11月15日正午ごろ、屋久島
ヒノキ「新兄さんは一体、何をしておるのじゃ。屋久島に来てみたはいいが、縄文杉の前でただ座り、口を開くでもなく、瞳を閉じて、瞑想に耽るのみ」
ハイラス「昨夜遅くにここに来て、ずっとこの調子でござる。てっきりガイア様に得意の弁舌をまくし立てるかと思いきや、これではまるで修行僧のようではござらんか」
ゲンブ「確か、新星殿は仏教を信仰されていると聞いたことがあるが、あの姿を見ると口先だけでなく、本当でござったようだな」
NOVA「…………」
ガイア『時空魔術師よ。私に言いたいことがあるのではなかったのですか? それがずっと無念無想のまま、沈黙されたのでは、神であろうとも、そなたの想いが分かり得ぬ。一体、何を考えているのです?』
ハイラス「おお、とうとう痺れを切らせたガイア様の方から、声をお掛けになるとは……」
ゲンブ「ムッ、新星殿の体から霊気のようなものが立ち昇っていく」
ヒノキ「これは……聖闘士の発する小宇宙のようなものか? ハッ、そういうことか。乙女座バルゴのシャカ、黄金聖闘士の中でも最も神に近い男と呼ばれた御仁は、常に両目を閉じて自ら視覚を封じることで己の中の小宇宙を高めると聞く。また前時代の乙女座の黄金聖闘士シジマは無言の行で同じく小宇宙を高めたとか」
ハイラス「なるほど。NOVA殿はガイア様と語るに当たり、人の身を少しでも神に近づけるよう、そこまでの覚悟をもって、この場に臨まれたのでござるか」
ガイア『時空魔術師よ。そなたの覚悟は確かに受け取ったが、時間の無駄ではないか? そなたの娘御、粉杉晶華は現在、そなたの留守を守って、闇の邪神との戦いに励んでおる。そなたも父親であるならば、今すぐにでも駆けつけて、共に戦うのが人の道というものではないのか?』
NOVA「……いいでしょう。大地母神からの重なるご質問に答えることにします。最初の質問、『言いたいことがあるのか?』については、もちろんあります。しかし、こちらから話を持ち掛けても、あなたにとっては不遜にしか聞こえぬでしょうから、あなたの方から問いかける時を待っていたということです。
「第2の質問、『何を考えているのか?』については、これからたっぷり話して聞かせるとしましょう。ただ一つ要旨を述べるなら、我が娘、花粉症ガール1号の粉杉翔花について、あなたが犯した過ちについて語ることになります。こちらは別にあなたを責めるつもりはないが、事実を正確に受け止めてもらった上で、協力して修復することを先にお願いしたいと考えます。神とて全知でも全能でもないことは一神教ならぬ多神教の概念では当然の理なれど、頑なにその事実を認められぬ方もおられますからね」
ガイア『分かった。そなたの語る事実とやら、私の過ちに関する話を受け止めるとしよう。その上で、修復できることなら、喜んで協力もしよう。これでいいのだな』
NOVA「寛大に受け止めていただき、感謝申し上げます。第3の質問、『時間の無駄ではないか?』についてですが、否、と申しておきます。と言うのも、今夜は新月。我が目的である翔華召喚の儀式を正確に行うには、太陽と月と地球が一直線に並ぶ、星周りの頃が望ましい。私は占星術の専門家ではありませんが、星の名を冠する魔術師として最小限の心得は身に付けております。神を相手に人の魔術の理を語るには、いささか無遠慮が過ぎるかとも存じますが、お許しをいただければ幸いです」
ガイア『そなたの使う魔術の原理には興味がないが、そこにいるスザクやゲンブ、それに我がドルイドは聞きたがるであろう。時間の無駄でないのなら、多少の講義は受け入れるとしよう』
