ゴブリンの洞窟ダイブイン
アスト「よし、覚悟を決めて、ASTROスペックを起動するぞ。シナリオプログラムのダウンロード開始。……はい、ゴブスレ.netに接続します」
GMアスト「よし、君たち4人の冒険者はレイワ、エド、ヤヨイの3人の幼子を助けるため、小鬼の洞窟に踏み込んだ。そこからの続きだ」
学術騎士ジャン(NOVA)「おお、何だかセーブしていたところから、ゲームを再開するような気分だな。継戦カウンターは1で、消耗も1点。ところで、前はまったく気にしていなかったけど、因果点は何点だっけ?」
GMアスト「5点だ」
ジャン「いきなり高いな。ルールブック掲載の初心者対応シナリオだと、3点を推奨していたはずだが」
GMアスト「しかし、これは初心者を苦しめるシナリオだからな。金もなく、毒消しもまともに用意していないのに、ゴブリンなんて雑魚だから、と侮ってかかる素人を抹殺するという、原作小説のオープニングを再現したシナリオ。さあ、原作者の手に掛かって死ぬことを、ファンとして本望に思うがいい」
ツラヌキ・丸子(ヒノキ)「ヒヒヒ。なかなかGMぶりが板について来たではないか。GM養成メガネのASTROスペックは、うまく機能しているようじゃの」
アカミドリ(晶華)「あれ? ASTROスペックって、そういう装備だっけ?」
ジャン「ああ、ケイPマーク2に内蔵された装着者の支援システムを応用して、そこにノヴァストラダマスの仕込んだブラックボックス込みのシナリオデータを引き出せるようにして、どんな素人でも、それなりにゲームマスターとして振る舞えるようにした代物だ。これさえ実用化すれば、日本のTRPG人口も画期的に増えるんじゃないか。
「サイバーパンク系のゲームだと、頭にチップとしてデータインストールするだけで、持っていない技能を一時的に習得できる装備が普通にある。素人が企業秘書とか上流社会の礼儀作法とかを簡単に習得できるわけだ」
アカミドリ「だったら、素人でも一流の戦士になったりできるわけ?」
ジャン「一流は無理だな。一流の動作や思考には、局面に応じた臨機応変さとかの状況対応力が欠かせないが、データ化できるのは型にはまったルーチンワーク的なもの。仮にレベル5以上をベテランの域とするなら、脳内チップで対応できるのは、せいぜいレベル2とか3とか、それぐらいだろう。ゲーム作品にもよるが、『ズブの素人ではないけど、普通に手抜かりなく決まった仕事をこなせるレベル』だな」
蜥蜴用心棒(ゲンブ)「ゴブリンスレイヤーは、ファンタジー世界の物語であろう。それなのに、どうしてサイバーパンクの話題に走るのでござるか? 寄り道も結構だが、もう少し世界観を考えていただきたい、と」
ジャン「うん、それなんだけどな。最近はゴブスレの原作者が後書きで一番ハマっている作品が、ファンタジーにサイバーパンクを混ぜたシャドウランらしいんだ。基本はファンタジーのゴブスレにも、スターウォーズとか仕事人とかシャドウランのネタが投入されているので、そこは絡めても問題ないか、と」
用心棒「そういうものでござるか」
ジャン「ついでに、日本のシャドウランの現在の元締めであるゲームデザイナーの朱鷺田祐介さんがニチアサの熱心な視聴者でな。ツイッターでリアルタイムで感想書きながら、ご自分の作品に絡めたりしているんだ。そして、彼がZAIAスペックの設定を気に入って、シャドウランのネタに使えないかな、的なことを呟いていたり。だから、ゴブスレ→シャドウラン→ZAIAスペックという流れが、俺の中ではつながってくるわけだよ」
用心棒「はあ、そういう背景を語られると、必然のつながりが納得できるでござる」
ジャン「気心の知れた友人との会話では、いきなり話がポンと飛ぶこともあるが、相手が戸惑っているなら、そこのところを話し手が補ってくれるんだよ。逆に、補わなくても、即、話に乗って対応してくれる稀少な親友もいる。俺も自分で話していて、『時折り話が飛ぶこと』を自覚しているが、親友レベルになると、本当に即応能力が高いんだよな。『こいつは、よく、この流れに付いて来れるな』と。
「もちろん、相手が付いて来れていない場合も、リアルだと普通に分かるので、『スマン、いきなり話が飛んだ。これはつまり、こういうことを考えて(思いついて)しまって、こういう流れなんだ』と補足すると、まあ、分かってもらえる。で、その説明をどこまでしないといけないかで、相手の知識とか理解力とかがリアル会話だと把握できるので、だんだん適切なボールでやりとりできるわけだ」
晶華「ネットだったら?」
NOVA「表情とか、口調とかが分からないから、微妙なニュアンスが伝わりにくいな。(笑)という表現一つとっても、相手の発言内容が楽しくて笑っているのか、自分の発言に笑いを付けているのか、二通りに解釈できるし、ウケているのか、嘲笑しているのかも、文脈とか、日頃の発言イメージに左右される。真面目な話の途中に(笑)を付けた場合、重い空気を解そうとする気遣いにも、単に話の重大さが理解できないようにも受け取られる。
「書き言葉で『バカな奴やな(笑)』とか安易に書いちゃうと、悪意しか伝わらないけど、関西人の間では、話し言葉で『バカ=面白い』というニュアンスで会話する時もあるので、『お互いのバカさ自慢をした』後で、ふと我に返って、『バカを競って、どないするねん。ほんま、俺たちアホやな』とお互いを明るく笑い合ってオチをつける。
「関西人の笑いのペーソス(人情味)は、人をバカにした分、その代償に自分もバカにして、お互い様でしたチャンチャンって締めくくれる人が、一般にウケるわけで、そういうバーターな流れを無視して、一部だけ切り取ってみせても、単に口の悪いギスギスした悪口合戦にしか聞こえないわけだ」
GMアスト「で、それは何の話なんだ? そろそろプレイを先に進めてもいいのかな?」
ジャン「ああ、スマない。要は、唐突な話にも背景があって、そこを膨らませて語ると、納得できる会話になって、満足度も高くなる。逆に、そういう背景を自覚していなかったり、言葉足らずで語られなければ、フラストレーションが溜まるわけだな。個人的な事情って奴だ」
GMアスト「そんなことは、ゴブスレには関係ない。プレイに集中するように」
ジャン「……なるほど。ASTROスペックの問題点その1。合理的なマスタリングには長けるが、無駄話をしたい人間の心理をフォローするまでには至らない。想像力と創造力、コミュニケーション力を重視する遊びには、改善が必要、と」
アカミドリ「まあ、無駄話の多いNOVAちゃんにも問題があるけどね。早く、プレイを進めましょう」
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