花粉症ガール外伝・コンパーニュ記

会話リプレイ形式の「精霊少女や仲間たちの趣味雑談ブログ」。お題はTRPGを中心に特撮・怪獣ネタ成分が濃厚。現在は、D&Dを中心に世紀末前後のTRPGの懐古話を不定期展開中。

キャッキャヒヒヒな入浴タイム(翔花外伝・温泉編2)

入浴イラスト感想タイム(みたいな混迷空間)

ヒノキ「サブロー殿から、イラストをいただいたぞ。わらわは幸せじゃ。これでいついかなる時も、笑顔を絶やさずに生きていけるのじゃ、ヒヒヒ」

翔花「良かったね、ヒノキちゃん。あれ、でも私も載せてもらっているんだけど、この絵の感じ、確か前にどこかで見たような。ええと、たさ様?」

ヒノキ「何、コナっちゃんは、たさという名をご存知か?」

翔花「ご存知も何も、私にヒノキちゃんのことを紹介してくれたのは、たさ様だよ。その際に、イラストもプレゼントしてくれて」

ヒノキ「そういうことであったか。たさという名は、サブロー殿の別名義なのじゃ。White NOVAと白新星とWhite Wizardとボーグナインと白城真利が同一人物であるのと同様にな」

翔花「え? NOVAちゃんって、そんなに名前を持ってるの?」

ヒノキ「他にもあるぞ、白子屋新右衛門とか。SNE時代には当時、白川とか白井とか白の付くペンネームの先輩がすでに複数いたので遠慮したのか、さらに別の名を使っていたはずだが、それは本人が秘密にしたいらしい。何を今さらって気もするが、まあ本人の意向は尊重しないとな」

翔花「前から気になっていたんだけど、NOVAちゃんが伝説の魔術師っていうのは、どういう意味?」

ヒノキ「ふむ。あれは、わらわがTRPGを始めた90年代じゃ。SNE、すなわちシークレット・ネビュラ・エンチャンターズ(神秘の星雲魔術師団)という秘密結社があってな。ウォーロックを自称する大魔術師を首領に結成された一団で、多くの異世界を研究・紹介、そして創造しておったのじゃ」

翔花「ふむふむ。SNEってのは、そういう秘密の魔術師結社だったんだ」

ヒノキ「あくまで、この妄想ブログ内の設定でな。リアルを元にアレンジぐらいはしないと、関係者に怒られてしまうやもしれんからの。微妙だが、ささやかな配慮って奴じゃ」

翔花「うん。それで?」


ヒノキ「新星殿は、その魔術師結社に見習いとして所属していた過去があってな。自身の名のつく書物こそ発表する機会は持てずにいたが、ボーグナインを始め、いくつかの隠れた記録を残しておる。
「所属時期が阪神・淡路大震災TSR*1消滅、その後のTRPG冬の時代に至る激動期であったため、『ハイパーT&T ドラゴンズ’ヘヴン』のコンピュータRPG版のシナリオライターの一人としても原稿書きしていたとのことじゃが、肝心のゲームが未発売という憂き目にあっての。この時期に彼が為した仕事の多くが運悪く未発表のまま終わっている。
「まあ、被害は彼一人ではなく、例えばウォーロック殿の翻訳したD&D文庫版の上級ルールも、TSR消失による翻訳権問題のゴタゴタで出版できなくなるなど、90年代末期のSNEは多くの仕事から撤退し、業務縮小せねばならなくなったと聞く。SNEは組織再構築のために、表立った仕事を持たない一部メンバーを切り捨てる必要に駆られ、やむなき事情とは言え、新星殿は別の舞台での再出発を余儀なくされたのじゃ」


翔花「ヒノキちゃん、ずいぶん詳しいのね」

ヒノキ「そりゃ、ソード・ワールド旧版以来のSNEファンじゃからな。いろいろ異世界研究の参考資料にも使わせてもらったし。さすがに内部事情までは知るよしもないが、新星殿と花粉症ガールの件で連絡を取り合っているうちに、彼の過去の忘れられた仕事の話に行き着いての。そこで本人が控えめながら口を割った情報じゃ。一応、『言葉の半分が妄言』と言っている人物の発言ゆえ、どこまで信じていいか、本人の妄想の可能性もあるし、事実誤認や思い込み、あるいは想像力豊かな一ファンの単なる願望という可能性もあるがな」