NOVA「では、極力、手短かに分かりやすく、まとめるとしましょう。そして最後の、第4の質問、『父親の道、人の道』についてですが、もう一人の娘、花粉症ガール2号の粉杉晶華の戦いについては、当然、案じています。しかし、私は娘を信頼し、娘にいろいろと託して来ました。私が共に戦わずとも、娘と彼女の培ってきた友だち、仲間たちとの絆があれば、過酷な状況も乗り越えることができると考えています。それでもギリギリまで戦って、ギリギリまで踏ん張って、どうしようもなくなった時に備えるのが、私の父親としての務めだと思う次第。そのためにも、ガイア様のお力添えで翔花を呼び戻すことこそが必要と判断しております」
ガイア『……いろいろと迂遠よのう』
NOVA「そういう性分なれば」
ガイア『20周年の行事のために、いろいろと策を張り巡らせているようじゃが、私はそういうのは好まん。もっと直接、ストレートにこう頼めばよかろう。「20周年記念を成功させたいので、みんな応援よろしく♪ NOVAからの心からのお・ね・が・い❤️」とでも言えば、よかったものを、そなたのやり方にはちっとも可愛げがない』
NOVA「あのう、ガイア様。娘の花粉症ガールならともかく、50目前のおっさんがそんな頼みごとをしても、おそらく周りはドン引きすると思うのですが……」
ガイア『そうかのう? 人の心理はよく分からん。スザク、どう思う?』
ヒノキ「確かに、ガイア様の言葉には一理ある。新兄さんが迂遠なのは、時に長所とも言えるが、もっとストレートに突き進む方が良いことも多々ある。少なくとも祝い事を盛り上げるには、単刀直入かつ明快に周知する方がよいと思われ。ただし、人には向き不向きとか役割分担というのがあって、そういう可愛い言動は、わらわやガイア様のような女の子にこそ、ふさわしいもの。新兄さんやゲンブ、ハイラス様には女子力ではなく、違う振る舞いを期待したくなるのが人の世の理であろうな」
ガイア『なるほどな。完全に理解できたとは言わんが、私やスザクには女子力というものがあるが、それを時空魔術師や、盾将軍や、次元ドルイドに求めても致し方のないことか。さすがはスザク、人の世界に進んで身を置く神霊の言葉は参考になる』
ヒノキ「だったら、今度、女子力磨きのためにもTRPGなどどうじゃ? 『アルシャード・ガイア』という面白いゲームがあるのじゃが」
NOVA「ヒノキ姐さん、今、勧めるなら古いバージョンよりも、続編の『アルシャード・セイヴァー』の方がタイムリーなのでは?」
ゲンブ「何がタイムリーかは分からんが、今すべき話題ではないでござろう」
ガイア『うむ。我が名を冠するゲームとやらには興味がないわけではないが、今はTRPGなどという人の生み出した深淵に引き込まれるわけにはいかん、と神の本能が警告を発しておる。その話は、またいずれな』
ヒノキ「チッ、この機に布教しようと思ったのに……」
ハイラス「私が勉強して、ガイア様に教えて差し上げるでござるよ」
ヒノキ「そうか。ならば、将来が楽しみじゃ」
ガイア(何だか知らぬ間に、周囲を包囲されて、違う世界に引きずり込まれるような予感を覚える……)
NOVA「あのう、ガイア様? 悪寒を感じているようですが、お加減はいかがですか?」
大地母神の過ち
ガイア『……なるほど。つまり、そなたは「私が粉杉翔花を修行のために過去の世界に送り出したこと」が過ちだったと申すのか』
NOVA「いいえ。それ自体は、スペースGと対峙する上で必要不可欠な措置であることは理解しています。思えば、2019年1月の話でしたね。翔花がここより過去の世界に向けて旅立ったのは」
ガイア『そう。全てはモスラの力を翔花に受け継がせ、スペースGを倒す切り札とするため』
NOVA「しかし、過去に向かったはずの翔花は、どういうわけか未来に飛ばされちゃってたんですよ。これが、その証拠です。2019年2月の話」
ガイア『それは……そなたの娘が方向音痴で、道に迷いやすいからではないですか? そなたの寄り道脱線癖があの娘に影響を与えて、過去に飛んだはずなのに未来に向かってしまったという現象が発生した。すなわち、そなたのせいであって、私のせいではない』
NOVA「私も最初はそう考えておりました。しかし、実は違っていたのです」
