月と火
コンパーニュの塔の上空。
少し欠けた望月が東天に昇り、西天は燃え上がる夕暮れ時。
二つの光が激しく交錯していた。
かたや月光の黄金、かたや烈火の真紅。
群青色の空は、人知を超えた力が激突する戦場だった。
そしてーー、
ヒノキ「この女、いや、男の娘か。のらりくらり、わらわの攻撃を避けるばかりで、ちっとも埒が明かん。もしや、最初から時間稼ぎが目的か?」
ダイアナ「あら、さすがに気付き始めたかしら。それじゃ、そろそろ撤退する頃合いね」
ヒノキ「そうはさせぬ。月の女神を名乗る女が、わらわをここまで挑発してから逃げるなど、恥を知れい」
ダイアナ「だって、スーちゃん、こちらの予想以上に強いんですもの。そんな幼い少女の姿で、本気モードになっていないのに、あたしをここまで圧倒するなんてね。炎をまとって体当たりを繰り返すんだから、こっちは近寄ることもできない。鏡で幻影作って惑わしても、片っ端から割られていく。おまけに、割れた破片でダメージを当てる策も、破片そのものが高熱で焼失してしまうので、通用しない。正直、こっちはあなたの突撃を幻作って避けるだけが精一杯なのよ。まさか、ここまで恐ろしい相手だとは思わなかったわ」
ヒノキ「ダイヤの光で目をくらまし、多くの幻像で相手を惑わし、隙を突いて仕留めに掛かる。並の相手なら通用したかもしれぬが、このわらわには通じん。全ての幻ごと焼き尽くしてやるからの。ダイヤモンドは強固なれど、所詮は炭素ゆえ、容易く燃える。そなたの放つ月明かりとて、わらわの放つ劫火の輝きには及ばん。冥界へと招待されるのはそなただったようじゃな。おとなしく降参するがいい」
ダイアナ「ええ、降参するわ。スーちゃん、いいえ、花粉症ガールV3の日野木アリナ様。あなたこそ我々、マーキュリー・バットの新たな女王にふさわしい。その強大なお力を、あたしたちのために使っては頂けないでしょうか」
ヒノキ「何? 力では敵わんと見て、懐柔策に出たか? だが断る。この日野木アリナ、おぬしらのような世間を騒がす快盗団、時空犯罪者に協力などせん。ましてや、大切なコナっちゃんの妹御、花粉症ガール2号を過酷な目に合わせたとあってはな」
ダイアナ「それはあたしたちのせいではないわ。諸悪の根源は教祖グロワール。あたしたちの時代に来た粉杉翔花をバットクイーンに改造したのもグロワールの仕業。あたしたちは圧制統治を行うグロワールと戦うレジスタンスの一員よ。グロワールのところから脱走したクイーンを旗印に、反抗活動を行う正義の快盗チーム、それがマーキュリー・バット。もっとも、あたしはクイーンなんて女を信じていないんだけどね。クイーンはグロワールに洗脳された女。いつあたしたちを裏切るか分からない。新たなクイーンを擁立するのなら、あなた様のような正義心に溢れた真の強者こそふさわしい。どうか、あたしたちといっしょに未来へ赴き、グロワールを打倒するのに協力していただけませんか?」
ヒノキ「むむ。その言葉、まこと相違ないか? よもや、詐術を用いて、わらわを惑わそうとはしておらんか?」
ダイアナ「そんなに疑うなら、あたしのこの目を見て判断してくださいな。ダイヤのようにキラキラ光る、澄んだ瞳を」
ヒノキ「自分で、そんなことを言うか? その手には乗らん。どうせ、瞳術の類でわらわに催眠術でも掛けようという腹であろう。わらわを力任せに突っ込むだけの愚か者と見なすでない。力任せの戦術をとるのは、それが最も効率よいからじゃ。技と力と知の三拍子揃ったのがV3たる所以。たやすく言を翻しそうなおぬしの言葉は信用ならん。力を貸して欲しければ、最初から誠意を示して交渉すべきところを、散々挑発して、戦って、勝てぬと見たら、にわかに正義を僭称する。昔から、よく言うじゃろう。嘘つきは泥棒の始まり、と。快盗が泥棒である以上、その言葉が信じられる道理はない。とりわけ、ダイアナジャック、おぬしは全てを虚像で塗り固めたような臭いがプンプンするわ。性別を偽ることも含めてな」
