花粉症ガール外伝・コンパーニュ記

会話リプレイ形式の「精霊少女や仲間たちの趣味雑談ブログ」。お題はTRPGを中心に特撮・怪獣ネタ成分が濃厚。現在は、ソード・ワールドのミストグレイヴ妄想リプレイ「魔神ハンター」を終了に向けつつ寄り道迷走気味。

マッスル太郎と、牧場の少女(SWミストキャッスル6ー7)

残りのクエス

 

太郎(ゲンブ)「そろそろ大詰めに入ったマッスル太郎の物語。あと残り経験点1600点を稼げば、そのままエンディングへ移ることができそうでござる」

ヒノキ「ゴールが見えた感じじゃな」

太郎「そして、物語的にクリアすべきクエストは、牧場にいる少女ハイネを助け出し、また牢獄にいる外国の貴族を助け出し、後は因縁あるヒューリカとの決着をつければ、ほぼ思い残すことなく、街を出ることもできよう。それで経験点が足りなければ、闘技場でバトルして稼ぐことも一興」

ヒノキ「では、ランダムミッションを決めるとするかの」

太郎「出目3は?」

ヒノキ「インクの入手じゃな」

太郎「それなら、露天市場のアイテラさんのところに向かうでござる。ついでに、ミステリー同好会のよしみで、入手した水門の開閉コードを教えてやろう」

アイテラ『驚き……3つ揃うなんて……』

太郎「最後のコードは、鮮血城の図書館にあったでござるよ」

アイテラ『鮮血城? 入ると……生きては出られないはず』

太郎「だけど、本好き、ミステリー好きは大歓迎でござる。内部はトラップだらけで、確かに素人が入れば、タダでは済まないが、私と一緒なら大丈夫。今度、行ってみないでござるか?」

アイテラ『それは……行ったら最後……帰って来れなそう』

太郎「警戒しなくても大丈夫。城主さまは意外と優しい方だから」

アイテラ『違うの……本がいっぱいだから……夢中になって……帰りたくなくなる予感』

太郎「ああ、そういうことでござるか」

アイテラ『ところで、3つのコードを並べてみたの。何かに気づかない?』

 

438

951

276

 

太郎「何かって何でござるか?」

アイテラ『ヒントは……魔方陣

太郎「魔法神? 知識神キルヒアでござるか?」

アイテラ『話は終わり。インクの材料は、涸れ井戸で白い草10個を集めてきて』

太郎「涸れ井戸でござるか。今回は近場でござったな」

●霧の街のマップ(6ー7時点)

   青字は宿泊可能地点。

 

                                        ヤムール  奴隷 血染めの

  牧場  ー 娼婦街黒の丘 酒場市場ー 

    l            l      l        l           l            l

   l    l   泉の    l     ティダン  l

路地裏施療院ー 広場鮮血城ー神殿跡ー牢獄

    l            l      l           l           l      l

常夜      l      サカロス       l   灼熱の踊り  l

回廊涸れ井戸神殿跡 ー    ー 子亭ー  廃屋

    l             l           l           l       l         l

   港ー  三色の天幕庭園ー翡翠の塔ー 叫び

                 (拠点)    l                    屋 の門

                      l          l            l       l        l

              ダルクレム     l               l           l        l

     神殿 ー骨の川処刑場ー市場ー奴隷宿

                       l         l     l         l   l

      剣闘士の宿舎 ー 追い剥ぎー廃墟ー嘆きのー腐敗

        l          小路    l         広場   神殿

                         l   I             l           l           l

                     闘技場麻薬窟ー帰らずー知識S館

               の街 神殿跡

 

 牧場にて

 

 露天市場から天幕に帰還したマッスル太郎は、涸れ井戸での草集めを後回しにし、先に牧場クエストを解決することにする。

 