ガイア『口調を改めていいぞ。お互いに腹を割って話そうではないか』
NOVA「なるほど、心を開くお笑い腹筋崩壊芸の精神ですね。だったら、お言葉に甘えて……俺も最初はそう思っていたんだけど、冷静に考えたら、俺の方向音痴は時間に関しては影響しないということです。つまり、地理は得意でないけど、歴史は得意。だから時空魔術師が務まっているのですけどね。もしも、翔花が時間に関して方向音痴とするならば、あいつに時空魔術は向いていないということになる。しかし、本人の資質以外にあいつが未来をさ迷うことになった原因が他にあるとしたら? いくつかの検証の末、俺はある確信を持って、この地に来ました」
ガイア『それは何か?』
NOVA「ガイア様。あなた、時空魔術は専門家ではないので、さほど得意ではないでしょう? ヒノキ姐さんもそうだが、神としての力技で、相手を時空の彼方に飛ばすことはできる。だけど、その行き先を特定することはできていない。だから、飛ばした先のことまでは熟知し得ない。そういうことじゃないですか?」
ガイア『時空魔術師よ。そなたならできると申すか?』
NOVA「できます。ただし、それには事前準備が必要ですし、うっかり時空座標を定めずに読者A、アストという男をとっさに未来へ送り飛ばすという過ちを犯してしまいました。この件については、アストの人生を狂わせるという過ちを俺は償わなければいけないと考えています。まあ、翔花も晶華もあいつにはやらんけど」
ガイア『アストという男はどうでもいいが、私はちゃんと行き先を定めたぞ。1億3000万年前の中生代の白亜紀。そこでレインボーモスラは過去のキングギドラと戦い、相討ち状態となったものの、原始モスラの繭に包まれ、時空を超えて現代に復活し、鎧モスラとして強化された状態で、恐怖の大魔王とも呼称される宇宙超怪獣キングギドラを撃退することに成功した。そう、縄文杉にまつわるモスラの神話は90年代の平成モスラ3部作に起因する。インファント島ではなく、この地にモスラの力が封じられているのもそれが理由よ。とにかく、私が座標を定めなかったとは、そなたの難癖に過ぎん』
NOVA「では、どうやって座標を定めたのです? 人の暦による時間単位で定めたわけではないのでしょう? タイムマシンで設定するような機械的なやり方ではないはずだ」
ガイア『それはもちろん、過去の時代のキングギドラやレインボーモスラのような力ある存在をマーカーにし、そこに向かうように、引きつけられるように狙ってやったこと』
NOVA「つまり、下手をすれば、その怪獣の戦いに翔花が巻き込まれていた可能性だってありますね」
ガイア『スペースGと戦おうというのに、それぐらいの試練を乗り越えられなくて、どうするのですか?』
NOVA「まあ、その是非は今は問いますまい。だけど、『力ある存在をマーカーにする』という曖昧な座標設定により、翔花はもっと力ある存在、すなわち『ゴジラアースのいる2万年後の未来地球』の方に引っ張られてしまったんです」
ガイア『え、ウソ?』
NOVA「事実です。そして、翔花はあなたの想定にもなかった苛酷な試練を乗り越えて、たやすくスペースGを倒す力を得て帰ってきたのは、ご存知のはずだ」
ガイア『ええ、あの娘は私の考えも及ばぬほどの成長を果たして帰って来ました』
NOVA「想定以上の成長、ということは、想定以上の苛酷な経験を積んできたということだ。あなたは、その件について、まずは翔花に謝らないといけないはず。俺が知る限り、あなたは翔花にまだ謝りもしていませんね。帰ってきた娘に厳しく当たるばかりで、お礼も労いの言葉も掛けずにいる。ご自分の振る舞いを思い出してください」
ガイア『それは……大地を守る神の立場として仕方なきこと。あなたに責められる謂れはありません』
