ようやくシステム話
リモートNOVA『では、N◎VA誕生までのRPG界の90年代背景事情をいろいろ話して来ましたが、ようやくシステムの話に移ります』
ヒノキ「まずは判定方法が変わっておるな。TRPGのほぼ9割以上が、ダイスを使うのに対して、トーキョーN◎VAはトランプと専用タロットカードを使い、ダイスは一切使わない」
NOVA『マイナーな作品だと、ジャンケンとか、コイントスとか、本をパラパラめくったページの数字を使った判定システムもあるわけですが、30年以上も続いたメジャーどころの作品で、ダイスを一切使わないTRPGシステムは唯一無二ですね。で、このカードの手札を管理するシステムのために、N◎VAのソロプレイはしにくいわけですよ。他のTRPGだと、「試しにキャラを作ってみる→試しにテキトーなザコモンスターと戦ってみたりする→システムの扱いやすさを確認する」という作業ができますが、N◎VAではそれがしにくい』
ヒノキ「判定システムは、基本的に手札4枚の中から、スキルに対応したスート(スペード、クラブ、ハート、ダイヤ)を上手く出せれば成功というものじゃな」
NOVA『スペードが理性、クラブが感情、ハートが生命、ダイヤが外界の能力に対応していて、例えば〈白兵〉の技能はハートに基本的に対応しています。他にも〈運動〉〈操縦〉など自分の体を動かす技は、ハートですね。そして、技能のレベルが上がれば、使えるスートが増やせます』
ヒノキ「スペードの理性で剣を扱ったり、クラブの感情や、ダイヤの外界で戦うことも可能、と」
NOVA『多くのスキル制RPGは、一つの技能は一つの能力値に対応していますが、技能と能力値をプレイヤーの演出で自在に絡めるシステムも、N◎VAが早かったと思いますね。例えば、理性(スペード)で相手を攻撃というのは、「相手の動きを観察してから、隙を突いた攻撃を仕掛ける」という演出ができます。クラブの感情だと「気合いを込めた一撃で相手を圧倒する」とか、ダイヤの外界だと「相手の足元が砂地であるのを利用して、足で砂を蹴って目潰しした上で斬る」とか、単にハートで肉体を駆使した攻撃とは違う演出で戦うことも可能だ、と』
ヒノキ「自分の得意な能力に合わせた戦闘演出を、自由なスートの組み合わせで表現できる、と」
NOVA『トランプで判定ってことは、手札が良ければ活躍もしやすいですし、手札と自分の技能のスートが噛み合わなければ、わざと行動を失敗して手札を調整するというプレイテクニックもあるわけですね。ダイスゲームだと、その場その時の出目が大事ってことですが、カードゲームだと手札の回り方が重要になります。もちろん、技能が高ければ、どのような手札でも安定して力量を発揮できるわけですね。〈白兵〉3レベルだと、ダイヤ以外の3スートなら何でも扱えるとか』
ヒノキ「例えば、〈製作:ブログ記事〉という技能があるとして、1レベルだと?」
NOVA『〈製作〉あるいは〈芸術〉かも知れませんが、ものづくり系の基本能力はクラブ(感情)なんですね。だから、1レベルだと気分が乗ると書ける、気分が乗らないと書けないって感じでムラがある。これじゃあ、アマチュアだ。2レベルになって別のスートが加わると、理論上は書けるタイミングが4分の1から2分の1ぐらいにはなる。理性で冷静に書くこともできるし、生命で体を動かす(散歩などをする)うちに書ける状態を構築したり、外界でコーヒーを飲んだりネット情報からアイデアを得たり、いろいろな執筆スタイルを演出できるわけですよ。この技能をどの能力値に対応させるかで、プレイヤーが自由に演出できる手法も、N◎VAに限らず、90年代のTRPGが確立した手法の一つと考えます』
ヒノキ「ルールで縛りを大きくするゲームもあれば、プレイヤーの自由度が非常に高い演出重視のシステムもある。N◎VAは後者寄りということじゃな」
NOVA『一応、第2版では2つのルールを提示してあるんです。最低限の演出中心のクルード(雑な簡易版)と、数値を重視したテクニカル(従来のシステマチックなルール)。このクルードとテクニカルを、上手く混ぜることでクルテクという遊び方も提示されたんですが、これによってN◎VAは当初からユーザー任せになることが多い、曖昧なゲームと見られたりもしました。プレイヤーに遊ぶ材料は与えるけど、それをどう運用するかはお任せします……的な中途半端な実験作でしたね、今の目から見ると』