ダイアナ「……そうね。あたしの人生は嘘ばかり。今さら言い繕うこともできないわ。あなた様のような賢明な御方には、何もかも見透かされてしまうのね。分かりました。あなたを女王に擁立するという、虫のいい願いは今はあきらめます。もう少し真っ正直に生きて、あなたを信用させられる女に生まれ変わったら、もう一度、出直して来ます。それまでは、慎んで身を引きましょう。あなたもどうかお元気で」
ヒノキ「おお、わらわの説教が実を結んで、何とか改心してくれたようじゃの。しっかり更生して出直すがいい。達者でな」
ダイアナ「ええ、それではアデュー(ニッコリ)」
ヒノキ「ふむ。いろいろあったが、最後はさわやかな笑顔を残して、旅に出たか。これで万事解決めでたしめでたし……って違う。これでは巧みな言葉に乗せられて、相手をむざむざ取り逃しただけではないか。おのれ、快盗。わらわの善意につけ込んで、真しやかな作り話で惑わしおって。よもや、わらわの大切なものを盗んで行ったのではあるまいな。ハッ、もしかして、コナっちゃんの身に何か?」
白きグローリー
時間を遡った昼日中。
キング「ククク。花粉症ガール、粉杉翔花。我らマーキュリー・バットの新たなクイーンとして歓迎しよう。バットクイーン亡き今、双子の姉上を擁立することが、我が仲間エースの何よりの望みだからな。そして、俺の望みはドゴランアーマー。では、共に参ろう。さあ、お手を」
シロ「行くな、翔花。くっ、身動きさえ取れれば……」
ゲンブ「奴の手をとってはならぬ。そのままいっしょに転移して、助けることもできなくなる。グッ、これしきの重力など……」
キング「無理はするなよ、兄弟。生き物は普通、生育環境で自重を支えるのに十分なだけの筋肉を維持して生きているんだ。鍛えれば、高重力にも耐えられるかも知れんが、限度はある。いくら頑張っても、物理的に不可能なことはあるもんだ。あんたがどれだけ頑張ろうが、重力の軛(くびき)からは逃れられん」
ゲンブ「グオーーッ、回転ジェットーーーッ」
キング「無駄だ、無駄。その場で、ただ火を吐いて回っているだけじゃ、どうしようもないぜ」
ゲンブ「回転しながら、プラズマ火球連射ーーーッ!」
ショーカDK「キャーーーーッ!」
キング「何だと? 花粉症ガールごと巻き込んで、めくら滅法に火球を撃ってくるだと? やめろ、そんなことをしたら……」
ショーカDK「いいよ。亀おじさん。そのままカニ王さんに火球を当てて。私のことは気にしなくていいから」
キング「何? 捕まるぐらいなら、自決しようとする考えか?」
ショーカDK「自決なんてしないわよ。これぐらいの炎なら、私は耐えられる。だって、KPちゃんが守ってくれるもの」
キング「そ、そうか。ドゴランアーマーを装着していたんだったな。それなら、炎の直撃を受ける前に撤退しないと。粉杉翔花、こっちに来い」
ショーカDK「キャーーーッ! 強引に手を引っ張らないで。花粉分解!」
キング「消えた? おのれ、兄弟。よくも邪魔をしたな。さらなる高重力で回転さえ封じてみせるわ!」
ゲンブ「グオッ。さらなる重圧がのし掛かって来る」
キング「命まで奪うつもりはなかったが、花粉症ガールが抵抗するなら仕方ない。どれほど強固な甲羅だろうと、いつまでも圧迫を加え続けていれば、いずれ砕けるのは時間の問題。いや、頑健な兄弟よりも、そっちのネコ娘の方が脆かったな」
ショーカDK「やめて。シロちゃんには手を出さないで」
キング「姿を現したか。だったら、ムダな抵抗はしないことだ。犠牲を出すも出さないも、そなたの一存に掛かっている。さあ、諦めろ」
ショーカDK「くっ、こんな時にNOVAちゃんが助けに来てくれたら。あっ、そうだ。これがあったんだ。時空通信機と、それから、あと2回だけ使えるブルーアイズ・ダミー。これでNOVAちゃんの力が借りられる」
謎の声「その必要はないぜ。俺は、もう来ている。少し遅くなったが、ハッピー・バースデイを言うためにな」
キング「何だと? この青いメガネの男、気配も見せずに、突如、戦場に現れた? いつの間に? 一体、何者だ?」
ゲンブ「おお、新星どのか?」
シロ「すると、この男が翔花の父親か?」
キング「まさか、伝説の時空魔術師White NOVAだと言うのか? バカな、奴はあの次元嵐に巻き込まれて死んだはず。今ここにいるはずがない」