NOVA「ごめんなさい🙇♂️。俺は翔花の父親として、あの娘を教え導くという役割をお約束したのに、再び翔花を失踪させてしまいました。何とか妖精郷の吸血鬼の森に捕まっているところまでは知ったのですが、今だに助けることができていません。ですが、近い将来、必ず助け出し、きちんと父親の務めを果たすことを約束します」
ガイア『何の話です?』
NOVA「人が謝り、過ちを償うために誓う姿を示した次第です。神さまには、人の作法がよく分からないみたいですが、人の世界の作法では、過ちに際して、いかに潔く謝るか、そして責任をどう取るのか、どう誓いを立てるのかを重視することで、人間性というものを見ます。少なくとも、これが俺の信じる人間としての流儀です。神に、人のように振る舞え、とは言いませんが、せめて翔花の苦労に報いることのできる遠き母親であっていただけませんか?」
ガイア『……あなたは、自分でなく、翔花に謝れって言うのですね』
NOVA「翔花が大事ですからね。自分の大切なものが傷つけられたなら、俺は怒ってみせますよ。たとえ、それが神であったとしてもね。そして、俺の武器は言葉です。言葉の刃に道理を乗せて、慈悲と正義の想いを貫くのが俺の言霊魔術師としての理想です。まあ、100%の理想が貫けるとは申しませんが、できることからコツコツと歩み、語り続けるまでですよ」
ガイア『父親として、人の身に余るほど大胆で、傲慢な振る舞いと言いましょうか。……だけど嫌いではない。あなたの言葉の刃、確かに私の胸に届きました。必ず、娘を吸血鬼の魔の手から救い出し、ここに連れて来て下さい。その時こそ、遠き母として過ちを謝罪し、感謝と労いの言葉をかけるとしましょう。約束します』
翔花召喚の儀
NOVA「では、妖精郷に囚われている今の翔花、ええと令和翔花については、一度、話を置くとしましょう。次に、今も時空を翔び回って修行中の過去の翔花、つまり2019年初頭の翔花、平成翔花の話をしましょう」
ガイア『令和翔花と、平成翔花? どういうことですか?』
NOVA「元々、粉杉翔花という存在は1号の姉・翔花と、2号の妹・晶華の2つに分かれて、双子の姉妹という設定に落ち着いたんですがね。ガイア様が1号を過去に送り込んだら、先程の過ちのせいで、1号翔花の方がいろいろな時代に遍在するという、ややこしい状況が生まれてしまったんです。俺は時空魔術師として、こういう時間の歪みというかねじれというか混乱というか、とにかく奇々怪々な不思議現象を観測し、場合によっては修復する任務を時空神クロノス様より授かっているのですが、最近は時代の転換期に当たるせいか、観測するのが手一杯という状況で忙しいのですよ」
ガイア『なるほど。ただの人にしては……と思っていましたが、クロノスの使徒でしたか。道理で、物怖じしないはずです』
NOVA「ただの人ですよ。少々、魔術をたしなみ、SFファンタジー作品を愛し、夢物語を紡ぐのが趣味の歴史好きですがね。なお、ギリシャ神話にはクロノスと呼ばれる存在は、二種類あり、一つはCで始まる時の神(Chronos)、もう一つはKで始まる大地母神の息子にしてゼウスの父である巨神族(Kronos)で、時々混同されることもあってややこしいのですが、俺の仕えるのはCクロノス様ですから、その点はお間違えのないよう」
ガイア『誰に向かって喋っておるのか。とにかく、時空神の使徒であるなら、これまで以上の礼は尽くさねばならぬようですね』
NOVA「いいえ、使徒というほど、忠実に働いているわけじゃないので。ちょっとした契約を交わして、それなりの権能と役割を仰せつかっているだけですし、イモータル修行の一環ですから。俺は神のためではなく、自分の修行のために動き回っているだけですので、俺個人に礼儀は不要です。ただ、俺の楽しみを邪魔せずに、大切なものを傷つけられさえしなければ、それで十分ですとも、はい」
ガイア『では、その少々たしなんだ魔術についての話を聞きましょうか。今宵の新月がどうこうとか申しておったようだが?』