翔花「だけど、ヒノキちゃんは信じているんだよね」


ヒノキ「まあ、本人の時空魔術師や言霊魔術師としての資質やこだわりからすると、あながち嘘と切り捨てるわけにもいかん、と思っておる。
「少なくとも『自分はプロとして仕事をした人間だ』とか『専門学校で学んだ人間だ』と称する者が、いざ原稿なんかを書かせてみると、『まともな仕事のできない体たらく』を見せたりした場合、どこがプロなのか、何を学んだのかと疑わざるを得ないが、
「新星殿の場合、ゲーム関係の知識や記事書きの質や執筆スピードなど、『セミプロを自称するに足るもの』を示し得ていると考える。何よりも、わらわは彼の愛情に溢れたゲーム話やヒーロー話、蘊蓄めいた裏事情や考察、妄想を聞くのが楽しい。時々、話の展開がぶっ飛び過ぎて、付いて行けんこともあるがの。
「要は、過去にどうであったか、未来にどうあろうとしているかも大事だが、今現在、実際に何をしているか、何ができるか、何をしようと計画しているかなどが、その人間を表していると考える。昔とった杵柄と言いながら今は無能に陥ったり、未来にこうしたいと言いながら何らの計画性を示し得ずに気持ちだけ空回りしたり、そういう今が光っていない人間よりは、今、一生懸命に頑張っている人間を、わらわは信じておる。過去の栄光も、未来の希望も、今現在につながってこそ意味を為すとは、新星殿も語っていたな」


翔花「うんうん、それでこそ、翔花の好きなNOVAちゃんだよ」

ヒノキ「ところで、あれ、何とかならんかの?」


2号「あんた、何を物陰からこっそり不気味に覗いているのよ? この陰険未成熟なトラ忍者」

シロ「お前こそ、どうしてちゃっかり一番目立つところに収まっているんだ? この腹黒魔女め」

2号「あら、それは私が一番、アダルトな雰囲気で絵になるからじゃないかしら。あなたみたいなチンチクリンと違ってね」

シロ「アリナ様を差し置いて、何がアダルトだ。たかが分身のくせに」

2号「悔しかったら、私たち姉妹みたいに分裂してごらんなさい」

シロ「クッ、おのれ、ボクが妖怪ネコマタなら、お前は病原体も同然の不定形じゃないか」

2号「へえ、それは花粉症ガール全てを敵に回す爆弾発言ね。あなたのご主人様が聞いたら、どう思うかしら」

シロ「ア、アリナ様の起源は、由緒正しい樹木の精霊だ。お前たちみたいな病気をもたらす花粉生まれじゃなくてな。花粉症ガールを名乗るのは、新時代の流行を模索せんがための一時的な戯れに過ぎん。花粉症ガールなどと妙な肩書きなどなくても、アリナ様はアリナ様というだけで輝いている。それを惑わす粉杉翔花、ボクはお前たちを決して許さない」

2号「あなたとは決して仲良くなれそうにないわね」

シロ「それはこっちのセリフだ。ガルルルル」

2号「それで脅しているつもり? キシャーーーーッ」


翔花「……2号ちゃん」

ヒノキ「せっかく、サブロー殿に贈っていただいたイラストを眺めながら、ほんわかくつろぎモードでキャッキャウフフ談義を楽しみたかったのに、台無しじゃ(涙目)」

翔花「妹があんな風でゴメンなさい。私と一緒だと、もっと大人しく物静かで控えめな感じだったのに」

ヒノキ「大方、契約主の新星殿と引き離されて、気が立っているのじゃろう。コナっちゃんこそ、うちのシロが度々、突っかかって済まなかったな」

翔花「私は気にしてないよ。いわゆるツンデレさんって見ていたら分かるし。私は光を受けし花粉症ガールだから、凍てついた心は太陽のような大らかな気持ちで暖めてあげたいな」

