聖闘士星矢のファンタジー観
リモートNOVA『さて、前回はD&Dのルールブック資料にあるギリシャ神話要素を聖闘士星矢の物語と比べながら、話を終わらせたわけですが、今回は星矢の各設定要素が日本のTRPGに与えた影響を考えていきたいと思います』
ヒノキ「星矢がTRPGから受けた影響は?」
NOVA『初期段階ではあまりなさそうですね。元々、リンかけのギリシャ要素と、小次郎の聖剣戦争要素に基づきながら、D&Dのファンタジーとは異なる系譜で誕生した世界観ですので、D&Dからの影響は微小です。アニメの方だと、「燃えろアーサー」「ムーの白鯨」「幻魔大戦」「六神合体ゴッドマーズ」「聖戦士ダンバイン」との関連づけで語ることも可能ですが、原作マンガではとにかく有名なギリシャ神話と星座のエピソード群を少年バトルアクションの土台として、うまく落とし込んだ目の付けどころが賞賛に値します』
ヒノキ「ギリシャ神話といえば、『マジンガーZ』『仮面ライダーX』がモチーフに使っておったが、70年代の時点ではあくまで背景モチーフの一つでしかなかった、と」
NOVA『その時点での流行は、科学に基づくメカが主人公側で、神話などのオカルト要素は敵側のモチーフだったんですね。その系譜で、リンかけでもギリシャは敵だったわけですが、ギリシャ神話の便利なところは、神と英雄に加えて、モンスターの宝庫でもある。神が人間を呪いでモンスターに変えたり(メデューサ)、英雄の師匠が亜人的なモンスターだったり(ケンタウロス)、人と神、魔物の距離が非常に近く、変身という概念とも結びつく。ギリシャ神話は元ネタの宝庫だったわけですが、そこを前面に押し出したのが星矢の「コロンブスの卵」的な発想なわけです』
ヒノキ「70年代のメカロボブームは、後半から宇宙ブームに発展して80年代に受け継がれるが、その要素も星矢は受け継ぐわけじゃな」
NOVA『神話と宇宙を星というキーワードでつなぐ。この物語的再発見は、星矢の功績の一つです。宇宙というと未来の科学というイメージで、神話はオカルト的な過去の遺産。そこを古代に宇宙人が地球を来訪していて、その遺跡の中に超古代のオーパーツがあって……という設定は、超能力と絡めたりして、神秘主義的なニューサイエンスに発展していくわけですが*1、古代の神や悪魔を科学がロボメカとして再現する世界観と、宇宙人を神とする世界観と、神や英雄が現代に転生して超能力を発現する世界観と、作品ごとにどれを採用するかがまちまちです』
ヒノキ「宇宙人が神である、という発想は、初期のウルトラマンも採用しておるのう」
NOVA『異世界転生は、アニメだと「ダンバイン」が早いですが、それ以前だと古代から現代社会に転生するのが定番で、現代社会→異世界への冒険ファンタジーも定番ですが、現代で事故ったり死んだりして異世界で新たな人生ってストーリーは、やはり83年の「未来警察ウラシマン」と「聖戦士ダンバイン」から翌年の「ゴッドマジンガー」に受け継がれる流れですね』
ヒノキ「星矢では、宇宙人や異世界設定を採用しておらんのう」
NOVA『はい、その点で神話世界と現代社会が地続きなんですね。過去からの転生および憑依というオカルトは採用しつつ、擬人化された神々と、それに仕える人間の代理バトル的な世界観。メカ要素は、アニメの鋼鉄聖闘士を除けば控えめですが、メカよりも重要なのが人間の生命エネルギーの高まりに基づく小宇宙(コスモ)という概念。言わば、武術に基づく「気」や、スターウォーズのフォースを受け継ぐ東洋の神秘思想ですな』
ヒノキ「様々ある設定の何を採用し、何を採用しなかったかの取捨選択が、創作世界観を考察するうえで重要ということじゃな」
