コンストラクションの大詰め(TRPGの盗賊論)
ヒノキ「ダイアンナのキャラ作りは、新兄さんが面倒を見てくれているので、わらわは自分のキャラ作りに専念するのじゃ」
翔花「クラスの1つはスカウトなのよね。アルシャードのスカウトって、どういうクラス?」
ヒノキ「隠密行動と素早さを活かした戦闘を得意とするサポート戦闘職と言ったところか。いわゆる盗賊じゃが、この盗賊というキャラの戦闘力も旧世紀と新世紀で大きく変わったという印象がある」
翔花「今の盗賊は軽戦士って感じで、割と普通に戦える職業よね」
ヒノキ「うむ。70年代から80年代にかけて、香港映画などのアクション映画が量産されるじゃろう? 東洋の武術や忍者などにアメリカ人の興味が高まり、それまでのパワー信仰から機敏さ信仰に時代の風潮が変わる頃合いじゃった。しかし、オリジナルD&DからクラシックD&Dの時代はまだパワー信仰の時代ゆえ、強い戦士とは『頑丈な鎧に身を包み、重い剣をブンブン振り回すパワフルな重戦士』が主体だったのじゃ」
翔花「元祖RPGのD&Dが、戦士とはパワフルであるべき、と定義したのね」
ヒノキ「そう。しかし、時代はパワーよりも技巧派戦士の方が求められておる。そこで戦士ほどのパワーや打たれ強さを持たないが、特殊能力を加味した上級職とも言うべき武闘家(モンク)や暗殺者(アサシン)が追加されていく。それとは別に、戦闘力はそれほどでもないが、探索用の技術(解錠や罠発見・解除や登攀など)の特殊行動のエキスパートである盗賊(シーフ)が後から実装された」
翔花「シーフは元々、戦闘職ではないのね」
ヒノキ「クラシックD&Dのシーフは、魔法使い並みの貧弱なHPと、軽装の革鎧で防御力も低く、どちらかと言えば、弓などの遠隔攻撃で本領を発揮するキャラじゃった。明らかに敵の攻撃にさらされる前衛は務まらず、後衛で支援する役どころだったのじゃよ。そんなシーフの仕事は宝箱の罠を外すだけで、戦闘では使えないというのが80年代初頭のウィザードリィじゃった」
リバT『ウィザードリィは81年に登場した作品で、コンセプトは「コンピューターゲームでD&Dのシステムを再現した3Dダンジョン攻略RPG」で、ウルティマと並んで、ドラクエやファイナルファンタジーの先祖となっております』
ヒノキ「しかし、シーフの解錠能力や隠密行動能力は、他の職業では再現し難い独自性の高いもので、ゲームが発展して、ただのバトルの繰り返しではないダンジョン探索(隠し扉の発見や偵察行動)や都市冒険、荒野の行軍などが後から実装されて行くにつれて、忍び歩きやスリ、盗賊ギルドという裏社会での交渉役、そして重装備の金属鎧が不利になる局面などが提示され、シーフという職業の有効性が高まって行ったのじゃ」
翔花「戦士は戦うのが仕事だけど、猪突猛進しかできない。一方で、シーフは極力、戦闘を避けるように動くクレバーなプレイが求められる役どころね」
ヒノキ「そんなシーフの強みは、前衛戦士が壁になって敵の攻撃を引きつけている間に、こっそり敵の背後に回り込んで、奇襲攻撃によって2倍ダメージを与えるバックスタブ(背後からの一撃)じゃな。クラシックD&Dでは2倍ダメージに留まっておったが、アドバンストD&Dではレベルの上昇によってダメージ倍率が向上して行き、シーフの不意打ち奇襲効果は戦闘面でも侮れないものになって行く」
翔花「戦士はコンスタントにダメージを与え、一撃必殺の大技を放つのがシーフの役割になって行くのね」
ヒノキ「それを露骨にシステム化したのは、マルチプレイのオンラインゲームじゃな。タンク職(壁役)の重装ファイターと、アタッカー職の軽装シーフという役割分担が21世紀には一般的となる。旧世紀はまだ攻撃力不足だった軽戦士が、どんどん攻撃力を高めるようにシステム設計されて行く。それには、機敏度という能力が攻撃回数を高める形に解釈され、重装甲の戦士に比べて一撃は軽いが手数で補う戦法が、今のリアルとされておるからのう」
翔花「シーフの戦闘力は、21世紀になって向上した、と」