ヒノキ「おお、おお。それこそ正に光の勇者の心意気。そなたの妹御と、シロの心に潜む闇を払うには、わらわたちが『愛』と勇気と希望の力で、助け合わないとな、ヒヒヒ」

翔花「いや、愛という言葉の妙な強調と、その笑い声はベストマッチに思えないんですけど」

ヒノキ「いや、わらわは別に可愛くて純真無垢なコナっちゃんを個人的に愛しているとか、是非ともお姉さまと呼ばせたいとか、そういう下心じゃなく、これは、そのう、いわゆるラブ&ピースな精神じゃ」

翔花「分かってるよ、ヒノキちゃんの気持ちは。その愛はサブローさんに捧げているんでしょう? 私だって、イラスト描いてくれるたさ様に憧れたりもしたけど、ヒノキちゃんの想い人と知ったら、憧れは憧れのまま胸の奥にしまっておこうと思うの。だって、私が世界で一番、誰よりも愛しているのはNOVAちゃんだもん」

ヒノキ「そ、そうじゃの」(チッ、あわよくばコナっちゃんを新星殿から寝取ろうと、秘めたる想いを抱いてはいたのじゃが、どうやら諦めるしかなさそうじゃの。そう、自身の欲望はうまく制御しないと、ああなってしまう)


2号「キシャーーーーッ!」

シロ「ガルルルルルッ!」

そして、ようやく入浴タイム(7月19日の直後)


翔花「ふわーーーー、温かくてポカポカで、気分はハッピーパラダイスって感じだよ〜。温泉やお風呂って、こんなにいいものだったんだね」

ヒノキ「そうじゃろ、そうじゃろ。この喜びを知らずば、一生の半分を台無しにしているもんじゃ。ん? それは、ちと言い過ぎたか。一生の半分を温泉に浸かって過ごそうとは、さすがの温泉好きのわらわも思うておらん。他にも楽しみは数多くある。TRPGや、ヒーロー番組や、アニメや、他にスイーツを食べたり、コスプレしたり、コナっちゃんみたいな可愛い少女を愛でたり、イラストを描いてもらったり、邪悪な妖怪を思いきり痛ぶって燃やし尽くしたり、改心した妖怪を上から目線で説教したり、改心しなかった妖怪その他の魂魄を地獄に叩き込んで苦しめたり、韓流時代劇のギスギスした陰謀から学んだり、うん、娯楽はたくさんあるな。入浴なぞ、そのうちの一つ、一生の十分の一ぐらいにしかならなんだ。わらわは、入浴の女王、源静香女史ほどのバスクイーンには及ばんし、張り合おうとも思わん。それでも、コナっちゃんと入る、ヒノキの湯のほんわか幸せ気分は格別じゃのう。ん? どうした、コナっちゃん? ドン引きした目をしおって?」

翔花「ヒ、ヒノキちゃん。ええと、私はあなたのことを誤解していたみたいなの」

ヒノキ「誤解とは?」

翔花「私はヒノキちゃんって、もっと穏やかで物知りで、陽性な爽やかな娘だと思ってた。だけど、妖怪を痛ぶって燃やすのが楽しいだなんて……」

ヒノキ「もちろん、楽しいぞ。人の社会に害なす悪しき魂を迷わず駆除するのはの。ヒーローとは古来、そういうものではなかったかの。わらわの尊敬する赤いあいつは、怪獣を前にした時は一片の慈悲なく無惨に撃退する血塗れのヒーローじゃ。惚れ惚れすると言ってもいい。壁に設置されたスクリーンを見てみるがいい」

翔花「キャー、こんな残虐超人なんて、私がなりたいヒーローじゃない」

ヒノキ「ほう、初心なコナっちゃんには、赤い通り魔はちと刺激が強すぎたかの」

翔花「私が憧れるのは、こんな凶悪なのじゃなくて、王道を行くウルトラマンさんよ」

ヒノキ「ああ、ウルトラマンならいいのか。では」

翔花「ブルブル。こんな残虐な殺し方をするなんて、私の知っているウルトラマンさんじゃない」

ヒノキ「おや、これもダメなのか。時代劇の必殺シリーズなどマニアックに知っているコナっちゃんだから、これぐらい免疫ができていると思うておったが、わらわも誤解しておったようじゃ。それにしても恐るべきは1972年という時代よ。このような殺戮シーンが子供番組で普通に放送されておったのじゃからな。キャッキャと喜ぶコナっちゃんを見たかったのに、キャーッと怯えた悲鳴を上げさせて、わらわがヒヒヒと喜んでいては、単なる変質者になってしまう。どうしたものかのぅ」