太郎「ここは、初期に偵察ミッションで来たっきりで、あまりじっくり探索していなかったでござるよ」

ヒノキ「高い石塀に囲まれた牧場には大きな鉄格子の門扉があって、中を覗き見ることができるが」

太郎「周囲に警戒しながら、塀の中を覗くとしよう」

ヒノキ「塀の中は広大な庭園になっていて、色とりどりの花々が咲き乱れておるのう。奥に白亜の建物が見えて、その傍らにはプールがある。ギリシャ風、あるいはU40風の簡素な白い衣を身に付けた少年少女の姿や、楽しそうに裸身で泳いでいる無垢な男女の姿も見えて、まるで楽園のような光景じゃ」

太郎「陰鬱な霧の街には似つかわしくないでござるな」

ヒノキ「うむ。明るい絵画芸術のような様子に見惚れていると、突然、『ねえ、あなた、誰?』と美しい少女の声で話しかけられる。言葉は汎用蛮族語で荒々しい響きなのに、少女の柔らかい声で緩和されて、好奇心に満ちたネコのように聞こえるのじゃ」

太郎「ずいぶん描写が細かいでござるな。声の主に目を向けるが」

ヒノキ「塀の陰に潜むようにしていたのは、真紅の髪の少女じゃ。無邪気で、人を疑うことを知らないような澄んだ瞳をしていて、まるで、わらわのようじゃの」

太郎「なるほど。ならば厄介ごとに巻き込まれないように、帰るとしよう」

ヒノキ「ちょっ、どうして帰るのじゃ?」

太郎「アリナ様のようと言われれば、どんな無理難題を押し付けてくるか、分かったものじゃない。触らぬ神に祟りなし、と言うではござらんか」

ヒノキ「太郎が去ろうとすると、少女は哀しそうな涙目になった。邪険に扱われるのに慣れていないようじゃ」

太郎「仕方ないでござるな。お笑い芸人としては、少女の涙は見たくない。気を取り直して、いつもの営業スマイルで『どうも〜、お笑い芸人のマッスル太郎です。マッスルパワー!』といつもの決めポーズを示すとするか」

少女『お笑い芸人さん? だからスマイルなのね』

太郎「いや、私の仕事は笑わせることであって、自分が笑うことではござらん」

少女『だけど、歌い手さんは自分が歌うし、踊り子さんは自分が踊るし、語り部さんは自分が語るわよ。だったら、お笑い芸人さんは自分が笑うんじゃないの?』

太郎「う〜ん、それを言われると、コメディアンは笑わせ芸人と称する方がいいのかも。自分で笑ってちゃ、芸人は務まらないでござる」

ヒノキ「とは言え、仏頂面でも務まらないと思うがの。それはさておき、少女は『私はハイネ。塀の外の人と話すのは初めてなの』と、はにかんだような笑顔を向ける。『だけど、お外の様子には興味があるので、お話を聞かせてくれませんか?』と好奇心旺盛そうに瞳を輝かせる」

太郎「外の世界に興味があるのでござるか?」

ハイネ『ええ。ここから出たことがないから、もっと広い世界をこの目で見てみたいの』

太郎「連れ出してあげる、と言えば、ついて来るでござるか?」

ハイネ『えっ、本当に? だけど、ここにはバルバロス様の警備兵と、見張りをしている幻獣さんたちがいて、簡単には抜け出せないわ』

太郎「君さえ、その気なら、何とかしてあげられると思うが」

ハイネ『夢みたい。あっ、私の一番の夢は、翠将さまに気に入られて、永遠に美しい翡翠の像になって飾られることなんだけど、多分、そこまでの栄誉に預かるのは無理だと思うので、年に一度の謝肉祭の主菜として上位バルバロス様に美味しく召し上がっていただければ、幸せかな。でも、その前に外の世界を少しは知っておきたいの。だから、夜に抜け出て、明け方まで散策して、朝には帰るってことでどうかしら?』

太郎「そういうのでよろしいのでござるか?」

ハイネ『うん。一夜限りの夢ってことで、外の世界を旅するの。それぐらいなら許してくれるわよね。でも、無理かな。やるならこっそり抜け出して、朝までに帰らないと、怒られちゃうし』

