11月15日正午ごろ、屋久島
ヒノキ「新兄さんは一体、何をしておるのじゃ。屋久島に来てみたはいいが、縄文杉の前でただ座り、口を開くでもなく、瞳を閉じて、瞑想に耽るのみ」
ハイラス「昨夜遅くにここに来て、ずっとこの調子でござる。てっきりガイア様に得意の弁舌をまくし立てるかと思いきや、これではまるで修行僧のようではござらんか」
ゲンブ「確か、新星殿は仏教を信仰されていると聞いたことがあるが、あの姿を見ると口先だけでなく、本当でござったようだな」
NOVA「…………」
ガイア『時空魔術師よ。私に言いたいことがあるのではなかったのですか? それがずっと無念無想のまま、沈黙されたのでは、神であろうとも、そなたの想いが分かり得ぬ。一体、何を考えているのです?』
ハイラス「おお、とうとう痺れを切らせたガイア様の方から、声をお掛けになるとは……」
ゲンブ「ムッ、新星殿の体から霊気のようなものが立ち昇っていく」
ヒノキ「これは……聖闘士の発する小宇宙のようなものか? ハッ、そういうことか。乙女座バルゴのシャカ、黄金聖闘士の中でも最も神に近い男と呼ばれた御仁は、常に両目を閉じて自ら視覚を封じることで己の中の小宇宙を高めると聞く。また前時代の乙女座の黄金聖闘士シジマは無言の行で同じく小宇宙を高めたとか」
ハイラス「なるほど。NOVA殿はガイア様と語るに当たり、人の身を少しでも神に近づけるよう、そこまでの覚悟をもって、この場に臨まれたのでござるか」
ガイア『時空魔術師よ。そなたの覚悟は確かに受け取ったが、時間の無駄ではないか? そなたの娘御、粉杉晶華は現在、そなたの留守を守って、闇の邪神との戦いに励んでおる。そなたも父親であるならば、今すぐにでも駆けつけて、共に戦うのが人の道というものではないのか?』
NOVA「……いいでしょう。大地母神からの重なるご質問に答えることにします。最初の質問、『言いたいことがあるのか?』については、もちろんあります。しかし、こちらから話を持ち掛けても、あなたにとっては不遜にしか聞こえぬでしょうから、あなたの方から問いかける時を待っていたということです。
「第2の質問、『何を考えているのか?』については、これからたっぷり話して聞かせるとしましょう。ただ一つ要旨を述べるなら、我が娘、花粉症ガール1号の粉杉翔花について、あなたが犯した過ちについて語ることになります。こちらは別にあなたを責めるつもりはないが、事実を正確に受け止めてもらった上で、協力して修復することを先にお願いしたいと考えます。神とて全知でも全能でもないことは一神教ならぬ多神教の概念では当然の理なれど、頑なにその事実を認められぬ方もおられますからね」
ガイア『分かった。そなたの語る事実とやら、私の過ちに関する話を受け止めるとしよう。その上で、修復できることなら、喜んで協力もしよう。これでいいのだな』
NOVA「寛大に受け止めていただき、感謝申し上げます。第3の質問、『時間の無駄ではないか?』についてですが、否、と申しておきます。と言うのも、今夜は新月。我が目的である翔華召喚の儀式を正確に行うには、太陽と月と地球が一直線に並ぶ、星周りの頃が望ましい。私は占星術の専門家ではありませんが、星の名を冠する魔術師として最小限の心得は身に付けております。神を相手に人の魔術の理を語るには、いささか無遠慮が過ぎるかとも存じますが、お許しをいただければ幸いです」
ガイア『そなたの使う魔術の原理には興味がないが、そこにいるスザクやゲンブ、それに我がドルイドは聞きたがるであろう。時間の無駄でないのなら、多少の講義は受け入れるとしよう』
NOVA「では、極力、手短かに分かりやすく、まとめるとしましょう。そして最後の、第4の質問、『父親の道、人の道』についてですが、もう一人の娘、花粉症ガール2号の粉杉晶華の戦いについては、当然、案じています。しかし、私は娘を信頼し、娘にいろいろと託して来ました。私が共に戦わずとも、娘と彼女の培ってきた友だち、仲間たちとの絆があれば、過酷な状況も乗り越えることができると考えています。それでもギリギリまで戦って、ギリギリまで踏ん張って、どうしようもなくなった時に備えるのが、私の父親としての務めだと思う次第。そのためにも、ガイア様のお力添えで翔花を呼び戻すことこそが必要と判断しております」
ガイア『……いろいろと迂遠よのう』
NOVA「そういう性分なれば」
ガイア『20周年の行事のために、いろいろと策を張り巡らせているようじゃが、私はそういうのは好まん。もっと直接、ストレートにこう頼めばよかろう。「20周年記念を成功させたいので、みんな応援よろしく♪ NOVAからの心からのお・ね・が・い❤️」とでも言えば、よかったものを、そなたのやり方にはちっとも可愛げがない』
NOVA「あのう、ガイア様。娘の花粉症ガールならともかく、50目前のおっさんがそんな頼みごとをしても、おそらく周りはドン引きすると思うのですが……」
ガイア『そうかのう? 人の心理はよく分からん。スザク、どう思う?』
ヒノキ「確かに、ガイア様の言葉には一理ある。新兄さんが迂遠なのは、時に長所とも言えるが、もっとストレートに突き進む方が良いことも多々ある。少なくとも祝い事を盛り上げるには、単刀直入かつ明快に周知する方がよいと思われ。ただし、人には向き不向きとか役割分担というのがあって、そういう可愛い言動は、わらわやガイア様のような女の子にこそ、ふさわしいもの。新兄さんやゲンブ、ハイラス様には女子力ではなく、違う振る舞いを期待したくなるのが人の世の理であろうな」
ガイア『なるほどな。完全に理解できたとは言わんが、私やスザクには女子力というものがあるが、それを時空魔術師や、盾将軍や、次元ドルイドに求めても致し方のないことか。さすがはスザク、人の世界に進んで身を置く神霊の言葉は参考になる』
ヒノキ「だったら、今度、女子力磨きのためにもTRPGなどどうじゃ? 『アルシャード・ガイア』という面白いゲームがあるのじゃが」
NOVA「ヒノキ姐さん、今、勧めるなら古いバージョンよりも、続編の『アルシャード・セイヴァー』の方がタイムリーなのでは?」
ゲンブ「何がタイムリーかは分からんが、今すべき話題ではないでござろう」
ガイア『うむ。我が名を冠するゲームとやらには興味がないわけではないが、今はTRPGなどという人の生み出した深淵に引き込まれるわけにはいかん、と神の本能が警告を発しておる。その話は、またいずれな』
ヒノキ「チッ、この機に布教しようと思ったのに……」
ハイラス「私が勉強して、ガイア様に教えて差し上げるでござるよ」
ヒノキ「そうか。ならば、将来が楽しみじゃ」
ガイア(何だか知らぬ間に、周囲を包囲されて、違う世界に引きずり込まれるような予感を覚える……)
NOVA「あのう、ガイア様? 悪寒を感じているようですが、お加減はいかがですか?」
続きを読む