NOVA「ええ、今宵は新月。そして、俺の称号は新星。新しい月と星はそれなりに相性が良いんですよ。本来、魔術においては満月と新月の二つが力を扱うのに最適だと言われています。理由は省きますが、満月は魔力が高まりやすく、ゲーム的にはMP不足の魔術師でも格上の魔術を行使しやすいメリットがあります。その反面、力の制御が非常に困難で、暴走しやすく、繊細な技を要する儀式には注意が必要ですね。この日に悪魔を召喚したら、強大な魔物を呼び出すことも可能でしょうが、たいていは制御ができずに大惨事を招きかねません。よって、満月を儀式の日に選ぶ魔術師は、力の制御によほどの自信があるか、それとも後先考えずに強大な力を安易に求める愚か者のどちらかになりますね。
「一方で、新月はその反対で、魔力が一番弱まりますので、大規模な儀式には推奨できません。しかし、魔力の暴走を恐れる必要はなく、繊細な作業が必要な儀式にはお勧めできるわけですよ。俺はどちらかと言うと、力を暴発させがちなので、満月の日に儀式をするのは危険度が大きいわけで、安定度の高い新月の方が性に合っているのですが。それと、新月の日は、魔物を封印している魔力も弱まりますので、召喚ではなく封印の解放の儀式なら、新月の方が向いているということですね。新月の日に封じられた魔物が目覚めやすいのは、単に闇が濃いというだけでなく、封印の魔力の減退が影響しているからです」
ガイア『なるほどな。私は大地母神であるゆえ、大地のもたらす力は専門であるが、月については天空神の管轄であるため、あまりそういう原理は考えて来なかった。ハイラスよ、お前は知っていたか?』
ハイラス「儀式に向いた月齢があるというのは、作法としては知っていたでござるが、その背後の原理までは恥ずかしながら、考えたこともなかったでござる」
NOVA「儀式を執行する上では、いかに滞りなく作業できるかが大事だからな。それに、神さまが月の満ち欠けによる魔力の増減を気にする必要があるとも思えん。自前の魔力で大抵のことはできるから、こういう小細工をあれこれ考えるのは力なき人間の工夫の賜物ってことです。まあ、こういう工夫があるからこそ、人間の文化文明が発達したとも言えるのですがね。とにかく、俺にとっては、新月こそが時空を翔び回る平成翔花を捕捉し、一時的に呼び戻すのに最適な日ということなのです」
ガイア『そこまで考えて、この日を選んだのですか。思いの外に、用意周到な男なのですね』
NOVA「偶然という要素も大きいのですがね。ただ、ここぞと言うタイミングでは、偶然が俺の味方になってくれる。いや、味方ではないはずの諸要素さえ、理屈をこじつけて自分の益になるように考える、知恵を巡らせるのが俺の才覚であり、運命を味方にする器量だと今では考えています。この手で運命をつかみ取る、それこそがNOVAと言ってもいい。試しにダイスを振ってみますか。(コロコロ)4。ええい、振り直し。(コロコロ)また4。3度目の正直。(コロコロ)5。……どうやら、今の運命は俺に味方してくれないらしい」
ヒノキ「おいおい、新兄さん。ここまで話しておいて、それはないじゃろう」
NOVA「だって、ヒノキ姐さん。ダイス目が味方してくれないんですよ。こんなダイスで儀式を敢行したら、どうなることか」
ヒノキ「バカ者。何もかも一人でやろうとするからじゃ。ここはわらわの出番。そのダイスをわらわに貸せ。(コロコロ)3。どうしてじゃあ!? ゲンブ、後はお主に任せた。この不穏な空気を一掃してくれ」
ゲンブ「それは責任重大でござるな。(コロコロ)かろうじて6でござる。まだまだ、こんなものでは心許ない。次元ドルイド殿、そなたの出番でござるよ」
ハイラス「私が? では念を込めて、ガイア様も祈ってくだされ。(コロコロ)6。このダイスは何だか呪われておらぬか? ここまで振って、ちっとも期待値すら出ないとは」