太郎「分かったでござる。夜になったら迎えに行くので、門の近くで待っていて欲しい」

ハイネ『わ〜い。お笑い芸人さんは、いい人ね。まるで天使さまみたい』

太郎「うう。魔神のように細心に、天使のように大胆に行動せねばな」

 

少女の救出作戦(計画編)

 

太郎「それにしても、夜に牧場を出て、深夜にどこかに行き、朝には帰らないといけないということだと、2区画しか動けないでござるな。牧場から2区画の範囲だと、娼婦街、黒の丘、路地裏、施療院、常夜の回廊の5ヶ所のみ。女の子を連れて安心な場所が施療院しかないというこの状況は何とかならないでござるか」

ヒノキ「一番、確実なのは娼婦街に誘い込んで、アリアドネに誘惑させて吸血してもらうとかじゃろうか?」

太郎「それは普通に考えて、バッドエンドでござろう。朝までという期限がなければ、ウルスラの施療院に連れて行き、彼女に説得してもらい、その後、鮮血城の図書館で本でも読みながら、いろいろ勉強してもらう。少なくとも、翠将や上位蛮族の供物にされることが決して幸せでないことを、ハイネ嬢に納得してもらわないと、サンドリーヌのところに連れて行くことなどできそうにない」

ヒノキ「無理やり拉致してから、意識のないハイネをサンドリーヌに引き渡して、後は彼女に任せるというやり方もなくはないがのう。いずれにせよ、このクエストはミストキャッスルの中でも、一、二を争うぐらいデリケートな内容じゃ。蛮族が悪という認識のない奴隷少女を、どうすれば物理的だけでなく、精神的に救済できるかを問うてくるわけじゃから、ある意味、プレイヤーの倫理観まで試されることになる」

太郎「ハイネという少女の特殊な心理状況を、GMがプレイヤーに伝えることも高度なロールプレイ、あるいは情報伝達能力を必要とするし、プレイヤー側にも相応の理解力を求められる。その上で、双方の納得できる落としどころをどう構築するかが問われて来るでござるな」

ヒノキ「GMとしては、プレイヤーに『どうすればハイネを救えるか』を問題提起するよりも、一緒に相談してグッドエンドに持って行く手段を語り合うぐらいが良いと考えるのじゃ。プレイヤーに対する挑戦者ではなく、物語の共同構築者としてな」

太郎「正直、マッスル太郎のキャラでハイネの心理を理解するのは困難でござるよ。人族の笑顔のためにお笑い芸を提示して、それが引きこもり少女の生きる希望になるとは思えん」

ヒノキ「確かにの。供物牧場という外の苦しみから隔離された楽園で、翠将という神に自分自身を捧げることが幸せだと教わってきた娘に、過酷な外の世界の現実を知らしめても引きこもりを助長するだけじゃろうし、この世が苦しいから神に己を捧げることによる救済を求めるのも、一つの幸福と解釈できなくはない。現在の多くの日本人にとっては納得しにくいかもしれんが、そういう価値観を持つ相手を、ではどうすれば説得できるか、などを真剣に考えたことのある者は少数派じゃろうしのう」

太郎「信じている蛮族が悪だと突きつけても逆効果でござろうな。幸い、サンドリーヌが人族との共存を考える蛮族だから、彼女を翠将の代理人であるかのように説得すれば、いいかもしれん。兄のクリスもサンドリーヌに仕えているわけだし、仕える主人を置き換えればハイネも受け入れやすいとは思う。いずれにせよ、サンドリーヌ館までは遠すぎるから、まずは朝までに帰るという時間制限をなくして、奴隷の首輪も早急に外す必要もある。そして、ウルスラや鮮血城の城主の少女ユディトらに説得してもらう方向で考えたい」