翔花「ヒノキちゃん、今こそ私は理解したわ。温泉に浸かるのは気持ちいいけど、そうやってフワフワになった頭に、昔のヒーローの血まみれ虐殺劇を見せて、弱いメンタルを破壊する。これがヒノキちゃんの言っていた秘湯・地獄巡りの正体ね。正に血の池地獄とはこのこと」

ヒノキ「それは誤解……と言いたいが、今の動揺した頭では何を言っても受け止めにくいじゃろう。まずは心を落ち着けるために、スクリーンを外部の穏やかな風景映像に切り替えるとしよう。コンパーニュの周りは殺風景じゃが、ヴァーチャル映像ではもっと風流な光景をな」

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翔花「ふう。きれいな景色を観ると、ようやく心が落ち着いたわ。それで、よくよく考えてみると、ヒノキちゃん、私の今までの戦いってお遊びだったのね。シロちゃんが私を未熟者呼ばわりするのも分かる。本当のヒーローは、こんなに過酷な死闘を展開していたことを知ると、いちいち悲鳴を上げていては一流のスーパーヒロインにはなれない。ヒノキちゃんが伝えようとしているのは、戦う者の心構え。それなのに怯んでしまってゴメンなさい」

ヒノキ「いや、わらわの方が悪かった。コナっちゃんは慈愛の気持ちを忘れてはいかん。こういう過酷で汚れた戦いは、わらわ達に任せておくといい。しかし、戦いを楽しむ気持ちが持てず、ただ悲しんだり怯えたりするようでは、戦士として生きていけないのもまた事実。花粉症ガールがこれから戦いを続けていくならば、心を強く持たねばならん。強くなければ生きていけん世界じゃ。だけど、優しくなければ生きていく価値もない。この辺のバランスが難しいところじゃの。戦うだけの戦闘マシンじゃダメなくらい、一度はクウガの領域に達したコナっちゃんなら分かるな」

翔花「ええ、ヒノキちゃん。いいえ、ヒノキ師匠とお呼びした方がいいのかな」

ヒノキ「今までどおり、ヒノキちゃんでいいぞ。コナっちゃんは特別じゃ。師匠と弟子ではなくて、友達関係でいたいのじゃから」

翔花「どうして、私だけ特別扱いなの?」

ヒノキ「もちろん、可愛くて素直だからじゃよ。大切に愛でたいくらいにな……って、そういう意味じゃなくて、希望と可能性といったところか。どうも、わらわの周りには、心に闇を抱えて鬱屈した者たちが集まって来る傾向があっての。その中にあって、コナっちゃんは数少ない光の使徒の可能性を感じるのじゃ。わらわは心の闇を浄化できん。せいぜいできるのは燃やし尽くすことのみ。稀に力を見せつけることで改心に至らしめた者はいるがの。その一人がゲンブじゃ」

翔花「ああ、亀おじさんのことね。ジェネラル・バックラーさん。強くて優しい豪快な騎士の人」

ヒノキ「そう。そなたとゲンブの戦いは、わらわもスクリーンで見ておったが、そなたは一度炎に包まれ、そこから不死鳥のごとく蘇った。そして、あろうことかゲンブの心に巣食っていた、鬱屈した闇を浄化させたのじゃ。わらわが何年かけてもできなかったことを、そなたは成し遂げた。それは奇跡と言ってもいい。その上、幻魔拳の悪夢の試練にも、心を壊すことなく打ち勝った。普通なら鬱屈したトラウマを抱える可能性のある試練じゃ。そなたは未経験のため、すぐに怯え、悲鳴を上げるが、そこで終わらず、たちまち明るく立ち上がって来る。無邪気に前向きにな」

翔花「それって買いかぶり過ぎだよ。私がゲンブさんに勝ったのも、それにラーリオスさんの悪夢を乗り越えたのも、NOVAちゃんが助けてくれたから。翔花一人じゃ何もできないよ」