ヒノキ「D&Dの3版からじゃな。挟撃と機会攻撃というルールが実装されて、壁役重戦士と背後に回った軽戦士が相手を挟み撃ちするとダメージが加算されるようになった。だが、普通の戦士が挟撃を実行しようにも、複数の敵が隊列を組んでいる戦場ではそう簡単に背後をとらせてくれるはずがない。強引に相手の攻撃範囲をすり抜けようとすると、逆に追加攻撃を受けてしまう機会攻撃のせいで、自由に戦場を移動することもままならん。そんな中で、移動能力に長けて、相手の機会攻撃の隙をついて隠密行動ができる盗賊が重宝するのじゃ」
リバT『戦士と盗賊の連携が、21世紀のD&Dでは実装されているのですね』
ヒノキ「フィギュアを使ったマップ戦闘ならではのルールじゃがのう。まあ、それ以前にシーフの魅力を先にシステム的に表現したのは、日本のゲームじゃが。パワー信仰のアメリカにおいて、さらに鎧によって防御力が決まるD&DのAC(アーマークラス)システムでは、やはり『素早い動きで敵の攻撃を回避』って戦闘イメージは再現し難かったのじゃな。無理矢理に再現しようと思えば、『忍者や武闘家は軽装備しかできませんが、レベルアップによってACが少しずつ良くなっていき、達人クラスだと重装甲戦士に匹敵し、極めれば凌駕するほどの防御性能を誇ります』という上級クラスの特殊能力として表現するぐらい」
翔花「盗賊が強くなるのではなく、上級職の忍者が強くなるってことね。盗賊が戦闘で活躍しようと思えば、転職して忍者や暗殺者を目指せ、と」
ヒノキ「D&D以外のシステムでは、回避と鎧によるダメージ軽減を別に扱っていることが多い。戦闘時の判定の手間が多くなるが、敵の武器攻撃に対して防御ダイスを振ることのできないD&Dシステムよりは、攻防のダイスの振り合いによる対決を反映できるシステムの方が受け入れられやすかったようじゃ」
リバT『ソード・ワールドでは双方ダイス振り合いによる手間を軽減するために、GM側が固定値ルール(2Dの期待値である出目7として敵の命中・回避を扱う)を採用してますがね』
ヒノキ「振るダイスはどうしてもGMが多くなるので、判定をスピーディーにするための処置じゃ。一方で、自キャラ1人を扱えばいいプレイヤーとしてはダイスを振る機会を多く持ちたいと思うものじゃからのう」
翔花「D&DのACルールは回避と鎧の防御効果を一元化したものだけど、『回避力は高いけど紙装甲』と『避けられないけど重装甲で弾き返す』の違いは再現できない。だけど、回避と鎧を別々に処理することで、回避主体の軽戦士や盗賊の戦闘力が高まった、と」
ヒノキ「回避特化のキャラを構築して、回避壁なる用語も生まれたからのう。当たらなければどうということもない、という赤い彗星の名言もあるし、日本人のストーリー感覚としてはACシステムに違和感を感じて、回避力を重視した戦闘システムを多くのTRPGが採用したことになる」
リバT『元々、ACシステムは南北戦争という近代の戦場でのミニチュア・ウォーシミュレーションゲームで採用されていたシステムの派生形ですからね。個々の兵士の細かい挙動を反映したものではなく、大きな戦場で攻撃が当たったか外れたかを単純に判定するルール。それが兵士コマを1人の冒険者キャラクターと見なして、少人数の仲間とチームを組んで、中世騎士道時代の迷宮探検ゲームにアレンジしたのが元のD&D。そこから発展して、ファンタジー世界の冒険物語を紡ぐような流れになり、さらにSFや現代アクション物、ホラーやヒーロー活劇、サイバーパンクなど各種ジャンルに広がって行ったのが今のTRPGです。
『その意味で、ACシステムは銃弾・砲弾の飛び交う戦場で、回避もままならない状況で、いかに遮蔽を構築し、敵の攻撃の命中を下げて行くかを反映したもの。飛んで来る銃弾を回避するなど、リアルな戦場では考え難かった時代の産物ですからね』
ヒノキ「しかし、それが元祖TRPGのルールに採用されたため、長らく支配的であったのも事実。そして、リアルな戦場ではなく、80年以降の多くのフィクションでは回避という行動の重要さが高まり、とりわけ日本では、その時代以降、重装甲で相手の攻撃を弾き返すスーパーロボットと、高機動性で避けてみせるリアルロボットという2系統の分類まで定着し、回避主体のアクションこそリアルと見なされるようにもなったのじゃ」