ヒノキ「うむ。プレイヤーキャラのロールプレイで説得困難な場合は、それができそうなNPCに引き合わせるというのも、TRPGテクニックの一つじゃからな」

太郎「そう。自分一人でできないことは、上手く人脈を活用するのも交渉能力というものよ。では、まずウルスラに事情を話して、ハイネの身柄を預ける根回しをする。そして、夜に牧場に侵入し、先に彼女の首輪を外す鍵を探した後で脱出を敢行する。その後は、ウルスラに託して、それから鮮血城に匿ってもらうのがいいか。そこの城主とは、外部から隔離された引きこもり少女同士、話が合うかもしれん。外の世界に興味があるなら、図書館の本を読んで予習するのもよかろう」

ヒノキ「ここぞというところで、NPC人脈をフル活用じゃな」

太郎「他には、サンドリーヌ館に到着する前に、長屋のミランダ婆さんにも説得してもらうのがいいかもしれない。少なくとも、人族の価値観というものも伝える母親タイプの親御さんが望ましい。よって、牧場→施療院→鮮血城→長屋→サンドリーヌ館という形で少しずつ人の世界の情というものに馴染ませてあげることで現実復帰を志すでござる。その上で、どうしても蛮族に身を捧げることを望むなら、サンドリーヌに血を提供するという手段もあってWinWinの関係を構築できるでござろう。こういう形でどうであろうか」

ヒノキ「さすがはゲンブじゃ。作戦の流れとしては、悪くない。あとは牧場からこっそりハイネを救出するゲーム的判定が上手く行くかどうかじゃな」

太郎「問題はそこでござる。どんなに素晴らしい作戦も、ダイス目が悪ければ水泡に帰すのがTRPGというものだからして、そこは幸運を祈るのみ」

 

少女の救出作戦(実行編)

 

ヒノキ「では、夜になったのじゃ」

太郎「塀に登って牧場に侵入するでござる」

ヒノキ「目標値10の登攀判定じゃ」

太郎「基準値8なので、ピンゾロじゃない限り成功する。出目8で問題なく塀を乗り越えた」

ヒノキ「では、1D振れ」

太郎「6」

ヒノキ「運よく、見張りの蛮族や幻獣に出くわさずに済んだ」

太郎「では、ハイネと会う前に、建物に侵入して、奴隷の首輪の鍵を入手するでござる」

ヒノキ「それには探索判定13じゃ」

太郎「20が出たでござる」

ヒノキ「まるで熟練の怪盗のような鮮やかさで、太郎はたちどころに鍵を見つけ出した。もう一度、1Dを振れ」

太郎「5」

ヒノキ「ここの警備は、まるでザルじゃのう。誰も太郎の侵入には気付かない」

太郎「おそらくは、翠将の経営する牧場に侵入するような命知らずがいようとは思いもしないのでござろう。では嬉々として鍵を持参して、ハイネのところに駆けつけていいのでござるな」

ヒノキ「ああ。ハイネは約束どおり、門の近くに身を潜めて待っておった」

太郎「では、ハイネを背負ったまま、登攀判定を試みるが?」

ヒノキ「その前に1Dを振れ」

太郎「5」

ヒノキ「本当に見張りが来ない。どうなってるのじゃ、ここの監視は?」

太郎「きっと居眠りでもしているのでござろう」

ヒノキ「では、ハイネを背負っての登攀じゃと、難易度+4して14じゃ」

太郎「ところで登攀判定は、スカウト+敏捷の他に、冒険者レベル+筋力判定でも可能なのでござるな。筋力を使うなら基準値が8ではなく10でできるのでござるが、それでもよろしいか?」

ヒノキ「確かに、女の子を担いでの登攀なら、筋力が役立たないはずがないのう。承認した」

太郎「なら、出目4で成功するでござる。(コロコロ)出目は6」

ヒノキ「ル=ロウド神の加護が味方したように、マッスル太郎は大禍なく少女ハイネを連れ出して、牧場を後にした。おかしい、3分の2の確率でトラブルが発生して、蛮族や幻獣とのバトル展開になるはずじゃったのに」

太郎「3回振って、いずれも5か6が出るとは、まことにもって幸運でござった」

ヒノキ「ここまでの展開で、★3つを進呈じゃ」

 