ヒノキ「確かに、新星殿のバックアップはあったかもしれんがの。しかし、新星殿一人で同じことができたかと言えば、答えは否じゃ。新星殿自身、鬱屈を抱えてきた男じゃろうし、それがそなたを生み出し、契約を交わしたことで解放されたそうじゃ。本人がわらわにそう言ったのじゃから間違いない。つまり、粉杉翔花は周囲の者の鬱屈を浄化する力があるのかもしれぬ、と、わらわは見ておるのじゃ」

翔花「だから、私はそんなに凄くないって。みんなが助けてくれないとダメなんだって」

ヒノキ「だから、助けると言うておるのじゃ。助けてあげたいと思わせるのも人徳、いや精霊徳なれば、助けて損はない、悔いはない、と思わせるのも霊徳。助けられたなら、その期待に応えて結果を出す。それこそ希望であり可能性。そういう勇者の星に生まれついている娘こそ、そなたなのじゃ、コナっちゃん」

翔花「それって、何かズルくない?」

ヒノキ「何がじゃ」

翔花「助けてやるから、自分たちの思う通りに働いて下さい、勇者様ってことでしょ、そういうのって。私は勇者じゃないから、ただの花粉症ガールだから大仰な使命を押し付けられても困るんだ。私はNOVAちゃんのために、ここで修行して、屋久島行って、立派になって帰る。後は野となれ花となれ、だよ。ヒノキちゃんの勇者への希望を私に押し付けられても困ります」

ヒノキ「友達同士の頼みでもか?」

翔花「友達なら、相手の都合をお構いなしで、自分の願望を一方的に押し付けようとはしません。ヒノキちゃん、もしかして、友達だから頼みを聞いて当たり前って思い込んでいない? 自分がこれだけやったんだから、相手も自分の頼みを聞いて当然だとか。前に『頭のいい誰かが、純粋そうな人を持ち上げて、自分が陰でうまい汁を吸う』なんて話をしていたけど、それってヒノキちゃん自身のことじゃない?」

ヒノキ「……」

湯けむり友情事始め


シロ(物陰からこっそり)「粉杉翔花、アリナ様と2人きりなんて、ボクは決して許さない。あの女さえいなければ、アリナ様はボクにもっと目を向けてくれた。アリナ様の寵愛は、ボクのものだ」

ヒノキ(シロの監視に気づかず)「のう、コナっちゃん。先程のわらわは性急すぎた。確かに、わらわは自分の都合しか見えていなかったのかもしれぬ。そなたに無理難題を押し付けようとしたのかも知れぬな。コンパーニュの塔の主人として、欲しいものは手に入れて当然、手に入らねば策を使っても手に入れるのが当然、と考えてきたが、今のコナっちゃんほどはっきり諭してくれる者はいなかった。わらわは今、そなたから拒絶されることによって、己の傲慢さを気付かされたのじゃ。勝手を言ったことは謝る。この通りじゃ」(ペコリ)

物陰シロ「何と。アリナ様が粉杉翔花に頭を下げているだと? ボクは幻でも見ているのか? あの誇り高いアリナ様が、あんな未熟な娘に頭を下げるなんて……」

翔花(シロの監視に気づかず)「頭を上げてよ、ヒノキちゃん。ヒノキちゃんが私に期待してくれたことは嬉しい。いろいろ面倒を見てくれたり、教えようとしてくれたり。だけど、私には私のペースがあるの。勇者だとか、希望だとか、可能性だとか、いっぺんにいろいろ言われても、私はどうしていいか分からない。全部は受け止めてあげられないの。でも、だからって、ヒノキちゃんを嫌いになったわけじゃない。だって、ヒノキちゃんって小さくて可愛いもん。頭撫で撫でしてあげたいぐらい」

ヒノキ(ニッコリ微笑んで)「こんな傲慢なわらわを嫌わないでくれるか。小さくて可愛い? そんなことを言ってくれるのはサブロー殿だけじゃ。いいぞ、許可する。思う存分、頭を撫でるがいい」

翔花「それじゃ、お言葉に甘えて(撫で撫で)」

ヒノキ「ふぁー、ポカポカ温かい湯けむりに包まれて、可愛いコナっちゃんに頭を撫でてもらえるなんて、わらわは夢でも見ているのであろうか。これぞハッピーパラダイス、幸せカーニバルって奴じゃよ、ヒヒヒ」