NOVA『人間の無限の可能性という意味での超能力は、ガンダムのニュータイプ論が盛り上がった80年代初期があって、精神力が物理的パワーに転換されるサイコミュやイデオンの無限力イデとの兼ね合いで、オカルトをいかに科学的な根拠で説明するかが流行しましたからね。神話的概念を科学で検証するとか、「科学VS宗教」の対立概念にどのような折り合いを付けるかなどが、フィクションでも様々な設定とともに検証されていたわけです』
ヒノキ「宗教をオカルト的に扱うか、人間の文化や思想の源泉として扱うかなど、多彩な視点が考えられるわけじゃな」
NOVA『その意味で、星矢の意義づけで重要なのは、神と人間の距離が物語で非常に近づいたということですね。神のような能力を持った人間とか、神=宇宙人という設定は過去に類例があっても、小宇宙(コスモ)という媒介を挟んだりすることことで、女神と人間が同じ尺度で測れながら*2同じ世界で会話するという世界観は、当時なかなか珍しい。擬人化された神って、それまではどちらかと言えば、コメディーで登場しがちなんですよね(ドリフのコントとか)。憑依ではなくて人の身に顕現した神という設定は、おそらくTVアニメでは城戸沙織が初だと考えます*3。つまり、神のキャラクター化が本邦では86年に本格化したわけですね』
擬人化された神や悪魔の系譜
ヒノキ「神さえも数ある悪魔の一種と解釈した『女神転生』シリーズもその頃からじゃな」
NOVA『西谷史の原作小説が発表されたのが86年で、その翌年にコンピューターゲームになってます。この人は、コンピューターゲームと転生系の物語を融合させた始祖みたいな作家で、88年の「ウルティマ妖魔変」シリーズが結構ツボでした。まあ、元のウルティマとはあまり関係なくて、背景設定のネーミングだけ借りたオリジナル作品ですけどね』
ヒノキ「ウルティマも異世界転生の始祖的なゲームではなかったか?」
NOVA『はい、そうです。異世界ソーサリア(後にブリタニア)に君臨するロード・ブリティッシュ(作者)が、現代社会の若者を異世界に召喚して、世界を脅かす悪の魔術師を倒してくれ、と依頼するところから始まる元祖・異世界からの召喚ゲームですね。主人公は死んでないので、厳密には転生ではないのですが、元のゲームに異世界と現実世界のリンクがあるので、「ウルティマ妖魔変」の設定もそういう要素を拡大解釈できた、と』
ヒノキ「どんな話じゃ?」
NOVA『ゲーム世界で主人公の英雄に倒された悪ボスが、死ぬ直前に4つの属性を持った邪悪竜のエッセンスを現実世界に送り込むんですね。そのうちの一つ、水竜に憑依された美少女歌手が暴走して、現代社会を強大な魔力で大混乱に陥れるパニックホラー的な作品で、彼女を皮切りに妖魔の力に覚醒する若者たちと、その事態を収拾しようとする勇者アバター(ウルティマゲームの主人公)の物語のはずですが、作者としては思いきり妖魔化した若者たちの派手な世紀末風大暴れを描きたい感じで、ちょうど、この時期の俺が原作版デビルマンおよびノベライズ版にハマっていたこともあって、思春期の性癖が歪んで、魔物化して暴れる美少女の描写があれこれ魂に突き刺さったわけです』
ヒノキ「つまり、ラドンの眷属として怪獣娘の要素を持ったわらわも、新兄さんのツボなわけじゃな」
NOVA『いえ、幼女萌え属性は、俺にはありませんので。どちらかと言えば、先日、亡くなった増山江威子女史のようなお姉さん属性の方がツボです。キャラクターとしては、峰不二子とバカボンのママがよく取り沙汰されますが、何よりも先ずはキューティーハニーでしょう。次に、怪物くんの怪子ひめ、パー子こと星野スミレの声も演ってました。あとは、歌手として「さるとびエッちゃん」のOPも歌っています』