ガイア『一体、何を騒いでいるのか分かりませんが、その2つの立方体を転がせばいいのですね。(コロコロ)4と3で合計7ですか』
NOVA「とりあえず、ラッキー7と言っておきますか。では、ガイア様が邪気を払ってくれたと信じて、もう一度、俺が振る。(コロコロ)よし、来たー、6ゾロだ。これで今までの憂さが全部吹っ飛んだ〜」
ガイア『人間はこんなことで喜べるのですか?』
ヒノキ「うむ、ゲーマーと呼ばれる人種はの。とにかく、この場にいる皆の想いを結集させて得た貴重な6ゾロじゃ。溜めに溜めた運気を糧にして、時を翔けるコナっちゃんを召喚するのじゃ」
NOVA「ああ、それなら、もうすぐ来ますよ。翔花はまもなく、20周年パワーという俺の強大な力のマーカーに引き寄せられて、この時、この場所を通過する予定です」
ヒノキ「何じゃと? だったら今のダイスは何のために振らせたのじゃ?」
NOVA「いやあ、ただの景気づけです。俺が自分のラッキーを試すために、ダイスを振って一人遊びをして、運が悪いなあ、とガッカリしていたら、俺から勝手にダイスを取り上げて、自分で振ってみて、次から次へとバトンタッチまでして、最後はゲーマーではないガイア様まで巻き込んで、何だか知らない間にゲーマー空間を演出したのは、俺じゃなくてヒノキ姐さんです。俺は一人でダイスを振って、一喜一憂しているだけの男なのに……」
ヒノキ「それがいかんと言うのじゃ。このような楽しい遊びに、他人を巻き込まんで何とする? 一人遊びでは、世の中は動かんし、世界はつながらん。楽しいことには、わらわを巻き込め。20周年を祝いたければ、神霊の加護を願うのは道理。のう、ガイア様?」
ガイア『そのダイスという物体にどのような魔力が込められているかは、専門家ではない私にはよく分かりませんが、人をつなげる運命の力が秘められていることは感じとられました。そして、まことに時空魔術師どのが20周年パワーとやらで、翔花をここに引き寄せ、人の心をつなげ、世界をつなげようとしているなら、この大地母神ガイアの祝福を与え、コロナという病原体に脅かされて分断された地球に希望の火が灯ることを願いましょう』
NOVA「ならば、一つお願いです、ガイア様。翔花にかつて施した時空移動の神パワーを、1分後に解除して下さい。今のままだと、翔花がここを通過しても、ブレーキが掛からずに、素通りしてしまう。俺にはそれを止めるほどの魔力はない。翔花にブレーキを掛けられるのはガイア様だけなんです」
ガイア『え、1分後って、あなたはすでに翔花の位置を捕捉しているのですか?』
NOVA「ブルーアイズの力がありますからね。あと、30秒です。そろそろ、覚悟を決めて、俺の合図に従い、ご自分で掛けた魔法、いやハイラスの次元間移動の呪いみたいなパワーを解除して下さい」
ガイア『……分かりました。時空魔術のたしなみのない私には翔花の位置がつかめませんので、合図をよろしくお願いします』
NOVA「来た来たキター、3、2、1、今です!」
ガイア『神力消去!』
PON!!
閃光とともに出現す。
父娘の想い
翔花「あれ? 急に時空の回廊から抜け出しちゃったよ。ここはどこ? 私は誰? 私は粉杉翔花、花粉症ガールよ。2019年1月から、いろいろな時間にポンポン翔んで修行中なんだけど、過去に行くはずが、どういうわけか未来に飛んじゃって、2068年にオーマジオウさんって人と会ったり、2121年に仮面ライダーキカイって人……じゃなくて機械ダーなロボットさんに会ったり、2040年にクイズで遊んだり、2022年に忍者ごっこをしたり、他にもいろいろと変なことに巻き込まれたんだけど、まだまだ修行の旅は終わらないみたいね」
NOVA「よう、翔花。元気そうだな」
翔花「あれ? NOVAちゃん? どうしてここに?」
NOVA「ガイア様に頼んで、お前の修行の旅を一時的に中断してもらったんだ。今は2020年11月15日。明日が俺のサイト『White NOVAのホビー館』創設20周年記念パーティーになるからな。お前にも祝ってもらいたいと思ったんだ」