ヒノキ「初心者お断りの上級者向きゲームということじゃな」
NOVA『個人的な感想ですが、2版はアイデアの宝庫なんですが、ルールブックの書き方も含めて洗練されていなくて、どう扱えばいいのか分かりにくかった。それが3版のREVOLUTION(通称TNR)になって、ようやく普通にプレイしやすい代物になって、あとは4版のTNDでキャラ作成も行いやすく、シーン制などのゲーム運営ノウハウも完全に確立。そして5版のTNXになると、サンプルキャラクターによるクイックスタートなど他のゲームからのフィードバックを受けて、初心者プレイヤーが事前準備も最低限に、マニア色の濃い同ゲームにいきなり飛び込むことが可能になった、と』
ヒノキ「N◎VAは作れるキャラの種類が豊富じゃが、それゆえにキャラ作りに手間が掛かるのじゃな」
NOVA『テキトーにダイスを振っていればキャラが完成して、後はプレイヤー好みに微調整というのが俺の好きなRPGキャラメイクですが、90年代にもなると、自分のプレイしたいキャライメージに合わせて、データをいろいろ選んでいく「極力ランダム性を廃したキャラメイク」が主流になります。でも、最初から選べるデータが多いと、マニアは喜ぶ反面、初心者が困る。とりわけ、N◎VAは当初から22種類のスタイルを3つ組み合わせることで、理論上、2000以上のキャラタイプを作れると豪語していましたから、選択肢が多すぎるんですね』
ヒノキ「22種類から1つだけでも厳しいのう」
NOVA『とりあえず、魔法の使える戦士というイメージでもあれば、カタナ◎、バサラ●を選んで、そこに探偵という要素を付けたければ、フェイトかな、とか、分かっていれば選べる組み合わせがあるんですが』
ヒノキ「すると、仮面ライダーガヴはN◎VAで表現できるか?」
NOVA『ライダーだから、カゼは必須。モンスター系は基本ルールではないので、サプリメントからアヤカシというスタイルを引っ張ってきて、あと一つで悩みますな。何らかの戦闘系技能を引っ張ってくればいいと思うけど、ライダーの場合、フォームチェンジで戦闘スタイルが変わるから大変。まだブンレッドの方が分かりやすくて、届け屋としてのカゼ、金持ち企業主としてのエグゼク、そして物作り技師としてのタタラを持っていそう』
ヒノキ「つまり、作りたいキャライメージを示して、ルールに詳しいルーラーにお勧めをアドバイスしてもらえば、初心者も問題なくプレイできるのじゃな」
NOVA『たぶん、そういうコミュニケーションが取れるなら、ゲームシステムを通じた会話で盛り上がることも可能でしょうな。新番組が始まると、「このキャラを既存のTRPGシステムで表現するにはどうするか?」という談義も、ゲーマー間での雑談遊びでは定番だったと思いますし』
スタイルの組み合わせによるキャラ作成
NOVA『ともあれ、トランプによる判定システムが斬新なら、3つのスタイルの組み合わせによるキャラ表現もN◎VAの特徴でした。ただ、後者は後に多くのFEARゲーム(とりわけアルシャードなどのSRS)が採用しましたので、現在はN◎VAだけの特徴とは言えなくなりましたが』
ヒノキ「キャラの兼職だと、89年のソード・ワールドが当時は斬新と言われていたのう*1」
NOVA『TRPGのキャラ表現だと、当初はD&Dの職業クラス制が伝統で、そこから転職や複数職の特徴を合わせ持つ上級職という概念が出て来ました。そこに、職業に囚われないスキル(技能)制が誕生し、細分化された技能によって単純なクラス制以上に詳細なキャラ描写ができるようになったわけですな』
ヒノキ「クラス制はシンプルで初心者向き、スキル制は奥が深いけどルールが複雑化する上級者向きと言われていたのう」
NOVA『で、ファイナルファンタジー1はクラス制に基づくジョブシステム、ファイナルファンタジー2は武器や魔法の熟練度を個別に上げるスキル制に基づいたシステムで、後にFF5が各ジョブに結び付けられたスキル的なアビリティを習得していく、クラス制とスキル制の融合を示して行ったわけですが、それが92年になります』
ヒノキ「TRPGでは、クラス制とスキル制の統合および兼職システムは、ソード・ワールドが初ということになるかのう」