施療院にて

 

太郎「さて。深夜に施療院を訪れるでござる」

ハイネ『ここは?』

太郎「病気の人の面倒を見る場所でござるよ」

ハイネ『ああ、お医者さんとか看護士さんのいるところね。本で読んだことがあるわ。ビョーゲンズがヒーリングッバイってお手当てされたりする話。生きてるって感じ、とか』

太郎「一体、それは何の本でござるか」

ヒノキ「きっと、ラクシアにもプリキュアに準じた物語があるのじゃろう」

太郎「本当に?」

ヒノキ「そもそも、魔法がじっさいにあるファンタジー世界なんじゃから、不思議な力でお手当てする少女の物語など、割と一般的にあるじゃろう」

太郎「いや、そうかもしれんが。う〜ん、確かに神さまも妖精さんもいる世界でござるからな。ルーンフォークには理解不能なだけで、きっとプリキュアみたいな冒険者の女の子が活躍する童話もあるのかも」

ヒノキ「何しろ、ソード・ワールドの公式リプレイにも魔法少女の話があるぐらいじゃしのう。今さら、プリキュア風の物語の一つや二つあっても問題なかろう」

太郎「GMがそう言うなら、問題ないでござるか。ところで、深夜の診療所だから、みんな寝静まっているので ござろうか?」

ヒノキ「ウルスラは起きていて、薬草の調合をしていることにしよう。レンジャー技能も持っているので、その手の仕事は得意という設定じゃ」

太郎「一応、私もレンジャーなのだが、まだレベル1の初心者ゆえ、お手伝いはあまりできそうにないでござる」

ウルスラ『だけど、せっかくいるのだから、薬草をすり鉢とすりこぎでつぶすぐらいはできるだろう』

太郎「それぐらいなら何とか」

ハイネ『面白そう。私も手伝わせて下さい』

太郎「ウルスラさんは、どう反応するでござるか?」

 

ウルスラ『手伝ってくれるのはいいけど、遊び気分でしているんじゃないってことは忘れないでもらいたいね。ここではみんな、生きるのに必死なんだ』

ハイネ『はい、私も一生懸命お手伝いします』

ウルスラ『……だけど、ここで時間をつぶしていていいのかい? 朝までには牧場に帰らないといけないんだろう?』

ハイネ『それはそうですけど……でも、私は遊びに来たんじゃなくて、外の世界をあれこれ見て、お勉強したいと思って……』

ウルスラ『勉強だったら、明日、図書館に行く予定だけど、一緒に来ないかい?』

ハイネ『明日ですか。図書館ってものには憧れますが、朝までに帰らないと怒られてしまうし……』

ウルスラ『太郎さん、説得してやりな』

 

太郎「え? アリナ様が一人ロールプレイで解決して下さるのではないのでござるか?」

ヒノキ「しかし、朝までに牧場に帰るつもりのハイネを説き伏せるのは、プレイヤーの仕事じゃ。図書館に行きたいというお膳立てはわらわが整えたのじゃから、お主もハイネの説得に言葉を尽くせよ」

太郎「う〜ん、だったら、『もう牧場には帰らなくてもいいんだよ』と声をかける」

ヒノキ「そいつはまた唐突じゃの。『どうして?』とハイネは尋ねる。何だか約束が違うと思って、不安そうな表情になったりもするのう」

太郎「実は、とある蛮族の貴婦人さまが人族の少女を侍女に欲していて、私が使いの者として、あなたをスカウトに来たでござるよ」

ハイネ『私をスカウト? もしかして、歌と踊りのレッスンを受けて芸能界デビュー?』

アイカツスターズ! アイドル名かん (テレビ超ひゃっか)
 

太郎「いやいや、芸能界は関係ないでござる。そのご婦人は、これから人族の社会に出向く予定なので、身の回りの世話をするお付きの者を探していて、その条件に赤毛の少女を指定された。もう一人のお付きの少年も赤毛なのでな。赤毛の兄と妹という形なら、見栄えもするだろうとお考えなのでござるよ。だから、スカウトの私が参った次第」

