で、寡黙なコミュ障、生真面目で朴訥という点も、リウイとは違う。いい年してラノベを読むおじさん世代には、ウケがいいと思われ」
翔花「ゴブスレさんは、女神官さんの成長物語でもあるのよね」
NOVA「それだ!」
翔花「どれ?」
NOVA「女神官だよ。つまり、神さまだ。ゴブリンスレイヤーがハイファンタジーなのは間違いないが、他のなろう系と一線を画すのは、女神官の存在だ」
晶華「どういうこと?」
NOVA「なろう系がファンタジーとして、俺がハマれない理由の一つが、神さまに対する敬意のなさだ。現代日本人の多くの若者にとって、神さまへの信仰はどちらかと言えば、感情移入しにくい気持ちだと思う。よって、なろう系の神さまって、異世界転生の際にチート能力をくれたりもするけど、主人公にとってあまり崇拝対象でもないし、むしろ神さまに従うのが盲目的だとか、仲間の神官がやがて主人公に寝取られたりして、神さまへの信仰よりも主人公への想いを優先しがちになるよな」
ヒノキ「あるいは、女神が主人公を贔屓するか、さもなくば裏切るかの両極端に振る舞う印象がある」
NOVA「まあ、主人公に好意を示すか、悪意を示すかしないと、中立のままじゃ、最初に異世界転生させた後に、ドラマに絡めない舞台装置としてフェードアウトするしかないですからね。いずれにせよ、大切なのは、その世界できちんと神さまが崇拝されていて、奇跡を授けてくれるかどうかです。物語世界における神々の役割をきちんと信仰組織として描かれているのか、それとも擬人化された女神が主人公に惚れたり、敵対者になったりなど矮小化するのかで、世界のリアリティが決まってくると考えます」
晶華「その点で、ゴブリンスレイヤーは王道だと?」
NOVA「まあ、ゴブスレは異世界転生ではないから、比べるものでもないのだろうけど、なろう系の異世界にハマれない理由が、ただのテンプレだから以上に、神さまの設定が安っぽいからだ、という一つの結論が出た。実にめでたい」
改めて魔法体系
NOVA「話を切り替えて、もう一度、異世界ファンタジーにおける魔法体系および信仰体系の話に参ります」
翔花「ハイファンタジーにおいては、どういう種類の魔法と、どういう種類の神さまが設定されているかが大切って話ね」
NOVA「魔法のシステムは、真っ当なファンタジー世界を考えるうえでは、何よりも大切だな。その世界では、どういう原理で魔法が働いているかは基本だが、これは実のところ、なろう系でもきちんと構築されていることが多い。主人公が魔法系のキャラなら、その視点の地の文でしっかり解説してくれるし、そうでないなら魔法使いの女の子と親密になった場合などに、魔法に無知な主人公(および読者)にいろいろ解説してくれる。そして、その魔法の設定を応用して、主人公がチートな策を考えるうえでのアイデア源にするわけだ」
晶華「魔法体系について、作者がテキトーってことはあり得ない、と」
NOVA「おおむね、ファンタジーを考える人間にとっては、魔法の原理って基本だからな。定番なのは、万物に宿るマナ(魔素)とか、精霊力とか、魔法を司る神の力とか、あるいは魔界の魔族とか、そんなところだろう。あとは、細かいフレーバーで、呪文書を使うのか否か、呪文の発声は必要として、無声呪文の技術が普通に存在しているのか、あるいは主人公が持つチート技なのかなどなど」
ヒノキ「高速詠唱ができることが、主人公の凄さだと示す作品はありそうじゃな」
NOVA「普通の倍の速さで呪文を唱えられるなら、1ターンに2回攻撃ができるからな。逆に、主人公がドモりで、どうしても発声に時間がかかるために無能な魔法使いと思われていたのが、修練の末に無声呪文の技を身につけて、『静寂の魔術師』という異名を持つようになったというのもあり」
ヒノキ「無声呪文じゃと? どういう原理でそれが可能なのじゃ?」
NOVA「例えば、主人公と思念で通じ合った契約精霊がいて、彼女が主人公の思念を読みとって、人では不可能な超高速呪文詠唱でサポートしてくれるとか?」
翔花「精霊頼りでチート能力を発揮するってことね」
NOVA「その精霊が、世界でも稀少な存在で、封印されていたのを主人公が解放して、その力が世界を危機にもたらすとなれば、主人公がその精霊をどうやって守るかがテーマになるが、そういう設定だとハーレムにはならないので、精霊の契約者は主人公ではなくて、対立するライバルにする。主人公は無声呪文の使い手に一度敗れて、執拗に相手を追ううちに、世界を破壊する精霊の秘密を知ることになる」
晶華「何だか、その設定だけで、ラノベが書けそうだけど?」
NOVA「見切り発車で書けるだろうな。ただ、それだけじゃ要素が足りない。しかも、ドモり魔術師、無声詠唱というキーワードで検索すると、普通にあったわ」
ヒノキ「今年の夏にアニメ化されていたのじゃから、お前さんのアイデアはパクり扱いされるじゃろう」