NOVA『D&DやT&Tでも魔法戦士は存在しましたが、それはあくまで魔法戦士という職業クラスであって、戦士が後から少し魔法をたしなんで……とか魔法使いが護身用に剣術を学ぶというようなスキル制みたいな兼職システムは、日本ではソード・ワールドが初だと考えます。他には、職業(クラス)と種族(レイス)の組み合わせは、当初からのファンタジーRPGの定番ですが、日本ではクラシックD&Dが簡略化のためにレイスをクラスと統合していたため、80年代ではエルフの盗賊やドワーフの神官というだけで、クラシックD&Dよりも先進的なシステムと思えたものです』
ヒノキ「クラシックD&Dでは、ドワーフは戦士+αじゃし、エルフは魔法戦士しかできんかったからのう」
NOVA『クラシックD&Dは、元々のオリジナルD&Dや、上級バージョンのアドバンストD&Dに比べても、非常に簡略化されたゲームシステムでしたからね。80年代半ばのTRPG初心段階の日本では、それが標準扱いでしたが*2、コンピューターRPGのウィザードリィや、T&Tの方がヴァリエーション豊かなキャラクターを作れるという』
ヒノキ「日本に紹介されたD&Dが、赤青緑黒の独自の昇級システムを持ったクラシック版(4版)ではなく、AD&Dにつながるベーシック2版だったなら、もっと早くAD&Dにバトンタッチされたかもしれんが、当時の日本のD&D展開は本国よりも2年から4年ほど遅れて、その間に周辺環境がD&Dを古いシステムとして切り捨てる流れだったのが90年代、と」
NOVA『それを再展開させようとしたのが、メディアワークスの文庫版D&Dだったんですけどね。その段階では、スキル制を採用して、ガゼッタ(ミスタラ)世界を踏まえたバージョンアップを試みたわけですが、90年代に入ると日本のTRPGの方が独自の進化を始めていたわけです』
ヒノキ「ソード・ワールドが経験点消費による職業技能を自由に購入して、分かりやすいマルチクラスのシステムを採用。ここから、クラスとスキルの組み合わせによるキャラクター表現のヴァリエーション化がもたらされる、と」
NOVA『クラスシステムだと、職業数が6個だと物足りなく、基本ルールで10個ぐらいは当たり前。そして、ゲームを個性づけするための手法として、ダイスの振り方などの判定ルールの他に、データ面をあれこれ考えて、他と違ってこんな職業のキャラがプレイできるというだけでも、当時は立派なウリになったりしますので、ネタ的な変な職業が登場するわけです』
ヒノキ「メガテンRPGにおける『オタク』*3とか、パワープレイにおける筋肉で魔法を使う『錬筋術師』*4とかか」
NOVA『職業ヴァリエーションだと、ドラクエにおける遊び人とか商人、踊り子・占い師の姉妹とか、FFにおける忍者とかバーサーカーとか、実はそれがプレイできるTRPGって当時の国内TRPGにはなかったですからね。そういうのは、海外TRPGに原型があったのを日本独自にアレンジしたわけです』
ヒノキ「忍者はなかったのか?」
NOVA『俺の知るかぎり、88年のウィザードリィRPGが最初ですね。もちろん、未訳のAD&Dオリエンタル・サプリなどは噂されていましたし、ゲームブックでも忍者は登場していましたが、日本のTRPGのルールよりも先に、忍者といえばウィザードリィが有名です。
『例えば、91年に出版されたTRPGの職業本の「キャラクター・コレクション」には、侍や忍者の項目もあるのですが、いずれの解説でも「残念ながら、日本で翻訳紹介されているのは、ウィザードリィRPGとゲームブックのみ」となってます』
NOVA『ウィザードリィを除けば、1991年に出たAD&Dの数少ない邦訳サプリ「ファイターハンドブック」に、サムライのキット(土台となる基本職に、データや背景情報を付与するAD&D2版の職業ヴァリエーション)が載っていて、邦訳TRPGではこれが最初のサムライじゃないかなあ、と考えます。残念ながら、D&Dで忍者が邦訳されるのは21世紀の3版になってからですね。あとは、やはりTORGのニッポンテックが初の邦訳ニンジャかもしれない』
ヒノキ「しかし、トーキョーN◎VAでは、ニンジャにもなれると?」