ヒノキ「確かにスカウト技能6じゃから、嘘は言ってないのう。言っていることのニュアンスが少し違う気もするが」

太郎「そうは言っても、どう話を進めればいいのやら」

ハイネ『翠将さまは、その貴婦人の方に私を委ねることにした、と?』

太郎「ま、まあ、そういうことになるでござろうか。ほら、私たちがこっそり抜け出すのを邪魔する見張りは現れなかったし、私はこういう物を持っている。そう言って、奴隷の首輪の鍵を見せるとしよう。これで、あなたは自由の身でござるよ」

ハイネ『自由……って何?』

太郎「そう来たでござるか。確かに、ずっと塀の中で管理されて暮らしていたのだから、こうもなろうか。ええと、自分の意思で行動し、自分の責任をきちんと果たし、その上で、やりたいことを好きなようにできることでござるよ」

ハイネ『自分の意思……やりたいこと。それって、バルバロスさんたちのルール?』

太郎「いや、それは少し違……わなくもないか。人族の主神は調和と協調を重んじ、蛮族の主神は弱肉強食と自らを強く鍛えて力を求めることを推奨する。人族は法を重んじ、蛮族は自由気ままを重んじる、というラクシアの設定でござったな」

ヒノキ「まあ、この霧の街は、蛮族社会に珍しく法治が為されておるがな。翠将の力に基づく法じゃが」

太郎「つまり、自由を主張するのは、蛮族の理を強調することになってしまうでござるか。何だかジレンマを感じるものよ」

ハイネ『私は人族は弱くて、バルバロス様に奉仕する種族だと教わりました。罪深く弱い人族が、自由などを求めてもいいのでしょうか』

太郎「罪深く弱い、と申したか。ならば、罪を改め、強く生きればいいでござる。このマッスル太郎も、自らの生まれついての罪、呪いを克服するために、人々の笑顔のために働くことを旨とし、明るく強く生きることを目指した結果、奴隷の身から名誉蛮族の地位を勝ちとったでござるよ。ハイネさんも、笑顔を絶やさず、明るく強く生きることを目指されては? 罪とか弱さとかではなく、贖罪と成長の道に一歩踏み込んでみては?」

ハイネ『贖罪と成長の道……それにはどうすれば?』

太郎「まずは、自らを縛る首輪を外すことでござる。そう言って、首輪に鍵を差し込み、解除して差し上げよう」

ハイネ『え? 首輪が外された? 何だかスースーする……』

太郎「それこそが自由の第一歩でござるよ。私も、奴隷生活が長かったゆえ、他人の首輪を外せる自分になるとは感慨深い」

ハイネ『だけど、自由と言っても何をしていいのか』

太郎「まずは、勉強でござるな。貴婦人の侍女というものに必要な教養を、図書館で学べばいい。字は読めるのでござるか?」

ハイネ『ええ。バルバロスさんの言葉なら』

太郎「これからは人族の言葉も学ばないと。とりあえず、セージ技能の習得から始めればいいが、もしも芸能界を目指すなら、バード技能という道もござるな。もちろん、一般技能でハウスキーパー技能を身につける必要もござろうが」

ハイネ『分かりました。私、一生懸命お勉強します。その蛮族の貴婦人さまのために。あのう、その方の名前は何とおっしゃるのですか?』

太郎「話してもいいでござるか。サンドリーヌ・カペー様。そして、それに仕えるお兄さんがクリスという」

ハイネ『サンドリーヌ・カペー様が新しいご主人様。そして、クリスお兄さまですか。その方々に仕えればいいのですね。それが私の自由、責任、やりたいこと……』

太郎「アリナ様。何だか私が、この無垢な少女を洗脳しているように思えるのは、気のせいでござるか?」

ヒノキ「人を疑うことを知らないとは、こういうことじゃろう。もちろん、ハイネにもこれまで蛮族管理下で身につけた『隷従と奉仕の精神』というものがあって、そこに『自己犠牲の美徳』が加わっておったのじゃが、それを急に改めようと思っても無理なこと。ならばせめて、『生きる目的』を与えることが彼女を救う道だとシナリオにも書いているし、奴隷から名誉蛮族の地位を勝ちとったマッスル太郎の体験談が、彼女の心に響いたのではなかろうか」