NOVA「ハッ? 誰が死んだって? 次元嵐って、いつの話をしているんだ? いくら何でも情報が遅すぎるぜ。お前、俺のブログを読んでいないだろう。別に、お前には認識阻害の術を施していないんだから、知ろうと思えば、俺の健在は普通にブログを読んでたら、分かるはずだぜ。未来人というのは、最新情報を手に入れる手段も持ち合わせていないのか。その様子だと、バットクイーンまで死んだとか思ってないだろうな」
キング「クイーンが生きているだと? 我々はてっきり、あの次元嵐に巻き込まれて死んだとばかり。だから代わりの女王を擁立しようと……」
NOVA「それで、人んちの修行中の娘にちょっかいを掛けに来ただと? 一つ確認しておく。お前たちはバットクイーンの命令で、翔花1号をさらいに来たわけじゃないんだな」
キング「クイーンが健在なら、そうする必要はないだろう。だったら話は早い。クイーンを我らに引き渡してもらおう。そうすれば、そこの未熟な花粉症ガールには手を出さない」
NOVA「あのな。それで交渉になってると思うのか? 元はと言えば、クイーンだって俺の娘の花粉症ガールじゃないか。つまり、タイムジャッカーの連中が、俺の娘を改造して苦しめたって事実は変わりないんだよ。お前たちに、俺の娘を奪う権利はない。粉杉ショーカは1号も2号も、大事な俺の娘なんだ。お前たちみたいな時空犯罪者には決して渡さん!」
キング「グッ、クイーンの父親であるゆえ、話し合いを試みたが、交渉は決裂したようだな。ならば、快盗らしく奪いとっていくのみ。まずは、実力をもって邪魔者を排除するとしよう」
NOVA「間違えるな。実力を行使するのは、快盗ではなくて国際警察の権限だ。それに俺の知る限り、お前は俺に従うしかない。何せ、俺はこの〈白き栄光の杖〉の持ち主だからな」
キング「そ、その杖は!?」
NOVA「そう。この杖は至高のアーティファクトにして、この俺をただの時空魔術師からさらに成長した時空導師に覚醒させてくれる。その名もWhite グローリーNOVA。略して、WG NOVA 。Gはグローリーの他に、グレート、グランド、ゴッドなどの意味もあって、とにかく凄いNOVAってことだ。白きグローリーの力、思い知らせてくれる」
重力使いVS時空導師
キング「貴様、その杖は教祖グロワールの……」
NOVA「ああ、クイーンもその名前を出していたな。お前たちタイムジャッカーの首領で、この杖を見せられると、お前たちは俺の命令に逆らえない、とか」
キング「世迷い言を! グロワールは我らの敵だ。世界を力と教義の圧制で支配する邪悪な統治者。我らマーキュリー・バットは、グロワールの統治に反抗し、自由と解放のために活動する快盗団。貴様はその杖を持ち、クイーンを捕まえているとは、グロワールの手先か?」
NOVA「そんなの、俺が知るか! この杖は、過去の俺が創作した、NOVAの、NOVAによる、NOVAのためのアーティファクトだ。大体、何だよ、グロワールって。いかにもグロくて、悪そうな名前じゃねえか。そんな奴と、俺がどう関わっているって言うんだ?」
キング「グロワールは、栄光(グローリー)のフランス語読みと聞く。奴の持つ〈黒き栄光の杖〉、すなわちグロワール・ノワールに由来するらしい」
NOVA「そいつがお前たち、タイムジャッカーの首領じゃないのか」
キング「タイムジャッカーは一つの組織ではない。大きく分けてグロワールに従う統治派と、抵抗勢力の解放派の二つがあって、マーキュリー・バットは解放派としてレジスタンスを展開しているのだ」
NOVA「……未来世界もややこしいことになってるな。ジオウの世界とはまた違うということかよ」
キング「ジオウなど知らん」
NOVA「タイムジャッカーを名乗るなら、知っておけよ。とにかく、この杖をお前に見せても、水戸黄門の印籠のように相手を平伏させる効果はないってことだな。ちっ、楽ができると思ったのによ」
キング「とにかく、貴様がその杖を持ち、グローリーを名乗る以上は、将来グロワールになりかねんと言うことだ。ならば、ここで倒しておけば、未来がより良い方向に進むかもしれん」