NOVA『後は、魔法少女としてチャッピーの声も演ってましたな』
ヒノキ「うむ。魔法使いチャッピーの話に寄り道脱線しおったが、そこからどう星矢に話を戻すつもりじゃ?」
NOVA『困ったことに、増山さんは星矢に出演経験がないので、直接はつながらないんですね。ただ、チャッピーの後番組が魔女っ子路線から離れた「バビル2世」なので、そこからならポセイドンつながりで星矢に帰って来れます。「バビル2世」の原作コミックはチャンピオンで、今の星矢の大先輩に当たりますし、アニメのキャラデザも荒木さんだった。
『ということで、魔女っ子→超能力アクション→聖闘士と受け継がれる系譜もあるとは思うのですが、ここで大事なのは俺が魔物風お姉さんキャラ萌えの性癖があるということで、俺の星矢一推しヒロインは蛇遣い座のシャイナさんだって話です』
ヒノキ「蛇遣い座のシャイナか。危うくアスクレピオスに憑依されそうになっておったのう」
NOVA『ええ。時空を越えて、クレピーに憑依されたらどうしようかと思ってましたが、それはそれで俺のツボは突いてくれそうなので、ドキドキワクワクしながら連載を追っていたのです。しかし、まあ、クレピーの影響力は消えたので、シャイナさんについては安心して最後まで見られそうですな』
ヒノキ「ところで、蛇遣い座は黄道を通過しているにも関わらず、黄道12星座には含まれないということで、物議を醸したようじゃのう」
NOVA『ええ。従来の12星座による星占いに対し、蛇遣い座も含めた13星座による占いが提唱されたのが1995年頃。星矢は90年に連載が終わりましたので、蛇遣い座の黄金聖闘士が話題になったのは21世紀に入ってからです。まさか、そういう形でシャイナさんにスポットが当たるとは、連載中の車田御大も思ってもいなかったことでしょう。
『結果的に、シャイナさんは冥王戦後に黄金聖闘士がみんないなくなった聖域において、魔鈴さんと並んで、最長老格の白銀聖闘士として重鎮の位置を占めるようになっているわけですね。もしも、教皇の資格が男女関係ないとしたら、魔鈴さんかシャイナさんが次期の教皇になっても不思議ではない、と』
ヒノキ「実質的に、星矢が射手座、紫龍が天秤座、氷河が水瓶座、瞬が乙女座、一輝兄さんが獅子座を継承するとして、人材不足に陥った聖域では、魔鈴とシャイナも黄金を継承せざるを得ないとしよう。何を受け継ぐと思う?」
NOVA「そうですな。牡羊座が貴鬼なのは確定として、魔鈴さんに相応しいのは……牡牛座は違う。双子座も違う。蟹座も違う。さそり座、山羊座、魚座の中で選ぶなら、日本の武道にも詳しいことから、山羊座かな、と思います。なお、彼女の誕生日は3月18日設定なので、そのままだと魚座も考えられるのですが、バラを武器にするキャラでもなさそうですからね」
ヒノキ「バラに代わる飛び道具として、ワシの羽を武器にするなら似合うかもしれんのう」
NOVA『魚座なのに、何で鳥の羽? とツッコまれそうですけどね』
ヒノキ「それを言うなら、バラだって変じゃろう? まあ、マリンというネーミングからは、魚座というのもありじゃろう」
NOVA『ああ。それならOKですね。では、正式な後継者が決まるまでは、魔鈴さんが双魚宮の守護者代行ってことで、次にシャイナさん。蛇遣い座をなしとするなら、誕生日が3月24日設定なので、牡羊座なんですね。さすがに貴鬼を押しのけるほどの説得力はないので、どうしましょうか』
ヒノキ「仮面ありとなしで、性格が大きく変わっているので双子座というのはどうじゃ?」