翔花「へえ、そうなんだ。じゃあ、ハッピーバースデイ、ホビー館って言えばいいのかな」
ガイア『翔花、私の過ちで、お前には思いもよらぬ苦労を掛けたようですね。お帰りなさい』
翔花「あ、ヒヒヒお祖母さまのガイアちゃん。それにヒノキちゃんと、亀おじさんもいるのね。それにハイラスおじさんも? 状況がよく分からないけど、スペースGはどうなったの?」
ガイア『それは、あなたの活躍のおかげで倒されました。ありがとう』
翔花「へえ、その『アナタ』っていう人に感謝だね。『勇者アナタのおかげで世界は救われた』かあ。私もいつか、そんな勇者になれるかなあ」
ガイア『いいえ、「勇者アナタ」ではなくて、あなたが勇者なのですよ、我が遠き娘、粉杉翔花よ』
翔花「違うよ。私はただの花粉症ガールの粉杉翔花なんだから。スペースGを倒したことなんてないし、勇者なんて柄じゃない。私は時空魔術師NOVAちゃんの娘だし、将来の夢はNOVAちゃんのところに帰ることなんだから。今、その夢が叶ったみたいだから、これで『花粉症ガール・粉杉翔花の大冒険』はめでたしめでたし、ハッピーエンドだね。『こうして、粉杉翔花はお父さんのところに無事に帰ることができて、その後、一生幸せに暮らしました。完。White NOVA先生の次回作に乞うご期待ください』ということで、ああ、終わった終わった。さあ、帰って、何して遊ぼうかしら」
NOVA「お前が勝手に終わらせるな! 物語の結末は俺が決める」
翔花「ええ? だって、スペースGを倒したんだったら、私のここでの仕事は終わりでしょう?」
ガイア『念のために聞きますが、モスラの力は手に入れたのですか?』
翔花「いいえ。モスラさんには会ってもいないんだし」
ガイア『つまり、あなたの修行はまだ終わっていません。今すぐ修行のための時間移動を再開するのです。今度こそ間違いなく、過去に送らないと』
翔花「ええ? せっかく、NOVAちゃんと再会できたのに、もう一度、離れ離れなんてイヤだよ〜(涙目)」
NOVA「ガイア様。俺からもお願いです。20周年記念なんだから、もう少し翔花と一緒に過ごさせてくれ。俺にはこいつが必要なんだ」
翔花「NOVAちゃん、そんなに私のことを想ってくれるなんて。これは……愛ね」
NOVA「勘違いするな。お前の妹の翔花2号、晶華が今、手強い敵と戦っていて、ピンチなんだよ。お前が帰って来たのなら、今すぐ連れて、邪神Kを倒さないといけない。勇者の力が必要なんだ」
翔花「だから、私は勇者じゃないんだってば」
ゲンブ「いや、粉杉殿は勇者でござる。我にクウガの力を見せてくれ、平成ライダーの世界へ開眼させてくれた」
ヒノキ「うむ、今はまだ未熟でも修行の旅を終えて、必ずや勇者となるであろう。わらわは、そう予見した」
ハイラス「勇者になるのが、翔花どのの運命でござるよ」
翔花「イヤだ。勇者なんかよりも、NOVAちゃんと一緒がいい(涙目)」
NOVA「翔花、その涙は何だ? その涙で世界が救えるのか?」
翔花「え? NOVAちゃん?」
NOVA「こうしている間にも、お前の妹は希望を胸に戦っている。お前が勇者じゃなければ、お前は妹の希望を裏切ることになる。ピンチの妹を救えるのは、お前しかいないんだ。まあ、お前が勇者になるのを拒むと言うのなら、俺が邪神Kと戦うだけだがな。討ち死にするのを覚悟の上でだ。行くぞ、ヒノキ姐さん、ゲンさん。我が娘とは言え、甘え癖の抜けない奴に用はない」
ヒノキ「ちょっ、新兄さん。それはいくら何でもあんまりじゃないか?」
ガイア『我が遠き娘よ。お前には使命があるのです。大地を守る使命が。その使命を果たさずして、安息の日々を得ることは許されません』