物陰シロ「な、何と? アリナ様が粉杉翔花に頭を撫でられて喜んでいるだと? あの魔性の女、いかなる手練手管でアリナ様をたぶらかしたと言うのか? あのような無防備なアリナ様の姿を見るのは忍びない。いや、だけどボクは忍び。主君の動向を見守り、窮地とあらばお救い申し上げるのが使命。不埒な花粉症ガールめが、これ以上アリナ様に手を出すなら、その時こそ……」

翔花「ヒノキちゃん。私は今もヒノキちゃんは大切なお友達と思っている。だから、勇者だからとか、そういう違う目で見ないで欲しいんだ。私は勇者じゃないし、今までは良くても、これからはヒノキちゃんの期待に応えられないかもしれない。失敗だってするだろうし、ヒノキちゃんを幻滅させたりもするかもしれない。ヒノキちゃんが勇者として期待外れな私を見たら、友達をやめたくなってしまうかもしれない。だから、そういう関係はイヤなの。私が思う友達ってのは、いつでもベッタリ一緒にいられなくても、同じものを見て共に喜び、同じ敵に出会ったら協力して戦って、お互いに支え合える関係。一方が一方におんぶに抱っこじゃなくて、普段はそれぞれの世界を守りながら自分らしく生きて、それでも心のどこかでつながっていて、本当に困ったときは手を差し伸べるけど、助けられるのが当たり前みたいに依存関係にはなりたくない。スッキリさわやかオロナミンCみたいな笑顔が似合う関係なの」

ヒノキ「おお、おお。それこそ、わらわが望む友達関係じゃ。守護精霊として持ち上げられ続け、崇められ続けたわらわは長らく、そのような対等な精霊の友達は持ち得なかった。契約主を除けば、関わる相手は皆、わらわに何かを求めるか、わらわに膝まづくか、さもなくば、わらわの敵になるか。そういう生活が長年続き、いつしか年季を重ねると、知り合った精霊仲間もみな、わらわを慕いはするものの格下ばかりで対等の話にはならん者ばかり。いつか、わらわは本当の意味での友達がどういうものか、架空の物語でしか味わえない寂しい精霊に成り果ててしまったのじゃ。唯一、サブロー殿はわらわの寂しい気持ちを理解してくれての。しかし、あれとて人間。いつかわらわを置いて逝ってしまうであろう、もちろん今すぐというわけではないにしてもな。精霊には精霊の友が必要、そう感じた時に、わらわの前に現れたのが、コナっちゃん、そなたなのじゃよ」

翔花「そうなんだ。ヒノキちゃんの寂しさは私には分かってあげられない。だって、私は同じだけ生きて来ていないから、まだまだ未熟なので、同じ気持ちになったことがないから。だけど、私で良ければ、その寂しさを埋められる友達になってあげられるかも。いえ、こんな未熟者でよければ、私の最初の友達になってください、ヒノキちゃん。(手を差し出す)」

ヒノキ「も、もしかして、これはわらわが夢にまで見た友情の握手ってものかの? その昔、マジンガーZデビルマンゲッターロボグレートマジンガーなど多くのロボが果たし、クロスオーバーヒーローの象徴となっている伝説の儀式。今こそ、そなたとわらわの真の友情の始まりじゃ。(両手で、翔花の手をつかんで、ブンブン振る)」

物陰シロ「バ、馬鹿な。握手だと? あの高貴なアリナ様が、粉杉翔花の手を握り、あそこまで嬉しそうに。しかも、聴き取ったアリナ様の述懐、あのような寂しい御心を隠して、これまで強気に振る舞われていたとは。クッ、ボクは何年、お側仕えをしてきたのだ。ボクにはアリナ様の気持ちを察することもできず、また、アリナ様がボクに打ち明けることもしなかった気持ちを、同じ精霊でも未熟極まりない粉杉翔花ごときに語るなんて。粉杉翔花、あの女に一体、どんな特別な資質があるというのか? 忍びである以上、何としても突き止めなければ、ボクは自分が許せない」

翔花(ヒノキにブンブン手を振り回されながら)「ヒノキちゃん、握手ぐらいで大げさだよ。痛いよ、振り回さないで」

ヒノキ(パッと手を離して)「おっと、これはちとはしゃぎ過ぎたかの。何ぶん、握手なんて西洋の風習は生まれて初めてじゃからの。加減がつかめなんだわ。これが、わらわのファースト握手って奴か🤝」