NOVA『サンダークロウの技的には、さそり座っぽいと思うんですけどね。さそり座の次が蛇遣い座ですし、その次が射手座で、「星矢のところに行くには、このあたしを倒してからにするんだね」とさそり座代行のシャイナさんが宣言するのもありか、と』
ヒノキ「スコーピオンのミロは、声優が池田秀一さんだったので、小山茉美さんのシャイナさんが後を継ぐのも、関連づけが面白そうじゃ」
改めて星矢とTRPG
NOVA『とまあ、シャイナさんの話が一段落したかな、というタイミングで、ようやく本題のTRPGの話になるわけですが』
ヒノキ「大体、聖闘士という作品タイトルは、TRPG起源ではないのか?」
NOVA『いえ、86年時点では聖戦士という言葉は、TRPG界隈にも存在しなかったのではないか、と思います』
ヒノキ「それは異なことを。D&Dのパラディンは聖戦士と訳されるであろう」
NOVA『いや、パラディンが初めて日本語で聖戦士と訳されたのは、87年のコンパニオンルールからです。そして、聖戦士という日本語を初めてメジャー化させたのは、83年のダンバインからです。ダンバイン→星矢→D&D→ロードスという順で「日本語の聖戦士、聖闘士、聖騎士という単語」がファンタジー界隈に定着して行ったと俺は主張しますね。神に仕える騎士という概念は歴史界隈で普通にありましたが、信仰騎士団に対してファンタジックな聖騎士、聖戦士という単語を当てはめてフィクションに定着させたのはダンバインから、と』
ヒノキ「すると、D&Dは星矢にほとんど影響を与えていない、と?」
NOVA『初期はそうですが、冥王ハーデス編に入って、108の魔星から成る冥闘士(スペクター)のモチーフとなるモンスター名は、D&Dおよび当時のファンタジーRPGブームで次々と出版されたモンスターガイドを資料として設定されたと考えます。つまり、D&D→ゲーム資料となる魔物図鑑→冥闘士という流れですね。星矢連載中に、並行するようにファンタジーRPGブームがあって、間接的にD&D要素が星矢に影響を与えたとは言えますが、これがストレートに影響を受けていたなら冥闘士の一人、地劣星エルフのミルズなんてキャラにはならないと思うんですよ』
ヒノキ「D&Dの影響をストレートに受けて、メジャー化した最初のマンガ作品が『BASTARD』(1988)じゃな」
NOVA『日本でRPGが一般に知られるようになったのは、元祖のD&Dではなくて、ウィザードリィなどから始まるコンピューターRPGと、ゲームブックからですね。大体、80年代の半ばぐらいから、おおよそ3つの流れがあります。
『1つは、ボードゲームのシミュレーションゲームからの正統進化の流れ。2つはウィザードリィやドラクエから原点に戻る流れ。3つは、ゲームブック→T&T→ソード・ワールド方面。俺は、86年の雑誌連載ロードスリプレイが直接のきっかけですが、それ以前にツクダのローズtoロードを知ってはいましたし(名前のみで中身はよく分からない状態)、ウィザードリィやウルティマのタイトルも知っていて、そこからD&Dの情報も知ってはいたものの、具体的な面白さはやはりロードスのリプレイで教えてもらった形です』
ヒノキ「つまり、D&Dを学ぶ時期と、聖闘士星矢を読む時期が同時並行で、どっちが先というのは意識していなかった、と」
NOVA『どっちが先という感覚はなくて、ブームを同時に楽しんでました。ただ、ペガサス流星拳はD&Dじゃ再現できないなあとか、噂に聞くAD&Dのモンクだったら、星矢は再現できるかと思ったら、北斗の拳は再現できても星矢は無理、となりました』
ヒノキ「どうしてじゃ?」