翔花「……そうみたいね。今、戦っている人たちの心の声が、私にも聞こえたような気がする。そっか、邪神Kの中には、KPちゃんが捕まっているのね。だったら助けないと。だけど、私の力は勇者になるためのものじゃない。ただ、誰かの涙を見たくないから。みんなの笑顔が見たいから。私一人の涙で世界が救えるのなら、私は……私は、青空になる!」
ガイア『この力。スペースGには及ばぬまでも、モスラの力に通じる想いを感じます。今だ覚醒に至らぬとはいえ、確かにこの娘は成長しているのですね』
ゲンブ「今なら分かる。これが空我の力か。ならば、我はクウガを助けるゴウラムとなろう。ゴーレムではなくな」
翔花「NOVAちゃん、待って。私もいっしょに戦う。NOVAちゃんのために、悪霊でも邪神でも倒すんだから」
NOVA「それじゃダメだ」
翔花「どうしてよ」
NOVA「俺が求める娘は、俺の召使いじゃない。俺が愛するのは、俺を愛する者ではなく、俺の愛する何かを共に愛する者だ。お前は俺のためではなく、俺の愛するもののために戦え。その覚悟があるのなら、この船に乗れ。自由と夢のためにな」
翔花「船? そんなものがどこに?」
NOVA「空だ」
翔花「空?」
NOVA「これが……明鏡戦隊メガネンジャーの母艦、アストロメガネウラだ」
【なつかしアニソンシリーズ】キャプテンハーロック ED『われらの旅立ち』水木一郎 ★高音質★ 【full】
ドクター・ウルシェード「NOVA司令、準〜備完了したぞ。い〜つでも出発できる。戦闘準〜備も〜万端、手〜抜かりなし。久々の晴〜れ舞台、待ち遠しかったぞい」
NOVA「ドクター、いいタイミングだ。いざ行かん、我らの戦場へ」
翔花「え? NOVAちゃんが司令って、どういうこと?」
NOVA「お前にはまだ教えてなかったかな? 俺、メガネンジャーの司令なんだ」
翔花「嘘、私そんなの聞いてない」
NOVA「そう言えば、お前が修行の旅に出てから、結成された戦隊だったな。お前が修行している間、俺だっていろいろ頑張って来たんだぜ。ヒーロー愛を胸に、俺らしく魂を燃やしながらな」
翔花「NOVAちゃんはヒーローを愛しているのね」
NOVA「当たり前だ。それに平成後の新時代は、小説家だってヒーローになれるんだ。平成ライダーが終わった後は、お笑い芸人社長とか、小説家が主役をやるんだぜ」
翔花「そうなの?」
NOVA「そうさ。新時代のライダーは、作家、ライターなんだ」
翔花「だったら、NOVAちゃんだって主人公になれるわね」
NOVA「いや、俺は今さらこの年で主人公って柄じゃない。サポート能力に長けたおやっさんキャラでいい。主役はお前たち若い者が担うんだよ」
翔花「NOVAちゃんは、私に主役になって欲しいの?」
NOVA「なって欲しいも何も、花粉症ガールの物語って、そうじゃないのか?」
翔花「分かった。私、主役になるわね。花粉の光で世界を照らす勇者に」
NOVA「だったら、俺はそれを支えるサポート役をするぜ。神サポート能力を持った、博多南さんのようなメガネ親父な」
翔花(私が主役で、小説家のNOVAちゃんが私を助けるヒーロー物語かあ。そんな世界があったらいいなあ。仮面ライダーの後は、花粉ライターとか……)
ヒノキ「新兄さんとコナっちゃんは、アストロメガネウラに乗ったようじゃのう。ゲンブ、わらわたちもラビットタンクに乗って、一緒に戦場へ向かうぞ」
ゲンブ「とうとう、ラビットタンクの初戦闘でござるな。この日が来るのを、どれほど夢見てきたことか」
ハイラス「健闘を祈っているでござるよ。できれば、私も同行したいところでござるが、この地の守護を空っぽにするわけには……」
ガイア『ハイラスよ。この屋久島を、クリスタル湖とやらに次元回廊でつなぐのです。お前の次元ドルイドの力と、我が神力を以ってすればできるでしょう』
ハイラス「え、よろしいのですか?」
ガイア『時空魔術師の紡いだ父娘の絆、20周年の祝祭、そして希望や夢の力で邪神や悪霊と戦う姿を、応援し、見極めたくなった。分断された世界をつなげることは、今の地母神の本意でもあれば』