NOVA「いやあ、俺はそのアニメも原作も知らなかったので、決してパクりではないし、さっき思いついただけだから……と言い訳しても、旬の作品を知らないだけで無知無能な作家と見なされていたでしょうから、作品書いて発表する前に検索しておいて良かった。一応、良いアイデアを思いついたと思っても、ネットで検索して、すでに発表された作品とかぶらないかチェックするのは、現代の創作家のたしなみだとは考えますな。まあ、同じアイデアでも、他のアイデアと組み合わせて、より面白い作品に仕立てられる自信があるなら、それも一興ですけどね」
翔花「ドモりだから無声詠唱、というアイデアは同じでも、それを主人公ではなくて、ライバルキャラに設定したのだから、その考えを進めるといいのでは?」
NOVA「すると、改めて主人公の魅力ある設定を考えないとな。ええと、ドモりの反対だから、やたらと声が大きくてうるさい。呪文を唱えていると、何の呪文を唱えているか相手の術師にバレバレだから、あっさり対抗呪文をかけられて、練習試合ではどうしても勝てない。だけど、口ゲンカでは強くて、相手を威圧することも得意。魔法使いなのに、ウオーと叫ぶ体育会系で、呪文を使うよりも殴る方が速いとか」
ヒノキ「体を鍛えて、戦士をやれよ!」
NOVA「運動神経は悪くて、機敏さには欠けるパワー馬鹿。いや、馬鹿だと魔術師にはなれないな。とにかく、彼は彼で無声魔術には憧れるんだけど……って、別にラノベの設定を考えているんじゃなくて、世界における魔法法則を考えたら、思いがけず寄り道が膨らんだだけで」
ヒノキ「まあ、魔法について、あれこれ考えることが、異世界ファンタジーにとって重要なことは分かった」
NOVA「当然ですね。問題は、信仰体系です。神さまへの信仰がきちんと構築されているのが、優れた異世界ファンタジー。その辺がテキトーで、神への敬意があまり感じられないのがポンコツファンタジーと定義しましょうか」
ヒノキ「というか、そこまで神々の設定を丁寧に構築してあるラノベ作品が、TRPG関連以外にあるのか? ラノベの読者層が、作り込まれた神々の設定に感じ入るとも思えんのじゃが」
NOVA「まあ、神々の設定ってTRPGのシナリオを考えたり、敵味方のNPCを設定するのには役立っても、小説の登場人物を考えるのには役立ちませんね。神々の物語自体はラノベのネタに使われたりもするようですが」
ヒノキ「というか、日本神話の神々は、洋物に比べて割とゆるキャラっぽいよな。自分で言うのも何じゃが」
NOVA「まあ、神さまについて真面目に考えすぎると、ラノベのネタとしては扱いにくいので、ある程度はテンプレで済ますのも仕方ないのかも。詳細な神話体系を設定したとしても、物語が面白くなるとも限らないし、冒険仲間に複数の神の使徒が混在すると、宗教論争でややこしくなるのは、ルーンクエストやクリスタニアのリプレイで証明されていますし」
晶華「つまり、魔法体系については、物語のネタとして面白くなるけど、信仰体系についてはややこしさの割に面白くならないってこと?」
NOVA「だったら、ゲームの世界で、神さまの違いって、どう表現する?」
晶華「そりゃあ、戒律の違いとか、習得できる信仰呪文の違いとかでしょ?」
NOVA「戒律の違いは、ロールプレイの縛りになるので、キャラ立てには便利な反面、どうしても杓子定規なキャラになりやすい傾向がある。まあ、それを逆手にとって、破戒僧的なキャラを作ることは可能だが、無難に行くなら、信仰形態を異種族の文化の違いと被せることだよな。
「ゴブスレの蜥蜴僧侶の竜信仰とかは、異種族の信仰だし、他者をどうこうする教えではなくて自らを鍛える内向的な教義なので、女神官の地母神信仰とはぶつからずに共存できている。異なる文化について穏便に話しながら、その世界の信仰について腹を割って語り合うシーン演出ができれば、面白い世界観演出ができるだろうが、ラノベでそこまで設定するのも、最初に世界設定ありきのRPG小説ならともかく、世界が物語のための後付けになりがちな作品では、労多くして実らずってことになると思う」
ヒノキ「新兄さん、話をややこしい方向に広げすぎではないか? そもそも、魔法体系も信仰体系も、作品によって違うのじゃろうし、ここはシンプルにD&Dのサブクラスに見る魔法観、信仰観という形で、話の土台を構築しておくべきじゃと提案する」
NOVA「ああ、そうだな。悪い、話を拡散しすぎたみたいだから、俺は黙って見ているだけにしておくよ。D&Dのサブクラスを土台にするのが、本来の目的でもあったよな。それで、しばらく研鑽を続けてくれ。俺は冬休みが明けたときに、翔花たちを迎えに来る」
晶華「ちょっと。空想タイムの正月あいさつはどうするの?」
NOVA「俺が009たちとやっておくから、安心してくれ」
晶華「仕方ないわね。NOVAちゃんに管理人代行の任を委ねるわ」
NOVA「ハハ、代行ね。では、ヒノキ姐さん、娘たちをよろしく」
ヒノキ「おお、良い年越しをな」
(当記事 完)