翔花「私のファーストお風呂と同じだね」

ヒノキ「ふむ。ファースト・フレンドシップの風呂ってことじゃな。ヒヒヒ」

翔花「ファースト・フレンドシップ・フロかあ。フが3つで、フフフって感じだね。フフフ(ニッコリ)」

湯けむり赤青超人譚


ヒノキ「時に、コナっちゃん。体の調子はどうじゃ? 花粉崩れはしておらんかの?」

翔花「うん、ヒノキちゃんの用意してくれたアクア・ビキニスーツの防護効果のおかげだよ。ただの水着じゃなくて、精霊パワーの加護が込められて、花粉崩れ防止効果があるって最初に言ってくれたら、あんなに怖がらなかったのに」

ヒノキ「いや、怯えるコナっちゃんを無理矢理引きずって、温泉にジャボンと放り込むのは、いささか刺激的だったでの」

翔花「そういうの、Sっ気って言うんだよね。花粉分解で逃げようとしたのに、おかしな術で封じられて死ぬかと思ったよ。ヒノキちゃんが、悪魔に見えたもん」

ヒノキ「ヒヒヒ、聞き分けのない妖怪を退治する際に、動きを封じて逃げられないようにし、その上で痛ぶるのは、わらわの数少ない楽しみの一つだったのじゃが。ここ30年近くは特撮ヒーロー物に感化されたおかげか、それが悪役の習性だと理解しての。わらわは正義のヒーローを目指したいから、やり過ぎは控えるようにしておる。せいぜい70年代の虐殺ヒーロー物を見ながら、代替行為に変えている程度。それでも、時々は昔の闘争心がたぎって、暴走することもあったのじゃが、それもゲンブとやり合うまでじゃ。以降は、わらわを暴走させるほどの脅威に出くわしたことはないでの。久しぶりに、コナっちゃん相手に心がたぎった次第じゃ。何せ、あのゲンブを打ち負かした猛者じゃからの」

翔花「だから、買いかぶり過ぎって何度も言ってるのに」

ヒノキ「それでも、無理矢理でもお風呂に叩きこまれて良かったじゃろ」

翔花「う、うん、確かに何か新しい自分に目覚めたような気がするけど。纏うは水着、紺碧の海! とかね」
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ヒノキ「それなら、わらわの方は、纏うは火、紅蓮の炎! と返すとするかの」
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翔花「クスクス、私たち姉妹戦士みたいだね」

ヒノキ「ファファファ、お姉ちゃんと呼んでもいいぞ、コナっちゃんや」

翔花「やだ、恥ずかしいもん」

ヒノキ「では、クリスタルチェンジ! わらわが水で、喰らえ、水鉄砲!」

翔花「ちょっと、やめてよ(キャッキャ)」

ヒノキ「ほれほれ、ヒヒヒ」

物陰シロ「あんなに楽しそうなアリナ様を見るのは初めてだ。そして、見ているボクの心もホカホカする。この気持ちは一体? 粉杉翔花、一体どのような術を施したというのか? アリナ様以上の幻覚使いか? それとも悪魔的な誘惑者だとでもいうのか? 分からん。どう対処すればいい?」

翔花「ところで、ヒノキちゃん。このビッグボディ温泉って書いてる立て札は何? さっきから気にはなっていたんだけど」

ヒノキ「おお、それか。先日、勝利を収めたばかりの剛力超人の栄誉を讃えての。美肌健康に良い温泉の立て札を、期間限定で取り替えたのじゃ。ゲンブも喜んで、立て札を作ってくれての。わらわにとっては、もちろん知性のスーパーフェニックスが本命じゃが、義に篤いビッグボディの魅力も感じ入るようになった。そもそも、色が赤いし、長年の雪辱を晴らしたとあれば、その不屈の精神には大いに学ぶこともあろう」
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翔花「ふうん。ビッグボディ温泉というぐらいだから、ヒノキちゃんがてっきり大きくなりたいのかな、とばかり」

ヒノキ「いや、この姿は気に入っているのじゃ。戦うときは、魔法少女みたいに大人の姿になることもあるぞ。本気を出した時にはの。ここしばらく本気を出したことはないので、小さいまんまでおるが」