NOVA『星矢は聖衣(クロス)という鎧を付けて格闘やってるじゃないですか? D&Dのルールだと、鎧を付けていると素手戦闘では不利なんですよ。素手戦闘の専門家であるモンクは鎧を身に付けられないし、D&Dじゃシステムが全く噛み合わないんですね。だから、星矢を再現するには、以下の3つを考慮しないといけないんです』
- 小宇宙(コスモ)による強化をどう再現するか
- 鎧の装着が格闘戦の邪魔にならないようなシステムをどう構築するか
- 聖闘士独特の闘法をどう戦闘システムに落とし込むか
NOVA『とりあえず、小宇宙(コスモ)についてはヒーローポイント的な奇跡を起こすシステムか、MPを消費する魔法みたいな扱いかな。鎧については、D&Dの戦闘ルールが装甲で受け止める防御と回避の区別をしていないので、防御を捨てて(聖衣を脱いで)回避能力を高めるというオプションがとれないから、別のルールが望ましい。聖闘士の闘法については、少なくとも当時のD&Dには戦士の特殊能力がほぼないので、独自の闘法は魔法で再現するしかない、と』
ヒノキ「氷河の技は氷魔法で再現。一輝兄さんは炎と幻術使い。ペガサス流星拳は?」
NOVA『さすがにメテオというわけには行きませんので、マジックミサイルの複数弾ぐらいかな、と。紫龍はエクスカリバーが再現できるとか、瞬は鎖が武器なら行けるかも、とか、いろいろと思いましたが、そうしているうちに、1991年、ソード・ワールドの清松さんが聖闘士というクラスを実装したゲームを発表しました』
NOVA『角川版は1994年発売ですが、元祖の社会思想社版は91年に出ました。俺が知る限り、初めての聖闘士になれるTRPGです』
ヒノキ「D&DよりもT&Tの方が聖闘士向きだったのじゃな」
NOVA『ちなみに、聖闘士とは別に武闘家というクラスもあって、本家・聖闘士の格闘能力は武闘家が〈気〉という特殊効果で攻撃力と防御力を高める点も含めて、近いレベルで再現しています。HTT版の聖闘士については、仲間の僧侶の護衛戦士というキャラ付けと、〈聖戦士宣言〉という命の危険と引き換えの自己バフ能力が特徴』
ヒノキ「護衛対象はあくまで神ではなくて、神さま代行の僧侶なのじゃな」
NOVA『さすがに、神さまを連れて冒険に出るようなゲームは時期尚早です。神の力を降臨させると魂が破壊されて死ぬのが普通という時代でしたからね』
ヒノキ「人の身の魔術師が神霊とゲームやマンガの話を日常的にしている世界観は、90年ではあり得なかった、と」
NOVA『ドラゴンボールで、ドラゴンボールを作った神さま(大魔王ピッコロの分身のナメック星人)が登場した時点で、おお、凄えって時代ですからね。まあ、女神さまを相手にラブコメってマンガは88年の時点ですでにありましたが』
ヒノキ「それも先に、城戸沙織あってのことかのう」
NOVA『時期的にはおそらくそうですね。日常世界に女神さまが迷い込んで、トラブルの起点になることが続くと、世の中だんだん〈ポンコツ駄女神〉という属性が一般化する。まあ、沙織さんもベルダンディーもまだ慈愛と威厳は相応に持ってましたが、ポンコツ女神の第一号は誰でしょうね』
ヒノキ「わらわじゃないぞ」
NOVA『そんなことは分かってますよ。うちは神さまに敬意を払ってますから。神さまをポンコツ呼ばわりするのは、うちと異なる世界観ってことで』
ヒノキ「とにかく、聖闘士要素を初めて導入したTRPGがハイパーT&Tということじゃな」
NOVA『1991年と言えば、SFCソフトのファイナルファンタジー4が登場した年で、聖戦士パラディンという単語がTRPG界隈からメジャー化した時期でもあります。そして、ハイパーT&Tほどメジャーではありませんが、前年の1990年に星矢オマージュとして、こういうRPG作品も発表されました』