NOVA『スタイルに、カゲというのがありますね。では、ここで22種類のスタイルを分野別に紹介してみましょう』
- 戦士系:カブト(防御の達人)、カタナ(白兵攻撃の達人)、チャクラ(武闘家)、カブトワリ(遠隔射撃の達人)
- 魔法使い系:バサラ(元力と呼ばれる元素魔法の使い手。物理的な魔法を操る)、マヤカシ(幻術師。アストラルの異世界を幻視したり、肉体から離れて憑依することも可能)
- 上流社交系:ミストレス(姐御肌の女性リーダー)、カリスマ(演説で人心操作できる政治家や宗教家)、クロマク(社会を影から操る政治家や大立者)、エグゼク(経済界の支配階級、企業主)
- 技術者系:タタラ(職人、研究者)、カゼ(バイク乗り)、トーキー(マスコミ関係者、情報系の映像製作者)、ニューロ(ネット活動の達人、ハッカー)
- 犯罪捜査系:フェイト(探偵)、イヌ(警察官)
- 闇の工作員/裏稼業系:クグツ(企業の工作員。表の顔を持つ)、カゲ(忍びの者)、レッガー(犯罪結社の一員。アウトロー)
- 芸能系/自由人:カブキ(強運を武器にしたアーティスト、ギャンブラー)、マネキン(誰かに愛される庇護者、アイドル)、ハイランダー(天上界=スペースコロニーの住人が地上に降臨して来た堕天使。記憶喪失ながら無垢ゆえの奇跡を発動できる)
NOVA『大体、こんな感じのスタイルを組み合わせて、キャラを作るわけですな。表の顔をペルソナ(◎)、内に秘めた裏の顔であり本質をキー(●)と表記するなど、いろいろと細かいルールはありますが、これにサプリメントの追加スタイルでヒルコ(ミュータント)、アラシ(武装を積んだ大型メカのパイロット)、アヤカシ(魔物)などが加わります。
『俺が持っていないTNXのサプリでは、さらに増えて全部で31種類になっているみたいですが、クロガネ(器物や機械に宿った人工人格)、イブキ(消防士や救命士などレスキュー活動の専門家)、シキガミ(式神使い。従者的な存在に活動させる)、エトランゼ(宇宙人や未来人、異世界人など現世にふつうはいない存在)などがいるようですね』
ヒノキ「すると、ケミーやゴチゾウなどはシキガミで対応できるし、ガヴの異世界人要素もエトランゼで対応できそうじゃな」
NOVA『だったら、ガヴはシキガミ◎、エトランゼ●、カゼかな。まあ、今のライダーはバイクがメインではなくなっているので、カゼにこだわらなくてもいいかもしれませんが』
ヒノキ「ガッチャードだと、シキガミ◎、タタラ●、バサラっぽいのう」
NOVA『最近のライダーはフォームチェンジがあるから、戦闘スタイルが定まりにくいんですね。昭和の1号(本郷猛)は、カゼ◎、チャクラ●、タタラでしょうし、2号(一文字隼人)は似ているけど、タタラの部分がトーキーに置き換わって、トーキー◎、チャクラ●、カゼと言ったところかな』
ヒノキ「本郷はバイク乗り(レーサー)が表の顔じゃが、一文字は取材記者(カメラマン)が表の顔という違いか」
NOVA『トーキョーN◎VAが元々90年代のゲームなので、平成ライダーはまだ世の中に存在しなかったわけですよ。だから、昭和ライダーが再現できたら十分と考えます。それに特撮ヒーローものを真剣にやりたいなら、むしろ、同じFEARゲーでも、こっちをやれって話になりますし』
N◎VAの系譜ゲームあれこれ
ヒノキ「それは2017年に誕生したニチアサおよび特撮ヒーロー再現ゲームじゃな」
NOVA『面白いのが、戦隊ヒーローを再現するのに、プレイヤーが演じるのはメンバーの一人(基本はリーダーのレッド)で、他のメンバーはNPCとかスキル演出での登場なんですね。だから、3人のプレイヤーだと、プリキュア的な魔法少女と、仮面ライダー的なベルトヒーロー(昭和ライダー的な改造人間も可)と、戦隊レッドと愉快な仲間たちという設定でプレイできるのが基本ルール。その後、サプリメントでウルトラマンや戦隊ロボみたいな巨大戦もプレイできるようなデータがどんどん増えています』
NOVA『3年前のサプリで展開終了したかな、と思いましたが、最近、電子書籍のみで新サプリも出たそうで』
NOVA『システム的な系譜としては、トーキョーN◎VA→アルシャード→マージナルヒーローズと受け継がれた要素も多いですね。世界観や細かいデータなんかは大きく違いますが』