翔花「ヘッ、ヒノキちゃん、大人の姿にもなれるの? 見てみたい」

ヒノキ「また今度、機会があればの。それより、成長が必要なのは、コナっちゃんの方じゃろう? ビッグボディにあやかって、心も体も成長するがよい」

物陰シロ「ビッグボディ温泉。その効果が本物であれば、ボクも父さんみたいに立派なトラになれるかも? いや、そんな簡単に手に入れた力は、必ずやしっぺ返しがあるもの。真に強くあるためには日々の修練は欠かせん、と父さんは言っていた。だけど、アリナ様たちが湯上がりした後は少しぐらい試してみても……」

翔花「あ、ヒノキちゃん。私、どうしたのかな? 何だか頭がボーッとしてきたや」

ヒノキ「ム、しっかりするのじゃ。わらわとしたことが、あまりの楽しさのために、コナっちゃんが初風呂の上、こうも長風呂とあっては、のぼせ上がるのも必然ということを忘れておったわ。クッ、不覚」

翔花「ああ、体が水でふやけて、何だか膨らんで、ビッグボディになるような気分。どうなっちゃうのかなー」


HYUPON!


小さな閃光と共に分裂す。


ヒノキ「な、何と!? コナっちゃんが膨れ上がったと思ったら、二つに分裂した? これは一体!?」

物陰シロ「何!? 粉杉翔花が分身した? 幻か、催眠術か、それとも忍術の心得でもあるというのか? クッ、未熟者と思ってみたら、こうも侮れんとは。敵の実力を見誤るなんて、ボクは自分の未熟さが許せない」

翔花2号「キャーーーーッ、私、時空の彼方に飛ばされたと思ったら、どうなってるの、ここ? え、水着? 湯けむり? お風呂? キャーーーーーッ、花粉症ガールは水に触れると、花粉粒子の結合が乱れて溶けちゃうのーーッ。急いでお湯から出ないとッ」

翔花1号「え、もしかして、2号ちゃん? どうして今ここに?(フラっと意識を失う)」

ヒノキ「おっと、こっちのコナっちゃんが倒れたか。支えてやらんと」

翔華2号「ハアハア、何とかお湯から出たわ。これで一安心。さて、危険から逃れたら、落ち着いて状況を確認しないとね。周囲にいるのは、気絶しているお姉ちゃんと、それを抱きかかえようとして悪戦苦闘なヒノキさん。それに、こっそり隠れているみたいだけど、バレバレな陰険ネコマタ娘。あら、トラマタ娘だったかしら。別にどっちでもいいことね。仮想敵は2人。しかも、お姉ちゃんが人質に取られている? この状況を切り抜けるには、私の知力が試されている」

ヒノキ「何をブツブツ言っておる。お主、一体、何者じゃ? もしかして、コナっちゃんはグレムリンのように、水に触れると分裂する特殊体質じゃったのか?」
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翔花2号「そんなはずがないでしょう? ボケてんのかしら。私をここに送り込んだのはあなたでしょうに」

ヒノキ「いや、わらわには、とんと心当たりがないのじゃが」

翔花2号「あなたは自分のやったことなのに心当たりがないと言うの? 無責任もいいところよ。はっ、もしや、ここは時間がズレた世界ってこと? 確認させて。私は、2018年8月16日の粉杉翔花」

ヒノキ「すると、そなたは今より少し先の未来から来たと言うのか? 今はまだ7月じゃぞ」

翔花2号「そんな、私、過去の時間に飛ばされちゃったの?」

(イラストの辻褄合わせのためだけに、一月前の世界に飛ばされた粉杉翔花2号。果たして、彼女はこの窮地を切り抜け、どのように元の時空に戻るのだろうか? そして、翔花2号と対立しそうなヒノキちゃんや、従者のビャッコと和解できる日は来るのだろうか? 翔花2号の受難は続く)

*1:旧世紀にD&Dを作った会社。新世紀を目前に倒産し、その後のD&Dは『湾岸の魔術師団』という意味合いの会社が引き継いで現在に至る。昔のD&D関連の話をする際は、必須知識。詳しくはこちらの別ブログも参照