NOVA『ルールとしてまとまったのは1992年ですが、それ以前にリプレイ付きルール&シナリオのセットが1990年から4冊分出て、「光と闇のレジェンド」が最初の星矢風TRPGと見なす意見もあります』
ヒノキ「持っておるのか?」
NOVA『昔、買ったんですけど、残念ながら処分してしまいました。基本システムは、冒険企画局の汎用RPGシステムのアップルベーシックで、そのシステムは今もこの本で持っているんですよ』
NOVA『「光と闇のレジェンド」は、光の地帯と闇の地帯と、その間に位置する黄昏の地帯があります。自分の所属する地帯の外側では、異邦人は能力が落ちたり、侵入そのものができなかったりします。そのハンデを克服する装備が魔法の鎧(光の鎧フレアと闇の鎧シェード)なので、鎧は武装というよりも潜水服や宇宙服のような環境アイテムという位置付けですね』
ヒノキ「神の使徒という設定ではないのじゃな」
NOVA『鎧の装着というファンタジックなビジュアル要素が重要なのであって、神話や信仰要素は削っても問題ないという判断ですね。確か光と闇の両方の鎧をシェルと総称して、プレイヤーキャラは鎧の意思に選ばれたシェル戦士という設定だったと記憶します。神ではなく鎧が主体で、さらに鎧は魔法使用の媒体になります。鎧には地水火風の4属性があって、魔法戦士であるシェル戦士の役割分担は、どの属性の魔法を使えるかで区別されます』
ヒノキ「戦士や魔法使いという職業による役割を廃して、属性魔法のみでキャラの個性化を図るシステムか。90年のゲームにしては斬新じゃのう」
NOVA『ええ。プレイヤーキャラが全員、聖闘士もどきの魔法戦士で、魔法の属性分けも、ファイナルファンタジーが初めて取り入れた感じの頃合いですからね。早いと思いますよ』
ヒノキ「ドラクエは属性魔法をやってなかったか?」
NOVA『88年のドラクエ3で、炎系のメラ、閃光系のギラ、氷系のヒャド、爆発系のイオ、真空系のバギなど一応の属性区分はありましたが、もっぱら効果範囲の違いで、得意な属性魔法によるキャラ付けが行われたのもゲームのルールよりはコミックや映像作品の方が早かったんじゃないか、と思いますね』
ヒノキ「敵の属性によって、有効な魔法属性が変わるというのも、ドラクエよりはFFが先に明示しておったな」
NOVA『爬虫類や両生類は氷が弱点で、水中の敵には雷が有効とか、敵データに弱点属性が設定されていて、それを活用するのも攻略テクニックでした。ドラクエはまだ、そこまで属性の差をテクニカルに表現できていなかったと思います。単に物理攻撃では硬いから、カニ系にはヒャドが有効、メラじゃ威力が弱くて話にならんとか。ギラは複数相手には有効でも、単体ダメージが大きいのはヒャドで、その後メラミに追い抜かれるけど……あとはMP消費量の違いで……って、ドラクエの話じゃなくて、ええとマニアックな「光と闇のレジェンド」の話です。どれだけマニアックかと言うと、この記事を書くに際して、ネットでルールの詳細を書き記しているサイトが見つからなくて、曖昧な記憶頼りで書くしかないという状況』
ヒノキ「画像探しにも苦労してそうじゃのう」
NOVA『アップルベーシックの表紙絵はこちらのサイトが充実してますが、サイト主さんも現物はあまり持ってなさそうですね』
ヒノキ「メジャーなゲームだと、こんなルールだったと紹介もしてくれようが」
NOVA『いや、ルールはアップルベーシックで知っているんだけど、大事なのは各属性魔法のデータ面ですね。例えば、風系の長距離移動魔法が〈風羅〉ってんで、ドラクエのルーラが元ネタだとか、そういう話です。プレイヤーキャラが全員魔法戦士ってゲームは、当時、ルーンクエストぐらいじゃないか、と思うぐらい、先駆的な作品でした。まあ、今の視点では当たり前になってますので、今さら入手してもマニアしか喜ばないですけど』