ヒノキ「N◎VAの世界観は、災厄後の過酷な世界観でハードボイルドな都市冒険を展開する話で、アルシャードは21世紀のスタンダードなファンタジーRPGから、現代日本もののガイア→セイヴァーで多元世界要素を投入し、その一つがマージナルヒーローズのヒーロー世界と」
NOVA『世界観が違えば、ゲームの雰囲気もずいぶんと違って来ますからね。もちろん、N◎VAのシステムで、ライダーをプレイできるかもしれませんが、イメージしやすいのはWみたいな探偵ものとかアダルトな雰囲気で、フォーゼやガッチャードみたいな学生ヒーローとかは難しいと思います。あとは都市での陰謀を解決する話がメインなので、N◎VAの外の荒野を探検するゲームではないですし、仮面ライダー響鬼の世界観も無理かな』
ヒノキ「定期的に出現する巨大妖怪を討伐する鬼チームと、それに関わった一般人学生の物語か。そういう要素は、N◎VAでは再現しにくいと」
NOVA『無理にN◎VAっぽくしようと思えば、企業がバイオテクノロジーで生み出した化け物(ヒルコ)が逃げ出して、都市のどこかに潜伏している。事件が大きくなる前に、化け物の潜伏場所を見つけ出して、治安を守れってことですね。キャストは、警官(イヌ)と、ヒルコの開発者のライバルだった科学者(タタラ)と、ヒルコの声が聞こえる退魔術師(バサラ)と、事件を取材したいマスコミ関係者(トーキー)ぐらいを指定して、悲劇のヒルコをどう始末するかでドラマを盛り上げる(化け物を退治するか、それとも改造実験体を元のおとなしい生物もしくは人間に戻してやるか、などなど)』
ヒノキ「みんなでチームを組んで、モンスター退治と洒落込むぜ、ヒャッハー的な話は、N◎VAらしくない、と」
NOVA『荒野のモンスターハンター的な話だと、システムが対応できなくなると思う。何せ、〈コネ〉か〈社会〉で情報収集したり、便宜を取り計らってもらうシステムなので、荒野を旅したり、地下の洞窟探検をしたり、サバイバル生活を行う系の技能をキャラが持っていないという。言わば、シティ・アドベンチャー特化型のシステムですからね、トーキョーN◎VAは』
ヒノキ「同じシステムを、別の世界観に合わせればいいものを」
NOVA『その考えで、ファンタジーRPGを作ったのが、これです』
NOVA『厳密には、ダイスを使うので、N◎VAシステムそのままではないのですが、同様にタロットカードに基づく22のアルカナクラスの組み合わせでキャラ作りするなど、ファンタジー版N◎VAと言えますな。初版が1999年で、俺は2001年に出た2版まで追いかけました。リプレイだけなら、2006年の3版も買いましたが、2015年の4版は手つかず。最新は昨年末に出た5版ですな』
ヒノキ「版上げの周期が、最初は数年単位で、現在は10年に1度という感じの長期化になっている、と」
NOVA『一方、N◎VAシステムの最新版は、2013年の5版TNXですが、それとは別に2018年に同工異曲のトーキョーナイトメアが出てます』
ヒノキ「N◎VAとは、どう違うんじゃ?」
NOVA『システムはほぼ同じですが、世界観が大きく違います。トーキョーN◎VAの世界観は、災厄(ハザード)によって、世界が大きく変わっています。ぶっちゃけ、世紀末思想によって世界の姿が我々の常識と違うんです。N◎VAの時代をニューロエイジというのですが、地球の地軸がポールシフトによって東西南北が縦横入れ替わって、こんな世界地図になっています』
ヒノキ「日本が赤道直下で、左にオーストラリアで、ヨーロッパやアフリカが北にあるんじゃな。初めて見る者には驚きの地図じゃ」
NOVA『南極大陸がミトラスと呼ばれるようになり、世界は氷河期で、赤道付近が一番、気温が温和で安定していることから、世界の文明地図が大きく書き換わったわけですな。ぶっちゃけ、欧米諸国の権威が激減し、旧ヨーロッパの勢力は、大西洋を越えて、アメリカと戦争してヴィル・ヌーヴを成立させたり、オーストラリアに希望を見出したりします。東アジアや東南アジアは発展の未来がありますが、ユーラシア西部やアフリカは氷河の下に覆われ、人々はドーム型都市や地下都市でかろうじて生き長らえていたり、農業ができないので餓死したり』
ヒノキ「で、日本が発展している、と」
トーキョーN◎VAの世界観の話