太郎「まさか、自分の体験が、少女のモデルケースとして功を奏するとは思っていなかったでござるよ」

 

ウルスラ『話はついたようだね。だったら、今夜はもう遅いから、お休み。明日は図書館に行くよ』

 

鮮血城にて

 

ヒノキ「そして、一晩明けた。ルールどおり厳密にするなら、施療院で寝泊まりした朝は、病気判定を行うことになるのじゃが、ここでハイネが病気になると物語が台無しになるので、判定はしない。ウルスラが特に気遣って、ハイネを衛生の行き届いた部屋で休ませてくれたのじゃろう。早朝を経て、朝に施療院を出発。昼に鮮血城に到着、というスケジュールで構わないな」

太郎「ウルスラに従って、ハイネ嬢とともに鮮血城へ向かうでござる」

ヒノキ「一応、ハイネの服じゃが、牧場での白い衣装は目立ちすぎるので、簡素な平民服と、赤毛を隠すフード付きの外套をウルスラが用意してくれた。いつもと違う服を着て、おしゃれ気分を刺激されたのか、ハイネはニコニコ嬉しそうにしている」

太郎「取り立てて着飾ったわけではないのだが、いろいろと新鮮なのでござろうな」

ヒノキ「派手に着飾った衣装が所望なら、娼婦街のアリアドネが提供してくれようが、ウルスラの方は実用的で素朴な衣装しか持っていないのじゃ」

太郎「というか、アリアドネの用意する服は、ハイネには早すぎるであろう。念のため、ハイネの年齢は何歳という設定でござるか?」

ヒノキ「シナリオだと、ハイネ16歳。兄のクリスは22歳で、サンドリーヌは外見年齢28歳となっておる。なお、鮮血城の現当主ユディトも16歳で、ハイネの良き友人ともなろう」

太郎「同い年の女の子で、どちらも過保護な引きこもりでござるか」

ヒノキ「世間知はどちらも似たようなもので心許ないじゃろうが、ユディトの方は保護者がいて、しっかりとした教育を施されている。ハイネに対しては、妹分として世話を焼いてくれることは間違いないのう」

太郎「では、かくかくしかじかとウルスラとハイネを、ユディトたちに紹介して、事情説明を乳母役のルーンフォーク殿にしておくでござる」

 

アデ『翠将の元奴隷で、サンドリーヌ・カペー様の侍女として教育して下さいということですか。分かりました。ユディトちゃんのお友だちということで、お預かりいたしましょう。ユディトちゃんのあんなに嬉しそうな顔を見るのも初めてですし、私では母親役はできても、友だちにはなれないですからね』

太郎「それは私も同じこと。女の子の養育係など、このマッスル太郎には務まらないでござる。私にできるのは、人々の笑顔のために戦い、働くことだけでござるから」

アデ『お笑い芸人というのは、ずいぶんといろいろこなすのですね。大商人の下働きから、施療院の手伝い、ある時は闘技場でパフォーマンスし、また、ある時は古代遺跡の探検、そしてまた、ある時は囚われている人々の救出とか、貴族の侍女の養育依頼まで』

太郎「実質、何でも屋みたいになっているでござるが、それもみんなの笑顔のためのヒーロー魂でござるよ。では、また機を見て、ハイネ嬢を迎えに来るゆえ、それまでの面倒をよろしくお頼み申す」

 

ヒノキ「では、一連のハイネクエストはこれにて一度、終結じゃ。あとは、サンドリーヌに状況報告してから、クエスト達成分の報酬を精算するとしようかの。それは、また後日の話ということで」

(当記事 完)