ヒノキ「ともあれ、鎧ものファンタジーという点では、記念碑的な作品だったということじゃな」
NOVA『星矢の生み出したジャンルブームにしっかり乗っかっていながら、独自性の高い世界観と、神話設定にはこだわらなかったという点で、ただのパクリゲーじゃないオリジナリティが魅力でした。なお、属性魔法にこだわったTRPGとしては当時、「ワースブレイド」(1988)も大きいですね。最近、電子書籍化されたようで、宣伝ポストをよく見かけるわけですが』
ヒノキ「『ワースブレイド』はファンタジー+メカロボTRPGで、スパロボの『魔装機神』以前のスタンダードとして一世風靡したのではなかったか?」
NOVA『これはこれで、小説とも相まって傑作ファンタジーでしたね。聖闘士とは全く関係ないですけど』
ヒノキ「ワースブレイドの魔法属性は、陽金火木月風水土の八門に分かれておって、当時の国産RPGの中でもトップレベルの凝りようじゃったと記憶する」
NOVA『問題は、剣と魔法のファンタジー世界に操兵というロボットを投入するシナリオノウハウが、日本では確立されなかったことですね。TRPG界においてメジャーなのかマニアックなのか判断に迷う作品シリーズでしたが、何だかプロジェクトが再起動しているようなので、かつてのファンとして懐かしながらプッシュしておきます』
NOVA『で、星矢に話を戻すと、こういう物が上がって来るわけですが』
NOVA『1993年に、ホビージャパンからミニTRPG集として出た中に「聖戦士RPG プラネットナイツ」という作品が収録されていました。割と手軽に星矢ごっこを楽しめるゲームだと思いますが、これも処分済みなのが残念といえば残念』
ヒノキ「どちらかと言えば、小ネタばかりではないか。もっと本格的な聖闘士星矢をプレイできるRPGはないのか?」
NOVA『それには元FEAR社の菊池たけしさんの作品を語る必要があります。おそらく、日本のTRPGデザイナーで最も聖闘士星矢的要素を自作のゲームに積極的に取り込んだ人だと考えます』
ヒノキ「そう言えば、去年プレイした『アルシャード・ガイア』でも、ルーンナイトの設定はほぼ星矢っぽかったのう」
NOVA『さすがに版権もありますので、そのまま聖闘士という単語を使うのは避けていますが、「セブンフォートレス」と「アリアンロッド」と「アルシャード」の3つの作品シリーズで、明らかに星矢由来のネタを投入してますので(その他のコミックやアニメネタもいっぱい見つけられますが)、星矢っぽい物語やキャラをプレイしたければ、きくたけ作品で十分なネタは用意されている、と。次回は、「聖闘士星矢ときくたけゲームの系譜」ってタイトルで、話を続けたいと思います』
(当記事 完)
*1:ロボでは75年の「勇者ライディーン」が原点で、それ以前に「海のトリトン」「バビル2世」の路線があり、そこから「ムーの白鯨」「ゴッドマーズ」に受け継がれる流れも。
*2:神の小宇宙(コスモ)は人間とは桁違いだけど、自分もそれを感じ取れるレベルでなければ、神の凄さが分からない。しかし、経験を積んだ聖闘士や強力な敵は神の強大な小宇宙(コスモ)が感覚的に分かるので、畏怖を感じたりもする。
*3:神に匹敵する力を持った悪魔や妖怪などの魔王、また神の代行役である巫女や憑代、そして神の名を有した超人やサイボーグなどはそれ以前から少なからずいるが、劇中で神そのものが主要人物として登場するようになったのは星矢からの流れ。