NOVA『90年代前半で、まだ日本の国際的地位が高い頃に生まれた世界観なので、日本企業の影響力が非常に大きいんですね。しかも、この世界の日本は、人工の合成食の大量生産に成功し、大規模な気候変動によって農業が崩壊した世界の中で、最大の加工食品輸出国になっているんです。つまり、日本が世界の食糧庫になっているという現実からはあり得ない未来像』
ヒノキ「ニューロエイジでは、天然の食材が非常にレアな高級品なんじゃな」
NOVA『ええ。ですから、世界の一般人は日本産の人工食品を売ってもらわないと餓死するしかないという国際情勢。しかも、日本はこういう状態で鎖国を宣言して、アメリカも南米やヨーロッパとの戦争で黙認するしかなかったという背景事情。よって、トーキョーN◎VAの世界観で一番謎なのが、日本の実情なんですよ』
ヒノキ「トーキョーN◎VAは日本じゃないのか!?」
NOVA『俺もこの辺は当初、誤解していたんですが、そもそもトーキョーN◎VAは、現在の東京とは違います。東京湾に人工的に構築された東京をモデルにした架空都市です。よって、新宿とか浅草とかコピー的な地名はありますが、最大の違いは皇居がないことと、政治システムも全然違います。N◎VAの行政運営は、ゲーム誕生の5年ほどは大企業による会議とヤクザの暗闘で仕切られていたのが、第3版時期の日本軍の介入によって、司政官をトップにした法治官僚制に置き換わって25年ってところでしょうか。完全な自由と無法のN◎VAだったのが、強固な統治制度を持った、だけど変わらず陰謀と暗闘の渦巻く「鎖国日本の出島的な国際都市」として、物語世界の中心になっているわけですな』
ヒノキ「しかし、東京をモデルにした舞台じゃと、おぬしら関西人や我ら九州在住の者は感情移入しにくいのう」
NOVA『メガテンもそうですが、東京戒厳令とか言われても、関西在住民にはあまりピンと来なかったんですね。インターネットができるまでは、自分の地元以外は別世界という認識ですから。TVのニュース以外は、噂で聞く程度で、社会人になって初めて東京に行ったときは、人の多さに驚きましたね。大阪や神戸も結構な大都市だと思っていましたが、東京の人混みは全然違うと実感しました。それはともかく、メガテンで初めて、架空の東京の地図を冒険しましたが、吉祥寺とか言われても、場所がピンと来ませんね。まあ、東京人が梅田と京橋と難波と堺の地理感覚が分かりにくいのと同じようなものだと思いますが』
ヒノキ「どう違うのじゃ? わらわも九州だから分からん」
NOVA『まずは、観光ガイドとか、地図を見ながら、位置感覚をつかむことですな。しかし、90年代の俺は東京の地名よりも、ヨーロッパの地名やロードス島の地名の方が勉強や趣味的に馴染みがあったわけで、で、トーキョーN◎VAのサプリメントで、オーサカM⚪︎⚫︎Nが出たときにワクワクしたんですよ。これで、自分の知ってる世界観でプレイできるって』
ヒノキ「結果はどうじゃった?」
NOVA『N◎VAが現実の東京と大きく違うように、M⚪︎⚫︎Nも現実の大阪をモデルにしながら、ずいぶんと異なる形にアレンジされていることに初めて気がつきました。これによって、N◎VAが現実の東京をどれほどアレンジしていたか、ようやく理解できたという。ともあれ、M⚪︎⚫︎Nは、干上がった瀬戸内海の上に作られた人工都市なので、大阪をモデルにしつつ、いろいろとツッコミネタがあるわけですね。大阪城公園と京橋の位置関係のズレとか、宝塚をモデルにした劇場が東にあるのは変とか(宝塚市は兵庫県で、大阪より西に位置する)、地元民には分かる違和感がいろいろで、おそらくN◎VAをプレイしている関東人も同じような違和感(N◎VAの持つ近未来の異世界イメージ)をダイレクトに感じていたんだろうなあ、と思った次第です』
ヒノキ「似て非なる世界観ということじゃな」
NOVA『この辺が、トーキョーN◎VAシリーズ第3の都市サプリメントのカムイST⭐︎Rまで来ると、現実の北海道とは全然違うことは丸分かりなんですが、ニューロエイジの現実の世界を踏まえつつ、その改変された未来像が結構、面白いなあ、と思いましたね。近未来サイバーパンク物は、現実世界から改変された世界観がそれぞれ特徴的なんですが、世界地図のレベルでここまで改変された世界像というのもN◎VAシリーズの特徴ですな。