リバT『でも、当時のアメリカ人のイメージするロボットって、ターミネーターのように銃弾が当たっても平気で向かって来るマッチョスタイルですからね』
ヒノキ「そんなわけで、わらわは未来から来たロボットをアルシャードでプレイしようと思う」
翔花「え? それってこれ?」
ここからキャラ作り
ヒノキ「前置きが長くなったが、わらわとしてはTRPGシステムにおける盗賊というイメージの変化を語りながら、未来のロボに話を続けたかったのじゃ」
翔花「でも、アルシャード・ガイアって現代日本風の世界なんでしょ? 未来世界のロボットなんてキャラが作れるの?」
ヒノキ「基本ルールなら無理じゃが、上級ルールを使えば可能。選択したクラスは、スカウトの他に機械生命体のマシンヘッドに、未来人のリターナーじゃ」
翔花「そんな奇怪生命体まで作れちゃうんだ」
ヒノキ「これらのクラスによって算出された能力値は、体力11、反射15、知覚13、理知11、意志9、幸運14。戦闘値は命中7、回避6、魔導4、抗魔3、行動13、耐久18、精神14、攻撃3となった。加護は以下のとおりじゃ」
●ヘイムダル:スカウトの加護。自分の判定をクリティカルにする。
●ヘルモード:マシンヘッドの加護。シーン内の好きな場所に移動するか、シーンから退場できる。または防御判定をクリティカルにする。
●バルドル:リターナーの加護。自分以外のキャラの判定をクリティカルにする。
翔花「何だか、『クリティカルにする』効果ばかりなんですけど?」
ヒノキ「うむ。ここぞというところで、絶対成功が欲しいときに重宝するキャラじゃのう」
翔花「で、そのロボットは未来から何しに来たの?」
ヒノキ「粉っちゃんのキャラ、飛彩ユイを守りに来た……という設定はどうじゃ?」
翔花「え? わたしを守りに?」
ヒノキ「そなたは未来世界の勇者として、救世主になる予定なのじゃが、歴史を変えるために命を狙う連中がいてのう。だから、未来兵器の勇者サポートロボが派遣されたのじゃ。普段はバイクの姿をしているが、戦闘になれば巨大バトルフォームになって戦うことも可能」
翔花「それは、こんな感じかしら?」
翔花「それともこれ?」
ヒノキ「普段はマシンヘッドの特技《タイプ:ヴィークル》によって自律走行可能なバイクとして行動している。しかし、戦闘が起これば、《タイプ:ビッグボディ》で重装甲モードに変形するのじゃ(防御修正:斬4、刺殴3)」
翔花「わたしのルーンメタルよりは柔らかいのね。耐久値もわたしの26には及ばないし、そんなので護衛が務まるの?」
ヒノキ「くっ、その分、攻撃能力が高いのじゃ。特技《マシンアームズ》により、常備化した武装〈ブレイクガン〉で範囲攻撃が可能。与えるダメージは素の状態で〈殴〉+7。さらに、接近戦用に専用ショートソード〈スラッシュブレイド〉を常備化」
翔花「ショートソードではなく、ロングソードは使わないの?」
ヒノキ「〈ライジングソード〉が用意されておるが、必要体力が14なので、今は装備できないのじゃ」
翔花「いまいち頼りにならないロボに見えるけど?」
ヒノキ「どちらかと言えば、主人公の勇者ロボよりもボルフォッグやシャドウ丸のような忍者ロボを想定して欲しいのじゃ」
リバT『まあ、ファイターではなく、スカウトを選んだわけですからね』
スカウトとリターナーの特技
ヒノキ「ということで、スカウト特技の《ダブルウェポン》によって、軽量武器の二刀流を可能にした。そして、もう1本の武器は、リターナーの特技《光刃剣》を習得。この武器は〈光〉+4という性能を誇る。光属性の防御力を持つ敵は稀なので、大抵の防御点を無効にした攻撃を行えるのじゃ。結果的に、右手にレーザーソード、左手に実体剣のスラッシュブレイドを装備することで、2本合わせて〈光〉+11の攻撃力を誇ることとなった」
翔花「おお、わたしのブレイドルーンの〈斬〉+11に匹敵するとは凄いわね」
ヒノキ「さらに、スカウト特技《奇襲攻撃》で1シーンに1度だけ、命中+2、ダメージ+2Dの斬撃もしくは射撃を行える。瞬間攻撃力なら、大したものなのじゃ」