NOVA「いまいち状況がはっきりしないが、振りかかる火の粉は払っておかないとな。時空の監視人としては、お前たちみたいに安易に歴史を変えようとする時空犯罪者は、見過ごせんという公的な使命もある。時空魔術師の権限において、実力を行使する!」
キング「ふん。超重圧迫グラビトン・プレッシャー!」
NOVA「重力使いか。さっきからゲンさんたちが動けずにいるのも、この影響ってわけだな。だが、今の俺にはそんなものは通用しない」
キング「何? 高重力の中で平然としているだと?」
NOVA「こいつは、魔法じゃないみたいだな。魔法だったら、杖の防護効果で反射させられるのによ。さて、どう対処するかな」
キング「その杖の力か。重力攻撃が効かないのは」
NOVA「いいや、杖は関係ない。だが、わざわざ種明かしはしないぞ。このブログの読者なら、容易に推測できる話だからな。もしも、知りたければ、後からここの6月1日の記事でも読んでおけ。ゲンさんなら分かるはず」
ゲンブ「ああ、そういうことか。影でござるな」
NOVA「御名答。幻影相手に高重力など無意味」
キング「幻影だと? こいつ、ダイアナと似た術を使うのか?」
NOVA「ダイアナ? 時空戦士の関係者の話か? それとも、ダイアナンAか?」
キング「エースじゃない。ダイアナジャックだ。我らマーキュリー・バットの一柱。今ごろは、コンパーニュの塔を襲撃しているはずだ」
ゲンブ「アリナ様のところだと? こうしちゃおれん。新星どの、こいつの重力波を破ってくれ」
NOVA「ん〜、魔法なら簡単なんだけどな。こいつの特殊能力はどうやって解除できるんだ。杖の力で、あらゆる特殊能力を無効化できればいいんだが、まだ俺も完全には使いこなせていないからな。それより、こいつを倒した方が手っ取り早そうだ」
キング「幻影ごときに俺を倒せるはずがないだろう。俺がお前を傷つけられないなら、お前も俺を傷つけられないのが道理。現場に出て来ない臆病者のハッタリ魔術師などに俺を倒すことは不可能だ」
NOVA「そうかな。俺の言葉は半分が妄言だが、残りは真実。それと同時に、この幻影も全てが偽りとは限らない。例えば、この針だ」
キング「髪の毛を一本抜いて、針にした?」
NOVA「そらよ。(ヒュッと投げる)忠告だ。避けた方がいいぜ」
キング「何をバカな。そんな小さい針ごとき」
NOVA「大きくなあれ」
キング「何? 針が大きくなって、槍になった? いや、こんな物、まやかしに決まっている」
NOVA「いいや。そいつは本物だ」
グサッ
キング「バカな。幻のはずの槍が、俺の胴体を貫いてる?」
NOVA「遅ればせながら、忠告だ。一流の幻影魔術師の術は、幻を見抜けない相手に対して、現実にダメージを与えることもあるんだぜ」
キング「まさか、貴様が一流だとでも言うつもりか?」
NOVA「いいや。俺の芸は三流さ。幻で相手を傷つけることはできんよ。だから、ちょっとしたトリックを使わせてもらった」
キング「トリックだと?」
NOVA「よく見ろよ。俺の後ろに誰がいるか。その槍を誰が投げたかを」
キング「何、まさか……」
ショーカDK「NOVAちゃん、チグリスランス、あれで良かったのかな」
NOVA「ああ、よく俺の意図に気付いて、上手く合わせてくれたな。おまけに強固な装甲をよくも貫いたものだ。ドゴランアーマーがパワーブーストしたにしても、ちょっと驚いたぞ」
ショーカDK「亀おじさんのプラズマ火球のエネルギーも取り込んだからね。さしづめ、超爆炎剛槍プラズマ・チグリスランスって感じ? 炎属性の槍だから通用すると思ったけど、私が扱い慣れていなかったせいで、威力は十分じゃなかったみたいね(てへぺろ)」
キング「俺の甲羅を貫いておいて、威力が十分でないだと?」
ショーカDK「だって、そうじゃない。亀おじさんのプラズマ火球が直撃したら、炎に耐性がない限り、爆裂四散するものでしょ。私じゃ、その威力を再現できなかった」
NOVA「できなくて幸いだぜ。こいつには、まだまだ聞きたいことがあるんだからな」
キング「喋ると思うか」
NOVA「今すぐ喋れ、とは言わないさ。お互いに行き違いもあるみたいだし、感情の整理もあるだろう。それに、あんたもそれほど悪い奴じゃないって気がしてな。今は退がれ。傷が癒えたら、また立ち合おう。今度は、ここじゃない場所でな」