『昔、ガンダムの宇宙世紀の世界地図を初めて見たときに、オーストラリアの東沿岸がコロニー落としによって穴が空いているのを初めて知ったときは、結構おおって衝撃が走りましたし、天変地異とか大きな事件によって地図が書き換わるというのは、リアルだと不謹慎ですが、フィクションだと結構ワクワクします。災厄前の地図と、災厄後の地図を見ながら、世界がどのように変わったか、という奴ですね。国境線が変わったり、国の栄枯盛衰の歴史物語もそうですが、地形そのものが変わるのは想像力を掻き立てます』
ヒノキ「大災厄で滅亡した後の世界というと、荒野か、森林か、放射能汚染された廃墟が思いつくが、新兄さんは?」
NOVA『それって、地図で見た地形は変わってないじゃないですか? 俺が最も衝撃を感じるのは、海岸線ですね。津波で半島が切れて島になったり、「未来少年コナン」の最終回で、「ちっぽけな残され島(主人公コナンの出身地)が、地殻変動によって隆起して残され大陸に変わった」という衝撃が忘れられません。それまでも、それ以降も、津波によって故郷が水に沈む悲劇は多く見られましたが、沈むのではなくて隆起することによるハッピーエンドは、コナンが俺には初で、その後はFF3とかドラクエ7で、海の中から大陸浮上とか復活した世界観ってのが好きですな』
ヒノキ「トーキョーN◎VAの改変された世界地図は、新兄さんの想像力を掻き立てるという話じゃが、あまりに大きく変わると、もはや現実との乖離が大きすぎて、近未来感覚が薄れるという意見もある」
NOVA『だから、トーキョー・ナイトメアは災厄が起こらなかった、もう一つの世界観(西暦2020年代、黄昏の時代ダスクエイジ)を舞台にしているわけですな。その公式リプレイがこちら』
ヒノキ「N◎VAの世界観が30年を経て、あまりにも現実世界の歴史と大きく離れてしまったため、現実の東京を土台にした新たな近未来アクションRPGの世界観として、N◎VAシステムを流用した作品に思える」
NOVA『世界観という意味では、独自の歴史やグローバルな世界観を突き詰めたところのあるN◎VAを、もう少しリアルな現実寄りに、初心者が取っつきやすく、コンパクトに仕切り直した感じがあります。シナリオ集とかを見てみると、刑事ものの「トーキョー捜査網」、異世界からの侵略をテーマにした「魔人たちの黄昏」、等身大ロボット物をテーマにした「鋼鉄の心臓」、宇宙人との交流をテーマにした「奇妙な隣人」なんかが、元のN◎VAの悪徳企業にまつわるハードボイルドとは違うイメージで面白そうかな、と』
ヒノキ「トーキョーN◎VAは、学生ヒーローが事件に巻き込まれて……という物語は作りにくかったが、トーキョーナイトメアはそういうノリも許容できそうじゃのう」
NOVA『N◎VAに比べると、サイバー要素をだいぶ削って、地に足ついた作品になったと思いますが、世界観の違いを理解したうえで、システム話に戻ります』
神業について
NOVA『さて、N◎VAのシステムの特徴が「トランプとタロットによる判定法」「3つのスタイルの組み合わせによるキャラメイク」と述べて来ましたが、3つめが第2版(クルード)より実装された「派手な必殺技的な効果を持つ神業」です』
ヒノキ「各スタイルにつき1つ。合計3つの神業を持っているわけじゃな」
NOVA『この神業は、後に「ブレイブ・オブ・アルカナ」の奇跡や、「アルシャード」の加護などに採用されて、派手なゲーム展開を示してくれます』
ヒノキ「カタナの神業《死の舞踏(ダンス・マカブル)》はキャラ1体を確実に殺す、という凄まじい効果じゃのう」
NOVA『それを防ぐのは、別の神業によってのみ可能ということで、カブトの神業《難攻不落(インヴァルネラブル)》で全てのダメージを防ぎ止めるとか、チャクラの神業《黄泉還り(フェニックス)》で死んでも生き返るとか、カゼの特技《脱出(エクソダス)》で絶対回避するとか、神業の撃ち合いがクライマックスを盛り上げるわけで』
ヒノキ「アルシャードの加護もそうじゃが、丁寧に構築したキャラが神業の一撃であっさり殺されると、クソゲーと言いたくなる者もいよう」