リバT『勇者のサポートをする隠密忍者ロボというコンセプトなんですね』
ヒノキ「だから、普段はバイクに擬態しているのじゃ」
翔花「バイクかあ。そう言えば、妖精郷でも魔動バイクに乗るキャラをプレイしているわね。こっちでもバイクに乗っていいの?」
ヒノキ「そのためのヴィークルモードじゃ」
翔花「そっかあ。ありがとうね、ヒノキちゃん。わたしのためにバイクになってくれて」
ヒノキ「リバTが、わらわの代わりにソード・ワールドのGMを務めてくれるのだから、わらわもケイP一族の代わりに粉っちゃんのサポートを務めたいと思ったのじゃ。そして、この未来バイクの機能はそれだけではない。未来人リターナーの特技《マインドロック》で、1シナリオ3回までMP3点消費でダイス目+1できる時空操作機能付きで、さらに《時空間移動》の特技で、戦闘中に自在に転移できる(シーンに1度のみ)。つまり、サポート&移動能力においても結構な優れ物なのじゃよ」
翔花「未来の世界のロボって侮れないのね。ところで、便利な秘密道具は持ってないの? タケコプターとか」
ヒノキ「残念ながら、空は自由に飛べないのじゃ。マシンヘッド3レベルになれば、《フライトシステム》の特技も習得できるし、リターナーもレベルアップによって使える未来装備も増えるのじゃが、さすがに青いネコ型ロボットほどの万能性は備えていないってことで」
アイテム取得など
ヒノキ「さて、次にアイテム取得じゃが、マシンヘッド用の武装で30点をすでに使用済みなので、残り20点じゃが、ライフスタイルはマスター・ユイと同様に工作員(2点)にしよう。住宅は時空の狭間にメンテナンス用の秘密基地があることにして、常備化ポイント3の〈小型施設〉を確保。さらに情報通信端末のパソコンを設置」
翔花「何だか、わたしの台所付き隠れ家よりも上等そうなんですけど?」
ヒノキ「機能は同じなんじゃがのう。常備化ポイントは、こちらが2点安い。まあ、秘密基地といっても、ガレージみたいなもので、さほど大きな場所ではない。広さは学校の教室程度で、生活色は薄い感じのイメージじゃ」
翔花「まあ、いいわ。必要なときはそちらの秘密基地にもお邪魔させてもらうから」
ヒノキ「歓迎するのじゃ。残りの常備化ポイントはMPポーションでも買っておく」
翔花「ところで、未来ロボの名前はどうするの?」
ヒノキ「考えておらんかったが、忍者バイクを省略してニンバー19(ナインティーン)とでも名乗っておこうか」
リバT『形式番号がメカっぽいですね』
翔花「長いので、ニンニンと省略するね。ニンナインよりは、ニンニンの方がいい感じ」
ヒノキ「いや、ニンニンが愛称なのはロボの威厳に関わる。略すならニ19でニックの方を希望するのじゃ」
翔花「ええ? ニンニンの方が可愛いし」
ヒノキ「今回は可愛いよりも、格好いいのを求めておるのじゃ。ニックと呼んでください、マスター・ユイ」
翔花「マスターはニンニンと呼びたがってるの!」
ヒノキ「ワタシの名前はニックです……と、その都度、修正するのが定番ギャグにできそうじゃのう」
★日野木アリナのアルシャード・キャラ
名前:ニンバー19(愛称ニンニンまたはニック)
・クラス:マシンヘッド1レベル、スカウト1レベル、リターナー1レベル
・能力値:体力11(+3)、反射15(+5)、知覚13(+4)、理知11(+3)、意志9(+3)、幸運14(+4)
特技
・マシンヘッド:《タイプ:ヴィークル》《タイプ:ビッグボディ》《マシンアームズ》
・スカウト:《ダブルウェポン》《奇襲攻撃》
・リターナー:《マインドロック》《光刃剣》《時空間移動》
ライフスタイル:工作員(財産ポイント2)
住宅:コンピューター付き小型施設(情報収集判定+1、HP1D&MP1D回復)
所持アイテム:衣服、携帯電話、MPポーション
装備品:光刃剣、スラッシュブレイド、ブレイクガン
・戦闘値(装備および特技修正)
命中7、回避6、魔導4、抗魔3、行動13
接近戦:命中7、攻撃力〈光〉+11(クリティカルダメージ+2)
ブレイクガン:命中5、攻撃力〈殴〉+7、範囲(選択)
ビッグボディ防御点:斬4刺殴3
耐久値18、精神値14
(当記事 完)