キング「情けをかけると言うのか?」
NOVA「あんたが翔花の友だちを虐殺するような極悪非道な奴なら、俺も翔花も決して許さなかったさ。だが、あんたはあんたなりの流儀で、犠牲を出さないようにしていたみたいだしな。冷静になれば、話し合いの余地はあると思う。あんたらのクイーンも今は無理だが、うちの娘と魂を切り離すことさえできれば、返せるかもしれん。まあ、アンナがそれを望めばだけどな」
キング「アンナだと?」
NOVA「アンナ・BG・ブロシア。バットクイーンの人格に、俺が付けた名前だ。うちの娘の中にいつまでも居座ったままじゃ、面倒だからな。近いうちに、何とかして切り離す。その後は、彼女次第だ。あんたらと一緒に未来に帰りたければ、そうすればいい。これ以上、俺たちの時代に関わるな。未来の話は未来で解決しろ」
キング「そうはいかん。お前の杖がグロワールの証なら、今ここで倒させてもらう」
NOVA「その傷で無理をするな。どうしても、と言うなら、こっちはお前の弱点を使わせてもらう」
キング「俺の弱点だと?」
NOVA「ああ、お前がガニメの眷属だってんなら、セルジオ島のコウモリの超音波に弱いだろう。つまり、バットクイーンはお前の天敵ってわけだ。お前がどうしてもこれ以上戦うって言うなら、俺も用意したコウモリ超音波で相手してやってもいいが、正直、気が乗らねえ。だから今は退け。俺やバットクイーンが生きていると分かったなら、そっちも今後の方針を考えないといけないだろう。その上で、互いに歩み寄れないか、検討してくれ。これでも随分と譲歩しているつもりなんだぜ」
キング「……分かった。いずれ、クイーンの身柄は引き取りに来る。それまで大切に保護してくれ」
NOVA「ああ、できるだけのことはする。次に連絡したければ、前に〈事象の分岐点〉があった宙域にしてくれ。次元嵐でひどい目に遭ったが、今はアステロイド監視所が設置してある。俺とクイーンはそっちに待機している。まあ、新世界の方でもいいが、あんたらはそっちをまだ見つけていないようだしな。俺の方から、わざわざ敵になるかも知れない奴らに教えてやる義理もない。あと念のため聞くが、あの次元嵐はお前たちの仕業じゃないだろうな」
キング「我らの船もあの次元嵐で大損害を受けたのだ。エースがクイーンを救おうと、無茶なことをしたからな」
NOVA「クイーンを除けば、そのエースがリーダーか。バットクイーンがBQ、クラブキングがCK、ダイアナジャックがDJ。そしてエースがAか。ABCD、それにJAKQとはなかなか面白い取り合わせだと思うぜ。気に入った。行動隊長みたいなのはいないのか?」
キング「……何が言いたいのか分からん」
NOVA「ちっ、未来人は戦隊ネタも通じないのかよ。いや、リーダーっぽいエースなら話が通じるかもしれないな」
キング「別にエースがリーダーというわけではない。たまたま利害が一致しているから、俺は一緒に行動しているだけだ」
NOVA「あ、そう。しかし、あんたも律儀でタフな奴だな。その重傷の身で、こっちの話にいちいち応じてくれているんだからな」
キング「そう思うのなら、いい加減に話しかけるのをやめろ。こっちはさっさと撤退したいんだから」
NOVA「悪い。情報をくれた、せめてものお礼だ。翔花、簡単な治癒呪文を唱えてやれ」
ショーカDK「うん、ホイミ。ついでに刺さっている槍も粒子分解してあげるね。止血だけはした上で」
キング「……礼は言わんぞ。いずれ再戦を申し渡す。では、さらば」
NOVA「やれやれ。悪い奴じゃないみたいだがな。それにしても、グロワールってのは、一体、何者なんだ? 悪堕ちした俺の影みたいな奴だったら嫌なんだが」
こうして、タイムジャッカーは一先ず去った。
しかし、彼らの挑戦がこれで終わったわけではない。
果たして、次なる戦いの行方はどうなるか?
未来世界の教祖グロワールと、NOVAの関係は?
粉杉翔花は無事に屋久島へ到達することができるのか?
〈白き栄光の杖〉はただ静かにその光をたたえていた。(今話完)