NOVA『これはキャラ作成時に、相手を倒す系の神業と、防御系の神業を誰が習得するか、パーティーでしっかり話し合って、バランス良い組み合わせを考えないといけませんね。とりあえず、慣れていないメンバーだと、誰がどういう能力を持っているか、自己紹介のときにできることを申告するのは基本だと思いますし、パーティーのバランスを考えないと崩壊するのは、初歩的なファンタジーRPGでも前衛のいないパーティーとか、回復役のいないパーティーが愚かなのと同じで、個人的に好きなのは、マヤカシの《守護神》とチャクラの《黄泉還り》の組み合わせなんですよ』
ヒノキ「それは、どういう内容じゃ?」
NOVA『《守護神》は、自分へのダメージを完全無効化する他、自己犠牲によって自分とその周辺に対するダメージを全て打ち消す効果を持ちます。例えば、仲間ごと巻き込む爆発を《守護神》で打ち消して、自分が死ぬという格好いい使い方ができるんですね』
ヒノキ「ああ、自分が死んで仲間を守る。その後、《黄泉還り》で自分も生き返るというコンボか」
NOVA『で、そんな格好いい技が使えなくても、《守護神》と《黄泉還り》があれば、2回は不死身キャラにもなれる。あとは、何か攻撃手段か、情報収集手段を考えてもいいですし、今の俺(ブログの作者)になぞらえるなら、ハイランダーの《天罰》が使えるといいかなあ』
ヒノキ「なるほど。神業から、自キャラの構成を考えるのもありか」
NOVA『ブンブンジャーを見ていると、エグゼクの《買収》(他のプレイヤーキャラやGMの操る敵対ゲスト以外の何でも買える神業)がいいなあ、と思いますね。D&Dとかオールドスクール系のゲームだと、いきなり最初から金持ちとか、超絶能力を持った神さまとか、プレイすることはできなかったけど、N◎VA以降はそんなキャラも自由に作れるようになった気がします』
ヒノキ「基本的にTRPGはレベル1からコツコツとキャラを育てていくような作品が多かったからのう」
NOVA『N◎VAも技能や能力値など、経験点で育てていく要素もありますが、最初から神業を3つ使えることで(しかも神業の使用回数は成長によっても増やせない)、ここぞという場面では、最初から最強技を使うことができるというヒーローとしての強みが演出できるわけですな』
ヒノキ「悪徳と陰謀の街トーキョーN◎VAで、いかに自分らしいヒーロー像のスタイルを示して、格好良さを追求するかが本作のポイントだ、と」
NOVA『次に、関西人としては、オーサカM⚪︎⚫︎Nの世界観を概説したいと思います。N◎VAの世界観は、いろいろなサイトで紹介されていますが、オーサカM⚪︎⚫︎Nについて、詳しく解説してあるサイトって少ないので、「関西人の目から見たオーサカM⚪︎⚫︎N」ってネタはブログ記事としても独自性があると思う』
(当記事 完)
*1:約10年後の2000年ごろに、本家のD&D3版が同様の兼職システムを採用したりするぐらい、21世紀の定番になったわけで。
*2:何せ80年代半ばは、ファンタジーの標準種族であるエルフやドワーフ、ゴブリンやオーク、トロールですら、一般的には知られていないマニアックな存在でしたから。NOVA自身、初エルフがディードリットであり、初ドワーフがギムという時期。ロードス以前は、妖精と言えば、ダンバインのミ・フェラリオで、精霊と言えば透明ドリちゃんの着ぐるみとか人形だった世代です。ロードス→D&D→ドラゴンランスで、ファンタジー異種族の知識が、86年から87年に急速に学習した次第。
*3:趣味で、一部の武道系技能やコンピューター系技能を習得できる万能職。もちろん専門家には及ばないけれど、いろいろなことを齧っているので、専門家のフォローぐらいはできる。覚醒篇以降は、覚醒によるマルチクラス取得がシステムの前提になったので、消滅した。やはり破滅後の世界では、お遊び的な趣味人の出る幕はないということか。オタクも何らかの専門芸を持たないと生き残れない。
*4:錬筋術はネタ的な変な魔法がいっぱい。汗で相手の攻撃を滑らせてダメージを半減する「スリップ・ボディ」や、暖かい筋肉で冷気を防ぐ「ホット・ボディ」や、筋肉を冷やす「クール・ボディ」や、筋肉美で相手を魅了する「マッスル・ポージング」や、抵抗に失敗した全てを破壊する「マッスル・ハッグ」など。もちろん、筋力の上昇効果や、鎧みたいに装甲値を高める術もあるけど、ネタにするには普通すぎて笑えないか。